プロフェッサー・テック
「撃て!」
アダムの命令が、すべての狙撃手の通信機に響いた。
三丁のライフルが同時に火を噴く。
**バン! バン! バン!**
レーザーがプロフェッサー・テックめがけて一直線に走った。
キランは、当然避けるものだと思った。
だが。
避けなかった。
プロフェッサー・テックは、ただ片手を上げた。
レーザーが止まった。
空中で。
キランの目が見開かれる。
「なっ――?」
三本のエネルギー光線が、プロフェッサー・テックの目の前で完全に静止している。
機械の触手に首を締めつけられ、必死にもがいていたマドックスさえ、信じられないものを見るように目を見開いた。
「どうやって……?」
プロフェッサー・テックが笑った。
「知っているか? レーザーの一発一発には、顕微鏡でも見えないほど微小なナノマイトが含まれている」
指を動かす。
空中で静止していた光線が向きを変えた。
「だからこそ――俺が操れる!」
マッハは即座に何が起きているのか理解した。
「まずい……」
プロフェッサー・テックが手を払った。
レーザーが逆方向へ飛ぶ。
屋上へ向かって。
**ザッ! ザッ! ザッ!**
「ぐあっ!」
「うっ!」
「がっ!」
三人の狙撃手が全員撃ち抜かれた。
その身体が崩れ落ちる。
キランは呆然と見つめた。
プロフェッサー・テックは攻撃を防いだだけではない。
警官たち自身の武器を。
そのまま彼らへ返したのだ。
プロフェッサー・テックは再びマドックスへ向き直った。
「次に誰かから技術を*盗む*ときは……」
触手がさらに締まる。
「……せめて、その技術の能力を最大限に引き出す方法くらい覚えておけ!」
マドックスは必死に首元を掻きむしった。
その瞬間――
**ドガァン!**
触手を制御していた装置が爆発した。
プロフェッサー・テックが勢いよく振り返る。
「なに?」
触手がマドックスを解放した。
彼はステージへ崩れ落ち、激しく咳き込む。
すぐさまボディーガードたちが駆け寄り、安全な場所へ引きずっていった。
プロフェッサー・テックは攻撃してきた者たちへ向き直る。
アダム。
そしてパトロール。
アダムが彼の前へ浮かび上がった。
「そこまでだ、電気頭!」
武器を構える。
「逮捕する!」
パトロールも隣へ移動した。
「両手を上げて――」
プロフェッサー・テックが片手を上げた。
パトロールが硬直した。
「ンンンッ!」
アダムが横を見る。
「パトロール?」
ロボットの身体が激しく震え始める。
装甲から火花が噴き出した。
「どうした!?」
「分かりません!」
パトロールの声が歪む。
「回路が……焼けています……」
プロフェッサー・テックが拳を握った。
パトロールが絶叫する。
そして。
プロフェッサー・テックは腕を横へ振り払った。
パトロールの身体がステージを横切って吹き飛んだ。
アダムも巻き込まれる。
**ドガァン!**
二人が地面へ叩きつけられた。
「ぐぅぅっ!」
キランは目を見開いた。
警察の武器は使えない。
パトロールも使えない。
テクノロジーである限り。
何もかもがプロフェッサー・テックの武器になり得る。
ギアがキランを見る。
キランが何をするつもりなのか。
もう分かっていた。
キランの車椅子が変形を始める。
装甲が所定の位置へ移動する。
プラズマキャノンが展開された。
「仕事の時間だ」
ギアの表情が険しくなる。
「気をつけろ」
キランが加速した。
マッハも隣を飛ぶ。
接近する二人に気づき。
プロフェッサー・テックが振り返った。
キランは数メートル手前で停止する。
「お前が誰なのかも、何のためにここへ来たのかも知らない……」
キャノンにエネルギーが集まる。
「……でも今すぐやめないなら、ぶっ飛ばすぞ!」
プロフェッサー・テックは。
どこか面白がっているようだった。
「俺の名はプロフェッサー・テック」
倒れた警官たちを示す。
「さっきの実演を見ていなかったのか知らないが、そのブラスターは俺には通用しないぞ!」
キランがマッハを見る。
マッハもキランを見る。
二人とも。
何も言わなかった。
キランが撃つ。
**ズァッ!**
プラズマ弾がプロフェッサー・テックの胸へ直撃した。
「!?」
男の身体がステージから吹き飛ぶ。
**ドサッ!**
キランが瞬きをする。
「おお」
マッハが笑った。
「予想より簡単でしたね」
プロフェッサー・テックがゆっくり身体を起こす。
「理解できん……」
キランの武器を凝視する。
「どうやって……?」
「ブラスターはプラズマ式です」
マッハが説明した。
キランがニヤリと笑う。
「つまり……」
再びキャノンを構える。
「……操れるテクノロジーがない」
プロフェッサー・テックが見つめる。
姿を現して以来。
初めて。
心から驚いているように見えた。
だが。
その驚きもすぐに消える。
「なるほど。賢い」
立ち上がった。
「ただし、一つ重要なことを忘れている……」
キランの笑みが消える。
プロフェッサー・テックが手を上げた。
「弾そのものはテクノロジーではないかもしれない……」
指がゆっくり曲がる。
「……だが、お前のVentは違う!」
マッハが絶叫した。
「アアッ!」
キランが振り向く。
「マッハ!?」
マッハの身体が激しく明滅した。
紫色の光が歪み。
輪郭が崩れる。
「システムに侵入されています!」
マッハは頭を抱えた。
「制御……できない……」
腕が勝手に跳ね上がった。
武器システムが起動する。
そして――
マッハが。
逃げ惑う一般市民へ向き直った。
キランの血の気が引いた。
「マッハ……」
キャノンにエネルギーが集まり始める。
「何してるんだ!?」
マッハは必死に自分の身体へ抗っていた。
「私ではありません! 制御できないんです!」
プロフェッサー・テックが笑う。
「そのとおり」
キランはマッハを掴もうとした。
だが。
何の意味もない。
マッハは物理的にそこに存在しているわけではない。
掴める身体などない。
力ずくで押さえ込むこともできない。
あるのは。
ソフトウェアだけ。
そして今。
そのソフトウェアをプロフェッサー・テックが支配していた。
マッハの照準システムが群衆をなぞっていく。
男。
女。
子供。
必死に逃げようとしている人々。
「正気か!?」
キランがプロフェッサー・テックへ振り向いた。
「本気でこんな無関係な人たちを殺すつもりか!?」
プロフェッサー・テックは微動だにしない。
「必要ならな」
キランは彼を睨んだ。
「マドックスには、俺にしたことの代償を払わせる!」
プロフェッサー・テックがどんな恨みを抱えていようと。
マドックスが何をしたというのだろうと。
もうキランには関係なかった。
その答えが。
これだというのなら。
警官たちがマッハと一般市民の間へ駆け込んだ。
武器をプロフェッサー・テックへ向ける。
「やめろ!」
一人の警官が叫ぶ。
「やめなければ撃つ!」
プロフェッサー・テックが彼らを見る。
その自信が。
わずかに揺らいだ。
警官が多すぎる。
目撃者が多すぎる。
不確定要素が多すぎる。
離れた場所からギアが見ていた。
「最悪だ……」
プロフェッサー・テックはゆっくり後退する。
マッハの武器は。
まだ一般市民へ向けられたまま。
「こいつらが来て運がよかったな」
キランを見る。
「でなければ、とっくに引き金を引いていた」
キランの表情が険しくなる。
プロフェッサー・テックが少し近づいた。
「だが覚えておけ……」
電子音声が低くなる。
「俺の邪魔をするなら、お前もマドックスと一緒に死ぬ」
キランは目を逸らさない。
プロフェッサー・テックが首を傾げる。
「だから、よく考えろ」
間。
「奴にそこまでの価値があるのか?」
キランの恐怖が。
怒りに飲み込まれた。
「同じことを、お前に聞こうと思ってたよ」
プロフェッサー・テックの両手が動いた。
突然。
キランの車椅子が激しく跳ねる。
「なっ――!?」
マッハも一緒に引きずられた。
そして――
**ガシャァァン!!**
キランとマッハは警官たちの中へ投げ飛ばされた。
警官たちが次々と倒れる。
キランもその中へ激しく叩きつけられた。
「ぐっ!」
車椅子のシステムが明滅する。
ようやく顔を上げたときには――
プロフェッサー・テックはすでに逃走を始めていた。
いくつもの機械が男の周囲へ浮かび。
その身体を運びながら、エキスポ会場から遠ざかっていく。
警官たちが発砲する。
だが。
すべて外れた。
キランは追おうとした。
しかし。
車椅子が足元ならぬ車体の下で激しく痙攣する。
マッハの姿も激しく明滅していた。
「キラン……」
キランが止まる。
マッハの声は。
弱々しかった。
「私は……」
その瞬間。
アバターが消えた。
キランの目が見開かれる。
「マッハ?」
返事はない。
「マッハ!?」
車椅子は。
完全に沈黙した。
そして突然――
**プロフェッサー・テックを止めることは、もはやキランにとって最大の問題ではなくなっていた。**




