設計者
翌日は、キランが思っていたよりも早くやってきた。
彼がテック・エキスポに到着した頃には、会場はすでに大勢の人で埋め尽くされていた。
何千人もの来場者が、実験用ロボットからキランには仕組みすら理解できないような機器まで、ありとあらゆるものを展示するブースの間を行き交っている。
フード屋台から漂うさまざまな匂いが空気の中で入り混じる。
あちこちで実演の光が瞬いていた。
そしてメインステージの上には、巨大な横断幕が掲げられている。
2573年テック・エキスポへようこそ!
キランは周囲を見渡した。
「おお」
笑みを浮かべる。
「結構すごいな」
隣に浮かぶマッハが答えた。
「控えめな表現ですね」
反対側にはギア。
すでに遠くの機械を、普通の人間ならまず見せないほどの熱意で観察していた。
だが。
キランの注意をすぐに引いたものが、もう一つあった。
警備。
しかも。
かなりの人数だ。
メインステージの周囲には警察官。
さらに警備員が群衆の中を巡回している。
そして近くの屋上には――
狙撃手。
キランは上を見た。
「去年のエキスポって、こんなに警備厳しかったっけ?」
ギアも視線を上げる。
「去年はニコラス・マドックスが講演者じゃなかったからな」
キランがギアを見る。
ギアは声を落とした。
「何かと物議を醸す人物だからな。念には念を入れてるんだろ」
「なるほど」
マッハは警官たちを見た。
「何事もなく終わることを願います」
その表情が少し真剣になる。
「Ventプログラムに多大な貢献をした人物です。彼に何かあっては困ります」
キランが笑った。
「心配するなって」
自分自身を示す。
「何かあったら、俺たちが止める」
ギアがキランを見る。
キランは肩をすくめた。
「それに、ザイラとジャリックの件を考えたら……」
厳重に警備されたステージを見る。
「……あれより酷いことなんて、そうそう起きないだろ」
ギアがキランを見つめた。
マッハも見つめた。
キランが眉をひそめる。
「何?」
二人とも答えない。
「なんでそんな目で見るんだよ?」
二人が答えるより先に――
一人の女性がステージへ上がった。
「皆さん、こんにちは!」
観客が沸き上がる。
「第84回テック・エキスポへようこそ!」
パチ! パチ! パチ! パチ!
キランはステージへ向き直った。
司会者は拍手が収まるのを待つ。
「皆さん、大変お待たせいたしました! ついにこの時がやってまいりました!」
歓声がさらに大きくなる。
「それでは早速、最初の講演者をご紹介いたしましょう……」
ステージ脇へ腕を伸ばす。
「ニコラス・マドックス!」
反応は一瞬だった。
「マドックス!」
「マドックス!」
「マドックス!」
キランが眉を上げる。
「すげえな」
マッハは嬉しそうだった。
ニコラス・マドックスがステージへ姿を現す。
洗練されている。
自信に満ちている。
それでいて親しみやすい。
何千人もの知らない人間の前でも完全に自然体でいられるよう、長年かけて身につけてきたような人物だった。
「ありがとう!」
マドックスが手を振る。
「この素晴らしい一日を、皆さんと共に過ごせることを光栄に思います!」
再び拍手。
彼はステージ中央へ進んだ。
「シトロン・シティは常に技術革新の先駆けであり、同時に、現代を代表する創造的な才能を数多く生み出してきた街でもあります」
観客は熱心に耳を傾ける。
「この街は、私に毎日、新たなものを生み出し、限界を押し広げるための刺激を与えてくれます」
ギアが腕を組んだ。
キランが横目で見る。
「なんか疑ってる顔してるな」
「俺はいつもこういう顔だ」
「確かに」
マドックスは続けた。
「だからこそ本日は、我々の次なる大発明をご紹介したいと思います……」
スタッフたちが奇妙な試作機をステージへ運んできた。
その隣には。
超高層ビルの小型模型。
マドックスが笑う。
「設計者――《アーキテクト》です。」
キランが身を乗り出した。
マッハの意識も即座に装置へ集中する。
マドックスは耳の後ろを指さした。
そこには小型の装置が取り付けられている。
「これは、私の運動野へ直接接続されたチップによって制御されています」
キランの表情が変わった。
マッハも近づく。
「興味深い……」
「これを使えば、自分の身体を動かすだけでなく……」
マドックスは手持ち式の装置を掲げた。
「……あらゆるテクノロジーを意のままに制御することができます」
ボタンを押す。
超高層ビルの模型が。
バラバラになった。
観客から驚きの声が上がる。
模型の部品が空中へ浮かび上がった。
無秩序ではない。
正確に。
一つのパーツが回転する。
別のパーツが移動する。
いくつもの部品が空中で配置を変えていく。
マドックスは。
一切触れていない。
その必要がないのだ。
チップが彼の思考を直接命令へ変換している。
キランは見入った。
「おお……」
笑う。
「これはマジですごいな」
ギアは答えなかった。
見るのに夢中だった。
マドックスは部品を空中で動かし続ける。
「建設分野での可能性を想像してみてください……」
超高層ビルが再び組み上がっていく。
「……あるいは、さらなる技術革新への応用を」
最後の部品が模型へ向かって浮かんでいく。
そのとき――
歪んだ声が彼を遮った。
「あるいは――欺瞞への応用か」
部品が落ちた。
マドックスが固まる。
観客が静まり返った。
キランの笑顔が消える。
「勘弁してくれよ……」
マッハが彼を見る。
キランはため息をついた。
「余計なこと言うんじゃなかった」
一人の人物がステージへ姿を現した。
黒いビジネススーツ。
奇妙な配線のような模様が走るネクタイ。
ハイテクグローブ。
そして。
何世代も昔の人間が思い描いた、無骨な機械人間を思わせるヘルメット。
キランにはすぐに分かった。
プロフェッサー・テック。
男の背後には。
いくつもの奇妙な装置が浮遊している。
そこから機械の触手が伸びていた。
先端が光る。
マドックスは彼を見つめた。
プロフェッサー・テックが近づく。
「お前のアイデアが、本当はどこから来ているのか――皆に教えてやったらどうだ?」
マドックスは驚くほど冷静だった。
「マドックス・エンタープライズの優秀な社員たちからだ」
観客から。
緊張混じりの笑いが少しだけ聞こえた。
マドックスは肩をすくめる。
「他にどこがある?」
プロフェッサー・テックが止まる。
ほんの一瞬――
何も起きなかった。
そして。
拳を握り締める。
「嘘をつけ!」
機械の触手の一本が飛び出した。
シュバッ!
マドックスの首へ巻きつく。
目が見開かれた。
「ぐっ!」
触手が締まる。
マドックスは両手で掴んだ。
観客から悲鳴が上がる。
次の瞬間。
会場は大混乱に陥った。
「全員、逃げろ!」
「出ろ!」
「走れ!」
逃げ惑う人々が押し寄せ、キランの車椅子が後ろへ押される。
マッハが近くへ寄った。
ギアの表情が険しくなる。
キランはステージを見つめた。
「やれやれ」
武器システムが起動し始める。
「のんびりエキスポ見物ってわけにはいかなかったな」
警備区域では。
アダムがすでに通信機を構えていた。
「狙撃班!」
パトロールも隣で戦闘態勢へ入る。
アダムがプロフェッサー・テックを指さした。
「奴を撃て!」
テック・エキスポのはるか上空――
複数の狙撃銃が同時に照準を調整した。
プロフェッサー・テックはステージに立ったまま。
その目の前では。
マドックスがまだ首を絞められている。
そしてキランには――
事態がさらに悪化するという、嫌な予感しかしなかった。




