最初のVent
ギアは、まだ写真をじっと見つめていた。
RB–211。
本物のRBユニットだ。
「どこで見つけたんだろう」
レイモンドは肩をすくめた。
「知らんし、興味もない」
キランの呼吸療法が終わったのを確認すると、彼は治療器具を取り外した。
「重要なのは、こいつがトリニティ博物館を襲うつもりだってことだ」
キランはすぐに姿勢を正した。
マッハも近づいてくる。
「計画を実行するのはいつですか?」
レイモンドの答えは単純だった。
「今夜だ」
キランは迷わなかった。
「よし」
車椅子が出口へ向かって動き始める。
「行こう」
マッハも後に続いた。
ギアの目が大きくなる。
「待て!」
キランが止まった。
「RBユニットは戦略戦闘用に設計されてるんだぞ!」
ギアは写真を指さした。
「相手の攻撃パターンを分析して、適応する」
キランの自信が少し揺らいだ。
「つまり、お前じゃダメージを与えられないかもしれない」
キランはロボットを見つめた。
それから笑う。
「もうちょっと俺を信じてくれよ」
ギアは腕を組んだ。
「ジャリックのときのことを考えたら……」
キランの笑みが薄れた。
ほんの一瞬。
あの爆発が脳裏によみがえった。
ミサイル。
火球。
空から降り注ぐ、ジャリックの車椅子の破片。
キランはその記憶を押しやった。
「……生きてない相手と戦えるっていうのは、ありがたいよ」
ギアは安心した様子を見せなかった。
キランはレイモンドへ向き直る。
「それに、お前の話が本当なら、あの警備員たちは長く持たない」
表情が引き締まる。
「見殺しになんてできない」
そして――
キランは笑った。
「それに、作戦がある」
レイモンドが眉を上げる。
「ただ、お前の力が必要だ」
それから間もなく。
キランとマッハは夜空を駆け、トリニティ博物館へ向かっていた。
マッハはまだ納得していなかった。
「本当にうまくいくと思いますか?」
「ああ、間違いない」
キランはレイモンドが撮った写真を思い出した。
マンドレイクは自分の手でRB–211を修理していた。
損傷した脚にはテープ。
ロボットは情報を直接マンドレイクへ渡していた。
そして命令を出していたのもマンドレイク。
「あの男がRBユニットを修理してた様子を見る限り、あいつはマンドレイクに依存してるように見える」
マッハはその言葉を考えた。
「俺の考えが正しければ……」
キランは前を見る。
「レイモンドが操ってる奴を止めれば、RBユニットも動けなくなる」
マッハはすぐには答えなかった。
「そうであることを願います」
やがて。
博物館が遠くに見えてきた。
巨大な建物は、周囲の景色を圧倒するようにそびえている。
マッハがそちらを見る。
「これほど重要な歴史的遺物を盗もうとする者がいるとは、理解しがたいですね」
キランがマッハを見る。
マッハの意識は博物館に集中していた。
いや。
もっと正確には――
その中にあるものへ。
「Ventとして……」
マッハの声が柔らかくなる。
「私は、あの装甲を誇らしく思わずにはいられません」
キランは笑った。
「そう思っていいさ」
ほとんどの人間にとって。
あの古い装甲は、ただの傷んだ金属片にしか見えないかもしれない。
だが。
あれはワルシャワを象徴していた。
三位一体を。
そして。
最終的にマッハ自身へと繋がることになる技術の始まりを。
だからこそ、マッハにとってあれがどれほど大切なのか。
キランには理解できた。
二人は博物館へ到着した。
キランが速度を落とす。
すべてが暗い。
静か。
普通だ。
警報もない。
銃撃もない。
爆発もない。
キランは周囲を見回した。
「着いたけど……」
マッハが建物をスキャンする。
「特に異常はないようですが……」
キランは眉をひそめた。
「レイモンド、日にちを間違えたんじゃ――」
その瞬間。
バァン! バァン!
博物館のいくつもの窓の向こうで、まばゆい閃光が走った。
マッハが見つめる。
「訂正します」
キランは一気に加速した。
博物館の中は――
大混乱だった。
「ぐあっ!」
警備員が床へ叩きつけられる。
その前にはRB–211。
武装した二人の警備員が発砲した。
「あそこだ!」
バァン! バァン! バァン!
「撃て!」
「撃ってる!」
RB–211は完璧に動いた。
すべての攻撃が外れる。
身体を傾け。
旋回し。
横へかわし。
前進する。
ただ攻撃を避けているのではない。
分析していた。
タイミングを学習している。
最初の警備員が再び撃つ。
だが。
引き金を引くより先に、RB–211はすでに動いていた。
両手からレーザーナイフが伸びる。
シャキン!
「ぐっ!」
一人目が倒れた。
RB–211が回転する。
「がっ!」
二人目も続いた。
三人の警備員が。
博物館の床で動かなくなっていた。
RB–211とその目的地の間に立っているのは。
アダムとパトロールだけ。
その背後には――
ワルシャワの装甲。
アダムが何度も発砲する。
「こちらアダム・ヘンリー巡査!」
パトロールも隣で攻撃する。
「トリニティ博物館に応援を!」
RB–211は前進し続けた。
「警官が倒れた!」
アダムは撃ち続ける。
「繰り返す、警官が倒れた! 早く――」
RB–211が突然加速した。
アダムの目が見開かれる。
パトロールの一斉射撃をかわし――
アダムの顔面へ直接蹴りを叩き込んだ。
ドガッ!
「ぐあっ!」
アダムが横へ吹き飛ぶ。
激しく床へ落ちた。
パトロールも巻き込まれ、倒れる。
「アダム?」
返事はない。
パトロールが彼のもとへ動こうとする。
「大丈夫ですか?」
RB–211には関係なかった。
二人は。
もう脅威ではない。
頭部が動く。
ワルシャワ。
劣化した装甲は。
わずか数メートル先にあった。
RB–211が近づく。
手を伸ばす。
その瞬間――
バチィッ!
紫色の一撃がその身体へ直撃した。
RB–211が横へ吹き飛ぶ。
「そこまでだ!」
ロボットが顔を上げる。
博物館内に浮かぶ。
キランとマッハ。
キランのプラズマキャノンはすでに照準を合わせていた。
その表情は。
珍しいほど真剣だった。
「ワルシャワには触らせない」
RB–211が立ち上がる。
戦闘システム起動。
キランが撃った。
ドォン!
RB–211がかわす。
反撃。
ドォン! ドォン!
キランが身体をひねって回避する。
さらに一発。
すぐ横を通過した。
キランも撃ち返す。
RB–211は再びかわした。
マッハの目が大きくなる。
ギアは。
大げさに言っていたわけではなかった。
速い。
それ以上に厄介なのは――
すでに学習を始めている。
「気をつけてください、キラン!」
キランは次の攻撃の下へ潜り込んだ。
「展示品を傷つけるわけにはいきません!」
キランが発砲する。
RB–211がかわす。
「あいつに言え!」
ロボットの頭部が動いた。
周囲の展示品をスキャンする。
そして――
アンティークの武器を掴んだ。
キランが固まる。
「おい、やめろ」
RB–211が投げる。
「マッハ!」
武器が回転しながら宙を飛ぶ。
するとロボットは。
今度は三位一体の記念彫刻を掴んだ。
マッハの表情が恐怖に変わる。
「危ない!」
それも投げた。
「スナット!」
キランが加速する。
最初の展示品をキャッチ。
すぐに二つ目へ手を伸ばす。
指先が。
ぎりぎり彫刻に届いた。
「捕った!」
速度を落とす。
二つとも。
無傷だった。
マッハが息を吐いた。
「ふぅ……」
キランは二つの展示品を胸に抱える。
「今のはマジで危なかったな」
「まったくです」
キランがRB–211を見る。
ロボットは。
展示品を完璧に利用していた。
キランが破壊させないと。
もう理解している。
すでに。
弱点を一つ見つけられてしまった。
キランの呼吸が重くなる。
「レイモンドのほうは、俺たちよりうまくいってるといいんだけどな」
シトロン・シティの別の場所では――
アラン・マンドレイクがモニターを凝視していた。
画面いっぱいに。
RB–211の視覚映像。
その真正面には。
キランとマッハ。
紫色の一撃が。
カメラへ向かって飛んでくる。
マンドレイクは思わず身を引いた。
「こいつ、一体何者だ!?」
うめき声を漏らす。
こんなはずではなかった。
警備員なら問題ない。
RBなら警備員程度は処理できる。
だが。
この見知らぬ男。
戦闘用車椅子で空を飛ぶ男は――
計画には入っていなかった。
マンドレイクはキーボードを激しく叩く。
「RB!」
指がさらに速く動く。
「任務は中止だ」
通信回線を開く。
「そこから逃げろ!」
そのとき――
背後から声がした。
「そうはいかない」
マンドレイクが固まる。
目が見開かれた。
振り向こうとする。
遅い。
レイモンドの拳が炸裂した。
ドゴッ!
「ぐおっ!」
マンドレイクが椅子から吹き飛ぶ。
床へ叩きつけられた。
立ち直る暇もなく。
レイモンドが上から押さえ込む。
片腕を背中へ回される。
続いて。
もう片方。
レイモンドは彼を完全に床へ固定した。
「離せ!」
マンドレイクが暴れる。
まったく意味はなかった。
レイモンドが笑う。
「そいつは無理だな」
マンドレイクの視線がコンピューターへ向かう。
RB–211のカメラ映像は。
まだ流れている。
キランはまだ戦っていた。
マンドレイクはさらに激しく抵抗する。
「RB!」
レイモンドが押さえる力を強めた。
「考えるな」
博物館では――
RB–211が。
突然停止した。
キランが固まる。
マッハも見つめる。
ロボットは。
完全に静止していた。
両腕が下がる。
武器が停止する。
キランはゆっくり展示品を下ろした。
「えっと……」
マッハがスキャンする。
攻撃なし。
動きなし。
何もない。
キランが瞬きをする。
「今、もしかして……?」
マッハの表情が明るくなった。
「あなたの仮説は正しかったようです」
キランが笑った。
マンドレイクがいなければ――
RB–211は任務を続行できない。
危険な戦略戦闘ロボットは。
ただの動かない機械になっていた。
キランが息を吐く。
「助かった……」
マッハはワルシャワの装甲へ近づいた。
手つかず。
無事だ。
数秒間。
マッハはただ。
その装甲を見つめていた。
キランが気づく。
「大丈夫か?」
マッハが頷いた。
「はい」
静かな声。
「大丈夫どころではありません」
古代の装甲を見る。
Ventの始まりを象徴する遺物。
そして。
キランを見る。
「ありがとうございます」
キランは笑った。
「いつでもどうぞ」
その背後では――
パトロールがまだアダムを起こそうとしていた。
「アダム?」
ようやく。
うめき声が聞こえた。
「……勝った?」
パトロールは停止したRB–211を見る。
次に。
キランを見る。
「一応?」
アダムがまたうめいた。
キランは笑った。
強盗は終わった。
ワルシャワの装甲は無事だった。
そして。
珍しく――
キランは誰も殺さずに敵を倒すことができた。
ジャリックに起きたことを考えれば――
それは。
十分すぎるほど価値のある勝利だった。




