三位一体
トリニティ博物館は、翌日になるとかなり賑わっていた。
巨大な窓から陽光が差し込み、磨き上げられた床と、近代史における最も重要な出来事の数々を紹介する巨大な展示物を照らしている。
その展示の一つ。
中央に置かれていたのは――
驚くほど地味なものだった。
劣化した黄金色の金属片。
古い。
傷だらけ。
長い年月にさらされている。
その歴史を知らない人間が見れば。
おそらくスクラップ置き場に転がっていても不思議ではないと思うだろう。
しかし――
その金属片は。
博物館でも特に重要な展示物の数々に囲まれていた。
その隣には、ツアーガイドが立っている。
「……そして大戦の最前線において、パディン軍はシトロン・シティを占領していました」
観光客たちが熱心に耳を傾ける。
「実際、タロピア政府は国全体の降伏すら検討していたと言われています」
ガイドが微笑んだ。
「ですが当然、今の私たちは全員パディン語を話しているわけではありません」
何人かが笑った。
「では、何が起きたのか分かる方はいらっしゃいますか?」
一人の観光客が手を挙げた。
「三位一体?」
「その通りです」
ガイドが。
展示の上にそびえ立つ三体の巨大な彫像を示した。
キランは見上げた。
さすがの彼も――
認めざるを得なかった。
圧巻だった。
一体目は。
**ユリシーズ・アビオドゥン**。
その隣には、彼のVent――
**ワルシャワ**。
二体目は。
**アレクサンドラ・ノヴァク**と。
**ジェットストリーム**。
そして三体目――
**ケイン・バルカザール**と。
**ナイトロ**。
三位一体。
すべてを変えた者たち。
「三位一体は、パディン軍を排除するために送り込まれたエージェントでした」
ガイドが説明を続ける。
三体の彫像を示した。
「ワルシャワ、ジェットストリーム、ナイトロは任務を成し遂げただけでなく……」
その手が。
古びた装甲板へ向けられる。
「……後のVent産業そのものが誕生するきっかけとなったのです」
マッハが。
展示物をじっと見つめていた。
キランは。
すぐに気づいた。
いつものマッハとは。
少し違う。
単なる好奇心ではない。
誇り。
キランは微笑んだ。
何か言おうとした。
そのとき――
「今日は時間を作ってくれてありがとう」
キランが振り向く。
母親のスザンヌが。
隣を歩いていた。
「仕事でいつも忙しいでしょう?」
キランは笑った。
「それに今は、犯罪者と戦うなんてことまで始めちゃって……」
スザンヌが。
じろりと彼を見る。
「……前よりずっと、一緒に過ごせる時間がありがたく感じるわ」
「もちろんだよ、母さん」
キランは。
彼女と並んで進んだ。
ツアーの一行は。
少し先を歩いている。
「俺も母さんと過ごすのは好きだよ」
それは。
本心だった。
特に最近は。
教師の仕事。
訓練。
銃撃される。
建物を突き破って吹き飛ばされる。
殺人鬼のWheelerをうっかり死なせてしまう。
そしてなぜか。
社会生活らしきものまで生まれ始める。
キランの予定は。
以前よりはるかに複雑になっていた。
スザンヌが。
マッハを見る。
「それで、そっちのほうはどうなの?」
母親らしい心配そうな表情が。
すぐに戻ってきた。
「マッハはちゃんとあなたの面倒を見てくれてる?」
キランは。
AIの相棒を見る。
「いつも通り」
マッハが。
誇らしげに笑った。
「それに、ギアが作ってくれた新しいチェアも最高だよ」
「実に素晴らしい機体です」
マッハも付け加えた。
だが。
スザンヌは完全には安心していないようだった。
「ギアから聞いたんだけど、レイモンドもあなたを手伝ってるそうね」
キランには。
もう話の行き先が分かった。
「本当なの?」
「うん」
彼は笑った。
「それに実際、*かなり*役に立ってくれてるよ」
スザンヌが。
わずかに目を細めた。
「そうだといいけど」
キランは。
笑いを堪えた。
「もしサボり始めたら、ちゃんと私に言うのよ?」
キランが笑った。
「分かったよ」
二人は。
そのまま博物館を進んでいった。
やがて。
キランの注意が。
展示物とは別のものへ向けられた。
何かが違う。
警備。
やけに多い。
武装した警備員が。
入口のそばに立っている。
廊下を巡回する者もいる。
別の出入口には。
二人の警備員。
さらにその先にも。
もう二人。
キランが眉を上げた。
「えっと……」
スザンヌが彼を見る。
「なんでこんなに警備が厳重なんだ?」
キランは。
武装した警備員たちを見る。
「まさか、*戦争*でも始まるの?」
スザンヌの目が見開かれた。
「まさか」
声を落とす。
「最近、シトロン・シティ国立博物館で侵入事件があったから、警備を強化しているのよ」
キランが止まった。
「どういうこと?」
街の反対側では――
その答えは。
決して綺麗なものではなかった。
シトロン・シティ国立博物館は。
完全な犯罪現場と化していた。
デジタル式の規制線が。
現場を封鎖している。
警官たちが。
展示ホールを行き来していた。
鑑識のカメラマンが。
あらゆるものを記録している。
そして。
あの警備員は――
まだそこにいた。
遺体の状態は。
かなり悪化していた。
皮膚の下には。
黒い血管が広がっている。
ワイルダーが。
その近くに立っていた。
「ふむ……」
背後には。
アダムとパトロール。
ワイルダーは。
手袋をはめた。
警備員の身体から。
何かが突き出ている。
ダーツ。
アダムが。
顔を近づける。
「何です?」
ワイルダーが。
慎重に抜き取った。
「よく分からないが……」
光にかざす。
その瞬間。
表情が変わった。
見覚えがある。
「ガンマ・ダーツだ」
アダムが眉をひそめる。
ワイルダーは。
指の間でダーツを回した。
「確信はないが、確かこれはRBユニット専用だったはずだ」
アダムが。
彼を見つめた。
「マジですか?」
パトロールが。
即座に反応した。
「ボットボーイどもは使用禁止になって、全部スクラップにされたんじゃなかったのか?」
「そのはずだ」
ワイルダーは。
死んだ警備員を見る。
そして。
再びダーツへ目を落とした。
「だが、何体か処分を免れた可能性はある」
数時間後――
アラン・マンドレイクは。
古びたアパートの中にいた。
部屋の有様と。
近くに置かれた値段のつけようもない彫刻との対比は。
ほとんど冗談のようだった。
ひび割れた壁。
古い家具。
安物の機材。
何年もまともに手入れされていないような部屋。
マンドレイクには。
どうでもよかった。
なぜなら。
目の前のコンピューターには。
非常に良い知らせが表示されていたからだ。
「これで大金持ちだぞ、RB」
RB–211が。
近くに立っている。
マンドレイクが笑った。
「彫刻の買い手が見つかった」
「おめでとうございます」
マンドレイクは。
椅子にもたれた。
安堵が。
顔いっぱいに広がる。
「やっとだ」
嫌そうに。
部屋を見回した。
「このスナットみたいなボロ部屋とも、あと少しでおさらばだ」
こんな生活は。
もう終わり。
苦労するのも。
もう終わり。
そして――
「スクラップ置き場も」
表情が。
暗くなる。
「サービス残業も……」
指に力が入る。
「……俺にあれこれ命令する連中も、全部終わりだ」
RB–211は。
何も言わなかった。
マンドレイクが。
息を吐く。
「あと一仕事だけだ」
視線が。
コンピューターに表示されたトリニティ博物館の設計図へ戻る。
「だが、この前の仕事のせいで警備は厳重になってるはずだ」
相当。
厳重に。
「いつも以上に慎重にやらないとな」
RB–211が。
情報を処理する。
そして。
当然とも言える提案をした。
「事前偵察が有効かと思われます」
マンドレイクは。
少し考えた。
そして頷く。
「いい考えだ」
博物館の設計図を。
拡大する。
「お前が偵察してる間に、俺は内部構造を調べておく」
RB–211が。
窓へ向かう。
出ていく直前――
「RB」
ロボットが止まった。
マンドレイクが。
そちらを見る。
「幸運を」
「ありがとうございます、サー」
そして。
RB–211は。
街の中へ消えていった。
しばらくして――
ロボットは。
トリニティ博物館を見下ろす建物の屋上に。
身を低くしていた。
両目が。
緑色に光る。
視界が変化する。
壁が。
透明になる。
建物内部に。
熱源反応が浮かび上がった。
一階。
二階。
三階。
RB–211は。
すべてをスキャンした。
各階に。
警備員が五人。
すべての入口に。
武装警備員。
分かりやすい侵入口は。
すべて守られている。
マンドレイクの予想は。
正しかった。
警備は。
ただ強化されたのではない。
三倍になっていた。
RB–211が。
記録を終了する。
任務完了。
立ち上がる。
その場を離れようとした。
そのとき――
「よぉ!」
RB–211が止まった。
ゆっくりと。
頭を回す。
背後に。
誰かがいた。
屋上の上空に。
一人の男が浮かんでいる。
エクソスーツを身につけた――
レイモンド・ハリソン。
皮肉っぽい笑みを浮かべていた。
「何か気になるものでもあったか?」
RB–211の。
戦闘システムが起動する。
腕が。
一瞬で持ち上がった。
**ズィン!**
レイモンドが。
身体を横へ振る。
光弾が。
横を通過した。
「うおっ!」
RB–211が走る。
「おっと、逃がすか!」
レイモンドが。
加速して追いかけた。
射撃開始。
RB–211は。
恐ろしいほど正確に動く。
左。
右。
屈む。
跳ぶ。
すべての攻撃が。
外れた。
「待てって!」
レイモンドは。
撃ち続ける。
「話がしたいだけだ!」
どうやら。
RB–211は。
会話に興味がないらしい。
速度を落とすことなく。
反撃する。
レイモンドが避けた。
そのとき。
ロボットが。
胴体の格納部へ手を伸ばすのが見えた。
「させるかよ」
狙いを変える。
**ガキン!**
攻撃が。
RB–211の脚に命中した。
火花が散る。
黒い機械液が。
屋上に飛び散った。
「当たった!」
RB–211が。
よろめく。
だが。
止まらない。
胴体の格納部から。
何かを引き抜いた。
小さな装置。
レイモンドが。
目を細める。
「なんだ――」
RB–211が。
それを投げた。
**ドォン!**
目も眩むほどの閃光が。
屋上を覆った。
レイモンドが。
顔を背ける。
「ぐあっ!」
バイザーが。
自動的に暗くなる。
視界が戻ったとき――
屋上には。
誰もいなかった。
RB–211は。
消えていた。
レイモンドが。
辺りを見回す。
「クソッ!」
何もない。
ロボットはいない。
動くものもない。
どこへ行ったのかを示すものも――
レイモンドが止まった。
「……お?」
下を見る。
屋上に。
細い機械液の跡が続いていた。
RB–211の。
損傷した脚から漏れている。
レイモンドが。
しゃがみ込む。
液体に触れた。
そして。
その跡が続いている方向を見る。
ゆっくりと。
笑みが広がった。
「お前、*液漏れ*してるじゃねえか」
立ち上がる。
「さて、どこへ帰るつもりかな?」
そして。
レイモンドは。
その跡を追って飛び立った。
RB–211は。
確かに逃げ切った。
ただし。
一つだけ。
気づいていなかった。
自分自身が――
レイモンドを。
まっすぐ家まで案内していることに。




