挑戦、受けて立つ
しばらくの間。
誰も。
何も言わなかった。
キランは。
地面を見つめていた。
ジャリックの車椅子の破片が。
まだ通りのあちこちに散らばっている。
警官たちが。
瓦礫の中を動き回っていた。
救急隊員たちは。
負傷した市民の手当てをしている。
ザイラは。
すでに連行されていた。
そして。
そんな混乱の真っただ中で――
キランは。
自分が正しいことをしたのだと。
受け入れなければならないらしい。
*あいつなら、一瞬もためらわずにお前を殺してた。*
レイモンドの言葉が。
頭から離れなかった。
*他に選択肢はありませんでした。*
マッハも。
同じことを言った。
キランは。
ようやく息を吐いた。
「……二人の言う通りかもしれない」
納得したわけではない。
だが。
ここで立ち尽くして。
自分を責め続けたところで。
起きたことは変わらない。
ジャリックは死んだ。
ザイラは拘束された。
戦いは終わった。
少なくとも――
今のところは。
キランが。
顔を上げる。
「それに……」
レイモンドが。
彼を見る。
キランの表情が。
考え込むようなものへ変わった。
「ジャリックとザイラだけで動いてたとは思えない」
レイモンドが。
眉を上げる。
「どうしてそう思う?」
キランは。
前へ進み始めた。
レイモンドも。
隣を歩く。
マッハが。
近くを浮遊していた。
「今まで見てきた限り、あいつらの武器密売はかなり大掛かりだ」
キランは。
これまでに分かったことを。
一つずつ思い返した。
ネオン。
武器。
謎の運び屋。
木箱。
高度なテクノロジー。
ウルトラヴァイオレットの保釈金を。
匿名で支払った人物。
そして。
ジャリックによる。
運び屋への襲撃。
動いている駒が。
多すぎる。
資金も。
多すぎる。
組織的すぎる。
「あいつらは頭がいい……」
キランは。
警察が証拠品を車両へ積み込む様子を見た。
「……でも、二人だけで全部やれるほどの資金や人脈があったとは思えない」
レイモンドが。
その言葉を考える。
マッハの表情が。
変わった。
「その推理には、筋が通っています」
キランが。
彼を見る。
マッハは。
少しためらった。
「ですが……怖くもあります」
レイモンドは。
まったく動じなかった。
だが。
キランには。
すぐに理由が分かった。
マッハが続ける。
「もし、それが事実なら……」
声が。
小さくなる。
「……次は、その人物が私たちを狙ってくる可能性が高いということです」
キランの胃が。
締めつけられた。
そうだ。
もし。
誰かがザイラとジャリックへ武器を供給していたのなら。
もし。
誰かがあの武器密売を裏で操っていたのなら。
キランは。
本当の敵を倒したわけではない。
盤上から。
二つの駒を取り除いただけ。
そして。
その二つを取り除いたのが誰なのか。
裏にいる人物は。
もう知っている。
レイモンドが。
肩をすくめた。
「問題ない」
キランが。
彼を見る。
レイモンドは。
拳を鳴らした。
「どこのクソ野郎だろうが、いつも通りぶっ倒せばいい」
キランは。
思わず笑いそうになった。
もちろん。
レイモンドなら。
そう言う。
恐怖なし。
ためらいなし。
ただ――
*かかってこい。*
「頼もしいな」
レイモンドが笑う。
「だろ?」
三人は。
戦場から離れていった。
誰も。
近くの建物の角。
高い位置に取りつけられた。
小さなカメラには気づかなかった。
レンズが。
三人を追う。
小さなランプが。
光っていた。
録画中。
監視中。
盗聴中。
カメラが。
ズームする。
キラン。
マッハ。
レイモンド。
三人全員が。
レンズの中に。
はっきり映っていた。
何キロも離れた場所では――
同じ映像が。
一台のモニターに映っていた。
そして。
もう一台。
さらに。
もう一台。
暗いコントロールルームを。
無数の画面が埋め尽くしている。
いくつかには。
シトロン・シティ各地の監視映像。
別の画面には。
情報。
記録。
ファイル。
写真。
一台のモニターには。
キラン・キリアン。
もう一台には――
レイモンド・ハリソン。
その前に。
サヴァントが座っていた。
無言で。
ジャリックは消えた。
ザイラは捕まった。
最も価値ある戦力のうち。
二人が。
たった一日の午後で。
盤上から消えた。
普通の人間なら。
激怒していただろう。
サヴァントは。
違った。
もう。
怒ってはいなかった。
怒りなど。
目的のために役立つときにしか。
価値はない。
今――
彼は考えていた。
観察していた。
計画していた。
視線が。
レイモンドのファイルへ移る。
*どこのクソ野郎だろうが、いつも通りぶっ倒せばいい。*
サヴァントが。
椅子へ深くもたれた。
薄い笑みが。
浮かぶ。
「ほう……」
指先で。
机を軽く叩く。
「私を倒せるとでも思っているのか、ハリソン君?」
レイモンドの画像を。
じっと見つめる。
別の画面には。
軍歴が並んでいた。
そして。
キランのファイル。
サヴァントの笑みが。
さらに深くなる。
「その挑戦……受けて立とう、ハリソン君」
モニターへ。
身を乗り出す。
その目が。
冷たくなる。
「挑戦……受けて立とう」
そして。
その巨大なデジタルアーカイブのどこかで――
すでに。
新たな計画が。
動き始めていた。




