指名手配犯
煙の向こうから。
パトロールの声が響いた。
「**お前たちを逮捕する!**」
ジャリックは。
眼下に集まる警官たちを見た。
そして。
笑った。
「おやおや」
ブレイズが。
隣へ漂ってくる。
「シトロン・シティが誇る警察の皆さんじゃねえか」
ザイラの表情は。
はるかに深刻だった。
警察の到着が。
予想より早い。
パトロールが。
武器を構える。
「ただちに着陸し、投降しろ!」
ジャリックの笑みが消えた。
「**引っ込んでろ!**」
発射。
**シュゴオオッ!**
一撃が。
二台のパトカーを貫いた。
警官たちが散る。
「ジャリック、やめて!」
ザイラが。
弟を見つめる。
今のは。
防御ではない。
制御された攻撃でもない。
また。
状況を悪化させている。
その下では――
**ミシミシミシッ!**
損傷した建物の一部が。
崩れた。
巨大な瓦礫が。
建物から剥がれ落ち。
通りへ落下する。
人々が悲鳴を上げた。
キランは。
即座に気づいた。
「マッハ!」
「照準中」
キランのキャノンが。
落下する瓦礫をロックする。
**ドカン!**
瓦礫は。
市民へ届く前に爆発した。
細かな破片となり。
人々の周囲へ。
危険なく降り注ぐ。
キランが息を吐く。
「危なっ!」
逃げる人々を。
見下ろした。
「ギリギリだったな」
マッハのセンサーが。
車椅子全体をスキャンする。
「先ほどの爆発を受けたときは、もう駄目かと思いました」
「幸い、損傷はありません」
マッハが。
一拍置いた。
そして。
警官たちを見る。
「しかし……」
キランも。
その視線を追った。
ジャリックとザイラは。
すでに警官たちへ狙いを変えていた。
空を。
無数の攻撃が飛び交う。
アダムとパトロールは。
応戦している。
だが。
他の警官の大半は。
すでに後退を始めていた。
ザイラは。
冷静だった。
防ぐ。
反撃する。
必要なときだけ。
相手の攻撃能力を奪う。
ジャリックは――
その正反対。
撃つ。
ひたすら。
無茶苦茶に。
そして。
その一秒一秒を。
心の底から楽しんでいるように見えた。
マッハが。
続きを口にする。
「どうやら、警官たちは同じことを言えないようですね」
キランが顔をしかめる。
「だな」
近くから。
また何かが割れる音。
さらに。
瓦礫が落ち始めた。
キランは。
市民を見る。
次に。
ザイラとジャリック。
そして。
また市民。
「スナット!」
前へ動き出す。
「まず市民を安全な場所へ――」
止まった。
「いや」
戦闘を見る。
「先にザイラとジャリックを止めないと――」
また。
建物の一部が崩れた。
キランは。
そちらへ振り返る。
「いや……」
マッハを見る。
「マッハ、こういうときこそ助けてくれ」
マッハも。
二つの問題を交互に見た。
「私としては――」
そのとき。
巨大な人影が。
落下する瓦礫の真下へ着地した。
キランが瞬きをする。
「レイモンド?」
レイモンドは。
ギアが作った予備のエクソスーツを着ていた。
両腕を。
頭上へ伸ばす。
落下してきた瓦礫が。
その腕へ激突した。
**ドォン!**
スーツが。
わずかに軋む――
だが。
耐えた。
市民たちが。
彼の下を走り抜けていく。
レイモンドは。
重みに耐えながら叫んだ。
「こっちは任せろ!」
キランを見る。
「奴らを倒せ!」
キランが笑う。
ようやく。
問題が一つ減った。
「喜んで」
Wheelersへ。
向き直る。
アダムとパトロールは。
今やほぼ二人だけで戦っていた。
キランが。
突撃しようとする。
マッハが止めた。
「交戦する前に……」
キランが。
彼を見る。
「勝つための作戦を立てることを推奨します」
キランがため息をつく。
マッハの言う通りだった。
双子へ真正面から突っ込むという作戦は。
以前。
あまりうまくいかなかった。
二人を。
注意深く観察する。
ザイラ。
ジャリック。
ブリザード。
ブレイズ。
動き。
攻撃。
反応。
そして――
キランは。
何かに気づいた。
「待て」
マッハが振り向く。
「今、気づいた」
ジャリックが。
また撃つ。
攻撃的。
即座に。
ほとんど狙いすらつけていない。
一方。
ザイラは。
警察の攻撃を防ぎ。
反撃する前に。
タイミングを待っている。
キランは。
目を細めた。
「ザイラとブリザードは、戦い方が戦略的だ」
マッハも観察する。
「必要なときまで、攻撃を温存しています」
そして。
キランはジャリックを見る。
また爆発が起こり。
ジャリックが笑った。
「ジャリックとブレイズは無茶苦茶だ」
キランの表情が変わる。
「しかも、あの混乱を楽しんでる」
マッハは。
すぐに理解した。
「そこを利用できると?」
「そういうこと」
キランの視線は。
ジャリックから離れない。
「ジャリックとブレイズを狙う」
マッハが。
少しためらう。
「彼らを怒らせれば……」
キランが。
わずかに笑った。
「……頭に血が上がって、隙ができる」
マッハは。
その案を検討した。
「危険です」
一拍。
「ですが、成功する可能性はあります」
そして。
当然の疑問。
「しかし……」
マッハが。
キランを見る。
「どうやって彼らを怒らせるつもりですか?」
キランが笑った。
「俺に任せろ」
その近くでは――
アダムが。
疲れ切っていた。
武器は。
オーバーヒート寸前。
パトロールのシステムにも。
電力低下の警告が出ている。
その正面に。
ジャリックが浮いていた。
笑っている。
戦いを。
終わらせる準備はできていた。
ザイラが近づく。
「ジャリック、やめて」
ほとんど。
反応しない。
「そんなことをしても――」
「**おい!**」
全員が振り向いた。
数メートル先に。
キランが浮かんでいた。
隣には。
マッハ。
キランは。
ジャリックを真っ直ぐ見つめる。
「俺たちとの戦いは……」
一拍。
そして。
思いつく限り。
最も醜い言葉を。
わざと選んだ。
「……まだ終わってねえぞ、この**クソ障害者!**」
静寂。
完全な。
静寂。
ジャリックの目が。
見開かれた。
笑みが。
消える。
ブレイズさえ。
動きを止めた。
ザイラの表情も。
即座に変わった。
恐怖。
キランに対するものではない。
ジャリックに対するものだった。
ブレイズが。
ゆっくり。
キランを見る。
「……あーあ」
声が。
低くなる。
「……やっちまったな」
ジャリックは。
ただ見つめていた。
「今……何て言った?」
キランの胃が。
締めつけられる。
作戦は。
効いている。
効きすぎているかもしれない。
それでも――
もう。
止められない。
「聞こえただろ」
ジャリックの視線を。
真っ直ぐ受け止める。
「**障害者。**」
ジャリックの身体が。
硬直した。
ブリザードが。
即座にザイラを見る。
「落ち着かせて」
ザイラが。
弟へ近づく。
「この反応は、任務の成功にとって非生産的です」
「ジャリック」
ザイラは。
声を柔らかくした。
「落ち着いて」
ジャリックは。
姉を見ない。
「ただの言葉にこんな反応をするのは、非論理的よ」
ジャリックの手が。
震えていた。
「やめろ」
ザイラが止まる。
ジャリックの声が。
さらに低くなる。
「誰にも……」
そして突然――
もう。
キランは見えていなかった。
シトロン・シティも。
ザイラも。
見えていない。
彼は。
再び六歳だった。
椅子に。
拘束されている。
動けない。
目の前には。
ミスター・ウィークス。
手には。
火のついたブロートーチ。
男の表情には。
何もない。
怒りも。
同情も。
何も。
「お前は、ただの障害者だ」
幼いジャリックが。
首を横に振る。
ウィークスが。
炎を近づける。
次に来たのは。
痛み。
現在――
ジャリックの目が。
痙攣する。
「俺を……」
記憶は。
続く。
ウィークスの声。
冷たい。
淡々としている。
「認めれば、もっと早く終わる」
再び。
炎。
幼いジャリックが叫ぶ。
「分かった!」
涙が。
顔を流れ落ちる。
もう。
耐えられなかった。
ウィークスは待った。
ジャリックの声が。
震える。
「俺は……ただの障害者だ」
ようやく。
ウィークスが。
トーチを下げた。
少年は。
震えていた。
ウィークスが。
見下ろす。
「よし」
そして。
冷たく続けた。
「これで、お前をもっと価値のあるものに作り変えられる」
現在のジャリックの呼吸が。
荒くなる。
キランは。
その変化を見た。
マッハも。
気づいた。
これは。
普通の怒りではない。
苛立ちでもない。
侮辱されたことによる。
単なる激怒ですらない。
もっと深い何かが。
抉じ開けられていた。
ジャリックの目が。
キランを捉える。
「誰にも……」
武器から。
炎が噴き上がる。
「……俺を……」
ブレイズのシステムが。
急激に出力を上げる。
「……そんなふうに……」
ザイラが。
前へ出た。
「ジャリック――」
遅かった。
ジャリックが叫ぶ。
「**障害者なんて呼ばせねええええっ!**」
そして。
一直線に。
キランへ突撃した。




