堕ちた英雄たち
シトロン・シティの人々は。
二人を愛していた。
だからこそ。
その転落は。
あまりにも残酷だった。
何年もの間。
ザイラとジャリック・ラインハルトの姿は。
街の至るところにあった。
テレビ。
広告。
おもちゃ。
Tシャツ。
ポスター。
子供たちは。
二人のカラーを身につけた。
二人が上空を飛べば。
人々は歓声を上げた。
シトロン・シティにとって。
ブリザードとブレイズは。
単なるヒーローではなかった。
二人こそが。
*ヒーローだった。*
そして。
わずか二十四時間足らずで。
そのすべてが変わった。
ごく普通の家庭のリビングで。
テレビの画面が明滅していた。
ニュースキャスターは。
デスクの向こうに座っている。
その表情は。
戦争。
自然災害。
あるいは。
誰にも説明できないような大惨事を伝えるときのものだった。
その隣には。
ほんの数日前なら。
あり得ないと思われていたであろう画像。
ザイラとジャリック・ラインハルト。
そして。
二人の写真の下には――
**ザイラ&ジャリック・ラインハルト――失墜した英雄たち**
「昨日、“シトロン・シティの守護者”と呼ばれてきたザイラ、ジャリック・ラインハルト両名に対し、逮捕状が発行されました」
テレビを見ている家族は。
何も言わなかった。
母親。
父親。
そして。
幼い娘。
三人は。
ソファに並んで座っていた。
その周囲には。
今とは違う現実の名残があった。
近くのテーブルには。
ブレイズのアクションフィギュア。
少女の脚には。
ブリザードのぬいぐるみ。
着ているシャツには。
二人のヒーローが描かれている。
今となっては。
そのすべてが。
どこかおかしく感じられた。
「二人は、正体不明の武器商人と関係があるとされる運び屋を暗殺する目的で、C.C.P.D.へ侵入したところを確認されています」
ニュースキャスターの背後に。
映像が切り替わる。
留置区画。
壁には。
焼け焦げた跡。
黒い傷跡が。
襲撃のあった場所を。
はっきりと物語っていた。
「この襲撃によって警察署内で火災が発生し、その混乱に乗じてラインハルト姉弟は逃走しました」
少女は。
ブリザードのぬいぐるみを。
さらに強く抱きしめた。
「捜査の現状について、ハイグレイス警察本部長に話を伺いました」
画面が切り替わる。
ハイグレイス本部長が。
大勢の記者に囲まれていた。
あらゆる方向から。
マイクが顔の前へ突き出される。
カメラのフラッシュが。
容赦なく浴びせられる。
機嫌は。
明らかに悪そうだった。
「現在、あらゆる可能性を追って捜査しています。しかし現時点で、ザイラとジャリック・ラインハルトは指名手配中の逃亡犯です」
別の記者が。
質問を叫んだ。
ハイグレイスは無視した。
表情を険しくし。
カメラを真っ直ぐ見る。
「二人を目撃しても、絶対に近づかないでください。ただちに警察へ通報してください」
放送は。
スタジオへ戻った。
だが。
少女は。
もう聞いていなかった。
目には。
涙が溜まっていた。
小さな指で。
ブリザードを強く握る。
「ママ?」
母親が。
娘を見下ろした。
「どうして……こんなことになったの?」
両親のどちらにも。
答えはなかった。
母親は。
娘を抱き寄せる。
「分からないわ……」
少女は。
母親の胸に顔を埋めた。
そして。
泣いた。
シトロン・シティ中で。
何百万人もの人々が。
同じ疑問を抱いていた。
悲しむ者もいた。
怒る者もいた。
そして。
怒りは。
悲しみよりもはるかに速く広がった。
「**剥がせ!**」
叫び声が。
通りに響いた。
地区最大級の広告の下に。
巨大な群衆が集まっていた。
ポスターは。
建物の壁一面を。
ほぼ覆っている。
片側では。
ザイラ・ラインハルトが誇らしげに微笑んでいた。
反対側では。
ジャリックが笑っている。
その隣には。
ブリザードとブレイズ。
かつて。
人々に希望を与えた光景。
今は。
怒りしか生まない。
「剥がせ!」
「裏切り者!」
「嘘つき!」
数人が。
梯子を登る。
別の者たちは。
巨大なポスターの端に。
ロープを巻きつけていた。
急ごしらえのバリケードの向こうから。
警察官たちが警告を叫ぶ。
誰も聞かない。
ロープが張る。
ポスターが裂けた。
笑顔のザイラの顔が。
真ん中から。
真っ二つに引き裂かれる。
群衆が沸き上がった。
「**よっしゃあ!**」
続いて。
ジャリックの姿も裂ける。
数秒後。
巨大な広告は。
歩道へ叩き落とされた。
一人が。
ライターを持って前へ出る。
別の誰かが。
ポスターの上に液体を撒いた。
「いい気味だ!」
炎が。
ポスターの角へ触れる。
*ボワッ!*
火が。
画像を飲み込んだ。
最初に。
ブレイズが燃えた。
次に。
ブリザード。
ジャリック。
そして。
ザイラ。
シトロン・シティの英雄たちは。
オレンジ色の炎の中へ消えていった。
だが。
群衆は。
まだ終わらない。
通りの反対側では。
大量のグッズが。
ゴミ収集箱へ投げ込まれていた。
ブレイズのおもちゃ。
ブリザードのシャツ。
ポスター。
コレクターズグッズ。
二人の顔が描かれた。
ありとあらゆるもの。
すべてが。
燃えていた。
かつて。
自分たちのお金を使って。
Wheelersを称えていた人々が。
今では。
二人を信じていたという証拠を。
片っ端から破壊していた。
近くで。
ガラスが割れた。
*ガシャァン!*
「**嘘つき!**」
一人の女性が。
グッズショップの窓へ石を投げつけた。
即座に。
警報が鳴り響く。
警察官たちが。
彼女へ駆け寄った。
「離して!」
二人の警官が。
両腕を掴む。
女は蹴った。
身体を捻った。
叫んだ。
「**離してよ!**」
暴動は。
さらに激しくなった。
物が。
空中を飛び交う。
人々が。
警察のバリケードへ押し寄せる。
暴動鎮圧装備の警官たちは。
群衆が通りを飲み込むのを。
必死に食い止めていた。
その上空に。
アダムが浮かんでいた。
パトロールも。
隣に浮いている。
「**今すぐ下がれ!**」
誰も聞かない。
パトロールの機械音声が。
混乱を切り裂いた。
「ただちに行為を中止してください」
近くで。
瓶が砕ける。
パトロールは。
群衆を見つめた。
「でなければ……どうなるか試してみますか?」
アダムが。
彼を見る。
「マジで?」
「何が?」
また何かが。
二人へ飛んできた。
アダムが避ける。
「……何でもない!」
街は。
自らを引き裂いていた。
そして。
そこから数マイル離れた場所では――
キラン・キリアンが。
最高に楽しんでいた。
「**ヒャッホー!**」
レーザーが。
頭の横を駆け抜けた。
キランは。
車椅子を横へ急旋回させる。
ホログラムの攻撃が。
わずか数センチ横を通り過ぎた。
ギアの訓練室を。
二体のホログラム戦闘員が駆け回っている。
どちらも。
戦闘用車椅子を模した機体に乗っていた。
*ピュン! ピュン! ピュン!*
キランが加速する。
新しい車椅子は。
瞬時に反応した。
遅れはない。
旋回も鈍くない。
まるで。
キランの思考と。
直接つながっているかのように動く。
キランが笑う。
「この新しいチェア、最高だ!」
マッハの光るアバターが。
隣に現れた。
「同感です。動きが非常に滑らかです」
また一発。
こちらへ飛んでくる。
「左!」
キランが急旋回。
攻撃を避ける。
照準システムが。
最初のホログラムをロックした。
「捕まえた」
*ズバッ!*
ホログラムの敵が消えた。
キランが反転する。
二体目が。
突進してくる。
車椅子から。
武器が展開した。
キランの笑みが。
さらに大きくなる。
「武器も最高!」
「間違いありません」
発射。
*ズバッ!*
二体目のホログラムも。
消滅した。
静寂。
キランは。
訓練室の中央に浮いていた。
周囲を見回す。
「これで終わり?」
「シミュレーション完了です」
キランは。
ゆっくり床へ降りた。
「まあ、そんなに悪くなかったな」
背後から。
聞き慣れた声。
「二十回も挑戦した後なら、そうでしょうね」
キランが止まった。
ゆっくり。
振り向く。
入口の近くには。
レイモンドとギア。
二人とも。
笑っていた。
キランは。
ホログラム投影装置を指差した。
「新しいホログラムシステムに慣れる必要がなかったら、もっと早くできたかもしれないだろ」
ギアは。
腕を組んだ。
「ホログラムのほうが経済的だからね」
「言い訳だ」
「それに、これならいつでも気を抜けない」
キランは。
自分の足元を見た。
そして。
ギアを見る。
「言葉選びが悪い」
ギアは。
無言で彼を見つめた。
キランが笑う。
マッハが。
即座に割って入った。
「とにかく」
キランが笑った。
「はいはい、とにかく」
新しい車椅子の操作部を。
手で撫でる。
この機体は。
望んでいたもの。
そのすべてだった。
速い。
反応がいい。
装甲も強化。
武装も強化。
この悪夢が始まってから。
初めて。
キランは。
本当に準備ができた気がした。
「新しいチェア、ありがとう。完璧だ」
マッハも。
嬉しそうに頷く。
「本当に素晴らしい仕事です」
ギアが。
得意げに笑った。
「それ以下を期待してた?」
キランの笑顔が消える。
「いい雰囲気を台無しにするな」
レイモンドが笑った。
四人は。
訓練室を出始める。
ギアの表情が。
少し真剣になった。
「とにかく、これならザイラとジャリックが来たときにも対応できると思う」
キランが振り向く。
「“来たとき”?」
「“来たら”じゃない」
ギアは。
歩き続ける。
「それに、今の街の状況を考えれば……」
表情が暗くなる。
「そう遠くない」
キランが眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
その答えを知るのに。
時間はかからなかった。
その後。
キランとマッハは。
シトロン・シティの上空を飛んでいた。
そして。
眼下に広がる光景を見た瞬間。
キランの胃が沈んだ。
焼け焦げたグッズが。
通りに散乱している。
割れた窓のガラスが。
歩道を覆う。
警察のバリケードも。
まだ残っていた。
ザイラとジャリックの顔が描かれていたポスターは。
黒焦げの残骸となり。
ゴミの山に混ざっている。
キランは。
速度を落とした。
「なんてこった……」
二人の正体を暴く必要があった。
それは分かっている。
二人が。
何をしたのかも知っている。
人々が。
真実を知る必要があったことも。
分かっている。
だが。
その結果を。
実際に目にするのは。
まったく違った。
マッハが。
隣に浮かぶ。
「ザイラとジャリックの欺瞞は、暴かれる必要がありました」
「分かってる」
キランは。
眼下の通りを見つめた。
「ただ……生徒たちのことを考えてた」
マッハが彼を見る。
「ザイラとジャリックに憧れてた子が多いんだ」
それこそが。
キランを苦しませていた。
大人なら。
裏切りを理解できる。
理屈をつけることもできる。
憧れていた人間が。
自分の思っていたような人ではなかった。
そう受け入れることもできる。
でも。
子供は違う。
キランの生徒たちの中には。
Wheelersを。
ただの有名人だと思っていなかった者もいる。
彼らは。
ヒーローだった。
自分たちのような人間でも。
特別な存在になれる。
その証明だった。
そして今――
その幻想は。
消えてしまった。
マッハが。
少し近づいた。
「つらいでしょう」
キランが彼を見る。
「ですが、時間が経てば、きっと大丈夫です」
キランには。
そう思えなかった。
マッハが微笑む。
「彼らには、あなたがいますから」
キランが瞬きをした。
「俺?」
マッハが答えるより先に――
*ピッ! ポッ! ポロロン!*
警報が。
キランのディスプレイに表示された。
時間を見る。
目が見開かれる。
「やべ、スナット」
マッハが彼を見る。
キランは。
即座に加速した。
「よし、授業の時間だ……」
車椅子が。
一気に前へ飛び出す。
ソニックブームが。
空を叩いた。
*バンッ!*
そして。
キランは。
学校へ向かって消えていった。




