約束
**現在。**
ザイラは。
自分の部屋に一人で座っていた。
過去は終わった。
ミスター・ウィークスは死んだ。
あの施設も。
もう過去のもの。
母親から引き離された。
あの怯えた少女ではない。
今の彼女は。
大人。
Wheeler。
シトロン・シティのヒーロー。
サヴァントにとって。
最も価値ある戦力の一人。
それなのに――
手の中にあるものを見つめていると。
そのどれにも。
なった気がしなかった。
ロケット。
何年経っても。
まだ持っていた。
指先で。
そっと二つに開く。
中には。
六歳の頃からずっと持ち続けてきた。
あのデジタル写真。
母。
父。
家族。
すべてが変わる。
その前の家族。
ザイラは。
アメルの顔を見つめた。
病院の外に立っていた。
あの日を思い出す。
*ずっと持っていて。*
震えていた母の声が。
まるで昨日聞いたばかりのように。
鮮明に蘇る。
*そして、大きくなったら……戻ってきて、ママを探して。*
そして。
何よりも大切な言葉。
*約束して。*
ザイラは。
約束した。
それなのに――
一度も。
戻らなかった。
母は。
まだ生きているかもしれない。
待っているかもしれない。
何年もの間。
自分たちに何があったのか。
ずっと考え続けていたかもしれない。
それとも――
ジャリックの言う通りなのかもしれない。
もう。
前へ進んだのかもしれない。
忘れてしまったのかもしれない。
最初から。
自分たちに戻ってきてほしいなんて。
思っていなかったのかもしれない。
ザイラは。
ロケットを握る手に力を込めた。
ノックは。
なかった。
ジャリックが。
そのまま入口に現れた。
「おい、何モタモタしてんだ?」
ザイラが振り向く。
ジャリックはニヤリと笑った。
「日が暮れちまうぜ」
ブレイズが。
隣に浮かんでいる。
「燃やすのは俺たちの仕事だろ」
ザイラは。
二人を見つめた。
当然だ。
これから人を殺しに行こうというときでさえ。
この二人は。
炎のジョークを言わずにはいられない。
「今行く」
ジャリックの笑みが。
さらに大きくなった。
興奮を。
ほとんど隠せていない。
「楽しみで仕方ねえ!」
ブレイズも。
同じくらい楽しそうだった。
「ダムスナットの野郎、自分に何が起きたのかも分からねえだろうな!」
ザイラは。
目を伏せた。
「そうね……」
ジャリックが止まった。
興奮が。
消える。
姉の様子が。
おかしい。
そして。
彼女が何を持っているのかに気づいた。
表情が。
一瞬で険しくなる。
「まだそんなくだらねえもん持ってんのか?」
ザイラは。
ロケットを見る。
「ちょっと――」
「いつになったら、その凍りついた頭で理解すんだよ?」
ザイラは黙った。
ジャリックの声が。
鋭くなる。
「あの女は俺たちを捨てたんだ!」
その言葉は。
ザイラが認めたくないほど。
深く突き刺さった。
「俺たちとは、もう何の関わりも持ちたくねえんだよ」
ザイラは。
弟を見つめた。
一瞬。
十二歳の自分に戻った。
訓練室に立って。
六年ぶりに。
弟を見た。
傷だらけ。
火傷だらけ。
変わり果てた姿。
引き離されていた六年間に。
何があったのか。
その出来事は。
ジャリックの身体だけに。
傷を残したわけではない。
彼は。
母を憎んでいる。
あるいは――
母が恋しいと認めるより。
憎むほうが。
楽なのかもしれない。
ザイラは。
言い返したかった。
病院の外での。
あの日を思い出させたかった。
母の涙。
必死な姿。
ロケット。
約束。
だが。
言葉が出なかった。
ジャリックが鼻を鳴らす。
「外で待ってる」
背を向ける。
ブレイズも続いた。
ブリザードが。
二人を睨みつける。
「今のは言いすぎよ」
ブレイズが振り返った。
「うるせえな、氷箱!」
そして。
二人は廊下の向こうへ消えた。
ザイラは。
その場に残った。
無言のまま。
ブリザードが。
そばへ寄る。
「気にしないで」
ザイラは。
ロケットを閉じた。
「別に気にしてない」
ブリザードは。
彼女を知りすぎていた。
そんな言葉を。
信じるはずがない。
それでも。
何も言わなかった。
ザイラは。
ロケットを丁寧にしまった。
誰にも見つからないように。
安全な場所へ。
これまでずっと。
そうしてきたように。
母と。
約束した。
いつか。
その約束に。
まだ意味があるのか。
決めなければならない。
でも。
今日ではない。
今日――
サヴァントから。
命令が下された。
キラン・キリアンを。
殺さなければならない。
ザイラの表情が。
冷たく引き締まった。
娘としての彼女が消える。
怯えていた子供が消える。
姉としての彼女が消える。
残ったのは。
サヴァントが何年もの時間をかけて作り上げた。
兵士だけ。
ザイラは。
ブリザードへ向いた。
「仕事よ」
ブリザードは。
ほんの一瞬だけためらった。
「ええ」
二人は。
部屋を出た。
外では。
すでにジャリックが待っていた。
二人の姿を見るなり。
苛立ちは消え。
期待に満ちた表情へ変わる。
ブレイズのシステムが起動する。
ジャリックが。
推進装置を作動させた。
ザイラも。
同じように起動する。
四つの影が。
空へ飛び出した。
炎と氷。
ブレイズとブリザード。
弟と姉。
ジャリックは。
戦いを待ちきれないように。
先頭を飛んでいく。
ザイラが続く。
その表情は。
冷たい。
何も読み取れない。
だが。
眼下をシトロン・シティが流れていく中――
彼女が考えていたのは。
キランのことではなかった。
少なくとも。
すべてではない。
ほんの一瞬。
しまったはずのロケットの感触が。
まだ手の中にあるような気がした。
そして。
母の声が聞こえた。
*約束して。*
ザイラは。
さらに加速した。
記憶は。
任務の下へ押し込められた。
なぜなら。
シトロン・シティのどこかで――
キラン・キリアンは。
Wheelersが自分を殺しに向かっていることなど。
まだ知る由もなかった。




