サヴァントの使命
サヴァントは。
机の後ろにある巨大なディスプレイへ振り向いた。
シトロン・シティの地図が表示される。
ザイラは。
すぐにその色に気づいた。
緑。
赤。
街の各区域が。
二つの色に分けられている。
サヴァントが画面を示した。
「これが、現在の作戦の進行状況だ」
緑色の区域を指す。
「緑は私の支配地域……」
次に。
赤。
「……赤は、私の敵対勢力が支配している地域だ」
ザイラは地図を観察した。
緑より。
赤のほうが圧倒的に多い。
サヴァントは。
それが気に入らないようだった。
「見ての通り、現状は私に有利とは言えない」
ザイラは黙っていた。
ジャリックは違った。
身を乗り出す。
興味津々。
むしろ。
ワクワクしているようにさえ見えた。
サヴァントが笑う。
「そこで、お前たちの出番だ」
ジャリックの笑みが広がった。
「そいつは気に入ったぜ」
ザイラが。
弟をちらりと見る。
もちろん。
そうだろう。
サヴァントが欲しいのは。
兵士。
そして。
六年間引き離された結果――
どうやら。
まったく異なる二人の兵士が完成していた。
その後に始まったのは。
任務などではなかった。
戦争だった。
ザイラとジャリックは。
サヴァントの敵対勢力へ解き放たれた。
ギャングのアジト。
犯罪組織。
縄張り。
次から次へと。
ジャリックは。
山火事のように襲いかかった。
ブレイズと共に。
無謀とすら思えるほどの勢いで敵を蹂躙していく。
炎が戦場を駆け抜ける。
ギャングたちが逃げ惑う。
武器が溶ける。
防衛線が崩壊する。
そしてジャリックは。
そのほとんどを。
笑いながらやっていた。
ザイラは違う。
観察する。
計算する。
計画する。
そして。
攻撃する。
氷結ビームで武器を無力化。
逃走経路を氷の壁で塞ぐ。
敵は。
ザイラが自分たちの行動を予測していたことに気づくより先に。
罠へ追い込まれていた。
炎と氷。
混沌と計算。
一つの武器を構成する。
二つの半身。
サヴァントの観察室では。
ミスター・ウィークスが。
二人の進捗を見守っていた。
地図には。
まだ緑より赤のほうが多い。
だが。
それも長くは続かない。
ウィークスが雇い主を見る。
「一つ、質問してもよろしいでしょうか?」
サヴァントは。
ほとんど彼を見なかった。
「どうしてもというなら」
ウィークスはモニターへ向いた。
「なぜ、二人を別々に訓練したのです?」
サヴァントが。
わずかに笑った。
誰かが聞くのを。
待っていたかのように。
「コンビというものは、同じコインの表と裏であってこそ最大の力を発揮する」
**1年後。**
ザイラとジャリックは。
また別のギャングを襲撃していた。
敵は。
持てる火力のすべてをぶつけてきた。
意味はなかった。
ジャリックが。
敵の防衛線を焼き払う。
ザイラが。
敵の戦略を解体する。
サヴァントは見ていた。
自分は正しかった。
二人を引き離しても。
絆が弱まることはなかった。
むしろ。
片方に邪魔されることなく。
それぞれを思い通りの人間へ作り変えることができた。
ジャリックは。
攻撃性となった。
ザイラは。
冷静さとなった。
ジャリックは。
行動する。
ザイラは。
考える。
ジャリックは。
障害を破壊する。
ザイラは。
どの障害を破壊すべきかを見極める。
**2年後。**
ザイラは。
また別の戦場を進んでいた。
さらに成長し。
経験を積み。
さらに危険な存在になっていた。
レーザーが。
周囲を飛び交う。
パニックにはならない。
分析する。
正面に三人。
上に一人。
遮蔽物の後ろに二人。
最大の脅威は。
上。
撃つ。
**シュイィィッ!**
高所にいた銃撃手が。
氷に飲み込まれた。
次の一撃で。
逃走経路を封鎖。
三発目で。
最も近くにいたギャングの武器を凍らせる。
数秒後――
戦いは。
事実上終わっていた。
記憶の中に。
サヴァントの声が響く。
「ザイラは冷静で計算高い。どんな状況でも戦略を組み立て、突破することができる」
別の場所では――
ジャリックが。
自分の敵と向き合っていた。
彼は。
ザイラほど考えない。
考える必要も。
なかった。
ブレイズが。
隣でニヤリと笑う。
ジャリックが武器を構えた。
「準備は?」
「いつでも」
炎が噴き出した。
敵の陣地が。
業火に飲み込まれる。
ジャリックが笑う。
サヴァントの声が続いた。
「ジャリックはチームの炎だ。情熱的で、必要とあらばどんな手段でも取る」
年月が過ぎていく。
赤い区域が。
消えていく。
緑が。
地図を侵食していく。
一区画ずつ。
一地区ずつ。
一作戦ずつ。
そしてついに。
サヴァントは。
ほぼすべてを支配した。
ミスター・ウィークスは。
画面を見つめた。
「次は?」
サヴァントが笑う。
「これで、計画はほぼ完成だ」
だが。
犯罪社会を征服するだけでは。
足りなかった。
それを支配する者たちが。
市民から憎まれていては。
権力など。
大した意味を持たない。
だから――
**3年後。**
ザイラとジャリックは。
何千人もの市民の前に立っていた。
歓声が響き渡る。
市長が。
二人へ歩み寄る。
その手には――
シトロン・シティの鍵。
群衆が沸き上がった。
ブリザードのグッズを身につけた人々。
ブレイズのグッズを身につけた人々。
子供たちは。
双子の姿が描かれた看板を掲げている。
カメラのフラッシュが瞬く。
ザイラが笑顔を見せる。
ジャリックが手を振る。
シトロン・シティの人々にとって――
二人は。
ヒーローだった。
守護者。
英雄。
サヴァントのために。
二人が奪った縄張りを知る者はいない。
彼の命令で。
襲撃した犯罪者たちのことも。
施設も。
罰も。
調整も。
誰も知らない。
人々が見ていたのは。
自らの境遇を乗り越え。
街を守るために立ち上がった。
二人の障害を持つヒーロー。
それこそ。
サヴァントが。
人々に見せたかったものだった。
「物語を支配するのだ」
ミスター・ウィークスは。
祝福される二人を見つめた。
「その後は?」
地図は。
ほぼ完全に緑へ染まっていた。
残っている赤は。
小さな島のような区域だけ。
サヴァントは。
それを見つめた。
「そして……」
笑みが大きくなる。
「……最後に、もう一つだけやることがある」
**5年後。**
サヴァントのオフィスは。
すっかり変わっていた。
安物の家具は消えた。
机は高級品。
コンピューターシステムは。
最新鋭。
ミスター・ウィークスでさえ。
仕立てのいいスーツを着ていた。
成功は。
彼らに多くをもたらしていた。
サヴァントは。
窓のそばに立っていた。
眼下には。
シトロン・シティが広がる。
彼の街。
もう少しで。
完全に。
「そのためには、お前の協力が必要になる」
ウィークスが彼を見る。
「何をすれば?」
サヴァントが笑う。
「そのうち分かる」
さらに。
年月が過ぎた。
そしてついに――
大人になったザイラとジャリックが。
サヴァントの前にいた。
もう。
怯えた子供ではない。
未熟な訓練生でもない。
二人は。
高性能の戦闘用車椅子に座っている。
ブリザードとブレイズが。
それぞれの隣にいる。
二人の表情は。
規律正しく。
集中していた。
サヴァントは。
誇らしげに二人を見た。
「お前たちは、私の期待をはるかに超えてくれた」
ザイラは。
動かない。
ジャリックは。
わずかに笑った。
「今や、お前たちは間違いなく私の最も価値ある戦力だ」
サヴァントが立ち上がる。
「そこで……」
一見。
何の変哲もない壁へ近づく。
「……褒美として、二人にちょっとしたサプライズを用意した」
隠された機構を作動させる。
**カチッ。**
壁の一部が。
横へ滑った。
秘密の通路が現れる。
ジャリックが眉を上げる。
ザイラは。
その先の暗闇を観察した。
サヴァントが中を示す。
「その先のドアだ」
二人は。
彼についていった。
通路の先には。
別の部屋。
ザイラが最初に入る。
そして。
止まった。
ジャリックも。
隣で止まる。
ブリザードとブレイズも。
凍りついた。
一人の男が。
椅子に縛られている。
両手を拘束。
両脚も固定。
口には。
ダクトテープ。
頭の傷から。
血が流れている。
ミスター・ウィークス。
二人を見た瞬間。
彼の目が見開かれた。
「んんっ!」
ザイラは。
彼を見つめた。
何年もの年月。
何度もの罰。
電撃。
痣。
身体へ叩き込まれた。
すべての教訓。
あれほど恐ろしかったミスター・ウィークスが。
今は。
小さく見えた。
無力。
怯えている。
サヴァントが。
二人の後ろから部屋へ入った。
「ミスター・ウィークスは、もう用済みだ」
ウィークスが拘束に抗う。
「んんんっ!」
サヴァントが笑う。
「彼との関係は……」
わざと。
言葉を切った。
「……控えめに言っても、良好とは言えないだろう?」
ザイラの表情が強張る。
「だからこそ……最後の一撃は、お前たち自身の手で下したいと思うのではないかと考えてな」
ジャリックの表情が変わった。
怒りが。
瞬時に浮かび上がる。
何年もの年月。
引き離されていた間。
彼に何が起きたのか。
あの火傷が。
なぜできたのか。
そのすべてに――
ウィークスが関わっていた。
サヴァントは。
両手を背中へ回した。
「卒業祝いだと思え」
ジャリックが。
姉を見る。
その目には。
興奮すら浮かんでいた。
「姉ちゃん、バーベキューでもする?」
ザイラは。
ウィークスを見つめた。
八歳だった頃を。
思い出した。
詩の一節を。
忘れた。
電撃。
痛み。
怒鳴り声――
*細部がすべてだ!*
すべての痣を覚えている。
すべての罰を。
彼を恐れた。
すべての瞬間を。
この男は。
何年も。
二人を苦しめ続けた。
それなのに――
無力になった彼を目の前にしても。
想像していたような気持ちには。
ならなかった。
ザイラはためらった。
そして――
「……そうね」
ブレイズの武器が起動する。
ブラスターの先に。
小さな炎が灯った。
ウィークスの全身が震える。
「んんっ!」
ジャリックは。
彼を見つめた。
慈悲はない。
迷いもない。
ブレイズが撃った。
炎が。
ウィークスを包み込む。
くぐもった悲鳴が。
部屋に響いた。
「んんんんんんんんっ!!!」
ザイラは。
思わず身体を震わせた。
一瞬――
見ることができなかった。
ジャリックは。
目を逸らさなかった。
サヴァントも。
彼は。
すべてを見ていた。
笑いながら。
やがて。
炎が消えた。
静寂が戻る。
ザイラは。
残されたものを見つめた。
ウィークスには。
罰を受けてほしかった。
憎んでいた。
でも。
これは――
これは。
何かが違った。
サヴァントが双子の間へ入り。
それぞれの肩へ手を置いた。
「よろしい」
ジャリックから。
ザイラを見る。
「満足したか?」
最初に答えたのは。
ジャリック。
「ああ」
ザイラは。
黙っていた。
サヴァントは。
気にも留めない。
「では……」
二人の肩から。
手を離す。
「……仕事に戻れ」
それだけだった。
二人の卒業は。
終わった。
ミスター・ウィークスは。
何年もの時間をかけ。
ザイラとジャリックを。
サヴァントの完璧な武器へ育て上げた。
そして。
彼が教えた最後の教訓は。
とても単純だった。
サヴァントへ忠実に仕えた人間でさえ――
使い捨てにされる。




