姉弟対決
「ジャリック?」
ザイラは。
自分の口からその名前が出たことすら信じられなかった。
六年。
弟がロボットたちに連れ去られるのを見てから。
六年。
自分の名前を叫ぶ弟の声を聞いてから。
六年。
生きているのかさえ分からないまま。
ずっと考え続けてきた。
そして今――
その弟が。
目の前にいる。
成長して。
傷だらけで。
火傷を負って。
怒りに満ちている。
でも。
生きている。
ザイラが前へ進んだ。
「ジャリック、待って! 私よ、ザイラ!」
彼のブラスターから炎が噴き出した。
**ゴオオオッ!**
ザイラの目が見開かれる。
「えっ!?」
咄嗟に横へ飛ぶ。
炎は。
ギリギリで彼女を外れた。
熱気が顔を撫でる。
ザイラは振り返った。
「ジャリック!」
弟が。
こちらを見返す。
「知ってる」
ザイラが固まった。
その答えは。
攻撃されたことよりも痛かった。
誰なのか。
ちゃんと分かっていた。
それでも。
撃った。
ジャリックのブラスターに。
再び炎が集まり始める。
「ほら!」
顔に笑みが広がった。
「何年も訓練してきたんだぞ! そこでボーッとしてるだけじゃつまんねえだろ!」
また炎が放たれた。
ザイラが避ける。
「やめて!」
ジャリックは撃ち続ける。
ザイラは。
攻撃の間を縫うように動いた。
左。
右。
上。
それでも。
反撃だけはしなかった。
「私はあなたとは戦わない、ジャリック!」
「俺は別にいいぜ!」
ジャリックの笑みが大きくなる。
「そこでじっとして溶けてろ!」
両方のブラスターを構える。
そのとき――
**シュイィィッ!**
大量の氷結ビームが。
ザイラの横を通り抜けた。
ジャリックの目が見開かれる。
すぐに位置を変える。
周囲で。
氷が爆発した。
ザイラがブリザードへ振り向く。
「何してるの!?」
ブリザードは。
ジャリックから目を離さない。
「この状況から抜け出すには、反撃するしかないわ」
ザイラは首を振った。
「弟とは戦わない」
「なら戦わなくていい」
ブリザードが。
次の攻撃を準備する。
「私が全部やる。ミスター・ウィークスを怒らせないために」
ザイラがためらった。
その名前が。
すべてを変えた。
ミスター・ウィークス。
電撃。
罰。
訓練。
失敗には。
必ず代償がある。
そう。
何度も。
何度も。
身体に叩き込まれた。
ザイラは。
再びジャリックを見る。
彼はすでに。
次の攻撃を溜めていた。
戦いたくない。
でも。
どうやら――
ジャリックのほうには。
そんな迷いはないらしい。
**ヒュオオオッ!**
炎が空気を切り裂いた。
ブリザードが迎撃する。
**ガキィィン!**
氷と炎が激突した。
訓練室が。
蒸気に包まれる。
ジャリックが上昇した。
ブレイズも続く。
ブリザードが追いかける。
二体のVentが。
互いに攻撃を放った。
炎。
氷。
炎。
氷。
ザイラは。
必死に状況を制御しようとした。
だが。
やがて――
自分の武器まで。
戦いに加わった。
ジャリックが撃つ。
ザイラが迎撃する。
二つの攻撃が。
訓練室の中央で衝突した。
**ゴゴゴゴゴッ!**
どちらも。
押し切れない。
炎が氷を押す。
氷が炎を押し返す。
ザイラは歯を食いしばった。
ジャリックは――
笑っていた。
楽しんでいる。
「そうこなくっちゃ!」
ザイラは弟を見つめた。
*あなたに……何があったの?*
そのとき。
訓練室に声が轟いた。
「**そこまでだ!**」
攻撃が止まる。
拮抗していた二つの力も。
消えた。
ザイラはすぐに武器を下ろした。
安堵が全身を包む。
ジャリックは不満そうに呻いた。
「えーっ! もう終わりかよ?」
ブレイズも。
同じくらい不満そうだった。
「やっと体が温まってきたところなのに!」
電子音声が答える。
「落ち着け、ブレイズ。お前にもいずれ機会はある」
ジャリックが高度を下げる。
そして――
ついさっきまで。
姉を焼き殺そうとしていたとは思えないほど。
普通に笑った。
「ま、仕方ねえな。俺たちのちょっとした……」
その笑みが。
不気味なものへ変わる。
「……スパーリングの続きは、また今度ってことで」
ザイラは。
弟を見つめた。
すると。
ジャリックの態度が。
一変した。
「それよりさ……」
明るく笑う。
「元気だったか、姉ちゃん?」
一拍。
「久しぶり!」
ザイラは。
何と答えればいいのか分からなかった。
ブリザードも。
同じだった。
観察室では。
ミスター・ウィークスとサヴァントが。
その様子を見続けていた。
サヴァントは。
感心したようだった。
「見事だ、ミスター・ウィークス」
ウィークスが頷く。
「ありがとうございます、サー」
サヴァントは。
モニターに映る双子を見つめた。
二人の子供。
引き離した。
調整した。
鍛えた。
変えた。
そして。
今。
再会させた。
すべて。
計画通りに。
「そろそろ、顔合わせといこうか」
その後。
ザイラとジャリックは。
ラウンジで一緒に座っていた。
周囲にはテーブル。
軽食や飲み物まで用意されている。
ついさっきまでの出来事を考えると。
この穏やかな光景は。
異様だった。
ザイラは弟を見つめる。
ジャリックは。
まるで午後いっぱい一緒に遊んでいただけのように。
気楽にくつろいでいた。
互いを吹き飛ばそうとしていたわけではない。
と言わんばかりに。
ブレイズが彼の隣に浮かぶ。
ブリザードは。
ザイラのそばを離れない。
そして――
ザイラは。
六年間ずっと聞きたかった質問を口にした。
「それで……この六年間、どこにいたの?」
ジャリックは。
迷いなく答えた。
「俺?」
ニヤリと笑う。
「バハマでバカンス」
ザイラは。
無言で見つめた。
ジャリックは続ける。
「最高にヤバい波にも乗ったぜ」
ザイラの視線が。
弟の顔へ移る。
傷跡。
火傷。
隠せるようなものではない。
皮膚のあちこちに。
はっきり残っている。
ザイラは。
それを見つめた。
「その火傷は?」
ジャリックが目を逸らす。
「日焼け」
ザイラの表情が険しくなる。
嘘。
あまりにも。
分かりやすい嘘。
ジャリックは。
すぐに話題を変えた。
「それより……」
隣にいるVentを示す。
「俺の相棒、ブレイズを紹介するぜ」
ブレイズが近づく。
「よっ、ベイビー」
ブリザードが。
即座に引いた。
「最低」
ブレイズはニヤついた。
ザイラも。
ほんの少し。
笑いそうになった。
ほんの少しだけ。
今度は。
ジャリックが彼女を見る。
「で、姉ちゃんは何してたんだ?」
ザイラの答えは。
ずっと地味だった。
「読書。勉強。訓練」
肩をすくめる。
「それくらい」
ジャリックが頷いた。
だが。
ザイラの話は終わっていなかった。
「本当は何があったの?」
ジャリックの笑みが弱くなる。
「どこにいたの?」
弟は。
目を合わせない。
「本当は何をしてたの?」
沈黙。
ザイラは。
慎重に弟を観察した。
あの火傷は。
バカンスでできたものではない。
あの傷も。
サーフィンでできたものではない。
そして。
何があったにせよ――
ジャリックは。
話したくないのだ。
「久しぶりに会えたんだ」
ようやく。
ジャリックが彼女を見る。
「台無しにするのはやめようぜ」
再会してから初めて。
その声が。
少しだけ。
本心から出たものに聞こえた。
「頼むよ」
ザイラは。
もっと聞きたかった。
答えが欲しかった。
だが。
ジャリックの表情に浮かんだ何かが。
彼女を止めた。
恐怖?
痛み?
恥?
分からない。
そのとき――
ドアが開いた。
ミスター・ウィークスが入ってくる。
ザイラは。
即座に姿勢を正した。
ジャリックの表情も変わる。
ブレイズさえ。
わずかに落ち着きを失った。
ウィークスが。
二人の前で止まる。
「ボスがお呼びだ」
ザイラが眉をひそめた。
「ボス?」
数分後。
双子は。
あるオフィスへ入った。
机の向こうには。
サヴァントが座っている。
見た目だけなら。
特に恐ろしい男には見えなかった。
巨大な鎧もない。
派手な武器もない。
怪物のような外見でもない。
ただ。
机の向こうに座る。
一人の男。
ミスター・ウィークスが。
ドアを閉めた。
サヴァントが微笑む。
「ようやく会えたな」
ザイラは。
警戒したままだった。
「長い年月を経て、お前たちが成長していく姿を見るのは実に興味深かった」
ザイラの目が細くなる。
「私たちを……見てたの?」
「一歩残らずな」
背筋に。
冷たいものが走った。
サヴァントの視線が。
ブリザードとブレイズへ移る。
「Ventたちとの関係はどうだ?」
笑みを浮かべる。
「いい子にしているか?」
ザイラは。
ブリザードをちらりと見た。
「すごく良くしてくれてます」
「それは何よりだ」
ジャリックが身を乗り出した。
「それで、俺たちは何でここに? ミスター……?」
男が笑った。
「サヴァントと呼べ」
ザイラは。
何も言わなかった。
ただ。
見ていた。
分析していた。
*細部がすべて。*
嫌というほど。
痛みとともに叩き込まれた教訓。
そして今――
彼女の本能すべてが。
こう告げていた。
この男こそが。
この部屋で最も重要な“細部”だと。




