サヴァント
サヴァントは通話を切った。
画面が暗くなる。
数秒間――
誰も口を開かなかった。
ザイラはオフィスの片側で静かに座っていた。
その隣にはジャリック。
二人の後ろでは、ブリザードとブレイズも珍しく黙っている。
あのジャリックでさえ。
気の利いたことを何一つ言わなかった。
それだけで。
すべてを物語っていた。
サヴァントはゆっくりと携帯端末を机の上へ置いた。
二人を見る。
冷静。
完全に冷静。
だからこそ。
余計に恐ろしかった。
ザイラとしては。
怒鳴られたほうがまだマシだった。
ジャリックなら。
壁を突き破るほど投げ飛ばされたほうがマシだと思ったかもしれない。
あの視線よりは。
何だってマシだった。
やがて――
サヴァントが口を開いた。
「忠誠」
一言。
それだけ。
その言葉を。
しばらく空気の中に漂わせる。
そして身を乗り出した。
「お前たちは、この言葉の意味を知っているか?」
誰も答えない。
サヴァントは続けた。
「強い支持、あるいは忠義の心」
声は静かなまま。
抑制されている。
「私がお前たちに叩き込もうとしてきた資質だ」
ザイラは目を伏せた。
ジャリックは居心地悪そうに身体を動かす。
ブレイズは黙ったまま。
ブリザードも同じだった。
サヴァントの手が。
近くにあった椅子の背もたれへ置かれる。
まるで何でもないように。
ようやくジャリックが口を開いた。
「そうです、ボス」
何か言わなければならなかった。
何でもいい。
そして。
責任を押しつけられる相手は一人しかいなかった。
「全部失敗したのは、あのダムスナットのせいです」
サヴァントは彼を見つめた。
ジャリックは続ける。
「あいつがネオンを尾行した」
ザイラが彼を見る。
「警察まで巻き込んだ」
サヴァントは黙っている。
ジャリックは。
必死に自分を正当化し始めた。
「あいつが邪魔しなきゃ、こんなことにはならなかった」
しばらく――
サヴァントは。
その言葉を考えているように見えた。
そして――
「確かに、その通りかもしれんな」
ジャリックが瞬きをした。
ザイラまで驚いた顔をする。
サヴァントはゆっくり立ち上がった。
「今や世間の前で、お前たちは堂々と名を轟かせている……」
椅子を掴む指に。
力が入った。
ジャリックの表情が変わる。
何かがおかしいと気づいた時には。
もう遅かった。
非常に。
マズかった。
サヴァントが椅子を持ち上げる。
「……**偽者としてな!**」
そのまま投げつけた。
ザイラの目が見開かれる。
「避けて!」
彼女とジャリックが身を伏せる。
**ガシャァァン!**
椅子が二人の頭上を飛び。
壁へ激突して砕け散った。
ブレイズがのけぞる。
ブリザードは固まった。
ジャリックは。
壊れた椅子を見つめる。
誰も動かなかった。
サヴァントが両手を机へ叩きつける。
**バン!**
「私の前から消えろ!」
先ほどまでの冷静さは。
完全に消えていた。
怒りで顔が歪んでいる。
ザイラは即座に頭を下げた。
「はい、ボス」
ジャリックは歯を食いしばった。
そして。
サヴァントは。
すべてを変える言葉を告げた。
「そして戻ってくるな……」
二人を睨みつける。
「……この“ダムスナット”を殺すまでは!」
沈黙。
ザイラの胃が沈んだ。
ジャリックはサヴァントを見つめた。
曖昧なところなど。
一つもなかった。
警告ではない。
服従させるための脅しでもない。
命令。
キランを殺せ。
さもなくば。
戻ってくるな。
ザイラとジャリックは。
同時に答えた。
「はい、ボス」
それ以上。
二人は何も言わなかった。
振り返る。
そして。
部屋を出た。
背後でオフィスの扉が閉じる。
その先の廊下は。
暗い。
静かだった。
ジャリックは即座に加速した。
ザイラが追う。
「ジャリック、待って」
止まらない。
「ジャリック!」
ザイラが追いつく。
「行動する前に、ちゃんと考えないと」
ジャリックがようやく彼女を見る。
表情は。
恐ろしいほど真剣だった。
「何を考えるんだ?」
ザイラは。
その答えが気に入らなかった。
まったく。
ジャリックは再び前を向く。
「ボスがダムスナットを殺せって言うなら……」
車椅子の操作部を握る手に。
力が入る。
「……あいつは死ぬ」
ブレイズは彼の隣にいる。
珍しく。
彼でさえ冗談を言わなかった。
ザイラは。
必死に言葉を探した。
弟のことは分かっている。
ジャリックが一度やると決めたら――
止めるのは。
ほとんど不可能。
「ジャリック、今すぐ襲いに行くわけにはいかない」
「なんで?」
「だって――」
ザイラはためらった。
彼が納得する理由が必要だった。
そこで。
ブリザードが口を開いた。
「正体が露見した今、当局は私たちを捜索しているはずです」
ジャリックの速度が落ちた。
ほんの少し。
ブリザードは続ける。
「何の準備もなく再び攻撃すれば、さらに注目を集めます」
ザイラはすぐにその機会を掴んだ。
「そういうこと」
弟の隣へ並ぶ。
「一日だけちょうだい。ちゃんと使える作戦を考えるから」
ジャリックが彼女を見る。
ザイラはその視線を逸らさなかった。
一日。
求めているのは。
それだけ。
考えるための一日。
これからどうするのか。
答えを出すための一日。
弟が。
キラン・キリアンを殺そうとする前の。
最後の一日。
ジャリックは目を逸らした。
廊下が。
暗闇の先まで続いている。
やがて――
「分かった」
ザイラは静かに息を吐いた。
ブリザードも緊張を解く。
だが。
ジャリックは続けた。
「でも、次に外へ出たら……」
表情が険しくなる。
「……あいつは俺が殺す」
ザイラはためらった。
そして。
頷く。
「分かった」
ジャリックは廊下の先へ加速していった。
ブレイズも続く。
ザイラは。
その場に少しだけ残った。
暗闇の中へ消えていく弟を見つめる。
サヴァントから。
命令が下された。
キラン・キリアンは。
死ななければならない。
そしてなぜか――
ジャリックにその機会が訪れる前に。
ザイラは。
自分がどうするのか。
答えを出さなければならなかった。




