C.C.P.D.
**ドガッ!**
配達員は壁へ激突した。
背後には、うっすらと衝突痕まで残った。
「いってぇ!」
そのまま床へ崩れ落ちる。
出口との間には、レイモンドが立っていた。
近くにはキランとマッハ。
その後ろにはダレンがいた。
今日の午後が。
ネオン・サーカスの売買から。
ギャング同士の銃撃戦に巻き込まれるところまで発展したことに。
ますます理解が追いついていない顔をしている。
キランが近づいた。
時間を無駄にはできない。
「武器を送ってるのは誰?」
配達員は彼らを見回した。
「知らない! 俺はただの運転手だ。本当だ!」
キランは彼を見つめた。
その答えはおかしい。
「誰の仕事かも知らないのに、何も考えずに引き受けたの?」
配達員の表情が変わった。
恐怖。
本物の恐怖。
「何も言えない」
声を落とす。
「喋ったら、あいつに殺される」
レイモンドが眉を上げた。
それは興味深い。
非常に。
彼は配達員を掴み上げた。
「つまり、“男”なんだな」
配達員はすぐに自分の失言に気づいた。
レイモンドが顔を近づける。
「いいね」
目を細める。
「他には?」
「頼む……」
配達員は口を閉ざしたままだった。
キランは注意深く彼を見た。
武器密輸の背後にいる人物は。
この男を完全に怯えさせている。
見知らぬ連中に捕まって。
壁へ叩きつけられても――
それでも喋らないほど。
キランが別の方法を試そうとした、その時――
「そいつを下ろせ!」
全員が固まった。
キランはゆっくりと入口へ振り向いた。
心臓が沈んだ。
警察官がアジトを取り囲んでいた。
大量の警察官。
未来的なブラスターが。
すべてこちらへ向けられている。
外では赤と青のライトが点滅し。
その光が建物の中へ差し込み。
ネオンたちの装飾へ反射していた。
警官たちの中央には。
車椅子に乗った男がいた。
四十代くらい。
険しい表情。
武器を構えている。
その隣には彼のVent――
パトロール。
そして。
今こちらへ向けられている武器の数を見る限り――
パトロールに話し合うつもりはなかった。
レイモンドはまだ配達員を持ち上げていた。
警官が睨む。
「耳が聞こえないのか!?」
レイモンドはゆっくりキランを見る。
キランが小さく頷いた。
この男を試すのは。
たぶんやめたほうがいい。
「下ろせ。でなきゃ、お前を落とす」
レイモンドは配達員を放した。
**ドサッ!**
「いてぇ……」
パトロールが前へ出た。
「C.C.P.D.だ! 全員逮捕する!」
マッハの表情が落ちた。
「……これは困りましたね」
キランは警察を見る。
気絶しているネオンたちを見る。
破壊されたアジトを見る。
ボロボロになったレイモンドのバトルスーツを見る。
床に転がる配達員を見る。
客観的に考えれば――
確かに。
かなりマズい絵面だった。
「分かった」
キランは両手を上げた。
「説明できる」
誰一人。
武器を下ろさなかった。
当然である。
その後すぐ。
アジトは完全な警察現場へ変わった。
ネオンたちは拘束され。
建物の外へ連れ出されていく。
武器が回収される。
木箱が一つずつ記録される。
警官たちがあちこちを行き来する。
グロウスティックも拘束された。
ウルトラヴァイオレットも捕まった。
レイモンドは壊れたスーツから引き離された。
そしてなぜか――
キラン。
マッハ。
レイモンド。
ダレンまで。
全員まとめて連れていかれることになった。
その混乱を。
近くのビルの屋上から二人が見下ろしていた。
ザイラ。
ジャリック。
二人の表情は。
まったく正反対だった。
ザイラは静かに現場を見ている。
分析し。
考えている。
一方ジャリックは。
今にも爆発しそうだった。
「最高だな!」
警官たちが武器を運び出していくのを見る。
「これで警察はボスの武器庫を好き放題調べられるってわけだ!」
ブレイズは隣に浮かびながら。
同じ苛立ちを共有していた。
ジャリックは拳を握った。
「クソッ、あのダムスナットはいつも邪魔ばっかりしやがる!」
ザイラはその悪口を無視した。
箱のほうを見る。
「武器の箱には出所を示す識別表示がありません」
ジャリックが彼女を見る。
「論理的に考えれば、ボスまで辿り着く方法はありません」
「そんなの関係あるかよ」
ジャリックの怒りが。
突然消えた。
代わりに現れたのは。
もっと冷たい感情。
恐怖。
「どうせ俺たちが罰を受ける」
ザイラが彼を見る。
「そうとは限らない」
ジャリックの目が鋭くなる。
「お前より俺のほうが分かってる」
しばらく。
ザイラは何も言わなかった。
彼が何を意味しているのか。
分かっていた。
そして。
気に入らなかった。
その時。
下の動きが目に入る。
配達員。
警察官たちが。
未来的なパトカーへ彼を連れていこうとしていた。
ザイラの意識が一気に集中する。
「問題が発生しました」
ジャリックも視線を追った。
「武器輸送車の運転手が警察に拘束されたようです」
ジャリックは見つめた。
そして。
ゆっくり頭を垂れた。
「このクラスター・フラック、どんどん最高になってくるな」
姉へ振り向く。
「お前のご立派なブルスナット理論はどこ行った?」
ブリザードもとうとう我慢の限界だった。
「言い争いはやめるべきです。何の解決にもなりません」
ブレイズが彼女へ食ってかかる。
「黙れ!」
ジャリックは二体のVentを見る。
「いや、ブレイズ」
ブレイズが黙る。
「こいつの言う通りだ」
ジャリックはその場を離れ始めた。
「こんな馬鹿どもに付き合ってられねぇ」
ザイラが彼を見る。
「ジャリック?」
彼は止まらない。
「この失敗を片づけてくる」
「どうやって?」
ジャリックは答えなかった。
推進システムが起動する。
ブレイズも続く。
数秒後。
二人は屋上から飛び立った。
「長い夜になりそうだな、ブレイズ」
ジャリックは夜景の中を加速した。
「何をしなきゃならなくても構わねぇ……」
表情が。
殺気を帯びる。
「……あの運転手の配達は、今夜が最後だ!」
ブレイズが笑った。
「おお、そういう物騒な喋り方、大好きだぜ」
屋上では。
ブリザードが二人の姿が消えていくのを見ていた。
「本当に、あの人はいずれ私たちを破滅させます」
ザイラがため息をつく。
「間違いなくね」
ブリザードは。
ジャリックが残した光の軌跡を見つめた。
「二人とも感情的になりすぎています」
ザイラを見る。
「このままでは正体が露見します」
ザイラの表情が暗くなる。
「私もそれを恐れてる」
手が。
首にかかった未来的なロケットへ伸びた。
一瞬だけ。
それを握る。
そして。
放した。
ジャリックにどんな個人的感情を抱いていようと――
今は。
邪魔をさせるわけにはいかない。
「行こう」
ザイラが車椅子を起動する。
「後始末をしないと」
ブリザードが少し迷う。
「彼が家族だということを、忘れなければならないかもしれません」
ザイラは弟が飛んでいった方向を見た。
その表情からは。
何も読み取れなかった。
「分かってる」
そして。
二人も空へ飛び立った。
C.C.P.D.署では。
キランが。
逮捕されることよりも最悪なことを知った。
それは。
自分をすでにウザいと思っている人間に逮捕されること。
「ちょっと!」
キランは拘置セルの透明な仕切りの向こうに座っていた。
後ろのベンチには。
レイモンドとダレン。
レイモンドは装甲をすべて外され。
その下に着ていた戦術用ジャンプスーツだけになっている。
マッハはキランのそばにいた。
セルの外では。
先ほどの車椅子の警官が。
パトロールと一緒にタブレットを確認していた。
キランは仕切りへ近づく。
「本当にこれ必要?」
返事はない。
「僕が通報したんだけど」
警官は顔すら上げなかった。
「黙れ」
キランは彼を見つめた。
*へえ。*
感じいいな。
マッハがパトロールへ近づいた。
「状況の論理性くらいは理解できるでしょう、ええと……パトロール」
パトロールは得意げな顔をした。
「罪を犯せば、罰を受ける」
ニヤリと笑う。
「これで十分論理的だろ?」
キランの口が開いた。
「罪?」
今度こそ。
本当に腹が立った。
「何の罪?」
警官がようやくキランを見る。
「凶器を使った暴行」
指を一本立てる。
「器物損壊」
もう一本。
「不法侵入」
さらに一本。
「無断立ち入り」
肩をすくめる。
「好きなの選べ」
キランは呆然とした。
「何かの間違いでしょ」
パトロールの笑みが広がる。
「へえ?」
細い機械の腕が一本伸びた。
スマートフォンが現れる。
キランは即座に嫌な予感がした。
そしてパトロールが。
画面をこちらへ向ける。
キランの魂が。
再び身体から抜けた。
Filmplexの動画。
ザイラとジャリックとの戦い。
しかも今は――
再生回数が。
百万人を超えていた。
パトロールは心底楽しそうだった。
「残念だったな。有名人に会えるなんて滅多にないからな」
さらに近づく。
「サインしてくれる?」
キランは目を閉じた。
もちろん。
警察まで見ていた。
ベンチでは。
レイモンドが首を振った。
「無駄だ、キラン」
背もたれに寄りかかる。
「こいつらの考えは変わらない」
警官が彼へ振り向く。
「お前のことも忘れてないぞ、サンシャイン」
レイモンドの表情は。
完全に無だった。
「お前のブリキ缶も調べさせてもらった」
警官が笑う。
「バーナーで切り刻むのが楽しみだ」
レイモンドは何も言わなかった。
たぶん。
今日一日で誰かがした判断の中で。
最も賢い。
事態がさらに悪化する前に。
別の男が近づいてきた。
年上。
五十代くらい。
落ち着いている。
穏やかそう。
そして何より――
いきなり誰かを侮辱していない。
「力を抜け、ヘンリー巡査」
なるほど。
名前は。
アダム・ヘンリー。
刑事が続ける。
「取調室3へ来てくれ」
アダムが彼を見る。
「これから一番重要な客を取り調べる」
「はい、刑事」
アダムはキランへ視線を向けた。
「拘留者からサインをもらおうとしていました」
キランは無言で見返した。
アダムとパトロールが去っていく。
キランは二人を見送った。
そして。
刑事を見る。
「あの二人、いつもあんなに感じいいんですか?」
刑事が笑った。
「ヘンリー巡査とパトロールは、時々少し熱が入りすぎるんだ」
*そういう言い方もあるね。*
「だが、仕事への情熱はある。そこは評価してる」
刑事が手を差し出した。
「ジョー・ワイルダー刑事だ」
キランは握手する。
「キラン・キリアンです」
マッハを示す。
「こっちは僕のVent、マッハ」
マッハが礼儀正しく頷いた。
キランは後ろを指差した。
「後ろにいるのが友達のレイモンドとダレン」
ワイルダーが二人を見る。
「会えてうれしいよ」
そして。
セルへ視線を向ける。
「できれば別の状況で会いたかったがね」
キランがため息をついた。
「ですよね……」
ワイルダーが少し笑った。
「君のお兄さんには連絡した」
キランがすぐに顔を上げる。
「今こっちへ向かっている」
安堵が一気に広がった。
ようやく。
何かが良い方向へ進んだ。
「ありがとうございます」
ワイルダーが頷いた。
そして。
取調室3へ向き直る。
なぜなら今度は――
ウルトラヴァイオレットが。
自分の言い分を説明する番だった。




