ウルトラヴァイオレット
レイモンドの視界が定まらなかった。
天井がぼやける。
壁もぼやける。
周囲を照らしていたネオンライトさえ、長く引き伸ばされた色の筋にしか見えなかった。
声が聞こえる。
物音。
笑い声。
だが、そのどれもが現実のものとは思えなかった。
その時――
「もういい、スティックマン」
グロウスティックが止まった。
レイモンドは床に倒れたまま、何度も叩きつけられた衝撃で朦朧としていた。
ウルトラヴァイオレットが近づいてくる。
「こいつをこっちへ連れてこい」
グロウスティックは命令に従った。
巨大な両腕でレイモンドを掴み、まるで装甲を着た男に重さなどないかのように軽々と引き起こす。
レイモンドは抵抗しようとした。
だが。
身体が言うことを聞かなかった。
頭がズキズキと痛む。
ヘルメットには亀裂が入っている。
鼻からはゆっくりと血が流れていた。
どうやらバトルスーツのほうが。
中にいる本人よりも、ずっと頑丈だったらしい。
ウルトラヴァイオレットはレイモンドの真正面で止まった。
完全に冷静。
むしろ少し楽しんでいるようにさえ見えた。
「お前、馬鹿なのか?」
レイモンドは必死に彼女へ焦点を合わせた。
「ネオンのアジトに好き勝手入り込んで、そのまま息したまま帰れるとでも思ったのか?」
レイモンドは答えようとした。
声が出なかった。
ウルトラヴァイオレットが顔を近づける。
光り輝くサイバネティック・パーツが、ひび割れたヘルメットの表面にネオンの光を映し出した。
「まあ……」
残酷な笑みが浮かんだ。
「……残念だったな」
彼女は離れた。
レイモンドの頭が垂れる。
まだ意識はある。
かろうじて。
腕が重い。
脚もうまく動かない。
そしてグロウスティックに掴まれている以上――
どこにも逃げられない。
周囲では、他のネオンたちが待っていた。
武器を構えたまま。
その中にはダレンもいた。
キランが学校から彼を尾行し始めて以来、初めて。
その少年はもう。
生徒には見えなかった。
ここでは――
彼もネオンの一員だった。
ウルトラヴァイオレットは数歩離れた。
そして止まる。
振り返ることすらしなかった。
「始末しろ」
レイモンドの目が見開かれた。
グロウスティックの腕に力が入る。
アジトの外では――
キランの胃が沈むような感覚に襲われた。
「マジかよ……」
レイモンドが見える。
グロウスティックも見える。
そして――
これから何が起ころうとしているのかも。
はっきり分かった。
「これはマズい」
ものすごくマズい。
下手をすれば――
*親友が目の前で殺されるところを見ることになる。*
それくらいマズい。
キランはマッハへ振り向いた。
「警察を呼んで、マッハ」
マッハは即座に反応した。
**ピッ! ポッ! プルルッ!**
「通報しました」
よし。
およそ半秒間だけ――
それは朗報のように思えた。
そしてキランは。
自分たちがどこにいるのか思い出した。
「でも、警察署はここから遠い」
レイモンドへ視線を戻す。
まだグロウスティックに捕まっている。
「他に何かできるはずだ!」
マッハの表情が険しくなった。
「ですが、現在我々には――」
「分かってる!」
キランは叫んだ瞬間に後悔した。
だが謝っている時間はない。
「でも、ただここで見てるわけにはいかない!」
マッハは黙った。
なぜなら。
少なくとも一つだけ。
キランの言うことは正しかった。
待つという選択肢は。
もうない。
キランは周囲を見回した。
何か。
何でもいい。
武器。
気を逸らせるもの。
使えるもの。
何もない。
以前の戦闘用車椅子は失われた。
プラズマキャノンもない。
装甲もない。
スラスターもない。
今のキランにあるのは。
仮の車椅子。
マッハ。
そして――
プレッシャーがかかると、ますます酷くなる判断力だけだった。
中では――
グロウスティックがレイモンドを掴み直した。
巨大な腕の一本が。
レイモンドの首へ回される。
キランの心臓が激しく脈打った。
「……やめろ」
レイモンドはもう、ほとんど動いていなかった。
ウルトラヴァイオレットは邪悪な笑みを浮かべて見ている。
脅しではない。
本当に。
レイモンドを殺すつもりだ。
キランはマッハを見る。
そして。
またレイモンドを見る。
警察を待っている時間はない。
助けを探している時間もない。
完璧な作戦を考えている時間もない。
必要なのは――
*何か。*
今すぐ。
「今すぐ何かしないと!」
グロウスティックの腕にさらに力が入った。
レイモンドが苦痛に顔を歪める。
キランはアジトの外から。
何もできずに見つめていた。
そして戦闘用車椅子を失って以来――
初めて。
キランは本当の意味で理解した。
今の自分が。
どれほど無防備なのかを。
警察は向かっている。
だが。
キランがグロウスティックを止める方法を見つけられなければ――
到着した時には。
もう手遅れになっている。




