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ネオンのアジト

アジトの中。

ダレンはウルトラヴァイオレットの前に立っていた。

間に合った。

ギリギリ。

ウルトラヴァイオレットは、彼が持ち帰ったクレジットを数え終えた。

その表情を見る限り、特に感心している様子はない。

「お前は新人だからな……」

ダレンの身体が強張った。

「だが、次はねぇぞ。分かったな?」

ダレンは一気に安堵した。

「ありがとうございます、ボス」

その頃、外では。

キランとマッハが身を隠したまま待機していた。

キランは建物のほうを覗き込む。

もう疑う余地はない。

ここだ。

「ここだよ、マッハ」

マッハはすぐそばにいた。

「警察へ通報しますか?」

キランは迷った。

当然の答えは――イエス。

ネオンのメンバーだと分かっている人間を尾行し、そのままアジトまで辿り着いた。

ネオン・サーカスが組織のどこかから流通していることも分かっている。

なら、次にやるべきことは警察への通報。

なのだが――

「まだ」

マッハが彼を見た。

キランはそのまま中の様子を窺う。

「今はただ座ってるだけだ。何か違法なことをするまで待たないと」

マッハの表情が、どんどん疑わしそうなものになっていく。

「もしかすると――」

「ここで何してんだ?」

キランは危うく車椅子から飛び上がるところだった。

マッハも勢いよく振り返った。

巨大な装甲姿の人物が、二人の真後ろに立っていた。

腕を組み。

二人を見下ろしている。

キランの脳が即座に生存モードへ切り替わった。

「何もしてません!」

返事が早すぎた。

あまりにも早すぎた。

「僕、この近くに住んでるから、ここは帰り道の一部で、それで……」

言葉が止まった。

その人物には、何か見覚えがあった。

ものすごく。

体格。

立ち方。

声。

キランは目を細めた。

「……レイモンド?」

装甲の男が固まった。

キランはじっと見つめる。

「レイモンドなの?」

沈黙。

やがてレイモンドは手を上げ、ヘルメットを外した。

キランの口が開いた。

本人だった。

レイモンドは少しだけ気まずそうな顔をしていた。

少しだけ。

キランの驚きは、すぐに苛立ちへ変わった。

「そのスーツ、何?」

レイモンドは自分の装甲を見下ろした。

「ギアに作ってもらった」

「なんで?」

レイモンドは息を吸った。

「お前を手伝うためだ」

キランは待った。

レイモンドが補足する。

「戦うって意味で」

キランは彼を見つめた。

マッハは賢明にも黙っていた。

「監視だけにするって話だったよね?」

「そうだった」

レイモンドは後頭部を掻いた。

「でも、もう一度考えたら、それじゃ足りないと思ってな」

キランは信じられなかった。

「だから、僕に隠れてこんなことしたの?」

「そういうわけじゃない」

「どう聞いてもそういう話だけど」

「お前に話す前に、ちゃんとスーツが使えるか確かめたかったんだ」

まったく。

何のフォローにもなっていない。

キランの苛立ちはさらに強くなった。

「それでも、なんでこんなことする必要があると思ったのか分からない」

レイモンドが口を開いた。

だが、キランは答えさせなかった。

「僕を信用するべきでしょ!」

沈黙。

レイモンドの表情が険しくなった。

キランはすぐに気づいた。

今の言葉は――

触れてはいけないところに触れた。

しかし。

二人が続きを話すより先に――

「キリアン先生?」

キランの全身が硬直した。

ゆっくり振り返る。

ほんの数メートル先に、ダレンが立っていた。

少年はキランを見る。

レイモンドを見る。

マッハを見る。

そして、またキランを見る。

誰も動かなかった。

誰も喋らなかった。

キランは無理やり笑顔を作った。

「ああ、ダレン……」

ダレンが目を細める。

キランは必死に言い訳を考えた。

「えっと、僕たちはただ――」

ダレンが勢いよく振り返った。

「ボス! 客だ!」

キランは目を閉じた。

*スナット。*

潜入作戦。

終了。

アジトの中が一気に騒がしくなった。

ギャングのメンバーたちが立ち上がる。

武器が抜かれる。

ウルトラヴァイオレットが入口へ向いた。

怒りで顔が歪む。

「そいつらを連れてこい!」

ネオンたちが一斉に押し寄せてきた。

グロウスティックも動く。

そして。

そのふざけた名前とは裏腹に――

あの男の巨体には。

まったく笑える要素がなかった。

キランは見上げた。

「……これはマズい」

レイモンドは即座にヘルメットを被り直した。

スーツが起動する。

両腕から武器が展開された。

足元にはホログラフィック・グライダーが出現する。

「お前は逃げろ!」

キランが見上げた。

「え?」

「俺が食い止める」

「レイモンド――」

遅かった。

レイモンドが飛び出した。

「レイモンド、待って!」

レーザーが飛び交う。

**ピュン! ピュン! ピュン!**

レイモンドは身体を捻りながら攻撃をかわした。

腕のブラスターが火を噴く。

**ピュン!**

ネオンの一人が倒れた。

「ぐあっ!」

もう一発。

**ピュン!**

「うぐっ!」

二人目のギャングが床へ転がった。

レイモンドはさらに高度を上げる。

スーツは動いている。

ギアの改造も機能している。

ほんの数秒間――

レイモンドは。

本当にこの状況を掌握しているように見えた。

そこへ。

ウルトラヴァイオレットが参戦した。

武器を構える。

そして発砲。

「地面に叩き落とせ!」

ネオンたちの攻撃がレイモンドへ集中した。

レイモンドはその間を縫うように飛ぶ。

左。

右。

上。

下。

軍で身につけた訓練が、ほとんど本能的に蘇ってくる。

以前にも経験していた。

ホログラフィック・グライダーではない。

ネオンカラーのストリートギャングが相手でもない。

だが――

戦闘は戦闘だ。

レイモンドが再び撃つ。

その時――

何かが。

両足首を掴んだ。

レイモンドの目が見開かれる。

下を見る。

グロウスティック。

あの巨大なネオンが、いつの間にか彼へ手を伸ばしていた。

そして巨漢の顔に浮かぶ笑みを見る限り――

レイモンドはこれから。

とんでもなく酷い目に遭う。

「……スナット!」

グロウスティックが引っ張った。

レイモンドの身体が急降下する。

そして――

**ズドォォォン!!!!**

身体が地面へ叩きつけられた。

衝撃で部屋全体が揺れる。

キランが身体を強張らせた。

「レイモンド!」

グロウスティックは止まらない。

レイモンドの足首を掴んだまま、再び持ち上げる。

レイモンドが状況を理解する暇すらなく――

**ドガァン!!!**

身体が近くの柱へ叩きつけられた。

激痛が全身を走る。

スーツが衝撃の一部を吸収した。

一部だけ。

足りない。

レイモンドが立て直すより先に――

グロウスティックがまた振り回した。

**ドゴォッ!**

レイモンドの身体が壁へ激突する。

ヘルメットに亀裂が入った。

視界がぼやける。

一瞬。

聞こえるのは耳鳴りだけになった。

そして巨漢は。

また彼を持ち上げた。

レイモンドは逆さまにぶら下がっていた。

武器は役に立たない。

グライダーも役に立たない。

そして彼にとって初めての実地試験は――

正式に。

大失敗へと変わった。

部屋の向こう側から。

キランは何もできず、その光景を見つめていた。

戦闘用車椅子はない。

武器もない。

下手に介入すれば、状況をさらに悪化させるだけ。

マッハは警告していた。

今の二人は。

無防備だと。

そして今。

その代償を払っているのは――

レイモンドだった。

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