マッキントッシュ家との初対面
土曜日がやって来た。
残念ながら――
キラン・キリアンには、まだ心の準備ができていなかった。
感情的にも。
精神的にも。
そして何より、社交的な意味ではまったく。
彼は殺人アンドロイドと対峙したことがある。
推進システムの壊滅的な故障から生き延びたこともある。
全住民を奴隷にしようとする人工知能とも戦った。
さらには、ウィリアム・シェイクスピアがプロレスを発明したと言い張る生徒をめぐる、非常に厄介な保護者面談にも耐えたことがある。
しかし、そのどれもが、今夜彼を待ち受ける試練への準備にはならなかった。
夕食。
恋人の両親との夕食だ。
キランは寝室の鏡に映る自分を見つめた。
それから、もう一度自分の姿を確認した。
そして、車椅子のディスプレイに輝くマックの紫色のヘルメット型アイコンを見た。
「どうだ?」
マックは少し間を置いた。
「何がでしょう?」
「俺、どう見える?」
「衣服を着用しているように見えます」
キランは目を閉じた。
「ありがとう、マック」
「どういたしまして」
「褒め言葉じゃないぞ」
「私の観察も褒め言葉ではありません」
キランはため息をついた。
彼は濃紺のボタンダウンシャツを着ていた。袖はきれいに整えられ、黒いズボンに、レイモンドが「ちゃんとした男に見える」と言い張ったジャケットを合わせている。
紫色の髪もきちんととかした。
二回。
いや――
六回だった。
マックは数えていたので知っている。
「過去四十三分間で、あなたは外見の評価を七回要求しています」とマックが指摘した。
キランは眉をひそめた。
「七回?」
「そのとおりです」
「六回だと思ってた」
「レイモンドがジャケットを着せるのを手伝っていた時にも、髪型がおかしくないか尋ねていました」
キランは少し考えた。
「ああ」
「もう一度評価しますか?」
キランは鏡を見た。
「……頼む」
マックのヘルメットが明るくなった。
「あなたの外見は、やや改まった家族の集まりに適しています。衣服は清潔で、髪型もおおむね整っており、服装に壊滅的な問題が発生している兆候も見られません」
キランはうなずいた。
「よし」
「しかし――」
キランはうめいた。
「必ず『しかし』があるんだよな」
「あなたの表情は、まるで自分の処刑に向かう準備をしているかのようです」
キランは画面を見つめた。
「実際、そうなるかもしれないからな」
◇ ◇ ◇
レイモンド・ハリソンは寝室の入口に立っていた。
手にはコーヒー。
いつものことだ。
彼は十五分近く、キランの準備を眺めていた。
そして、その一秒一秒を楽しんでいた。
「なかなか決まってるじゃないか」
キランは振り向いた。
「本当に?」
レイモンドはうなずいた。
「ああ」
キランは微笑んだ。
「ありがとう」
レイモンドはコーヒーを一口飲んだ。
「玄関に着く前に、そのシャツが汗でびしょびしょになるのが残念だな」
キランの笑顔が消えた。
「レイモンド」
「何だ?」
「俺を励ます役目だろ」
「励ましてるさ」
「どこが?」
「俺自身の娯楽を応援してる」
マックのアイコンがちらついた。
「見事な献身ですね」
キランは二人を指さした。
「お前らなんか大嫌いだ」
レイモンドは笑った。
「嘘つけ」
「今、嫌いになる努力をしてるところだ」
レイモンドは車椅子に近づき、キランのジャケットの襟を整えた。
「よし」
キランは顔を上げた。
「ありがとう」
「気にするな」
レイモンドは一歩下がった。
そして腕を組んだ。
「さて」
キランは目を細めた。
「やめろ」
「まだ何も言ってないぞ」
「『さて』って言った」
「それが?」
「その言葉の後に、ろくなことが続いたためしがない」
レイモンドはにやりと笑った。
「さて、マッキントッシュ家のお父様に会う準備はできたか?」
キランはうめいた。
「頼むから、そんな呼び方しないでくれ」
「どうして?」
「恐ろしすぎるからだ」
マックが答えた。
「ミカイラによれば、グラハム・マッキントッシュは五十七歳の土木技師で、娘の交際相手に非公式な面接を行った経歴があります」
レイモンドはまばたきをした。
そして笑った。
「ますます面白くなってきたな」
キランは頭を下げた。
「どうしてお前らに話したんだろう……」
マックのヘルメットが明るくなった。
「私たちの精神的な支援を大切にしているからでしょう」
レイモンドはうなずいた。
「そのとおり」
キランは二人を交互に見た。
「どっちからも支援なんか受けてないぞ」
「誤りです」とマックが答えた。「私は包括的な戦術ブリーフィングを準備しました」
キランの前にホログラムが現れた。
作戦名:恋人の両親との初対面
任務状況:実行中
第一目標:好印象を与える
第二目標:恥をかかない
第三目標:夕食会を生き延びる
推奨される会話の話題:
1. 教育
2. 工学
3. シレニティの園芸文化
4. ミカイラの優れた人間的資質
禁止事項:
5. 最近の爆発事件
6. 軍事関連の捜査
7. 物的損害
8. ギアの実験
キランは画面を見つめた。
レイモンドが身を乗り出した。
「これ、意外といいじゃないか」
キランは最後の項目を指さした。
「どうしてギアが禁止事項に入ってるんだ?」
マックは即座に答えた。
「ギアに関する会話は、ほかの三つの禁止事項につながることが多いためです」
レイモンドは吹き出した。
キランはため息をついた。
「確かに」
マックは続けた。
「さらに、緊急脱出経路を三つ特定しました」
キランは固まった。
「……何のために?」
「社交的な大失敗が発生した場合に備えてです」
レイモンドは危うくコーヒーを落としかけた。
キランはホログラムを見つめた。
そして、ゆっくりと首を振った。
「俺は夕食に行くんだぞ、マック」
「そのとおりです」
「軍事施設に侵入するわけじゃない」
「了解しました」
少し間が空いた。
「戦術的避難経路図を削除しますか?」
キランはためらった。
「……残しておいてくれ」
レイモンドは笑いすぎて、座り込んでしまった。
◇ ◇ ◇
四十分後、キランとレイモンドは小さな花屋の前に車を止めた。
キランはショーウィンドウに飾られた花々を眺めた。
バラ。
ユリ。
チューリップ。
ラン。
名前もわからない色とりどりの花。
マックのアイコンが現れた。
「なぜ停車したのか、お尋ねしてもよろしいですか?」
キランはディスプレイを見た。
「花を買うんだ」
「ミカイラにですか?」
「お母さんにだよ」
マックは少し間を置いた。
「興味深いですね」
キランは目を細めた。
「何が?」
「エララ・マッキントッシュは熟練した園芸家であり、自宅で数多くの花を栽培しています」
「それが?」
「したがって、彼女に花を購入することは重複した行為になる可能性があります」
キランは画面を見つめた。
「マック」
「はい?」
「贈り物なんだよ」
「理解しています」
「礼儀ってものだ」
「そのとおりです」
「大事なのは気持ちなんだ」
マックは考えた。
「それでしたら、気持ちそのものを贈ってはいかがでしょう?」
レイモンドがむせた。
キランはゆっくりと振り向いた。
「……何だって?」
マックは続けた。
「気持ちは花よりはるかに安価で、冷蔵保存も必要ありません」
レイモンドはとうとう笑いをこらえきれなくなった。
キランはディスプレイを指さした。
「お前、全然役に立ってないぞ!」
「贈答戦略の最適化を試みていたのですが」
「恋愛を最適化するな!」
「厳密には、今回は恋愛上の接触ではなく、家族への紹介です」
「言いたいことはわかるだろ!」
◇ ◇ ◇
最終的にキランは、白いユリ、淡い青色の花、そして柔らかな紫色の花を組み合わせた上品な花束を選んだ。
紫色の花の名前はよくわからなかった。
マックは知っていた。
当然だ。
しかし、キランは絶対に聞こうとしなかった。
レイモンドは花束を安全に運べる位置へ固定するのを手伝った。
それから二人は車へ戻った。
レイモンドが車を発進させると、キランは花束を見つめた。
「気に入ってくれると思うか?」
マックが答えた。
「エララは花を好みます」
「そうだな」
「したがって、好意的な反応が得られる可能性は高いでしょう」
キランは微笑んだ。
「よかった」
「ただし、同じ種類の花をすでに何本も所有している可能性があります」
キランはため息をついた。
「マック」
「はい?」
「頼むから、今だけは喜ばせてくれ」
「了解しました」
少し間が空いた。
「あなたの花束は美的に優れています」
キランはまばたきをした。
そして微笑んだ。
「ありがとな、相棒」
「どういたしまして」
◇ ◇ ◇
マッキントッシュ家は、シトロンシティ東部の静かな住宅街にあった。
クリーム色の壁に濃い色の雨戸、広い玄関ポーチを備えた、居心地のよさそうな二階建ての家だった。
玄関へ続く小道には花壇が並んでいる。
階段のそばにある木製のトレリスには、つる植物が絡みついていた。
窓の周囲には丁寧に手入れされた低木が植えられている。
そして、横のフェンスの向こうには――
花でできた森のようなものが見えた。
キランは目を見張った。
「すごいな」
マックのアイコンが明るくなった。
「エララの園芸活動は、かなり大規模なようですね」
キランはうなずいた。
「本当だな」
レイモンドは車を止めた。
そしてキランを見た。
「さて」
キランは振り向いた。
「やめろ」
レイモンドは微笑んだ。
「幸運を祈る」
キランは唾を飲み込んだ。
「ありがとう」
レイモンドはキランが車から降りる準備を手伝い、車椅子の位置と安全装置が適切な状態であることを確認した。
準備が整うと、レイモンドは脇へ退いた。
「終わったら電話してくれ」
キランはうなずいた。
「わかった」
レイモンドはにやりと笑った。
「それと、戦争だけは始めるなよ」
キランはため息をついた。
「さようなら、レイモンド」
「俺も愛してるぞ、相棒」
車は走り去った。
残されたのはキラン一人。
そしてマック。
それから、目の前にそびえるマッキントッシュ家。
キランは玄関の扉を見つめた。
マックのアイコンが現れた。
「心拍数が上昇しています」
キランは目を閉じた。
「頼むからやめてくれ」
「リラックスするための運動を開始しますか?」
「いや」
「呼吸誘導は?」
「いらない」
「落ち着く音楽は?」
「いらない」
「即座の集中を必要とする緊急事態をシミュレーションしますか?」
キランは画面を見つめた。
「……何だって?」
マックは少し間を置いた。
「今の提案は少々行き過ぎでした」
キランはため息をついた。
そして家を見た。
「よし」
ジャケットを整える。
「行くしかないな」
◇ ◇ ◇
キランは玄関ポーチへ向かった。
緩やかな傾斜のある滑らかな通路が、入口まで続いていた。
扉の幅が広く、敷居にもほとんど段差がないことに、彼はすぐ気づいた。
誰かが明らかにアクセシビリティを考慮していた。
そのことが少しだけ、彼の気持ちを楽にした。
本当に少しだけだったが。
キランは呼び鈴に手を伸ばした。
そして押した。
ピンポーン。
沈黙。
足音が近づいてくる。
キランは姿勢を正した。
扉が開いた。
そこに立っていたのは――
グラハム・マッキントッシュ。
五十七歳。
がっしりとした肩幅。
白髪交じりの髪。
きれいに整えられたひげ。
そして、シトロンシティにあるすべての橋を自分で点検し、そのうち少なくとも三本に失望したことがありそうな表情をしていた。
グラハムはキランを見た。
キランもグラハムを見た。
どちらも何も言わなかった。
そして――
「マッキントッシュさん、ですか?」
グラハムはうなずいた。
「そうだ」
キランは緊張した笑みを浮かべた。
「キラン・キリアンです」
「知っている」
少し間が空いた。
グラハムはMACH-01Aに目を向けた。
それからキランへ視線を戻した。
「さて」
キランの胃がきゅっと縮んだ。
出た。
あの言葉だ。
「さて」。
グラハムは腕を組んだ。
「君が、私の街の上空を飛び回っている青年か?」
キランはまばたきをした。
「ええと……」
マックのアイコンが現れた。
「厳密には、飛行操作の大部分を担当しているのは私です」
沈黙。
グラハムは視線を落とした。
ディスプレイを見た。
そして再びキランを見た。
「……今、君の車椅子が私の発言を訂正したのか?」
キランは目を閉じた。
「マック」
マックは続けた。
「私はマックと呼称される自律型人工知能です。この車椅子は私の主要な物理的プラットフォームですが、私の意識はその機械的構成要素だけに還元されるものではありません」
グラハムはじっと見つめた。
そして――
「ふむ」
また少し間が空いた。
「なるほどな」
彼は脇へ退いた。
「入りなさい」
キランはまばたきをした。
「……いいんですか?」
グラハムは片眉を上げた。
「入学試験でも受けさせるべきだったか?」
マックが答えた。
「キランはその可能性に備えて準備をしています」
キランは危うく叫びそうになった。
「マック!」
すると、家の奥から――
女性の笑い声が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
「その子が来たの?」
廊下の奥から温かな声が響いた。
グラハムは振り向いた。
「ああ」
「だったら、いつまでもそこで尋問してないで、中へ入れてあげなさい!」
「誰も尋問なんかしていない!」
「尋問する時の声になってたわよ!」
キランは目を丸くした。
マックのヘルメットが明るくなった。
「興味深い家庭内の力関係ですね」
グラハムはため息をついた。
「これが私の日常だ」
しばらくすると――
エララ・マッキントッシュが姿を現した。
温かな緑色の瞳。
波打つ赤褐色の髪。
そして、キランの緊張を一瞬で和らげるような、優しい笑顔。
柔らかな花柄のブラウスの上に、薄手のカーディガンを羽織っていた。
片方の手首の近くには、小さな土の汚れがついていた。
キランはそれに気づいた。
そして、廊下から漂ってくる新鮮なハーブのほのかな香りにも気づいた。
エララの瞳が輝いた。
「あら!」
彼女は近づいてきた。
「あなたがキランね!」
キランは微笑んだ。
「はい、奥様」
エララは手を振った。
「あら、そんなにかしこまらないで」
キランはまばたきをした。
「え?」
「エララって呼んでちょうだい」
「わかりました」
彼女は少し身をかがめ、キランが望むかどうかを確かめるように、抱きしめる仕草をした。
「ハグしてもいい?」
キランは微笑んだ。
「もちろんです」
彼女は優しく彼を抱きしめた。
「ようこそ、我が家へ」
キランは肩の力が抜けていくのを感じた。
「ありがとうございます」
エララは体を離した。
そして花束に気づいた。
「あら!」
キランはそれを差し出した。
「これ、よかったら」
エララの表情が柔らかくなった。
「まあ、キラン!」
彼女は花束を受け取った。
「なんて気が利くの!」
キランは微笑んだ。
「気に入ってもらえてよかったです」
「気に入ったですって?」
彼女は花束を眺めた。
「とってもきれいじゃない!」
マックが現れた。
「この花束にはユリ、デルフィニウム、トルコギキョウが含まれています」
エララは視線を落とした。
目を大きく見開く。
「あら!」
マックは続けた。
「特に紫色のトルコギキョウは、花束全体の色彩バランスに非常によく調和しています」
エララは微笑んだ。
「まあ、なんて賢いのかしら!」
キランはにやりと笑った。
「これがマックです」
エララは顔を近づけた。
「あなたが、あの有名なマックなのね?」
「そのとおりです」
彼女は微笑んだ。
「会えて嬉しいわ」
マックは少し間を置いた。
そして答えた。
「こちらこそ光栄です、エララ」
グラハムはそのやり取りを眺めていた。
「ふむ」
キランは彼を見た。
「どうしました?」
グラハムは首を振った。
「いや、何でもない」
そして――
「まさか妻が車椅子と会話する日が来るとは思わなかった」
マックのアイコンが点滅した。
「正確には――」
キランが割り込んだ。
「マック」
「はい?」
「そこは流してくれ」
「了解しました」
エララは笑った。
◇ ◇ ◇
「お母さん!」
階段のほうから聞き慣れた声が響いた。
キランは振り向いた。
ミカイラが姿を現した。
ルビーのような赤い髪。
眼鏡。
柔らかな深緑色のドレス。
そして、キランが一瞬言葉を忘れてしまうほどの笑顔。
彼女は階段を下りてきた。
「やっほー!」
キランは微笑んだ。
「やあ、美人さん」
ミカイラは近づき、彼の頬にキスをした。
「ちゃんと来られたのね」
「ギリギリな」
彼女は笑った。
「お父さん、怖かった?」
キランはグラハムをちらりと見た。
グラハムは片眉を上げた。
キランはミカイラへ視線を戻した。
「……いや」
マックが即座に答えた。
「虚偽です」
ミカイラは吹き出した。
グラハムは首を振った。
「私はここにいるんだが」
エララは微笑んだ。
「もうかわいそうな子を怖がらせちゃったのね」
「私は扉を開けただけだ!」
「尋問する時の顔でね」
「私の顔は一つしかない!」
ミカイラはさらに笑った。
キランはマックを見た。
マックのアイコンが明るくなった。
「ミカイラの議論好きな性格の由来が判明したようですね」
キランはむせそうになった。
ミカイラはディスプレイを指さした。
「気をつけなさいよ、マック」
「お父様の称賛すべき粘り強さについて述べたまでです」
グラハムは笑った。
「こいつは気に入った」
キランは目を丸くした。
「……本当ですか?」
グラハムはうなずいた。
「ああ」
マックが答えた。
「幸先のよい出だしですね」
◇ ◇ ◇
夕食の前に、エララはどうしても庭を見せたいと言い出した。
ミカイラはすべてを知っているような笑みを浮かべた。
「お母さん」
エララは何も知らないような顔をした。
「何?」
「一週間ずっと楽しみにしてたでしょ」
「もちろんよ」
グラハムはため息をついた。
「昨日、庭全体を配置し直していたんだぞ」
エララは息をのんだ。
「そんなことしてないわ!」
グラハムは片眉を上げた。
「植木鉢を六つ動かしただろう」
「五つよ」
「ハーブも植え替えた」
「もっと日光が必要だったの」
「噴水も掃除した」
「汚れてたんだもの」
グラハムはキランを見た。
「な?」
キランは笑った。
「素晴らしいと思いますよ」
エララは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
ミカイラはキランに身を寄せた。
「おめでとう。もうお母さんのお気に入りよ」
グラハムはうなずいた。
「早かったな」
◇ ◇ ◇
裏庭は見事だった。
丁寧に配置された花壇には、色とりどりの花が咲き誇っていた。
背の高い観賞用の草が風に揺れている。
石畳の小道は小さな噴水を囲むように曲がっていた。
つる植物が木製の支柱を登っている。
高さのあるプランターには、ハーブや野菜が植えられていた。
裏庭のフェンス近くには、キランが今まで見たことのない珍しい花々が並んでいた。
長く繊細な花びらを持つもの。
鮮やかな色の花が密集して咲くもの。
午後の遅い日差しを受けて、銀色の葉がきらめくものもあった。
キランは目を見張った。
「すごい……」
エララは誇らしげに微笑んだ。
「私の小さなシレニティへようこそ」
キランは彼女を見た。
「これ、シレニティの植物なんですか?」
「一部はね」
彼女は花の咲いた低木へ近づいた。
「これは何年も前に母がくれた挿し木から育てたものなの」
キランはその花を眺めた。
淡い青色。
銀色にも見える細い花びらが、金色の中心を囲んでいた。
マックのアイコンが明るくなった。
「興味深いですね。現在の植物データベースでは、完全に一致する種を特定できません」
エララは笑った。
「それはね、シレニティのムーンベルだからよ」
マックは少し間を置いた。
「ムーンベル?」
「故郷ではそう呼んでいたの」
彼女は花の一つに優しく触れた。
「涼しい季節になると、とてもきれいに咲くのよ」
キランは微笑んだ。
「きれいですね」
エララはうなずいた。
「母が台所の窓の外で育てていたの」
彼女の表情が柔らかくなった。
「毎朝、母がカーテンを開けると、そこにこの花が咲いていたわ」
一瞬、彼女の視線は遠い場所へ向けられた。
そして、再び微笑んだ。
「シトロンシティへ引っ越した時、この花が恋しくてたまらなかったの」
キランは花を見た。
「だから、一緒に持ってきたんですね」
「そのとおりよ」
マックが口を開いた。
「故郷とのつながりを保つ、生きた存在というわけですね」
エララはディスプレイを見た。
そして微笑んだ。
「素敵な表現ね」
マックのヘルメットの光が柔らかくなった。
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
一行は小道を進んだ。
エララは、伝統的なシレニティ料理に使うハーブをいくつかキランに見せた。
一つは、わずかに紫がかった濃い緑色の葉を持っていた。
別のものは、指で軽く触れると甘い柑橘系の香りを放った。
マックはそれらの化学的性質を分析した。
エララは料理での使い方を説明した。
キランは耳を傾けた。
そして意外なことに――
心から興味を引かれていた。
「じゃあ、これはスープに入れるんですか?」
エララはうなずいた。
「ソースにも使うわ」
「どんな味なんです?」
「少し甘くて、少し刺激的なの」
キランは微笑んだ。
「おいしそうですね」
「おいしいわよ」
マックが割り込んだ。
「含まれる芳香成分から推測すると、ローストした野菜との相性がよいと思われます」
エララの目が大きくなった。
「あら、そのとおりよ!」
彼女は笑った。
「本当に賢いのね、マック」
マックのアイコンが明るくなった。
「お褒めいただき光栄です」
キランはにやりと笑った。
「気をつけてください。こいつ、ただでさえ自尊心が大きいんです」
マックが答えた。
「私の自尊心は適切に調整されています」
エララは笑った。
「もちろん、そうでしょうね」
一行は別の花壇のそばで立ち止まった。
エララは繊細な白い花の集まりを指さした。
「これは祖母が大好きだった花なの」
キランは近づいて見た。
「きれいですね」
エララはうなずいた。
「シレニティでは、人生の新しい章を始める人に、この花を贈ることがあるのよ」
マックは少し間を置いた。
「変化の象徴ということですか?」
「そう」
彼女は微笑んだ。
「それから、希望の象徴でもあるの」
キランは静かになった。
エララは彼を見た。
「ねえ、キラン。庭は大切なことを教えてくれるのよ」
彼は顔を上げた。
「何ですか?」
彼女は花々を示した。
「すべての植物が同じように育つわけではないの」
キランは耳を傾けた。
「直射日光が必要な植物もあれば、日陰を好む植物もある。すぐに成長するものもあれば、何年もかかるものもあるわ」
彼女は微笑んだ。
「でも、違う育ち方をしているからといって、間違っている植物なんて一つもないのよ」
キランは庭を見た。
そしてエララを見た。
「素敵な考え方ですね」
エララはうなずいた。
「母が教えてくれたの」
マックは黙っていた。
珍しく――
科学的な説明を加えようとはしなかった。
ただ、静かに耳を傾けていた。
◇ ◇ ◇
一行はパティオへ戻った。
グラハムは小さな屋外テーブルのそばで待っていた。
彼は技師特有の好奇心を隠そうともせず、MACH-01Aを観察していた。
キランはすぐに気づいた。
「ええと……」
グラハムは顔を上げた。
「一つ聞いてもいいか?」
キランは緊張した笑みを浮かべた。
「もちろんです」
グラハムは車椅子を指さした。
「その推進装置なんだが」
キランはまばたきをした。
「何でしょう?」
「どうやって取り付けているんだ?」
マックのアイコンが明るくなった。
「おや」
キランはため息をついた。
「始まった」
グラハムは続けた。
「通信塔の事件の映像を見たんだ」
キランは顔をしかめた。
「ああ……」
「あの車椅子には、とてつもない構造的負荷がかかっていた」
マックが答えた。
「そのとおりです。後部推進装置は重大な損傷を受けました」
グラハムはうなずいた。
「気づいていたよ」
キランは二人を交互に見た。
「気づいてたんですか?」
グラハムは肩をすくめた。
「職業病だ」
マックは続けた。
「現在のフレームには、複数の荷重分散経路を備えた強化複合構造が採用されています」
グラハムは身を乗り出した。
「興味深い」
マックはホログラムの設計図を投影した。
グラハムの目が大きくなった。
「ほう、これはよく考えられているな」
キランは二人を見つめた。
ミカイラが彼に身を寄せた。
「もう二人の世界ね」
キランはうなずいた。
「完全にな」
マックは後部スタビライザーを強調表示した。
「主な課題は、高速で方向転換する際の構造的完全性を維持することです」
グラハムは設計図を見つめた。
「特に、この推力角度ではな」
「そのとおりです」
「重量配分は?」
「継続的に調整しています」
グラハムは微笑んだ。
「見事だ」
マックのヘルメットが明るくなった。
「ありがとうございます」
キランはにやりと笑った。
「ほら、俺ってすごいだろ」
マックが即座に答えた。
「すごいのは工学技術です」
キランはまばたきをした。
「……何?」
マックは続けた。
「操縦者は、このシステムにおける最大の構造的弱点です」
沈黙。
そして――
グラハムが吹き出した。
腹の底からの、本物の笑い声だった。
彼は膝を叩いた。
「ははは! こいつは気に入った!」
キランは目を丸くした。
「こいつ?」
マックは少し間を置いた。
グラハムはすぐに自分の発言に気づいた。
「すまない」
彼はディスプレイを見た。
「失礼だったな」
マックのヘルメットがちらついた。
「謝罪を受け入れます」
グラハムはうなずいた。
「君は一人の人格を持った存在なんだな?」
マックは少し考えた。
「はい」
グラハムは微笑んだ。
「それなら、私は君が気に入ったよ、マック」
マックのヘルメットが明るくなった。
「私もあなたの工学的知識を高く評価しています、グラハム」
ミカイラがキランに身を寄せた。
「おめでとう」
キランは彼女を見た。
「何が?」
「あなたの親友が、私のお父さんを奪っちゃったわ」
キランはため息をついた。
「素晴らしいね」
◇ ◇ ◇
日が沈んで間もなく、夕食が運ばれてきた。
エララはシレニティで過ごした子供時代を思い出させる料理を、いくつも用意していた。
大きな器には、香り豊かな野菜のシチューが湯気を立てていた。
ローストポテトには、庭で育てたハーブが使われていた。
かごには焼きたてのパンが並んでいる。
色鮮やかなサラダには、キランの知っている野菜も、見たことのない野菜も入っていた。
そして食卓の中央には、黄金色の焼き目がついた料理が置かれていた。
キランは目を見張った。
「ものすごくいい匂いですね」
エララは微笑んだ。
「ありがとう」
グラハムは椅子を引いた。
「午後のほとんどを料理に費やしていたんだ」
エララは手を振った。
「もう、余計なこと言わないで」
ミカイラはにやりと笑った。
「お母さん、火曜日から献立を考えてたのよ」
キランはエララを見た。
「本当ですか?」
彼女は少し照れくさそうに微笑んだ。
「まあ……」
グラハムはうなずいた。
「火曜日からだ」
エララは笑った。
「わかったわよ。火曜日からよ」
キランは微笑んだ。
「それは光栄です」
エララの表情が柔らかくなった。
「優しいことを言ってくれるのね」
◇ ◇ ◇
食堂には、キランが車椅子のまま快適に食卓につけるだけの十分なスペースがあった。
ミカイラは彼の隣に座った。
グラハムは向かい側。
エララは台所に最も近い席についた。
マックのディスプレイも、全員から見える位置にあった。
しばらくの間――
すべてが穏やかだった。
その時、グラハムが咳払いをした。
キランは固まった。
マックのアイコンが明るくなった。
社交的脅威を検知
キランは警告をちらりと見た。
そして小声で言った。
「それ、消せ」
マックは従った。
グラハムは彼を見た。
「何か問題でも?」
キランは微笑んだ。
「完璧です」
ミカイラは目を細めた。
「マック、何したの?」
「何も」
マックが答えた。
「その発言は不正確です」
キランは目を閉じた。
エララは笑った。
「あら、今夜の夕食は楽しくなりそうね」
◇ ◇ ◇
食事は和やかに始まった。
エララが料理について説明した。
キランはシチューを一口食べた。
目が大きくなった。
「うわ、すごい」
エララは微笑んだ。
「おいしい?」
キランは勢いよくうなずいた。
「最高です」
「本当に?」
「もちろんです」
エララは嬉しそうな顔になった。
ミカイラはにやりと笑った。
「だから言ったでしょ」
グラハムはうなずいた。
「妻は料理がうまいんだ」
エララは夫に微笑んだ。
「ありがとう、あなた」
マックのアイコンが現れた。
「エララ、味付けについて質問してもよろしいでしょうか?」
彼女はマックを見た。
「もちろんよ」
マックは小さなリストを投影した。
「先ほど庭で紹介していただいたハーブと一致する芳香成分をいくつか検出しました」
エララは笑った。
「そのとおりよ」
彼女はレシピを説明し始めた。
マックは注意深く聞いていた。
そして、別の質問をした。
さらにもう一つ。
またもう一つ。
キランはミカイラを見た。
「こいつ、君のお母さんを面接してるぞ」
ミカイラは微笑んだ。
「少なくとも、誰かさんはね」
キランは笑った。
マックは続けた。
「レシピ全体を提供していただくことは可能でしょうか?」
エララは驚いた顔をした。
「もちろんよ!」
「素晴らしい」
彼女は微笑んだ。
「いつか作り方を教えてあげてもいいわね」
マックは少し間を置いた。
「ぜひお願いします」
キランは彼を見た。
「待て」
マックが向き直った。
「はい?」
「お前、料理を覚えるのか?」
「そのとおりです」
キランはにやりと笑った。
「お前、食べないだろ」
「料理本も食べません」
沈黙。
グラハムが吹き出した。
キランは目を丸くした。
「……それとこれとは違うだろ」
マックは続けた。
「それでも私は、材料の計量、温度管理、調理手順の案内を行うことができます」
エララは微笑んだ。
「素晴らしい料理助手になれそうね」
キランはため息をついた。
「最高だ。今度は俺の車椅子が、俺より料理上手になるのか」
マックが答えた。
「もともと、それほど難しい競争ではありません」
ミカイラは危うく飲み物を吹き出しかけた。
◇ ◇ ◇
ようやく笑いが収まると、グラハムはフォークを置いた。
「さて、キラン」
キランは顔を上げた。
「はい?」
グラハムは少し微笑んだ。
「教師の仕事について聞かせてくれないか」
キランはまばたきをした。
「教師の仕事ですか?」
「英語の先生なんだろう?」
キランはほっとした。
「はい」
「どうしてその道を選んだんだ?」
キランは少し考えた。
「正直に言うと……」
グラハムはうなずいた。
「昔から物語が好きだったんです」
ミカイラは微笑んだ。
キランは続けた。
「本も、戯曲も、詩も。全部です」
彼は食卓へ視線を落とした。
「何百年も前に誰かが書いたものが、今でも人の心に響くって、すごいことだと思うんです」
エララはうなずいた。
「素敵ね」
キランは微笑んだ。
「もちろん、それを十代の生徒たちに理解してもらうのは、また別の話ですけど」
グラハムは笑った。
「想像できるよ」
キランは大げさにため息をついた。
「最近なんて、シェイクスピアがプロレスを発明したのかって聞いてきた生徒がいました」
沈黙。
そして――
グラハムは目を丸くした。
「……何だって?」
マックが答えた。
「根拠のない歴史的仮説です」
ミカイラは吹き出した。
エララは口元を覆った。
グラハムは首を振った。
「最近の子供は……」
キランはうなずいた。
「まったくです」
◇ ◇ ◇
会話は続いた。
キランは生徒たちのことを話した。
お気に入りの本。
教えることの難しさ。
そして、理解に苦しんでいた生徒が、ようやく何かを理解した瞬間の喜び。
グラハムは耳を傾けた。
本当に真剣に聞いていた。
そして――
「立派な仕事だな」
キランは顔を上げた。
「ありがとうございます」
グラハムはうなずいた。
「大切な仕事だ」
キランは微笑んだ。
「僕もそう思います」
少し間が空いた。
それからグラハムの表情が真剣になった。
「もう一つ聞いてもいいか?」
キランは胃が締めつけられるのを感じた。
「もちろんです」
グラハムは両手を組んだ。
「スーパーヒーローの活動についてだ」
ミカイラは父親を見た。
「お父さん」
グラハムは片手を上げた。
「尋問しているわけじゃない」
エララは意味ありげな視線を送った。
グラハムはため息をついた。
「質問しているだけだ」
キランはかすかに微笑んだ。
「大丈夫です」
彼はグラハムを見た。
「どうぞ」
グラハムは言葉を選んだ。
「君が何をしているかは知っている」
キランはうなずいた。
「はい」
「ニュース映像も見た」
「そうですか」
「火災。戦闘。あの軍事施設」
キランは静かになった。
グラハムは続けた。
「君が勇敢なのは間違いない」
キランはまばたきをした。
「ありがとうございます」
「多くの人を助けてきたこともわかっている」
「はい」
グラハムは身を乗り出した。
「だが、君は何度も命を落としかけている」
沈黙。
ミカイラは視線を落とした。
キランは彼女を見た。
それからグラハムへ視線を戻した。
「……はい」
グラハムはゆっくりとうなずいた。
「私が心配しているのは、そこなんだ」
キランは耳を傾けた。
「君の車椅子でも、障害でもない。自分の身の回りのことができるかどうかでもない」
グラハムの表情が和らいだ。
「危険そのものだ」
キランはうなずいた。
グラハムは続けた。
「ミカイラは君を大切に思っている」
キランはかすかに微笑んだ。
「知っています」
「とても大切に思っているんだ」
ミカイラは顔を赤らめた。
「お父さん……」
グラハムは構わず続けた。
「そして、愛する人が帰ってこられないかもしれない場所へ何度も向かっていくというのは……」
彼は言葉を止めた。
「……つらいことなんだ」
キランは視線を落とした。
数秒間――
誰も何も言わなかった。
やがてキランは顔を上げた。
「おっしゃるとおりです」
グラハムはまばたきをした。
キランは続けた。
「もう二度と危険な目に遭わないとは約束できません」
ミカイラは彼を見た。
「それに、自分のやっていることが安全だなんて、言うつもりもありません」
彼は少し間を置いた。
「でも、決して軽く考えているわけじゃない。それだけは約束できます」
グラハムは耳を傾けた。
キランはミカイラを見た。
「特に今は」
彼女の表情が柔らかくなった。
キランは続けた。
「俺の帰りを待ってくれる人たちがいるって、わかってます」
マックのヘルメットが静かに輝いた。
「もし帰れなかったら、その人たちがどれほど傷つくかも」
沈黙。
そして――
「ミカイラに、一生俺の心配をさせたいわけじゃありません」
彼は悲しげに微笑んだ。
「でも、助けを必要としている人を見捨てることもできないんです」
グラハムは彼をじっと見つめた。
キランは続けた。
「だから、できる限り慎重に行動します。マックの言うことを聞いて、自分を大切に思ってくれる人たちの声にも耳を傾けます」
マックが即座に答えた。
「過去の実績を見る限り、彼がその方針を実行するのは困難でしたが」
キランはため息をついた。
「マック」
グラハムは小さく笑った。
キランも微笑んだ。
「そして、毎回必ず帰ってこられるように努力します」
グラハムは黙っていた。
それからうなずいた。
「それで十分だ」
キランはまばたきをした。
「本当に?」
グラハムは微笑んだ。
「ああ」
彼は背もたれに寄りかかった。
「完璧な答えを求めていたわけじゃない」
キランはほっとした顔をした。
「よかった」
「ただ、正直な答えが聞きたかったんだ」
キランはうなずいた。
グラハムは手を差し出した。
キランはその手を握った。
「我が家の食卓へようこそ、キラン」
キランは微笑んだ。
「ありがとうございます」
エララは目尻をそっと拭った。
ミカイラは温かく微笑んでいた。
そしてマックは――
珍しく――
何も言わなかった。




