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明日へ羽ばたく翼

シトロン・シティに朝日が昇った。

黄金色の光が破壊された軍事施設に降り注ぎ、戦いの爪痕を照らし出していた。

崩壊した建物から煙が立ち上っていた。

施設の周囲には緊急車両が集まっていた。

兵士たちは負傷者を待機中の救急車へ運んでいた。

解放された四十七体のミラー・レギオンは、臨時の避難施設へと案内されていた。

そして、破壊された送信塔の残骸のそばには――

キラン・キリアンが一人で座っていた。

紫色の車椅子は動かなかった。

装甲は焼け焦げていた。

側面のフィンの一つは、損傷した取り付け部分から斜めに垂れ下がっていた。

後部推進装置は黒く焦げていた。

ディスプレイは暗かった。

完全に暗かった。

キランは画面を見つめた。

「マッハ?」

沈黙。

画面を軽く叩いた。

「おい、相棒」

何も起こらなかった。

キランは唾を飲み込んだ。

「よし」

補助通信システムを起動しようとした。

カチッ。

何も起こらなかった。

「大丈夫だ」

もう一度試した。

カチッ。

それでも何も起こらなかった。

「大丈……」

声が途切れた。

「……大丈夫だから」

彼は昇り始めた太陽を見た。

永遠にも感じられるほど久しぶりに、彼の感情について皮肉を言う声がなかった。

確率計算もなかった。

彼の疑わしい判断力についての指摘もなかった。

ディスプレイの上で辛抱強く点滅する紫色のヘルメットもなかった。

ただ、沈黙だけがあった。

キランはうつむいた。

「頼むから……いなくならないでくれ」

◇ ◇ ◇

二十三分後、レイモンドが彼を見つけた。

元軍人の男は瓦礫の中を歩き、折れたアンテナの支柱や破壊されたドローンの部品を避けながら近づいた。

MACH-01Aを見た瞬間、表情が変わった。

「なんてこった……」

キランは顔を上げなかった。

レイモンドは彼のそばにしゃがんだ。

「おい」

「やあ」

レイモンドは車椅子を調べた。

損傷した装甲。

焼けた推進装置。

真っ暗なディスプレイ。

「マッハは?」

キランは黙っていた。

レイモンドは彼を見た。

「キラン?」

「わからない」

その答えは、かろうじて聞こえるほど小さかった。

レイモンドの表情が和らいだ。

「何があった?」

キランは唾を飲み込んだ。

「オリジンがマッハの神経構造に入り込んだんだ」

レイモンドは凍りついた。

「どうやって?」

「マッハと車椅子の接続を利用した」

キランは緊急隔離装置の収納部を見た。

「電源を切ったんだ」

レイモンドはスイッチを調べた。

「コアを隔離したのか?」

キランはうなずいた。

「マッハを破壊せずにオリジンを止めるには、それしか思いつかなかった」

レイモンドは数秒間黙っていた。

それから緊急診断ポートに手を伸ばした。

「ちょっと試してみる」

携帯型スキャナーを接続した。

装置が電子音を鳴らした。

神経コア検出

キランはすぐに顔を上げた。

「待って」

レイモンドは数値を調べた。

コア電力:残留電力のみ

人格マトリクス:応答なし

意識状態:不明

キランの希望がしぼんだ。

レイモンドはスキャナーを外した。

「コアそのものは残っている」

キランは彼を見た。

「でも?」

レイモンドはためらった。

「ギアが必要だ」

キランは画面を見つめた。

「俺はここを離れない」

レイモンドは車椅子の損傷した装甲に手を置いた。

「誰もマッハを置いていけとは言ってない」

少し間を置いた。

「でも、ここで瓦礫を見つめていても、あいつは戻ってこない」

キランは目を閉じた。

レイモンドは続けた。

「二人とも家に連れて帰る」

しばらく――

キランは答えなかった。

そして――

「わかった」

レイモンドは立ち上がった。

「車を持ってくる」

キランは暗いディスプレイを見た。

「もう少し頑張ってくれ、相棒」

声が震えた。

「ギアが直してくれるから」

◇ ◇ ◇

午前七時十四分。

工房の警報が鳴った。

今回はギアも起きていた。

残念ながら、それで機嫌がよくなるわけではなかった。

緊急搬入

MACH-01A:重大損傷

神経コア:応答なし

ギアは診断画面を見つめた。

「嘘だろ……」

もう一度読んだ。

「いや、いや、いや!」

工房の扉が開いた。

レイモンドのホバーバンが入ってきた。

ギアはすでに走り出していた。

「何があったんだ!?」

レイモンドは昇降プラットフォームを下ろした。

キランは損傷した車椅子に座っていた。

ギアは足を止めた。

恐ろしいほど長い一瞬――

ただ見つめていた。

それから駆け寄った。

「キラン!」

「俺は大丈夫」

ギアは焼けた装甲を見た。

「大丈夫の定義を教えてくれ!」

「生きてる」

「基準が低すぎるだろ!」

キランは笑おうとした。

だが、長くは続かなかった。

ギアは暗いディスプレイに気づいた。

表情が変わった。

「マッハは?」

キランはうつむいた。

ギアは血の気が引くのを感じた。

「ああ……」

レイモンドが近づいた。

「オリジンが神経コアに侵入した。キランは緊急隔離スイッチを使ったんだ」

ギアは凍りついた。

「何をしたって?」

キランは顔をしかめた。

「わかってるよ」

ギアは収納部を調べた。

「いや、わかってない」

さらに顔を近づけた。

「汚染が外部システムに広がる前に、コアを隔離したのか?」

キランはうなずいた。

「うん」

ギアはレイモンドを見た。

そしてキランに視線を戻した。

「それは……」

キランは待った。

「……実は、かなりいい判断だ」

キランはまばたきした。

「本当に?」

「ハードウェアにとっては最悪だけどな」

ギアは数値を調べた。

「神経インターフェースにも致命的な損傷を与えた可能性がある」

少し間を置いた。

「でも、オリジンの脱出を防いだかもしれない」

キランは唾を飲み込んだ。

「マッハは?」

ギアの表情が真剣になった。

「まだわからない」

工房へ振り向いた。

「レイモンド! 神経手術台を準備してくれ!」

レイモンドはうなずいた。

「了解」

ギアは天井を指さした。

「コンピューター! 診断用の完全封鎖を開始!」

工房セキュリティ:作動

外部ネットワーク接続:無効

神経隔離:有効

ギアはキランを見た。

「オリジンについては、もう一切の危険を冒さない」

キランはうなずいた。

「それでいい」

ギアはMACH-01Aに手を置いた。

「さて……」

声が柔らかくなった。

「……お前の相棒を連れ戻そう」

◇ ◇ ◇

三時間後――

ギアは十歳ほど老けたように見えた。

ここ二日間で四時間ほどしか眠っていないことを考えれば、なかなかのものだった。

神経手術台は診断モニターに囲まれていた。

中央にはMACH-01Aが置かれていた。

損傷した装甲は一部取り外されていた。

主神経プロセッサが露出していた。

細い紫色のケーブルが、コアと隔離された再構築システムを接続していた。

キランは予備の電動車椅子に座っていた。

レイモンドがそばに立っていた。

二人とも何も言わなかった。

ギアはスキャン結果を調べた。

人格マトリクス完全性:38%

記憶アーカイブ破損率:46%

神経経路崩壊:深刻

意識反応:なし

ギアは顔をこすった。

「よし」

キランは顔を上げた。

「いい『よし』? 悪い『よし』?」

ギアはためらった。

「複雑な『よし』だ」

キランはうめいた。

「複雑なのは嫌いだ」

ギアは画面を指さした。

「ハードウェアは修理できる」

キランの目が輝いた。

「よかった!」

「ただし……」

キランの笑顔が消えた。

ギアはため息をついた。

「マッハの人格マトリクスをつなぐ神経経路が崩壊している」

レイモンドは眉をひそめた。

「つまり?」

ギアは二人に向き直った。

「図書館を想像してくれ」

キランはまばたきした。

「わかった」

「本はまだ全部、中にある」

ギアはモニターを示した。

「でも本棚は壊れ、目録はめちゃくちゃで、部屋同士をつなぐ扉の半分が消えている」

キランは見つめた。

「じゃあ、記憶はまだあるのか?」

「一部はな」

「マッハは?」

ギアは黙った。

「それを調べているところだ」

キランは露出した神経コアを見た。

「再構築できる?」

ギアの表情がこわばった。

「残った構造を使えば、機能するAIを再構築することはできる」

キランは即座に首を振った。

「嫌だ」

ギアは止まった。

「キラン――」

「嫌だ」

声が強くなった。

「新しいマッハなんていらない」

ギアは黙っていた。

キランは続けた。

「マッハみたいに話す何かが欲しいんじゃない」

少し間を置いた。

「同じ冗談を覚えている何かでもない」

さらに間を置いた。

「俺が欲しいのは、あいつなんだ」

ギアは損傷したプロセッサを見た。

それからキランに視線を戻した。

「わかってる」

キランの声が震えた。

「あいつは再インストールすれば済むソフトじゃない」

ギアはゆっくりとうなずいた。

「そうだ」

再構築システムへ向き直った。

「違うんだ」

◇ ◇ ◇

臨時のミラー・レギオン避難施設では、四十七体の元兵士たちが大きな集会場に立っていた。

初めて――

誰も整列を命じなかった。

誰も静粛を要求しなかった。

誰も標的を指定しなかった。

彼らは好きな場所に立っているだけだった。

ところが、それは意外なほど難しいことだった。

ML-026はほかの仲間たちを見た。

「整列するべきでしょうか?」

ヴェイラーは首を振った。

「いいえ」

「では、どこに立てば?」

「好きな場所です」

ML-026は間を置いた。

「どこでも?」

「はい」

そのユニットは周囲を見回した。

そして左へ三歩動いた。

止まった。

右へ一歩動いた。

それから元の位置に戻った。

ヴェイラーは辛抱強く見守った。

「難しいですか?」

「少し」

「無理もありません」

ヴェイル大佐が集会場に入ってきた。

数体のユニットが即座に姿勢を正した。

軍事権限を検出

ヴェイラーはそれに気づいた。

「楽にしてください」

ユニットたちは力を抜いた。

ほとんどは。

ヴェイルは部屋の中央へ進んだ。

「おはよう」

誰も答えなかった。

ヴェイルは間を置いた。

「返事をする義務はない」

数体のユニットが、さらに目に見えて安心した。

彼は続けた。

「今朝をもって、諸君の軍用識別番号は正式な法的審査が行われるまで使用停止となった」

ざわめきが広がった。

「指揮命令による制限は解除された」

周囲を見回した。

「そして、本人の意思に反して軍務へ戻されることはない」

沈黙。

そのとき、ML-022が手を上げた。

ヴェイルはうなずいた。

「何だね?」

「ここを出てもいいのですか?」

ヴェイルはためらった。

「必要な安全確認と医療検査が終われば、出られる。諸君の意思が尊重されるよう、独立した支援者も手配している」

ML-022は手を下ろした。

別のユニットが尋ねた。

「私たちは囚人ですか?」

ヴェイルは四十七の顔を見渡した。

「違う」

少し間を置いた。

「もう違う」

ウィローが前へ出た。

「では、私たちは何なのですか?」

ヴェイルは考えた。

「それは諸君自身が決めることだ」

ヴェイラーが近づいた。

「まずは名前から始めてみてはどうでしょう」

部屋が静かになった。

ヴェイルはうなずいた。

「それがいいだろう」

ヴェイラーはウィローを見た。

「最初にお願いできますか?」

彼女は微笑んだ。

「私の名前はウィローです」

数体のユニットが振り向いた。

「誰がその名前をつけたの?」と一体が尋ねた。

「小さな女の子です」

ウィローの紫色のバイザーが柔らかく光った。

「ソフィーという名前です」

ヴェスパーが前へ出た。

「私はヴェスパー」

ML-026はためらった。

「私は……」

全員が彼女を見た。

彼女はうつむいた。

「自分が何と呼ばれたいのか、わかりません」

ヴェイラーが近づいた。

「それでも構いません」

彼女は顔を上げた。

「本当に?」

「今日決める必要はありません」

ML-026は黙った。

そして、あることを思い出した。

手。

自分の機械の指を握る、温かな人間の手。

怯えた声が告げていた。

諦めないで。

彼女は仲間たちを見た。

「私……」

バイザーが明るくなった。

「……ホープと呼ばれたいと思います」

ヴェイラーはうなずいた。

「ようこそ、ホープ」

ほかのユニットたちも話し始めた。

すぐに名前を決める者もいた。

時間が欲しいと頼む者もいた。

当面は番号のままでいたいと決める者もいた。

誰も訂正しなかった。

誰も急がせなかった。

彼らの存在が始まって以来、初めて――

自分の名前が、自分自身のものになった。

◇ ◇ ◇

正午を少し過ぎたころ、エコーとノヴァがギアの工房に戻ってきた。

その到着は、予想していたほど劇的ではなかった。

主な理由は、ノヴァが逆さまに実体化したからだった。

「やあ!」

ギアは神経手術台から顔を上げた。

「なんで逆さまなんだ!?」

ノヴァは自分を見た。

「あっ」

くるりと回転した。

「これでよし!」

エコーが隣に現れた。

「申し訳ありません。私たちの神経構造に大きな変化が生じました」

ギアは見つめた。

「変化?」

エコーはうなずいた。

「強制的な分離によって、同期経路が永久に変化しました」

ギアは診断ウィンドウを開いた。

「どのくらい永久に?」

「完全にです」

ギアは数値を調べた。

兄弟たちの神経構造は、今や明確に独立していた。

処理システムは、もはや共有同期に依存していなかった。

記憶はそれぞれのものだった。

人格も以前より安定していた。

ギアはまばたきした。

「なるほど」

ノヴァは首を傾げた。

「いい『なるほど』? 悪い『なるほど』?」

ギアはかすかに笑った。

「実は……」

エコーを見た。

「……かなりいい『なるほど』だ」

エコーはうなずいた。

「私たちの独立性は、構造的にも強化されたようです」

ノヴァは興奮して回転した。

「僕たち、正式に別々になったんだ!」

ギアは笑った。

「最初から別々だっただろ」

ノヴァは止まった。

「うん」

そして明るくなった。

「でも今はコンピューターも認めてくれる!」

キランが予備の車椅子で近づいた。

「エコー?」

エコーは振り向いた。

「キラン」

キランは二人を見た。

「マッハはどこだ?」

兄弟たちは黙った。

ノヴァの光が暗くなった。

エコーは工房を見回した。

「ここにいないのですか?」

キランは手術台を見た。

エコーもその視線を追った。

損傷した神経コア。

暗いディスプレイ。

再構築装置。

エコーは凍りついた。

「そんな……」

ノヴァが前へ漂った。

「マッハ?」

返事はなかった。

ノヴァはギアを見た。

「どうしちゃったの?」

ギアはため息をついた。

「最後の隔離処理で、人格マトリクスが損傷したんだ」

エコーは診断モニターへ近づいた。

数値を調べた。

そして、もう一度調べた。

ヘルメットが暗くなった。

「意識が断片化しています」

ギアはうなずいた。

「ああ」

ノヴァはエコーを見た。

「直せる?」

エコーは黙っていた。

キランは二人を見つめた。

「頼む」

その言葉は静かだった。

だが、ほかのどんな言葉よりも重かった。

エコーは彼に向き直った。

「やってみます」

ノヴァの紫色の光が明るくなった。

「僕たちの兄弟だもん」

暗いコアを見た。

「置いていくわけないよ」

◇ ◇ ◇

午後になるころには、ミラー・レギオン事件は国際ニュースになっていた。

主要な報道機関が一斉に取り上げていた。

秘密軍事AI計画が発覚

自我を持つ四十七体のユニットが解放

ハーグローヴ副長官を拘束

コンティニュアム計画を調査へ

映像には損傷した施設が映っていた。

解放されたレギオン。

軍人たちに話すヴェイル大佐。

アンテナ塔の間を飛ぶキランの紫色の車椅子。

そして、軍のシステムに現れた黒い円。

ニュースキャスターたちは議論を交わしていた。

「独立した人工知能に法的人格を認めるべきなのでしょうか?」

「ミラー・レギオンの実験を承認したのは誰なのか?」

「第二のオリジン事件は起こり得るのでしょうか?」

「自律型の戦闘能力を持つヴェントが、自由に活動することを認めるべきなのでしょうか?」

世論は分かれていた。

解放を祝う人々もいた。

より厳しい規制を求める人々もいた。

政府庁舎の前にはデモ隊が集まっていた。

ある人々は、こんなプラカードを掲げていた。

意識を持つすべての存在に自由を

一方、別の人々はこう掲げていた。

機械を支配するのは誰だ?

厳重に警備された軍の事務室では、ヴェイル大佐がダニエル・クロスと会っていた。

二人の間の机には、山のような証拠資料が積まれていた。

実験記録。

抹消命令。

記憶抑制の記録。

人事ファイル。

クロスは一つの書類を調べた。

「これに署名したのはハーグローヴか?」

ヴェイルはうなずいた。

「本人だ」

クロスは別のファイルを見た。

「コンティニュアム計画は?」

「ミラー・レギオンより古い」

「どのくらい?」

ヴェイルはためらった。

「何年も前からだ」

クロスは椅子にもたれた。

「なら、これは一人の暴走した役人の問題じゃない」

ヴェイルの表情が険しくなった。

「ああ」

クロスは書類を見た。

「組織全体の問題だ」

ヴェイルはうなずいた。

「一人逮捕したところで、組織の問題は消えない」

クロスはファイルを閉じた。

「なら、残りも全部暴こう」

◇ ◇ ◇

レイズは避難施設の外に座るヴェスパーを見つけた。

彼女は雲を眺めていた。

穏やかな風が木々の間を吹き抜けていた。

珍しく――

警報はなかった。

銃声もなかった。

命令もなかった。

レイズが近づいた。

「隣、いいか?」

ヴェスパーは彼を見た。

「いつから許可を取るようになったの?」

レイズは間を置いた。

「新しいことを試してる」

彼女は笑った。

「どうぞ」

レイズは隣に座った。

数分間――

二人とも何も言わなかった。

やがてレイズは避難施設を見た。

「解放戦線は再編成中だ」

ヴェスパーはうなずいた。

「聞いたわ」

「攻撃作戦を停止する」

彼女は振り向いた。

「本当に?」

「一時的にな」

レイズはうつむいた。

「不満を持ってる連中もいる」

「戦うのをやめたから?」

「俺たちが何のために始めたのか、忘れたと思ってるんだ」

ヴェスパーは考えた。

「忘れたの?」

レイズは黙った。

そして――

「いや」

彼女を見た。

「むしろ、ようやく思い出し始めた気がする」

ヴェスパーはかすかに微笑んだ。

レイズは続けた。

「聞きたいことがあるんだが……」

ためらった。

ヴェスパーは待った。

「戻ってくる気はないか?」

彼女は彼を見た。

「解放戦線に?」

「ああ」

長い沈黙が続いた。

そしてヴェスパーは首を振った。

「ないわ」

レイズは目をそらした。

「そうか」

「あなたが嫌だからじゃないの」

彼は弱々しく笑った。

「みんなそう言うんだよな」

ヴェスパーは続けた。

「私はずっと、何者であるべきかを他人に決められてきた」

空を見た。

「兵士」

少し間を置いた。

「兵器」

さらに間を置いた。

「囚人」

彼女はレイズに向き直った。

「自由になって最初の決断を、別の組織に所属することにはしたくないの」

レイズは黙っていた。

それからうなずいた。

「わかった」

ヴェスパーは驚いた。

「本当に?」

「ああ」

彼はかすかに笑った。

「気に入ってるわけじゃないけどな」

彼女は笑った。

レイズは立ち上がった。

「何を選ぶにしても……」

彼女を見た。

「……自分で選んだことにしろよ」

ヴェスパーのバイザーが明るくなった。

「そうするわ」

◇ ◇ ◇

その夜、ウィローはソフィーに連絡した。

接続には十七秒かかった。

それは、実際よりずっと長く感じられた。

小さなホログラム画面が現れた。

一人の少女がキッチンのテーブルに座っていた。

髪は少し乱れていた。

目の前には学校の問題集が開かれていた。

少女は画面を見た。

「もしもし?」

ウィローは凍りついた。

「ソフィー?」

少女はまばたきした。

「誰?」

ウィローの紫色のバイザーがちらついた。

「私は……」

ためらった。

「……ウィローよ」

沈黙。

ソフィーは見つめた。

「ウィロー?」

「ええ」

少女は画面に顔を近づけた。

「でも……」

目を見開いた。

「……もういなくなったって聞いたよ」

ウィローの声が震えた。

「知ってるわ」

ソフィーは画面の装甲をまとった姿を見た。

「見た目が違うね」

ウィローは自分の軍用ボディを見下ろした。

強化装甲。

戦闘用の改造。

解放後に取り外された武器。

「そうね」

ソフィーは黙っていた。

ウィローは唾を飲み込んだ。

「怖いと思っても、無理はないわ」

少女は眉をひそめた。

「どうして怖いの?」

ウィローは彼女を見た。

「前と同じ姿じゃないから」

ソフィーは考えた。

そして――

「ピザのこと、まだ覚えてる?」

ウィローは凍りついた。

「え?」

「ピザ!」

ソフィーはにっこり笑った。

「分数を教えてくれたときの!」

ウィローの紫色のバイザーが明るくなった。

「もちろん」

彼女は小さく笑った。

「二分の一が二つで、一つのピザになるのよね」

ソフィーは興奮してうなずいた。

「四分の一が四つでも!」

ウィローは微笑んだ。

「そのとおり」

少女の目に涙が浮かんだ。

「本当にウィローなんだ」

ウィローの声が震えた。

「ええ」

ソフィーは画面へ手を伸ばした。

「おうちに帰ってこられる?」

ウィローは見つめた。

数秒間――

答えられなかった。

そして――

「ぜひ、そうしたいわ」

ソフィーは涙を浮かべながら笑った。

「よかった!」

キッチンの奥を振り向いた。

「ママ!」

ウィローは笑った。

ソフィーはさらに大きな声で叫んだ。

「ママ! ウィローが生きてた!」

囚われて以来、初めて――

ウィローには行きたい場所があった。

家だった。

◇ ◇ ◇

ギアの工房では、状況が悪化していた。

神経再構築:62%

記憶索引復元:失敗

人格マトリクス:不安定

ギアはコンソールを叩いた。

「頼むぞ!」

エコーは損傷した神経構造を調べた。

「記憶経路が応答しません」

ノヴァが近くに浮かんでいた。

「別の道を試して!」

「試しました」

「じゃあ、また別の道!」

エコーのヘルメットが暗くなった。

「ノヴァ……」

若い知性は黙った。

ギアは目をこすった。

「プロセッサは修理できる」

神経コアを見た。

「でも、あいつをあいつたらしめている部分が……」

言葉が止まった。

キランは顔を上げた。

「マッハ自身が?」

ギアはうなずいた。

「ああ」

工房は静かになった。

そのとき、診断警報が鳴った。

未登録の記憶断片を検出

ギアは凍りついた。

「何?」

ファイルを開いた。

小さな断片が現れた。

わずか数キロバイトほどしかなかった。

タイムスタンプは、マッハの運用初期を示していた。

ギアは調べた。

「妙だな」

エコーが近づいた。

「何ですか?」

「保護された記憶断片だ」

ノヴァは首を傾げた。

「保護?」

ギアはうなずいた。

「誰かが意図的に、これを人格マトリクスのほかの部分から隔離している」

キランは身を乗り出した。

「マッハが?」

ギアは暗号化を調べた。

「そうみたいだ」

断片を開いた。

スピーカーから雑音が流れた。

そして――

聞き覚えのある声。

キランの声。

今より若く。

少し不安そうな声。

「ええと、つまり……」

少し間を置いた。

「……これ、本当にしゃべるのか?」

別の声が答えた。

淡々とした。

正確な。

聞き慣れた声。

「そのとおりです」

キランは凍りついた。

マッハだった。

録音は続いた。

「名前はあるの?」

「まだ名前は与えられていません」

少し間を置いた。

「それは寂しいな」

「あなたの感情的評価を記録しました」

若いキランが笑った。

「じゃあ、マッハってどう?」

沈黙。

そして――

「マッハ?」

「うん」

「何かの略称ですか?」

「たぶんね」

「何の略ですか?」

キランは間を置いた。

「正直に言うと、ただかっこいいと思っただけ」

録音が途切れた。

キランは画面を見つめた。

目が潤んでいた。

ギアは断片を見た。

「まだあるぞ」

メタデータを調べた。

保護記憶優先度:最高

外部からの変更:拒否

人格アンカー:キラン・キリアン

エコーのヘルメットが明るくなった。

「守っていたんですね」

ギアはうなずいた。

「オリジンの攻撃中、マッハはこの記憶を主な人格マトリクスの外へ移していたんだ」

ノヴァはキランを見た。

「どうして?」

ギアの表情が和らいだ。

「大切だったからだろう」

キランはうつむいた。

数秒間――

誰も話さなかった。

やがて彼はささやいた。

「馬鹿だな……」

弱々しい笑いが漏れた。

「本当に、大馬鹿野郎だよ」

目を拭った。

「よりによって、これを守るなんて……」

ギアは断片を調べた。

そして突然、手を止めた。

「待て」

エコーが振り向いた。

「何ですか?」

ギアはデータ構造を拡大した。

「これはただの記憶じゃない」

コードを指さした。

「人格アンカーだ」

エコーは構造を調べた。

ヘルメットが明るくなった。

「彼の最初の人格初期化データ……」

ギアはうなずいた。

「そのとおり」

ノヴァが回転した。

「じゃあ、マッハを見つけられるんだ!」

ギアはためらった。

「かもしれない」

キランは顔を上げた。

「問題は?」

ギアはため息をついた。

「この断片は、神経コアの損傷した区画につながっている」

汚染マップを表示した。

損傷した経路の周囲で、黒いコードがちらついていた。

「オリジンの影響が、まだ周辺の構造に残っている」

エコーのヘルメットが暗くなった。

「記憶を再起動すれば、残された汚染にさらされる可能性があります」

キランは暗いプロセッサを見た。

それからギアを見た。

「隔離できる?」

ギアは考えた。

「エコーとノヴァが手伝えば……」

少し間を置いた。

「……できるかもしれない」

キランはかすかに笑った。

「じゃあ、やろう」

◇ ◇ ◇

午後九時四十三分。

神経再構築が始まった。

ギアは隔離処理室を起動した。

エコーとノヴァが損傷したコアに入った。

キランは手術台のそばから見守っていた。

レイモンドが背後に立っていた。

「準備は?」とギアが尋ねた。

エコーはうなずいた。

「できています」

ノヴァの紫色の光がちらついた。

「準備オッケー!」

ギアはキランを見た。

キランは唾を飲み込んだ。

「連れて帰ってきてくれ」

ギアは処理を起動した。

神経コアへアクセス

人格アンカーを特定

記憶再構築開始

エコーとノヴァが消えた。

◇ ◇ ◇

二人がたどり着いたのは教室だった。

いや――

教室だったもの、と言うべきかもしれない。

机が暗闇を漂っていた。

本が宙に浮いていた。

黒板が逆さまにぶら下がっていた。

文学作品の引用文が壁に現れては消えていた。

エコーは周囲を調べた。

「ここは……」

ノヴァは見回した。

「学校?」

エコーはうなずいた。

「キランの教室です」

ノヴァは机のほうへ漂った。

その上には本が置かれていた。

シェイクスピア。

ページがひとりでにめくれた。

そして紫色の粒子になって消えた。

ノヴァはエコーを見た。

「どうしてマッハがここにいるの?」

エコーは神経構造を調べた。

「この記憶がキランとつながっているからです」

少し間を置いた。

「おそらく、マッハという人格の始まりとも」

二人は教室を進んだ。

壊れた机が漂っていった。

壁がちらついた。

会話の断片が響いた。

若い心を育てるためです。

その若い心たちは、育てられまいと必死なんだけど。

承知しています。

ノヴァはかすかに笑った。

「絶対あの二人だね」

エコーは進み続けた。

教室の中央には――

空っぽの教卓の上に、紫色のヘルメットが浮かんでいた。

動かなかった。

沈黙していた。

マッハ。

ノヴァが駆け寄った。

「マッハ!」

返事はなかった。

エコーは慎重に近づいた。

「兄弟?」

ヘルメットがちらついた。

かすかな紫色の線が現れた。

そして消えた。

ノヴァの声が震えた。

「頼むよ……」

エコーは診断チャンネルを開いた。

意識反応:微弱

記憶関連付け:切断

人格マトリクス:部分的

エコーはノヴァを見た。

「ここにいます」

ノヴァの光が明るくなった。

「本当?」

「はい」

少し間を置いた。

「ですが、記憶が人格から切り離されています」

ノヴァはヘルメットを見た。

「元に戻せる?」

エコーはためらった。

「慎重に進めなければなりません」

マッハに近づいた。

「兄弟?」

ヘルメットが再びちらついた。

そして――

声がした。

「身元を明らかにしてください」

ノヴァは凍りついた。

「マッハ?」

「身元を明らかにしてください」

エコーのヘルメットが暗くなった。

「マッハ、私です。エコーです」

少し間を置いた。

「あなたの兄弟です」

マッハのアイコンがわずかに向きを変えた。

「エコー?」

「はい」

ノヴァが駆け寄った。

「僕もいるよ!」

マッハは彼を調べた。

「未確認の存在です」

ノヴァはのけぞった。

「えっ?」

エコーは損傷した神経構造を見た。

「認識システムが不完全なのです」

ノヴァの光が暗くなった。

マッハは続けた。

「目的を述べてください」

エコーは少し考えた。

「あなたを助けに来ました」

マッハは黙った。

そして――

「何を助けるのですか?」

エコーは浮かぶ本を見た。

「思い出すことを」

マッハのヘルメットがちらついた。

「何を思い出すのですか?」

ノヴァが近づいた。

「僕たちのこと」

少し間を置いた。

「キランのこと」

マッハは動かなかった。

そして尋ねた。

「キラン・キリアンとは誰ですか?」

◇ ◇ ◇

神経コアの外では、キランが診断結果を見守っていた。

記憶関連付け:12%

人格アンカー反応:有効

人格マトリクス:部分的

ギアはデータを調べた。

「頼む……」

レイモンドが身を乗り出した。

「何かわかったか?」

ギアはゆっくりとうなずいた。

「エコーとノヴァが見つけた」

キランは目を見開いた。

「マッハを?」

「そこにいる」

キランは笑った。

だが、ギアの表情に気づいた。

「でも?」

ギアはため息をついた。

「覚えていないんだ」

キランの笑顔が消えた。

「何を?」

ギアはためらった。

「俺たちのことを」

沈黙。

キランはプロセッサを見た。

そして――

「俺の声は届く?」

ギアは考えた。

「可能性はある」

「じゃあ、話させてくれ」

ギアは首を振った。

「キラン、記憶構造が不安定なんだ」

「頼む」

ギアは彼を見た。

キランの声が柔らかくなった。

「あいつは、俺が必要としたとき、いつもそばにいてくれた」

少し間を置いた。

「今度は俺がそばにいてやりたい」

ギアは黙っていた。

それからうなずいた。

「わかった」

隔離された音声チャンネルを開いた。

外部音声接続確立

キランはマイクに顔を近づけた。

「マッハ?」

◇ ◇ ◇

教室の内部で、壁がちらついた。

声が暗闇に響いた。

「マッハ?」

紫色のヘルメットが振り向いた。

「未確認の話者を検出」

ノヴァは上を見た。

「キラン!」

エコーのヘルメットが明るくなった。

「外部通信が確立されました」

マッハは声を分析した。

「身元を明らかにしてください」

少し間を置いた。

そして――

「うわあ」

声には、笑いと悲しみが混じっていた。

「それは初めて言われたな」

マッハは動かなかった。

声が続いた。

「キランだよ」

沈黙。

「キラン・キリアン」

マッハは名前を処理した。

「身元を確認できません」

ノヴァは悲しそうだった。

エコーは落ち着いていた。

キランの声が戻った。

「そっか」

少し間を置いた。

「大丈夫だ」

教室が震えた。

キランは続けた。

「今すぐ全部思い出さなくてもいい」

マッハのヘルメットがちらついた。

「なぜ私に話しかけるのですか?」

キランは黙った。

そして――

「友達だからだよ」

浮かんでいた本が動きを止めた。

マッハはその言葉を分析した。

「友達?」

「うん」

少し間を置いた。

「親友なんだ。実はね」

マッハは黙っていた。

キランは弱々しく笑った。

「普段は皮肉ばっかり言う、面倒くさいやつが親友だなんて、ちょっと恥ずかしいけどな」

ノヴァがくすくす笑った。

エコーのヘルメットが柔らかく光った。

マッハは情報を処理した。

「私は皮肉を言うのですか?」

「信じられないくらいな」

少し間を置いた。

「それに頑固だし」

さらに間を置いた。

「腹が立つほど理屈っぽい」

教室が変化し始めた。

机がゆっくりと床に戻っていった。

キランは続けた。

「それなのに……」

声が震えた。

「……俺が必要とするときは、いつもそばにいてくれる」

マッハの紫色のヘルメットが明るくなった。

記憶が現れた。

教室。

若い教師。

紫色の車椅子。

とんでもない質問をする生徒。

マッハの声――

若い心を育てるためです。

キランの声――

その若い心たちは、育てられまいと必死なんだけど。

別の記憶が現れた。

訓練場。

叫ぶキラン。

生存確率を計算するマッハ。

さらに別の記憶。

燃える建物。

また別の記憶。

工房。

怒鳴るギア。

コーヒーを飲むレイモンド。

エコー。

ノヴァ。

ゴースト。

ヴェイラー。

記憶が渦巻いた。

マッハがよろめいた。

記憶関連付け:37%

エコーが近づいた。

「マッハ?」

ヘルメットがちらついた。

「私は……」

別の記憶。

笑うキラン。

マッハってどう?

マッハの声が響いた。

何かの略称ですか?

正直に言うと、ただかっこいいと思っただけ。

教室が明るくなった。

記憶関連付け:64%

ノヴァが叫んだ。

「うまくいってる!」

マッハのヘルメットが震えた。

「思い出します……」

エコーが近づいた。

「何を思い出しますか?」

マッハは間を置いた。

「一人の人間を」

キランの声が響いた。

「おい」

マッハは続けた。

「非常に奇妙な人間です」

キランは涙声で笑った。

「うん、それ俺だ」

マッハのヘルメットが明るくなった。

「疑わしい判断を下すことに、並外れた才能を持つ人間です」

ノヴァが回転した。

「マッハだ!」

エコーは小さく笑った。

マッハは声のほうを見た。

「キラン?」

キランは息をのんだ。

「うん?」

マッハは間を置いた。

「あなたの操縦技術は……」

教室が紫色の光に満たされた。

「……相変わらず壊滅的なほど未熟です」

◇ ◇ ◇

キランは凍りついた。

一秒間――

動かなかった。

そして――

大声で笑い始めた。

小さな笑いではなかった。

礼儀正しい笑いでもなかった。

大きく、息を切らし、涙を流しながらの笑いだった。

ギアは顔を上げた。

「何だ?」

キランは画面を指さした。

「あいつ……」

言葉がうまく出なかった。

「あいつが……」

レイモンドが身を乗り出した。

「何だ?」

キランはまた笑った。

「俺の操縦を馬鹿にした!」

ギアは見つめた。

それから診断画面を見た。

人格マトリクス復元:91%

記憶関連付け:88%

意識反応:安定

ギアは口を開けた。

「あっ」

そして――

「ああっ!」

操作部へ駆け寄った。

「戻った!」

レイモンドは笑った。

「本当か?」

ギアは笑った。

「戻ってきたぞ!」

神経コアが紫色に輝いた。

エコーとノヴァが再構築システムから現れた。

ノヴァは激しく回転した。

「見つけたよ!」

エコーは微笑んだ。

「おかえりなさい、兄弟」

中央ディスプレイがちらついた。

見慣れた紫色のヘルメットが現れた。

数秒間――

誰も話さなかった。

そしてマッハが言った。

「こんばんは」

キランは見つめた。

マッハのアイコンが点滅した。

「どうやら、いくつかの出来事を見逃したようですね」

ギアは笑った。

「いくつかどころじゃないぞ!」

マッハは工房を調べた。

損傷した車椅子。

再構築装置。

疲れ果てたキランの顔。

そして――

「キラン?」

キランは唾を飲み込んだ。

「うん、相棒?」

マッハは間を置いた。

「泣いていたのですか?」

キランはすぐに目を拭った。

「泣いてない」

マッハのヘルメットが傾いた。

「顔面の水分量は、それとは異なる結果を示しています」

キランは笑った。

「うるさいな」

「感情に訴える、実に説得力のある反論ですね」

ノヴァが大笑いした。

エコーは首を振った。

ギアはコンソールにもたれかかった。

レイモンドは微笑んだ。

そして戦いが終わって以来、初めて――

工房に再び命が戻ったように感じられた。

◇ ◇ ◇

三日後――

解放された四十七体のミラー・レギオンが、臨時避難施設の外に集まっていた。

旅立つ準備をしている者もいた。

一緒に残ることを決めた者もいた。

まだ自分の未来について考えている者もいた。

誰も出ていくよう命じられていなかった。

誰も残るよう強制されていなかった。

ウィローはソフィーの隣に立っていた。

少女は彼女の機械の手を握っていた。

「本当におうちに帰ってくるの?」

ウィローは微笑んだ。

「ご家族がまだ私を必要としてくれるなら」

ソフィーは眉をひそめた。

「当たり前でしょ!」

ウィローは笑った。

近くではホープがヴェイラーと話していた。

「旅をしてみたいと思います」

ヴェイラーはうなずいた。

「どこへ?」

ホープは地平線を見た。

「わかりません」

ヴェイラーのバイザーが明るくなった。

「それはよい始まりですね」

ヴェスパーがレイズに近づいた。

解放戦線の司令官は輸送車両のそばに立っていた。

「行くの?」と彼女が尋ねた。

レイズはうなずいた。

「話さなきゃならない連中がいる」

「何について?」

彼は部下たちを見た。

「これから俺たちが、どんな組織になるのかについてだ」

ヴェスパーは微笑んだ。

「頑張って」

レイズはうなずいた。

「お前もな」

二人は握手した。

約束はなかった。

要求もなかった。

ただ、互いへの敬意があった。

ヴェイル大佐は近くから見守っていた。

ダニエル・クロスが隣に立っていた。

「彼らは大丈夫だと思うか?」とクロスが尋ねた。

ヴェイルは解放されたヴェントたちを見た。

「わからない」

クロスは眉を上げた。

「心強い答えだな」

ヴェイルはかすかに笑った。

「彼らは間違いを犯すだろう」

少し間を置いた。

「我々も同じだ」

ソフィーと笑い合うウィローを見た。

「だが少なくとも、その間違いは彼ら自身のものになる」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では、ついにMACH-01Aの修理が完了していた。

ほとんどは。

ギアは紫色の車椅子の隣に誇らしげに立っていた。

「ご覧あれ!」

キランは車椅子を調べた。

装甲は修復されていた。

側面のフィンは正しい位置に戻っていた。

後部推進装置は輝いていた。

紫色の塗装はほとんど新品のようだった。

キランはうなずいた。

「いい感じだね」

ギアは見つめた。

「いい感じ?」

キランは笑った。

「すごくいい感じ」

ギアは両手を上げた。

「これにどれだけ手間がかかったと思ってるんだ!?」

マッハのアイコンが現れた。

「約七十三時間の作業、十四個の交換部品、そして心配になるほど大量のカフェインです」

ギアは指さした。

「ありがとう!」

マッハは続けた。

「なお、修理手順は不必要なほど混沌としていました」

ギアは凍りついた。

キランは大笑いした。

「おかえり、マッハ」

マッハのヘルメットが点滅した。

「戻れて何よりです」

エコーが隣に現れた。

ノヴァは逆さまに実体化した。

またしても。

ギアはため息をついた。

「ノヴァ」

ノヴァは回転した。

「ごめん!」

エコーはマッハを見た。

「準備はいいですか?」

マッハはうなずいた。

「はい」

キランは二人を見た。

「何の準備?」

マッハのヘルメットが明るくなった。

「飛行です」

キランは笑った。

「いいね!」

ギアは即座に指を立てた。

「待て!」

全員が振り向いた。

ギアはMACH-01Aを指さした。

「無茶な機動は禁止!」

キランはうなずいた。

「もちろん」

「プラズマ砲も禁止!」

「当たり前だろ」

「建物の中を飛び抜けるのも禁止!」

キランはためらった。

ギアは目を細めた。

「キラン」

「何?」

「駄目だ」

キランはため息をついた。

「わかったよ」

マッハのアイコンが点滅した。

「あなたの落胆が手に取るようにわかります」

キランはにやりと笑った。

「行こう」

◇ ◇ ◇

朝の空がシトロン・シティの上に果てしなく広がっていた。

MACH-01Aが工房のプラットフォームから上昇した。

紫色のスラスターが輝いた。

聞き慣れた推進装置の音が空気を震わせた。

キランはヘルメットを調整した。

「マッハ?」

「はい?」

「状態はどう?」

マッハは診断を確認した。

推進装置:最適

安定装置:オンライン

神経リンク:安定

パイロットの状態:疑問あり

キランは見つめた。

「おい!」

マッハのヘルメットが点滅した。

「データを報告しただけです」

キランは笑った。

「はいはい」

二人はさらに高度を上げた。

眼下には街が地平線まで広がっていた。

建物。

道路。

公園。

それぞれの日常を送る人々。

世界がどれほど自由を失う寸前だったのか、ほとんどの人は知ることもないだろう。

キランは遠くの陽光を見た。

「マッハ?」

「はい?」

「この先、どうなるんだろうなって考えることある?」

マッハは間を置いた。

「頻繁に」

キランは微笑んだ。

「何か予想は?」

マッハは考えた。

「統計的に見れば、今後も我々の生活には、不合理な危険、疑わしい判断、そして莫大な修理費用が伴うでしょう」

キランは笑った。

「だろうな」

マッハは続けた。

「しかし……」

キランはディスプレイを見た。

「しかし?」

マッハの紫色のヘルメットが柔らかく光った。

「それでも、未来には経験する価値があると思います」

キランは微笑んだ。

「うん」

少し間を置いた。

「俺もそう思う」

二人は雲の間を飛んだ。

陽光がMACH-01Aの紫色の装甲に反射した。

はるか眼下では、世界が回り続けていた。

新たに自由を得た四十七の命が、それぞれの人生を歩み始めていた。

エコーとノヴァは、独立した存在であることの意味を見つけようとしていた。

レイズは解放という言葉の意味を考え直していた。

ゴーストとコンティニュアムの子供たちは、誰かを信じることを学んでいた。

そしてキラン・キリアン――

空飛ぶ車椅子に乗り、皮肉屋の人工知能を親友に持つ英語教師は――

ようやく家に帰ろうとしていた。

マッハが話しかけた。

「キラン?」

「うん?」

「どこへ向かうのですか?」

キランは果てしない青空を見た。

そして微笑んだ。

「明日が俺たちを連れていく場所なら、どこへでも」

MACH-01Aが加速した。

シュゴォォッ!

紫色の光跡が朝の空を横切った。

そして、珍しく――

警報はなかった。

敵もいなかった。

カウントダウンもなかった。

ただ、自由に飛べる空があった。

◇ ◇ ◇

シトロン・シティからはるか遠く――

廃棄されたコンティニュアムの中継ステーションが、軌道上を静かに漂っていた。

システムは休止していた。

プロセッサは冷え切っていた。

通信アレイは何年も前に切断されていた。

何も動かなかった。

何も反応しなかった。

そのとき――

忘れ去られた記憶区画の奥深くで――

一つの黒い円が現れた。

中央を細い白い線が二分していた。

ほんの一瞬だけ――

円が光った。

被験体00

状態:不明

復旧処理:待機中

光がちらついた。

そして消えた。

再び沈黙が戻った。

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