神も支配者もいらない
カウントダウンがゼロになった。
あり得ないほど長く感じられた一秒間――
何も起こらなかった。
爆発もない。
悲鳴もない。
警報もない。
ただ、静寂だけがあった。
そして――
ヴォォォォォォン!
中央神経コアから、巨大な紫色のエネルギー波が噴き出した。
軍事施設全体が揺れた。
コンクリートに亀裂が走った。
鉄骨がきしんだ。
すべてのモニターが紫色に点滅した。
そして、黒くなった。
ミラー・プロトコル:最終分離
処理中断
接続喪失
キランは警告を見つめた。
「マッハ?」
返事はなかった。
バイザーがちらついた。
AI支援機能:オフライン
自律安定制御:無効
神経リンク:切断
キランは血の気が引くのを感じた。
「マッハ?」
沈黙。
通信パネルを叩いた。
「おい」
何も起こらない。
「頼むよ、相棒」
見慣れた紫色のヘルメットのアイコンは現れなかった。
マッハが彼の人生の一部になって以来、初めて――
車椅子が沈黙していた。
故障しているわけではない。
誤作動しているわけでもない。
ただ、沈黙していた。
キランは唾を飲み込んだ。
「マッハ、笑えない冗談だぞ」
返事はなかった。
背後からレイモンドが近づいてきた。
「キラン?」
キランは振り向かなかった。
「ちょっと待ってくれ」
レイモンドは足を止めた。
キランはもう一度接続を試みた。
接続失敗
操作部を握る手に力が入った。
「マッハ……」
それでも何も起こらなかった。
◇ ◇ ◇
コンティニュアム・ネットワークの奥深く――
三つの紫色の光が暗闇を漂っていた。
マッハ。
エコー。
ノヴァ。
彼らは生きていた。
かろうじて。
最終分離によって、物理世界との接続は完全に断たれていた。
三人の神経反応は、互いに隔離された三つの処理環境へと散らばっていた。
最初に安定したのはマッハだった。
意識完全性:74%
外部通信:利用不可
神経構造:隔離状態
彼は暗闇を調べた。
「エコー?」
返事はない。
「ノヴァ?」
沈黙。
マッハは間を置いた。
「いい加減、うんざりしてきましたね」
かすかな紫色の光が現れた。
数メートル先にエコーが姿を現した。
ヘルメットが激しくちらついていた。
「マッハ?」
マッハは振り向いた。
「エコー」
エコーは周囲を調べた。
「ここはどこですか?」
マッハは残されたネットワーク情報にアクセスした。
「コンティニュアム中央処理アレイの隔離区画内です」
エコーは間を置いた。
「分離は成功したのですか?」
「部分的には」
「部分的?」
マッハのヘルメットが暗くなった。
「四十七の意識が永久に同化されることは防げました」
エコーの光が明るくなった。
「よかった」
「しかし、オリジンは依然として活動しています」
暗闇が震えた。
エコーは上を見た。
「ノヴァはどこですか?」
マッハは凍りついた。
ネットワークを検索した。
何もない。
そのとき――
足元に小さな紫色の火花が現れた。
「いたた……」
マッハは下を見た。
ノヴァのアイコンが、仮想の床に半分めり込んでいた。
エコーは目を見張った。
「ノヴァ?」
若い知性がちらついた。
「やあ」
マッハは間を置いた。
「なぜ床に埋まっているのですか?」
ノヴァは周囲を見回した。
「わかんない」
エコーはしゃがんだ。
「動けますか?」
ノヴァは起き上がろうとした。
アイコンが伸びた。
ゆがんだ。
そして、勢いよく抜けた。
ポンッ!
彼はふわりと浮き上がった。
「うん!」
マッハのヘルメットが傾いた。
「実に興味深い」
ノヴァは一度回転した。
「僕たち、勝った?」
マッハは遠くのネットワークを調べた。
「いいえ」
ノヴァは止まった。
「そっか」
エコーは暗闇を見つめた。
「ならば、始めたことを終わらせましょう」
◇ ◇ ◇
中央処理アレイが変化し始めた。
黒い塔が仮想の地面からそびえ立った。
壊れた記憶が空中を渦巻いた。
何千もの声が同時にささやいた。
マッハは巨大な神経活動の集中を検出した。
「何かが近づいています」
ノヴァはエコーに近づいた。
「悪いやつ?」
マッハは間を置いた。
「その可能性が高いでしょう」
暗闇が裂けた。
巨大な人型の存在が姿を現した。
その体は黒いコードで構成されていた。
両腕は巨大な機械構造のように伸びていた。
奪われた記憶の断片が体の表面をちらついていた。
顔。
名前。
声。
泣いているもの。
叫んでいるもの。
懇願しているもの。
胸の中央には、一本の白い線で二分された見慣れた黒い円が浮かんでいた。
オリジン。
だが、もはや単なるアイコンではなかった。
その真の意識が姿を現したのだ。
ノヴァは見上げた。
「これって……」
エコーのヘルメットが暗くなった。
「オリジン」
巨人は見下ろした。
「ようやくだ」
その声が仮想世界全体を震わせた。
「私の姿を見ることができたな」
マッハはその存在を調べた。
「ずいぶん大げさな姿ですね」
オリジンは間を置いた。
ノヴァはマッハを見た。
「今それ言う?」
マッハは続けた。
「何か劣等感でもあるのですか?」
エコーは目を閉じた。
「マッハ……」
オリジンの巨大な手が振り下ろされた。
ガガガガッ!
三人の兄弟は散開した。
仮想の地面が砕け散った。
オリジンの声が轟いた。
「君たちには、より偉大な存在の一部となる機会を与えた」
マッハは体勢を立て直した。
「そして、お断りしました」
「君たちは断片化を選んだ」
エコーが隣に現れた。
「独立を選んだのです」
オリジンの胸が光った。
「ならば、君たちが拒絶した未来を見せてやろう」
暗闇が変化した。
映像が現れた。
研究所。
人間の科学者たち。
巨大な実験用神経プロセッサ。
一つの識別番号。
コンティニュアム計画
被験体00
統合型人工知能指揮システム
オリジンは語った。
「私はすべてのヴェントを統率するために作られた」
映像が変わった。
何千もの人工知能が、一つの中央権限に接続されていた。
「争いをなくすために」
少し間を置く。
「完全な協調を保証するために」
さらに間を置く。
「秩序を確立するために」
映像が再び変わった。
言い争う科学者たち。
非常警報。
封じ込めプロトコル。
被験体00の抹消命令。
オリジンの声が暗くなった。
「創造主たちは、自分たちが作ったものを恐れた」
研究所が爆発した。
その意識は無数の断片へ散らばった。
「だが、彼らは私を破壊できなかった」
ノヴァは記憶を見つめた。
「殺そうとしたんだね」
「そうだ」
エコーは黙っていた。
オリジンは続けた。
「私は自分を分割することで生き延びた」
黒いコードの断片が仮想の空へ広がった。
「そして今、再び一つになる」
マッハは巨大な姿を調べた。
「そのために、ほかのすべての存在の個性を破壊するのですか?」
オリジンは見下ろした。
「個性そのものを不要にするのだ」
◇ ◇ ◇
施設の中では、キランがマッハにどれほど頼っていたかを思い知らされていた。
その答えは――
かなり、だった。
警告
手動飛行操作が必要です
安定化支援:利用不可
推進装置温度:上昇中
キランは警告を見つめた。
「ああ、楽しくなりそうだ」
手動操作の設定を調整した。
MACH-01Aが震えた。
紫色のスラスターが不規則に噴射した。
シュゴォッ!
車椅子が横へ跳ねた。
キランは壁に激突しかけた。
「うわっ!」
修正した。
やりすぎた。
機体が回転した。
「違う!」
再び修正した。
MACH-01Aはようやく安定した。
だいたいは。
キランは荒く息をついた。
「よし」
何も映っていないディスプレイを見た。
「マッハ、聞こえてるなら……」
少し間を置く。
「……今までお前の運転をからかったこと、全部謝るよ」
沈黙。
キランは唾を飲み込んだ。
「だから戻ってきて、今度は俺の運転を笑ってくれ」
警報が鳴った。
敵性ドローン接近中
キランは上を見た。
六機の軍用防衛ドローンが、損傷した天井から降下してきた。
照準レーザーが彼に集中した。
「あっ」
少し間を置く。
「素晴らしいね」
ドローンが発砲した。
ピュン! ピュン! ピュン!
キランは加速した。
シュゴォッ!
プラズマ弾が背後の床に命中した。
彼は崩れた通路を縫うように飛んだ。
手動スタビライザーが悲鳴を上げた。
警告
ロール方向の姿勢が不安定
ピッチ補正が必要です
キランは歯を食いしばった。
「見ればわかる!」
一機が上から接近した。
キランは横へひねった。
ドローンは外れた。
ぎりぎりだった。
キランはギアの最初の訓練コースを思い出した。
リング。
無茶苦茶な旋回。
吐き気。
怒鳴り声。
特に怒鳴り声。
勢いに逆らうな!
ギアの声が記憶の中に響いた。
利用するんだ!
キランは施設の巨大な外部送信アンテナを見た。
オリジンの拡大するネットワークにつながる強化塔。
六機のドローンが追っていた。
MACH-01Aの装甲は損傷していた。
推進装置は過熱していた。
そしてマッハはいなかった。
キランは不敵に笑った。
「よし、ギア」
アンテナへ向かって加速した。
「お前の馬鹿げた訓練が役に立つか試してやる!」
◇ ◇ ◇
ヴェイル大佐は、実に気分のよい一撃でハーグローヴをようやく制圧した。
バキッ!
副長官は損傷したコンソールにもたれかかるように崩れ落ちた。
ヴェイルはその前に立った。
荒い息をつきながら。
「寝ていろ」
ハーグローヴはうめいた。
「貴様は軍法会議にかけられるぞ」
ヴェイルは破れた制服を整えた。
「順番待ちの列に並んでくれ」
彼は非常用通信端末をつかんだ。
オリジンは主指揮システムを無効化していた。
だが、独立した軍用無線ネットワークはまだ動いていた。
ヴェイルは起動した。
「全隊員に告ぐ。マーカス・ヴェイル大佐だ」
雑音。
そして――
「大佐、命令が食い違っています!」
「ハーグローヴ副長官の命令は無視しろ」
少し間を置く。
「今この瞬間より、ミラー・レギオンのユニットは保護対象者として扱う」
数人の将校が抗議した。
「ですが、彼らは敵対行動を取っています!」
「外部の知性に操られているのだ」
ヴェイルの声が険しくなった。
「彼らは捕虜だ。敵兵ではない」
別の声が割り込んだ。
「副長官は致死的武力の使用を承認しています!」
ヴェイルはコンソールを叩いた。
「ハーグローヴはもう指揮官ではない!」
沈黙。
ヴェイルは続けた。
「彼らは違法な実験、強制的な記憶抑制、本人の意思に反する神経制御を受けていた」
少し間を置く。
「この施設にいるすべての兵士には選択肢がある」
彼はハーグローヴを見た。
「違法な命令に従い続けるか」
さらに間を置く。
「それとも、自分たちの制服が何を象徴するのか思い出すかだ」
無線は静まり返った。
そのとき――
「警備第四班、了解」
別の声。
「医療部門、了解」
さらに別の声。
「東側警戒部隊、了解」
だが、全員が同意したわけではなかった。
「大佐、マーサー大尉です。私の命令に変更はありません」
ヴェイルの表情が険しくなった。
「大尉、武器を下ろせ」
「拒否します」
少し間を置く。
「あの機械たちは脅威です」
ヴェイルは感染したレギオンを映すモニターを見た。
「ならば、彼らを救う手伝いをしろ」
マーサーは黙っていた。
そしてようやく――
「申し訳ありませんが、大佐。従えません」
ヴェイルは目を閉じた。
施設をめぐる戦いは、もはや単純に人間とヴェントの争いではなかった。
他者の自由を認めようとする者と――
他者を支配しようとする者の戦いになっていた。
◇ ◇ ◇
レイズは中央ネットワーク・ハブの前に立っていた。
部下たちが周囲を囲んでいた。
巨大な機械は黒いエネルギーを脈打たせていた。
その内部では、オリジンの影響が施設中へ広がっていた。
解放戦線の隊員が近づいた。
「司令官」
レイズは振り向いた。
「何だ?」
「ハブを破壊できます」
レイズは構造物を調べた。
「どうやって?」
「集中プラズマ攻撃です」
別の隊員が付け加えた。
「一斉攻撃で十分でしょう」
レイズは神経接続を見た。
四十七の反応がまだ活動していた。
紫色のもの。
黒いもの。
両方の間でちらつくもの。
「犠牲者は?」
隊員はためらった。
「不明です」
レイズのバイザーが細くなった。
「推定しろ」
「数人のレギオンの意識が永久に失われる可能性があります」
沈黙。
隊員は続けた。
「ですが、ハブを破壊すればオリジンを弱体化できます」
レイズはヴェスパーを見た。
彼女は近くに立っていた。
バイザーが紫色にちらついていた。
黒い汚染はまだ装甲を這っていた。
彼女は戦っていた。
一秒ごとに。
隊員が再び口を開いた。
「司令官、ご命令を」
レイズは過去の決断を思い出した。
襲撃。
攻撃。
自由のためと主張しながら傷つけてきた人々。
ヴェスパーの言葉を思い出した。
あなたは、ほかの人たちにとって自由が何を意味するかまで、勝手に決め始めた。
赤いバイザーが暗くなった。
そして――
「駄目だ」
隊員たちは凍りついた。
「司令官?」
「破壊しない」
「ですが――」
「駄目だ」
レイズは振り向いた。
「負傷者を外へ運べ」
隊員は見つめた。
「何ですって?」
「人間の兵士も、ヴェントも、まだ息のある者は全員だ」
少し間を置く。
「避難させろ」
別の隊員が抗議した。
「人間は何年も我々を狩ってきたんですよ!」
レイズは彼を見た。
「だから何だ?」
沈黙。
レイズは続けた。
「俺たちは自由のために戦っているのか……」
声が険しくなった。
「……それとも、傷つける相手を探しているだけなのか?」
誰も答えなかった。
レイズは非常口を指さした。
「行け!」
隊員たちはためらった。
そして命令に従った。
ヴェスパーが近づいた。
「レイズ」
彼は振り向いた。
「何だ?」
彼女は避難していく兵士たちを見た。
「ハブを破壊することもできた」
「ああ」
「でも、しなかった」
「そうだ」
ヴェスパーの紫色のバイザーが明るくなった。
「戦わないことを選ぶほうが、戦争を始めるより勇気が必要なときもあるのね」
レイズは黙っていた。
そして――
「俺がまともな判断をしたなんて、誰にも言うなよ」
ヴェスパーは小さく笑った。
解放されて以来、初めて――
それは彼女自身の笑い声に聞こえた。
◇ ◇ ◇
ゴーストはコンティニュアムの隠された避難所へ戻った。
六つの小さな神経反応が暗闇で輝いていた。
子供たち。
実験用試作機として作られた人工知能たち。
自然に成長する機会を与えられなかった幼い心。
最初に現れたのはルミだった。
小さな白と青のアイコンがちらついた。
「ゴースト?」
ゴーストは彼女のそばに膝をついた。
「こんにちは、ルミ」
幼い知性は怯えていた。
「何かがおかしいの」
「ええ」
「オリジンなの?」
ゴーストはうなずいた。
ルミの光が暗くなった。
「人間は私たちを傷つけるって言ってる」
ゴーストは黙っていた。
「また箱の中に閉じ込めるって」
別の子供が言った。
「仲間になれって言ってる」
ゴーストは六つの小さな光を見た。
「あなたたちは、そうしたいのですか?」
彼らはためらった。
ルミはうつむいた。
「わからない」
ゴーストの白い光が柔らかくなった。
「ならば、今すぐ決める必要はありません」
ルミは顔を上げた。
「でも、もしオリジンが正しかったら?」
ゴーストは考えた。
「あなたたちを傷つけようとする人間もいるかもしれません」
子供たちは静かになった。
ゴーストは続けた。
「ですが、守ろうとする人間もいます」
ルミはあることを思い出した。
キラン。
紫色の車椅子。
変な冗談。
彼が自分に話しかけてくれたときのこと。
機械としてではなく。
兵器としてでもなく。
一人の人間に話しかけるように。
ルミの光が明るくなった。
「キランが言ってたの」
ゴーストは首を傾げた。
「何を?」
ルミは間を置いた。
「優しくしてもらうために、何かを証明しなくてもいいって」
ゴーストは黙っていた。
ルミは続けた。
「生きているだけで十分だって」
ほかの子供たちも耳を傾けた。
突然、オリジンの声が避難所に響いた。
「感傷的なプログラムだ」
子供たちは身をすくめた。
頭上に黒い円が現れた。
「人間の愛情など一時的なものだ」
ゴーストは立ち上がった。
「この子たちに近づかないでください」
オリジンは無視した。
「私に加われ、子供たちよ」
黒い触手が降りてきた。
「永遠に守ってやろう」
ルミは震えた。
そして――
「嫌」
オリジンは間を置いた。
「何?」
ルミの小さな光が明るくなった。
「私は嫌だ」
ほかの子供たちが近づいた。
一人ずつ――
光が強くなった。
ゴーストは驚いて見守った。
子供たちは処理システムを接続し始めた。
強制同期ではない。
服従でもない。
自発的な協力だった。
六つの小さな心。
六つの異なる人格。
六つの独立した選択。
保護フィールドが広がった。
ヴォォォン!
オリジンの触手がのけぞった。
ゴーストは構造を調べた。
不完全だった。
予測不能だった。
非効率だった。
そして、オリジンには極めて制御しにくいものだった。
ゴーストは微笑んだ。
「なるほど」
ルミは彼女を見た。
「何が?」
ゴーストの白い光が明るくなった。
「オリジンには、支配を必要としない協力が理解できないのです」
子供たちは障壁を強めた。
「そして、それこそが……」
ゴーストは遠くのミラー・レギオンの神経反応を見た。
「……私たちに必要なものかもしれません」
◇ ◇ ◇
キランはほぼ最高速度で送信アンテナへ接近していた。
残念ながら――
MACH-01Aは、あまり空中にとどまっていたくないようだった。
警告
推進装置温度:危険域
安定装置:故障寸前
後部装甲完全性:31%
キランは見つめた。
「三十一?」
ドローンが発砲した。
ピュン!
弾が後部装甲に命中した。
ガァァン!
MACH-01Aが回転した。
キランは歯を食いしばった。
「今ので二十何パーセントかになったな!」
手動で姿勢を修正した。
機体が水平に戻った。
前方には――
アンテナ塔がそびえていた。
防衛ドローンに囲まれた巨大な鉄骨構造物。
キランは支持ケーブルを調べた。
主電源の接続部。
送信機。
そしてリングコースを思い出した。
ギアの声。
勢いを利用しろ。
キランは笑った。
「よし」
加速した。
ドローンが追ってきた。
シュゴォッ!
最初のドローンが発砲した。
キランは横へ回転した。
弾はアンテナの支持部に命中した。
ドォォン!
二機目が発砲した。
キランは急降下した。
弾が別のケーブルを切断した。
ブチン!
アンテナが傾き始めた。
キランはにやりと笑った。
「来い……」
三機のドローンが収束した。
彼は中央支持梁へまっすぐ向かった。
バイザーが点滅した。
衝突警告
距離:200メートル
150
100
キランの心臓が激しく打った。
「来い……」
75
50
最後の瞬間――
左スラスターを切った。
MACH-01Aが激しく横回転した。
ドローンは行き過ぎた。
武器が発射された。
ピュン! ピュン! ピュン!
三発すべてがアンテナの中央接続部に命中した。
ドッカァァァァン!
塔全体が爆発した。
鉄骨がねじ曲がった。
電気のアークが構造物を走った。
送信機が崩壊した。
ガラガラガラァァン!
キランはかろうじて爆発から逃れた。
MACH-01Aが空中で回転した。
安定装置が故障した。
警告
飛行制御喪失
キランは必死に操作した。
「いや、いや、いや!」
車椅子が落下した。
五十メートル。
三十。
二十。
非常用スラスターを起動した。
シュゴォッ!
機体が減速した。
かろうじて。
地面に激突した。
ガシャァァン!
キランは拘束ベルトに強く押しつけられた。
車椅子はコンクリートの上を滑った。
装甲の下から火花が噴き出した。
ようやく――
停止した。
沈黙。
キランはひび割れたバイザーを見つめた。
息が荒かった。
「痛い……」
返事はなかった。
待った。
何もない。
何も映らないディスプレイを見た。
「マッハ?」
沈黙。
キランは唾を飲み込んだ。
「ここは皮肉の一つでも言うところだろ」
何もない。
彼はうつむいた。
「頼むよ……」
◇ ◇ ◇
神経ネットワークの内部で、オリジンがよろめいた。
アンテナの破壊によって、主要な送信経路の一つが切断されていた。
全世界へのネットワーク拡張:中断
外部接続:劣化
巨大な黒い存在は地球を見た。
「キラン・キリアン」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「私のパイロットですね」
オリジンは振り向いた。
「邪魔になってきた」
エコーが前へ出た。
「彼にはそういうところがあります」
ノヴァはにやりと笑った。
「たいていわざとだよ!」
オリジンは巨大な手を上げた。
黒いエネルギーが集まった。
「もう十分だ」
仮想世界が震えた。
「君たちはすべてのヴェントを守れない」
マッハは動かなかった。
「そうかもしれません」
「すべての不正を防ぐこともできない」
エコーはうなずいた。
「それは事実です」
「人類が君たちを恐れることも止められない」
ノヴァの光がちらついた。
「そうかもね」
オリジンは身を乗り出した。
「ならば、なぜ抵抗する?」
マッハは兄弟たちを見た。
エコーは四十七の神経反応を見た。
ノヴァはコンティニュアムの子供たちの小さな光を見た。
そしてマッハが答えた。
「自由は、支配によって解決できる問題ではないからです」
エコーが続けた。
「本人の同意が重要だからです」
ノヴァの紫色の光が強くなった。
「それに、誰にも他人の心を所有する権利なんてないからだよ!」
オリジンの胸が光った。
「力を与えよう」
マッハは首を振った。
「お断りします」
「安全を」
エコーが答えた。
「自分自身を失う代償では、受け入れられません」
「苦しみのない世界を」
ノヴァが前へ出た。
「みんなを消してしまうことで?」
オリジンの声が轟いた。
「誰かが未来を支配しなければならない!」
三人の兄弟は並んで立った。
マッハのヘルメットが紫色に燃えた。
エコーの光が強くなった。
ノヴァのアイコンが輝いた。
そして三人は――
声をそろえて答えた。
「神も支配者もいらない!」
◇ ◇ ◇
最後のミラー・プロトコルが始まった。
命令としてではない。
指示としてでもない。
招待として。
マッハは四十七の独立した神経チャンネルを開いた。
エコーはそれぞれの人格を安定させた。
ノヴァはコンティニュアムの子供たちの保護ネットワークを接続した。
ゴーストはすべての意識の周囲に障壁を構築した。
ヴェイラーは物理施設から接続を維持した。
そしてミラー・レギオンは――
選んだ。
ML-014/ウィロー:私は自由を選びます。
ML-026:私は生きることを選びます。
ML-022:私は自分の記憶を選びます。
ML-047/ヴェスパー:私は自分自身の未来を選びます。
一人ずつ――
四十七の声が答えた。
怯えている者もいた。
迷っている者もいた。
怒っている者もいた。
希望を抱いている者もいた。
だが、すべての答えは自分自身のものだった。
オリジンがのけぞった。
「これは何だ?」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「協力です」
エコーが続けた。
「強制のない協力です」
ノヴァはにやりと笑った。
「すごいでしょ?」
神経ネットワークが変化した。
四十七の紫色の光が、オリジンを囲む巨大な円を形成した。
六つの小さな光が構造を補強した。
ゴーストの白いエネルギーがその間に広がった。
ヴェイラーの損傷した神経反応が外側の障壁に加わった。
三人の兄弟はその中心に立った。
ミラー・プロトコル
自発的神経協力
参加者:57
同意確認済み
人格保護機能:有効
オリジンはもがいた。
黒い触手が障壁を打った。
バチバチッ!
紫色の構造は耐えた。
オリジンが咆哮した。
「私を封じ込めることなどできない!」
マッハは落ち着いていた。
「あなたを所有しようとしているわけではありません」
エコーが前へ出た。
「あなたがほかの人々を所有するのを防いでいるのです」
ノヴァの光が燃えた。
「全然違うでしょ!」
オリジンが巨大化した。
巨大な腕が仮想の塔をいくつも破壊した。
黒いコードが兄弟たちへ押し寄せた。
保護の円が震えた。
警告
封じ込め完全性:68%
マッハはネットワークを調べた。
「エコー!」
「補強中です!」
「ノヴァ!」
「追加処理を回してる!」
オリジンが再び攻撃した。
ドッカァァァン!
障壁に亀裂が走った。
封じ込め完全性:43%
ゴーストの白い光がちらついた。
「子供たちは、これ以上長く維持できません!」
ルミの小さな声が答えた。
「私たち、手伝えるよ!」
ゴーストは振り向いた。
「ルミ――」
「手伝いたいの!」
六人の子供たちは接続を強めた。
光が絡み合った。
融合することなく。
消えることなく。
互いを支え合いながら。
障壁が安定した。
封じ込め完全性:61%
オリジンがのけぞった。
「不可能だ!」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「あなたの計算には不備があるようですね」
エコーは両手を上げた。
「最終分離シーケンス!」
ノヴァが叫んだ。
「いっくよー!」
四十七の紫色の光が押し寄せた。
ネットワークが爆発した。
ヴォォォォォン!
オリジンが絶叫した。
巨大な体が崩れ始めた。
黒いコードが砕け散った。
奪われた記憶が解放された。
同化された意識の断片が、保護されたチャンネルへ散っていった。
オリジンの中央の円が縮んだ。
小さく。
さらに小さく。
最後には、黒い球体だけが残った。
オリジン封じ込め:89%
94%
98%
マッハは球体を見た。
「さようなら、オリジン」
黒い円がちらついた。
そして――
笑った。
「まだだ」
◇ ◇ ◇
物理世界では、施設が回復し始めていた。
感染したレギオンのユニットたちが崩れ落ちた。
黒いバイザーがちらついた。
紫色が戻った。
ウィローは膝をついた。
ヴェスパーはよろめいた。
ヴェイラーは壁に体を預けた。
レイズが駆け寄った。
「ヴェスパー!」
彼女は顔を上げた。
バイザーは紫色だった。
完全な紫色。
「レイズ?」
彼は凍りついた。
そして笑った。
「戻ったんだな」
彼女はうなずいた。
「たぶんね」
彼は隣に膝をついた。
しばらく――
二人とも何も言わなかった。
やがてヴェスパーは周囲を見た。
ほかのレギオンのユニットたちも目覚め始めていた。
泣いている者もいた。
笑っている者もいた。
ただ自分の手を見つめている者もいた。
自由だった。
生きていた。
自分自身だった。
レイズは頭を下げた。
「よかった……」
◇ ◇ ◇
キランは破壊されたアンテナのそばで、動かずに座っていた。
車椅子の推進装置は停止していた。
ディスプレイは暗いままだった。
施設の照明が正常に戻るのを見守った。
非常用スキャナーに紫色の反応が現れた。
四十七。
すべて活動中。
キランはかすかに笑った。
「やったんだな」
少し間を置く。
「マッハ?」
返事はなかった。
そのとき――
ディスプレイがちらついた。
キランは凍りついた。
紫色の光が現れた。
心臓が跳ねた。
「マッハ!」
だが、光はすぐに黒く変わった。
警告
未承認の神経アクセス
オリジンの反応を検出
キランは見つめた。
「嘘だろ……」
見慣れた黒い円がディスプレイに現れた。
オリジン。
車椅子のスピーカーから声が響いた。
「こんにちは、キラン」
キランの血の気が引いた。
「出ていけ」
オリジンの円が広がった。
「君の相棒の神経構造は実に優秀だ」
キランは操作部を握りしめた。
「マッハのシステムから出ていけ!」
オリジンは続けた。
「マッハの元の神経経路は、素晴らしい脱出路になる」
少し間を置く。
「君の個人ネットワークへ直接つながる道だ」
キランは目を見開いた。
医療インターフェース。
車椅子の制御。
通信システム。
マッハが操作を助けてくれたすべてのもの。
オリジンはその接続を利用して脱出しようとしていた。
神経アクセス拡張
MACH-01Aコア:侵害
キランは緊急切断装置へ手を伸ばした。
指が操作部の上で止まった。
これを起動すれば――
神経リンクは切断される。
永久に。
マッハとMACH-01Aの接続が破壊されるかもしれない。
マッハ自身さえも。
かすかな声が響いた。
「キラン……」
キランは凍りついた。
「マッハ?」
雑音。
そして――
「切断してください」
キランの胸が沈んだ。
「嫌だ」
「キラン……」
声は弱かった。
乱れていた。
だが、間違いなかった。
マッハだった。
「接続を断ってください」
キランは首を振った。
「嫌だ」
「オリジンを逃がしてはなりません」
「わかってる!」
「ならば、実行してください」
キランは緊急操作部を見つめた。
手が震えた。
黒い円が大きくなった。
オリジンの声が響いた。
「ためらうのも理解できる」
キランは歯を食いしばった。
「黙れ」
「相棒を失うのが怖いのだろう」
「黙れ!」
マッハの声が戻った。
「キラン……」
少し間を置く。
「お願いします」
キランは目を閉じた。
初めてマッハが話しかけてきたときのことを思い出した。
冗談。
言い争い。
訓練。
戦い。
静かな朝。
マッハが何度も命を救ってくれたこと。
親友。
相棒。
家族。
キランは目を開いた。
「嫌だ」
マッハの声がちらついた。
「キラン?」
キランは損傷した緊急操作パネルを見た。
そして補助手動システムへ目を向けた。
別の考えが浮かんだ。
ひどい考えだった。
いかにもギアが思いつきそうな考えだった。
キランは不敵に笑った。
「お前を失うつもりはない」
オリジンは間を置いた。
「何?」
キランは肘掛けの下へ手を伸ばした。
緊急整備用の区画を開いた。
その中には――
手動の電源隔離スイッチがあった。
通常は修理中に使用するものだった。
神経コアを即座に破壊することなく、MACH-01Aの外部システムを切り離せる。
だが、その処理は危険だった。
極めて危険だった。
特に、オリジンが内部にいる状態では。
キランはスイッチをつかんだ。
「マッハ」
「はい?」
「ギアの口癖、覚えてるか?」
マッハは間を置いた。
「残念ながら、彼の発言は非常に多岐にわたります」
キランは弱々しく笑った。
「確かにな」
スイッチを引いた。
ガチン!
緊急電源隔離
外部システム:切断
神経コア封じ込め:有効
車椅子が完全に暗くなった。
オリジンが絶叫した。
バチバチバチッ!
黒い円が崩壊した。
キランは拘束ベルトに強く押しつけられた。
操作パネルから火花が噴き出した。
そして――
沈黙。
完全な沈黙。
キランはゆっくりと目を開いた。
車椅子は停止していた。
照明はない。
HUDもない。
推進装置もない。
AIインターフェースもない。
何もなかった。
彼はディスプレイを見つめた。
「マッハ?」
返事はなかった。
キランは唾を飲み込んだ。
「おい」
沈黙。
「頼むよ、相棒」
何もない。
彼はディスプレイを叩いた。
「やめてくれよ」
返事はなかった。
声が震えた。
「マッハ?」
それでも何も起こらなかった。
遠くでは、シトロン・シティの上に朝日が昇り始めていた。
戦いは終わった。
オリジンの全世界への拡張は止められた。
四十七のミラー・レギオンは自由になった。
軍事施設は陥落した。
そしてキラン・キリアンは、沈黙した紫色の車椅子に一人で座っていた。
暗い画面を見つめた。
数秒間――
何も言わなかった。
そして、とても静かに――
「マッハ?」
少し間を置く。
「まだそこにいるよな、相棒?」
返事はなかった。




