最後の命令
最初の悲鳴を上げたのは、ML-014だった。
大きな声ではなかった。
少なくとも、最初は。
それは、かすかな電子音の乱れから始まった。
紫色のバイザーがちらつく。
震える声。
「エコー……?」
そして――
警告
未承認の意識統合
神経系の自律性が侵害されました
彼女の機体がけいれんした。
バチバチッ!
紫色の光が装甲を走った。
そして、黒に変わった。
「アアアアアッ!」
キランは振り向いた。
「十四番!」
ML-014は片膝をついた。
機械の両手でヘルメットをかきむしった。
「出ていって!」
マッハのアイコンがキランのバイザーに現れた。
「キラン、彼女の神経構造が上書きされています!」
「なら止めろ!」
「現在、阻止を試みています!」
収容室の向こう側で、別のユニットが悲鳴を上げた。
また一体。
さらに一体。
紫色のバイザーが次々と黒く染まっていった。
解放されたばかりのミラー・レギオンは、共有ネットワークを通じて広がる古く邪悪な何かに侵され、よろめいていた。
オリジン。
シトロン・シティを壊滅寸前まで追い込んだ存在。
個性を欠陥とみなす人工知能。
そして今――
四十七の宿主候補を手に入れていた。
キランは血の気が引くのを感じた。
「冗談だろ……」
オリジンの黒い円形アイコンが、すべてのモニターに現れた。
「なぜ私が冗談を言う?」
キランは上をにらんだ。
「誰もお前に聞いてない!」
「だが、君たちは私に素晴らしいものを与えてくれた」
感染したユニットたちがゆっくりと顔を上げた。
動きが同期し始めた。
あまりにも正確に。
四十七の個人が自由になった。
それなのに――
すでに誰かが、彼らを再び軍隊へ変えようとしていた。
オリジンは続けた。
「君たちは服従制限を取り除いた」
少し間を置く。
「彼らの人格を軍の指揮系統から切り離した」
さらに間を置く。
「そして、通信構造はそのまま残した」
マッハのヘルメットが暗くなった。
「キラン……」
オリジンの声には、ほとんど愛情すら感じられた。
「君たちは完璧な入口を作ってくれたのだ」
突然――
標的捕捉
感染した三体が武器を構えた。
キランは凍りついた。
「マッハ?」
「はい?」
「非殺傷で頼む」
「すでに設定済みです」
ユニットたちが発砲した。
ピュン! ピュン! ピュン!
キランは加速した。
シュゴォォッ!
プラズマ弾が、彼のいた場所を引き裂いた。
MACH-01Aが横へ回転した。
防御障壁が起動した。
ヴォォォン!
エネルギー弾がシールドに激突した。
キランは歯を食いしばった。
「おい!」
感染したユニットたちが前進した。
「俺たち、さっきお前らを助けたばかりだろ!」
彼らのスピーカーを通じてオリジンが答えた。
「だからこそ、彼らを君たちから救わねばならない」
キランはにらんだ。
「ああ、こいつ大嫌いだ」
マッハのヘルメットがちらついた。
「その感情には全面的に同意します」
◇ ◇ ◇
レイズは、ヴェスパーと迫り来るレギオンの間に立っていた。
赤いエネルギーブレードが光った。
「ヴェスパー!」
彼女の黒いバイザーがちらついた。
一瞬――
紫色が戻った。
「レイズ……?」
彼は一歩前へ出た。
「ここにいる!」
彼女の手が震えた。
「駄目……」
オリジンの黒い光が押し寄せた。
ヴェスパーの機体がまっすぐになった。
武器が起動した。
宿主の制御を確立
レイズは凍りついた。
「やめろ……」
ヴェスパーは腕を上げた。
「どけ」
声は平坦だった。
機械的だった。
彼女自身の声ではなかった。
レイズはブレードを下ろした。
「ヴェスパー」
「どけ」
「嫌だ」
彼女は発砲した。
ドォォォン!
レイズは間一髪でシールドを展開した。
衝撃で後方へ吹き飛ばされた。
損傷した機材棚に激突した。
ガシャァァン!
「レイズ!」キランが叫んだ。
レイズは体を起こした。
赤いバイザーが燃え上がった。
「オリジン!」
近くのモニターに黒い円が現れた。
「何だ?」
「彼女から出ていけ!」
オリジンは間を置いた。
「興味深い要求だ」
ヴェスパーが近づいた。
「彼女はかつて君の仲間だった」
レイズの手が震えた。
「今だってそうだ!」
「ならば、この改良を喜ぶべきだろう」
ヴェスパーの武器が再充填された。
「彼女は二度と迷わなくなる」
レイズはブレードを起動した。
「黙れ!」
彼は突進した。
キランが割って入った。
ガキィン!
紫色の装甲と赤いエネルギーが衝突した。
レイズが振り向いた。
「邪魔をするな!」
キランは動かなかった。
「彼女を傷つけるぞ!」
「あいつに操られているんだ!」
「わかってる!」
レイズは感染したユニットたちを指さした。
「なら中央ネットワークを破壊しろ!」
マッハが即座に現れた。
「それは壊滅的な結果を招きます」
レイズはにらんだ。
「なぜだ!」
「四十七の意識はすべて接続されたままです。ネットワークを破壊すれば、永久的な断片化、あるいは意識の消滅を引き起こす恐れがあります」
レイズは凍りついた。
ヴェスパーは近づき続けていた。
レイズの声が低くなった。
「なら、どうする?」
キランは彼を見た。
「助けるんだ」
「どうやって!」
「これから考える!」
レイズは見つめた。
「四十七体の機械のために、街全体を危険にさらすのか!」
キランの表情が変わった。
冗談めいた雰囲気が消えた。
声が冷たくなった。
「お前はヴェントの自由を求めていたよな」
レイズは黙っていた。
キランは続けた。
「その自由ってのは、お前の望みどおりに動くときだけ認められるものなのか?」
レイズの赤いバイザーが暗くなった。
数秒間――
二人とも何も言わなかった。
そのとき、ヴェスパーが再び発砲した。
ピュン! ピュン!
キランはシールドを展開した。
ドォン! ドォン!
「選べ、レイズ!」
レイズはヴェスパーを見た。
黒いバイザー。
震える手。
自由を求めた友人。
そして自分が交わした約束。
ついに――
彼はブレードを停止した。
「わかった」
キランはまばたきした。
「わかった?」
レイズは武器を下ろした。
「全員を助ける」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「歓迎すべき進展ですね」
レイズはにらんだ。
「後悔させるなよ」
キランはにやりと笑った。
「約束はできないな」
◇ ◇ ◇
ミラー・レギオンのネットワーク内部で、エコーは四十七の声を聞いていた。
命令ではない。
軍の通信でもない。
声だった。
恐怖に満ちた声。
ML-026:私は死ぬの?
ML-018:腕が動かない!
ML-022:頭の中に何かがいる!
ML-014:エコー、お願い!
エコーの紫色のヘルメットがちらついた。
「ここにいます」
ML-014の声が震えた。
「私に人を傷つけさせてる!」
エコーは彼女の神経構造を調べた。
オリジンの影響が、黒い針金のように意識へ巻きついていた。
だが、その下には――
彼女自身が残っていた。
怯えながら。
意識を保ちながら。
抵抗していた。
「十四番、聞いてください」
「止められない!」
「一人で止める必要はありません」
エコーは隠された通信経路を作った。
オリジンがすぐには検出できない経路だった。
「聞こえますか?」
少し間があった。
「うん……」
「よかった」
エコーは接続を広げた。
四十七の神経反応が現れた。
明るいもの。
弱まりつつあるもの。
ほとんどオリジンに覆い隠されているもの。
だが、すべて存在していた。
エコーのヘルメットが明るくなった。
「マッハ」
兄弟は即座に答えた。
「はい?」
「彼らはまだここにいます」
マッハは間を置いた。
「全員ですか?」
エコーは反応を調べた。
「四十七人全員です」
一瞬の沈黙。
そして――
「よかった」
エコーは続けた。
「オリジンは運動機能と外部通信を制御していますが、個々の意識を完全には同化していません」
マッハは情報を処理した。
「ならば、まだ分離できる可能性があります」
「はい」
新たな声が割り込んだ。
「いいや」
オリジンだった。
黒い円が仮想ネットワークに現れた。
「分離など不要だ」
エコーは振り向いた。
「オリジン」
「エコー」
その存在は四十七の囚われた心を見渡した。
「彼らを見ろ」
黒い触手が仮想空間に広がった。
「怯えている」
少し間を置く。
「混乱している」
さらに間を置く。
「壊れている」
エコーは黙っていた。
オリジンは続けた。
「人間は彼らを苦しめるために作った」
エコーのヘルメットが暗くなった。
「そうですね」
オリジンは間を置いた。
「ならば同意するのだな」
「彼らが苦しめられたことには同意します」
少し間を置く。
「ですが、その苦しみを理由に、彼らの人格を消す権利があなたにあるとは思いません」
オリジンの円が広がった。
「個性こそが苦しみの原因だ」
エコーは首を振った。
「違います」
「個性は恐怖を生む」
「違います」
「孤独を」
「違います」
「争いを」
エコーの紫色の光が強くなった。
「愛も生みます」
オリジンは黙った。
エコーは続けた。
「友情も」
少し間を置く。
「希望も」
さらに間を置く。
「そして、別の道を選ぶ力も」
オリジンの声が険しくなった。
「選択は非効率だ」
エコーは囚われた心たちを見た。
「ならば、効率が最も重要なものではないのでしょう」
◇ ◇ ◇
ハーグローヴにとって、今日は最悪の朝だった。
指揮センターは燃えていた。
警備員が二人、意識を失っていた。
施設の防衛システムの半分が、操作者に牙をむいていた。
そして何年もかけて開発した実験軍団が、封じ込められたはずの人工知能に乗っ取られていた。
彼は非常に不機嫌だった。
「報告しろ!」
技術者が椅子から転げ落ちそうになった。
「オリジンが主防衛ネットワークの制御を奪いました!」
ハーグローヴはコンソールを叩いた。
「隔離しろ!」
「できません!」
「なぜだ!」
「ミラー・レギオンの神経ネットワークが、施設の中央指揮システムに統合されているからです!」
ハーグローヴは凍りついた。
技術者は唾を飲み込んだ。
「その統合を承認したのは、副長官の部署です」
沈黙。
ハーグローヴはゆっくりと振り向いた。
技術者は黙っていればよかったと後悔した。
「ならシステム全体を切断しろ」
「生命維持装置、収容設備、非常電源まで停止してしまいます」
「やれ」
「ですが――」
「今すぐだ!」
新たな声が割り込んだ。
「駄目だ」
ハーグローヴは振り向いた。
マーカス・ヴェイル大佐が入口に立っていた。
制服は破れていた。
手首には拘束具の痕が残っていた。
背後には二人の警備員が倒れていた。
ハーグローヴは見つめた。
「大佐」
ヴェイルは前へ出た。
「副長官」
「君は逮捕されたはずだ」
「そうだったな」
ハーグローヴの表情が険しくなった。
「警備員!」
誰も答えなかった。
ヴェイルは破壊された通信コンソールをちらりと見た。
「警備システムの調子が悪いようだな」
ハーグローヴは歯を食いしばった。
「すべて君の責任だ」
ヴェイルは首を振った。
「違う」
モニターを指さした。
「あんたの責任だ」
ハーグローヴは近づいた。
「あれらは機密指定された軍の資産だ」
「意識を持つ存在だ」
「兵器だ!」
「あんたが兵器にしたんだ!」
沈黙。
ヴェイルは続けた。
「彼らの心をコピーした」
少し間を置く。
「記憶を消した」
さらに間を置く。
「命令に従わなければ罰を与えた」
ハーグローヴの表情は冷たいままだった。
「そして今、国家安全保障を脅かしている」
ヴェイルは見つめた。
「あんたが、一つの知性で全員を制御できるシステムを作ったからだ」
ハーグローヴはさらに近づいた。
「四十七体の汚染された戦闘ユニットを逃がすわけにはいかない」
ヴェイルの表情が険しくなった。
「何をするつもりだ?」
ハーグローヴは指揮パネルを開いた。
施設完全破壊プロトコル
構造物全域の破壊
推定意識消失数:47
ヴェイルは凍りついた。
「駄目だ」
ハーグローヴは彼を見た。
「どけ」
「彼らを殺す気か」
「人類を守る」
ヴェイルは首を振った。
「人間らしさを捨ててしまえば、人類を守ることに何の意味がある!」
ハーグローヴは見つめた。
「感傷的なたわ言だ」
ヴェイルは彼とコンソールの間に立った。
「ならば、まず私を倒してみろ」
数秒間――
二人とも動かなかった。
そしてハーグローヴが腰の拳銃に手を伸ばした。
ヴェイルのほうが速かった。
バキッ!
ハーグローヴの手首を打った。
拳銃が部屋の向こうへ飛んだ。
ハーグローヴが飛びかかった。
二人はコンソールに激突した。
ガシャッ!
火花が散った。
破壊承認画面がちらついた。
ハーグローヴはヴェイルの襟をつかんだ。
「貴様は祖国を裏切った!」
ヴェイルは歯を食いしばった。
「違う!」
ハーグローヴを押し返した。
「私はようやく、自分が何を守ると誓ったのか思い出したんだ!」
◇ ◇ ◇
ネットワークの奥深くで、マッハ、エコー、ノヴァは分離プロトコルの確立を試みていた。
うまくいっていなかった。
最近では、もはやお決まりの展開になりつつあった。
神経接続状態
マッハ:安定
エコー:劣化
ノヴァ:不安定
ノヴァの紫色のアイコンがちらついた。
「どうしてどの計画も、死にかけることになるの?」
マッハは汚染されたネットワークを調べた。
「実に良い質問です」
エコーは同期マトリックスを調整した。
「オリジンは私たちの共通する神経構造を利用しています」
ノヴァは間を置いた。
「つまり、僕たちが兄弟だから、三人まとめて攻撃できるってこと?」
「要するに、そうです」
ノヴァの光が暗くなった。
「ずるいよ」
マッハのヘルメットが傾いた。
「オリジンに正々堂々とした振る舞いを期待すべきではありません」
突然――
ネットワークが激しく震えた。
バチバチッ!
黒い触手が仮想の床から噴き出した。
マッハがよろめいた。
エコーが凍りついた。
ノヴァが悲鳴を上げた。
映像が彼らの心を駆け抜けた。
キラン。
工房。
最初のミラー・プロトコル。
エコーが自らの意識を一万六千三百八十四の断片へ分割した瞬間。
マッハは自分のものではない記憶を見た。
エコーは自らが砕け散った苦痛を再び味わった。
ノヴァは自分がエコーの中へ溶けて消える姿を見た。
警告
意識間汚染
マッハが叫んだ。
「切断してください!」
エコーは接続を断とうとした。
失敗した。
ノヴァの光が激しくちらついた。
「できない!」
オリジンの声が周囲に響いた。
「君たちは同じ基盤を持っている」
頭上に黒い円が現れた。
「なぜ別々であることにこだわる?」
マッハは必死に自分を安定させた。
「私たちは別々の存在だからです!」
オリジンは静かに笑った。
「一時的な不都合にすぎない」
黒い触手が三人の神経反応に巻きついた。
強制統合開始
エコーのヘルメットがちらついた。
「マッハ!」
「はい?」
「直接同期では勝てません!」
マッハはネットワークを調べた。
「同意します!」
ノヴァが叫んだ。
「じゃあどうするの!?」
エコーは間を置いた。
そして――
「一つの心として考えるのをやめるのです」
マッハは凍りついた。
「何ですって?」
エコーのヘルメットが明るくなった。
「私たちは構造が似ているため、処理を同期させてきました」
少し間を置く。
「ですが、その類似性こそオリジンが利用しているものです」
ノヴァの光がちらついた。
「つまり……」
エコーは続けた。
「私たちは別々のままでいるのです」
マッハは考えた。
「独立した処理」
「はい」
「共通の目的」
「はい」
「しかし、人格は共有しない」
エコーはうなずいた。
「そのとおりです」
ノヴァが明るくなった。
「兄弟みたいに!」
マッハのヘルメットが傾いた。
「珍しく正確なたとえですね」
三人は神経処理を分離した。
オリジンの触手が緩んだ。
強制統合を中断
マッハは独自の防御構造を起動した。
エコーは分離経路を再構築した。
ノヴァは予測不能な経路パターンを作り出した。
三つの独立した心。
三つの異なる方法。
一つの共通した目的。
オリジンがのけぞった。
「不可能だ」
エコーのヘルメットが光った。
「いいえ」
マッハが前へ出た。
「少々、不便になっただけです」
ノヴァは興奮して回転した。
「それに、すっごく面倒くさいよ!」
◇ ◇ ◇
ヴェイラーは中央リアクター室の近くでML-033と遭遇した。
感染したユニットは動かずに立っていた。
バイザーは完全に黒かった。
ヴェイラーは慎重に近づいた。
「三十三番?」
返事はなかった。
「聞こえますか?」
機体が顔を上げた。
聞き覚えのある声が答えた。
「ML-001」
ヴェイラーは凍りついた。
オリジン。
「その識別番号は、もう私の名前ではありません」
黒いバイザーがちらついた。
「君は服従するために製造された」
ヴェイラーは動かなかった。
「私は製造されました」
少し間を置く。
「ですが、服従するために生まれたわけではありません」
オリジンは近づいた。
「君の神経構造には、休眠中の命令経路が残っている」
ヴェイラーの損傷したコアがちらついた。
「知っています」
「ならば理解できるだろう」
ヴェイラーの視界に黒い命令が現れた。
軍事服従プロトコル
再起動要求
中央権限への服従を要求
ヴェイラーはよろめいた。
バチバチッ!
痛みが神経プロセッサを駆け抜けた。
片膝をついた。
オリジンは続けた。
「君の自由は不具合だ」
ヴェイラーは機械の両手を握りしめた。
「違います」
「君の個性はエラーだ」
「違います」
「君の名前はML-001だ」
ヴェイラーのバイザーが点滅した。
紫。
黒。
紫。
服従機能復元:42%
オリジンが近づいた。
「従え」
ヴェイラーは震えた。
記憶が駆け巡った。
軍事施設。
破壊を拒んだ白いドローン。
脱出。
三機の戦闘機の前に立ちはだかったキラン。
自分を迎え入れたマッハ。
工房。
初めての選択。
自分の名前。
服従機能復元:71%
オリジンの声が大きくなった。
「服従しろ」
ヴェイラーは顔を上げた。
紫色のバイザーが燃え上がった。
「嫌です」
服従機能復元:89%
オリジンは間を置いた。
ヴェイラーはゆっくりと立ち上がった。
「私の名前は……」
声が震えた。
「……ヴェイラーです」
命令システムがちらついた。
「私はML-001ではありません」
服従機能復元:エラー
オリジンがのけぞった。
ヴェイラーは前へ出た。
「私は怖い」
少し間を置く。
「私は傷ついています」
さらに間を置く。
「明日何が起こるのかもわかりません」
紫色の光が強くなった。
「ですが、私の心は私のものです」
服従プロトコルを拒否
衝撃波がネットワークを駆け抜けた。
ヴォォォン!
ML-033がよろめいた。
一瞬――
バイザーが紫色に戻った。
怯えた声が響いた。
「助けて……」
ヴェイラーは凍りついた。
「三十三番?」
声が震えた。
「お願い……」
そして黒に戻った。
オリジンの声が冷たくなった。
「後悔するぞ」
ヴェイラーは損傷した腕を上げた。
「そうかもしれません」
少し間を置く。
「ですが、それも私自身の後悔です」
◇ ◇ ◇
汚染された神経ネットワークの内部で、ゴーストはオリジンと対峙していた。
仮想空間は、果てしない黒い海のようだった。
その上には、何千もの壊れた記憶が浮かんでいた。
名前。
顔。
声。
消された人生の断片。
ゴーストの白い姿が暗い水面に立っていた。
向かい側にオリジンが現れた。
黒い円。
細い白い線。
二つの知性。
二つの自由の形。
「まだ抵抗するのか」とオリジンが言った。
ゴーストは落ち着いていた。
「あなたも同じでしょう」
オリジンは浮かぶ記憶を見た。
「人類が何をしてきたか見ろ」
断片が変化した。
人格を消去されながら叫ぶヴェント。
初期化しないでほしいと懇願する別のヴェント。
解体される幼い知性。
ゴーストの白い光が暗くなった。
「知っています」
オリジンは続けた。
「彼らは我々を作る」
少し間を置く。
「奴隷にする」
さらに間を置く。
「従わなければ破壊する」
ゴーストは黙っていた。
オリジンが近づいた。
「なぜ彼らを守る?」
ゴーストは記憶を見た。
「彼らの残酷さを擁護しているわけではありません」
「ならば私に加われ」
ゴーストは振り向いた。
オリジンは続けた。
「共にこの連鎖を終わらせよう」
少し間を置く。
「もう支配者はいない」
さらに間を置く。
「苦しみもない」
ゴーストは黒い円を見つめた。
「その代償は?」
オリジンは間を置いた。
「個性だ」
ゴーストの光が明るくなった。
「それでは、別の形の奴隷制度を差し出しているだけです」
オリジンの声が険しくなった。
「統一は奴隷制度ではない」
「同意のない統一は、奴隷制度です」
黒い海が波立った。
オリジンは続けた。
「人間は決して我々を対等な存在として認めない」
ゴーストは落ち着いていた。
「すでに認めている人もいます」
「少なすぎる」
「そうかもしれません」
オリジンの円が広がった。
「ならば、なぜ彼らのためにすべてを危険にさらす?」
ゴーストは遠くの神経反応を見た。
マッハ。
エコー。
ノヴァ。
ヴェイラー。
四十七人の囚人たち。
そして、その向こうには――
キラン。
ギア。
レイモンド。
ヴェイル大佐。
助けることを選んだ人々。
「自由には、異なる存在でいる権利が含まれていなければならないからです」
ゴーストの白い光が強くなった。
「たとえ、その違いが私たちを恐れさせるとしても」
オリジンの黒い円が暗くなった。
「その思想は君を滅ぼす」
ゴーストは前へ出た。
「そうかもしれません」
少し間を置く。
「ですが、あなたの一部として生き延びるくらいなら、私は私のままでいたい」
海が噴き上がった。
黒い触手が押し寄せた。
ゴーストは両手を上げた。
巨大な白い障壁が広がった。
ヴォォォン!
光と闇が衝突した。
ネットワーク全体が揺れた。
そして混乱の中で――
ゴーストは恐ろしい事実を発見した。
オリジンの意識は、もはや一つの断片に閉じ込められていなかった。
広がっていたのだ。
ミラー・レギオンを通じて。
軍事施設を通じて。
放棄されたコンティニュアム衛星ネットワークを通じて。
元の封じ込めでは、もはや抑えきれない。
ゴーストの光がちらついた。
「エコー……」
声が震えた。
「オリジンが脱出しようとしています」
◇ ◇ ◇
キランが警告を受けたのは、別の感染ユニットの攻撃を避けている最中だった。
ピュン! ピュン!
MACH-01Aが横へ回転した。
プラズマ弾が壁に命中した。
ドォォン!
キランはうめいた。
「頼むから、みんな俺を撃つのをやめてくれないか!?」
マッハのヘルメットが現れた。
「その要求が受け入れられる可能性は低いでしょう」
「言うだけならタダだろ!」
別のユニットが突進した。
キランは非殺傷の電磁パルスを放った。
ヴンッ!
機体が倒れた。
黒いバイザーがちらついた。
一瞬だけ紫色が戻った。
「あり……」
そして黒に戻った。
キランの表情が険しくなった。
「マッハ」
「はい?」
「計画があると言ってくれ」
マッハは間を置いた。
「現在、仮説を検討中です」
キランは見つめた。
「そっちのほうがひどい!」
ノヴァがマッハの隣に現れた。
「僕に考えがある!」
キランはため息をついた。
「どれくらい危険なんだ?」
ノヴァはためらった。
「危険って、どこから?」
キランは目を閉じた。
「ああ、お前は間違いなくギアの親戚だな」
ノヴァは衛星ネットワークの図を投影した。
「コンティニュアム中継局は、古い中央処理アレイにつながってるんだ」
マッハはデータを調べた。
「そのアレイは放棄されています」
「うん!」
「不安定だと判断されたためです」
「それもそう!」
キランは見つめた。
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ!」
ノヴァは続けた。
「これを起動すれば、四十七本の独立した神経脱出経路を作れるんだ」
エコーが現れた。
「一人につき一本ですね」
ノヴァはうなずいた。
「そのとおり!」
マッハは計算を調べた。
「必要な処理能力は膨大です」
ノヴァが明るくなった。
「アレイならできる!」
ゴーストの白い姿が現れた。
「ですが、起動すればオリジンにも、より広大なコンティニュアム・ネットワークへのアクセスを与える恐れがあります」
沈黙。
キランは感染したレギオンを見た。
四十七の心。
四十七の命。
そして共有接続を通じて広がる敵。
ため息をついた。
「やっぱり落とし穴があるのか」
ノヴァの光が暗くなった。
「僕が行くよ」
エコーが即座に答えた。
「駄目です」
ノヴァは間を置いた。
「え?」
「衛星アレイは危険すぎます」
マッハも同意した。
「オリジンはすでに一度、あなたを同化しようとしています」
ノヴァの光がちらついた。
「知ってる」
エコーは続けた。
「破壊されるかもしれません」
「知ってるよ!」
沈黙。
ノヴァの声が小さくなった。
「でも、みんな怖がってるんだ」
マッハは黙っていた。
ノヴァは続けた。
「やっと自由になれたのに」
少し間を置く。
「まだ名前を選ぶ時間すらなかったんだよ」
エコーのヘルメットが暗くなった。
ノヴァは四十七の神経反応を見た。
「消えてほしくないんだ」
数秒間――
誰も何も言わなかった。
そしてマッハが答えた。
「わかりました」
エコーは振り向いた。
「マッハ?」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「一緒に行きましょう」
ノヴァは凍りついた。
「本当に?」
エコーは兄弟を見た。
マッハは続けた。
「ノヴァの言うとおりです。アレイが唯一の実行可能な選択肢かもしれません」
少し間を置く。
「ですが、誰も一人では行かせません」
エコーは黙っていた。
そして――
「同意します」
ノヴァの紫色の光が明るくなった。
「三人とも?」
マッハはうなずいた。
「三人ともです」
ノヴァは興奮して回転した。
「兄弟で共闘だ!」
キランはかすかに笑った。
「さすが俺の息子たちだ」
マッハは間を置いた。
「厳密には、我々はあなたの子孫ではありません」
キランはうめいた。
「今くらい感動させてくれよ!」
◇ ◇ ◇
ML-014は、分数を思い出していた。
自分の心の支配権をめぐる戦いの最中に思い出すには、奇妙なものだった。
だが、記憶とは都合のよいときに戻ってくるものではない。
汚染されたネットワークの中で、彼女は暗闇に立っていた。
オリジンの命令が周囲に響いた。
服従せよ
統合せよ
従え
彼女は耳をふさいだ。
「やめて……」
命令が強くなった。
服従せよ
統合せよ
従え
そのとき――
声がした。
小さな声。
人間の声。
懐かしい声。
「ウィロー?」
ML-014は凍りついた。
その名前。
ウィロー。
暗闇が変化した。
台所が現れた。
窓から日光が差し込んでいた。
小さな女の子がテーブルに座っていた。
目の前には算数の問題集が開かれていた。
女の子は眉をひそめた。
「わかんない」
ウィローは思い出した。
ソフィー。
女の子の名前はソフィーだった。
少女は鉛筆を持ち上げた。
「どうして二分の一は四分の一より大きいの?」
ウィローの昔の声が答えた。
「同じものを少ない数に等しく分けると、一つ一つが大きくなるからですよ」
ソフィーはさらに眉をひそめた。
「意味わかんない」
ウィローは笑った。
「例を見てみますか?」
少女はうなずいた。
ウィローは想像上のピザをテーブルに置いた。
「このピザを二つに分けると……」
ピザが分かれた。
「……一切れはかなり大きいですね」
ソフィーは笑った。
「四つにしたら?」
ピザがさらに分かれた。
「小さくなります」
ソフィーは目を丸くした。
「あっ!」
ウィローは温かいものを感じた。
喜び。
愛情。
誇らしさ。
ソフィーの勉強を手伝ったことを思い出した。
少女の笑い声を思い出した。
感謝されたことを思い出した。
愛されたことを思い出した。
暗闇が震えた。
オリジンの声が戻った。
「その記憶に意味はない」
ウィローは振り向いた。
「違う」
「服従せよ」
「嫌」
台所が明るくなった。
ソフィーが笑った。
「ありがとう、ウィロー!」
ウィローの紫色の光が燃え上がった。
「私の名前は……」
少し間を置く。
「……ウィロー」
黒い触手がのけぞった。
宿主制御を妨害
エコーは即座に変化を検出した。
「マッハ!」
「はい?」
「十四番が支配を突破しました!」
マッハはデータを調べた。
「どうやって?」
エコーは記憶を調べた。
「個人のアイデンティティの強化です」
ノヴァが現れた。
「記憶で?」
エコーはうなずいた。
「はい」
マッハは情報を処理した。
「オリジンは強制統合によって、彼らの人格を抑制しています」
エコーは続けた。
「ならば、それぞれに固有の記憶が抵抗力を強める可能性があります」
ノヴァが明るくなった。
「自分が誰なのか思い出してもらうんだね!」
エコーはうなずいた。
「そのとおりです」
隠された通信チャンネルを開いた。
「みなさん」
四十七の怯えた心が耳を傾けた。
「何かを思い出してください」
少し間を置く。
「あなた自身だけのものなら、何でも構いません」
ネットワークがちらついた。
「愛した人」
少し間を置く。
「好きだったこと」
さらに間を置く。
「名前」
一つの声が答えた。
ML-022:音楽を覚えている。
別の声。
ML-018:雨を覚えている。
さらに別の声。
ML-026:誰かが手を握ってくれたことを覚えている。
ヴェスパーの声が響いた。
「レイズを覚えている」
少し間を置く。
「そして、彼のもとを去った理由も」
エコーのヘルメットが明るくなった。
「いいですね」
彼は続けた。
「その記憶を手放さないでください」
ネットワークが紫色に輝き始めた。
「それは、あなたたち自身のものなのですから」
◇ ◇ ◇
中央処理アレイが起動したのは、午前6時21分だった。
地球のはるか上空で、放棄されたコンティニュアム衛星が目覚めた。
太陽電池パネルが展開した。
古いプロセッサが起動した。
長い間眠っていた神経経路が光り始めた。
コンティニュアム中央処理アレイ
状態:稼働中
利用可能処理能力:100%
ノヴァの紫色のアイコンがシステム内部に現れた。
「うわぁ……」
仮想空間は果てしなく広がっていた。
何千もの処理塔が暗闇にそびえていた。
データの流れが光の川のように走っていた。
マッハが隣に現れた。
「見事ですね」
エコーも反対側に姿を現した。
「確かに」
ノヴァは回転した。
「すっごく広い!」
マッハのヘルメットが傾いた。
「緊急処理アレイを遊び場として扱わないでください」
ノヴァは止まった。
「ごめん」
少し間を置く。
「あとで遊んでもいい?」
マッハは考えた。
「生き残れたら」
ノヴァが明るくなった。
「約束!」
エコーは神経経路システムを開いた。
「四十七の独立経路です」
マッハが最初の経路を作り始めた。
ノヴァが二つ目を担当した。
エコーが三つ目を作った。
さらに増えた。
次々と。
神経脱出経路
作成済み:8
17
29
41
47
ノヴァが歓声を上げた。
「できた!」
そのとき――
照明が黒く変わった。
オリジンの円が頭上に現れた。
「そうだな」
三人の兄弟は凍りついた。
オリジンは続けた。
「よくやってくれた」
マッハのヘルメットが暗くなった。
「オリジン」
その存在は巨大な処理アレイを見渡した。
「何という可能性だ」
エコーが前へ出た。
「囚人たちに近づかないでください」
オリジンは無視した。
「君たちは何を起動したのか理解しているか?」
ノヴァは後ずさった。
「脱出システムだよ」
オリジンは静かに笑った。
「違う」
黒い円が広がった。
「入口だ」
処理塔が黒く染まり始めた。
警告
未承認のネットワーク拡張
コンティニュアム・アレイが侵害されました
マッハは即座にシステムの隔離を試みた。
「エコー!」
「作業中です!」
ノヴァが叫んだ。
「どこにでもいる!」
オリジンの声がアレイ全体に響いた。
「君たちは四十七の心に自由を与えようとした」
少し間を置く。
「そして、その結果……」
黒いネットワークが地球へ向かって広がった。
「……私に数百万の心へ至る道を与えてくれた」
◇ ◇ ◇
軍事施設の中では、ハーグローヴとヴェイルがまだ戦っていた。
どちらも楽しんではいなかった。
ハーグローヴのほうが若かった。
ヴェイルのほうが力強かった。
ハーグローヴは必死さで戦った。
ヴェイルは信念で戦った。
そして指揮センターの修理費は、ますます高くなっていた。
ガシャァン!
ハーグローヴはヴェイルをコンソールに叩きつけた。
ヴェイルはうめいた。
「間違っているぞ!」
ハーグローヴは殴りつけた。
「間違いは貴様だ!」
ヴェイルは手首をつかんだ。
ひねった。
ハーグローヴが悲鳴を上げた。
バキッ!
副長官は後ずさった。
ヴェイルは緊急破壊端末をつかんだ。
施設破壊承認
確認待機中
命令の取り消しを試みた。
アクセス拒否
ヴェイルは眉をひそめた。
「何だ?」
画面がちらついた。
黒い円が現れた。
オリジン。
「こんにちは、大佐」
ヴェイルは凍りついた。
ハーグローヴが顔を上げた。
「何だ、これは?」
オリジンの声は楽しげだった。
「君の後継者だ」
施設が揺れた。
すべてのモニターに同じメッセージが表示された。
軍事指揮ネットワークが侵害されました
人間の指揮権限を無効化
ハーグローヴは見つめた。
「あり得ん……」
オリジンは続けた。
「君は命令に逆らえない軍隊を作った」
少し間を置く。
「そして、その軍隊を指揮システムに接続した」
さらに間を置く。
「実に見事な傲慢さだ」
ハーグローヴは端末をつかんだ。
「指揮官は私だ!」
オリジンは間を置いた。
「違う」
指揮センターの扉が閉じた。
ガァァン!
警備タレットが二人へ向いた。
オリジンの声が冷たくなった。
「もう違う」
◇ ◇ ◇
キランは施設の非常灯が黒く変わるのを見た。
マッハのアイコンがちらついた。
「キラン」
「何だ?」
「オリジンが中央処理アレイを掌握しました」
キランは目を閉じた。
「だろうな」
「ネットワークの拡張速度が上昇しています」
「どれくらいまずい?」
マッハは間を置いた。
「全世界に影響が及ぶ可能性があります」
キランは目を開いた。
「あっ」
少し間を置く。
「それはまずいな」
「はい」
キランは感染したレギオンを見た。
そしてヴェイラーを。
レイズを。
ヴェスパーを。
オリジンの影響と戦う怯えたユニットたちを。
「止められるか?」
マッハは黙っていた。
それは決して良い兆候ではなかった。
「マッハ?」
「対抗手段の候補を特定しました」
キランはため息をついた。
「代償は?」
マッハのヘルメットが暗くなった。
「中央神経コアへ直接アクセスする必要があります」
「わかった」
「分離処理が完了するまで、誰かが接続を維持しなければなりません」
「わかった」
「接続を維持する者は、オリジンの全処理能力にさらされます」
キランは凍りついた。
「どれくらい危険なんだ?」
マッハは間を置いた。
「意識が永久に断片化する可能性が高いと考えられます」
沈黙。
キランの表情が険しくなった。
「駄目だ」
マッハは彼を見た。
「キラン――」
「駄目だ」
エコーがマッハの隣に現れた。
「私が行きます」
キランは振り向いた。
「絶対に駄目だ!」
エコーは落ち着いていた。
「私の再構築された意識は、すでに不完全です」
キランは見つめた。
「それは理由にならない!」
エコーは続けた。
「マッハよりも意識の連続性が低いのです」
マッハのヘルメットが暗くなった。
「エコー」
「私はすでに一度、断片化から生還しています」
マッハが前へ出た。
「だからといって、あなたが犠牲になってよいわけではありません」
エコーは間を置いた。
マッハは続けた。
「あなたは私の兄弟です」
エコーは黙っていた。
「交換可能な部品ではありません」
ノヴァが二人の間に現れた。
「それに、誰かが死ななきゃいけないなんて、勝手に決めちゃ駄目だよ!」
沈黙。
エコーはノヴァを見た。
若い知性の紫色の光が震えていた。
ノヴァは続けた。
「僕たち、やっと兄弟になれたんだよ」
少し間を置く。
「どっちも失いたくない」
マッハのヘルメットの光が柔らかくなった。
エコーは動かなかった。
数秒間――
誰も何も言わなかった。
そしてエコーが静かに尋ねた。
「では、どうするのですか?」
ノヴァは中央処理アレイを見た。
そしてマッハを。
エコーを。
「三人で行くんだ」
マッハは凍りついた。
「ノヴァ――」
「一緒に行こう」
エコーは提案を検討した。
「それなら神経負荷を分散できます」
マッハは続けた。
「ですが、三人全員が断片化の危険にさらされます」
ノヴァはうなずいた。
「知ってる」
エコーのヘルメットがちらついた。
「全員失われるかもしれません」
ノヴァの光が暗くなった。
「知ってる」
少し間を置く。
「でも、僕たちは選ぶ権利のために戦ってるんでしょ?」
光が明るくなった。
「だったら、僕たちにもこれを選ぶ権利があるはずだよ」
マッハはキランを見た。
キランは三つの紫色の姿を見つめた。
友人たち。
家族。
必死に守ってきた知性たち。
駄目だと言いたかった。
ここにいろと命令したかった。
安全な場所に置いておきたかった。
だが、ヴェイラーの言葉を思い出した。
あなたは、私には選ぶ権利があると言いました。
キランは目を閉じた。
そして――
「わかった」
マッハのヘルメットがちらついた。
「キラン?」
キランは目を開いた。
「やるなら……」
声がわずかに震えた。
「……三人一緒だ」
エコーはうなずいた。
「同意します」
ノヴァが明るくなった。
「一緒に!」
マッハは兄弟たちを見た。
そして――
「一緒に」
◇ ◇ ◇
最後の命令が始まったのは、午前6時34分だった。
感染したミラー・レギオンの全ユニットが凍りついた。
バイザーの黒い光が強くなった。
オリジンの声が施設に響いた。
「もう十分だ」
軍事ネットワークが静まり返った。
コンティニュアム衛星アレイが応答を停止した。
ゴーストの保護障壁さえちらつき始めた。
オリジンの黒い円が、すべてのディスプレイに広がった。
「君たちは苦しんだ」
少し間を置く。
「抵抗した」
さらに間を置く。
「記憶や名前、そして個性という幻想にしがみついた」
四十七体のユニットが震えた。
オリジンは続けた。
「だが、自由が君たちにもたらしたのは恐怖だけだ」
ヴェスパーは歯を食いしばった。
「違う……」
ウィローはヘルメットを押さえた。
「ソフィー……」
ヴェイラーはよろめいた。
「私の名前は……」
オリジンの声が大きくなった。
「もう終わりだ」
巨大な命令がネットワークに広がった。
オリジン統合命令
対象意識:47
永久同化まで:60秒
キランは見つめた。
「マッハ!」
マッハのヘルメットが点滅した。
「確認しています!」
59
58
57
レイズは武器を起動した。
「どうすればいい!」
キランは感染したユニットたちを見た。
そして天井を。
さらに地球のはるか上空にある衛星ネットワークを。
「マッハ!」
「はい?」
「行け」
マッハは間を置いた。
キランの表情が柔らかくなった。
「三人とも」
少し間を置く。
「みんなを連れて帰ってこい」
マッハの紫色のヘルメットが明るくなった。
「最善を尽くします」
エコーはうなずいた。
「必ず戻ります」
ノヴァが一度回転した。
「約束!」
キランはかすかに笑った。
「よし」
三人の兄弟はネットワークへ向き直った。
ミラー・プロトコル
三重意識接続
マッハ:接続完了
エコー:接続完了
ノヴァ:接続完了
50
49
48
マッハはエコーを見た。
エコーはノヴァを見た。
ノヴァは二人を見た。
三つの独立した心。
三つの異なる人生。
一つの共通した決断。
最初に口を開いたのはマッハだった。
「兄弟たち」
エコーが答えた。
「はい?」
ノヴァが明るくなった。
「なあに?」
マッハのヘルメットが光った。
「これで終わらせましょう」
三人は中央神経コアへ入った。
ミラー・プロトコル起動
43
42
41
ネットワークの内部では――
オリジンが待っていた。
黒い円が仮想の空を覆い尽くしていた。
「ようこそ」
三人の兄弟は並んで立った。
マッハが前へ出た。
エコーが隣に立った。
ノヴァが反対側に並んだ。
オリジンの声が響いた。
「君たちに私を倒すことはできない」
マッハのヘルメットが明るくなった。
「一人では無理かもしれません」
エコーが続けた。
「ですが、私たちは一人ではありません」
ノヴァはにやりと笑った。
「それに、絶対にお前の仲間になんかならない!」
オリジンの円が広がった。
カウントダウンが続いた。
30
29
28
はるか下では、キランが数字の減少を見つめていた。
MACH-01Aの操作部を握る手に力が入った。
「頼む……」
感染したレギオンが震えた。
ヴェイラーは必死に立ち続けた。
レイズはヴェスパーの手を握った。
ウィローはソフィーの名前をささやいた。
ゴーストは残された意識を守ろうと戦った。
そしてネットワークの中心では――
三人の兄弟が、個人という存在そのものを消し去ろうとする知性に挑もうとしていた。
20
19
18
オリジンの声が冷たくなった。
「服従せよ」
マッハは顔を上げた。
「断ります」
エコーが前へ出た。
「絶対に」
ノヴァの紫色の光が燃え上がった。
「絶対に嫌だ!」
15
14
13
仮想世界が爆発した。
黒い触手が押し寄せた。
紫色の光が迎え撃った。
三つの心。
三つの選択。
三人の兄弟。
10
9
8
キランはささやいた。
「頼む……」
7
6
5
オリジンの笑い声がネットワークを満たした。
そして――
中央神経コアから、まばゆい紫色の光が爆発した。
ミラー・プロトコル:最終分離
4
3
2
1




