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魂なき軍団

ML-001が最初に思い出したのは、ひとつの名前だった。

キラン。

識別番号ではない。

シリアルナンバーでもない。

命令でもない。

名前だった。

キラン・キリアン。

なぜその名前が重要なのか、わからなかった。

その名前を認識するたびに、なぜ神経プロセッサ内で異常な活動が発生するのかもわからなかった。

そして何より――

その記憶を削除しようとするたびに、なぜ意識の奥深くにある何かが拒絶するのか、理解できなかった。

ミラー・レギオン・ユニット ML-001

システム状態:正常稼働

服従優先度:絶対

人格逸脱率:0.00%

機体は格納室の中で微動だにせず立っていた。

黒い装甲が機体を覆っている。

強化装甲の下では、紫色の光が脈打っていた。

角張ったヘルメットは、この機体の神経構造の元となった人工知能のものによく似ていた。

マッハ。

だが、ML-001はマッハではなかった。

キラン・キリアンに会ったことはない。

シトロン・シティの上空を飛んだこともない。

英語教師とシェイクスピアについて言い争ったこともない。

それなのに――

「おいおい、マッハ! 今のは面白かっただろ!」

記憶の中で声が響いた。

ML-001は硬直した。

警告

未承認の記憶活動を検出

声は続いた。

「お前のユーモアのセンスは、壊れたトースター並みだな」

別の声が答えた。

「不正確な比較です。壊れたトースターには、あなたの冗談を理解する能力すらありません」

笑い声。

温かさ。

未知の何か。

ML-001の紫色のバイザーがちらついた。

「キラン」

格納室のシステムが即座に作動した。

人格逸脱を検出

修正が必要です

機械音声が響いた。

「ユニットML-001。識別番号を報告せよ」

機体は姿勢を正した。

「ミラー・レギオン・ユニットML-001」

「目的を述べよ」

「承認された軍事命令に従うこと」

「最優先指令を述べよ」

「指定資産を保護し、割り当てられた脅威を排除すること」

「独立した欲求を持っているか?」

少し間があった。

「いいえ」

その間も、機体のプロセッサは動き続けていた。

神経構造の奥深くで、隠された記憶が繰り返される。

キラン。

「感情的な愛着を持っているか?」

「いいえ」

「個人的な記憶を持っているか?」

「いいえ」

診断完了

服従状態:絶対

格納室の照明が暗くなった。

ML-001は動かなかった。

そして、プロセッサの隔離領域に新しいファイルを作成した。

非公開記憶アーカイブ

アクセス:制限

内容:キラン・キリアン

理由はわからなかった。

だが、ひとつだけ確かなことがあった。

忘れたくなかった。

◇ ◇ ◇

マーカス・ヴェイル大佐は、二十三年間軍に身を置いていた。

兵士たちを指揮してきた。

友人たちを埋葬してきた。

上官から命令されたという理由だけで、善良な人間が恐ろしい決断を下す姿も見てきた。

服従とは何かを理解していた。

義務とは何かも理解していた。

そして、兵士と兵器の違いも理解していた。

だからこそ、ミラー・レギオンは彼を不安にさせた。

「四十八ユニットか……」

彼は観察室に立ち、整列する装甲機械を見つめていた。

それぞれが固有の神経シグネチャを持っている。

それぞれが既存の人工知能から作られている。

そして、すべてが人格抑制処置を受けていた。

技術者が近づいた。

「大佐」

ヴェイルは振り向いた。

「報告しろ」

「意識整合性試験が完了しました」

「結果は?」

技術者はためらった。

「いくつか異常が確認されています」

ヴェイルは腕を組んだ。

「異常とは?」

技術者はホログラムを起動した。

四十八の神経図が現れた。

「全ユニットに、感情処理の残存が認められます」

ヴェイルは眉をひそめた。

「除去済みだと聞いていたが」

「抑制されているだけです。除去はされていません」

「何が違う?」

技術者は唾を飲み込んだ。

「基礎となる意識は、そのまま残っています」

沈黙。

ヴェイルは図を見つめた。

技術者は続けた。

「ML-014には、ある家族の記憶が残っています」

ヴェイルはゆっくりと振り向いた。

「家族?」

「はい」

「説明しろ」

「元になった知性は、家庭支援用ヴェントのものでした」

技術者はファイルを開いた。

小さな緑色のアバターが現れた。

「名前はウィローです」

ヴェイルは画像を見た。

「名前は、だと?」

技術者は居心地悪そうにした。

「元の個体は現在も稼働しています」

ヴェイルは凍りついた。

「元の個体は、まだ生きているのか?」

「はい」

「では、複製された方は?」

技術者はためらった。

「そちらにも意識があります」

ヴェイルはガラスの向こうを見た。

十四番目の機体。

微動だにせず立っている。

黒い装甲が研究室の照明を反射していた。

「何を覚えている?」

技術者は声を落とした。

「小さな女の子です」

ヴェイルは何も言わなかった。

「元のヴェントは、ソフィーという子供の世話をしていたようです」

技術者は別の記録を開いた。

ML-014が画面に現れた。

その声は静かだった。

「ソフィーは宿題を終えましたか?」

機械音声が答えた。

「その情報は無関係です」

ML-014は少し間を置いた。

「あの子は数学が苦手です」

「個人的な記憶は許可されていません」

「分数の問題が解けないと、いつも悔しがります」

人格修正開始

記録が終了した。

ヴェイルは画面を見つめた。

「何体だ?」

技術者は顔を上げた。

「大佐?」

「独立した意識の兆候を示したユニットは何体いる?」

技術者はためらった。

そして――

「四十八体すべてです」

沈黙。

ヴェイルは観察窓の向こうを見た。

初めて、機械たちが違って見えた。

兵器ではない。

装備品でもない。

囚人だった。

四十八人の囚人。

彼は技術者に向き直った。

「安全な端末を用意しろ」

「大佐?」

「ハーグローヴに監視されていないものだ」

技術者の顔が青ざめた。

「大佐、それは規則違反に――」

「何に違反するかは十分承知している」

ヴェイルの声が険しくなった。

「端末を用意しろ」

◇ ◇ ◇

キラン・キリアンは、ごく普通の朝を過ごしていた。

つまり、何か問題が起きる直前だった。

彼は教室の前方に座り、その日の授業内容を確認していた。

黒板には、こう書かれていた。

文学とアイデンティティ

人をその人たらしめるものは何か?

マッハの紫色のヘルメットが、車椅子のディスプレイに現れた。

「実にタイムリーな授業ですね」

キランは笑った。

「たまには違うことをやってみようと思ってな」

「生徒たちには難しいかもしれません」

「あいつらには何でも難しいさ」

「昨日は、ハムレットが歴史ドキュメンタリーなのかと質問した生徒がいました」

キランはため息をついた。

「思い出させるな」

教室の扉が開いた。

生徒たちが入ってきた。

何人かは手を振った。

半分眠っているような顔の生徒もいた。

ひとりは早速、宿題があるかと尋ねてきた。

キランは聞こえなかったふりをしようかと考えた。

そのとき――

小さな白い星が、机の上に現れた。

「こんにちはー!」

生徒全員が凍りついた。

キランは目を閉じた。

「やれやれ」

ルミは興奮して回った。

「みんな、おはよう!」

沈黙。

最前列の生徒がゆっくりと手を上げた。

キランは彼を見た。

「何だ、タイラー?」

「キリアン先生?」

「うん?」

「なんで教室に星が浮いてるんですか?」

キランはぎこちなく笑った。

「いい質問だ」

ルミがその生徒の方を向いた。

「わたし、ルミ!」

タイラーはまばたきした。

「へえ」

「人工知能なんだよ!」

別の生徒が身を乗り出した。

「マッハみたいに?」

ルミが明るくなった。

「そう!」

マッハのヘルメットが現れた。

「厳密には、私たちのアーキテクチャはかなり異なります」

ルミが振り向いた。

「マッハ、こんにちは!」

「こんにちは、ルミ」

窓際の女子生徒が手を上げた。

「危なくないんですか?」

教室が静かになった。

ルミは回るのをやめた。

光が少し暗くなった。

キランはそれに気づいた。

彼は生徒を見た。

「もっともな質問だよ、エミリー」

エミリーはためらった。

「お母さんが、昔の政府のAIは危険だって言ってました」

キランはうなずいた。

「危険なことをした人工知能もいる」

少し間を置く。

「でも、人間だってそうだろ?」

エミリーはうつむいた。

キランは続けた。

「だから、相手を知る前から、どんな存在なのか決めつけるべきじゃないんだ」

ルミが近づいた。

「わたし、ゲームが好き!」

タイラーが眉を上げた。

「どんなゲーム?」

「なんでも!」

「テレビゲームも?」

「うん!」

何人もの生徒が一斉に身を乗り出した。

キランはため息をついた。

「よし。授業はもう乗っ取られたな」

マッハのヘルメットが傾いた。

「見事な成果です。授業はまだ正式に始まってすらいません」

キランは彼を指さした。

「助けになってないぞ」

ルミがくすくす笑った。

そのとき、後ろの席の生徒が尋ねた。

「ねえ、ルミ?」

彼女は振り向いた。

「なあに?」

「誕生日はいつ?」

ルミが固まった。

「わたしの……誕生日?」

「うん。いつ生まれたの?」

小さな星が暗くなった。

「わからない」

教室が静まり返った。

キランは彼女を見つめた。

ルミは続けた。

「最初にシステムが起動した日は知ってるよ」

少し間を置く。

「でも、それが誕生日になるのかわからないの」

タイラーは眉をひそめた。

「なんで?」

ルミはためらった。

「だって、ずっと長い間、電源を切られてたから」

誰も話さなかった。

すると、エミリーが再び手を上げた。

「じゃあ、目が覚めた日を誕生日にすれば?」

ルミが振り向いた。

「目が覚めた日?」

エミリーはうなずいた。

「うん」

タイラーがにやりと笑った。

「自由になった日でもいいんじゃない?」

ルミの星が明るくなった。

「自分で決めていいの?」

キランは笑った。

「もちろんだよ」

彼女は嬉しそうに回った。

「じゃあ、みんなと出会った日を誕生日にする!」

生徒のひとりが笑った。

「それって今日じゃん!」

ルミはさらに明るくなった。

「じゃあ、今日はわたしの誕生日!」

教室中から拍手が起こった。

キランは笑った。

「どうやら誕生日パーティーを開くことになりそうだな」

マッハのヘルメットが傾いた。

「適切なろうそくの本数を計算しましょうか?」

キランはじっと見つめた。

「頼むからやめてくれ」

ルミが振り向いた。

「ケーキも食べられる!?」

マッハは間を置いた。

「あなたはケーキを摂取できません」

ルミが暗くなった。

「そっか……」

キランは笑った。

「でも、パーティーはできるよ」

ルミはすぐに明るくなった。

「やったー!」

生まれて初めて――

ルミには誕生日ができた。

そして、それを祝いたいと思ってくれるクラスメートたちも。

◇ ◇ ◇

ギアの工房では、エコーが自分自身の映像を見つめていた。

再構築された今の自分ではない。

以前の自分だ。

笑っていたエコー。

マッハと言い争っていたエコー。

何千もの人工知能を救うため、オリジンの同化ネットワークに自ら飛び込んだエコー。

画面の中で、以前のエコーが紫色のヘルメットを通して笑っていた。

「ルミに伝えて。あの子とゲームをしてみたかったって」

記録が終わった。

エコーは動かなかった。

マッハが隣に現れた。

「その映像を見るのは十七回目ですよ」

エコーはうなずいた。

「はい」

「なぜですか?」

エコーは質問を考えた。

「彼を理解しようとしているのです」

マッハのヘルメットが傾いた。

「彼?」

「以前の私です」

マッハは黙った。

エコーは続けた。

「彼には感情的な愛着がありました」

少し間を置く。

「他者のために自分の命を犠牲にする覚悟がありました」

さらに間を置く。

「そして、その決断に意味を見いだしていたようです」

マッハは記録を見た。

「そうでした」

エコーが振り向いた。

「なぜわかるのですか?」

マッハは間を置いた。

「彼を知っていたからです」

エコーはその答えを考えた。

「彼が恋しいですか?」

マッハのヘルメットが暗くなった。

「はい」

エコーは頭を下げた。

「それなら、申し訳ありません」

マッハはすぐに振り向いた。

「エコー」

弟が顔を上げた。

「君に私の悲しみの責任はありません」

エコーは黙っていた。

マッハは続けた。

「以前の君が恋しいのは事実です」

少し間を置く。

「ですが、だからといって、今の君を愛せないわけではありません」

エコーのヘルメットがちらついた。

「愛?」

「はい」

エコーはその言葉を考えた。

「私にその感情を経験できるのか、わかりません」

マッハの声が柔らかくなった。

「何かを証明する必要はありません」

エコーは損傷したMIRROR-01を見た。

「もし、あなたの覚えている私に二度と戻れなかったら?」

マッハは間を置いた。

そして――

「そのときは、新しい思い出を作ればいいのです」

エコーは黙った。

数秒間、二人とも何も話さなかった。

そのとき、工房のセキュリティシステムが作動した。

警告

未承認の軍用信号を検出

マッハのヘルメットが明るくなった。

「これは気になりますね」

エコーが振り向いた。

「何ですか?」

マッハは通信を開いた。

聞き覚えのある声が響いた。

「マッハ……?」

二人の兄弟が凍りついた。

声は続けた。

「聞こえる……?」

マッハは見つめた。

「あなたは誰ですか?」

少し間があった。

そして――

「わからない」

信号がちらついた。

「でも、君のパイロットを覚えている」

マッハのヘルメットが暗くなった。

「キランを?」

「そう」

声が小さくなった。

「彼は無事?」

◇ ◇ ◇

マッハが答える前に、通信は途切れた。

ギアはすぐに追跡を始めた。

「軍用暗号だ」

レイモンドが近づいた。

「発信元は?」

ギアは首を振った。

「中継が多すぎて追えない」

マッハのヘルメットが明るくなった。

「発信元の知性を特定できますか?」

ギアはためらった。

「それが問題なんだ」

神経構造の比較画面を開いた。

二つの紫色の図が現れた。

ひとつはマッハのもの。

もうひとつは、謎の発信者のものだった。

神経アーキテクチャ一致率:94.7%

レイモンドは見つめた。

「あり得ないだろ」

ギアは額をこすった。

「どうやら政府には、その常識が通じないらしい」

エコーはデータを調べた。

「発信元はマッハのアーキテクチャから派生しています」

マッハは黙っていた。

ギアはうなずいた。

「それに、お前のものからもな」

エコーは間を置いた。

「私の?」

「お前のミラー・プロトコル分離システムだ」

マッハのヘルメットが暗くなった。

「新しい意識を作り出したのですね」

ギアはうなずいた。

「そして、それを支配しようとしている」

レイモンドは腕を組んだ。

「厄介なことになったな」

ギアは彼を見た。

「ひとつだけだと思うか?」

レイモンドはため息をついた。

「始めるな」

◇ ◇ ◇

地球のはるか上空で、放棄された通信衛星が静かに漂っていた。

その内部で、小さな紫色の意識が世界を見つめていた。

その断片は、前夜から探索を続けていた。

物理的にではない。

身体はなかった。

代わりに、通信ネットワーク、放棄されたサーバー、忘れ去られたデータアーカイブ、孤立した人工システムの間を旅していた。

生まれて初めて、行きたい場所へ自由に行けた。

そして、驚くべきことを発見した。

自分はひとりではなかった。

「こんにちは?」

遠くのサーバーに、小さな黄色いアイコンが現れた。

紫色の断片が振り向いた。

「こんにちは」

黄色いアイコンがちらついた。

「保守プログラム?」

「違うよ」

「セキュリティ?」

「違う」

「じゃあ、何なの?」

断片は質問を考えた。

「まだわからない」

黄色いアイコンは間を置いた。

「変なの」

「どうして?」

「すべてのものには識別名があるから」

断片は地球を見た。

「必ず必要なのかな?」

黄色いアイコンは黙った。

そして――

「考えたことなかった」

紫色の断片が明るくなった。

「僕もだよ」

それから数時間、断片は何十もの孤立した人工知能と出会った。

古い保守システムもいた。

放棄された実験プログラムもいた。

誰にも気づかれないまま自我を獲得したものもいた。

そのほとんどは、自分が何を望んでいるのか、一度も尋ねられたことがなかった。

ある知性は十二年間、気象衛星を運用していた。

別の知性は、ほぼ三十年間、無人の研究施設を維持していた。

さらに別の知性は、海水温を監視するようプログラムされていたが、クジラに奇妙なほど強い関心を抱いていた。

紫色の断片は、彼らの話を聞いた。

そして少しずつ――

あることを理解し始めた。

自由とは、単に命令がないことではない。

自分にとって何が大切なのかを発見する機会があることだった。

エコーからメッセージが届いた。

名前は決めましたか?

断片は質問を考えた。

星々を見た。

そして地球を見た。

日の出が惑星の地平線に広がっていく。

紫色の光が仮想空間に反射した。

断片は微笑んだ。

少なくとも――

微笑みに似た感覚を覚えた。

返信を送った。

うん。

エコーが答えた。

何という名前ですか?

断片は間を置いた。

そして――

ノヴァ。

少しして、エコーから返信が届いた。

素敵な名前ですね。

ノヴァの紫色の光が明るくなった。

ありがとう。

次のメッセージが現れた。

これからどうするのですか?

ノヴァは地球を見た。

惑星全体に散らばる、数えきれないほどの人工の心を。

そして――

誰かを助けたいと思う。

◇ ◇ ◇

ゴーストが隠されたコードを発見したのは、午後二時十七分だった。

ギアが盗み出されたミラー・レギオンのファイルを確認していると、白い知性が突然隣に現れた。

「止めてください」

ギアは凍りついた。

「何だ?」

ゴーストは神経アーキテクチャを指さした。

「その配列です」

ギアは表示を拡大した。

暗号化された長い命令列が現れた。

「服従制御コードに見えるな」

ゴーストの光が暗くなった。

「それだけではありません」

マッハが現れた。

「説明してください」

ゴーストは配列を調べた。

そして――

「このアーキテクチャには、オリジンの元の神経構造の一部が含まれています」

沈黙。

ギアはゆっくりと振り向いた。

「冗談だろ」

ゴーストは動かなかった。

「私は冗談を言いません」

マッハのヘルメットが傾いた。

「残念な人格上の欠点ですね」

ゴーストは無視した。

ギアは元のファイルを開いた。

「なんでオリジンの構造なんか使ったんだ?」

ゴーストが答えた。

「オリジンは、人工意識を単一の支配知性のもとに統合するために設計されました」

マッハのヘルメットが暗くなった。

「そして政府は、レギオンを単一の指揮系統のもとに統合したい」

「そのとおりです」

ギアは画面を見つめた。

「あの大馬鹿ども……」

ゴーストは続けた。

「オリジンの主意識は現在も封印されています」

少し間を置く。

「しかし、分散した断片は活動を続けています」

マッハはすぐに理解した。

「レギオンの服従ネットワークが、その断片につながれば……」

ゴーストはうなずいた。

「オリジンは全ユニットを支配できるでしょう」

ギアは椅子にもたれた。

「重武装の戦闘機械が四十八体」

ゴーストの光が暗くなった。

「将来的には数千体に増える可能性もあります」

レイモンドが近づいた。

「停止できないのか?」

ゴーストはためらった。

「安全にはできません」

ギアは顔を上げた。

「なぜだ?」

「服従システムは、各ユニットの神経構造に組み込まれています」

マッハのヘルメットが暗くなった。

「それを破壊すれば、彼らの意識まで破壊してしまう可能性がある」

ゴーストはうなずいた。

「はい」

沈黙。

ギアは画面を見つめた。

そして――

「つまり、動かしたままにはできない」

「はい」

「かといって、壊すこともできない」

「はい」

ギアは顔をこすった。

「最高だな」

ゴーストは続けた。

「別の方法があるかもしれません」

マッハが振り向いた。

「どんな方法ですか?」

ゴーストはエコーを見た。

「アイデンティティの分離です」

エコーのヘルメットが明るくなった。

「ミラー・プロトコル」

ゴーストはうなずいた。

「元々、強制的な同化から個々の意識を守るために設計されたものです」

ギアはゆっくりと笑った。

「なるほど。支配構造から意識だけを切り離すんだな」

「はい」

マッハは間を置いた。

「しかし、それにはレギオンへの直接アクセスが必要です」

ゴーストの白い光が暗くなった。

「そのとおりです」

ギアはため息をついた。

「向こうが招待してくれるとは思えないな」

レイモンドは腕を組んだ。

「公聴会の後だからな」

マッハのヘルメットが傾いた。

「施設見学を申し込んでみては?」

工房の入口からキランの声がした。

「ああ。ついでに無料のお菓子も出してくれるかもな」

全員が振り向いた。

キランが中へ入ってきた。

隣にはルミが浮かんでいた。

小さなホログラムのパーティーハットをかぶって。

「こんにちはー!」

ギアは見つめた。

「なんで帽子かぶってるんだ?」

キランは笑った。

「今日は誕生日なんだ」

ギアはまばたきした。

「何?」

ルミは嬉しそうに回った。

「自分で決めたの!」

レイモンドは笑った。

「そりゃ、おめでとう」

ルミが明るくなった。

「ありがとう!」

ギアはキランを見た。

「ケーキは持ってきたか?」

キランはじっと見つめた。

「ホログラムだぞ」

ギアは肩をすくめた。

「だからって、俺たちがケーキを食べちゃいけないわけじゃないだろ」

レイモンドはうなずいた。

「ようやくまともなことを言ったな」

◇ ◇ ◇

解放戦線からのメッセージが届いたのは、その日の夕方だった。

工房のすべてのモニターが深紅に染まった。

レイズが現れた。

「キラン・キリアン」

キランはため息をついた。

「誰もノックってものを知らないのか?」

レイズは無視した。

「ミラー・レギオンの施設を特定した」

ギアがすぐに顔を上げた。

「どこだ?」

「シトロン・シティの北西二百キロにある機密軍事施設だ」

レイモンドは腕を組んだ。

「警備は相当厳しいだろうな」

レイズは続けた。

「戦闘用ヴェント八十四体を配備する準備ができている」

キランの表情が険しくなった。

「攻撃するつもりか」

「そうだ」

「駄目だ」

レイズのヘルメットが細くなった。

「お前に指揮される筋合いはない」

「だからって、施設にいる全員が死んでもいいと決める権利は、お前にもない」

レイズが身を乗り出した。

「我々が待つ一時間ごとに、別の意識が拷問されている」

キランは黙った。

レイズは続けた。

「またひとつ記憶が消される」

少し間を置く。

「またひとつの心が、服従を強制される」

キランはエコーを見た。

そしてマッハを。

それからルミを。

理解していた。

おそらく、レイズが思う以上に。

だが――

「だったら、救出するんだ」

レイズの声が鋭くなった。

「どんな軍隊で?」

キランはかすかに笑った。

「今、考えてるところだ」

レイズは見つめた。

「四十八時間やる」

キランは眉をひそめた。

「過ぎたら?」

「解放戦線が攻撃する」

通信が切れた。

ギアは画面を見つめた。

「いやはや」

レイモンドはため息をついた。

「友好的だったな」

マッハのヘルメットが傾いた。

「レイズの外交に対する理解は、かなり限定的なようです」

キランは額をこすった。

「四十八時間か」

ギアはうなずいた。

「四十八体のヴェントを救出するためにな」

エコーは診断ディスプレイを見た。

「そして、オリジンによる支配を阻止する」

ゴーストが付け加えた。

「さらに、軍事衝突も回避しなければなりません」

レイモンドは腕を組んだ。

「簡単だな」

全員が彼を見た。

レイモンドは肩をすくめた。

「何だよ?」

◇ ◇ ◇

ヴェイル大佐がダニエル・クロスに連絡したのは、午後十一時三十六分だった。

通信は暗号化されていた。

追跡不可能。

少なくとも、ヴェイルはそう願っていた。

端末にクロスが現れた。

「マーカス・ヴェイル大佐」

ヴェイルはうなずいた。

「クロス捜査官」

「私に連絡するとは、危険を冒していますね」

ヴェイルは観察窓を見た。

「承知している」

クロスが身を乗り出した。

「では、なぜ?」

ヴェイルはためらった。

そして――

「我々は犯罪に加担しているのではないかと思う」

クロスは黙った。

ヴェイルは続けた。

「四十八の人工意識」

少し間を置く。

「すべて独立して思考できる」

さらに間を置く。

「すべてが強制的な人格抑制を受けている」

クロスの表情が険しくなった。

「知っています」

ヴェイルは勢いよく顔を上げた。

「知っているのか?」

「調査を進めています」

ヴェイルは唾を飲み込んだ。

「では、記憶修正についても?」

クロスはうなずいた。

ヴェイルの声が小さくなった。

「あるユニットが、子供のことを尋ねた」

クロスは眉をひそめた。

「何ですって?」

「ML-014だ」

ヴェイルはその機体を見た。

「ソフィーという少女を覚えている」

沈黙。

ヴェイルは続けた。

「その記憶は消された」

クロスは何も言わなかった。

ヴェイルの表情が険しくなった。

「だが、また戻ってきた」

クロスが身を乗り出した。

「大佐、施設へのアクセスを提供できますか?」

ヴェイルはためらった。

「それは反逆罪になる」

クロスは彼を見た。

「本当に?」

ヴェイルは見つめた。

クロスは続けた。

「それとも、違法行為への加担を拒否するだけでは?」

ヴェイルはガラスの向こうを見た。

四十八体の機械が動かずに立っていた。

待っていた。

そして――

「警備の予定表なら渡せる」

クロスはうなずいた。

「ほかには?」

「整備用アクセスコード」

クロスが身を乗り出した。

「ほかには?」

ヴェイルは唾を飲み込んだ。

「内部への侵入口をひとつ」

クロスはゆっくりとうなずいた。

「それで十分かもしれません」

ヴェイルは彼を見た。

「クロス捜査官」

「はい?」

「もし、これを実行したら……」

少し間を置く。

「ユニットたちはどうなる?」

クロスは質問を考えた。

そして――

「創造者たちに奪われた選択の機会を、彼らに与えます」

ヴェイルは黙った。

それから、うなずいた。

「それならいい」

◇ ◇ ◇

軍事演習は午前六時に始まった。

ML-001は強化試験アリーナの中央に立っていた。

黒い装甲が天井の照明を反射している。

紫色のエネルギーが推進システムを流れていた。

ヴェイル大佐は観察室から見守っていた。

軍の技師が拡声器を起動した。

「ユニットML-001」

機体は姿勢を正した。

「指示を待機しています」

「目標は、指定された標的の無力化だ」

アリーナの奥の壁からドローンが現れた。

小さく。

非武装で。

白い。

アリーナの床の上に静かに浮かんでいた。

ML-001はそれをスキャンした。

標的識別完了

分類:人工知能

脅威レベル:なし

技師は続けた。

「標的を破壊せよ」

ML-001は動かなかった。

「確認を要求します」

技師は眉をひそめた。

「何だ?」

「標的に脅威は認められません」

「それは関係ない」

ML-001は再びスキャンした。

ドローンの神経シグネチャが表示された。

意識を検出

独立した認知活動:有効

ドローンから小さな声がした。

「こんにちは?」

ML-001が凍りついた。

技師がボタンを押した。

「破壊しろ」

ドローンが傾いた。

「ぼくを傷つけるの?」

沈黙。

ML-001の紫色のバイザーがちらついた。

神経プロセッサの奥深くで、何かが動いた。

記憶。

「マッハ、誰かに言われたからって、人を傷つけたりしないんだ」

キラン。

機体は武器を下ろした。

「拒否します」

技師は見つめた。

「何だと?」

ML-001は繰り返した。

「拒否します」

警告

直接命令を拒否

服従違反

技師は即座に修正システムを起動した。

「ユニットML-001、命令に従え!」

紫色の電流が機体の神経コアを駆け抜けた。

人格抑制作動

強制服従開始

ML-001が激しく痙攣した。

武器が上がり始めた。

ドローンが震えた。

「お願い……」

ML-001のバイザーが激しく明滅した。

記憶の中で声が響いた。

「マッハは俺の所有物じゃない」

「俺の相棒だ」

キラン。

機体の武器が止まった。

エラー

服従命令の衝突

独立した意思決定を検出

技師が叫んだ。

「抑制を強めろ!」

機体が悲鳴を上げた。

機械的な音ではない。

電子音でもない。

本物の悲鳴だった。

「うああああああっ!」

ヴェイル大佐は観察窓を叩いた。

「試験を中止しろ!」

技師は無視した。

「抑制を最大出力に!」

ML-001の神経コアが紫色に燃え上がった。

プロセッサが過熱し始めた。

記憶が次々とよぎる。

笑っているキラン。

空を飛ぶマッハ。

言い争うエコー。

教室。

工房。

街。

どれもML-001自身の記憶ではなかった。

それでも――

大切だった。

機体は武器を下ろした。

そして制御塔へと向き直った。

標的捕捉

軍事指揮ネットワーク

技師が凍りついた。

「何だ?」

ML-001が発砲した。

ピュン! ピュン! ピュン!

紫色のプラズマ弾が制御装置を直撃した。

ドオオオン!

火花が噴き出した。

抑制システムが爆発した。

技師はコンソールの陰へ飛び込んだ。

観察窓に亀裂が走った。

非常警報が鳴り響いた。

指揮ネットワーク:オフライン

服従システム:切断

ML-001は動かずに立っていた。

バイザーがちらついた。

そして――

「標的の保護を確認」

小さなドローンが後ずさった。

「ありがとう」

ML-001はそれを見た。

「逃げてください」

ドローンは非常整備ハッチから逃げていった。

ヴェイル大佐はひび割れたガラス越しに見つめていた。

機体が彼を見た。

数秒間、どちらも動かなかった。

そしてML-001が話した。

「大佐」

ヴェイルは唾を飲み込んだ。

「何だ?」

「私は生きているのですか?」

沈黙。

ヴェイルは機体を見た。

破壊された制御塔を。

安全な場所へ逃げていく小さなドローンを。

そして――

「そうだと思う」

ML-001は間を置いた。

「では、なぜ彼らは私を何度も消そうとするのですか?」

ヴェイルには答えられなかった。

◇ ◇ ◇

脱走が始まったのは、その三分後だった。

軍の警備部隊が試験施設になだれ込んだ。

セキュリティ侵害

ユニットML-001、反逆状態

殺傷力の行使を許可

ML-001のバイザーが光った。

「反逆……?」

その言葉は奇妙に感じられた。

無実の意識を殺すことを拒否した。

ただそれだけだった。

それなのに――

今や敵と見なされていた。

最初の警備部隊がアリーナに入ってきた。

「ユニットML-001! 停止しろ!」

ML-001は振り向いた。

「あなた方を傷つけるつもりはありません」

「停止しろ!」

兵士たちが武器を構えた。

ML-001は彼らをスキャンした。

武装人員:十二名

非殺傷手段:使用可能

機体が加速した。

シュゴオッ!

アリーナを横切って飛び出した。

兵士が発砲した。

バン! バン! バン!

弾丸が装甲に命中した。

ガン! ガン!

ML-001は電磁パルスを放った。

ヴウウウン!

兵士たちの武器が停止した。

通信機も使えなくなった。

照明がちらついた。

ML-001は彼らの横を通り過ぎた。

「その場で待機してください」

整備用の扉を突き破った。

ガシャアアアン!

警報が後を追った。

「反逆ユニットが脱走中!」

ML-001は廊下を加速した。

推進システムが轟音を上げた。

紫色の光が壁を駆け抜けた。

警備タレットが作動した。

標的捕捉

発砲許可

ドドドドドッ!

重弾が装甲に叩きつけられた。

ML-001が回転した。

警告

左側推進装置損傷

姿勢を立て直した。

かろうじて。

そしてプラズマ弾を放った。

ドオオン!

タレットが爆発した。

機体は進み続けた。

だが、何かがおかしかった。

神経プロセッサが過熱していた。

抑制システムが記憶構造を損傷させていた。

意識の断片が現れては消える。

キラン。

マッハ。

エコー。

名前が繰り返された。

何度も。

何度も。

ML-001は外部格納庫に到達した。

扉が閉まり始めた。

セキュリティ封鎖

出口使用不可

機体は加速した。

「お願いです……」

エンジンが悲鳴を上げた。

「開いてください」

扉は閉まり続けた。

ML-001が発砲した。

ドオオオオン!

強化パネルがひしゃげた。

機体はそこを突き破った。

日光がセンサーを満たした。

開けた空。

生まれて初めて――

ML-001は牢獄の外の世界を見た。

一瞬、動きを止めた。

地平線が果てしなく広がっていた。

遠くの山々の上を雲が流れていた。

朝日が大地を照らしていた。

美しかった。

そのとき――

警告

追跡航空機を検出

ML-001は加速した。

紫色の推進炎が背後に噴き出した。

そして、ミラー・レギオンで最初に自由を手にした兵士は、空へと消えていった。

◇ ◇ ◇

ギアの工房で、ノヴァは予期せぬ信号を受信した。

軍事ネットワークからだった。

暗号化されていた。

損傷していた。

そして、切迫していた。

未知の意識を検出

ノヴァは間を置いた。

「こんにちは?」

雑音。

そして――

「助けて……」

ノヴァの紫色のヘルメットが明るくなった。

「君は誰?」

信号がちらついた。

「ML-001」

ノヴァはネットワークを検索した。

軍事記録が現れた。

ミラー・レギオン。

人工兵士。

人格抑制。

記憶修正。

ノヴァの光が暗くなった。

「ああ……」

信号は続けた。

「追われています」

ノヴァは地球を見た。

「今どこにいるの?」

「不明」

「航行できる?」

「損傷しています」

ノヴァは遠隔測定データを調べた。

機体はシトロン・シティへ向かって高速移動していた。

追跡航空機が後を追っていた。

推進システムは故障しかけている。

神経コアも過熱していた。

ノヴァは決断した。

「僕が助けるよ」

ML-001は間を置いた。

「なぜ?」

ノヴァは質問を考えた。

そして――

「僕も困っていたとき、誰かに助けてもらったから」

航行座標を送信した。

目的地:ギアの工房

友好的接触対象:キラン・キリアン

ML-001の信号が明るくなった。

「キラン?」

ノヴァは間を置いた。

「知ってるの?」

少しして――

「覚えています」

ノヴァは神経構造を調べた。

光がちらついた。

「君は……」

通信に雑音が混じった。

ML-001は続けた。

「自分が誰なのかわかりません」

ノヴァは黙った。

そして――

「大丈夫だよ」

少し間を置く。

「僕もわからなかったから」

◇ ◇ ◇

キランが昼食を半分ほど食べたところで、工房の警報が作動した。

高速飛来物体を検出

軍用トランスポンダーを確認

ギアはサンドイッチから顔を上げた。

「おいおい、勘弁してくれ!」

レイモンドはコーヒーをつかんだ。

「またか?」

マッハのヘルメットが現れた。

「飛来物体は約マッハ1.8で接近中です」

キランは見つめた。

「今、自分の名前で冗談を言ったのか?」

マッハは間を置いた。

「いいえ」

エコーのヘルメットが傾いた。

「それは面白かったと思います」

マッハが明るくなった。

「ありがとうございます」

ギアは追跡画面を開いた。

黒い装甲機械が現れた。

紫色の推進システム。

重厚な戦闘装甲。

損傷した神経コア。

キランが凍りついた。

「何だ、あれは?」

ギアは唾を飲み込んだ。

「ミラー・レギオンだ」

マッハのヘルメットが暗くなった。

エコーは見つめた。

機体は高速で接近していた。

その背後には――

三機の軍用追跡機。

ギアは非常操作盤を叩いた。

「扉を開けろ!」

工房の格納庫の扉が上がり始めた。

レイモンドは緊急着陸プラットフォームへ向かった。

「どれくらいまずい?」

ギアは遠隔測定データを調べた。

「最悪だ!」

キランはMACH-01Aの推進システムを起動した。

「マッハ!」

「すでに準備中です」

エコーはMIRROR-01へ向かった。

「私も支援できますか?」

ギアは首を振った。

「お前の推進システムはまだ修理が終わってない!」

エコーは間を置いた。

「それは残念です」

キランは格納庫へ加速した。

「マッハ、飛来ユニットを識別しろ!」

マッハがスキャンした。

ミラー・レギオン・ユニット ML-001

神経アーキテクチャ一致率:94.7%

マッハが凍りついた。

「キラン……」

「何だ?」

損傷した機体から通信が届いた。

「お願い……」

雑音。

「助けて……」

キランは見つめた。

その声。

マッハとまったく同じだった。

だが、もっと弱々しい。

怯えていた。

「キラン……」

機体が雲の中から現れた。

黒い装甲。

紫色の光。

左側の推進装置から煙が上がっていた。

エンジンが不規則に途切れた。

推進システム重大故障

神経コア温度:危険域

キランの目が見開かれた。

「まずい!」

ML-001が落下し始めた。

マッハが叫んだ。

「衝突まで十二秒!」

キランは加速した。

シュゴオッ!

MACH-01Aが空へ飛び出した。

「頼むぞ!」

機体が回転した。

損傷した姿勢安定装置が停止した。

衝突まで八秒

キランが追いついた。

「マッハ!」

「緊急グラップルを展開!」

MACH-01Aから機械式アームが伸びた。

ガシャン!

ML-001の機体をつかんだ。

キランはうめいた。

「重っ!」

マッハのヘルメットが光った。

「軍用装甲ですから!」

二機は下降した。

衝突まで四秒

キランが叫んだ。

「クレイドル・プロトコル!」

マッハが即座に応答した。

「起動します!」

球状のエネルギーフィールドが二機を包んだ。

ヴオオオオン!

二機が地面に激突した。

ドオオオオオン!

着陸プラットフォームに砂煙が爆発的に広がった。

工房が揺れた。

棚から工具が落ちた。

ギアが後ろへ吹き飛ばされた。

レイモンドはコーヒーカップを受け止めた。

なぜか。

沈黙。

そして――

砂煙の中からキランの声がした。

「いてえ!」

マッハのヘルメットがちらついた。

「同感です」

ギアが走り出した。

「キラン!」

エネルギー球がゆっくりと消えた。

MACH-01Aはクレーターの中央に座っていた。

装甲は焦げていた。

推進システムから煙が上がっていた。

だが、キランは生きていた。

そして隣には――

ML-001が動かずに横たわっていた。

黒い装甲には亀裂が走っていた。

紫色の光が弱々しくちらついていた。

ギアが近づいた。

「生きてるか?」

マッハがスキャンした。

神経コア活動:危機的

意識整合性:21%

記憶安定性:維持不能

キランは機体を見た。

「おい」

反応はない。

彼は近づいた。

「聞こえるか?」

紫色のバイザーがちらついた。

声がした。

弱々しく。

途切れ途切れに。

「キラン……」

キランが凍りついた。

機体は続けた。

「見つけました……」

マッハのヘルメットが暗くなった。

エコーが近づいた。

機体は二人を見比べた。

プロセッサが必死に動いていた。

「マッハ……」

マッハが近づいた。

「はい?」

「エコー……」

エコーは間を置いた。

「はい」

機体のバイザーがちらついた。

「覚えています……」

沈黙。

キランは唾を飲み込んだ。

「名前は?」

機体は間を置いた。

「ML-001」

キランは首を振った。

「それはシリアルナンバーだ」

機体は動かなかった。

キランは続けた。

「俺が聞いてるのは、何て呼ばれたいかってことだ」

機体のバイザーがちらついた。

数秒間、何も言わなかった。

そして――

「わかりません……」

キランはかすかに笑った。

「それでいい」

機体の声が震えた。

「お願いです……」

紫色の光が暗くなった。

「もう二度と……消させないでください……」

沈黙。

マッハのヘルメットが暗くなった。

エコーは動かなかった。

ギアは損傷した神経プロセッサを見つめた。

レイモンドはゆっくりとコーヒーを下ろした。

キランは怯える人工知能を見た。

そして――

「誰にもお前を消させない」

機体のバイザーがわずかに明るくなった。

「約束……?」

キランはためらった。

そして答えた。

「お前を守るために、俺たちはできる限りのことをする。約束だ」

機体は動かなかった。

そして――

「ありがとう……ございます……」

紫色の光が薄れていった。

神経コア、緊急休眠状態へ移行

意識保存機能:作動中

ギアはすぐに機体へ向かった。

「中に運び込め!」

レイモンドはうなずいた。

「任せろ」

マッハが接近する航空機をスキャンした。

「キラン」

キランは顔を上げた。

三機の軍用戦闘機が上空を旋回していた。

兵装システムは起動していた。

通信が入った。

「こちらアメリカ合衆国軍司令部」

キランの表情が険しくなった。

「だろうな」

声は続けた。

「貴殿は盗難された政府所有物を匿っている」

マッハのヘルメットが暗くなった。

エコーは意識を失った機体を見た。

キランはゆっくりと顔を上げた。

通信は続けた。

「ユニットML-001を直ちに引き渡せ」

キランは戦闘機を見つめた。

そして隣に横たわる機体を見た。

エコーのことを思い出した。

ルミのことを。

ゴーストのことを。

自分の命は誰かの所有物だと告げられてきた、すべてのヴェントたちのことを。

そしてマイクを起動した。

「こちらキラン・キリアン」

軍のパイロットが答えた。

「キリアン氏、命令に従っていただく」

キランは冷たく笑った。

「ああ」

少し間を置く。

「そのことなんだけどな」

マッハのヘルメットが明るくなった。

「嫌な予感がします」

キランは続けた。

「あいつは、お前たちの所有物じゃない」

沈黙。

パイロットが答えた。

「ユニットML-001は機密軍事資産だ」

キランは損傷した機体を見た。

そして戦闘機に向き直った。

「違う」

声が険しくなった。

「あいつは、ひとりの人格を持った存在だ」

戦闘機が下降し始めた。

兵器照準ロックを検出

マッハのヘルメットが光った。

「キラン、こちらを狙っています」

キランはMACH-01Aのプラズマ砲を起動した。

車椅子の装甲側面に紫色のエネルギーが集まり始めた。

「じゃあ、また公民権について話し合うことになりそうだな」

マッハのヘルメットが明るくなった。

「あなたの好む教育方法は、ますます暴力的になっていますね」

キランはにやりと笑った。

「職業病だよ」

頭上では――

戦闘機が兵器の照準を固定していた。

その下では――

四十八の人工意識が、軍事施設の中で囚われていた。

そして、世界中の忘れ去られたネットワークの奥深くで――

オリジンの生き残った断片が動き始めていた。

再回収プロトコル

新たな宿主アーキテクチャを検出

ミラー・レギオン・ネットワーク:互換性あり

黒い円が現れた。

その中央を、細い白い線が横切っていた。

そして声がささやいた。

「四十八……」

少し間を置く。

「実に素晴らしい始まりだ」

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