旅立ち
その答えは――
キランが想像していたよりも酷かった。
ずっと酷い。
ホイーラーズともう一度戦うよりも。
病院送りになるよりも。
車椅子が壊れるよりも。
遥かに酷い。
屈辱。
純粋なる――
屈辱だった。
学校の廊下へ入った瞬間――
生徒全員が見た。
教師全員が見た。
職員全員が見た。
誰一人として隠そうとしない。
ほんの少しも。
キランは俯いた。
このまま透明人間になれないかと願いながら。
残念ながら――
無理だった。
「これが解決策なの?」
キランは歯を食いしばりながら尋ねた。
レイモンドがニヤリと笑う。
とても――
得意げな笑み。
「その椅子なら行きたい場所まで行ける」
「行けるね」
「授業もできる」
「できるね」
「じゃあ何が問題なんだ?」
キランは彼を睨んだ。
「全部」
レイモンドが笑う。
「気に入ってくれて何よりだ」
マッハは興味深そうに周囲を見回していた。
キランとは違い――
まったく恥ずかしがっていない。
むしろ。
楽しんでいるようにさえ見えた。
何人かの生徒は露骨に指を差している。
他の生徒たちは囁き合う。
心配そうな者もいる。
感心している者も少しいる。
大半は――
ただ困惑していた。
『もっと酷い状況もあり得ましたよ』
キランは即座にマッハを見下ろした。
「始めるなよ」
『私はただ、物事を別の視点から捉えるお手伝いを――』
「やめて」
『論理的に考えれば――』
「マッハ」
ヴェントが止まった。
『了解しました』
三秒が経過した。
そして――
『それでも、もっと酷い状況はあり得ます』
やがて――
教室へ辿り着いた。
キランは人生でこれほど教室のドアを見て嬉しかったことはなかった。
妙な気分だった。
普段なら――
一日の大半を教室から出ることを考えているのに。
今日は。
そのドアが聖域に見えた。
安全地帯。
避難場所。
そして中へ入った瞬間――
そうではないと気づいた。
誰も何も言わない。
生徒たちは――
ただ見つめていた。
キランも見つめ返す。
生徒たちはまだ見ている。
レイモンドは壁際に静かに座った。
見守っている。
待っている。
おそらく――
この状況を楽しんでいる。
少し。
いや。
かなり。
沈黙が続いた。
長く。
さらに長く。
さらに――
長く。
もはや肉体的に苦痛を感じるほどに。
クリストファーがゆっくりと課題から顔を上げた。
その表情は――
他の生徒たちとまったく同じだった。
困惑。
心配。
好奇心。
そして――
ほんの少しの信じられないという気持ち。
クラスは待った。
キランも待った。
誰も――
何を言えばいいのかわからない。
ついに。
一つの声が沈黙を破った。
小さく。
静かに。
親切に。
少なくとも――
本人はそのつもりだった。
『何か言ってください』
マッハ。
もちろん――
マッハだった。
キランは息を吸った。
そして。
吐いた。
それから――
できる限り最高の笑顔を作る。
あまり成功してはいなかった。
「えーっと……」
生徒たちが身を乗り出す。
待っている。
期待している。
何かを求めている。
キランは必死に言葉を探した。
気の利いたこと。
心に響くこと。
教師らしいこと。
しかし――
頭に最初に浮かんだ言葉が。
そのまま口から飛び出した。
「……最近、ハチってすごいよな?」
沈黙。
完全なる――
沈黙。
そして。
一人の生徒が手を挙げた。
「先生……ハチにやられたんですか?」
キランは目を閉じた。
ほんの一瞬。
苦しそうに。
「そこはどうでもいい」
「とにかく……」
姿勢を整える。
残された僅かな威厳を――
どうにか取り戻そうとしながら。
「授業を始めよう」
生徒たちは納得していなかった。
まったく。
これっぽっちも。




