受容
部屋は静かなままだった。
スザンヌはドアのところに立っていた。
片手をドア枠に添えながら。
考えている。
迷っている。
そして――
キランが生まれたその瞬間から、ずっと認めたくなかった一つの現実を。
ようやく受け入れようとしていた。
どれだけ必死に頑張っても――
息子をすべての危険から守ることはできない。
もう。
もしかしたら――
最初から、できなかったのかもしれない。
「こんなに大切なことだったなんて……知らなかったわ」
その声は先ほどよりも柔らかかった。
負けを認めたわけではない。
諦めたわけでもない。
ただ――
正直だった。
キランは母親の目を見つめた。
「大切なんだ」
しばらく。
誰も何も言わなかった。
やがて――
スザンヌがため息をつく。
長い。
とても長いため息。
親が――
口論が始まるずっと前から、自分が負けるとわかっていた時につくようなため息。
「私は絶対に賛成できない……」
その言葉に。
全員の注意が即座に向いた。
キランの肩が落ちる。
予想していた。
理解もしていた。
だが。
スザンヌは続けた。
「……でも、あなたを止めようとはしない」
部屋が凍りついた。
キランが瞬きをする。
「本当に?」
スザンヌは即座に息子を指差した。
「後悔させないでよ」
「そんなことするわけないよ」
「あなたなら絶対するわ」
「……確かに」
ギアまで少し笑った。
スザンヌは呆れたように首を振る。
そして。
ドアへ向かった。
「先生を呼んで、あなたが目を覚ましたって伝えてくるわ」
部屋を出る前に。
ギアとレイモンドの横で足を止めた。
二人とも即座に姿勢を正す。
なぜなら。
母親には逆らえない。
大人であっても。
いや――
大人だからこそ。
スザンヌは二人を厳しい目で見た。
「この子のこと、ちゃんとお願いね?」
「いつも通り任せてよ、母さん」
ギアが即座に答える。
ドアが閉まった。
そして――
それだけで。
部屋の空気が変わった。
沈黙が続いたのは――
きっかり三秒。
そして。
「ジェラルド?」
レイモンドがニヤリと笑う。
ギアは即座に呻いた。
「ああ、もう黙れ」
レイモンドが笑う。
キランも笑った。
マッハまで面白そうな表情を浮かべている。
これまでの出来事を考えれば――
かなり大したものだった。
「よし」
ギアは腕を組んだ。
「話せ」
「何があった?」
キランは眉をひそめた。
思い出そうとする。
起きたことを――
順番に整理しようとする。
「正直……俺にもよくわからない」
「地球上でも最強クラスの二人と戦ったんだぞ」
ギアは明らかに納得していない。
「もう少し頑張って思い出せ」
キランは無視した。
「俺たちがビームを撃ってて」
「それから警報が鳴り始めた」
マッハが即座に頷く。
『キャノンがオーバーロードしたようです』
ギアが大げさに指を差した。
「まさにそれだ!」
キランが瞬きをする。
「へえ」
「そんなこと起きるなんて知らなかった」
ギアは何かを投げつけそうな顔になった。
「起きるに決まってるだろ!」
メカニックは心底恐ろしそうな顔をした。
「俺が用意した訓練を最後までやってれば、それくらい知ってたんだよ!」
キランは顔をしかめた。
「落ち着いてよ、ジェラルド」
「次はちゃんとするからさ」
「ジェラルドって呼ぶな!」
叫び声が病室中に響いた。
何人かの看護師がドアの向こうからこちらを覗く。
ギアは即座に声を落とした。
「俺の名前はギアだ」
「いいな?」
キランは笑った。
「わかったよ、ジェラルド」
「キラン」
「何?」
「本気で言ってるんだぞ」
ギアがさらに文句を言う前に――
レイモンドが口を挟んだ。
「本当に……また外へ出るつもりなのか?」
笑いが消えた。
部屋の空気が――
再び真剣なものになる。
キランは迷わなかった。
「うん」
答えは即座に返ってきた。
恐怖もない。
疑いもない。
迷いもない。
あるのは――
決意だけ。
レイモンドはしばらくキランを見つめた。
その表情を。
その目を。
その決意を確かめるように。
そして――
一度だけ頷いた。
「なら、俺も手伝う」
キランが瞬きをする。
ギアも瞬きをする。
マッハも瞬きをする。
その答えだけは――
誰も予想していなかった。




