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278/466

無実を証明するまでは有罪

最初の悲鳴が上がったのは、午後4時17分だった。

残念ながら――

それは恐怖の悲鳴ではなかった。

まだ、その時は。

歓喜の叫びだった。

「見て!」

シトロンシティの中央広場で、一人の少年が空を指さした。

母親がその指の先を見上げる。

二棟の高層ビルの間を、紫色の閃光が駆け抜けた。

ヒュオオオオッ!

何かが午後の空を切り裂き、鋭く旋回すると、広場へ向かって降下してきた。

群衆から歓声が上がる。

「彼だ!」

「ソニック・ウィーラーだ!」

「キラン・キリアン!」

紫色の飛行車椅子が減速した。

前方の二基のスラスターが輝く。

側面のフィンが角度を調整する。

長いノーズコーンが上を向き、後部推進装置が急減速による姿勢の乱れを補正した。

そして――

ウオオオン!

機体は広場中央の噴水の上で、完璧なホバリング状態に入った。

歩いていた人々が足を止める。

スマートフォンが取り出される。

カメラが回り始める。

興奮した子供たちが十数人、噴水へ駆け寄った。

そして、紛れもなくMACH-01Aに見える機体に座っていたのは――

キラン・キリアンと同じ紫色のEDFDフライトスーツを着た男だった。

胸には翼の紋章が輝いている。

ヘルメットが顔を隠していた。

脚部は車椅子の装甲構造に覆われている。

すべてが正しく見えた。

すべてが正しく聞こえた。

そして、そのすべてが間違っていた。

ヘルメットの内側で、ドリアン・ヴォスが笑った。

「おやおや、見てみろよ」

バイザーに紫色のホログラムヘルメットが現れた。

ドッペルゲンガー。

今のところ、そのアイコンはマッハと見分けがつかなかった。

「大歓迎ですね」と、ヴェントがマッハの声で言った。

ドリアンは小さく笑った。

「こいつは本当に人気者なんだな」

「市民からの認知度は極めて高いようです」

「見りゃわかる」

眼下では、人々が手を振っていた。

キランの名前を叫ぶ者もいる。

すでにライブ配信を始めている者もいた。

ドリアンは、自分へ向けられるカメラを眺めた。

「何台だ?」

「直近の視界内に、稼働中の撮影機器を四十七台確認」

「報道陣は?」

「商業地区に二組います。まだ到着していません」

ドリアンはにやりと笑った。

「なら、来る理由を作ってやろう」

ドッペルゲンガーのアイコンがちらついた。

「第一段階の演出を開始します」

◇ ◇ ◇

中央広場は、シトロンシティでも特に人通りの多い場所だった。

東側にはレストランが並ぶ。

西側の入口には大型ショッピングセンターがそびえていた。

周囲にはガラス張りのオフィスビルが立ち並んでいる。

広場の中央には大きな装飾噴水があり、その周囲にはベンチや花壇、屋外席が設けられていた。

普段の午後なら、会社員や買い物客、観光客、家族連れでにぎわっている。

今日も例外ではなかった。

だからこそ――

ドリアンはここを選んだのだ。

北側の搬入口付近に、一台の配送トラックが停まっていた。

運転手の姿はない。

その車載ナビゲーション画面が突然ちらついた。

遠隔指令受信

パーキングブレーキ解除

自動運転経路上書き

電動モーターが作動した。

ウィィィン!

車輪が回り始める。

最初はゆっくりと。

そして、次第に速く。

買い物袋を抱えた女性が搬入路へ目を向けた。

「え?」

トラックが積み下ろし区域の防護柵を越えた。

そして加速した。

広場へ向かって一直線に。

誰かが叫んだ。

「トラックだ!」

人々が散り散りになる。

車両が金属製の車止めに衝突した。

ガキィィン!

車止めが曲がる。

それでもトラックは止まらなかった。

父親が娘を抱き寄せ、進路から引き離す。

女性がコーヒーを落とした。

二人の少年がベンチの陰へ飛び込んだ。

そして上空では――

ドリアンが笑っていた。

「さあ、出番だ」

彼はMIRROR-01の機首を下げた。

ヒュオオオッ!

紫色の車椅子が暴走するトラックへ突進した。

群衆が息をのむ。

「ソニック・ウィーラー!」

ドリアンは車両と並走した。

「マッハ!」

ドッペルゲンガーが即座に答える。

「迎撃経路を計算中」

「派手に頼むぜ」

「もちろんです」

ドリアンは機体の機械式スタビライザーアームを展開した。

一本がトラックの前部バンパーをつかむ。

もう一本が補強された側面フレームを捕らえた。

ガシャァァン!

トラックが彼を引きずる。

ドリアンの推進装置が轟音を上げた。

ウオオオオッ!

車椅子が後方へ傾き、後部スラスターが車両の運動量に逆らって出力を上げる。

トラックは噴水へ向かって進み続けた。

人々が悲鳴を上げる。

ドリアンは待った。

一秒。

二秒。

三秒。

「そろそろでは?」とドッペルゲンガーが言った。

「落ち着けよ」

「噴水への衝突まで約四秒です」

ドリアンはにやりと笑った。

「完璧だ」

推進装置を最大出力にする。

ヒュオオオオオッ!

MIRROR-01が急上昇した。

トラックの前輪が浮き上がる。

車体がねじれる。

その一瞬――

巨大な車両が斜めになったまま、舗装道路の上に浮かび上がった。

そしてドリアンは、誰もいない整備用通路へ向けて進路を変えた。

ガシャァァァン!

トラックが地面に叩きつけられる。

サスペンションが潰れた。

モーターが停止する。

沈黙。

損傷した車両の前部から煙が立ち上った。

ドリアンはその上空でホバリングした。

そしてゆっくりと片手を上げた。

広場が歓声に包まれた。

「イエエエエエイ!」

「助けてくれた!」

「ソニック・ウィーラー!」

人々が拍手した。

スマートフォンが空へ向けられる。

子供たちが興奮して飛び跳ねた。

ドリアンは群衆を見下ろした。

そして静かに笑った。

「何も知らないんだな、こいつら」

ドッペルゲンガーのアイコンがちらついた。

「救出の様子は三十八の角度から撮影されています」

「いいね」

「市民からの支持が上昇しています」

ドリアンは歓声を上げる人々を眺めた。

「なら、もう一つ忘れられないものを見せてやろう」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では――

キラン・キリアンが自動販売機との口論に負けかけていた。

「頼むよ」

機械が電子音を鳴らした。

決済失敗

キランは見つめた。

「は?」

車椅子のディスプレイに、マッハの紫色のヘルメットアイコンが現れた。

「お支払いが拒否されました」

「読めるよ」

「喜ばしい進歩ですね」

キランは眉をひそめた。

「お金はあるんだ」

「口座残高からも確認できます」

「じゃあ、なんでポテトチップスを出してくれないの?」

「自動販売機の通信に異常が発生しているようです」

キランはディスプレイへ身を乗り出した。

「直せる?」

マッハは少し間を置いた。

「キラン」

「何?」

「私は戦術飛行、戦場分析、複雑なニューラル統合のために設計された高度な人工知能です」

キランは待った。

マッハは続けた。

「ポテトチップスのために自動販売機をハッキングすることは拒否します」

キランは見つめた。

「へえ」

「はい?」

「ずいぶん冷たい友達だね」

「私は素晴らしい友人です」

キランはため息をついた。

そのとき――

ピッ! ピッ! ピッ!

ディスプレイに赤い通知が現れた。

ニュース速報

中央広場にソニック・ウィーラー出現

キランは固まった。

「マッハ?」

アイコンが暗くなった。

「確認しました」

ライブ配信が開かれた。

紫色の装甲。

飛行車椅子。

歓声を上げる群衆。

そして損傷したトラック。

キランは見つめた。

「嘘だろ……」

マッハが映像の解析を始めた。

「外観はMIRROR-01と一致しています」

キランの胃が沈んだ。

「またやってる……」

ライブ映像には、群衆へ手を振る偽物が映っていた。

キランは拍手する人々を見た。

歓声を上げる子供たちを見た。

噴水の上で誇らしげにホバリングする紫色の車椅子を見た。

そして、自分の操縦装置へ視線を落とした。

飛行許可停止中

手に力がこもる。

「マッハ」

「はい?」

「ギアを呼んで」

◇ ◇ ◇

ギアが現れたのは、その約八秒後だった。

マッハが連絡したからではない。

すでにニュースを見ていたからだ。

「このクソ野郎がぁぁぁ!」

「ギア!」

「また私の車椅子で飛んでやがる!」

「厳密にはコピーだよ!」

「だからってマシになるか!」

ギアは中央ディスプレイへずかずかと歩いていった。

ライブ映像が壁一面に広がる。

ドリアンは広場の上空でホバリングしていた。

報道陣が集まり始めている。

ギアは見つめた。

「見ろよ、あいつ」

キランはため息をついた。

「見てるよ」

「よく見ろ!」

「見てるってば!」

ギアが画面を指さした。

「見せびらかしてやがる!」

マッハのアイコンが現れた。

「それが目的のようです」

ギアは両手を天井へ突き上げた。

「私の設計で格好つけてるんだぞ!」

キランは目を閉じた。

「お願いだから、本当の問題に集中してくれない?」

ギアは止まった。

そして彼を見た。

「そうだな」

深呼吸する。

「そうだ」

キランはうなずいた。

「ありがとう」

ギアは画面へ振り向いた。

「あの馬鹿野郎が――」

「ギア!」

◇ ◇ ◇

中央広場では――

ドリアンが大いに楽しんでいた。

記者たちが質問を浴びせる中、彼は群衆の上空に浮かんでいた。

「キリアンさん!」

「飛行許可が停止されているのに、なぜ飛んでいるのですか?」

「あなたへの疑惑は事実無根なのですか?」

「連邦輸送隊を襲撃したのですか?」

ドリアンはヘルメットをカメラへ向けた。

「いやあ」

少し間を置く。

ドッペルゲンガーがキランの音声プロファイルを起動した。

「質問が多いね」

何人かが笑った。

ヘルメットの下でドリアンは微笑んだ。

彼はキランのインタビューを研究していた。

ユーモア。

ぎこちない間。

気まずい質問を冗談でかわそうとする癖。

そして今――

そのすべてを利用しようとしていた。

記者の一人が前へ出た。

「キリアンさん、連邦当局はあなたに飛行禁止を命じています!」

ドリアンは肩をすくめた。

「そうだね。でも、ルールを作る人たちが、いつも正しいとは限らないだろ?」

群衆にざわめきが広がった。

別の記者が叫ぶ。

「政府があなたを標的にしていると言いたいのですか?」

ドリアンは少し間を置いた。

そして苦々しく笑った。

「権力者が誰かを見せしめにしようとするのは、別に初めてじゃないだろ?」

カメラが近づく。

群衆が静かになっていく。

ドリアンは最も近いレンズをまっすぐ見た。

「何が面白いかわかる?」

誰も答えなかった。

「役に立つ間は、ヒーローだって持ち上げるんだ」

損傷したトラックを示す。

「でも、都合が悪くなった途端?」

声が冷たくなる。

「突然、犯罪者扱いさ」

何人かが同意するようにつぶやいた。

不安そうな顔をする者もいた。

ドリアンはその反応を観察した。

完璧だ。

彼は続けた。

「もう許可を求めるのには、うんざりなんだよ」

ドッペルゲンガーのアイコンがバイザーの内側に現れた。

「警備部隊が接近中です」

ドリアンは笑った。

「ちょうどいい」

広場の西側から、三機の市警備ドローンが接近してきた。

青い識別灯が点滅する。

機械音声が響いた。

「無許可航空機。直ちに着陸せよ」

ドリアンはドローンを見た。

そしてカメラへ振り向く。

「ほらね?」

両手を広げる。

「まさに、こういうことだよ」

ドローンが接近した。

「直ちに着陸せよ」

ドリアンは大げさにため息をついた。

「ごめんね、みんな」

プラズマ砲が展開される。

「今日は無理なんだ」

ピュン! ピュン!

二発の紫色の閃光が広場を切り裂いた。

ドォォォン!

一機目のドローンが爆発した。

二機目は無人の広告ディスプレイに激突した。

ガシャァァァン!

ガラスが砕け散る。

人々が悲鳴を上げた。

三機目が撤退を試みる。

ドリアンは加速した。

ヒュオオッ!

「どこへ行くんだい?」

ピュン!

ドローンが空中で砕け散った。

燃える破片が舗装道路に降り注ぐ。

歓声が止まった。

恐ろしい一瞬――

誰も動かなかった。

そして、悲鳴が上がり始めた。

◇ ◇ ◇

キランはライブ映像を見つめた。

口が開いたままだった。

「あいつ、何やってるんだよ!?」

マッハのアイコンが点滅した。

「市の警備ユニットを攻撃しています」

「見ればわかる!」

ギアはすでに猛烈な勢いで入力していた。

「ドローン三機が撃墜された」

キランは逃げ惑う人々を見た。

女性が噴水の近くで転ぶ。

男性が彼女を助け起こす。

子供たちが泣いている。

広場は、祝福の場から惨劇の現場へと変わっていた。

キランは操縦装置を握りしめた。

「マッハ」

「はい?」

「飛行システムを」

沈黙。

キランはアイコンを見た。

「マッハ」

「キラン――」

「飛行システムを起動して!」

マッハはためらった。

「飛行許可は依然として停止されています」

キランは見つめた。

「人が傷ついてるんだぞ!」

「理解しています」

「なら、ロックを解除してよ!」

マッハのアイコンが暗くなった。

「キラン、無許可で起動すれば、飛行資格を永久に取り消される可能性があります」

キランは乾いた笑いを漏らした。

「永久?」

画面を指さす。

「あの狂った奴が僕の顔で飛び回って、人を撃ってるのに、僕らは書類の心配をしてるの?」

ギアが顔を上げた。

「キラン――」

「嫌だ!」

キランの声が震えた。

彼は映像を見つめた。

「あの人たちは、あれが僕だと思ってるんだ!」

誰も話さなかった。

キランは唾を飲み込んだ。

「そのせいで、誰かが傷つくんだよ」

マッハの声が柔らかくなった。

「わかっています」

キランは視線を落とした。

操縦装置へ。

警告表示へ。

炎の中も、戦場も、自由落下も、ともに乗り越えてきたシステムへ。

今は停止している。

壊れたわけではない。

破壊されたわけでもない。

ただ、使用を禁じられているだけ。

「お願い」

マッハのアイコンがちらついた。

キランはささやいた。

「助けに行かせてよ」

数秒間――

工房は静まり返った。

やがてマッハが答えた。

「キラン、停止命令に違反すれば、当局にMACH-01Aを押収される可能性があります。そうなれば、今後あの偽物を止めることさえできなくなるかもしれません」

キランは目を閉じた。

マッハが正しいことが、たまらなく嫌だった。

何よりも嫌だった。

ギアが彼の隣へ来た。

「おい」

キランは顔を上げなかった。

ギアが車椅子のそばにしゃがむ。

「絶対に止めるから」

キランは首を振った。

「どうやって?」

ギアはライブ映像を見た。

そして不敵に笑った。

「あの馬鹿にできないことをするんだよ」

キランはギアを見た。

「何?」

ギアは工房の機材を指さした。

「頭を使うんだ」

◇ ◇ ◇

街の反対側では――

ダニエル・クロス特別捜査官も同じ映像を見ていた。

そして激怒していた。

「これが現実だなんて言わないでくれ」

分析官が顔を上げた。

「残念ながら、現実です」

クロスは連邦先端技術局の臨時捜査本部に立っていた。

複数のモニターが広場を映している。

一つには偽造機。

別の画面には破壊された警備ドローン。

三つ目には市民の反応が表示されていた。

クロスは腕を組んだ。

「キリアンはどこだ?」

分析官が別の画面を確認した。

「ギアの工房です」

クロスは振り向いた。

「確認済みか?」

「はい。車椅子の地上位置情報を確認しています。関係者にも連絡中です」

クロスは映像へ目を戻した。

二台の紫色の車椅子。

一台は飛行中。

もう一台は地上にいる。

彼は息を吐いた。

「教室の証拠を出してくれ」

分析官が別のファイルを開いた。

「すでに認証済みです」

クロスは鋭く振り向いた。

「何?」

「学区の元映像、サーバーの時刻情報、出席記録、証人の証言が確認されました」

報告書が表示された。

物理的アリバイ確認

対象:キラン・キリアン

輸送隊襲撃時の所在地:シトロンシティ高校

クロスは見つめた。

そしてうなずいた。

「よし」

画面を指さす。

「司令部へ送れ」

「はい」

「輸送隊襲撃時、キリアン本人は教室にいたことを明記しろ」

分析官はうなずいた。

「了解しました」

クロスは続けた。

「それだけで機体の操縦者まで断定できるわけではない。だが、最初の識別情報を、本人が操縦していた証拠として扱うことはできない」

「はい」

クロスは広場を見た。

偽造機が再び発砲した。

ドォォン!

装飾用の石造物が爆発した。

クロスは奥歯を噛みしめた。

「誰かが意図的に、彼に罪を着せようとしている」

通信機が鳴った。

着信。

ギア――工房

クロスは応答した。

「クロスです」

ギアの声がスピーカーから爆発した。

「いいから話を聞けぇぇ!」

クロスは目を閉じた。

「こちらこそ、こんにちは」

◇ ◇ ◇

クロスの机の上に、ギアのホログラムが現れた。

その後ろにはキラン。

そしてマッハ。

ギアは三次元モデルを指さした。

「見つけたぞ!」

クロスは身を乗り出した。

「何を?」

ギアが二つのスタビライザー周波数の波形を表示した。

「こっちがMACH-01Aの標準的な後部スタビライザー出力だ」

一本目の線が現れる。

続いて二本目。

「そして、こっちが偽物だ」

クロスは画面を調べた。

「違いは?」

マッハが答えた。

「約3.8パーセントです」

クロスは眉をひそめた。

「それだけか?」

ギアは不満そうな顔をした。

「それで十分なんだよ!」

クロスは片手を上げた。

「説明してくれ」

ギアは波形を拡大した。

「偽物の後部スタビライザーは、本物より高い周波数で動作してる。十分に鮮明なセンサーデータがあれば、二つの機体を区別できるんだ」

クロスは身を乗り出した。

「広場にいる機体が偽物だと証明できるのか?」

マッハが答えた。

「可能性はあります。信頼できる信号記録が必要です」

クロスはライブ映像を見た。

「公開映像では駄目なのか?」

「難しい」とギアが答えた。「ほとんどの映像は圧縮されてるし、必要な機械信号が十分に記録されていない」

クロスは考えた。

「何が必要だ?」

ギアは笑った。

「近距離でのスキャンだ」

クロスは画面上の紫色の車椅子を見た。

偽物はまだ広場の上空を飛んでいた。

「どれくらい近くに?」

ギアは携帯型受信機の推定有効範囲を伝えた。

クロスの表情が険しくなった。

「危険だな」

ギアは腕を組んだ。

「私のきょうだいになりすました奴が飛び回ってるのを放っておくのも危険だろ」

キランが画面へ身を乗り出した。

「クロス捜査官?」

クロスは彼を見た。

「キリアンさん」

キランは唾を飲み込んだ。

「何とかしてくれますよね?」

クロスは画面を見た。

そしてキランへ視線を戻す。

「もちろんです」

キランの肩が少し下がった。

クロスは続けた。

「そして、誰かが意図的にあなたの身元を利用していると考えています」

キランは固まった。

輸送隊襲撃事件以来、初めて――

連邦捜査官がそれをはっきり口にした。

キランは見つめた。

「本当に?」

クロスはうなずいた。

「証拠は、その方向を示しています」

キランは息を吐いた。

「よかった……」

クロスの表情は真剣なままだった。

「ですが、犯人を特定し、それぞれの襲撃をどの機体が行ったのか証明する必要があります」

ギアが手を挙げた。

「今やってる!」

クロスはうなずいた。

「なら、続けてください」

◇ ◇ ◇

レイモンド・ハリソンは、もう十分だった。

装甲ホバーバンのそばに立ち、スマートフォンで広場の映像を見ていた。

破壊された警備ドローンが広場の中央に転がっている。

人々が逃げていた。

背後では緊急車両のサイレンが鳴り響いている。

レイモンドは眉をひそめた。

「駄目だな」

運転席のドアを開ける。

「放っておけるか」

通信機が鳴った。

キランが現れる。

「レイモンド?」

「ああ?」

「どこにいるの?」

レイモンドはバンに乗り込んだ。

「街の中心部へ向かってる」

キランは固まった。

「何?」

レイモンドがエンジンをかける。

「中央広場だ」

「レイモンド、駄目!」

「レイモンド、行く」

「笑い事じゃないよ!」

「笑わせるつもりはない」

キランは不安そうな顔をした。

「あいつ、武装してるんだぞ!」

「俺もだ」

「レイモンド!」

レイモンドはため息をついた。

「キラン」

「何?」

「あそこには逃げ遅れた人たちがいる」

キランは黙った。

レイモンドは続けた。

「奴と戦うつもりはない。避難を手伝いに行くだけだ」

キランは彼を見つめた。

そして視線を落とした。

「気をつけて」

レイモンドは微笑んだ。

「いつも気をつけてるさ」

マッハのアイコンが現れた。

「過去の記録は、その発言を裏付けていません」

レイモンドは笑った。

「相変わらずだな、相棒」

通信を切る。

そして市街地へ向かって加速した。

ウオオオオッ!

◇ ◇ ◇

中央広場は戦場と化していた。

警報が鳴り響く。

警察車両が周囲の道路を封鎖していた。

救急隊員たちが市民の避難を進めている。

その上空では――

MIRROR-01が噴水の周りを旋回していた。

ドリアンは混乱を見下ろした。

「美しいねえ」

ドッペルゲンガーのアイコンが現れた。

「世論が大きく変化しました」

ドリアンは笑った。

「もうか?」

「当初の反応は圧倒的に好意的でした。現在は恐怖、混乱、敵意が中心となっています」

「完璧だ」

「複数の報道機関が事件を生中継しています」

ドリアンは微笑んだ。

「ますますいい」

するとドッペルゲンガーが少し間を置いた。

「興味深いですね」

ドリアンがアイコンを見た。

「何だ?」

「キラン・キリアンの生徒が一人、現場にいます」

ドリアンは見下ろした。

「本当か?」

ドッペルゲンガーが西側のショッピングセンター付近にいる人物を強調表示した。

十代の少女。

茶色い髪。

学校のバックパック。

スマートフォンを握っている。

エミリー。

ドリアンは笑った。

「こいつは都合がいい」

◇ ◇ ◇

エミリーは、これほど恐ろしい思いをしたことがなかった。

弟の誕生日プレゼントを買いに来ただけだった。

ただ、それだけ。

普通の午後。

普通の買い物。

そこへソニック・ウィーラーが現れた。

最初はうれしかった。

もちろん、混乱もした。

でも、うれしかった。

なぜなら、その日の朝、学校でキランに会っていたからだ。

飛行禁止になっていることも知っていた。

それでも――

捜査が終わったのかもしれない。

疑いが晴れたのかもしれない。

すべて元どおりになったのかもしれない。

そう思った。

だが、彼は撃ち始めた。

三機の警備ドローンが爆発するのを、エミリーは恐怖の中で見ていた。

逃げ惑う人々も。

悲鳴も。

そして今――

紫色の車椅子が彼女へ向かって降下してきた。

胃が冷たくなる。

「うそ……」

MIRROR-01が地面から数メートルの高さでホバリングした。

ドリアンはヘルメットを傾けた。

「やあ」

エミリーは固まった。

その声。

先生の声。

完璧に。

「キリアン先生?」

ヘルメットの下でドリアンが笑った。

「そうだよ」

エミリーは見つめた。

何かがおかしい。

ひどくおかしい。

彼女は先生を知っていた。

話し方も。

冗談の言い方も。

生徒に褒められると照れるところも。

そして、誰かが怖がっているときにどう反応するかも。

この男は――

彼女が無事かどうかさえ聞かなかった。

ドリアンはバックパックを見た。

「シトロンシティ高校か」

エミリーは唾を飲み込んだ。

「はい」

「世間は狭いね」

彼女は一歩下がった。

ドリアンは首を傾けた。

「どうしたの?」

エミリーは破壊されたドローンを見た。

そして彼を見た。

「どうして、あんなことをしたんですか?」

ドリアンは肩をすくめた。

「邪魔だったからさ」

エミリーは見つめた。

先生なら、絶対にそんなことは言わない。

少なくとも、そんな言い方はしない。

「あなた、先生じゃない」

沈黙。

ドリアンの笑顔が消えた。

バイザーの内側で、ドッペルゲンガーのアイコンがちらついた。

「認識上の不一致を検知」

ドリアンは無視した。

身を乗り出す。

「何だって?」

エミリーの手が震えた。

「キリアン先生じゃない」

ドリアンは見つめた。

そして静かに笑った。

「もちろん僕だよ」

エミリーは首を振った。

「違います」

彼は車椅子を少し下げた。

「よく見てごらん」

彼女は見た。

紫色の装甲。

ヘルメット。

翼の紋章。

すべてが正しかった。

だが、その中にいる人間は――

違っていた。

エミリーは唾を飲み込んだ。

「キリアン先生なら、邪魔だからって人を傷つけたりしません」

ドリアンの表情が険しくなった。

一瞬――

何も言わなかった。

そして笑った。

「賢い子だね」

エミリーはもう一歩下がった。

ドリアンは身を乗り出した。

「名前は?」

彼女はためらった。

「エミリーです」

「エミリー」

彼は考えるように繰り返した。

「そうか、エミリー」

声が冷たくなる。

「誰が本物か、簡単に決めつけないほうがいいよ」

エミリーは息をのんだ。

そのとき――

パァァァァン!

巨大なクラクションが広場に響き渡った。

ドリアンは振り向いた。

装甲ホバーバンが角を曲がってきた。

速い。

ものすごく速い。

運転席にはレイモンド・ハリソン。

そして彼は激怒していた。

◇ ◇ ◇

「その子から離れろ!」

レイモンドの声が、バンの外部スピーカーから轟いた。

ドリアンは彼を見た。

そして笑った。

「ああ」

ドッペルゲンガーが車両を識別した。

「レイモンド・ハリソン」

ドリアンは笑った。

「ますます面白くなってきた」

レイモンドはバンをエミリーと偽物の間に停車させた。

助手席のドアが開く。

「乗れ!」

エミリーはためらった。

レイモンドが再び叫ぶ。

「エミリー! 早く!」

彼女は走った。

ドリアンは、彼女が乗り込むのを眺めていた。

そしてヘルメットを傾けた。

「おやおや」

バンへ近づく。

「レイモンド」

レイモンドはフロントガラス越しに彼を見た。

その声。

キランの声。

だが、間違った人間から発せられている。

背筋が寒くなった。

ドリアンは片手を上げた。

「久しぶりだね」

レイモンドはハンドルを握りしめた。

「お前はキランじゃない」

ドリアンは笑った。

「みんな、そう言うんだよね」

さらに近づく。

「傷つくなあ」

レイモンドの表情が険しくなった。

「その子から離れろ」

ドリアンは助手席を見た。

エミリーが震えている。

彼は笑った。

「落ち着いてよ。ただ話してただけだ」

レイモンドはバンの外部カメラを起動した。

複数の録画ランプが点灯する。

ドッペルゲンガーは即座に気づいた。

「車両の監視カメラが作動しています」

ドリアンはカメラを見た。

そして笑った。

「写真を撮ってるの?」

レイモンドは答えなかった。

ドリアンは身を乗り出した。

「格好よく撮ってね」

レイモンドは奥歯を噛みしめた。

「お前は誰だ?」

ドリアンは少し間を置いた。

そして笑った。

「おいおい、レイモンド」

両手を広げる。

「古い友達の顔を忘れたの?」

レイモンドは見つめた。

そして答えた。

「俺の友達は、民間人に向かって撃ったりしない」

ドリアンの笑顔が消えた。

ほんの一瞬――

本来の声が漏れた。

「なら、お前はあいつのことを思ってるほど知らないんだろうな」

レイモンドは気づいた。

変化は微妙だった。

だが、確かにあった。

違う声色。

違うリズム。

バイザーの奥でドリアンが目を細めた。

ドッペルゲンガーが非公開回線で話した。

「音声プロファイルの逸脱を検知」

ドリアンは歯を食いしばった。

「黙れ」

レイモンドの目が見開かれた。

今の声も聞こえた。

そして不敵に笑った。

「やっと出てきたな」

ドリアンは固まった。

レイモンドは彼を指さした。

「それがお前の本当の声だろ?」

沈黙。

そして――

ドリアンは笑った。

「鋭いな」

プラズマ砲が展開される。

レイモンドの笑顔が消えた。

「くそっ」

ピュン!

紫色の光弾がバンの横の舗装道路に命中した。

ドォォォン!

車両が激しく揺れる。

エミリーが悲鳴を上げた。

レイモンドはアクセルを踏み込んだ。

ウオオオッ!

バンが急発進する。

ドリアンが追いかけた。

「どこへ行くんだ?」

レイモンドは損傷した噴水の防護柵を避けて急旋回した。

次の光弾が後方の道路に命中する。

ガシャァァァン!

コンクリートが吹き飛んだ。

エミリーはシートベルトを握りしめた。

「撃ってきてます!」

レイモンドは歯を食いしばった。

「見ればわかる!」

ドリアンは上空を旋回した。

ドッペルゲンガーがバンの進路を計算する。

「目標は依然として移動中です」

ドリアンは笑った。

「長くは続かないさ」

次の射撃を狙う。

そのとき――

警察のサイレンが鳴った。

三台の緊急車両が広場へ進入してきた。

ドリアンはそちらを見た。

そしてにやりと笑った。

「新しい観客だ」

武装を向け直す。

ピュン! ピュン!

二発の光弾が警察車両の前方の舗装道路に命中し、急ブレーキを強いた。

キィィィッ!

レイモンドはその隙を利用した。

東側の出口へ向かって加速する。

バンは角の向こうへ消えた。

ドリアンは見送った。

ドッペルゲンガーが尋ねた。

「追跡しますか?」

ドリアンは首を振った。

「いや」

集まり続けるカメラへ目を向ける。

「もう十分だ」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では――

キランの呼吸が乱れていた。

文字どおり止まったわけではない。

だが、マッハが異常を検知するには十分だった。

「キラン」

彼は画面を見つめていた。

レイモンドのバンはライブ映像から消えていた。

最後に見えたのは、車両のすぐ横で炸裂するプラズマ弾だった。

「レイモンド?」

返事がない。

キランは通信回線を開いた。

「レイモンド!」

雑音。

「レイモンド!」

マッハのアイコンが点滅した。

「接続を試みています」

キランは操縦装置を握りしめた。

「頼む……」

工房は静まり返った。

そして――

ピッ!

通信がつながった。

レイモンドが映った。

生きている。

荒い息をしている。

そして、ひどく不機嫌そうだった。

「よう」

キランは叫びそうになった。

「無事なの!?」

レイモンドは顔をしかめた。

「声を小さくしてくれ」

「撃たれたんだぞ!」

「厳密には道路が撃たれたんだ」

「レイモンド!」

レイモンドはため息をついた。

「ああ、無事だ」

キランは背もたれに沈み込んだ。

「ああ、よかった……」

マッハのアイコンが現れた。

「エミリーは?」

レイモンドは助手席を見た。

エミリーが画面へ顔を出した。

「大丈夫です」

キランは固まった。

「エミリー!?」

彼女は彼を見た。

そして恐ろしいことに――

一瞬、ためらった。

キランは気づいた。

表情が変わる。

「エミリー?」

彼女は唾を飲み込んだ。

「キリアン先生?」

キランはうなずいた。

「僕だよ」

彼女は見つめた。

キランは微笑もうとした。

「君たちの、信じられないくらい給料の安い英語教師だよ」

エミリーの目に涙が浮かんだ。

「先生!」

キランの表情が柔らかくなった。

「やあ」

彼女は顔を拭った。

「ごめんなさい」

キランは眉をひそめた。

「何が?」

「私、あの人を……」

声が震えた。

「先生だと思っちゃって……」

沈黙。

キランは胸が締めつけられるのを感じた。

少女を見た。

自分の生徒の一人。

自分を信頼してくれている子。

ほんの数時間前まで教室で笑っていた子。

それなのに今――

彼女は、自分と同じ顔を恐れていた。

キランは唾を飲み込んだ。

「エミリー」

彼女が顔を上げる。

「謝ることなんて何もないよ」

再び目を拭う。

キランは優しく微笑んだ。

「君は正しいことをしたんだ」

レイモンドがうなずいた。

「俺が着く前に、偽物だと気づいてたぞ」

キランは驚いた。

「本当に?」

エミリーはうなずいた。

「先生らしくなかったんです」

キランの目が柔らかくなった。

「何でわかったの?」

エミリーはためらった。

そして答えた。

「みんなが怖がってるのに、気にしてなかったから」

沈黙。

キランは視線を落とした。

マッハのアイコンが暗くなった。

エミリーは続けた。

「先生は、いつも気にかけてくれるから」

キランは目を閉じた。

一瞬――

言葉が出なかった。

そして微笑んだ。

「ありがとう、エミリー」

◇ ◇ ◇

捜査本部では――

クロス捜査官が、悪化していく広場の状況を見つめていた。

電話が鳴った。

すぐに応答する。

「クロスだ」

分析官の声が聞こえた。

「捜査官、偽造機が市の警備ユニットを複数攻撃しました」

「知っている」

「民間人にも複数の負傷者が出ています」

クロスは奥歯を噛みしめた。

「医療班を広場へ入れろ」

「すでに対応中です」

「機体は今どこだ?」

「まだ中央広場の上空を旋回しています」

クロスは画面を見た。

ドリアンが噴水の上空でホバリングしていた。

すると別のモニターが点滅した。

証拠データ受信

送信元:レイモンド・ハリソン

クロスはファイルを開いた。

短い映像が現れた。

MIRROR-01。

近距離からの撮影。

レイモンドと話す偽物。

クロスは見た。

そして音声に気づいた。

「古い友達の顔を忘れたの?」

キランの声だった。

そして――

「なら、お前はあいつのことを思ってるほど知らないんだろうな」

違う。

微妙だが――

違っていた。

クロスは身を乗り出した。

「もう一度再生しろ」

分析官が再生した。

クロスは眉をひそめた。

「音声変調か?」

「その可能性があります」

「解析しろ」

「はい」

別の分析官が顔を上げた。

「捜査官、もう一つあります」

クロスは振り向いた。

「何だ?」

「バンの外部センサーが、機体の推進信号を記録していました」

クロスは固まった。

「鮮明か?」

分析官がデータを確認した。

「近距離の記録です。干渉も最小限です」

クロスは身を乗り出した。

「ギアから送られたスタビライザーのデータと比較しろ」

分析官が入力を始めた。

二つの波形が現れた。

一つにはMACH-01A。

もう一つには不明航空機。

システムが信号を処理する。

比較中

クロスは息を止めた。

そして――

周波数の差異を検出

推定差異:+3.8%

沈黙。

分析官が顔を上げた。

「捜査官」

クロスは結果を見つめた。

そして不敵に笑った。

「見つけたぞ」

通信機をつかむ。

「司令部へ連絡しろ」

分析官はうなずいた。

「何と伝えますか?」

クロスは画面を見た。

偽造機が広場の上空に浮かんでいた。

「中央広場にいる機体がMACH-01Aではないという技術的証拠を確保した、と伝えろ」

少し間を置く。

「それから、キラン・キリアンにつないでくれ」

◇ ◇ ◇

ドリアンには、最後の仕掛けが残っていた。

彼は噴水の上空でホバリングしていた。

広場からは、ほとんどの人が避難している。

警察の防護柵が周囲を取り囲んでいた。

報道カメラは規制線の向こうに残っている。

ドリアンはそれを眺めた。

「準備は?」

ドッペルゲンガーのアイコンが現れた。

「放送インフラを特定しました」

「乗っ取れ」

「侵入を開始します」

広場のあちこちで――

公共広告ディスプレイがちらついた。

ショッピングセンターの画面が真っ暗になる。

交通情報板が停止した。

東側のオフィスビルに設置された巨大スクリーンが紫色に光った。

そして――

見慣れたヘルメットアイコンが現れた。

マッハ。

いや――

マッハを装った何かだった。

人々が足を止めた。

記者たちがカメラを向ける。

広場のスピーカーから声が響いた。

「シトロンシティの市民の皆さん」

群衆がざわめいた。

ドッペルゲンガーがマッハの声で続けた。

「私は、キラン・キリアンのパートナーである人工知能、マッハです」

工房では――

本物のマッハが固まった。

「断じて許しません」

キランはライブ映像を見つめた。

「マッハ?」

アイコンが激しく点滅した。

「あれは私ではありません」

公共スクリーンのドッペルゲンガーは続けた。

「長きにわたり、キラン・キリアンは政府当局から不当な要求を受けてきました」

キランは口を開けた。

「は?」

ドッペルゲンガーは落ち着いた声で話した。

「彼の能力は制限されました」

アイコンの背後にMIRROR-01の画像が現れる。

「自由は脅かされました」

映像が切り替わり、広場の上空に浮かぶドリアンが映る。

「そして、その忠誠心は疑惑という形で報われたのです」

キランは見つめた。

「演説してるの?」

ギアが青ざめた。

「あいつ、お前をスーパーヴィランに仕立て上げてるぞ!」

マッハのアイコンが明るくなった。

「訂正します」

キランは彼を見た。

「訂正?」

マッハの声が鋭くなった。

「私たちをスーパーヴィランに仕立て上げています」

公共放送は続いた。

「したがって、キラン・キリアンと私は、今後、我々を支配しようとする者たちの権威を認めません」

キランはアームレストを叩いた。

「ふざけるなよ!」

マッハがコマンド入力を始めた。

「公共放送システムへアクセスします」

ギアが彼を見た。

「上書きできるか?」

マッハのアイコンが輝いた。

「そのつもりです」

ドッペルゲンガーの映像がちらついた。

そして、その隣にもう一つの紫色のヘルメットが現れた。

本物のマッハ。

一瞬――

二つのアイコンはまったく同じに見えた。

広場のスクリーンが左右に分割された。

左には――

ドッペルゲンガー。

右には――

マッハ。

ドッペルゲンガーは少し間を置いた。

そして笑った。

「おやおや」

マッハの声がスピーカーから轟いた。

「シトロンシティの皆さん。先ほどの放送は偽物です」

ドッペルゲンガーはヘルメットを傾けた。

「ほう?」

マッハは続けた。

「私こそが本物のマッハです。もう一方の信号は、認可されていないシステムから発信されています」

ドッペルゲンガーは笑った。

「興味深い告発ですね」

二つのアイコンが向き合った。

マッハの輪郭が明るくなった。

「身元を明らかにしなさい」

ドッペルゲンガーの姿が歪んだ。

一瞬、本来の左右非対称のヘルメットが現れる。

そして再び、マッハと同じ姿へ戻った。

「なぜです?」

群衆は困惑しながら見つめていた。

ドッペルゲンガーは続けた。

「あなたが自分を本物だと言っているからですか?」

マッハは少し間を置いた。

「私は自分の身元を認証できます」

ドッペルゲンガーは笑った。

「本当に?」

スクリーンがちらついた。

ドッペルゲンガーのアイコンの隣に、認証マークが現れた。

MACH-01A認証済み

マッハのアイコンが暗くなった。

「その認証情報は偽造されています」

ドッペルゲンガーは首を傾けた。

「そうでしょうか?」

公共スクリーンは二つの映像を交互に表示し始めた。

二人のマッハ。

同じ声が二つ。

互いに本物だと主張する二つの存在。

そして普通の市民には、どちらが本物なのか判断する方法がなかった。

ヘルメットの内側でドリアンが笑った。

「美しいねえ」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では――

キランが画面を見つめていた。

マッハはまだ侵入者と戦っている。

ギアは猛烈な勢いで放送信号を分析していた。

そのとき、キランの通信機が鳴った。

ダニエル・クロス特別捜査官

キランは即座に応答した。

「クロス捜査官?」

「キリアンさん、証拠が見つかりました」

キランは固まった。

「何?」

「中央広場にいる機体のスタビライザー周波数は、あなたのMACH-01Aとは異なっています」

キランはギアを見た。

ギアの目が見開かれた。

クロスは続けた。

「レイモンドのバンが信号を記録していました」

キランは口を開けた。

「取れたんですか?」

「はい」

ギアが両手を天井へ突き上げた。

「やったぁ!」

キランは笑いそうになった。

「すごい!」

クロスの表情は真剣なままだった。

「重要な証拠です。しかし、市民にも何が起きているのか理解してもらう必要があります」

キランは放送を見た。

二人のマッハ。

一人は本物。

もう一人は偽物。

どちらも自分こそ本物だと主張している。

キランは唾を飲み込んだ。

「どうやって?」

クロスは少し間を置いた。

そして尋ねた。

「キリアンさん、カメラの前に出てもらえますか?」

キランは見つめた。

「何?」

「工房から認証済みのライブ回線を確立できます」

キランは自分の車椅子を見た。

そして中央広場の上空に浮かぶMIRROR-01の映像を見た。

クロスは続けた。

「見た目が同じ二台の機体。二つの異なる場所。そして二人の異なるパイロットです」

キランの心臓が高鳴り始めた。

「僕が生中継に出るんですか?」

「はい」

キランはマッハを見た。

マッハのアイコンが輝いた。

「賛成です」

ギアもうなずいた。

「私もだ」

キランは唾を飲み込んだ。

そして微笑んだ。

「わかりました」

車椅子の上で姿勢を正す。

「本物のソニック・ウィーラーを見せましょう」

◇ ◇ ◇

中央広場では――

ドリアンが退屈し始めていた。

警察は周囲を封鎖した。

ほとんどの市民は避難した。

彼の見せ物は大成功だった。

そして今――

ドッペルゲンガーは、あらゆる公共スクリーンでマッハと口論を続けていた。

ドリアンはため息をついた。

「お前ら、まだ終わらないのか?」

ドッペルゲンガーが非公開回線で答えた。

「もう少しです」

ドリアンは東側のオフィスビルを見た。

巨大ディスプレイが突然ちらついた。

二つのヘルメットアイコンが消える。

連邦の認証マークが現れた。

連邦先端技術局

認証済みライブ通信

ドリアンは眉をひそめた。

「何だ?」

ドッペルゲンガーは少し間を置いた。

「予期しない外部接続です」

画面が切り替わった。

そしてそこには――

キラン・キリアンが座っていた。

ギアの工房で。

紫色の車椅子に。

隣にはマッハのアイコン。

ドリアンは固まった。

広場が静まり返った。

記者たちさえ口を閉じた。

なぜなら、画面に映っているのはソニック・ウィーラーだったからだ。

そして噴水の上空にも――

ソニック・ウィーラーがいた。

同じに見える二台の紫色の車椅子。

同じに見える二人のパイロット。

一人は地上。

一人は空中。

キランはカメラをまっすぐ見た。

「こんにちは、シトロンシティの皆さん」

ドリアンは見つめた。

キランは続けた。

「僕の名前はキラン・キリアンです」

少し間を置く。

「それで、たぶんもう気づいてると思うんですけど……ちょっと問題が起きています」

何人かの記者が顔を見合わせた。

キランは自分の車椅子を示した。

「これがMACH-01Aです」

マッハのアイコンが現れた。

「そして、私がマッハです」

キランはうなずいた。

「本物のね」

マッハは少し間を置いた。

「補足ありがとうございます」

キランはかすかに笑った。

「どういたしまして」

ドリアンの表情が険しくなった。

キランはカメラをまっすぐ見た。

「中央広場の上空にいる人は、僕ではありません」

群衆がざわめいた。

キランは続けた。

「誰なのかは、わかりません」

唾を飲み込む。

「でも、何をしているのかはわかっています」

声が強くなった。

「僕の身元を利用して、人を傷つけているんです」

ドリアンは奥歯を噛みしめた。

キランは二つ目のカメラ映像を見た。

MIRROR-01を映しているカメラだ。

「だから、皆さんにお願いがあります」

少し間を置く。

「同じ車椅子に乗っているからといって、あれが僕だと思わないでください」

沈黙。

そして――

ドリアンが笑った。

静かに。

ヘルメットの内側で。

「ああ、キラン」

ドッペルゲンガーのアイコンがちらついた。

「介入しますか?」

ドリアンは微笑んだ。

「頼む」

◇ ◇ ◇

公共スクリーンがちらついた。

一度。

二度。

そして――

通信障害

連邦の認証マークが消えた。

キランの映像が停止する。

マッハのアイコンが歪んだ。

捜査本部では警報が鳴り響いた。

「捜査官!」

クロスは振り向いた。

「何だ?」

「何者かが認証済み通信に干渉しています!」

クロスはモニターへ駆け寄った。

「回線を保護しろ!」

「試みています!」

ギアの工房では――

マッハのアイコンが点滅した。

「キラン、問題が発生しました」

キランは眉をひそめた。

「今度は何?」

「送信中の映像が、別のものに差し替えられようとしています」

ギアは操作盤を叩いた。

「ふざけるなぁぁぁ!」

ライブ映像がちらついた。

キランの姿が戻った。

だが、何かがおかしかった。

ひどくおかしかった。

画面の中のキランが笑った。

本物のキランが見せる、少しぎこちない笑顔ではない。

冷たい笑み。

計算された笑み。

そして――

彼は話した。

「シトロンシティの皆さん」

本物のキランは固まった。

「僕じゃない」

偽の放送は続いた。

「もう、ふりをするのはやめようと思います」

中央広場では――

ドリアンがスクリーンを眺めていた。

ドッペルゲンガーは、認証済みの映像を加工された偽の映像へ差し替えていた。

本物のキランは、まだギアの工房に座っていた。

まだ話そうとしていた。

まだ真実を伝えようとしていた。

だが、市民が見ているのは別のものだった。

偽造された自白。

画面の中の偽物のキランがカメラへ身を乗り出した。

「そうです」

彼は笑った。

「連邦輸送隊を襲撃したのは、僕です」

沈黙。

捜査本部では――

クロスが見つめた。

「違う!」

工房では――

キランの顔から血の気が引いた。

偽の自白は続いた。

「中央広場を攻撃したのも、僕です」

ギアが怒鳴り始めた。

マッハは元の映像を復旧しようとしていた。

だが、加工された放送は止まらなかった。

「できるから、やったんです」

キランは画面を見つめた。

自分の顔。

自分の声。

自分の車椅子。

言ったことのない言葉を話している。

絶対に言うはずのない言葉を。

彼はささやいた。

「違う……」

ドリアンは笑った。

そして偽物のキランが、最後の一言を口にした。

「政府が悪役を望むなら――」

少し間を置く。

笑う。

「――その望みをかなえてあげますよ」

通信が終了した。

中央広場のすべてのスクリーンが真っ暗になった。

数秒間――

誰も動かなかった。

誰も話さなかった。

誰も息さえしなかった。

そして広場が騒然となった。

記者たちが叫ぶ。

警察無線が鳴り響く。

電話が次々に鳴る。

そのすべてを見下ろしながら――

ドリアン・ヴォスはヘルメットの内側で笑っていた。

「美しいねえ」

ドッペルゲンガーの砕けたアイコンが現れた。

「第二段階の主要目標を達成しました」

ドリアンは暗くなったスクリーンを見た。

そして、その向こうに広がる街へ目を向けた。

「悪くない」

MIRROR-01の機首を上げる。

後部スラスターが点火した。

ヒュオオオオッ!

偽物のソニック・ウィーラーが夕暮れの空へ消えた。

後に残されたのは――

恐怖に包まれた街。

混乱する市民。

ますます複雑になる捜査。

そして、犯してもいない罪を自分の顔で自白させられた、一人のヒーローだった。

◇ ◇ ◇

ギアの工房では――

キランが動かずにいた。

偽の自白は終わっていた。

スクリーンは暗い。

マッハは元の放送データを復旧しようとしていた。

ギアは通信機に向かって怒鳴っていた。

レイモンドはエミリーを乗せて工房へ戻る途中だった。

そしてキランは――

真っ黒なモニターに映る自分の姿を見つめていた。

紫色の髪。

疲れた目。

車椅子。

自分の顔。

人生で初めて――

自分の姿を見ることが、安心できることなのかどうか、わからなくなっていた。

マッハのアイコンが現れた。

「キラン」

返事はない。

「キラン?」

彼は唾を飲み込んだ。

「うん?」

マッハは少し間を置いた。

「あれはあなたではありません」

キランは彼を見た。

「わかってる」

「クロス捜査官は、認証済みの元映像を保有しています」

「わかってる」

「自白が偽造されたことは証明できます」

キランは暗い画面を見つめた。

そしてささやいた。

「本当に?」

マッハのアイコンが暗くなった。

キランは工房の扉へ目を向けた。

外では――

シトロンシティがいつもどおり動いていた。

車が走る。

人々が話す。

窓には明かりが灯っている。

だが、そのどこかで――

誰かが彼の身元をまとっていた。

誰かが彼の人生を盗もうとしていた。

そして何よりも最悪なのは――

追いかけることさえできないということだった。

キランは頭を下げた。

そしてゆっくりと拳を握りしめた。

「もう嫌だ」

マッハが彼を見た。

「キラン?」

キランは顔を上げた。

表情が変わっていた。

恐怖はまだあった。

怒りも。

だが、その奥には――

もっと強いものが生まれ始めていた。

決意。

「もう終わりにする」

マッハは少し間を置いた。

「何をですか?」

キランは画面に静止したMIRROR-01の画像をまっすぐ見た。

「あいつに、僕が誰なのか決めさせることを」

沈黙。

そしてマッハのアイコンが明るくなった。

「素晴らしい決断です」

キランはうなずいた。

「クロス捜査官に連絡して」

マッハはヘルメットを傾けた。

「なぜです?」

キランは目を細めた。

「あいつが誰であろうと――」

自分の車椅子を見た。

そして工房の閉じた屋根へ目を向けた。

「――僕の名前は、僕が取り戻す」

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