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手放すことのできなかったもの

マーラ・エリソン刑事が捜索令状について最初に気づいたのは、必要な書類があまりにも多いということだった。

二つ目に気づいたのは、自分の忍耐力がそろそろ限界に達しているということ。

彼女はシトロンシティ警察本部の会議室に立ち、三人の弁護士、二人の鑑識分析官、そして次第に苛立ちを募らせる一人の裁判官によって作成された書類の束を見つめていた。

一枚目の上部には、こう記されていた。

GH-PRIVATE-04――捜索許可

マーラは微笑んだ。

ようやくだ。

テーブルの向こうでは、別の刑事が作戦計画を確認していた。

「不動産記録によれば、この施設はグレイハーバー関連の投資会社が所有しています」

「警備は?」

「民間警備会社です。正式な認可を受けています。法定代理人にはすでに連絡済みです」

「武装している可能性は?」

「通常の認可を受けた警備員が配置されています。追加の武装要員がいるという証拠はありません」

「危険な設備は?」

「不明です」

マーラは腕を組んだ。

「その言葉、最近一番嫌いになりそう」

刑事はうなずいた。

「私もです」

彼はページをめくった。

「令状の対象は、継続性実験に関連する研究記録、記憶媒体、アクセスログ、および関連設備です」

「いいわ」

「証拠保全チームには技術専門家も同行します。安全性を確認するまで、どの機器も起動させません」

「素晴らしい」

「それから、ハルデン博士の弁護士たちはすでに異議を申し立てています」

マーラは再び微笑んだ。

「ますますいいわね」

◇ ◇ ◇

シトロンシティから約五十キロ離れた場所で、ヴィクター・ハルデンは鍵の掛かったキャビネットの前に立っていた。

アーカイブは静かだった。

冷たく。

完璧に管理されていた。

壁には何列もの保管装置が並んでいる。

何年も使用されていないものもあった。

比較的新しい装置もあった。

そのすべてが、一つの目的のために購入されたものだった。

保存。

少なくとも、ヴィクターはその言葉を好んでいた。

彼は「再構築」という言葉が嫌いだった。

「シミュレーション」も嫌いだった。

そして何より、「模倣」という言葉が嫌いだった。

それらの言葉は、人工的な何かを連想させる。

不完全な何かを。

失われたものの代わりには決してなれない何かを。

ヴィクターはキャビネットを開いた。

中には、封印されたアーカイブ・モジュールが収められていた。

クララ――個人継続性アーカイブ

元資料:過去の音声録音

会話モデル:実験段階

本人による承認:未確認

彼は最後の一行を見つめた。

まただ。

いつも、この一行だ。

「承認……」

その言葉を口にすると、苦々しい響きが残った。

娘は何年も前に亡くなっていた。

今さら、どうやって承認を得ればいいというのか。

誰に、彼女へ尋ねろという権利があるのか。

ヴィクターは目を閉じた。

食卓で笑うクララを思い出した。

キッチンで歌う彼女を思い出した。

大学への進学、音楽、そして週末すら休もうとしない自分をめぐる口論を思い出した。

彼女が最後に玄関を出ていった日のことも。

あのとき、彼は仕事をしていた。

もちろん、仕事を。

あとで電話すると約束した。

だが、その機会は二度と訪れなかった。

ヴィクターは目を開いた。

「もう二度と、お前を失わない」

彼はワークステーションへ手を伸ばした。

そのとき、動きが止まった。

携帯電話に通知が表示された。

法務部――緊急

警察による捜索令状の執行開始

GH-PRIVATE-04

ヴィクターは画面を見つめた。

数秒間、身動き一つしなかった。

そして、ささやいた。

「……駄目だ」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では、キラン・キリアンがまったく別の危機に直面していた。

「冗談だろ!?」

ギアはタブレットから顔を上げた。

「冗談じゃないぞ!」

キランは彼を見つめた。

「本当に?」

「本当だ!」

「絶対に?」

「キラン」

「何?」

「何回も聞くな」

キランは紫色に輝くマッハのパイロットヘルメット型アイコンへ顔を向けた。

「マッハ?」

「はい、キラン」

「こいつが嘘をついてないって言ってくれ」

「ギアは嘘をついていません」

キランは固まった。

そして、ゆっくりと笑顔を浮かべた。

「……おお、スナット」

工房の向こうでは、MACH-01Aが補強された試験区画の中に固定されていた。

紫色の装甲付き飛行車椅子は、何週間にもわたる修理を受けていた。

推進装置の取り付け部分は交換され、補強された。

電気系統は絶縁試験に合格した。

安定化装置は個別の応答試験を通過した。

統合制御システムも、較正値の不一致を修正したあと、ようやくベンチ検証に合格した。

そして今――

ナサニエル・ブルックスが、署名済みの承認書を手にしていた。

「限定的な地上移動試験が承認されました」

キランの笑顔がさらに大きくなった。

「よっしゃあああ!」

レイモンド・ハリソンはコーヒーを下ろした。

「まだ喜ぶな」

キランはうめいた。

「どうしてみんな、幸せを嫌うんだよ?」

「お前は幸せと加速を混同するからな」

マッハのアイコンが点滅した。

「過去の行動記録も、その評価を支持しています」

「裏切り者!」

ギアは大笑いした。

◇ ◇ ◇

今回の試験は飛行ではなかった。

飛行には、まだほど遠かった。

推進システムは物理的に作動を禁止されていた。

車椅子は厳密に制限された地上駆動力だけで移動する。

試験区画には緊急停止装置が設置されていた。

制御不能な移動を防ぐため、機体には拘束装置も取り付けられていた。

ナサニエルは別のコンソールから試験を監視する。

ギアは機械系統を監督する。

マッハは内部診断を担当する。

レイモンドは緊急停止装置のそばで待機する。

そしてキランは――

ついに、自分の車椅子へ戻ることができる。

キランは仮設電動車椅子でMACH-01Aへ近づいた。

しばらく、何も言わなかった。

修理された装甲は見慣れていた。

座席の形も。

肘掛けも。

ディスプレイも。

紫色の塗装も。

待機中の機械が発する、かすかな低音さえも。

まるで、自分の居場所だった。

ギアはその表情に気づいた。

「おい」

キランは顔を上げた。

「ん?」

「大丈夫か?」

キランはかすかに微笑んだ。

「ああ」

少し間が空いた。

「……ただ、会いたかったんだ」

ギアの笑顔が柔らかくなった。

「ああ」

ナサニエルが近づいた。

「承認された移乗手順に従って、姿勢と支持具を確認します。試験を始める前に、不快な部分がないかも確かめましょう」

キランはうなずいた。

「了解」

マッハが静かに言った。

「おかえりなさい、キラン」

キランは輝くアイコンを見た。

「お前にも会いたかったよ、相棒」

マッハは少し間を置いた。

「私は修理期間中も、ずっとあなたと会話していましたが」

キランは笑った。

「言いたいことはわかるだろ」

「もちろんです」

◇ ◇ ◇

移乗と姿勢の確認には、キランが望んでいたよりも長い時間が掛かった。

もっとも、彼にとっては一秒でも長すぎたのだが。

ギアが座席の支持具を確認した。

ナサニエルは身体の位置と固定状態を点検した。

キランは操作装置が使いやすい位置にあることを確かめた。

マッハは安全設定を確認した。

MACH-01A――限定地上試験

パイロット位置:確認済み

座席支持具:検証済み

推進システム:無効

地上駆動:制限付き

緊急停止:待機状態

試験区画:安全確保済み

キランは息を吸った。

「よし」

ナサニエルが彼を見た。

「準備はいいですか?」

キランはにやりと笑った。

「何週間も前からできてる」

「それは質問の答えになっていません」

キランはくすりと笑った。

「ああ。準備できた」

ナサニエルはうなずいた。

「試験を開始します」

短い電子音が鳴った。

地上駆動:有効

キランが操作装置を動かした。

MACH-01Aが前進した。

十五センチほど。

そして停止した。

沈黙。

キランは見つめた。

ギアも見つめた。

レイモンドも見つめた。

マッハのアイコンが点滅した。

「前進動作、成功」

キランの笑顔が爆発した。

「うおお! これだよ、これ!」

ギアは両腕を突き上げた。

「スナァァァット!」

レイモンドが笑った。

ナサニエルも微笑んだ。

「いいですね。次は指定された速度で後退してください」

キランは従った。

車椅子が後退する。

停止。

わずかに旋回。

再び停止。

すべての動作が慎重に行われた。

制御されていた。

監視されていた。

そしてキランにとっては――

最高だった。

◇ ◇ ◇

グレイハーバーのアーカイブでは、正午少し前に最初の警察車両が到着した。

マーラが車から降りた。

建物は警備フェンスの向こうに立っていた。

二階建て。

コンクリートの壁。

少ない窓。

できる限り人目を引かないように設計された施設だった。

警備員が近づいてきた。

「エリソン刑事ですか?」

「そうよ」

彼は書類に目を落とした。

「捜索には協力するよう指示されています」

「結構」

「ハルデン博士は中にいます」

マーラは足を止めた。

「どこ?」

「地下のアーカイブです」

「一人?」

「アクセス記録によれば、そうです」

「稼働中の機器は?」

「わかりません」

マーラは彼を見つめた。

「令状のことを知ってから、何かにアクセスしようとしましたか?」

警備員はためらった。

「昨夜、個人アーカイブに入りました」

「それで?」

「それ以来、施設から出ていません」

マーラは隣の刑事と視線を交わした。

「行きましょう」

◇ ◇ ◇

アーカイブのドアが、重い金属音を立てて開いた。

ヴィクター・ハルデンは中に立っていた。

背中を向けていた。

テーブルの上には小さな録音機が置かれていた。

その隣にはクララの写真。

マーラが入ってきても、彼は驚いた様子を見せなかった。

「エリソン刑事」

「ハルデン博士」

「令状の範囲については、弁護士から説明を受けているでしょうね」

「受けています」

「では、関連する証拠を保全し、調査するために来たこともご理解いただけますね」

ヴィクターは振り返った。

「あなたたちは、私の娘の記憶に踏み込む権利があると思っているのですね」

マーラは落ち着いていた。

「プロジェクト・シナプスに関連する犯罪の可能性を捜査しています」

「娘はシナプスとは無関係です」

「それも確認すべき点の一つです」

「娘が亡くなったのは、プロジェクトが始まる前です」

「承知しています」

「なら、なぜここに?」

マーラは保管キャビネットへ視線を向けた。

「あなたの過去の研究が、コンティニュイティ部門の記録に登場するからです」

ヴィクターの顎がこわばった。

「研究は犯罪ではありません」

「ええ」

「悲しむことも犯罪ではありません」

「ええ」

「誰かを覚えていることも犯罪ではありません」

マーラは彼の目を見た。

「『やめて』と言うことも、犯罪ではありません」

ヴィクターは黙った。

しばらく、二人とも動かなかった。

やがてマーラは続けた。

「ですが、あなたの組織の誰かが、参加者の拒否を尊重する必要はないと判断しました」

ヴィクターは目をそらした。

マーラは証拠保全チームに合図した。

「記録を調べます、博士」

◇ ◇ ◇

技術者たちは慎重に作業した。

誰もアーカイブのシステムを起動しなかった。

誰もネットワークへ接続しなかった。

すべての記憶媒体が撮影され、目録に記録された。

封印状態も記録された。

すべての作業手順が記録された。

ヴィクターは弁護士とともに、部屋の隅から見守っていた。

落ち着いているように見えた。

ほとんど。

だが、一人の証拠保全技術者が「クララ」と書かれたキャビネットへ近づいた瞬間――

ヴィクターが一歩前に出た。

「触るな」

技術者は止まった。

マーラが振り返った。

「博士」

「それは娘のものだ」

「慎重に取り扱います」

「あなたにはわからない」

「なら、説明してください」

ヴィクターはキャビネットを見た。

その表情が変わった。

初めて、怒りが消えたように見えた。

残ったのは疲労だった。

「娘は、よく私に録音を残してくれた」

マーラは待った。

「出張中も。仕事で遅くなるときも。メッセージを録音してくれた」

彼はかすかに微笑んだ。

「ときには、私をからかっていた」

笑顔が消えた。

「ときには、食事を取るようにと」

彼はマーラを見た。

「娘が亡くなったあと、私に残されたのは、それだけだった」

マーラの声が柔らかくなった。

「お気の毒です」

ヴィクターは首を振った。

「いや。あなたにはわからない」

「そうかもしれません」

「わかるはずがない」

マーラは反論しなかった。

代わりに、こう言った。

「その録音が大切なのはわかります。でも、クララが実際に言った言葉と、モデルが彼女なら言ったかもしれないと予測した言葉は、別のものです」

ヴィクターの表情が硬くなった。

「その区別は、あなたが思うほど単純ではない」

「なら、研究者たちはその違いについて、正直であるべきでした」

沈黙。

ヴィクターは背を向けた。

◇ ◇ ◇

突破口は、一冊の手書きノートから見つかった。

サーバーではない。

人工知能でもない。

暗号化されたデータベースでもない。

ノートだった。

証拠保全技術者の一人が、鍵の掛かった引き出しの中から見つけたのだ。

表紙には色あせたラベルが貼られていた。

C・ハルデン――音声プロジェクト

マーラは証拠担当者とともに、撮影されたページを確認した。

大半は録音機器についての記述だった。

マイクの配置。

背景雑音。

編集ソフトウェア。

ありふれた技術メモ。

だが、一ページだけ彼女の注意を引いた。

クララが亡くなる数か月前の日付だった。

筆跡はくだけていた。

個人的なものだった。

お父さんが、私の録音を使って、私が新しいことを言っているようにできないかって何度も聞いてくる。

気味が悪いって言った。

録音を修復するのと、私が言ってもいないことを言わせるのは別物でしょ。

お父さんは私が冗談を言ってると思ってる。

でも、冗談じゃない。

マーラはそのページを見つめた。

もう一度読んだ。

部屋の向こうで、ヴィクターが気づいた。

「何を見つけた?」

マーラは顔を上げた。

「メモです」

「どのメモだ?」

「クララが、あなたの再構築実験について書いています」

ヴィクターの表情が変わった。

マーラは彼に近づいた。

「自分の声で新しい発言を生成されることを、彼女は嫌がっていました」

ヴィクターは何も言わなかった。

「冗談ではないとも書いています」

彼はマーラを見つめた。

そして首を振った。

「娘は、何が可能なのか理解していなかった」

マーラの声は落ち着いていた。

「自分が何を望んでいるかは、理解していました」

ヴィクターの目が細くなった。

「まだ若かった」

「一人の人間でした」

「私の娘だったんだ!」

その声がアーカイブに響いた。

全員が動きを止めた。

ヴィクターは荒く息をしていた。

マーラは声を荒らげなかった。

「ええ」

少し間が空いた。

「そして、あなたに反対する権利もありました」

◇ ◇ ◇

街の別の場所では、エヴリン・マーサーが足音を数えていた。

自分の足音ではない。

警備員たちの足音だ。

窓のない部屋に閉じ込められてから、彼女は彼らの行動パターンを覚えていた。

一人は足音が重い。

もう一人は右足を引きずる。

三人目は、誰も聞いていないと思うと鼻歌を歌う。

食事が届く時間も覚えた。

廊下の照明が暗くなる時間も。

交代の時間も。

建物が静かになる時間も。

そして今――

新しい音が聞こえた。

ドアの外で、慌ただしい会話が交わされていた。

「女を移動させる」

「いつ?」

「今夜だ」

「命令は?」

「変更された」

エヴリンは表情を変えなかった。

だが、胃の奥が冷たくなった。

移動させるということは、何かが変わったということだ。

警察が近づいているのかもしれない。

彼女を閉じ込めた者たちが、恐れ始めたのかもしれない。

どちらにしても、安全が保証されたわけではなかった。

ドアが開いた。

暗いスーツの男が入ってきた。

「マーサー博士」

彼女は顔を上げた。

「今度は何? 知的財産についての楽しいお話?」

「荷物をまとめろ」

エヴリンは何もない部屋を見回した。

「荷物?」

男は何も言わなかった。

彼女は両手を広げた。

「家具も持っていったほうがいい?」

「面倒を起こすな」

「私を誘拐した時点で、十分面倒なことになってると思うけど」

男は一歩近づいた。

「別の場所へ移す」

「なぜ?」

「質問するな」

エヴリンは彼を見つめた。

そして薄く笑った。

「普通、答えが恥ずかしいときにそう言うのよね」

男は何も答えずに出ていった。

ドアが再び施錠された。

エヴリンは足音が遠ざかるのを聞いた。

それから壁際の小さな点検パネルへ視線を向けた。

二日前から気づいていたものだった。

そして今――

ついに危険を冒す理由ができた。

◇ ◇ ◇

そのパネルは、部屋のドアの鍵には接続されていなかった。

それはすでに確認していた。

建物の環境制御装置に関する保守ラベルと、点検口が収められていた。

ラベルは擦り切れていた。

だが、読めた。

建物保守――北地区

その下には、業者番号が記されていた。

エヴリンはそれを暗記した。

それから、何か残せるものがないか探した。

携帯電話はない。

ペンもない。

紙もない。

だが、ジャケットの裏地には小さな金属製の留め具があった。

彼女は慎重にそれを外した。

ゆっくりと。

音を立てずに。

パネルのカバーは、長年の不十分な保守で少し緩んでいた。

彼女は留め具を隙間に差し込んだ。

そして、塗装された表面に四つの文字を刻んだ。

EM07

彼女の認証識別子。

それだけでは不十分だった。

だが、警察がこの建物を捜索することがあれば、部屋を特定する手がかりになるかもしれない。

続いて、業者番号も刻んだ。

そのとき、廊下から音が聞こえた。

足音。

エヴリンは急いでパネルのカバーを戻した。

壁から離れた直後、ドアが開いた。

足音の重い警備員が入ってきた。

彼は室内を見回した。

「何をしていた?」

エヴリンは彼を見た。

「あなたたちの素晴らしいおもてなしについて考えていたの」

男は眉をひそめた。

「壁に近づくな」

彼女は微笑んだ。

「どうして? 壁まで機密情報なの?」

警備員は彼女を見つめた。

そして出ていった。

エヴリンは鍵の掛かる音がするまで待った。

それからようやく、息を吐いた。

脱出ではない。

まだ。

だが、何もしていないわけではなかった。

◇ ◇ ◇

工房では、限定地上試験が終わりに近づいていた。

キランは前進を完了した。

後退も。

制御された旋回も。

低速での停止試験も。

すべての結果が記録された。

すべて合格だった。

彼は、自分が無敵になったような気分になり始めていた。

まさにそのとき、ナサニエルが告げた。

「緊急停止試験です」

キランはうめいた。

「やっぱりな」

ギアはにやりと笑った。

「さあ! 一番楽しいところだぞ!」

「停止のどこが楽しいんだよ?」

「停止できるからこそ、お前は高価な壁飾りにならずに済むんだ!」

レイモンドが笑った。

キランはマッハを見た。

「もっとマシな説明はないのか?」

マッハのアイコンが点滅した。

「停止は、制御された移動に不可欠な機能です」

キランはため息をついた。

「みんな、お笑い芸人だな」

ナサニエルが手順を確認した。

「低速で移動を開始します。指定位置に達したところで、独立した緊急停止装置を作動させます」

「了解」

「機体は、承認された試験基準内で停止する必要があります」

「わかった」

「準備は?」

キランはうなずいた。

「できた」

車椅子が動き始めた。

ゆっくりと。

安定して。

そして――

ピッ!

緊急停止作動

MACH-01Aが停止した。

即座に。

拘束装置は安定していた。

予期しない動きも発生しなかった。

コンソールに表示された。

緊急停止応答:合格

キランは目を瞬いた。

そして笑った。

「おお」

ギアが身を乗り出した。

「おお?」

キランはにやりと笑った。

「これ、結構すごいな」

マッハが答えた。

「あなたが生存することに賛成してくださり、嬉しく思います」

「マッハ!」

◇ ◇ ◇

警察本部では、エイドリアン・ケスラーがマーラ・エリソンと向かい合って座っていた。

またしても。

今回は、新しいものを持参していた。

二つ目の暗号化記憶媒体だった。

弁護士がそれをテーブルに置いた。

マーラは眉を上げた。

「また?」

ケスラーはうなずいた。

「ローカルバックアップを見つけました」

「何の?」

「経営幹部認証記録です」

マーラは身を乗り出した。

「説明して」

ケスラーは息を吸った。

「コンティニュイティ部門には正式な承認システムがありました。変更は記録され、審査されるはずだったんです」

「知ってるわ」

「ですが、別の経路がありました」

マーラの動きが止まった。

「どんな経路?」

「緊急経営幹部認証ルートです」

「誰が管理していたの?」

「上級管理職です」

「ハルデン?」

ケスラーはためらった。

「彼にはアクセス権がありました」

「質問の答えになっていないわ」

ケスラーは視線を落とした。

「彼のオフィスが管理していました」

マーラは同僚と視線を交わした。

「何に使われていたの?」

「当初は緊急の保守判断です」

「その後は?」

ケスラーは唾を飲み込んだ。

「研究指令です」

「通常の監督審査を通さずに?」

「はい」

マーラは椅子にもたれた。

「便利な仕組みね」

ケスラーは苦しげにうなずいた。

「そうでした」

彼はマーラを見た。

「本来、そのシステムが参加者の同意を覆すことは想定されていませんでした」

「でも、覆した」

「はい」

「誰が変更したの?」

ケスラーはためらった。

そして静かに言った。

「指示はハルデンのオフィスから来たと思います」

マーラは彼を見つめた。

「思う?」

「誰が実際にすべての命令を入力したのか、わからないんです」

「なら、推測しないで」

ケスラーはうなずいた。

「わかりました」

◇ ◇ ◇

記録から、不穏なパターンが明らかになった。

通常の審査申請は却下されていた。

倫理上の懸念は記録されていた。

警告も確認されていた。

そして――

別の経営幹部認証が現れていた。

CD-PRIORITY-01

監督審査の例外を要求

通常審査:迂回

経営幹部承認:記録済み

操作担当者の身元:不完全

マーラは画面を見つめた。

「ハルデン本人が入力したと証明できる?」

分析官は首を振った。

「まだです」

「彼のオフィスが認証経路を管理していたことは?」

「はい。回収された管理記録が裏付けています」

「通常審査を迂回するために使われたことは?」

「証明できます」

マーラはうなずいた。

「なら、それを記録して」

ケスラーは部屋の向こうから見守っていた。

顔色が悪かった。

マーラは彼に向き直った。

「あなたは別の承認経路があることを知っていた」

「はい」

「その指示を受け入れた」

「はい」

「懸念が示されたあとも」

ケスラーは目を閉じた。

「はい」

マーラの声が厳しくなった。

「今協力しているからといって、その事実は消えないわ」

「わかっています」

「よかった」

彼女は証拠に向き直った。

「誰が何を決定したのか、必ず明らかにするから」

◇ ◇ ◇

グレイハーバーのアーカイブでは、証拠保全チームが実験用会話モデルの調査を進めていた。

ワークステーションは停止したままだった。

記憶媒体は記録済みだった。

鑑識専門家は、隔離された解析環境でアーカイブファイルの検証済み複製を調べていた。

ヴィクターは近くに立っていた。

見守っていた。

待っていた。

そのとき、専門家が口を開いた。

「デモンストレーション用の録音を復元しました」

マーラが顔を上げた。

「元の録音? それとも生成されたもの?」

「両方です。記録された質問と、モデルが生成した応答が含まれています」

ヴィクターが一歩前に出た。

「再生してくれ」

マーラは振り返った。

「博士、解析はまだ途中です」

「頼む」

一瞬、その声はひどく弱々しく聞こえた。

マーラは彼を見つめた。

そして専門家にうなずいた。

「検証済みの複製を再生して。再生したことも証拠記録に残して」

スピーカーが作動した。

男の声が流れた。

ヴィクターの声だった。

今より若い。

「クララ、もし私が週末に休みを取ると言ったら、何と言う?」

少し間が空いた。

そして――

若い女性の声。

明るく。

聞き覚えがあり。

いたずらっぽい。

「まず、お父さんは誰で、本物のお父さんをどこへやったのかって聞くかな」

ヴィクターは凍りついた。

声は続いた。

「それから、守れない約束はしないでって言うと思う」

沈黙。

ヴィクターはスピーカーを見つめた。

目に涙が浮かんだ。

「クララ……?」

マーラは彼を注意深く見ていた。

専門家が再生を止めた。

ヴィクターが近づいた。

「もう一度」

「博士――」

「頼む」

専門家はマーラを見た。

マーラは一度うなずいた。

録音が再び流れた。

同じ質問。

同じ答え。

同じ笑い声。

ヴィクターは目を閉じた。

そして、ささやいた。

「覚えているんだ……」

マーラの表情が引き締まった。

「博士」

彼はマーラを見た。

「私を覚えている」

マーラは静かに首を振った。

「それはまだわかりません」

ヴィクターの表情が硬くなった。

「聞いただろう」

「会話モデルのデモンストレーション記録を聞きました」

「あの子は私が何と言うかわかっていた」

「システムは過去の録音を学習していました」

「声がクララそのものだった」

マーラは少し間を置いた。

そして言った。

「それは、彼女自身である証明にはなりません」

ヴィクターは彼女を見つめた。

そして初めて――

心の底から怒っているように見えた。

◇ ◇ ◇

シトロンシティの反対側で、エレナ・モリスは自宅のリビングからニュースを見ていた。

私設アーカイブの存在が公になっていた。

中身までは明らかになっていない。

詳細も。

だが、十分だった。

評論家たちが憶測を始めるには。

見出しが次々と現れるには。

グレイハーバー幹部、秘密の個人アーカイブとの関係が浮上

警察、初期の会話AI研究を調査

プロジェクト・シナプスは死者を再現するために作られたのか?

エレナは眉をひそめた。

レイチェルが隣に座っていた。

「テレビ、消そうか?」

エレナは入力した。

「いいえ」

レイチェルはうなずいた。

エレナは続けた。

「言いたいことがあるの」

レイチェルはかすかに微笑んだ。

「そんな気がしてた」

エレナは声明を書き始めた。

慎重に。

言葉が足りないからではない。

自分の言葉であることを、誰にも疑わせたくなかったからだ。

書き終えると、コミュニケーション・タブレットで読み上げた。

「誰かを愛しているからといって、その人の声を所有できるわけではありません」

レイチェルは彼女を見た。

エレナは続けた。

「悲しみは、他人の名前を使って新しい言葉を作り出す許可にはなりません」

少し間が空いた。

「技術は記憶を保存できます。人々のコミュニケーションを助けることもできます。傷ついた録音を修復することもできます」

彼女はテレビを見た。

「でも、誰かの拒否を同意に変えることはできません」

レイチェルは彼女の手を取った。

エレナは微笑んだ。

そして最後の一行を加えた。

「こうしたシステムを作る人たちが『ストップ』という言葉を尊重できないのなら、誰かがいつ話してよいかを決める権利を、その人たちに与えるべきではありません」

◇ ◇ ◇

その声明は急速に広まった。

エレナが有名人だったからではない。

強力な広報会社を雇っていたからでもない。

言葉が明確だったからだ。

そして、その言葉を発したのが、自分自身のコミュニケーションを誤って表現された当事者だったからだ。

夕方までに、障害者権利活動家、研究倫理の専門家、そして元研究参加者たちが声明を共有していた。

称賛する人もいた。

支援技術全体への影響を心配する人もいた。

エレナは、その懸念にも直接答えた。

彼女はコミュニケーション技術に反対しているわけではなかった。

自分自身が使っている。

自分を表現するために必要としている。

彼女が反対しているのは、本人の承認なしに、その人の名前で言葉を生成してよいという考え方だった。

その違いには意味があった。

最初から、ずっと。

◇ ◇ ◇

警察本部で、マーラは新たな報告を受け取った。

今度はエヴリン・マーサーに関するものだった。

刑事がオフィスに入ってきた。

「手がかりが見つかったかもしれません」

マーラはすぐに顔を上げた。

「聞かせて」

「元コンティニュイティ部門の警備請負会社に関連する不動産記録です」

「会社名は?」

「ブラックリッジ・プロテクティブ・サービス」

マーラは眉をひそめた。

「聞いたことがないわ」

「ノースブリッジの複数の研究施設で、一時的な警備を担当していました」

「それで?」

「その下請け会社の一つが、北部工業地区に建物を借りています」

マーラは身を乗り出した。

「それがどう関係するの?」

「同じ業者番号が、コンティニュイティ部門の古い保管施設に関連する保守記録にも登場しています」

「エヴリンとその施設の関係は?」

「直接的な証拠はありません」

「ほかには?」

刑事は一枚の写真を机に置いた。

防犯カメラの映像だった。

黒い車。

二人の男。

そして、建物へ連れていかれる女性。

映像は粗かった。

女性の顔も一部隠れていた。

だが、服装は――

マーラには見覚えがあった。

エヴリンの行方不明者届に添付された写真で見たものだった。

「撮影日時は?」

「失踪から二日後の夜です」

マーラは立ち上がった。

「元の映像を確保して」

「すでに請求しています」

「車両登録は?」

「調査中です」

「場所は?」

刑事は写真を指さした。

「北部工業地区です」

マーラは映像を見つめた。

そして電話を手に取った。

「チームを準備して」

◇ ◇ ◇

マーラが面談室に入ると、ダニエル・マーサーが待っていた。

彼はすぐに立ち上がった。

「姉が見つかったんですか?」

マーラはためらった。

「手がかりが見つかった可能性があります」

ダニエルの表情が変わった。

「どこですか?」

「元警備請負会社に関連する建物を調べています」

「そこにいるんですか?」

「まだわかりません」

ダニエルは一歩前に出た。

「僕も行きます」

マーラは首を振った。

「駄目です」

「刑事さん――」

「ダニエル」

「姉なんです!」

「わかっています」

「だったら、ここでじっと待ってなんかいられません!」

マーラの声が柔らかくなった。

「一緒に行きたい気持ちは理解しています」

ダニエルは目をそらした。

「ですが、もし彼女がそこにいるなら、危険な状況にもう一人巻き込むわけにはいきません」

彼は拳を握りしめた。

「姉を失いたくないんです」

マーラは待った。

そして静かに言った。

「だからこそ、正しい手順で救出しなければなりません」

ダニエルは彼女を見た。

「必ず連れ戻すって、約束してください」

マーラは、保証できない約束をしなかった。

代わりに、こう言った。

「安全に見つけ出すため、できることはすべてします」

ダニエルはうつむいた。

長い沈黙のあと、うなずいた。

◇ ◇ ◇

監禁施設で、エヴリンは車両が到着する音を聞いた。

警察のサイレンではない。

まだ。

エンジン音。

ドアが開く音。

男たちの話し声。

彼女は壁へ近づいた。

耳を澄ませた。

足音の重い警備員が入ってきた。

「立て」

エヴリンは彼を見た。

「どこへ行くの?」

「今すぐだ」

彼女は動かなかった。

男が一歩近づいた。

「立てと言っただろ」

エヴリンは彼を見つめた。

そして慎重に言った。

「こんなこと、しなくてもいいのよ」

男は止まった。

彼女は続けた。

「いくら払われているのか知らないけど、人を誘拐するほどの価値はないわ」

警備員の顎がこわばった。

「動け」

「今からでもやめられる」

男はドアのほうを見た。

一瞬――

何かがその顔をよぎった。

迷い。

恐怖。

あるいは後悔。

そのとき、廊下から別の声が響いた。

「何を手間取ってる!」

警備員は背筋を伸ばした。

「今、連れていく!」

エヴリンは彼を見た。

男も彼女を見返した。

ほんの一瞬――

助けてくれるかもしれないと思った。

だが、彼は横へ退いた。

「動け」

◇ ◇ ◇

警察車両はサイレンを鳴らさず、工業地区へ近づいた。

マーラは先頭車両から建物を見つめた。

古い建物だった。

背が低い。

荷物の搬入口と金網のフェンスに囲まれている。

裏口の近くには黒いバンが停まっていた。

二人の男がそのそばに立っていた。

一人は携帯電話を確認している。

もう一人は煙草を吸っていた。

マーラは無線に話しかけた。

「対象の建物を確認」

返答が入った。

「周辺部隊、配置完了」

「動きは?」

「屋外に二名。建物内の人数は不明」

マーラは建物を見た。

「計画どおりに進めて」

警官たちが動き出した。

慎重に。

落ち着いて。

余計な音は立てない。

大げさな演説もしない。

ただ、任務を遂行する。

そのとき――

外にいた男の一人が気づいた。

凍りついた。

煙草を落とした。

そして走り出した。

「警察だ!」

叫び声が荷物置き場に響いた。

もう一人の男が振り返った。

一瞬、彼も逃げ出しそうになった。

だが、両手を上げた。

マーラが車から降りた。

「両手を見えるところに上げなさい!」

建物の中で――

ドアが激しく閉まった。

◇ ◇ ◇

エヴリンは叫び声を聞いた。

心臓が跳ね上がった。

警察。

かもしれない。

あるいは、また別の罠かもしれない。

隣の警備員が凍りついた。

廊下から声が響いた。

「女を移動させろ!」

彼はドアを見た。

それからエヴリンを見た。

彼女は男を見つめた。

「やめて」

彼はためらった。

別の叫び声。

「警察だ! 捜索令状がある!」

警備員は唾を飲み込んだ。

エヴリンは静かに言った。

「今なら、やめられる」

男は彼女を見た。

一瞬、裏口へ引きずっていかれるのではないかと思った。

だが――

彼は後ずさりした。

両手を上げた。

そして言った。

「ここにいろ」

男は廊下へ出ていった。

エヴリンは彼が叫ぶのを聞いた。

「武器は持ってない!」

少しして――

足音。

命令する声。

無線の雑音。

そして、誰かがドアをノックした。

「警察です! 中に誰かいますか?」

エヴリンは息をのんだ。

ドアへ近づいた。

「私はエヴリン・マーサーです!」

少し間が空いた。

そして――

「マーサー博士ですか?」

「はい!」

「けがはしていますか?」

「たぶん、大丈夫です!」

「ドアから離れてください。今、入ります」

エヴリンは後ろへ下がった。

鍵が開いた。

光が室内に差し込んだ。

二人の警官が入ってきた。

一人が懐中電灯を下ろした。

「マーサー博士?」

彼女はうなずいた。

そして突然――

何日も泣くまいとしていたのに――

目に涙があふれた。

「お願い……」

彼女はささやいた。

「ここから出して……」

◇ ◇ ◇

ギアの工房では、試験が終了していた。

MACH-01Aは合格した。

すべての試験ではない。

飛行できるほどでもない。

だが、管理された条件下で安全に移動できることは確認された。

キランは車椅子に座ったまま、静かにしていた。

ギアが近づいた。

「おい」

キランは顔を上げた。

「ん?」

「どうだ?」

キランは微笑んだ。

「自分の一部が戻ってきたみたいだ」

ギアはうなずいた。

「よかった」

レイモンドが近くに立っていた。

ナサニエルは結果を確認していた。

マッハのアイコンが柔らかく輝いていた。

「本日の試験は、大きな進歩を示しています」

キランは彼を見た。

「ああ」

少し間が空いた。

「でも、まだ飛べないんだよな」

「そのとおりです」

キランは大げさにため息をついた。

「せっかくの雰囲気を台無しにしてくれるなあ」

マッハが答えた。

「この瞬間の価値は、損なわれていないと思います」

ギアが笑った。

キランも微笑んだ。

「ああ」

彼は工房を見回した。

友人たち。

家族。

自分の車椅子。

そして、自分を決して諦めなかった人々。

「……ああ、そうだな」

◇ ◇ ◇

グレイハーバーのアーカイブでは、証拠保全チームが主要な保管室の記録を終えていた。

ヴィクター・ハルデンは弁護士の隣に立っていた。

マーラが近づいた。

「博士」

彼はマーラを見た。

「関連する記憶媒体は、鑑識調査のために押収します」

ヴィクターの表情が硬くなった。

「娘を連れていくのか」

マーラは首を振った。

「いいえ」

彼は彼女を見つめた。

「記録と機器を押収するのです」

ヴィクターはキャビネットを見た。

「あなたたちは、何を見つけたのかわかっていない」

「なら、説明してください」

彼は何も言わなかった。

マーラは続けた。

「経営幹部認証システムについて教えてください」

ヴィクターの目が細くなった。

「弁護士を通してくれ」

「なぜオブザーバー・ゼロの拒否保護機能が解除されたのですか?」

「弁護士を通してくれ」

「なぜエレナ・モリスの同意撤回が尊重されなかったのですか?」

ヴィクターは目をそらした。

マーラは待った。

そして最後に、もう一つ質問した。

「あなたは本当に、シミュレーションを保存することが、生きている人間の意思を尊重することより重要だと思ったのですか?」

ヴィクターは振り返った。

声は静かだった。

「あなたは、これがシミュレーションの問題だと思っているのか」

マーラは何も言わなかった。

ヴィクターはクララのキャビネットを見た。

それからマーラを見た。

「私が何を救おうとしていたのか、あなたにはわからない」

マーラは彼の目を見た。

「なら、説明してください」

一瞬――

彼は答えようとしたように見えた。

だが、弁護士が前へ出た。

「依頼人は、これ以上の発言を控えます」

ヴィクターは口を閉じた。

マーラはうなずいた。

「わかりました」

◇ ◇ ◇

最後の発見は、証拠保全チームが撤収準備を始める直前だった。

技術者がマーラを呼んだ。

「刑事?」

彼女は近づいた。

「何?」

「別の保管索引を見つけました」

「別のアーカイブ?」

「その可能性があります」

マーラは眉をひそめた。

「説明して」

技術者は復元されたディレクトリ一覧を表示した。

GH-PRIVATE-04――アーカイブ索引

クララ――過去の音声録音

クララ――実験用会話モデル

継続性研究――初期試作機

プロジェクト・シナプス――相互参照資料

マーラは見つめた。

「……あったわね」

技術者はうなずいた。

「シナプスへの明示的な参照です」

「システム同士が接続されていた証明になる?」

「いいえ。これだけでは」

「アーカイブが稼働していた証明は?」

「それもありません」

マーラは腕を組んだ。

「でも、誰かがここにシナプス関連の資料を分類して保管していたことはわかる」

「はい」

彼女はヴィクターのほうを見た。

彼はドアの近くに立っていた。

見守っていた。

そして、その日初めて――

怯えているように見えた。

◇ ◇ ◇

建物の外で、マーラの電話が鳴った。

彼女は応答した。

「エリソンです」

聞き慣れた声が返ってきた。

「エヴリン・マーサーを発見しました」

マーラは凍りついた。

「生きてる?」

「はい」

彼女は目を閉じた。

「……よかった」

「外見上は大きな問題は見られません。現在、医療機関で診察を受けています」

「容疑者は?」

「複数名を拘束しました。捜査は継続中です」

マーラは息を吐いた。

「よくやったわ」

彼女はアーカイブを振り返った。

建物を。

過去の声を保存するために何年も費やしてきた男を。

そして言った。

「ダニエルに知らせて」

◇ ◇ ◇

病院で、ダニエル・マーサーは病室へ駆け込んだ。

エヴリンは診察用ベッドに座っていた。

疲れ切っていた。

顔色も悪かった。

だが、生きていた。

ダニエルは入口で立ち止まった。

しばらく、どちらも何も言わなかった。

そして――

「エヴリン……?」

彼女は顔を上げた。

「やあ、弟くん」

ダニエルは部屋を横切った。

彼女を慎重に抱きしめた。

エヴリンも強く抱き返した。

そして何日ぶりかに――

彼女は泣くことを自分に許した。

「ごめん……」

ダニエルがささやいた。

エヴリンは首を振った。

「やめて」

「僕がもっと――」

「違う」

彼女は少し身体を離し、弟の顔を見た。

「あなたがしたことじゃない」

ダニエルは唾を飲み込んだ。

「姉さんを失ったと思った」

エヴリンは涙を浮かべたまま微笑んだ。

「そう簡単にはいかないわよ」

ダニエルは弱々しく笑った。

彼女は弟の手を握った。

そして表情が変わった。

「ダニエル」

「うん?」

「警察と話さなきゃ」

彼は眉をひそめた。

「今?」

「お医者さんが許可したら、できるだけ早く」

「何について?」

エヴリンはドアを見た。

声を落とした。

「私をあそこに閉じ込めておくよう命令した人について」

ダニエルは動きを止めた。

「誰かわかるの?」

エヴリンはためらった。

そしてうなずいた。

「名前を聞いたの」

◇ ◇ ◇

その夜遅く、ヴィクター・ハルデンは自分のオフィスへ戻った。

アーカイブは捜索された。

証拠は押収された。

弁護士たちは対応を準備していた。

会社は彼から距離を置き始めていた。

そして、シトロンシティのどこかでは――

認証記録を説明もなく利用された女性が、ようやく安全な場所へ戻っていた。

ヴィクターは机に座った。

コンピューターの隣にはクララの写真が立っていた。

彼は写真を手に取った。

その顔を見つめた。

そして、ささやいた。

「ただ、もう一度お前の声を聞きたかったんだ」

オフィスは静かなままだった。

携帯電話が振動した。

知らない番号からのメッセージだった。

彼女が話し始めた。

ヴィクターは画面を見つめた。

もう一通届いた。

マーサーは生き延びた。

彼の顔から血の気が引いた。

そして――

三通目。

アーカイブのことも知られている。

ヴィクターはゆっくりと携帯電話を下ろした。

初めて、彼は自分が傷つけた人々が、もはや孤立していないことを理解し始めたようだった。

ケスラーは捜査に協力している。

エヴリンは生き延びた。

エレナは公の場で発言した。

マーラはアーカイブを発見した。

そして証拠は、次第に一つの全体像を形作り始めていた。

ヴィクターはクララの写真を見た。

「すべて、お前のためだった」

沈黙。

そして――

彼は写真を伏せた。

◇ ◇ ◇

警察本部で、マーラはエヴリンの予備供述を受け取った。

短いものだった。

不完全だった。

医療スタッフの監督のもとで行われたものだった。

だが、一つだけ重要な情報が含まれていた。

名前だ。

必ずしも、彼女を直接誘拐した人物の名前ではない。

すべての指示を出した人物とも限らない。

だが、監禁されている間、何度も耳にしたとエヴリンが証言した名前だった。

マーラは供述書を読んだ。

もう一度読んだ。

表情が硬くなった。

彼女は電話を手に取った。

「グレイハーバーを担当しているチームにつないで」

少し間が空いた。

「それから、捜査はまだ終わっていないと伝えて」

彼女は証拠ボードを見た。

ヴィクター・ハルデン。

経営幹部認証記録。

盗まれた技術。

そして、誰かが「ストップ」を単なる障害物だと決めたせいで苦しんだ人々。

彼女は静かに言った。

「まだ、全然終わってないわ」

第25章完――手放すことのできなかったもの

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