最後の命令を下した者
メッセージが届いたのは、午前二時十七分だった。
シトロンシティ警察本部では、マーラ・エリソンが冷めきったコーヒーを見つめていた。
一時間前までは温かかった。
少なくとも、そのはずだった。
彼女はカップを持ち上げ、一口飲んだ。
そして顔をしかめた。
「ひどい」
隣の机にいた捜査官が顔を上げた。
「何がです?」
「このコーヒー」
「いつ淹れたんですか?」
マーラは時計を見た。
「知りたくないわ」
そのとき、業務用端末が通知音を鳴らした。
新着メッセージ
送信者:エイドリアン・ケスラー
件名:プロジェクト・シナプスについて
マーラは動きを止めた。
コーヒーカップを置く。
画面を見つめる。
そして、ゆっくりメッセージを開いた。
エリソン刑事へ。
私はエイドリアン・ケスラーです。
最後の命令を出した人物について、お話ししなければなりません。
私の署名は本物です。しかし、署名があることと、私がすべての操作を実行したことは同じではありません。
エコーミラーは、当初の承認範囲を超えていました。
エヴリン・マーサーを見つけてください。彼女は、私が証明できなかったことを証明できるかもしれません。
このメッセージへの返信だけで、私の居場所を特定しようとしないでください。連絡方法を改めて指定します。
マーラは読み終えた。
もう一度読んだ。
そして受話器を取った。
「通信鑑識を呼んで」
同僚が近づいた。
「何かありました?」
マーラは画面を指さした。
「行方不明の研究責任者から連絡が来たわ」
「ケスラーですか?」
「本人だと確認できればね」
彼女は椅子から立ち上がった。
「送信経路と文書の真正性を調べて。返信はまだしない」
同僚はうなずいた。
マーラは最後の一文を見つめた。
彼女は、私が証明できなかったことを証明できるかもしれません。
「エヴリン……」
彼女は小さくつぶやいた。
「あなたは一体、何を持っているの?」
◇ ◇ ◇
ギアの工房では、キラン・キリアンが一つの重大な問題に直面していた。
退屈だった。
非常に退屈だった。
世界が終わりかけているというのに、彼は仮設の電動車椅子に座って、整備用フレームに固定されたMACH-01Aを見つめていた。
もっとも、世界が本当に終わりかけていると証明されたわけではない。
そこは重要だった。
少なくとも、マッハはそう主張していた。
「現在確認されている証拠は、世界規模の危機を示していません」
キランは車椅子のディスプレイを見た。
紫色のパイロットヘルメット型アイコンが静かに輝いていた。
「俺、何も言ってないけど」
「あなたは過去十分間に三回、『世界が終わる前に飛びたい』と発言しました」
キランは考えた。
「二回じゃなかった?」
「三回です」
「細かいな」
「正確です」
キランはため息をついた。
「同じことだろ」
ギアが作業台から顔を上げた。
「違うぞ!」
キランは振り向いた。
「何が?」
「細かいことと正確なことは違う!」
「お前が言うと説得力ないな」
ギアは胸に手を当てた。
「傷ついた!」
レイモンドがコーヒーを飲みながら言った。
「それで?」
ギアは彼を見た。
「それでって?」
「試験は?」
ギアは一瞬固まった。
そして――
「スナット!」
彼は慌ててコンソールへ戻った。
ナサニエル・ブルックスが額を押さえた。
「だから私が手順書を管理しているんです」
◇ ◇ ◇
MACH-01Aの構造修理は、ようやく重要な段階を通過していた。
改良型推進装置マウント。
補強された取り付け部分。
高サイクル疲労試験。
試験後の詳細点検。
すべて合格していた。
電気的絶縁試験も完了していた。
だが、機体はまだ動かせなかった。
次に必要なのは、アクチュエーター応答試験だった。
しかも、機体を整備用フレームに固定した状態で。
推進装置の出力は禁止。
飛行も禁止。
ホバリングも禁止。
走行も禁止。
キランにとっては、禁止事項の見本市だった。
ナサニエルがタブレットを確認した。
「これから制御信号に対する応答を確認します」
キランはうなずいた。
「了解」
「機体は動かしません」
「わかってる」
「推進装置も作動させません」
「わかってる」
「試験に合格しても、飛行許可にはなりません」
キランは目を細めた。
「それ、俺の顔に書いてある?」
マッハが答えた。
「かなり明確に」
キランは画面をにらんだ。
「裏切り者」
◇ ◇ ◇
警察本部では、エイドリアン・ケスラーから届いたメッセージの調査が進んでいた。
送信元は複数の中継サービスを経由していた。
だが、それだけで違法行為や身元の偽装を示すわけではなかった。
通信鑑識担当者は、添付された署名情報を調べていた。
「過去のケスラー博士の研究用証明書と一致する部分があります」
マーラは腕を組んだ。
「本人だと断定できる?」
「まだです。証明書が複製された可能性もあります」
「本文の内容は?」
「未公開の設計情報に言及しています。ただし、情報を知っている人物が本人とは限りません」
マーラはうなずいた。
「慎重に進めましょう」
そのとき、別の分析官が近づいた。
「刑事、エヴリン・マーサーのノートパソコンから、新しい記録が復元されました」
マーラは振り向いた。
「何?」
分析官は画面を見せた。
エコーミラー――認証監査
対象:オブザーバー・ゼロ監督者例外
技術承認:A. KESSLER
第二認証:EM-07
最終指令:CD-PRIORITY-01
その下には、手動で追加された注記があった。
第二認証は本人の操作によって実行されていない可能性がある。
マーラの表情が硬くなった。
「根拠は?」
分析官は別のファイルを開いた。
認証端末:開発制御ワークステーション
第二認証媒体:登録済み
認証方法:サービス代理処理
本人の物理的存在:未確認
マーラは身を乗り出した。
「つまり、エヴリンの認証が使われたとしても、彼女がその場にいたとは限らない」
「そのとおりです」
「代理処理を実行した人物は?」
「まだ不明です」
マーラは画面を見つめた。
「なら、そこを追って」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ総合病院では、エリオット・マーローがダニエル・マーサーと話していた。
ダニエルはほとんど眠っていなかった。
エリオットはそれを一目で見抜いた。
「ひどい顔だな」
ダニエルは苦笑した。
「ありがとう」
「褒めてないよ」
「わかってる」
エリオットは椅子にもたれた。
「お姉さんのこと?」
ダニエルはうなずいた。
「警察から、まだ見つかっていないと聞きました」
「そうか」
「姉は、何かを止めようとしていたんです」
エリオットは黙って聞いていた。
ダニエルは続けた。
「でも、僕には何も話してくれなかった」
「守ろうとしたのかもしれない」
「そうかもしれません」
彼は窓を見た。
「でも、僕は技術者だった。何か手伝えたはずなのに」
エリオットは少し考えた。
「君が知っていたことと、今わかっていることは違う」
ダニエルは彼を見た。
「そうですね」
「それに、今は手伝っている」
「十分でしょうか?」
エリオットは答えなかった。
その代わり、静かに言った。
「十分だったかどうかは、今ここで決められない。でも、やめる理由にはならない」
ダニエルはゆっくりうなずいた。
◇ ◇ ◇
そのころ、窓のない部屋では、エヴリン・マーサーがドアを見つめていた。
監視カメラの赤い表示灯が点滅していた。
彼女は椅子に座ったまま、机の上の紙を見つめた。
オブザーバー・ゼロ――監督者例外
参加者拒否保護:上書き可能
彼女はその一行を見つめた。
何度見ても、怒りがこみ上げてきた。
元の設計では、参加者の拒否は最優先だった。
それは技術的な制約ではなかった。
設計の中心だった。
本人が「ストップ」と言えば、システムは止まる。
本人が「ノー」と言えば、その意思を上書きしない。
予測された返答は、確認された返答ではない。
その原則を守るために、オブザーバー・ゼロは作られた。
だが、誰かがその役割を変えた。
拒否を守る番人から、会話を継続させる監督者へ。
エヴリンは小さくつぶやいた。
「私たちは、何をしてしまったの……」
ドアの向こうで足音がした。
彼女は顔を上げた。
鍵が回った。
ドアが開いた。
暗いスーツの男が入ってきた。
「マーサー博士」
エヴリンは彼をにらんだ。
「今度は何?」
男は椅子に座った。
「ケスラーが警察に連絡しました」
エヴリンの表情が変わった。
「エイドリアンが?」
「ええ」
彼女は息をのんだ。
男は続けた。
「彼は、あなたの名前を出したようです」
エヴリンはゆっくり目を閉じた。
そして小さく言った。
「ようやく……」
男は眉をひそめた。
「何です?」
彼女は目を開いた。
「ようやく、誰かが真実を話し始めたのね」
◇ ◇ ◇
イーストリッジ公共設備別館では、CR-01の調査が始まっていた。
発見された研究用処理装置は、金属製のキャビネットに収められていた。
外部にはノースブリッジの銘板。
識別子はCR-01。
だが、それが本当に第二調整ノードとして機能していたかどうかは、まだ確認されていなかった。
技術者たちは慎重に作業していた。
不用意に電源を入れない。
不用意に電源を切らない。
ネットワークに接続しない。
内部の保存媒体を取り外す前に、機器の状態を記録する。
警察官が技術責任者に尋ねた。
「稼働しているんですか?」
技術責任者は首を振った。
「まだ判断できません」
「でも電源ケーブルはつながっています」
「それだけでは、内部処理が動いているとは言えません」
彼は計測器を確認した。
「外部の電源分配盤には通電しています。ただし、CR-01本体の動作状態は未確認です」
警察官はうなずいた。
「ホローポイントとの接続は?」
「まだ確認できていません」
技術責任者はキャビネットを見た。
「設計上は、独立した処理ノードとして使用できる可能性があります」
「つまり?」
「もし実際に配備されていたなら、主要拠点を隔離しても、別の場所で処理が続く可能性があるということです」
警察官はため息をついた。
「また厄介な話ですね」
技術責任者はうなずいた。
「この事件では、それが普通になってきました」
◇ ◇ ◇
ルクソン博士の研究室では、エリアス・レンがCR-01の写真を調べていた。
エックスレイのアイコンがモニターに表示されていた。
「外観上の構成は、予備設計に記載された第二調整ノードと一部一致します」
ルクソンは眉をひそめた。
「一部?」
「はい。実装内容の確認には、さらに調査が必要です」
エリアスは図面を拡大した。
「ここを見てください」
彼は背面の接続部分を指さした。
「この構成なら、独立した保存媒体と制御回路を搭載できる」
ルクソンはうなずいた。
「だが、搭載されているとは限らない」
「そのとおりです」
エックスレイが補足した。
「外観から処理内容や通信状態を断定することはできません」
エリアスは椅子にもたれた。
「それでも、重要な発見です」
ルクソンは静かに答えた。
「ああ」
彼は画面を見つめた。
「だからこそ、ヴェイルの鍵をまだ使わなくてよかった」
◇ ◇ ◇
警察本部では、マーラがCR-01の発見とケスラーからのメッセージを照合していた。
一つの疑問が浮かんでいた。
なぜ今、ケスラーは連絡してきたのか。
イーストリッジが発見されたからか。
エヴリンの名前が明らかになったからか。
それとも、誰かが彼に圧力をかけているのか。
答えはまだなかった。
マーラは新しい連絡文を作成した。
ケスラー博士へ。
あなたのメッセージを受け取りました。
安全に事情を説明できる方法を調整したいと考えています。
あなたが危険にさらされている場合は、そのことを知らせてください。
エヴリン・マーサー博士の安全について、何かご存じであれば教えてください。
彼女は文章を読み返した。
そして送信した。
数秒後。
送信完了
マーラは画面を見つめた。
「さて……」
同僚が顔を上げた。
「返事が来ると思います?」
マーラは肩をすくめた。
「来るといいわね」
◇ ◇ ◇
ギアの工房では、アクチュエーター応答試験が始まっていた。
MACH-01Aは整備用フレームに固定されていた。
機体の移動は禁止。
推進出力も禁止。
試験対象は、制御信号に対する個別の応答だけだった。
ナサニエルがコンソールを操作した。
アクチュエーター応答試験
対象:安定化制御機構
機体移動:禁止
推進出力:禁止
キランは真剣に見守っていた。
ギアが隣に立っていた。
レイモンドは少し離れた場所にいた。
マッハのアイコンが輝いていた。
ナサニエルはうなずいた。
「開始します」
小さな機械音が響いた。
制御機構の一部が、試験用の範囲内で動いた。
応答時間:許容範囲内
位置精度:良好
異常電流:検出されず
キランは笑った。
「いい感じだな」
ギアはうなずいた。
「だろ?」
次の試験。
応答時間:許容範囲内
位置精度:良好
異常電流:検出されず
さらに次。
応答時間:許容範囲内
位置精度:良好
異常電流:検出されず
ナサニエルは微笑んだ。
「順調です」
キランは拳を握った。
「よし!」
ギアはにやりと笑った。
「スナット!」
◇ ◇ ◇
だが、最後の試験で小さな問題が発見された。
応答遅延:規定値を超過
対象:右側安定化アクチュエーター
試験結果:要調整
キランの笑みが消えた。
「え?」
ギアは画面を見た。
ナサニエルは測定値を確認した。
レイモンドはコーヒーを置いた。
数秒間、誰も口を開かなかった。
キランはゆっくり尋ねた。
「悪い?」
ナサニエルは首を振った。
「重大な故障とは限りません」
ギアはうなずいた。
「制御信号か、機械的な抵抗の問題かもしれない」
マッハが言った。
「現時点では原因を特定できません」
キランはMACH-01Aを見た。
胸が少し沈んだ。
だが、以前とは違った。
以前なら、すぐに焦っていただろう。
すぐに直せないのかと聞いただろう。
すぐに飛べないのかと。
でも今は――
彼は深く息を吐いた。
「じゃあ、調べよう」
ギアが彼を見た。
「お?」
キランはうなずいた。
「原因を見つけて、直して、もう一回試す」
ナサニエルは微笑んだ。
「そのとおりです」
マッハが言った。
「非常に合理的な対応です」
キランは画面を見た。
「褒められた?」
「はい」
「録音しとけばよかった」
◇ ◇ ◇
そのころ、エヴリン・マーサーは、暗いスーツの男と向かい合っていた。
男は机の上にタブレットを置いた。
画面には古い認証記録が表示されていた。
技術承認:A. KESSLER
第二認証:EM-07
最終指令:CD-PRIORITY-01
エヴリンはそれを見た。
「何度見せても、私が承認したことにはならないわ」
男は静かに答えた。
「あなたの認証が使われたことは事実です」
「誰が使ったの?」
「記録には残っていません」
「残らないようにしたんでしょう」
男は答えなかった。
エヴリンは身を乗り出した。
「あなたは何を隠しているの?」
男はタブレットを操作した。
別の文書が表示された。
エコーミラー――経営幹部指令
参加者の拒否よりも継続性を優先
エヴリンの表情が硬くなった。
「これを承認した人物の名前を言いなさい」
男は首を振った。
「それはできません」
「なぜ?」
「あなたの安全のためです」
エヴリンは鼻で笑った。
「私を閉じ込めている人間が、安全を語るの?」
男は黙っていた。
エヴリンは続けた。
「あなたたちは、本人の拒否を無視するように機械を改造した」
彼女は画面を指さした。
「そして今、誰が命令したのかも隠そうとしている」
男は静かに言った。
「あなたには理解できない」
エヴリンは首を振った。
「いいえ」
彼女の声が強くなった。
「理解したくないのは、あなたたちのほうよ」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ警察本部では、マーラの端末が再び通知音を鳴らした。
新着メッセージ
送信者:エイドリアン・ケスラー
マーラはすぐに開いた。
エリソン刑事へ。
エヴリン・マーサーは、経営幹部の最終承認を出していません。
彼女の認証は、サービス代理処理によって使用されました。
私は、その可能性を当時知っていました。十分に調査しなかった責任があります。
オブザーバー・ゼロの監督者例外は、私の技術審査を経て導入されました。私はそれを止めるべきでした。
しかし、最終的な継続指令は、私の承認範囲を超えていました。
CD-PRIORITY-01の実際の使用者を特定してください。
そして、エヴリンを急いで見つけてください。
マーラは画面を見つめた。
同僚が近づいた。
「返事ですか?」
彼女はうなずいた。
「ええ」
「何と?」
マーラはゆっくり息を吐いた。
「ケスラーは、自分の関与を認めている」
「それは大きいですね」
「ええ」
彼女は最後の一文を見た。
エヴリンを急いで見つけてください。
マーラの表情が硬くなった。
「でも、まだ誰かを守ろうとしているのかもしれない」
◇ ◇ ◇
イーストリッジでは、CR-01の外部接続状況が慎重に調べられていた。
技術者たちは、保存されている配線図と実際の接続を比較していた。
その結果、一つの重要な事実が確認された。
キャビネットには、過去に外部通信回線へ接続されていた痕跡があった。
だが、現在も通信しているかどうかは不明だった。
技術責任者は報告書を作成した。
CR-01――予備調査
研究用処理装置:確認
外部通信配線:設置履歴あり
現在の通信状態:未確認
内部処理状態:未確認
保存媒体:未調査
警察官が尋ねた。
「つまり、第二ノードだった可能性がある?」
技術責任者はうなずいた。
「はい」
「実際に使われていた?」
「まだ証明できません」
「ホローポイントを切り離しても動き続ける?」
「それも、まだわかりません」
警察官はため息をついた。
「わからないことばかりですね」
技術責任者は苦笑した。
「だから調べているんです」
◇ ◇ ◇
その午後、エレナ・モリスはコミュニティセンターでセリーナ・チョーと話していた。
エレナのタブレットには、彼女自身が作成したメッセージが表示されていた。
「ニュースを見たわ」
セリーナはうなずいた。
「ええ」
「またシナプスの話ばかり」
「そうね」
エレナは少し考えた。
そして入力した。
「みんな、私のことを怖がる必要はないのに」
セリーナは彼女を見た。
「どういう意味?」
エレナは続けた。
「私の車椅子も、タブレットも、普通に使えている」
「そうね」
「なのに、ニュースを見た人が、私の機器も危険なのかって聞いてくる」
セリーナはため息をついた。
「誤解が広がっているのね」
エレナはうなずいた。
「私は危険な実験の一部じゃない」
少し間が空いた。
「私は、ただの人間よ」
セリーナは静かに答えた。
「そのとおり」
エレナは少し笑った。
「ただし、かなり面白い人間だけど」
セリーナが吹き出した。
「それは否定しないわ」
◇ ◇ ◇
その夜、ホローポイントの中央モニターが再びちらついた。
施設は警察の管理下にあった。
外部通信経路の制限も維持されていた。
新たな接続は確認されていなかった。
表示された内容は、依然として信頼できる証言ではなかった。
それでも――
画面に文字が現れた。
プロジェクト・シナプス
コンティニュイティ・アンカー
オブザーバー・ゼロ
同期率:86%
少し間が空いた。
技術承認:A. KESSLER
第二認証:EM-07
最終指令:CD-PRIORITY-01
カーソルが点滅した。
そして――
三つの認証。
三人の人物。
少し間が空いた。
一つの命令。
さらに――
彼らは「ノー」を削除した。
画面が暗くなった。
◇ ◇ ◇
警察本部では、マーラが最新の報告を証拠ボードに追加していた。
エイドリアン・ケスラー。
エヴリン・マーサー。
アメリア・ヴォス。
ヴィクター・ハルデン。
そして、CD-PRIORITY-01。
すべてが少しずつつながり始めていた。
だが、最後の命令を出した人物の名前は、まだ確認されていなかった。
マーラはボードを見つめた。
「誰が命令したのか……」
彼女は静かにつぶやいた。
「それを証明しなければ」
そのとき、電話が鳴った。
マーラは受話器を取った。
「エリソンです」
「刑事、鑑識です」
「何かわかった?」
相手は少し間を置いた。
「CD-PRIORITY-01の削除された認証履歴から、別の参照情報が見つかりました」
マーラの表情が変わった。
「何?」
「個人名ではありません」
「では?」
「外部研究監督者の登録番号です」
マーラはペンを手に取った。
「読み上げて」
相手は答えた。
GREYHARBOR-OVERSIGHT-04
マーラは書き留めた。
そして静かに言った。
「グレイハーバー……」
◇ ◇ ◇
シトロンシティから離れた場所で、エイドリアン・ケスラーは暗い部屋に座っていた。
彼の前にはノートパソコン。
画面には、警察へ送信したメッセージが表示されていた。
彼は深く息を吐いた。
「これで……」
だが、言葉は続かなかった。
携帯電話が振動した。
新しいメッセージ。
あなたは話しすぎた。
エイドリアンは凍りついた。
次のメッセージ。
エヴリンの居場所を知りたいのか?
彼はすぐに返信した。
彼女に何をした?
数秒後。
まだ何も。
エイドリアンの手が震えた。
次のメッセージ。
だが、あなたがこれ以上話せば、状況は変わる。
彼は画面を見つめた。
そしてゆっくり入力した。
私はもう黙らない。
返事はすぐに来た。
それなら、彼女の沈黙を選ぶことになる。
エイドリアンは目を閉じた。
長い間、動かなかった。
そして――
彼は警察への新しいメッセージを作成した。
エリソン刑事へ。
私は脅迫されています。
エヴリン・マーサーも危険にさらされています。
グレイハーバーの外部研究監督者登録を調べてください。
特に、登録番号04です。
彼は送信ボタンを押した。
送信完了
◇ ◇ ◇
窓のない部屋では、エヴリン・マーサーがドアの向こうの足音を聞いていた。
誰かが近づいてくる。
一人ではない。
少なくとも二人。
彼女は椅子から身を起こした。
鍵が回った。
ドアが開いた。
暗いスーツの男が入ってきた。
その後ろには、別の人物が立っていた。
背が高い。
灰色の髪。
落ち着いた表情。
高価そうなコート。
エヴリンはその人物を見た。
そして凍りついた。
「あなた……」
男は静かに微笑んだ。
「久しぶりですね、マーサー博士」
エヴリンの顔から血の気が引いた。
「どうして、ここに……」
男は部屋に入った。
そして椅子を引いた。
ゆっくり腰を下ろす。
「あなたと話したかったのです」
エヴリンは首を振った。
「私は、もう何も話すことはありません」
男は微笑んだままだった。
「それは残念です」
彼は机の上に一枚の文書を置いた。
グレイハーバー・バイオメディカル・ホールディングス
外部研究監督者登録:04
エヴリンはそれを見つめた。
男は静かに言った。
「あなたは、まだ私の名前を警察に伝えていませんね」
エヴリンは何も答えなかった。
男は続けた。
「それは賢明な判断です」
彼女は顔を上げた。
目には怒りが宿っていた。
「あなたが……」
男は首をかしげた。
「何でしょう?」
エヴリンは震える声で言った。
「あなたが、最後の命令を出したのね」
男は少し考えた。
そして――
微笑んだ。
「命令という言葉は、あまり好きではありません」
エヴリンは彼をにらんだ。
男は続けた。
「私は、研究が止まらないようにしただけです」
彼女の表情が硬くなった。
「本人が拒否したあとも?」
男は肩をすくめた。
「研究には、困難な判断が必要です」
エヴリンは首を振った。
「それは判断じゃない」
彼女の声が強くなった。
「人の意思を奪ったのよ」
男は静かに答えた。
「意思というものは、時として曖昧です」
エヴリンは机をたたいた。
「『ノー』は曖昧じゃない!」
部屋が静まり返った。
男はしばらく彼女を見つめた。
そして、ゆっくり微笑みを消した。
「その考え方が、研究を妨げたのです」
エヴリンは彼をにらんだ。
「あなたは誰かの声を聞いたことがあるの?」
男は答えなかった。
彼女は続けた。
「本当に聞いたことがあるの?」
沈黙。
そして男は立ち上がった。
「マーサー博士」
彼はドアへ向かった。
「明日、もう一度お話ししましょう」
エヴリンは叫んだ。
「待ちなさい!」
男は振り向かなかった。
彼女は続けた。
「警察は、あなたを見つけるわ!」
男はドアの前で立ち止まった。
そして静かに言った。
「そうでしょうか?」
彼は振り返った。
その顔には、再び薄い笑みが浮かんでいた。
「私は、長い間この研究を支えてきました」
少し間が空いた。
「あなたたちが誰の許可を必要としているのか、忘れないことです」
ドアが閉まった。
鍵が掛かった。
エヴリンは一人残された。
彼女は机の上の文書を見つめた。
GREYHARBOR-OVERSIGHT-04
そして、静かにその名前を口にした。
「ヴィクター・ハルデン……」




