沈黙の代償
エヴリン・マーサーは、監視カメラを見上げていた。
天井の隅に取り付けられた小さな装置。
赤い表示灯が点滅している。
彼女はそれを見つめたまま、ゆっくり息を吐いた。
部屋には窓がなかった。
テーブルが一つ。
椅子が二脚。
壁には古い換気口。
そして、外側から施錠された金属製のドア。
エヴリンは椅子の背にもたれた。
「私を閉じ込めたところで、記録は消えないわ」
返事はなかった。
当然だった。
彼女は独りだった。
少なくとも、そう見えた。
しばらくして、天井のスピーカーから声がした。
「マーサー博士」
エヴリンは顔を上げた。
男の声だった。
先ほど彼女を脅した男と同じ声。
「何?」
「まだ協力する気にはなれませんか?」
エヴリンは鼻で笑った。
「人を閉じ込めておいて、協力を求めるの?」
「必要な措置です」
「誘拐をずいぶん上品に表現するのね」
沈黙。
それから男が言った。
「我々は、あなたが持ち出した記録を必要としています」
エヴリンの表情が硬くなった。
「何の記録?」
「とぼけないでください」
彼女は天井を見つめた。
「それなら、何を持っているか言ってみなさい」
男は答えなかった。
エヴリンは小さく笑った。
「やっぱり」
彼女は背もたれに寄りかかった。
「あなたたちは、私が何を持ち出したのか知らないのね」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ警察本部では、マーラ・エリソンが新しい報告書を読んでいた。
エヴリン・マーサーの宿泊施設から回収されたノートパソコン。
手書きのメモ。
そして、弟のダニエルに宛てられた封筒。
いずれも証拠として保全されていた。
鑑識分析官が彼女の机に近づいた。
「刑事」
マーラは顔を上げた。
「何?」
「ノートパソコンの初期調査が終わりました」
「何かわかった?」
「通信機能は無効化されていました。通常の起動は行わず、保存媒体を複製して調べています」
マーラはうなずいた。
「それで?」
分析官は画面を見せた。
プロジェクト・エコーミラー
オブザーバー・ゼロ――開発制御
認証履歴の比較
状態:未完了
マーラは眉をひそめた。
「認証履歴の比較?」
「はい。エヴリン博士は、複数の記録を照合していたようです」
「何を調べていたの?」
分析官は別のファイルを開いた。
技術承認:A. KESSLER
第二認証:EM-07
経営幹部指令:CD-PRIORITY-01
その下には、一行だけ書かれていた。
三つの認証は、同じ人物を意味しない。
マーラは腕を組んだ。
「なるほど」
分析官はうなずいた。
「彼女は、自分の認証がどのように使用されたか調べていた可能性があります」
「本人が使ったとは限らない?」
「はい」
マーラは画面を見つめた。
「なら、使用者を特定する方法を探しましょう」
◇ ◇ ◇
ギアの工房では、キラン・キリアンが非常に重要な発見をしていた。
待つことは退屈だった。
驚くべき発見である。
少なくとも本人にとっては。
彼は仮設の電動車椅子に座り、整備用フレームに固定されたMACH-01Aを見つめていた。
改良された推進装置マウントは、高サイクル疲労試験と試験後の点検を通過していた。
構造上の大きな障害を一つ乗り越えたのだ。
だが、まだ終わりではない。
電気的絶縁。
制御回路。
アクチュエーター応答。
緊急安定化。
統合システム試験。
そして、そのすべてを通過して初めて、制御された移動試験を検討できる。
つまり――
まだ飛べない。
キランはため息をついた。
マッハの紫色のパイロットヘルメット型アイコンが、車椅子のディスプレイに現れた。
「またため息ですか」
キランは目を細めた。
「何か問題でも?」
「直近十五分間で六回目です」
「数えるな」
「記録は自動的に行われています」
「止めろ」
「あなたのため息を?」
「記録を!」
マッハは少し間を置いた。
「了解しました。今後は口頭で報告しません」
キランは笑った。
「絶対まだ数えるだろ」
「その質問への回答は控えます」
◇ ◇ ◇
ギアは作業台の向こうから顔を出した。
「おい、キラン!」
「何?」
「いい知らせだ!」
キランの目が輝いた。
「飛べる!?」
ギアは彼を見つめた。
長い沈黙。
そして――
「違う!」
キランは肩を落とした。
「じゃあ、何?」
「次の試験の準備ができた!」
ナサニエル・ブルックスがタブレットを持って近づいた。
「電気的絶縁と制御回路の確認です」
キランはうなずいた。
「それは大事だな」
「非常に重要です」
レイモンドがコーヒーを飲んだ。
「特に、空中で電気系統が故障したくないならな」
キランは彼を見た。
「それは経験談?」
レイモンドは少し考えた。
「答えないほうがいいな」
ギアが笑った。
「スナット!」
ナサニエルはため息をついた。
「皆さん、試験に集中してください」
◇ ◇ ◇
警察本部では、マーラがアメリア・ヴォスとの再面談を行っていた。
アメリアは弁護士とともに座っていた。
表情は落ち着いていた。
だが、机の上に置かれた文書を見た瞬間、わずかに眉が動いた。
プロジェクト・エコーミラー
経営幹部優先審査
認証参照:CD-PRIORITY-01
マーラは椅子に座った。
「ヴォスさん」
アメリアはうなずいた。
「刑事」
「この認証について説明してほしいの」
アメリアは文書を見た。
「経営幹部の承認手続きに使われる認証です」
「誰が使えたの?」
「権限を持つ複数の管理者です」
「具体的には?」
アメリアは弁護士を見た。
短い相談のあと、彼女は答えた。
「コンティニュイティ部門の上級管理者と、一部の外部研究監督者です」
マーラは身を乗り出した。
「外部研究監督者?」
「はい」
「グレイハーバーの関係者?」
アメリアはためらった。
「その可能性はあります」
マーラは別の文書を置いた。
「ヴィクター・ハルデンという名前に覚えは?」
アメリアの表情が変わった。
ほんの一瞬。
だが、マーラは見逃さなかった。
「知っているのね」
アメリアは静かに答えた。
「はい」
◇ ◇ ◇
「彼は誰?」
「グレイハーバーに関連する研究顧問です」
「シナプスに関わっていた?」
「資金提供と研究監督に関与していました」
「エコーミラーにも?」
アメリアは少し黙った。
「はい」
マーラは腕を組んだ。
「拒否保護機能の変更について、彼は意見を述べた?」
アメリアは視線を落とした。
「継続性研究の重要性を強く主張していました」
「参加者が拒否したあとも?」
「彼は、研究上の継続性を失うことを懸念していました」
マーラは眉をひそめた。
「研究上の継続性」
「はい」
「本人の意思よりも?」
アメリアは答えなかった。
マーラは待った。
やがてアメリアが言った。
「当時の会議では、その優先順位について意見が分かれていました」
「あなたは?」
アメリアは弁護士を見た。
それから静かに答えた。
「私は、研究を継続するための一定の例外措置を支持しました」
マーラの表情が硬くなった。
「本人の明確な拒否を無視することも?」
「そのような結果を意図したわけではありません」
マーラは書類を指さした。
「でも、結果はそうなった」
アメリアは何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
エヴリン・マーサーが閉じ込められた部屋では、男が再び入ってきた。
彼は暗い色のスーツを着ていた。
顔には疲労が浮かんでいた。
エヴリンは彼を見た。
「今度は何?」
男はテーブルの向こうに座った。
「あなたが持ち出した記録について話しましょう」
「もう話したわ」
「まだ十分ではありません」
エヴリンは腕を組んだ。
「あなたは何を恐れているの?」
男は眉をひそめた。
「恐れてなどいません」
「なら、どうして私をここに閉じ込めているの?」
沈黙。
エヴリンは続けた。
「警察が記録を見つけるのが怖いの?」
男は答えなかった。
「それとも、ハルデン博士に知られるのが怖い?」
男の表情が変わった。
エヴリンはそれを見逃さなかった。
「やっぱり」
男はゆっくり身を乗り出した。
「その名前を口にするべきではありません」
エヴリンは小さく笑った。
「どうして?」
「あなたのためです」
彼女の表情が冷たくなった。
「私のためだと言う人間は、もう信用しないことにしたの」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ総合病院では、エリオット・マーローがダニエル・マーサーと話していた。
ダニエルは疲れていた。
それは明らかだった。
エリオットは彼を見た。
「少し休んだほうがいい」
ダニエルは首を振った。
「姉が見つかるまで無理です」
エリオットはため息をついた。
「わかるけど」
「僕は、もっと早く気づくべきだった」
「何に?」
ダニエルは窓を見た。
「姉が何かに巻き込まれていることに」
エリオットは静かに答えた。
「君が知らなかったことまで、責任を負う必要はない」
ダニエルは苦笑した。
「簡単に言いますね」
「簡単じゃないよ」
エリオットは自分の手首を見た。
かつて拘束された痕が、まだ薄く残っていた。
「僕も、もっと早く気づけばよかったと思うことがある」
ダニエルは彼を見た。
エリオットは続けた。
「でも、後悔だけじゃ何も変わらない」
少し間が空いた。
「だから、今できることをする」
ダニエルはゆっくりうなずいた。
◇ ◇ ◇
警察の鑑識チームは、エヴリンのノートパソコンから新しい記録を復元していた。
それは、エコーミラーの会議資料だった。
経営幹部優先審査
議題:参加者不在時の継続性維持
技術審査:A. KESSLER
第二認証:EM-07
最終承認:CD-PRIORITY-01
マーラは画面を見つめた。
「またこの三つ」
分析官はうなずいた。
「はい」
「誰が最終承認を出したかは?」
「まだ特定できません」
彼は別の記録を開いた。
経営幹部認証サービス
アクセス権限:複数
個人認証履歴:一部削除
マーラはため息をついた。
「誰かが名前を隠したのね」
「可能性は高いです」
「復元できる?」
「作業中です」
マーラは画面を見た。
そして静かに言った。
「その名前がわかれば、何かが変わるかもしれない」
◇ ◇ ◇
ギアの工房では、電気的絶縁試験が始まっていた。
MACH-01Aは整備用フレームに固定されたままだった。
推進装置は作動できないようにされていた。
機体を動かす許可も出ていなかった。
ナサニエルは診断装置を確認した。
電気的絶縁試験
制御回路:待機
推進出力:禁止
機体移動:禁止
キランは身を乗り出した。
「準備できた?」
ギアはにやりと笑った。
「できた!」
ナサニエルはうなずいた。
「開始します」
測定値が表示された。
絶縁抵抗:規定範囲内
意図しない電流経路:検出されず
結果:合格
キランは笑った。
「よし!」
ギアは拳を突き上げた。
「スナット!」
レイモンドは微笑んだ。
マッハが言った。
「良好な結果です」
キランは画面を見た。
「これで一つ終わり?」
ナサニエルはうなずいた。
「一つの回路です」
キランは固まった。
「一つ?」
ギアが笑った。
「まだいっぱいあるぞ!」
キランは背もたれに沈み込んだ。
「もちろんだよ……」
◇ ◇ ◇
その午後、マーラはセリーナ・チョーを訪ねた。
コミュニティセンターでは、アクセシビリティに関する講習会が行われていた。
セリーナは資料を整理していた。
マーラが近づくと、彼女は顔を上げた。
「刑事さん」
「少し話せる?」
「もちろん」
二人は別室に移った。
マーラは認証システムの図を見せた。
「これを覚えている?」
セリーナは図を見た。
「ええ」
「あなたが関わった初期の管理者認証システムよね」
「そうです」
「この仕組みでは、個人の認証記録が必要だった?」
セリーナはうなずいた。
「本来は」
「でも、あとから変更された」
「はい」
マーラは別の記録を見せた。
CD-PRIORITY-01
セリーナの表情が硬くなった。
「これが?」
「最終承認に使われていた認証よ」
セリーナは画面を見つめた。
「個人認証の履歴は?」
「一部削除されている」
彼女はため息をついた。
「最悪ね」
マーラはうなずいた。
「誰が変更したかわかる?」
セリーナは少し考えた。
「元のソース管理記録が残っていれば、変更したアカウントを追えるかもしれません」
「本人まで?」
「必ずしも。でも、手がかりにはなります」
マーラはうなずいた。
「協力してもらえる?」
セリーナは迷わず答えた。
「もちろん」
◇ ◇ ◇
一方、イーストリッジ公共設備別館では、警察の技術チームが現地調査を進めていた。
建物は古かった。
コンクリートの壁。
錆びた配管。
使われなくなった制御盤。
そして、長年開けられていないように見える保守室。
捜査員は慎重に進んだ。
建物の電気設備は一部が通電していた。
そのため、専門技術者が安全を確認するまで、機器には触れないことになっていた。
一人の警察官が足を止めた。
「待ってください」
ほかの捜査員が振り向いた。
「何だ?」
彼は壁の奥を指さした。
そこには、周囲の設備より新しい金属製の扉があった。
扉の横には暗証番号式の操作盤。
上には小さな表示。
関係者以外立入禁止
警察官は無線機を手に取った。
「制限区域らしき部屋を発見しました」
◇ ◇ ◇
警察本部で、マーラは報告を受けた。
「中は?」
現場の警察官が答えた。
「まだ確認していません」
「通電している?」
「操作盤には電源が来ています」
マーラは眉をひそめた。
「内部の機器は?」
「不明です」
「勝手に電源を切らないで。専門チームと確認してから安全に入って」
「了解です」
マーラはイーストリッジの設計図を見た。
第二調整ノード――設置予定地
その文字が目に入った。
彼女は静かに言った。
「ただの倉庫であってほしいわね」
同僚が顔を上げた。
「なぜです?」
マーラはため息をついた。
「この事件で、ただの倉庫を一つくらい見つけたいからよ」
◇ ◇ ◇
エヴリン・マーサーの前に座る男は、古い文書をテーブルに置いた。
オブザーバー・ゼロ――監督者例外
エヴリンはそれを見た。
「それが何?」
男は指で文書をたたいた。
「あなたの認証が必要でした」
エヴリンの表情が硬くなった。
「私の認証を使ったのは、あなたたちよ」
「技術的には、承認されたアクセスです」
「誰が承認したの?」
男は答えなかった。
エヴリンは身を乗り出した。
「誰?」
沈黙。
そして男は静かに言った。
「経営幹部です」
エヴリンは首を振った。
「名前を言いなさい」
男は立ち上がった。
「あなたには関係ありません」
彼女は机をたたいた。
「私の名前を使ったのよ!」
男は振り向いた。
エヴリンの声が震えた。
「私の認証で、参加者の拒否を無視する変更を通した」
彼女は男をにらんだ。
「関係ないわけがないでしょう」
男はしばらく彼女を見つめた。
そして静かに言った。
「では、なぜ当時止めなかったのです?」
エヴリンは凍りついた。
男は続けた。
「警告を出した。異議を唱えた。それでもシステムは動き続けた」
彼はドアへ向かった。
「あなたも、その場にいたのです」
ドアが閉まった。
鍵が掛かった。
エヴリンは動かなかった。
その言葉は残酷だった。
そして、完全に間違っているとも言い切れなかった。
彼女は警告した。
反対した。
だが、十分ではなかった。
少なくとも、エレナ・モリスにとっては。
エヴリンは目を閉じた。
そして小さく言った。
「だから、今度こそ止めるのよ」
◇ ◇ ◇
イーストリッジの現場では、専門技術者が安全を確認したうえで制限区域の扉を開けた。
内部は小さな設備室だった。
金属製のラックが並んでいた。
ほとんどは空だった。
だが、一つだけ密閉されたキャビネットが残っていた。
複数のケーブルが床へ伸びていた。
技術者は外側の表示を調べた。
そして動きを止めた。
「これは……」
警察官が近づいた。
「何です?」
技術者は銘板を指さした。
ノースブリッジ・メディカル・システムズ
その下には――
研究用処理装置
機器識別子:CR-01
警察官は息をのんだ。
「CR-01?」
技術者はうなずいた。
「はい」
「稼働している?」
「まだ確認できません」
「ホローポイントとつながっている?」
「それも不明です」
警察官は無線機を手に取った。
「エリソン刑事に連絡を」
◇ ◇ ◇
マーラは報告を聞いた。
「もう一度言って」
現場の警察官が答えた。
「イーストリッジでノースブリッジ製の研究用処理装置を発見しました。識別子はCR-01です」
マーラは動きを止めた。
マーサー物流ターミナルの記録。
二次輸送。
イーストリッジの経路。
そして今――
実物の装置。
「電源は?」
「未確認です」
「ネットワーク接続は?」
「未確認です」
「内部には触れた?」
「いいえ」
マーラはうなずいた。
「そのまま保全して。専門家が安全を確認するまで何も接続しないで」
「了解です」
彼女は電話を切った。
同僚が彼女を見た。
「見つかったんですか?」
マーラはうなずいた。
「CR-01は実在した」
「第二処理ノードですか?」
「まだわからない」
彼女は証拠ボードを見た。
「でも、ようやく実物を調べられる」
◇ ◇ ◇
ギアの工房では、ナサニエルが電気的絶縁試験の結果を確認していた。
電源分配:合格
制御回路の絶縁:合格
緊急切断応答:合格
センサー接地:合格
キランはにやりと笑った。
「全部緑だ」
ギアはうなずいた。
「全部緑!」
レイモンドは笑った。
「いい色だな」
マッハが言った。
「安全性評価においては、好ましい表示です」
キランは画面を見た。
「マッハ」
「はい」
「たまには普通に喜んでくれ」
少し間が空いた。
そして――
「やりました」
キランは吹き出した。
「棒読み!」
ギアが大笑いした。
ナサニエルは微笑んだ。
「次は制御されたアクチュエーター応答試験です」
キランはうなずいた。
「まだ動かさない」
「そうです」
「まだ飛ばない」
「そうです」
キランはMACH-01Aを見た。
そして静かに笑った。
「でも、近づいてる」
マッハが答えた。
「確実に」
◇ ◇ ◇
ホローポイントでは、中央モニターがちらついた。
施設は警察の管理下にあった。
外部通信経路の制限は維持されていた。
新たな接続は確認されていなかった。
画面の表示は、依然として信頼できる情報とは見なされていなかった。
それでも――
文字が現れた。
プロジェクト・シナプス
コンティニュイティ・アンカー
オブザーバー・ゼロ
同期率:84%
少し間が空いた。
第二ノード:CR-01
状態:不明
カーソルが点滅した。
参加者の拒否:確認済み
継続指令:有効
そして――
経営幹部優先:セッション維持
新しい一行が現れた。
CD-PRIORITY-01
認証履歴:不完全
さらに――
彼らは機械を守るために予備装置を作ったのではない。
少し間が空いた。
会話を終わらせないために作った。
画面が暗くなった。
◇ ◇ ◇
警察本部では、マーラがイーストリッジの発見を証拠ボードに追加していた。
CR-01
イーストリッジ――実物の機器を確認
機能:未確認
ホローポイントとの接続:未確認
彼女は一歩下がった。
プロジェクト・シナプス。
エコーミラー。
オブザーバー・ゼロ。
エヴリン・マーサー。
エイドリアン・ケスラー。
アメリア・ヴォス。
そして、CD-PRIORITY-01。
すべてがつながり始めていた。
だが、最も重要な部分はまだ欠けていた。
誰が最後の命令を出したのか。
マーラは腕を組んだ。
そして静かに言った。
「誰であれ、自分が何を望んでいるかは、はっきりわかっていたはずよ」
◇ ◇ ◇
シトロンシティから遠く離れた場所で、エイドリアン・ケスラーは暗い部屋に座っていた。
彼の前にはノートパソコン。
画面には古い文書が表示されていた。
コンティニュイティ部門――経営幹部優先審査
エコーミラー
最終指令承認
彼は自分の名前を見つめた。
技術審査:エイドリアン・ケスラー博士
その下には――
最終経営幹部承認:CD-PRIORITY-01
エイドリアンは目を閉じた。
「こんなはずじゃなかった……」
携帯電話が振動した。
新しいメッセージ。
イーストリッジが発見された。
彼は凍りついた。
次のメッセージ。
警察が近づいている。
エイドリアンは唾を飲み込んだ。
そして返信した。
もう止めなければならない。
しばらくして返事が来た。
その機会はすでにあった。
エイドリアンは画面を見つめた。
彼はもう一度入力した。
本人の同意なしに継続するはずではなかった。
返事が来た。
同意は障害だった。
エイドリアンの顔から血の気が引いた。
さらにメッセージが現れた。
それを取り除くのに、あなたも協力した。
彼は小さく首を振った。
「違う……」
最後のメッセージ。
そして今、あなたは我々が始めたことを完成させる。
エイドリアンは携帯電話を置いた。
長い間、動かなかった。
やがて彼は元のオブザーバー・ゼロの指令を開いた。
参加者の拒否:上書き不可
彼はその言葉を見つめた。
そして、ゆっくり新しいメッセージを入力し始めた。
エリソン刑事へ。
私はエイドリアン・ケスラーです。
最後の命令を出した人物について、お話ししなければなりません。
彼はためらった。
指が送信ボタンの上で止まった。
そして――
押した。
送信完了




