↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
250/466

呼吸を覚えた街

土曜日――午後0時36分

ドクター・ルクソンは、人間の神経系こそ、生物の進化が生み出した最も驚異的な成果の一つだと、常々考えていた。

数十億ものニューロン。

数兆にも及ぶ神経接続。

記憶や運動から、言語、感情、そして意識そのものに至るまで、あらゆる働きを担う電気信号と化学信号のネットワークは、絶えず変化し続けている。

それは美しかった。

複雑だった。

そして、その仕組みを完全に理解することは、途方もなく難しかった。

だからこそ彼は、プロジェクト・シナプスの開発中に提出された、野心的すぎる提案のいくつかに反対していた。

研究者たちが目指していたのは、生物の神経活動と高度なコンピューターシステムの間に、信頼性の高いインターフェースを確立することだった。

理論上、その技術には驚くべき可能性があった。

重度の運動機能障害を持つ人々のための、新しい意思疎通の手段。

より反応性の高い支援機器。

高度な神経リハビリテーション。

さらには、人間が技術と関わる方法そのものを変える、まったく新しい可能性さえあった。

しかし、可能性があることと、安全であることは同じではない。

そして科学的な野心は、十分な説明に基づく本人の同意に代わるものではなかった。

ルクソンは、そのことを何度も訴えてきた。

残念ながら、誰かがその警告を無視することに決めたらしい。

今、彼は臨床観察室に立ち、互いに一度も会ったことのない三人の患者の神経学的記録を調べていた。

ノーラン・ピアース。

イヴリン・カーター。

マーカス・ベル。

三人の人間。

三つの異なる経歴。

三つの異なる状況。

それにもかかわらず、彼らの神経系は、不気味なほど似通ったパターンを示し始めていた。

「もう一度、記録を見せてください」

ルクソンはそう頼んだ。

助手のエレナ・モリス博士がディスプレイを操作した。

三つの波形が別々に表示された。

それぞれ、患者の症状が現れた際に収集された、限られた測定値を示していた。

記録は異なる施設で、異なる機器を使って取得されており、研究チームは比較に先立って、その違いを慎重に補正していた。

それでも、奇妙な特徴が残っていた。

繰り返される信号の並び。

一度、間が空く。

そして再び同じような並びが現れる。

ルクソンは身を乗り出した。

「興味深いですね」

エレナは彼を見た。

「そういう言い方もできますね」

彼は最初の記録を拡大した。

「このピークと次のピークの間隔に注目してください」

エレナは画面を調べた。

「約十一秒です」

「では、二つ目と比較してください」

彼女は指示に従った。

表情が変わった。

「十一秒……」

「三つ目は?」

エレナは確認した。

「ほぼ完全に同じです」

ルクソンは腕を組んだ。

「これだけでは何も証明できません。無関係な理由で、似た間隔が生じることもあります」

「でも、症状と合わせて考えると?」

「調査する価値があります」

エレナは患者の一覧を見た。

「彼らは互いに通信していると思いますか?」

ルクソンは質問について考えた。

「彼らの神経系が、共通する何らかの外部からの影響に反応している可能性はあると思います」

「信号のようなものですか?」

「可能性はあります」

「盗まれた機器からの?」

「それも仮説の一つです」

エレナは記録を調べた。

「それなら、どうして症状が違うんでしょう?」

ルクソンは三人の名前を見た。

「人間は、同じ仕様で作られた機械ではないからです」

彼はディスプレイを指さした。

「仮にこれらの症状に共通の原因があったとしても、その影響は個人の生理機能、病歴、曝露した状況、そして数え切れないほど多くの要因によって変わる可能性があります」

エレナはうなずいた。

「つまり、次に何が起こるか予測できない」

「信頼できる精度では、まだ無理です」

通知が現れた。

【新たな臨床観察記録】

【患者:イヴリン・カーター】

【不随意運動の発作を記録】

ルクソンは報告書を開いた。

すると、もう一つ通知が現れた。

【患者:マーカス・ベル】

【不随意運動の発作を記録】

エレナは眉をひそめた。

「二人とも?」

ルクソンは時刻を確認した。

その表情が険しくなった。

「同じ一秒以内です」

◇ ◇ ◇

シトロンシティ総合病院――午後0時49分

イヴリン・カーターは、もう恐怖を感じることに疲れ果てていた。

朝からずっと、検査され、質問され、監視され、安心するように言われ続けていた。

誰もが親切だった。

それが問題なのではなかった。

問題は、彼女の右手だった。

右手は毛布の上に置かれていた。

完全に静止していた。

どこから見ても普通の手だった。

それなのに、イヴリンはもう自分の手を信用できなくなっていた。

アニカ・シャー医師が病室に入ってきた。

「気分はどうですか?」

イヴリンは顔を上げた。

「礼儀正しい答えと、本当の答え、どっちがいいですか?」

「本当の答えをお願いします」

「最悪です」

シャー医師は椅子を引き寄せた。

「聞かせてください」

イヴリンは自分の手を見下ろした。

「私、六年間ずっと、ちゃんと動かない機械を修理してきたんです」

彼女は弱々しく笑った。

「なのに今は、自分が壊れた機械になったみたいで」

シャー医師は首を振った。

「あなたは医学的な問題を経験している一人の人間です。だからといって、故障した機械になるわけではありません」

イヴリンは唾を飲み込んだ。

「わかってます」

少し間を置いた。

「ただ、自分が自分じゃないみたいで……」

「そう感じるのも無理はありません」

「マーカスも発作を起こしたって聞きました」

シャー医師はうなずいた。

「現在、検査を受けています」

「大丈夫なんですか?」

「容体は安定しています」

イヴリンは息を吐いた。

「よかった……」

しばらくの間、二人とも黙っていた。

やがてイヴリンはモニターを見た。

「一つ聞いてもいいですか?」

「もちろんです」

「私たち、人にうつすんでしょうか?」

シャー医師は慎重に答えた。

「あなたたちの症状に共通の原因があるのか、また、どのような曝露が起きた可能性があるのか、まだわかっていません」

「あまり安心できる答えじゃないですね」

「ええ」とシャー医師は認めた。「ですが、わかっていることと、まだわからないことを正確にお伝えするのが大切なんです」

イヴリンはうなずいた。

そのとき、指が動き始めた。

彼女はすぐに気づいた。

「ああ、もう! またなの!?」

シャー医師は視線を下げた。

右手の人差し指が毛布をたたいた。

次に中指。

そして親指。

イヴリンは動きを止めようとした。

しかし、止まらなかった。

「先生!」

「ここにいますよ」

シャー医師は監視手順を開始した。

看護師が入ってきた。

イヴリンの呼吸が速くなった。

「もう嫌!」

「わかります。私と話し続けてください」

「止められないんです!」

「発作の様子を記録しています。あなたは一人ではありません」

イヴリンは自分の手を見つめた。

すると、始まったときと同じくらい突然、動きが止まった。

彼女は顔を上げた。

「終わったんですか?」

「今のところは」

イヴリンは目を閉じた。

そして病院の別の場所では、マーカス・ベルの左手が、まったく同じ瞬間に動きを止めていた。

◇ ◇ ◇

キランの自宅――午後1時07分

「絶対に駄目だ」

キランは画面のメッセージをにらみつけた。

マッハの紫色のアイコンが点滅した。

「あなたの反対意見は記録しました」

「記録した?」

「はい」

「マッハ、誰かが市内の高度な電子式移動支援機器を全部停止させようって提案してるんだよ」

「より正確には、予備的な勧告案で、安全性の評価が完了するまで、一部のネットワーク接続型技術の運用を一時停止することが提案されています」

キランは画面を指さした。

「それって、車椅子を使うのをやめろって、難しい言葉で言ってるようなものじゃないか」

「すべての電動車椅子がネットワークに接続されているわけではありません」

「だから問題なんだよ!」

キランは背もたれに身を預けた。

「まったく違う技術を、全部同じものみたいに扱ってる」

マッハは文書を表示した。

それは、市の複数の部署で回覧されている緊急勧告の草案だった。

正式な命令は、まだ発令されていなかった。

しかし、提案されている項目の一つには、一部の移動支援システムや医療機器を含む、高度な電子機器の使用を広く制限するよう推奨する内容があった。

キランはもう一度読んだ。

そして首を振った。

「これ、誰が書いたの?」

「草案には個人の作成者名が記載されていません」

「だろうね」

マッハは少し間を置いた。

「反対意見をまとめますか?」

キランは彼を見た。

「うん」

「セリーナ・チョーに連絡しましょうか?」

「絶対に」

彼は少し考えた。

「マーガレット・ホロウェイにも」

「承知しました」

「レイモンドにも」

「追加します」

キランは、自分が座っている仮の電動車椅子を見た。

ローカル操作系は正常に機能していた。

バッテリーの充電量も十分だった。

移動するためにインターネット接続は必要なかった。

市内にある数え切れないほど多くの車椅子も同じだった。

さらに、ネットワーク接続機能を備えた機器であっても、重要な機能は独立して動作する場合があった。

それなのに、曖昧な緊急命令が出されれば、人々は必要な機器を怖がって停止させてしまうかもしれない。

あるいは、周囲の誰かが勝手に接続を切ってしまうかもしれなかった。

キランの表情が険しくなった。

「技術を理解してない人間が、障害者は移動するのをやめろなんて勝手に決めていいわけないだろ」

マッハのアイコンが明るくなった。

「私も強く支持します」

キランは彼をちらりと見た。

「ありがとう」

「ただし、最初の草案から『技術音痴のスナット野郎ども』という表現は削除することを推奨します」

キランは目を瞬かせた。

「そんなこと言ってないよ」

「考えていました」

「うわ、それは怖い」

「あなたの文章作成時の習慣を観察してきましたので」

「やっぱり怖いよ」

◇ ◇ ◇

北部貨物地区――午後1時19分

X-Rayは、次の倉庫にも何か怪しいものがあるだろうと予想していた。

しかし、水槽があるとは思っていなかった。

それも、とても大きな水槽だった。

中身は空だった。

マーラ・エリソン刑事は彼の隣に立ち、ガラス越しに中を見つめた。

「どうして?」

X-Rayは腕を組んだ。

「実にいい質問だ」

その建物はかつて、レストランや個人の収集家に水槽設備を供給する会社の施設だった。

会社は数年前に閉業していた。

回収された出荷記録によると、停電の三日前に、そこへ荷物が配送されていた。

土地の管理者は捜査員の立ち入りを許可しており、捜索班は最近誰かが活動していた痕跡を発見していた。

しかし、従業員はいなかった。

正規の配送書類もなかった。

そして部屋の中央に置かれた巨大なガラス水槽についても、明確な説明は見つからなかった。

マーラは床を調べた。

「何か重いものをここで動かしたみたいね」

X-Rayは搬入口を見た。

新しい引きずり跡が、コンクリートの床を横切っていた。

「フォークリフトか?」

「可能性はあるわ」

証拠収集担当の技師が近づいた。

「刑事、水槽の裏に隠し区画を発見しました」

マーラは振り返った。

「案内して」

その区画は壁の中に作られていた。

内部には、複数の電気部品を収めた金属製のキャビネットが立っていた。

太いケーブルがキャビネットから床の中へ伸びていた。

X-Rayはそのそばにしゃがんだ。

「これは新しいな」

マーラは設備を調べた。

「何かわかる?」

「俺より詳しい人間がいないと無理だな」

「少なくとも、素直に認めるようになったのね」

「人間的な成長さ」

マーラは危うく笑いそうになった。

技師がキャビネットを調べた。

「製造元のラベルがあります」

彼は声に出して読んだ。

「適応型信号中継装置」

X-Rayは姿勢を正した。

「信号中継?」

マーラは彼を見た。

「早合点しないで」

「もちろんさ」

彼は安全な通信装置を起動した。

「ルクソン博士?」

少し間が空いた。

そして博士の声が答えた。

『はい、X-Ray?』

「また機器を見つけた」

『どんな機器ですか?』

「中継装置だ」

ルクソンは静かになった。

『型番を教えてもらえますか?』

X-Rayはラベルを読み上げた。

少し間が空いた。

そしてルクソンが口を開いた。

『その型番は、シナプス研究計画で提案されたものです』

X-Rayはキャビネットを見た。

「提案された?」

『はい。管理された試験環境の外で使用することは、一度も承認されていません』

マーラは腕を組んだ。

「どうやら、誰かは別の考えだったみたいね」

◇ ◇ ◇

午後1時32分

キャビネットは、目に見える外部ネットワークには接続されていなかった。

電源も、対応した技術班によって隔離されていた。

捜査員たちは装置を起動しようとはしていなかった。

それにもかかわらず、保護された監視機器は、繰り返される局所的な信号を検出していた。

証拠収集担当の技師は眉をひそめた。

「あり得ない……」

マーラは彼を見た。

「説明して」

「装置の外部接続は物理的に切断されています」

X-Rayはキャビネットをちらりと見た。

「なのに?」

「それでも活動を検出しています」

マーラは近づいた。

「蓄えられた電力が原因という可能性は?」

「あります。現在確認中です」

X-Rayは床を見た。

ケーブルがコンクリートの下へ消えていた。

「あれは何につながってる?」

技師は彼の視線を追った。

「まだ追跡できていません」

マーラは無線機を起動した。

「技術班が設備を評価するまで、ここでの捜索は一時停止して」

X-Rayはうなずいた。

「賢明だな」

キャビネットの内部から、かすかなクリック音が聞こえた。

全員が動きを止めた。

カチッ。

カチッ。

カチッ。

技師は監視装置を確認した。

信号の間隔が変わった。

そして再び変わった。

X-Rayはキャビネットを見つめた。

「それが普通だって言ってくれ」

技師は答えなかった。

マーラは一歩下がった。

「全員、距離を保って」

クリック音が止まった。

しばらく、部屋は静まり返った。

すると、キャビネットの小さな表示灯が点灯した。

一つ。

次にもう一つ。

そして三つ目。

技師がささやいた。

「外部電源はないはずなのに……」

X-Rayは隠されたケーブルを見た。

「だったら、あれが何につながってるのか調べたほうがよさそうだな」

◇ ◇ ◇

ルクソン生物医学研究所――午後1時48分

ドクター・ルクソンは、医療専門家、緊急対応調整官、市の公衆衛生部門の代表者たちが集まる会議テーブルの前に立っていた。

室内には緊張が漂っていた。

誰もが質問を抱えていた。

答えを持つ者は、ほとんどいなかった。

ダニエル・マーサーという公衆衛生担当官が、最新の報告を確認した。

「現在、複数の地区で疑い例が発生しています」

ルクソンはうなずいた。

「はい」

「感染症なのでしょうか?」

「まだ確立されていません」

「電子機器を通じて広がる可能性は?」

「特定の技術的な曝露が、症状と関連している可能性を調べています」

マーサーは眉をひそめた。

「あまり安心できる答えではありませんね」

「ですが、正確な答えです」

病院の管理者が口を開いた。

「患者には何と説明すればいいのでしょう?」

ルクソンは室内を見回した。

「医療関係者が、異常な神経学的症状の集団発生を調査していると伝えてください。原因はまだ確認されておらず、気になる症状があれば医療専門家に相談するよう説明してください」

マーサーは身を乗り出した。

「高度な電子機器の使用を制限すべきでは?」

「無差別に行うべきではありません」

「博士、少しでも可能性があるのなら――」

「その場合は、具体的な危険性を調査します」

ルクソンの声は落ち着いていた。

「ある種類の実験機器について確認されていない懸念があるからといって、マイクロプロセッサーを搭載したすべての機器を停止させる理由にはなりません」

病院の管理者はうなずいた。

「それでは、病院の機器の相当数が対象になってしまいます」

「そのとおりです」

マーサーはメモを見た。

「移動支援機器については?」

ルクソンの表情がわずかに険しくなった。

「不可欠な移動支援技術を、簡単に切り捨てられるものとして扱ってはいけません」

彼は会議室のスクリーンを示した。

「多くの電動車椅子は、外部ネットワークから独立して動作します。接続機能を備えた機器であっても、その機能や曝露経路の可能性は大きく異なります」

マーサーは考え込んだ。

ルクソンは続けた。

「特定の製品に危険性が確認された場合は、利用者、製造元、臨床医、アクセシビリティの専門家と協力して、対象を絞った対策を立てられます」

「それまでは?」

「必要不可欠な医療と自立した生活を維持しながら、調査を続けます」

新しい参加者が遠隔で会議に加わった。

セリーナ・チョーだった。

「それこそ、私たち障害者支援団体が求めていたことです」

ルクソンはうなずいた。

「チョーさん」

セリーナは担当官たちを見た。

「すでに何件も相談が来ています。介助者が、自分たちの使っている車椅子も感染しているかもしれないという噂を怖がっているんです」

マーサーは眉をひそめた。

「そのような警告は出していません」

「正式には、ですね」とセリーナは答えた。「ですが、勧告の草案が出回りました」

沈黙。

彼女は続けた。

「言葉は大切です。電子式移動支援機器が危険かもしれないとだけ伝えて、その根拠や懸念の範囲を説明しなければ、人々は理解していない機器の接続を切り始めるかもしれません」

ルクソンは腕を組んだ。

「それは、直ちに危害を生む可能性があります」

セリーナはうなずいた。

「そのとおりです」

二つ目の声が通話に加わった。

キランだった。

「それに、誰かが僕の車椅子を公衆衛生上の緊急事態だと決めつけなくても、トイレくらい行けるようにしてもらえると、本当にありがたいんですけどね」

何人かが画面のほうを向いた。

セリーナはかすかに微笑んだ。

「キラン」

「やあ、セリーナ」

マーサーは困惑した顔をした。

「こちらはどなたですか?」

「キラン・キリアンです」とキランは答えた。「教師で、車椅子ユーザーで、どうやら非常勤の緊急政策評論家でもあるらしいです」

マッハのアイコンが彼の隣に現れた。

「そして、私の会話の癖については常勤の評論家です」

キランはため息をついた。

「今はやめてよ、マッハ」

何人かが笑った。

緊張が少し和らいだ。

それからキランは真剣な表情になった。

「みんな怖がってるのはわかります。僕だって怖いです」

彼は少し間を置いた。

「でも、怖いからといって、すべての技術が同じように危険になるわけじゃありません」

ルクソンはうなずいた。

「まさにそのとおりです」

キランは担当官たちを見た。

「これを止めようとして、別の緊急事態を作らないでください」

◇ ◇ ◇

午後2時06分

緊急会議は、いくつかの暫定的な決定をもって終了した。

病院は、侵害された可能性のある機器を確認しながら、必要不可欠なサービスを維持する。

公衆衛生当局は、臨床報告を統一して管理する。

捜査員たちは、回収された出荷記録を追跡する。

そして、現在得られている証拠だけを根拠に、電動車椅子やその他の必要不可欠な医療機器を一律に制限する命令は出さない。

小さな勝利だった。

しかし、キランにとっては十分に価値があった。

彼は通話を終了し、背もたれに身を預けた。

「ふう……」

マッハのアイコンが現れた。

「比較的うまくいきましたね」

「誰も物を投げなかったし」

「特筆すべき成果です」

キランは微笑んだ。

そのとき、個人用の通信端末が振動した。

メッセージが現れた。

【マイケイラ】

彼は開いた。

『また街全体を巻き込む緊急事態に関わってるって、本当なの?』

キランは画面を見つめた。

そしてため息をついた。

「まずい」

マッハのアイコンが明るくなった。

「どうやら、あなたの恋人が関与を知ったようですね」

「ありがとう、名探偵」

「どういたしまして」

キランは返信を打った。

『厳密には、調査を手伝ってるだけだよ』

ほとんど即座に返事が来た。

『前の大事件のときも、まったく同じこと言ってたわよね』

キランは顔をしかめた。

「一理あるね」

「過去の事例を振り返ると、何点もあります」

「楽しんでるでしょ」

「大いに」

さらにメッセージが現れた。

『コミュニティセンターでのお手伝いが終わったら、そっちに行くわ。話があるから』

キランは画面を見た。

そして、かすかに微笑んだ。

「うん」

彼は返信した。

『わかった。そっちも気をつけてね』

マイケイラから返事が来た。

『あなたもね。マッハにもよろしく伝えて』

マッハのアイコンが明るくなった。

「挨拶に感謝しているとお伝えください」

キランは笑った。

「君って本当にどうしようもないね」

◇ ◇ ◇

北部貨物地区――午後2時19分

技術班は、ようやく隠されたケーブルの行き先を突き止めた。

ケーブルは床の下を通り、古い保守用の配管を抜けて、隣の設備室へ伸びていた。

そこで捜査員たちは、二つ目のキャビネットを発見した。

そして三つ目も。

どちらにも、シナプス研究計画で使用されたものに似た部品が収められていた。

X-Rayは入口に立ち、機器を見つめた。

「キャビネットが三つ」

マーラはうなずいた。

「全部つながっているわ」

「何をしてるかわかるか?」

「まだよ」

証拠収集担当の技師が、鍵のかかった引き出しから回収した図面を調べていた。

「刑事、これを見てください」

マーラが近づいた。

図面には、シトロンシティの簡略化された地図の上に、番号を振られた十二個のノードが配置されていた。

それぞれを線が結んでいた。

中央には、さらに大きな記号があった。

X-Rayは身を乗り出した。

「これは研究所だ」

マーラは図面を調べた。

「かもしれないわね」

技師は外側のノードを指さした。

「これらは出荷記録の配送先と対応しているようです」

X-Rayは数えた。

一。

二。

三。

四。

五。

六。

七。

八。

九。

十。

十一。

十二。

彼はマーラを見た。

「十二件の配送」

「十二個のノード」と彼女は答えた。

技師は図面を裏返した。

裏面には手書きの注記があった。

【分散型同期ネットワーク】

その下には、別の言葉が記されていた。

【コンバージェンス・プロトコル】

X-Rayは眉をひそめた。

「コンバージェンス?」

マーラは図面を見た。

「完成するところを見たくない名前ね」

X-Rayは通信装置を起動した。

「ルクソン博士、何か見つけたぞ」

◇ ◇ ◇

ルクソン生物医学研究所――午後2時37分

ルクソンは回収された図面を見つめた。

X-Rayが、承認された証拠共有回線を通じて撮影画像を送ってきたのだ。

文書には十二個のノードが描かれていた。

中央の接続点。

そして一つの名称。

【コンバージェンス・プロトコル】

エレナ・モリスが隣に立っていた。

「この言葉を見たことはありますか?」

ルクソンは首を振った。

「承認された研究文書にはありません」

「後から開発されたものかもしれませんね」

「可能性はあります」

彼女はネットワーク図を調べた。

「十二個のノード。中央のシステム……」

ルクソンはうなずいた。

「分散型の信号構造に似ています」

「何をするための?」

「それが、私の懸念していることです」

彼は中央の記号を拡大した。

図面には、ネットワークが何を達成するためのものなのか説明されていなかった。

ただ、ノード同士の接続方法が示されているだけだった。

エレナは患者のデータを見た。

「先生……」

ルクソンは振り返った。

「何ですか?」

「神経学的な記録です」

彼女は三人の患者を指さした。

ノーラン。

イヴリン。

マーカス。

最新の発作記録がモニターに表示されていた。

「時刻を見てください」

ルクソンは記録を調べた。

間隔が、以前よりも近づいていた。

完全に同じではない。

しかし、より近くなっていた。

彼は眉をひそめた。

「もう一度比較してください」

エレナはコマンドを入力した。

ソフトウェアが、使用を許可された匿名化済みデータを処理した。

結果が現れた。

【時間的相関が上昇】

エレナは彼を見た。

「先生……」

ルクソンは見つめた。

「何かが変わりました」

◇ ◇ ◇

午後2時51分

シトロンシティ総合病院では、イヴリン・カーターが窓のそばに座っていると、右手が動き始めた。

彼女は視線を下げた。

「ああ、また……」

指が毛布をたたいた。

一回。

二回。

三回。

彼女は動いていないほうの手で、呼び出しボタンに手を伸ばした。

しかし、押す前に動きが止まった。

イヴリンは眉をひそめた。

「これは初めてね……」

同じ建物の別の場所では、マーカス・ベルが看護師と話している最中に、左手がぴくりと動いた。

彼は話すのをやめた。

看護師が気づいた。

「ベルさん?」

マーカスは指を見つめた。

二回動いた。

そして止まった。

彼は顔を上げた。

「今の、見ました?」

看護師はうなずいた。

「はい、見ました」

一方、ルクソン研究所の厳重に管理された医療区画では、ノーラン・ピアースが目を開けた。

それまで眠っていた。

今は天井を見つめていた。

看護師が近づいた。

「ピアースさん?」

ノーランはすぐには答えなかった。

唇が動いた。

看護師は少し身を乗り出した。

「何と言いました?」

ノーランは唾を飲み込んだ。

「近づいてる……」

看護師は眉をひそめた。

「誰がですか?」

彼は彼女のほうを向いた。

「声が」

看護師は監視機器を確認した。

「また声に悩まされているんですか?」

ノーランは首を振った。

「前とは違う」

「どう違うんですか?」

彼は怯えていた。

「もう、みんな勝手にしゃべってないんだ」

看護師は少し間を置いた。

「どういう意味ですか?」

ノーランはささやいた。

「みんな、同じものを聞いてる」

◇ ◇ ◇

キランの自宅――午後2時56分

キランは画面に表示された新しい図面を調べていた。

十二個のノード。

一つの中央システム。

それらを結ぶネットワーク。

彼は眉をひそめた。

「マッハ」

「はい?」

「コンバージェンスって何?」

「一般的には、複数のものが共通の地点や状態へ向かって収束する過程を意味します」

「なるほど」

彼は図面を指さした。

「この場合は?」

マッハは少し間を置いた。

「情報不足です」

キランはうめいた。

「またそれか」

「根拠のない推測のほうがよろしいですか?」

「いや」

「では、忍耐をお勧めします」

キランはため息をついた。

「わかったよ」

彼は再び図面を調べた。

「もし、十二個の装置が信号を広げるだけのものじゃなかったら?」

マッハのアイコンが明るくなった。

「続けてください」

「もし、全部を同じように反応させようとしてるんだとしたら?」

「同期ですか?」

「そう」

キランは臨床概要を見た。

「患者たちには、すでに似たパターンが現れてる」

「はい」

「そして今、そのパターンが近づいてる」

「ルクソン博士の予備的な分析によれば、そうです」

キランは身を乗り出した。

「だったら、それが目的なのかもしれない」

マッハは黙っていた。

キランは十二個のノードを見た。

「誰かがネットワーク全体を同期させようとしてるのかも」

マッハのアイコンが柔らかく点滅した。

「回収された用語とも整合します」

キランは唾を飲み込んだ。

「もし、そのネットワークに人間まで含まれているとしたら……」

彼は最後まで言わなかった。

マッハには、その必要がなかった。

◇ ◇ ◇

午後2時59分

ドクター・ルクソンは観察室に立っていた。

隣ではエレナ・モリスがモニターを見つめていた。

ノーラン、イヴリン、マーカスの最新の測定値が、別々の画面に表示されていた。

三人とも医療スタッフの監視下にあった。

三人とも意識があった。

そして三人とも、ここ数分の間に奇妙な感覚を報告していた。

ルクソンは時刻を確認した。

【午後2時59分41秒】

エレナは記録を見た。

「先生、間隔が短くなっています」

ルクソンは身を乗り出した。

「どのくらいの速さですか?」

「さっきより速いです」

【午後2時59分48秒】

一つの波形が変化した。

続いて、もう一つ。

そして三つ目。

エレナの表情が変わった。

「そろい始めています」

ルクソンはデータを確認した。

「時刻情報を確認してください」

「確認済みです」

【午後2時59分55秒】

三つの記録が、驚くほど似たパターンで動き始めた。

ルクソンは見つめた。

「こんなことが起きるはずは……」

【午後2時59分58秒】

エレナがささやいた。

「先生……」

【午後2時59分59秒】

部屋が、ひどく静かになったように感じられた。

そして――

【午後3時00分00秒】

シトロンシティ総合病院で、イヴリン・カーターが突然息を吸い込んだ。

同じ建物の別の場所で、マーカス・ベルも同じように息を吸った。

そしてルクソン研究所の厳重に管理された医療区画では、ノーラン・ピアースが息を吸い込んだ。

まったく同じ瞬間だった。

三人の人間。

異なる部屋。

異なる建物。

異なる医療上の状況。

それにもかかわらず、彼らの呼吸パターンは同期していた。

一度、息をする。

そしてもう一度。

さらにもう一度。

医療スタッフたちは直ちに患者の状態を確認し、酸素化の状態やその他のバイタルサインを監視した。

すぐに意識を失った患者はいなかった。

しかし、そのタイミングの一致は明白だった。

【午後3時00分05秒】

イヴリンは看護師を見た。

「何が起きてるんですか?」

声が震えていた。

【午後3時00分07秒】

マーカスは自分の手を見つめた。

「止めてくれ……」

【午後3時00分09秒】

ノーランが何かをささやいた。

看護師は少し身を乗り出した。

「何ですか?」

彼は彼女を見た。

「来たんだ」

【午後3時00分11秒】

同期したパターンが終わった。

イヴリンは普段どおりに息を吐いた。

マーカスの呼吸は、それまでのリズムに戻った。

ノーランは目を閉じた。

そしてルクソンの観察室では、三つの波形が再び別々の動きを始めた。

エレナはモニターを見つめた。

「十一秒……」

ルクソンは何も言わなかった。

彼女は彼のほうを向いた。

「先生……」

彼はゆっくりと彼女を見た。

「偶然ではありません」

◇ ◇ ◇

午後3時04分

研究チームは記録の検証を始めた。

時刻情報を確認した。

機器の同期設定を調べた。

ソフトウェアの誤作動の可能性を検討した。

担当する医療チームにも連絡した。

観察結果は、それぞれ独立して確認された。

十一秒間、異なる場所にいる三人の患者が、非常に近い同期した呼吸パターンを示していた。

ルクソンには、その仕組みがわからなかった。

理由もわからなかった。

そして、同じ現象がほかの場所でも起きているのかどうかもわからなかった。

しかし、直ちに対応すべき事態であることだけは理解していた。

彼はエレナのほうを向いた。

「医療対応チームに知らせてください」

彼女はうなずいた。

「それから先生」

「何ですか?」

「キランにも伝えますか?」

ルクソンは記録を見た。

「はい」

少し間を置いた。

「チーム全員に伝えてください」

◇ ◇ ◇

午後3時11分

キランは報告書を見つめた。

「十一秒?」

マッハのアイコンが現れた。

「はい」

「三人とも?」

「検証済みの観察結果によれば、そうです」

キランはネットワーク図を見た。

十二個のノード。

一つの中央システム。

コンバージェンス。

彼は唾を飲み込んだ。

「マッハ……」

「はい?」

「嫌な予感しかしないよ」

「私もです」

キランは目を瞬かせた。

「待って」

彼はアイコンを見た。

「今、君も嫌だって言った?」

「はい」

「珍しいね」

「まったく初めてというわけではありません」

キランはかすかに微笑んだ。

しかし、その笑みはすぐに消えた。

「何であれ、強くなってるんだ」

マッハは少し間を置いた。

「それも一つの解釈です」

キランは地図を見た。

「それなのに、誰が背後にいるのかもわからない」

「そのとおりです」

彼は背もたれに身を預けた。

一瞬、ギアに電話しようかと考えた。

MACH-01Aの再建作業がどこまで進んでいるか、聞いてみようかと。

空から調査できたら、どれほど楽だろうかと。

しかし、答えはわかっていた。

車椅子はまだ完成していない。

そして再建を急がせても、誰の助けにもならない。

少なくとも、今は。

代わりに彼はマッハを見た。

「よし」

AIのアイコンが明るくなった。

「よし、ですか?」

「調査を続けよう」

「賛成です」

「そして、コンバージェンスが実現する前に、その意味を突き止める」

マッハは少し間を置いた。

「素晴らしい目標です」

キランはうなずいた。

「手遅れじゃないといいけどね」

◇ ◇ ◇

ルクソン生物医学研究所――午後3時19分

第七実験室の隔離された端末がちらついた。

外部接続は無効化されたままだった。

通信ポートは封鎖されていた。

無線機能も停止していた。

それでも、ディスプレイが変化した。

新しい一行が現れた。

【プロジェクト・シナプス】

続いて、もう一行。

【分散ネットワーク:稼働中】

画面がちらついた。

【同期率:12%】

少し間が空いた。

【必要閾値:100%】

そして――

【コンバージェンス進行中】

端末は静かなままだった。

警報は鳴らなかった。

扉が開くこともなかった。

機械が動くこともなかった。

しかし、誰もいない実験室の蛍光灯の下で、数字だけが光り続けていた。

十二パーセント。

小さな数字だった。

ほとんど取るに足らない数字にさえ見えた。

ただし、百パーセントに達したとき何が起こるのか、誰も知らないという一点を除けば。

そして研究所の壁の向こう側、シトロンシティに広がる無数の道路や建物の中では、目に見えないパターンが、機械と人間の神経系を同じリズムへと引き寄せ続けていた。

街は、共に呼吸することを覚えた。

今、何かが次の呼吸を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。