↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/202

希望の光

病室は静かなままだった。

全員が耳を傾けている。

なぜなら。

ようやく――

本当の理由に近づいていたから。

キランがすべてを危険にさらした理由。

ただ背を向けて立ち去ることができなかった理由。

真実が闇に葬られることを許せなかった理由。

「マッハだけじゃなかったんだ」

キランは窓の外を見つめた。

遠い昔の記憶の中へ沈んでいくように。

「友達だけじゃない」

「家族だけでもない」

その眼差しが柔らかくなる。

「あの二人だった」

説明する必要はなかった。

誰のことを言っているのか――

全員がわかっていた。

ホイーラーズ。

「初めてあの二人を見た時のこと、今でも覚えてる」

小さな笑みが浮かぶ。

懐かしそうな。

本物の笑顔。

「燃えてるアパートから人を助け出してた」

「あのニュース、たぶん二十回くらい見たよ」

あの頃――

ホイーラーズは、あり得ない存在のように見えた。

空を飛ぶ。

犯罪者と戦う。

人々の命を救う。

恐れを知らないように見えた。

自信に満ちて。

強く。

キランにはないものを――

すべて持っているように見えた。

少なくとも。

当時の彼には――

そう感じられた。

「本物のスーパーヒーローみたいだった」

マッハが首を傾げる。

『厳密には、本当にスーパーヒーローですが』

「そういう意味じゃないって」

『わかっています』

「あの二人を見てると……何だってできるような気がしたんだ」

その記憶は――

今でも鮮明に残っている。

なぜなら。

自分自身が閉じ込められているように感じることの多かった少年にとって――

自分と同じような人たちが空を自由に飛び回る姿は。

何よりも大きな意味を持っていたから。

テレビ中継だけではなかった。

インタビュー。

募金活動。

病院への慰問。

公のイベント。

どこを見ても――

ホイーラーズがいた。

人を助けて。

笑って。

誰かに勇気を与えていた。

少なくとも――

そう見えていた。

「俺も……あの二人みたいになりたかった」

その告白は静かだった。

少しだけ――

恥ずかしそうに。

「子供っぽく聞こえるよな」

「そんなことないわ」

スザンヌは即座に答えた。

「人として当然のことよ」

キランは微笑んだ。

「そうかもね」

「でも……あの二人のおかげで、目指すものができた」

ただ生き延びることよりも。

ただ存在することよりも。

ただ今日という一日を乗り越えることよりも――

もっと先にあるもの。

二人はキランに――

未来を与えた。

少なくとも。

未来というものを――

想像させてくれた。

年月が流れた。

学校生活も少しずつ楽になった。

大学へ進み。

さらに学び。

そして――

教師になった。

夢も変わった。

形を変え。

成長した。

キランがスーパーヒーローになることはなかった。

だが。

それは――

重要ではなかった。

「あの二人を見て……俺も人を助けたいって思うようになった」

声は穏やかだった。

迷いはない。

「空を飛び回るんじゃなくて」

「犯罪者と戦うんでもなくて」

「教師として」

生徒を助ける。

家族を助ける。

孤独を感じている子供たちを助ける。

自分は周りと違うと思っている子供たち。

誰かに信じてもらう必要がある子供たち。

かつての――

自分と同じように。

レイモンドが微笑んだ。

なぜなら。

彼はそれを見てきたから。

毎日。

生徒たちがキランにどう接しているのか。

保護者たちがどれほど彼を信頼しているのか。

子供たちが彼の授業をどれほど楽しみにしているのか。

「かなり上手くなったじゃないか」

キランは笑った。

「生徒には言うなよ」

「もう知ってると思うぞ」

ギアが頷く。

「残念ながらな」

「ありがとう、ギア」

「どういたしまして」

病室に小さな笑いが広がった。

ほんの――

少しだけ。

それでも。

助けになった。

なぜなら。

この後に何が来るのか――

全員がわかっていたから。

痛みを伴う部分。

キランの笑みが消える。

記憶が変わった。

倉庫。

割れた窓。

武器。

ベリゼール。

サヴァントの部下たち。

そして――

ホイーラーズ。

誰かを救っていたわけではない。

誰かを助けていたわけでもない。

誰かに希望を与えていたわけでもない。

ただ――

そこにいた。

取引をして。

犯罪者たちと手を組んで。

人が死ぬのを見ていた。

キランの手が毛布を強く握った。

「何か理由があるはずだって……ずっと自分に言い聞かせてた」

言葉は静かだった。

そして――

痛々しかった。

「俺が何か勘違いしただけなんじゃないかって、ずっと思いたかった」

誰も口を挟まない。

挟めなかった。

なぜなら。

キランが勘違いなどしていなかったことを――

全員がわかっていたから。

「間違いであってほしかった」

声が――

ほんの少しだけ震える。

「でも……違った」

病室が再び静まり返る。

今度は――

さっきとは違う沈黙。

悲しい――

沈黙。

なぜなら。

全員が理解していた。

本当に辛かったのは――

ホイーラーズに攻撃されたことではない。

追いかけられたことでもない。

犯罪者のために働いていたことさえ――

一番ではない。

本当に辛かったのは。

かつて。

少なくともキランの中では――

あの二人がヒーローだったこと。

そして。

その幻想が壊れる瞬間を――

自分の目で見てしまったこと。

それは。

どんな怪我よりも痛かった。

墜落よりも。

落下よりも。

この病院のベッドよりも。

スザンヌがようやく口を開いた。

優しく。

静かに。

「やっと……わかった気がする」

キランが母親を見る。

スザンヌは悲しそうに微笑んだ。

「あなたは怒ってるから、こんなことをしようとしてるんじゃないのね」

キランは頷いた。

「うん」

「じゃあ……どうして?」

キランはマッハを見る。

ギアを見る。

レイモンドを見る。

そして――

窓の外へ。

シトロン・シティへ。

迷いなく。

はっきりと答えた。

「誰かがやらなきゃいけないから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。