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残された英雄たち

月曜日――午後9時34分

非常灯が地下通路を赤く染めていた。

レイモンド・ハリソンは補強された警備扉の前に立ち、コンクリートの壁越しに聞こえる機械の低い駆動音に耳を澄ませていた。

扉の向こう側では、ワイルダー巡査が整備用の点検パネルを開けようとしていた。

金属と金属が擦れ合う音が、廊下に響き渡った。

ガンッ!

「痛っ!」

レイモンドは目を閉じた。

「ワイルダー」

『大丈夫です!』

再び金属音が響いた。

ガシャン!

『ほぼ大丈夫です!』

レイモンドは額を押さえた。

隣では、マーカス・ヘイル博士が警察のタブレットに表示された古い設計図を調べていた。

六十三歳の技術者は、ひどく疲れ切っているように見えた。

灰色の髪は乱れていた。

手首には、拘束されていたときについた赤い痕が残っていた。

しかし、その頭脳は相変わらず鋭く働いていた。

「逆側を使っているな」とヘイルがつぶやいた。

レイモンドは彼を見た。

「何だって?」

「緊急解除工具だ。おそらく手動レバーではなく、長方形の差し込み口のほうを使っている」

レイモンドは無線機を起動した。

「ワイルダー、レバーを使え」

少し間が空いた。

『あっ』

さらに少し間が空いた。

『そのほうがずっと理にかなっていますね』

レイモンドはため息をついた。

「あいつとはもう三年の付き合いだ」

ヘイルはかすかに微笑んだ。

「昔からああなのか?」

「残念ながらな」

壁の向こうから機械的なクリック音が響いた。

そして――

ガコンッ!

整備用パネルが動いた。

ワイルダーの声が戻ってきた。

『できました!』

レイモンドは微笑んだ。

「よくやった」

『ありがとうございます!』

少し間が空いた。

『それで、これをどうやって開けるんです?』

レイモンドの笑顔が消えた。


ギアの工房――午後9時36分

キラン・キリアンはモニターを見つめていた。

【第二再認証:66%】

【幹部権限:A・ヴォス】

【施設封鎖:有効】

数字は増え続けていた。

ゆっくりと。

容赦なく。

キランは、一時的に使用している電動車椅子の上で姿勢を調整した。

コンピューターの前に座り続けて、すでに二時間近くが経過していた。その負担が、少しずつ体に現れ始めていた。

肩が痛んだ。

首もこわばっていた。

そして、その車椅子は一時使用のために適切に調整されていたものの、長年かけて操作に慣れ親しんできた愛機とは違っていた。

彼は整備台へ視線を向けた。

MACH-01Aが工房の照明の下に置かれていた。

紫色の装甲は、何か所も取り外されていた。

後部推進装置は接続されていなかった。

冷却システムもまだ一部分解されたままだった。

そして、保護装甲の下に隠れていた損傷は、キランが最初に考えていたよりもはるかに深刻だった。

ギアはその隣に立ち、診断用タブレットを調べていた。

キランは数秒間、彼を見つめた。

「どれくらいひどい?」

ギアは顔を上げなかった。

「ひどい」

「一から十で言うと?」

「スナット」

キランは眉をひそめた。

「それ、数字じゃないよ」

「数字で表せるレベルを超えてるんだ」

携帯ディスプレイにマッハの紫色のアイコンが現れた。

「ギアの評価は技術的には不正確ですが、感情的には的確です」

キランはため息をついた。

「二人とも、もったいぶるのやめてくれない?」

ギアはようやく振り返った。

「キラン、メインの冷却マニホールドが変形してる。熱調整装置も損傷してるし、推進装置の一つは内部が変形してる。それに、緊急停止の負荷で配電系統の部品まで傷んでるんだ」

キランは目を見開いた。

「つまり……」

「つまり、ちょっと修理して戦場に送り返すなんてことはしない」

沈黙。

キランは自分の車椅子を見た。

「基本的な移動機能だけでも復旧できない?」

ギアは首を振った。

「無理」

「武器なしでも?」

「無理」

「飛行機能も使わなければ?」

「キラン」

「何?」

ギアはタブレットを置いた。

「今使ってる一時的な車椅子はちゃんと動いてる。必要な用途に合わせて調整してあるし、安全に使える。でも、MACH-01Aは違う」

キランは目をそらした。

「わかってるよ」

ギアの表情が和らいだ。

「本当に?」

キランはすぐには答えなかった。

モニターの向こうでは、レイモンドたちがまだ地下に閉じ込められていた。

制御装置の処理は進み続けていた。

そして施設のどこかでは、障害のある市民に対する新たな攻撃が準備されていた。

キランは肘掛けを握る指に力を込めた。

「ただ、ここでじっとしてるのが嫌なんだ」

ギアは彼の隣にスツールを引き寄せた。

「じっとしてるだけじゃないだろ」

「そう感じるんだよ」

「設備用導管を見つけたのは君だ。レイモンドたちを警備システムの中で誘導したのも君だ。幹部認証の経路を特定するのにも貢献した」

「ほとんどマッハとナサニエルがやったことだよ」

マッハが割って入った。

「あなたの貢献にも十分な価値があります」

キランはディスプレイを見た。

「今の、本当に褒めてる?」

「はい」

「故障してない?」

「現在のところ異常はありません」

ギアは微笑んだ。

しかし、キランは笑わなかった。

彼は再びMACH-01Aを見た。

ウルトラヴァイオレットになって以来、初めて、ただ戦場へ戻ればいいという未来を思い描けなくなっていた。

そして、その気持ちをどう扱えばいいのかわからなかった。


エコー・ヴェイル災害復旧施設――午後9時42分

ワイルダーはようやく整備用の入口を開いた。

パネルが外側へ開き、壁の向こうに狭い機械式の通路が現れた。

はしごが暗闇の中へ伸びていた。

開口部から埃が舞い上がった。

レイモンドが近づいた。

「底は見えるか?」

ワイルダーは懐中電灯で下を照らした。

『見えません』

ヘイルが近づいた。

「このシャフトは補助電源階まで、およそ十二メートル下っている」

ワイルダーは暗闇を見つめた。

『十二メートル?』

「およそだ」

『ずいぶん長いですね』

レイモンドは技術者を見た。

「はしごは安全か?」

ヘイルはためらった。

「最後に点検したときは安全だった」

「それはいつだ?」

「二十六年前だ」

ワイルダーはゆっくりと懐中電灯を下ろした。

『素晴らしいですね』

レイモンドは指揮所に連絡した。

「エリソン、手動の整備用入口を開いた。これから降下する」

無線機から彼女の声が返ってきた。

『慎重に進んで。シャフトが現在も安全な状態にあるという確認は取れていないわ』

「了解」

レイモンドは狭い通路を調べた。

そしてヘイルに向き直った。

「マーカス、はしごを降りられるか?」

ヘイルは下を見た。

その表情に不安が浮かんだ。

「やってみよう」

レイモンドは首を振った。

「そういうことを聞いてるんじゃない」

ヘイルはため息をついた。

「手首が痛む。左膝も昔ほど頼りにならない。それに、ここ数時間ずっと椅子に縛りつけられていた」

レイモンドはうなずいた。

「なら、安全に降ろす別の方法を考えよう」

ヘイルは驚いた顔をした。

「時間がないぞ」

「だからこそ、君を落として時間を無駄にするわけにはいかない」

ワイルダーは微笑んだ。

『それは救出作戦が複雑になりますからね』

レイモンドは彼を見た。

「ありがとう、ワイルダー」

『どういたしまして』

レイモンドは警官たちに向き直った。

「降下用の安全装備を準備しろ。全員で進むぞ」


シトロン・アカデミー――午後9時48分

講堂は少し静かになっていた。

影響を受けた住民の一部は、一時的な移動手段を確保して帰宅していた。

一方で、移動機器にまだ専門的な対応が必要なため、残っている人々もいた。

ボランティアたちは水や食事を配っていた。

技術者たちは機器の故障状況を記録し続けていた。

医療スタッフは、長時間待っている住民たちの体調を確認していた。

マイケイラ・マッキントッシュは、復旧手順を印刷した書類が並ぶテーブルの横に立っていた。

近くでは、セリーナ・チョウが一人の少年と話していた。

少年は十三歳にもなっていないように見えた。

名前はエリオット。

彼の車椅子はその日の夕方に復旧していたが、それでも彼は講堂から帰ろうとしなかった。

セリーナは、その理由を説明する彼の話に耳を傾けていた。

「また起きたらどうしよう?」

少年の声は小さかった。

セリーナは少し身を乗り出した。

「どういうこと?」

「また誰かに車椅子をロックされたら?」

彼女はすぐには答えなかった。

エリオットは操作装置を見た。

「友達の家に行く途中だったんだ。急に止まって、動けなくなった。向きを変えることさえできなかった」

セリーナの表情が和らいだ。

「怖かったでしょう」

彼はうなずいた。

「お父さんが迎えに来てくれた」

「安全な場所まで連れていってくれたの?」

「うん」

エリオットはためらった。

「でも、次に誰も来てくれなかったら?」

セリーナはマイケイラを見た。

珍しく、すぐには答えが出なかった。

すべて大丈夫だと言うこともできた。

責任者たちは必ず逮捕されると約束することもできた。

二度と同じことは起きないと言うこともできた。

しかし、彼女にはそのどれも確信がなかった。

だから、慎重に言葉を選んだ。

「もう二度と起きないとは約束できないわ」

エリオットは目を伏せた。

「でも、誰にもこんなことをさせないように、たくさんの人が頑張っているのは確かよ。それに、何が間違っていたのかをきちんと理解できるまで、私たちは質問し続けるつもり」

彼は顔を上げた。

「本当に?」

「本当よ」

マーガレット・ホロウェイが近づいた。

「それに、私たちの中には、とんでもなくしつこく問い詰めるつもりの人間もいるからね」

エリオットは目をぱちくりさせた。

セリーナは笑った。

マーガレットは腕を組んだ。

「政府のお偉方が嫌うものは三つあるの。書類仕事、説明責任、それから絶対に引き下がらないおばあちゃん」

マイケイラは微笑んだ。

「特に最後の一つね」

マーガレットは誇らしげにうなずいた。

「それが私の得意分野よ」

エリオットは笑った。

小さな笑いだった。

しかし、講堂に到着して以来、初めて見せた笑顔だった。

マイケイラはテレビへ視線を向けた。

ニュースでは、エイドリアン・ヴォスがエコー・ヴェイルの認証記録に関する質問への回答を拒否する様子が映し出されていた。

彼女の表情が険しくなった。

誰かが、エリオットに自分の車椅子を怖がらせるようなことをした。

そしてマイケイラは、今夜が終わったあとも、その事実を決して忘れないつもりだった。


エコー・ヴェイル――中央指令室――午後9時55分

ヴェイン司令官はメイン制御端末の前に立っていた。

【第二再認証:69%】

隣の技術者は、現地警備権限を復旧しようとしていた。

しかし、どの試みも失敗した。

【アクセス拒否】

【幹部権限による上書き】

【現地指揮制限:有効】

ヴェインは歯を食いしばった。

「もう一度」

技術者は別の命令を入力した。

【アクセス拒否】

「もう一度」

「司令官――」

「もう一度!」

技術者は入力を止めた。

「この端末からできることは、もうありません」

ヴェインは彼に向き直った。

「なら、別の端末を探しなさい」

「幹部プロファイルが警備ネットワーク全体を制御しています」

ヴェインは画面を見つめた。

何か月もの間、彼女は純化協定が規律を象徴するものだと信じていた。

秩序。

高度な移動技術を単一の権限の下で規制できる世界。

彼女は公共の安全についてのヴォスの主張を受け入れていた。

一時的な制限は必要なのだと、自分自身に言い聞かせてさえいた。

しかし今、同じシステムが彼女の指揮権を奪っていた。

部下たちは閉じ込められていた。

命令は上書きされていた。

そして支配権を約束した男は、彼女を使い捨ての道具として扱っていた。

その皮肉は、彼女にも十分理解できた。

残念ながら、怒りも消えてはいなかった。

「まだ現地の無線で連絡できる警備部隊に連絡しなさい」

技術者はためらった。

「司令官?」

「制御装置を奪取するわ」

「幹部権限からですか?」

「そうよ」

「ですが、それは――」

「ヴォスに逆らうことになる?」

技術者は黙った。

ヴェインは身を乗り出した。

「ヴォス氏は一つ忘れていることがあるわ」

「何でしょう?」

彼女は施設の地図を見た。

「コンピューターは支配できるかもしれない」

その表情が険しくなった。

「でも、この建物の中にいる人間全員を支配できるわけじゃない」


ギアの工房――午後10時2分

ナサニエルが突然、背筋を伸ばした。

「待って」

キランは振り返った。

「何?」

「別の認証命令がある」

マッハは即座にネットワーク通信の解析を始めた。

新しいディレクトリが現れた。

【エコー・ヴェイル――幹部継続運用サービス】

【制限付き命令群】

【継続運用強制】

キランは眉をひそめた。

「嫌な名前だね」

マッハが答えた。

「その評価は正確です」

ナサニエルは古い技術資料を開いた。

表情が変わった。

「まずい……」

キランは身を乗り出した。

「何?」

ナサニエルは技術仕様を読み進めた。

「エコー・ヴェイルは元々、自治体のネットワーク同士で災害復旧を調整するために設計されていたんだ。一つの都市が重要なインフラへのアクセスを失った場合、近隣のシステムが緊急認証情報を交換できるようになっていた」

キランはうなずいた。

「うん」

「でも、ヴォスが認証処理を改造した」

マッハが続けた。

「継続運用強制機能により、幹部プロファイルは互換性のある地域システムへ代替認証情報を配布できます」

キランは目を見開いた。

「つまり?」

ナサニエルは彼を見た。

「第二制御装置の再認証が完了すれば、パージがシトロンシティの外へ広がる可能性がある」

沈黙。

ギアが整備台から顔を上げた。

「どこまで?」

ナサニエルは首を振った。

「わからない。まだ互換性のある地域システムがどれだけ残っているか、それらが認証情報を受け入れるかによる」

キランは画面を見つめた。

「じゃあ、もっと多くの人に同じことが起きるかもしれないんだ」

マッハが答えた。

「可能性はあります」

キランの表情が険しくなった。

「なら、送信される前に止めなきゃ」

ナサニエルはうなずいた。

「でも、もう一つ問題がある」

キランはため息をついた。

「やっぱりね」

「制御装置を物理的に隔離する前に認証情報が送信されたら、そのあと施設を停止させても、別の場所ですでに受け入れられた認証情報までは取り消せないかもしれない」

キランは施設の図面を見た。

「なら、レイモンドに隔離室へ到達してもらわないと」

マッハのアイコンが明るくなった。

「直ちに」


エコー・ヴェイル――補助整備シャフト――午後10時9分

レイモンドははしごを降りていた。

懐中電灯が錆びた金具と古いコンクリートの壁を照らしていた。

安全ロープが彼と上の部隊をつないでいた。

数メートル下に、狭い足場が見えてきた。

彼は最後の段を確かめた。

問題はなかった。

足場に降り立った。

「底に到着した」

ワイルダーの声が聞こえた。

『怪物はいますか?』

レイモンドは上を見た。

「何だって?」

『念のためです』

レイモンドはため息をついた。

「怪物はいない」

『よかった』

少し間が空いた。

『巨大ロボットは?』

レイモンドは周囲を見回した。

「今のところはいない」

『それはあまり安心できませんね』

ほかの警官たちも降下を始めた。

ヘイルは追加の補助装備を使い、ゆっくり慎重に続いた。

レイモンドは下で待ち、一つ一つの動きを確認していた。

やがて技術者は足場へ到着した。

大きく息を吐いた。

「ひどい目に遭った」

レイモンドはうなずいた。

「まったくだ」

ヘイルは周囲を見回した。

補助階は上層階よりもはるかに古かった。

太い機械配管が天井を走っていた。

大きな圧力計が壁から突き出していた。

いくつかの整備用パネルには、色あせた黄色い塗装が残っていた。

ヘイルはその一つに近づいた。

「ダニエルは、この区画を機械式のまま残すよう強く主張したんだ」

レイモンドはかすかに微笑んだ。

「相変わらず先のことを考えてたんだな」

ヘイルはうなずいた。

「いつもそうだった」

技術者は古い金属製の識別板に指を滑らせた。

【リヴァース・エンジニアリング――緊急アクセス】

しばらく、彼は何も言わなかった。

レイモンドはその様子を見ていた。

「寂しいんだな」

ヘイルはうなずいた。

「毎日な」

レイモンドは識別板を見た。

「俺もだ」

ヘイルは手を下ろした。

「ダニエルは、このシステムが悪用される可能性を理解していた。何年もヴォスと争っていたんだ」

レイモンドの表情が険しくなった。

「どうして全部話してくれなかったんだ?」

ヘイルは彼を見た。

「君を守ろうとしていたんだ」

レイモンドは首を振った。

「あいつらしいな」

ヘイルは続けた。

「自分のしていることが間違った連中に知られたら、誰かが安全装置を使う前に破壊されると考えていた」

レイモンドは廊下を見た。

「ほかにも作ったのか?」

ヘイルはためらった。

そしてうなずいた。

「ああ」

レイモンドは勢いよく振り返った。

「何だって?」

ヘイルは彼をまっすぐ見た。

「緊急隔離室について、知っておいてほしいことがある」


ギアの工房――午後10時15分

キランは、安全な無線通信を通じてヘイルの説明を聞いていた。

『物理的な隔離スイッチだけでは不十分なんだ』とヘイルが言った。

ナサニエルは眉をひそめた。

「ダニエルの記録には機械式の切断装置が載っていたよ」

『そのとおりだ。ただし、その装置が切り離すのは第二制御装置と地域送信ネットワークの接続だけだ』

キランは身を乗り出した。

「それが目的じゃないの?」

『そうだ。しかし、ヴォスはその可能性を予測していた』

マッハが答えた。

「説明してください」

ヘイルは続けた。

『ダニエルの元の設計が承認されたあと、ヴォスは幹部用の継続運用モジュールを追加した。主な送信経路が切断されても、認証データを保持できる』

ナサニエルの表情が暗くなった。

「つまり、あとから再接続できるってことか」

『そのとおり』

キランは画面を見つめた。

「どうやって止めるの?」

ヘイルは少し間を置いた。

『ダニエルは最後の安全装置を作った』

レイモンドの声が聞こえた。

『どんな装置だ?』

『幹部システムから独立した物理認証キーだ。緊急隔離室で使用すれば、継続運用モジュールを恒久的な管理ロックアウト状態にできる』

キランはまばたきした。

「それ、すごく便利そうだね」

『便利だとも』

「キーはどこ?」

ヘイルはためらった。

『厳重に保護された整備用保管庫だ』

ナサニエルは地図を表示した。

「何階?」

『地下第二階層』

キランは図面を調べた。

表情が曇った。

「そこ、メインの警備区画の向こうじゃない?」

ヘイルはうなずいた。

『そして、幹部権限による封鎖はまだ続いている』

沈黙。

すると、ワイルダーの声が聞こえた。

『つまり、確認させてください……』

レイモンドはため息をついた。

「ワイルダー」

『僕たちを逮捕するか殺そうとしている連中に追われながら、封鎖された建物の中の鍵のかかった部屋から、鍵を取り出さなきゃいけないんですね?』

ヘイルが答えた。

『大体そういうことだ』

ワイルダーは少し黙った。

『素晴らしいですね』


シトロン・アカデミー――午後10時22分

マイケイラのスマートフォンが鳴った。

画面を見た。

キランだった。

彼女はすぐに応答した。

「もしもし」

『やあ』

彼の声は疲れているようだった。

マイケイラは講堂の静かな隅へ移動した。

「作戦はどう?」

『複雑だよ』

「そんなにひどいの?」

『レイモンドはヘイル博士を見つけたけど、地下に閉じ込められてる。ヴォスが警備システムを支配していて、それにパージが街の外まで広がるかもしれないってわかった』

マイケイラは目を閉じた。

「キラン……」

『わかってる』

しばらく沈黙が続いた。

それから彼女は、ずっと気になっていたことを尋ねた。

「MACH-01Aはどう?」

キランは整備台を見た。

『まだ壊れてる』

「どれくらい?」

『ギアによると、大規模なオーバーホールが必要らしい』

マイケイラは息を吐いた。

「よかった」

キランはまばたきした。

『よかった?』

「壊れててよかったって意味じゃないわ。ギアが危険な状態のまま、あなたを無理やり戻そうとしてなくてよかったってこと」

キランは目をそらした。

『戻るつもりなんてなかったよ』

マイケイラは黙っていた。

彼はため息をついた。

『わかったよ。考えはした』

「でしょうね」

『ここに座ってるだけだと、役立たずになった気がするんだ』

「キラン」

『何?』

「レイモンドたちが施設を進めるように案内しているのは誰?」

『僕とマッハとナサニエル』

「警備ネットワークを解析しているのは?」

『僕たち』

「制御装置を止める方法を探しているのは?」

キランはため息をついた。

『僕たち』

「なら、役立たずなんかじゃない」

彼はモニターを見つめた。

『でも、違うんだ』

「もちろん違うわ」

マイケイラは壁にもたれた。

「でもね、英雄になるってことは、すべての爆発を自分で受け止めなきゃいけないって意味じゃないのよ」

キランはかすかに微笑んだ。

『僕の経歴をずいぶん具体的に説明するね』

「だって、そのとおりでしょ」

彼は笑った。

そして静かになった。

『恋しいんだ』

「何が?」

『飛ぶこと』

マイケイラの表情が和らいだ。

「わかってる」

キランは損傷した紫色の車椅子を見た。

『全部が始まって以来、初めて、いつまた飛べるのかわからなくなった』

マイケイラは、急いで安心させようとはしなかった。

誰にも保証できない日付を約束してはいけないと、彼女はわかっていた。

だから、こう言った。

「なら、次にどうするかは、あなたの準備ができたときに一緒に考えましょう」

キランはゆっくりとうなずいた。

『うん』

「それまでは?」

彼はコンピューターへ視線を戻した。

『それまでは、レイモンドを助ける』

マイケイラは微笑んだ。

「そのとおり」


エコー・ヴェイル――地下第二階層――午後10時31分

ヴェインに忠実な警備員たちが、中央アクセス通路の外に集まっていた。

六人の隊員が彼女のそばに立っていた。

武器は下げられていたが、すぐに使用できる状態だった。

技術者は、施設内の監視カメラへの限定的なアクセスを復旧することに成功していた。

地図には制御室へ向かう経路が表示されていた。

ヴェインはそれを調べた。

「西側の警備連絡路から入ります」

隊員の一人が眉をひそめた。

「司令官、幹部権限による封鎖で、その経路は閉ざされています」

ヴェインはうなずいた。

「だから手動の緊急解除装置を使うのです」

隊員は驚いた顔をした。

「ご存じだったのですか?」

「施設の元の資料を読んでいます」

彼女は全員に向き直った。

「ヴォスは、自動化されたシステムで私たちを置き換えられると思っている。機械の維持には、今も人間が必要だということを思い知らせてやりましょう」

技術者が近づいた。

「司令官、もう一つ問題があります」

ヴェインは彼を見た。

「何です?」

「警察が補助整備階を移動しています」

彼女は目を細めた。

「レイモンド・ハリソン」

「はい」

ヴェインは考えた。

そして冷たく微笑んだ。

「なら、一度に二つの問題を解決できるかもしれませんね」


エコー・ヴェイル――補助電源階――午後10時39分

レイモンドの部隊は、古い整備用の橋に到着した。

橋は深い機械用シャフトを横切るように架かっていた。

はるか下では、大型の換気タービンがゆっくりと回転していた。

橋は狭かった。

金属製の格子床は、何か所も錆びていた。

一部はすでに崩れかけていた。

ワイルダーは懐中電灯で橋を照らした。

「絶対に嫌です」

レイモンドは橋を調べた。

「ここしか道がない」

「なら、別の道を探すことに一票入れます」

ヘイルが近づいた。

「元々は整備員の重量に耐えられる設計だったが、現在の状態までは保証できない」

レイモンドはうなずいた。

「安全ロープを使って、一人ずつ渡る」

ワイルダーは隙間を見つめた。

「危険な橋には、もううんざりしませんか?」

レイモンドは彼を見た。

「しょっちゅうだ」

最初の警官が慎重に渡り始めた。

橋がきしんだ。

ギギギギッ!

全員が凍りついた。

警官は進み続けた。

もう一歩。

さらに一歩。

反対側に到着した。

「異常なし!」

レイモンドは次の警官に合図した。

部隊はゆっくりと進んだ。

ヘイルは追加の安全補助を受けながら橋を渡った。

反対側の足場に到着すると、大きく息を吐いた。

「ダニエルが、この施設の放置された姿を見たら怒っただろうな」

レイモンドはうなずいた。

「きっと、ものすごく怒った報告書を書いただろう」

ヘイルは微笑んだ。

「何通もな」

ワイルダーが最後に橋へ足を踏み出した。

下を見た。

そしてすぐに顔を上げた。

「無理です」

レイモンドの声が聞こえた。

「ワイルダー」

「進んでます!」

彼はもう一歩踏み出した。

バキィィッ!

足元の格子床がずれた。

ワイルダーはよろめいた。

「うわあっ!」

レイモンドは安全ロープをつかんだ。

「止まれ!」

ワイルダーは手すりをつかんだ。

損傷した格子床がシャフトの中へ落ちていった。

ガシャアン!

はるか下の機械にぶつかった。

ワイルダーの体は、隙間の上に半分ほどはみ出していた。

呼吸が速くなった。

「はいっ!」

レイモンドはロープを張った。

「動くな!」

「ものすごく動いてません!」

警官たちは協力して引き上げた。

ワイルダーは足場を取り戻した。

そして反対側の足場へ急いだ。

レイモンドは最後の部分で彼を支えた。

ワイルダーは壁にもたれかかった。

数秒間、誰も何も言わなかった。

やがてワイルダーが指を一本上げた。

「先ほどの発言を、正式に撤回したいと思います」

レイモンドは彼を見つめた。

「どの発言だ?」

「この作戦は簡単そうだと言ったことです」

レイモンドは思わず笑った。


ギアの工房――午後10時47分

ナサニエルは再認証の進行状況を監視していた。

【第二再認証:76%】

マッハのアイコンがちらついた。

「キラン」

「何?」

「施設の自動防衛ネットワーク内で動きを検知しました」

キランは眉をひそめた。

「どんな動き?」

ナサニエルは監視映像を開いた。

立入制限された機械格納庫の中で、大きな補強扉が上昇していた。

その向こうには、重装甲の自動警備ユニットが数体並んでいた。

装甲に覆われた本体は、幅広い機械式の履帯に取り付けられていた。

複数のセンサーが廊下へ向かって回転した。

キランは目を見開いた。

「冗談でしょ……」

マッハが機械を解析した。

「自動封じ込めユニットです。元々は危険な産業事故への対応を目的として設計されました」

ナサニエルは眉をひそめた。

「ヴォスが幹部警備システムに接続してる」

キランは身を乗り出した。

「武装してる?」

マッハは少し間を置いた。

「はい」

キランはため息をついた。

「やっぱりね」

機械たちが動き始めた。

ドン。

ドン。

ドン。

ナサニエルは進路を追跡した。

表情が変わった。

「キラン……」

「何?」

「レイモンドのところへ向かってる」

キランはヘッドセットをつかんだ。

「レイモンド! 問題発生!」


エコー・ヴェイル――整備連絡路――午後10時51分

レイモンドは足を止めた。

音は壁の向こうのどこかから聞こえていた。

低い機械の振動音。

そして、もう一度。

ドン。

ドン。

ワイルダーは天井を見た。

「換気装置の音だと言ってください」

レイモンドは耳を澄ませた。

ドン。

音が大きくなった。

ヘイルの顔が青ざめた。

「違う……」

レイモンドは振り返った。

「何だ?」

ヘイルは廊下を見つめた。

「封じ込めユニットだ」

ワイルダーは眉をひそめた。

「封じ込めユニット?」

「危険区域を封鎖するために設計された大型の自動機械だ」

レイモンドは暗闇を見た。

「危険なのか?」

ヘイルは唾を飲み込んだ。

「人間に対して使用するようには設計されていなかった」

無線機からキランの声が響いた。

『レイモンド、よく聞いて。三体の自動ユニットがそっちへ向かってる』

レイモンドは装備を握り直した。

「避けられるか?」

ナサニエルが答えた。

『メインの廊下からは無理だ。整備用保管庫への道を塞いでる』

レイモンドは近くの分岐路を見た。

「別の道は?」

マッハが答えた。

『検索中です』

機械の足音が大きくなった。

ドン。

ドン。

ドン。

ワイルダーはレイモンドを見た。

「隊長?」

レイモンドは片手を上げた。

「その場で待機」

廊下の奥に赤い光が現れた。

もう一つ。

そして、さらにもう一つ。

三体の巨大な機械が暗闇から姿を現した。

装甲に覆われた本体が、通路の大部分を占めていた。

側面から機械式の腕が伸びた。

センサーが警官たちへ向けられた。

合成音声が廊下に響いた。

【許可のない人員を検知】

【立入制限区域】

【指示への服従を要求】

レイモンドは前へ出た。

「シトロンシティ警察だ! 合法的な救出作戦を実施している!」

機械たちは止まらなかった。

【幹部認証が必要】

【アクセス拒否】

機械の腕が動いた。

ワイルダーはゆっくりとレイモンドを見た。

「どうやら警察の身分証には興味がないようですね」

レイモンドはうなずいた。

「ああ」

先頭の機械が腕を上げた。

警告灯が点滅した。

【封じ込め手順開始】

レイモンドが叫んだ。

「伏せろ!」

ドゴォォン!

重い衝撃が彼らの横の壁を打った。

コンクリートの破片が廊下に飛び散った。

警官たちは補強された支柱の陰へ飛び込んだ。

ヘイルはレイモンドの隣で身をかがめた。

ワイルダーは配電盤の陰へ飛び込んだ。

「どうしてこの街の建物には、どこもかしこも殺人ロボットがいるんですかぁぁっ!?」

レイモンドが叫び返した。

「あとで聞け!」


ギアの工房――午後10時54分

キランはカメラ映像を見つめた。

自動機械たちが前進していた。

レイモンドの部隊は身動きが取れなくなっていた。

整備用保管庫への道は塞がれていた。

そして第二制御装置は、再認証を進め続けていた。

【第二再認証:78%】

ナサニエルは緊急停止方法を探し始めた。

「頼む……」

マッハは封じ込めユニットを解析した。

「命令信号は幹部警備制御装置から発信されています」

キランは眉をひそめた。

「妨害できる?」

「現地の整備ネットワークにアクセスしなければ不可能です」

ナサニエルは別の画面を見た。

「待って」

元の設計図を開いた。

「この機械は、完全に独立して動作するようには設計されていない」

キランは身を乗り出した。

「どういうこと?」

「人がいる整備区域を移動するには、現地の安全制御装置による許可が必要なんだ」

マッハはすぐに記録を確認した。

「確認しました」

キランの目が大きくなった。

「じゃあ、現地の安全制御装置を停止させれば……」

ナサニエルは首を振った。

「フェイルセーフ状態に入る可能性がある。でも、物理的なアクセスが必要だ」

キランは地図を見た。

制御装置は小さな整備室の中にあった。

連絡路の反対側。

機械たちの向こうだった。

彼は歯を食いしばった。

「レイモンド、何か見つけた」

衝撃音の中からレイモンドの声が聞こえた。

『手短に頼む!』

「ロボットには現地の安全制御装置があるんだ。誰かが整備室に到達して緊急停止を作動させれば、停止するはずだ」

レイモンドは廊下を見た。

「整備室はどこだ?」

キランは位置を強調表示した。

「ロボットの向こう」

レイモンドは目を見開いた。

「やっぱりな」

再び衝撃が廊下を揺らした。

ドゴォォン!

ワイルダーが叫んだ。

「隠れる壁がなくなりそうです!」

レイモンドはヘイルを見た。

そして警官たちを見た。

表情が険しくなった。

「キラン」

「何?」

「その部屋に入る別の道を探してくれ」

キランはナサニエルに向き直った。

ナサニエルは地図を開いた。

マッハは検索を始めた。

三つの頭脳が古い技術記録を調べた。

時計は刻々と進んでいた。


エコー・ヴェイル――中央指令室――午後10時57分

ヴェインは自動防衛システムの映像を見ていた。

機械たちは警察と交戦していた。

レイモンドの部隊は閉じ込められていた。

そして制御装置の処理は進み続けていた。

【第二再認証:79%】

技術者が近づいた。

「司令官、幹部システムが次の認証段階を準備しています」

ヴェインは振り向いた。

「どの段階です?」

技術者はためらった。

「継続運用強制です」

ヴェインは眉をひそめた。

「説明しなさい」

「制御装置が、互換性のある地域システムへ幹部認証情報を配布しようとします」

ヴェインは目を見開いた。

「シトロンシティの外にも?」

「可能性があります」

彼女の表情が変わった。

「そんなものは作戦に含まれていない」

技術者は何も言わなかった。

ヴェインは画面に向き直った。

初めて、ヴォスが最初から一つの都市だけで終わらせるつもりなどなかったのだと理解した。

純化協定は、地域限定の緊急対応策として提示されていた。

しかし、その地下に隠されたインフラは、はるかに大きな目的のために設計されていた。

ヴェインはゆっくりと拳を握りしめた。

「拡大するつもりなのね……」

技術者はうなずいた。

「はい、司令官」

ヴェインは警備映像を見た。

レイモンドの警官たちは、まだ身動きが取れない状態だった。

彼らを見殺しにすることもできた。

支配権を奪い返すために戦い続けることもできた。

あるいは、この作戦が自分の権限さえ超えてしまったことを認めることもできた。

数秒間、彼女は黙っていた。

そして口を開いた。

「警察との通信回線を開きなさい」

技術者は目を見開いた。

「司令官?」

「聞こえたでしょう」


ギアの工房――午後11時1分

ギアはMACH-01Aの隣に立っていた。

損傷した紫色の車椅子は、整備台の上で動かないままだった。

キランはそちらをちらりと見た。

一瞬、懐かしい推進システムの駆動音が頭に浮かんだ。

エンジンの振動。

加速する感覚。

バイザーの向こうを流れていく街の明かり。

施設の屋根を突き破って飛び込む自分の姿を想像した。

封じ込めユニットを吹き飛ばす。

レイモンドを救う。

ヴォスを止める。

全員を助ける。

そして、接続されていない推進装置を見た。

取り外された装甲板。

損傷した冷却システム。

そして、自分が座っている一時的な車椅子。

今夜は、そのどれもできない。

おそらく、これから長い間も。

胸が締めつけられた。

そのとき、無線機からレイモンドの声が聞こえた。

『キラン、俺たちはまだここにいる』

キランはまばたきした。

画面を見た。

レイモンドは損傷した支柱の陰に身をかがめていた。

機械たちは前進を続けていた。

しかし、その声は落ち着いていた。

『お前の助けが必要だ』

キランは見つめた。

そして、ゆっくりとうなずいた。

「そうだね」

ナサニエルに向き直った。

「整備用の図面を出して」

ナサニエルはすぐに従った。

マッハのアバターが明るくなった。

「代替アクセス経路を解析します」

キランは身を乗り出した。

「メインの廊下は無視して。安全制御室につながるものなら何でも探して」

細い通路が現れた。

ナサニエルは眉をひそめた。

「古い点検用ダクトがある」

キランは指さした。

「入口はどこ?」

「補助配電盤の裏だ」

マッハは寸法を確認した。

「小型の整備用ドローンであれば通行可能です」

キランは微笑んだ。

「これだ」

通信回線を起動した。

「レイモンド、入る方法を見つけたよ」

レイモンドは天井を見た。

『教えてくれ』

キランの笑みが広がった。

「さっき送り込んだ小さなドローン、覚えてる?」


エコー・ヴェイル――整備連絡路――午後11時6分

偵察ドローンが点検用ダクトへ入った。

カメラが狭い通路を照らした。

古いケーブルが壁に沿って伸びていた。

ドローンの後ろで埃が舞い上がった。

キランはナサニエルを誘導した。

「分岐を左」

ナサニエルは操作を調整した。

「了解」

「次は下」

ドローンは狭い開口部を通って下降した。

整備用パネルが現れた。

マッハは表示を解析した。

「現地安全制御装置は、パネルのすぐ向こうにあります」

キランは微笑んだ。

「完璧」

ナサニエルは眉をひそめた。

「そうでもない」

キランは彼を見た。

「何?」

「このドローンにはマニピュレーターがない」

沈黙。

キランは画面を見つめた。

そしてゆっくりとギアに向き直った。

ギアは顔を上げた。

「何?」

キランは作業台に置かれた小さな工具を指さした。

「それ、磁気式の点検プローブ?」

ギアはうなずいた。

「そうだけど」

キランは微笑んだ。

「ドローンに取り付けられる?」

ギアは彼を見つめた。

そして、にやりと笑った。

「スナット」

キランは眉を上げた。

「いいスナット?」

ギアは工具をつかんだ。

「ものすごくいいスナット!」


エコー・ヴェイル――整備連絡路――午後11時12分

封じ込めユニットはさらに一メートル前進していた。

レイモンドの部隊は、補強された機械設備の陰へ後退していた。

ワイルダーは損傷した廊下を見た。

「隊長、近づいてきてると思います」

レイモンドは障壁の上から様子をうかがった。

「気づいてる」

「念のためです」

再び機械の腕が壁を打った。

ガラァァン!

埃が空気を満たした。

ヘイルは咳き込んだ。

レイモンドは彼を支え、さらに安全な遮蔽物の陰へ移動させた。

そのとき、キランの声が戻ってきた。

『レイモンド、準備できたよ』

レイモンドは無線機を起動した。

「やってくれ」

点検用ダクトの中で、ドローンが整備用パネルへ近づいた。

機体の下には小さな磁気プローブが取り付けられていた。

ナサニエルは慎重に、緊急停止用の接点へ向けて操作した。

マッハは位置を監視していた。

「あと三センチ」

ナサニエルは微調整した。

「二センチ」

キランは身を乗り出した。

「ゆっくり……」

「一センチ」

プローブが接点に触れた。

小さな表示灯が緑色から琥珀色に変わった。

【現地安全上書きを検知】

封じ込めユニットが停止した。

センサーがちらついた。

レイモンドは目を見開いた。

「成功したのか?」

マッハが答えた。

「緊急停止処理が開始されました」

機械たちが低い電子音を発した。

【封じ込め手順:一時停止】

【現地安全インターロック:有効】

腕が下がった。

履帯がロックされた。

廊下は静まり返った。

ワイルダーはゆっくりと立ち上がった。

「止まった……?」

レイモンドはうなずいた。

「止まった」

ワイルダーは息を吐いた。

そして最も近い機械を見た。

「よかった」

少し間が空いた。

「もう少しで、厳重に注意してやるところでした」

レイモンドは笑った。


ギアの工房――午後11時15分

キランは車椅子の背もたれに体を預けた。

数秒間、ただ画面を見つめていた。

機械たちは動かなくなっていた。

レイモンドの部隊は無事だった。

整備用保管庫への道も開かれた。

ナサニエルは微笑んだ。

「やったね」

マッハのアバターが明るくなった。

「介入成功です」

ギアはキランの肩を軽くたたいた。

「よくやった」

キランはMACH-01Aを見た。

紫色の戦闘用車椅子は、まだ損傷したままだった。

エンジンは沈黙していた。

武器は使用できなかった。

戦場へ戻ることもなかった。

それでも、レイモンドは生きていた。

ヘイルも生きていた。

ワイルダーも生きていた。

そして作戦は続けられる。

キランはかすかに微笑んだ。

「うん」

再びモニターを見た。

「やったね」

そのとき、突然警告が現れた。

【第二再認証:80%】

【継続運用強制:準備中】

ナサニエルの笑顔が消えた。

マッハのアイコンがちらついた。

「キラン」

キランは姿勢を正した。

「何?」

「幹部システムが最終認証段階に入りました」

キランは警告を見つめた。

「あとどれくらい?」

マッハは少し間を置いた。

「信頼できる推定を行うには、データが不足しています」

キランは施設の地図を見た。

レイモンドの部隊は、ようやく自動防衛システムを切り抜けたところだった。

整備用保管庫はまだ先にあった。

最後の安全装置は作動していなかった。

そしてヴォスは、攻撃を拡大する準備を進めていた。

キランは肘掛けを強く握った。

「レイモンド」

無線機から雑音が響いた。

『どうぞ』

キランは画面を見た。

「もう進めるよ」

レイモンドはうなずいた。

『了解』

彼は部隊に向き直った。

「全員、準備はいいか?」

ワイルダーは動かなくなった機械たちを見た。

そして、その先の暗い廊下へ視線を向けた。

ため息をついた。

「隊長、ここまで来ると、もう『準備ができている』なんて状態が本当に存在するのか、わからなくなってきました」

レイモンドは微笑んだ。

「それで十分だ」

警官たちは前進した。

エコー・ヴェイル施設の地下深くでは、第二制御装置が最後の命令を準備し続けていた。

そして彼らの頭上のどこかでは、ヴェイン司令官が警察からの応答を待っていた。

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