↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
241/452

オペレーション・ブロークンチェーン

時間は刻一刻と過ぎていた。

文字どおりに。

シトロンシティ警察本部の最大のモニターでは、第二制御装置の再認証処理が進むにつれて、デジタルタイマーの数字が増え続けていた。

【第二再認証:49%】

【外部幹部権限:有効】

【市営主要認証:取り消し済み】

【第二制御装置:稼働中】

マーラ・エリソン刑事は、その表示を見つめていた。

彼女はこれまでの警察人生の大半を、銃やナイフ、爆発物、そして時には信じられないほどの愚かさを武器に市民を脅かす犯罪者たちと向き合ってきた。

しかし、今回は違った。

街の外のどこかで、古い災害復旧施設が、何千もの人々の移動機器に干渉できる兵器へと作り変えられていた。

しかも、その責任者たちは、何十年も忘れ去られていた政府のインフラの陰に隠れていた。

エリソンはこめかみを揉んだ。

「コンピューターって嫌いだわ」

ワイルダー巡査が隣に立っていた。

「それは困りましたね、刑事」

「どうして?」

「どうやら今回は、コンピューターと戦っているようですから」

エリソンはゆっくりと彼のほうを向いた。

ワイルダーは微笑んだ。

「場を和ませようと思いまして」

「もっと頑張って」

「了解しました」

部屋の反対側では、レイモンド・ハリソンがエコー・ヴェイル災害復旧施設の大型デジタル地図を調べていた。

中央通信塔を囲むように、三つの建物が配置されていた。

二本の進入道路が敷地と高速道路をつないでいた。

地下の設備通路が主要な建物同士を結んでいた。

そして、中央通信棟の地下に彼らの目標があった。

【地下第三階層――緊急隔離室】

レイモンドは図面を指さした。

「ここへ行かなければならない」

エリソンはうなずいた。

「ヘイル博士は?」

「最後に確認されたのは中央棟の地下にある拘束室だ」

「隔離室からどれくらい離れているの?」

レイモンドは地図を調べた。

「二階層だ」

ワイルダーが身を乗り出した。

「つまり、博士を救出して、制御装置を停止させて、脱出するわけですね」

レイモンドは彼を見た。

「そういうことだ」

「簡単そうですね」

エリソンはため息をついた。

「誰かがそう言うたびに、ろくでもないことが起きるのよ」

ワイルダーは背筋を伸ばした。

「では、今の発言は撤回します」


午後七時八分。

作戦が正式に開始された。

会議室のメインモニターに、安全なビデオ通信が接続された。

画面にキラン・キリアンが現れた。

彼はギアの工房で、一時的に使用している電動車椅子に座り、コンピューターが並ぶ作業台の横にいた。

紫色の髪は少し乱れていた。

操作装置の近くには、マッハのアバターを表示する携帯ディスプレイが取り付けられていた。

隣にはナサニエル・ブルックスが座っていた。周囲にはケーブルやタブレット、そして医師が見たら心配しそうなほど大量の空のコーヒーカップが散らばっていた。

二人の背後では、ギアがまだMACH-01Aの修理を続けていた。

紫色の戦闘用車椅子は、補強された整備台の上に置かれ、装甲板の一部が取り外されていた。

冷却システムは分解されていた。

推進装置の一つは別の作業台に置かれていた。

プラズマ砲も接続されていなかった。

キランはカメラを見た。

「さて、皆さん。今夜の『最悪な決断』へようこそ」

ワイルダーは微笑んだ。

「その番組なら見たことがあります」

レイモンドは腕を組んだ。

「キラン」

「何?」

「集中しろ」

「集中してるよ。ユーモアは士気を維持するために必要なんだ」

マッハのアイコンが現れた。

「彼の士気に対する定義は、科学的に見て依然として疑問が残ります」

キランはディスプレイを指さした。

「誰も君には聞いてない」

「私を導入したのはあなたです」

「導入したのはギアだよ」

背後からギアが叫んだ。

「どういたしまして!」

エリソンは咳払いした。

「始めてもいいかしら?」

キランは姿勢を正した。

「もちろん!」

ナサニエルは施設の図面を表示した。

「ダニエル・リヴァースが残した設計図を分析したよ。緊急隔離装置は中央通信棟の地下にある」

彼は地下地図の細い区画を強調表示した。

「隔離室へは二つの設備通路からアクセスできる。東側の通路は古い整備用エレベーターにつながっていて、西側の通路は補助電源室を通っている」

レイモンドは経路を調べた。

「どちらが安全だ?」

ナサニエルはためらった。

「どちらも安全とは言えない」

ワイルダーはため息をついた。

「素晴らしいですね」

「東側は距離が短いけど、施設の自動警備システムに監視されている。西側は遠回りだけど、機械式の出入口がいくつかある」

エリソンはうなずいた。

「西側を使いましょう」

キランが身を乗り出した。

「待って」

全員が彼を見た。

キランは画面を指さした。

「これ、何?」

ナサニエルは図面を拡大した。

補助電源室と中央通信棟の間に、細い通路が現れた。

「古い設備用導管だよ」

キランは眉をひそめた。

「どれくらい古いの?」

「建設当初からある」

「整備階につながってる?」

ナサニエルは確認した。

「うん」

キランは微笑んだ。

「じゃあ、どうして無視してるの?」

レイモンドは通路を調べた。

「突入部隊が通るには狭すぎる」

「そう。でも、偵察ドローンなら通れるかもしれない」

マッハのアバターが明るくなった。

「素晴らしい着眼点です」

キランは得意げに微笑んだ。

「ありがとう」

マッハは続けた。

「そのような着眼点は珍しいため、称賛に値します」

キランは画面を見つめた。

「せっかく褒められて喜んでたのに」


午後七時二十六分。

マイケイラ・マッキントッシュは、まだ働いていた。

シトロン・アカデミーの講堂は、一時的な支援調整センターへと姿を変えていた。

ボランティアたちは移動手段を手配していた。

資格を持つ技術者たちは、影響を受けた移動機器を調べていた。

医療関係者たちは、機器の復旧を待つ間に支援が必要な人々を手助けしていた。

そして、セリーナ・チョウは生放送のインタビューを受けていた。

彼女自身の車椅子は、まだロックされたままだった。

技術者による調査の結果、移動操作機能を安全に復旧するには、製造元が指定する専用の復旧手順が必要だと判明していた。

セリーナが激怒するのも当然だった。

しかし、彼女はそれを理由に発言をやめようとはしなかった。

「怖くないのかって、何度も聞かれるんです」

セリーナはインタビュアーに答えた。

カメラが彼女に近づいた。

「もちろん怖いです。誰かが、私が毎日頼っている機器に遠隔で干渉したんです。私の許可もなく、私の移動について勝手に決めたんですよ」

インタビュアーはうなずいた。

「エイドリアン・ヴォス氏が提案している義務的な登録制度について、どう思われますか?」

セリーナの表情が険しくなった。

「許可のない支配に対する解決策が、どうしてもっと多くの人に私たちを支配する権限を与えることなのか、聞いてみたいですね」

インタビュアーは一瞬、言葉を失った。

セリーナは続けた。

「安全は大切です。技術基準も大切です。でも、同意だって大切なんです。移動機器を使う人間には、その機器についての決定に参加する権利があります」

近くでは、マーガレット・ホロウェイが満足そうに見守っていた。

「あの子、やるじゃない」

マイケイラは微笑んだ。

「すごく上手に話してるね」

マーガレットはうなずいた。

「上手どころじゃないわ。あの偉そうな政治家を困らせてるんだから」

マイケイラのスマートフォンが振動した。

メッセージが表示された。

【キラン:作戦が始まるよ】

彼女は返信を入力した。

【マイケイラ:ちゃんと工房にいるんでしょうね?】

【キラン:うん】

続けて二通目が届いた。

【キラン:三人と、やたら批判的な人工知能一体に監視されております】

マイケイラは笑った。

【マイケイラ:よかった。ちゃんと言うこと聞いてね】

【キラン:AIに関しては約束できません】

彼女は首を振った。

しかし、その笑顔は次第に消えた。

マイケイラは混雑した講堂を見渡した。

まだ何十人もの人々が支援を待っていた。

一時的な移動手段を確保して、すでに帰宅した人もいた。

復旧した機器もあった。

だが、多くはまだ使えなかった。

そして街の外のどこかで、事件の責任者たちは次の攻撃を準備していた。

マイケイラはスマートフォンを強く握った。

「お願い、キラン」

彼女は小さくつぶやいた。

「みんなで止めて……」


午後七時四十一分。

エコー・ヴェイル災害復旧施設は、暮れかけた空の下にそびえ立っていた。

施設はシトロンシティの市域を越えた、人里離れた広大な土地に建っていた。

コンクリート造りの建物は、警備用のフェンスに囲まれていた。

投光器が敷地を照らしていた。

監視カメラが入口の上で回転していた。

中央の建物の上には高い通信塔がそびえ、その赤い警告灯が夕暮れの雲を背景に点滅していた。

地下深くでは、マーカス・ヘイル博士が端末の前に座っていた。

背後にはヴェイン司令官が立っていた。

二人の武装警備員が出入口を見張っていた。

モニターには第二制御装置の再認証処理が表示されていた。

【第二再認証:51%】

ヴェインは腕を組んだ。

「進みが遅すぎます」

ヘイルは眼鏡を直した。

「旧式のシステムは、君の予定など気にしないからな」

ヴェインは彼を見つめた。

「博士」

「司令官」

「私の忍耐を試さないでください」

ヘイルは画面に視線を戻した。

「ならば、基本的な工学原則を無視しろなどと要求しないことだ」

ヴェインが近づいた。

「制御装置には手動の調整が必要だと言いましたね」

「そうだ」

「なのに、二十分も診断記録を調べている」

「そのとおり」

「なぜです?」

ヘイルは彼女を見た。

「このシステムは三十一年前のもので、許可のない改造を受けており、現在は安全手順を邪魔なものとしか考えていない連中によって操作されているからだ」

警備員の一人が咳き込んだ。

ヴェインが彼を見た。

警備員は即座に姿勢を正した。

ヘイルは続けた。

「調整を急げば、制御装置が認証処理を完全に拒否する可能性がある」

ヴェインは目を細めた。

「本当ですか?」

ヘイルはかすかに微笑んだ。

「試してみたいかね?」

数秒間、二人は黙っていた。

やがてヴェインが一歩下がった。

「続けなさい」

ヘイルは端末に向き直った。

指がキーボードの上を動いた。

別の診断メニューを開いた。

【旧式認証保守】

【調整モード:有効】

【自動再認証:一時停止】

ヘイルは平静な表情を保った。

時間を稼げた。

長くはない。

だが、少しは。


午後八時三分。

三台の覆面パトカーが、施設からおよそ八百メートル離れた側道に停車した。

レイモンドは先頭車両から降りた。

防護装備を身につけ、小型の通信ヘッドセットを装着していた。

ワイルダーが彼に続いた。

数人の警官が二台目の車両の後部に集まった。

エリソン刑事は、さらに道路を下った場所にある移動指揮所に残り、作戦全体を指揮しながら工房との通信を維持していた。

レイモンドは双眼鏡で施設を調べた。

「警備の巡回状況は?」

警官が答えた。

「南側フェンス沿いに二人。東側外周を巡回する車両が一台です」

「民間人は?」

「屋外では確認されていません」

レイモンドはうなずいた。

「いいか。優先目標はヘイル博士の救出、証拠の保全、そして制御装置の隔離だ。必要がない限り交戦するな」

ワイルダーは装備を確認した。

「了解です」

レイモンドは彼を見た。

「準備はいいか?」

ワイルダーはうなずいた。

「もちろんです」

少し間が空いた。

「たぶん」

レイモンドはかすかに微笑んだ。

「それで十分だ」

イヤホンから雑音が聞こえた。

キランの声が響いた。

『レイモンド隊、こちら工房司令部』

レイモンドはため息をついた。

「工房司令部?」

『正式っぽいでしょ?』

「キラン」

『わかったよ。こちらキラン』

マッハが割って入った。

『偵察ドローンの発進準備が完了しました』

レイモンドは警官の横に置かれた小型ドローンを見た。

「発進させろ」

ドローンは静かに浮き上がった。

小さな回転翼で施設へ向かっていった。

間もなく、カメラ映像が工房のモニターに表示された。

ナサニエルは古い設備用導管へと誘導した。

「入口に接近中」

キランは映像を見た。

「気をつけて。すぐ先に支柱がある」

ドローンは狭い開口部をすり抜けた。

カメラが暗闇に包まれた。

やがて赤外線センサーが起動した。

長いコンクリートの通路が現れた。

床には埃が積もっていた。

壁沿いには古い配管が走っていた。

整備用のはしごが暗闇の中へ続いていた。

マッハが画像を解析した。

「導管内は、ドローンが通行できる状態を保っています」

ナサニエルはうなずいた。

「下の通路へ進むよ」

ドローンは下降した。

カメラが廊下を映した。

そして止まった。

キランが身を乗り出した。

「ちょっと待って」

ナサニエルは映像を停止した。

壁には小さな金属製の箱が取り付けられていた。

そこから数本のケーブルがコンクリートの内部へ伸びていた。

キランは眉をひそめた。

「ダニエルの図面にはなかったよね」

マッハが画像を拡大した。

「新しい警備センサーです」

ナサニエルはうなずいた。

「動体検知装置だ」

レイモンドの声が聞こえた。

『迂回できるか?』

マッハが答えた。

『ドローンは検知範囲の外を移動できます。しかし、人員がこの通路へ入れば反応する可能性が高いでしょう』

キランは地図を調べた。

「じゃあ、部隊はこのルートを使わない」

レイモンドはうなずいた。

「了解」

ナサニエルはドローンを進めた。

キランはかすかに微笑んだ。

「でも、役には立ったね」

マッハが答えた。

「そのとおりです。隊員を危険にさらす前に、設計図に記載されていない警備装置を発見できました」

キランは椅子にもたれた。

「ほらね? 遠隔指揮も悪くないでしょ」


午後八時十七分。

エイドリアン・ヴォスは私室に一人で座っていた。

安全な専用端末には施設の状況が表示されていた。

【第二再認証:51%】

【調整による一時停止:有効】

ヴォスは眉をひそめた。

「なぜ止まっている?」

彼は通信回線を開いた。

ヴェイン司令官が現れた。

『ヴォス氏』

「遅延の理由を説明してください」

ヴェインは身を硬くした。

『技術者が必要な調整を行っています』

ヴォスは別のモニターを見た。

「ヘイル博士ですか?」

『はい』

「協力的ですか?」

『しぶしぶですが』

ヴォスはため息をついた。

「司令官、あなたは彼の抵抗を無能さと勘違いしています」

ヴェインは目を細めた。

『どういう意味です?』

「彼はあなたを足止めしているのです」

ヴェインの表情が険しくなった。

『システムには調整が必要です』

「もちろんです」

ヴォスは身を乗り出した。

「しかし、彼が行っている手順は必要ありません」

ヴェインは端末を見た。

『なぜ、それがわかるのです?』

ヴォスの声が冷たくなった。

「その改造を承認したのは私だからです」

沈黙。

ヴェインは彼を見つめた。

初めて、本当に驚いた様子だった。

『あなたが?』

ヴォスは続けた。

「ヘイル博士は保守モードを利用して自動再認証を停止させています。端末から離れさせ、処理を再開してください」

ヴェインは歯を食いしばった。

『あなたがシステムの詳細を把握しているとは聞いていません』

「伝える必要があるとは思いませんでした」

『この作戦を指揮しているのは私です』

ヴォスはかすかに微笑んだ。

「本当に?」

通信が切れた。

ヴェインは動かなかった。

そして警備員たちのほうを向いた。

「技術者を連れてきなさい」


午後八時二十二分。

ヘイルが稼いだ時間は、そこで終わった。

扉が開いた。

二人の警備員が入ってきた。

「博士。端末から離れてください」

ヘイルは彼らを見た。

「調整の途中だ」

「今すぐです」

彼はため息をついた。

「間違ったことをしているぞ」

一人の警備員が腕をつかもうとした。

ヘイルは身を引いた。

「触るな」

警備員は手を止めた。

ヴェインが入ってきた。

その表情は、先ほどよりも冷たかった。

「私に嘘をついていましたね」

ヘイルは彼女を見た。

「何のことだ?」

「調整作業です」

ヘイルは端末をちらりと見た。

そして彼女に視線を戻した。

「ああ」

ヴェインが近づいた。

「再認証処理を停止させていた」

「不安定なシステムが危険な命令を完了するのを防いだんだ」

「私の作戦を妨害したのです」

ヘイルは首を振った。

「君の作戦は、罪のない人々への攻撃だ」

ヴェインは顔を近づけた。

「それで自分が英雄になったつもりですか?」

ヘイルは彼女をまっすぐ見た。

「いいや」

少し間を置いた。

「自分の仕事が本来何のためにあったのか、まだ覚えている技術者でいたいだけだ」

ヴェインは彼を見つめた。

そして警備員たちのほうを向いた。

「拘束室へ戻しなさい」

ヘイルが連れ去られると、モニターの表示が変わった。

【調整による一時停止:解除】

【第二再認証:再開】

【進行状況:52%】

ヘイルは目を閉じた。

できることはすべてやった。

あとは、誰かが来てくれることを願うしかなかった。


午後八時三十四分。

レイモンドの部隊は、施設の西側にある設備入口へ到達した。

警官たちは狭い整備通路を静かに進んだ。

古い配電盤が壁に並んでいた。

空気には埃と熱を帯びた機械、そして古い換気設備の臭いが混じっていた。

レイモンドが片手を上げた。

部隊が止まった。

次の交差点の上では、監視カメラが回転していた。

キランは偵察ドローンから送られてくる映像を見ていた。

「カメラは六秒ごとに向きを変えてる」

ナサニエルは動きを確認した。

「その先に整備用のくぼみがある」

レイモンドは通路を調べた。

「見つからずに通れるか?」

キランはためらった。

「全員が一度には無理だね」

マッハが答えた。

「カメラの旋回が終わるのを待ち、二人ずつ進むことを推奨します」

レイモンドはうなずいた。

「了解」

最初の二人が動いた。

続いて次の二人。

ワイルダーがそのあとに続いた。

レイモンドは最後に進んだ。

間もなく、全員が整備用のくぼみに到着した。

警報は鳴らなかった。

キランは微笑んだ。

「お見事」

ワイルダーがささやいた。

『今のは褒め言葉ですか?』

「慣れないでね」

レイモンドは次の廊下を確認した。

「進むぞ」


工房では、ギアがMACH-01Aから損傷した冷却マニホールドを取り外していた。

残っていた冷却液が少量、受け皿に滴り落ちた。

ギアは顔をしかめた。

「スナット」

キランが振り返った。

「いいスナット? 悪いスナット?」

「ものすごく悪いスナット」

「安心できないなあ」

ギアは損傷した部品を持ち上げた。

「熱保護システムが作動したときに、古いマニホールドが変形したんだ。交換せずに推進装置を再起動していたら、冷却回路全体が壊れていたかもしれない」

キランは目を見開いた。

「つまり、さっき再起動しようとしたのはよくなかったってこと?」

ギアは彼を見た。

「そう」

マッハが答えた。

「私は数時間前からそう申し上げています」

キランはため息をついた。

「みんな批判ばっかりだね」

ギアは部品を脇に置いた。

「交換部品は使えるはずだけど、試験を急ぐつもりはないよ」

キランはうなずいた。

「わかった」

ギアは驚いた顔をした。

「わかった?」

「うん」

「反論しないの?」

キランは微笑んだ。

「僕だって学習するんだよ」

マッハが答えた。

「喜ばしい進歩です」

キランはディスプレイを指さした。

「台無しにしないで」

ナサニエルが割って入った。

「みんな」

キランは振り返った。

「何?」

ナサニエルはネットワークの通信記録を拡大した。

「何か見つけた」

暗号化されたメッセージがいくつも表示された。

それらはエコー・ヴェイル施設と外部の管理用接続先の間で送受信されていた。

マッハがデータを調べた。

「幹部継続運用通信です」

ナサニエルはうなずいた。

「そのとおり」

キランは身を乗り出した。

「誰が送ってるかわかる?」

「直接はわからない。でも、ダニエルの記録には元のプロファイル識別子が残っている」

ナサニエルは検索命令を入力した。

コンピューターが古い記録と現在の通信ヘッダーを照合した。

一致するものが現れた。

【EV-EXEC-ROOT】

【プロファイル作成元:A・ヴォス】

【現在のセッション:有効】

キランは目を見開いた。

「ヴォス……」

マッハが答えた。

「現在のセッションは、エイドリアン・ヴォスが元々作成した幹部プロファイルを使用しています」

ナサニエルはうなずいた。

「これだけでは実際に誰がアカウントを操作しているかはわからないけど、有力な手がかりだ」

キランは画面を見た。

「エリソンに送れる?」

「もう送ってるよ」


午後八時四十六分。

エリソンは新たな証拠を受け取った。

ネットワークの通信記録を調べた。

そして、捜査を担当する検察官に連絡した。

「元のエコー・ヴェイルのプロファイルにつながる、現在進行中の幹部認証セッションを確認しました」

検察官の声が聞こえた。

『ヴォス本人が操作していると証明できますか?』

「まだです。ただ、彼がプロファイルを作成したことを示す過去の記録があり、現在のセッションは施設での活動を指示しています」

『証拠をすべて保全してください』

「すでに行っています」

『追加の令状を請求するだけの根拠はありますか?』

「それを判断していただきたいんです」

エリソンは現在の施設地図を見た。

彼女の部隊はすでに施設の内部にいた。

ヘイルはまだ人質にされていた。

そして制御装置は、次の危険な段階へ近づいていた。

エリソンは無線機を強く握った。

「時間がありません」


午後八時五十三分。

レイモンドは地下の拘束区画へ到達した。

廊下は薄暗かった。

奥には重い鋼鉄製の扉があった。

その近くの小さな警備所には、二人の警備員がいた。

レイモンドは部隊に停止を指示した。

周囲を確認した。

そしてヘッドセットに向かって小声で言った。

「工房、こちらレイモンド。拘束区画に到着した」

キランは姿勢を正した。

「了解。ヘイル博士を目視できる?」

『まだだ』

ナサニエルは建物の古い警備図面を開いた。

「博士の拘束室は、補強された扉の向こうにあるはずだ」

レイモンドはうなずいた。

「了解」

ワイルダーは警備員たちを見た。

「どうやって突破します?」

レイモンドは考えた。

そして廊下へ踏み出した。

「警察だ! 両手を見える位置に上げろ!」

警備員たちが振り向いた。

一人が武器へ手を伸ばした。

「動くな!」

レイモンドの声が廊下に響いた。

「両手を上げろ!」

警備員は動きを止めた。

もう一人もゆっくりと両手を上げた。

数秒後、警官たちが前進し、二人を拘束した。

ワイルダーは補強された扉に近づいた。

「いやあ」

レイモンドは彼を見た。

「何だ?」

「驚くほど順調でしたね」

レイモンドはため息をついた。

「言うな」

ワイルダーは微笑んだ。

「そうでした。すみません」


拘束室の中で、ヘイルは叫び声を聞いた。

続いて足音。

そして、誰かが錠前を操作する音が聞こえた。

彼は扉を見た。

「誰だ?」

声が返ってきた。

『ヘイル博士ですか?』

ヘイルは背筋を伸ばした。

「そうだが?」

『シトロンシティ警察です。救出に来ました』

一瞬、ヘイルは動かなかった。

それから笑った。

疲れ切った、信じられないというような笑いだった。

「やっと来たか」

扉が開いた。

レイモンドが入ってきた。

ヘイルは目を見開いた。

「レイモンド・ハリソン?」

レイモンドはかすかに微笑んだ。

「久しぶりだな、マーカス」

ヘイルは首を振った。

「引退したんじゃなかったのか?」

「何度もそうしようとしてるんだがな」

ワイルダーが後ろから入ってきた。

「博士、怪我はありませんか?」

「大したことはない」

「歩けますか?」

「ああ」

レイモンドはうなずいた。

「よし。ここから出るぞ」

ヘイルの表情が変わった。

「待ってくれ」

レイモンドは止まった。

「何だ?」

「制御装置だ」

「知っている」

「いや、わかっていない」

ヘイルは扉へ向かった。

「ヴェインだけが操作しているわけじゃない」

レイモンドはうなずいた。

「幹部権限の証拠は見つけた」

ヘイルは目を見開いた。

「なら、ヴォスのことも知っているんだな」

レイモンドの表情が険しくなった。

「そこに近づいている」

ヘイルは首を振った。

「一つ理解してほしいことがある」

声を落とした。

「ヴォスには、もうヴェインは必要ないんだ」


午後九時四分。

ヴェインは中央指令室に入った。

第二制御装置の処理は進み続けていた。

【第二再認証:58%】

彼女は画面を見つめた。

見慣れない警告が点滅した。

【幹部権限による上書き】

【現地指揮権限:制限】

ヴェインは眉をひそめた。

「何?」

認証情報を入力した。

【アクセス拒否】

もう一度試した。

【アクセス拒否】

技術者が近づいた。

「司令官?」

ヴェインは振り向いた。

「説明しなさい」

技術者は端末を調べた。

表情が変わった。

「指揮権限が取り消されています」

ヴェインは目を見開いた。

「誰に?」

技術者は唾を飲み込んだ。

「幹部権限です」

ヴェインは拳を握りしめた。

「ヴォス……」

新たなメッセージが現れた。

【ヴェイン司令官へ】

【主要認証業務において、あなたの協力は今後必要ありません】

【追って指示があるまで施設の警備を維持してください】

ヴェインはメッセージを二度読んだ。

そしてコンソールに拳を叩きつけた。

「あの傲慢な……!」

技術者は一歩下がった。

ヴェインは監視モニターに向き直った。

複数のカメラ映像が施設内の廊下を映していた。

すると、一つの画面が切り替わった。

拘束室の扉が開いていた。

二人の警備員が床に拘束されていた。

そして数人の警官が、ヘイル博士を連れて廊下を進んでいた。

ヴェインは目を見開いた。

「ありえない……」

彼女は身を乗り出した。

画面にレイモンド・ハリソンが現れた。

ヴェインの表情が歪んだ。

「やはり、あなたたちですか」

彼女は無線機をつかんだ。

「全警備部隊! 地下拘束区画に侵入者! 直ちに迎撃しなさい!」

無線機から雑音が響いた。

そして、機械音声が答えた。

【現地警備指揮権限は停止されています】

ヴェインは凍りついた。

「何ですって?」

【幹部警備プロトコル有効】

【施設封鎖準備中】

彼女は画面を見つめた。

「やめなさい……」


工房では、ナサニエルのモニターが警告で埋め尽くされた。

【幹部警備プロトコル】

【施設全域封鎖:開始】

【外部認証元:EV-EXEC-ROOT】

キランが身を乗り出した。

「何が起きてるの?」

ナサニエルは入力を始めた。

「誰かが施設の警備システムを起動してる」

マッハのアバターがちらついた。

「電子制御されたすべての出入口が封鎖状態へ移行しています」

キランはヘッドセットをつかんだ。

「レイモンド!」

雑音。

そしてレイモンドが応答した。

『どうした!』

「そこから出て! 今すぐ!」

レイモンドは廊下を見た。

『何があった?』

「幹部権限による封鎖だ! 扉が閉まる!」

レイモンドは部隊に向き直った。

「走れ!」

警官たちは廊下を急いだ。

ヘイルはその間を進んだ。

ワイルダーが最後尾についた。

警報サイレンが鳴り始めた。

ウウウウウウウウ!

頭上で赤いランプが点滅した。

【施設警備警報】

【封鎖実行中】

【全職員は指定区域に待機してください】

レイモンドは最初の警備扉に到達した。

扉が下降し始めた。

「行け!」

二人の警官が下を滑り抜けた。

ヘイルが続いた。

レイモンドも前へ飛び出した。

ワイルダーはまだ後ろにいた。

扉がさらに下がった。

「早くしろ!」とレイモンドが叫んだ。

ワイルダーが飛び込んだ。

ガシャアアン!

重い鋼鉄の障壁が床に叩きつけられた。

レイモンドは振り返った。

「ワイルダー!」

無線機から雑音が響いた。

そして――

『ここです!』

レイモンドは息を吐いた。

扉の向こう側からワイルダーの声が聞こえた。

『残念ながら、扉の反対側にいます』

レイモンドは目を閉じた。

「まったく……」


キランは警備地図の色が変わっていくのを見ていた。

次々と廊下が赤くなった。

扉が閉じた。

エレベーターが停止した。

整備用の出入口がロックされた。

そして、緊急隔離室へ行く道も閉ざされた。

ナサニエルはモニターを見つめた。

「これは普通の封鎖じゃない」

キランは眉をひそめた。

「どういうこと?」

「幹部権限が、施設内の接続された警備システムすべてを制御してるんだ」

マッハが答えた。

「この封鎖は、第二制御装置への許可のないアクセスを防ぐために設計されています」

キランは図面を見た。

「上書きできる?」

ナサニエルは首を振った。

「遠隔では無理だ。命令は、僕たちが取り消そうとしているのと同じ幹部プロファイルによって認証されてる」

キランは歯を食いしばった。

「なら、別の道を探さなきゃ」

マッハは古い図面を解析した。

「電子制御されていないアクセス機構を検索します」

ナサニエルは別のファイルを開いた。

「ダニエルの図面に何かあるかもしれない」

キランは地図を見つめた。

「頼むよ……」


シトロン・アカデミーでは、セリーナがインタビューを終えていた。

その映像はすでにインターネット上で広まり始めていた。

コメントが次々と届いた。

彼女を称賛する人もいた。

批判する人もいた。

障害のある市民に対する保護の強化を求める声もあった。

一方で、中央集権的な登録制度が必要だというヴォスの主張を繰り返す人々もいた。

セリーナは反応を読み進めた。

マーガレットが近づいた。

「どう?」

セリーナはため息をついた。

「どうやら私は、英雄か公共の安全を脅かす存在かのどちらからしいわ」

マーガレットは微笑んだ。

「おめでとう。正式に政治の世界へ足を踏み入れたわね」

マイケイラがタブレットを持って近づいた。

「これを見て」

彼女はセリーナにニュース記事を見せた。

【速報:警察、過去のエコー・ヴェイル認証記録を捜査】

【エイドリアン・ヴォス氏、幹部アクセスプロファイル疑惑へのコメントを拒否】

セリーナは目を見開いた。

「待って」

マイケイラはうなずいた。

「誰かが、彼とシステムを結びつけ始めてる」

マーガレットが身を乗り出した。

「あらまあ」

セリーナはテレビを見た。

ヴォスは午後の間ずっと、人々を守るには政府によるさらなる管理が必要だと訴えていた。

そして今、捜査当局は、個人の操作権を上書きできるシステムの開発に彼が関わっていたことを示す証拠を調べていた。

セリーナの表情が険しくなった。

「いいわ」

彼女はマイケイラを見た。

「確認された情報を広め続けて」

マイケイラはうなずいた。

「もうやってる」


午後九時十七分。

ヘイル博士は地下の設備通路で壁にもたれて座っていた。

レイモンドと三人の警官が、彼と一緒に閉じ込められていた。

ワイルダーと残りの警官たちは、補強された警備扉によって分断されていた。

通路の非常灯が、すべてを鈍い赤色に染めていた。

レイモンドは扉の操作盤を調べた。

反応なし。

彼は無線機を試した。

「エリソン、こちらハリソン」

雑音。

そして――

『どうぞ』

「ヘイル博士は確保した。だが施設が封鎖され、部隊が分断された」

エリソンの声が緊張した。

『負傷者は?』

「いない」

『隔離室へ到達できる?』

「ここからは無理だ」

ヘイルはレイモンドを見た。

「何の隔離室だ?」

レイモンドは振り向いた。

「地下第三階層の緊急切断装置だ」

ヘイルは目を見開いた。

「ダニエルの装置か?」

レイモンドはうなずいた。

ヘイルは床を見た。

「なら、彼の記録を見つけたんだな」

レイモンドはかすかに微笑んだ。

「ああ」

ヘイルは目を閉じた。

「よかった」

レイモンドは彼の横にしゃがんだ。

「マーカス、下へ行く別の道が必要だ」

ヘイルは考えた。

そして天井を見た。

「一つあるかもしれない」

レイモンドは身を乗り出した。

「何だ?」

「建設当初の整備用通路だ」

レイモンドは眉をひそめた。

「どこにある?」

ヘイルは通路の端にある細いパネルを指さした。

「あの壁の向こうだ」

レイモンドは調べた。

「封鎖された設備用シャフトじゃないか」

「完全には封鎖されていない」

ヘイルはかすかに微笑んだ。

「ダニエルが、手動で通れる経路を残すよう強く要求したんだ」

レイモンドは目を見開いた。

「いかにもあいつらしい」

ヘイルはうなずいた。

「誰もが締め出されるようなシステムを、彼は決して信用しなかった」


午後九時二十三分。

キランは新たな位置情報を受け取った。

ナサニエルは元の技術図面を開いた。

封鎖された壁の向こうに、狭い整備用シャフトが現れた。

そこは補助電源階へと下りていた。

そこからさらに、古い機械式の設備通路が地下第三階層へ続いていた。

キランは身を乗り出した。

「これだ」

マッハが答えた。

「この経路は電子警備ネットワークに接続されていません」

ナサニエルはうなずいた。

「でも問題がある」

キランはため息をついた。

「やっぱりね」

ナサニエルはシャフトを拡大した。

「出入口のハッチは、反対側から手動で固定されてる」

レイモンドの声が聞こえた。

『開けられるか?』

ナサニエルが答える前に、ヘイルが口を開いた。

「開けられる」

全員が一瞬黙った。

ヘイルは続けた。

「ただし、緊急解除工具が必要だ」

キランは眉をひそめた。

「どこにあるの?」

ヘイルはためらった。

「整備事務室だ」

レイモンドは閉ざされた警備扉を見た。

「その部屋は反対側にある」

沈黙。

するとワイルダーの声が聞こえた。

『今、整備事務室って言いました?』

レイモンドは無線機を見た。

「ワイルダー?」

『はい』

「どこにいる?」

少し間が空いた。

『「整備事務室」と書かれた扉の前に立っています』

キランは微笑んだ。

「ああ、いい展開になってきた」


ワイルダーは二人の警官と一緒に整備事務室へ入った。

室内には古い工具や予備部品、埃をかぶった機材棚が並んでいた。

彼は棚を調べた。

「さて、何を探せばいいんです?」

ヘイルの声が聞こえた。

『手動の緊急解除工具だ。長い鋼鉄製の柄、長方形の差し込み口、黄色い識別帯がある』

ワイルダーは部屋を見回した。

「長い鋼鉄製の柄……」

戸棚を開いた。

「長方形の差し込み口……」

いくつかの工具を脇へ動かした。

「黄色い識別帯……」

そして動きを止めた。

「ありました!」

キランはにやりと笑った。

「素晴らしい!」

ワイルダーは工具を持ち上げた。

「それで、次は?」

ヘイルが機構を説明した。

ワイルダーは注意深く聞いた。

そして眉をひそめた。

「つまり、整備用の開口部を開けて、解除機構に手を伸ばして、この工具を操作するんですね?」

『そのとおり』

ワイルダーはうなずいた。

「何とかなりそうですね」

レイモンドはため息をついた。

「ワイルダー」

『はい。今の発言は撤回します』


午後九時三十一分。

ヴェインは中央指令室に立っていた。

施設の自動封鎖によって、彼女の部下の一部まで立入制限区域に閉じ込められていた。

指揮権限は取り消されたままだった。

そして、第二制御装置の再認証は進み続けていた。

【第二再認証:63%】

彼女は画面を見つめた。

新たなメッセージが現れた。

【幹部権限指令】

【不要不急の人員は現在位置で待機】

【制御装置の認証を現地警備より優先】

ヴェインは拳を握りしめた。

「私たちを見捨てるつもりね」

隣の技術者は何も言わなかった。

ヴェインは振り向いた。

「ヴォスへの通信回線を開きなさい」

「司令官、あなたの認証情報では……」

「やりなさい!」

技術者はためらった。

そして回線を起動した。

数秒が過ぎた。

ヴォスが現れた。

『司令官』

ヴェインは彼をにらんだ。

「私の権限を取り消しましたね」

『そのとおりです』

「施設を封鎖した」

『正確には、あの施設は継続運用管理部門の所有物です』

「私の部下まで閉じ込めたんですよ!」

ヴォスは眼鏡を直した。

『必要な予防措置です』

ヴェインは彼を見つめた。

「私たちを利用したのですね」

ヴォスはかすかに微笑んだ。

『司令官、私は特定の目的を達成するために、あなたの能力を雇ったのです』

ヴェインの表情が歪んだ。

「そして今は?」

『今後も役に立つことをお勧めします』

通信が切れた。

ヴェインは動かなかった。

数秒間、制御装置の低い駆動音だけが響いていた。

そして彼女はゆっくりと技術者に向き直った。

「現地指揮権限を復旧できる?」

技術者は唾を飲み込んだ。

「幹部プロファイルが有効な間は無理です」

ヴェインはモニターを見た。

【第二再認証:64%】

彼女は静かに言った。

「なら、別の方法を探しなさい」


ギアの工房で、キランは施設の地図を見ていた。

救出部隊はヘイルを発見した。

ワイルダーは緊急解除工具を手に入れた。

整備用シャフトを使えば、制御装置へ向かえるかもしれない。

しかし、一分が過ぎるごとに、第二再認証は完了へ近づいていた。

ナサニエルはシステムを調べた。

「キラン」

「うん?」

「何かおかしい」

キランは彼を見た。

「今度は何?」

ナサニエルは認証状況を強調表示した。

「進行速度が上がってる」

マッハが確認した。

「幹部権限によって再認証処理が加速されています」

キランは目を見開いた。

「どれくらい?」

ナサニエルは推定値を確認した。

「速すぎる」

新たな警告が現れた。

【第二再認証:65%】

【高速認証モード:有効】

【現地警備上書き:無効】

キランの表情が険しくなった。

「レイモンド、そっちはどう?」

雑音が響いた。

そしてレイモンドが答えた。

『ヘイル博士は見つけた。だが、出口が全部封鎖された』

キランは身を乗り出した。

「上書きできる?」

マッハが答えた。

「できません。封鎖は外部から制御されています」

キランは画面を見つめた。

「じゃあ、誰が制御してるの?」

新たな識別情報が現れた。

【幹部権限:A・ヴォス】

数秒間、誰も何も言わなかった。

やがてキランはゆっくりとマッハを見た。

「なるほど」

マッハの紫色のアイコンがちらついた。

「はい?」

キランは笑みを浮かべた。

しかし、その笑顔に楽しげな様子はなかった。

「どうやら、本当の黒幕を見つけたみたいだね」

施設の地図が赤く点滅した。

地下深くでは、制御装置が次の命令を準備し続けていた。

そしてシトロンシティのどこかで、エイドリアン・ヴォスが数字の上昇を見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。