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車輪が止まった日

最初の車椅子が停止したのは、正午十二時ちょうどだった。

それは、シトロンシティ中心部の交通量の多い交差点で起きた。

エミリー・カーターという若い女性が道路を横断していたとき、彼女のヴェント車椅子が突然、鋭い電子音を鳴らした。

ピピッ! ピピッ! ピピッ!

エミリーは視線を落とした。

操作画面にメッセージが表示されていた。

【システム認証が更新されました】

【市営安全管理オーバーライド――有効】

【利用者による操作――停止】

エミリーは眉をひそめた。

「え?」

彼女はジョイスティックを前に倒した。

何も起こらなかった。

もう一度試した。

やはり動かなかった。

歩行者用信号が点滅し始めた。

15

14

13

エミリーの心臓が激しく鼓動し始めた。

「嘘、嘘、嘘……」

彼女は緊急操作ボタンを押した。

【アクセス拒否】

車椅子は微動だにしなかった。

交差点の両側では車が待っていた。

一台の車がクラクションを鳴らした。

エミリーは顔を上げた。

「助けて!」

歩行者用信号のカウントダウンは続いていた。

8

7

6

歩道にいた男性が彼女に気づいた。

男性はすぐに交差点へ駆け込んだ。

「どうしました!?」

「車椅子が動かないんです!」

男性は後部の押し手をつかんだ。

「押してもいいですか!?」

「はい! お願いします!」

男性は押そうとした。

しかし、車輪が抵抗した。

車椅子の電子ブレーキが作動していた。

「動いてくれ!」

信号が変わった。

トラックが動き始めた。

運転手が二人に気づいた。

キィィィィィッ!

トラックはわずか数フィート手前で停止した。

男性は両手を上げた。

「止まれ!」

エミリーは目の前の巨大な車両を見つめた。

呼吸が浅くなった。

運転手が車から降りてきた。

「何があった!?」

「この人の車椅子がロックされたんだ!」

運転手はエミリーを見た。

「けがはありませんか?」

彼女は首を振った。

「ありません……」

声が震えた。

「ただ、動けないんです」


シトロンシティの各地で、同じような事件が発生し始めていた。

食料品店では、一人の男性がヴェント車椅子の操作不能によって、二つの商品棚の間に取り残された。

リハビリテーションセンターでは、対応する三台の移動機器が同時に利用者からの操作を拒否した。

集合住宅の外では、十代の少年の車椅子に見覚えのない認証画面が表示された。

バスターミナルでは、アクセシブルな乗車スロープへ向かっていた女性の車椅子が突然停止した。

すべての機器が影響を受けたわけではなかった。

正常に動作し続けるものもあった。

移動機能を失うことなく、不正なメンテナンス通知だけが表示されるものもあった。

しかし、純化協定の悪意ある命令を受け入れてしまった脆弱な機器では、操作機能のロックが始まっていた。

しかも、これまでの攻撃とは違い、いつ復旧するのかを示すカウントダウンは存在しなかった。

何千もの画面に、同じメッセージが表示された。

【最終パージ・プロトコル】

【中央認証――有効】

【ローカル操作――制限中】

【次の指示を待機中】


シトロン・アカデミーで、マイケイラ・マッキントッシュは教室の反対側から聞こえた叫び声に振り向いた。

「私の車椅子が!」

セリーナ・チョウが車椅子の操作パネルを凝視していた。

画面が赤く染まっていた。

【市営オーバーライド――有効】

【ローカル操作――無効】

セリーナはジョイスティックを動かした。

何も起こらなかった。

補助操作装置も試した。

やはり反応しなかった。

「マイケイラ!」

マイケイラは急いで駆け寄った。

「どうしたの!?」

「ロックされたの!」

マーガレット・ホロウェイが車椅子で近づいてきた。

「私のはまだ動いてるわ」

セリーナは彼女を見た。

「私のは動かない!」

マイケイラはセリーナの車椅子の横にしゃがんだ。

「わかった。これ以上、何も承認しないで。機器サポートチームを呼ぶから」

「何も承認してない!」

「わかってる」

セリーナは反応しない操作画面を見つめた。

「それなのに、勝手にやられたのよ」

マイケイラの胸に怒りが込み上げてきた。

彼女はボランティアたちを見た。

「みなさん、聞いてください!」

教室が静かになった。

「この建物内でも、ヴェントシステムが不正に制御されたことを確認しました。緊急連絡先の全員に連絡して、誰が移動できなくなっているか確認してください」

一人のボランティアが手を挙げた。

「外にいる人たちはどうしますか?」

マイケイラは街の地図を見た。

「車道、階段の近く、スロープの上など、けがをする危険がある場所に取り残されている人を優先してください」

マーガレットは腕を組んだ。

「それから、本人に確認もせずに車椅子から引きずり出すようなことは、絶対にさせないでちょうだい」

マイケイラはうなずいた。

「そのとおりです。どんな助けが必要か、必ず本人に尋ねてください。可能な限り、その人の指示に従ってください」

セリーナは反応しない操作装置を見下ろした。

「本当に嫌になる」

マイケイラが振り向いた。

「わかるよ」

「違うの」

セリーナの声が強くなった。

「本当に、心の底から嫌なの」

彼女は赤い画面を見た。

「これは単に車椅子を壊してるんじゃない。私が動いていいかどうかを、他人が勝手に決めてるのよ」

マーガレットの表情が険しくなった。

「だからこそ、あいつらを勝たせるわけにはいかないのよ」


市営通信施設の内部で、キラン・キリアンは巨大なディスプレイを凝視していた。

【最終パージ・プロトコル――稼働中】

【市営ネットワーク通信――確立】

【機器応答データ――受信中】

「マッハ!」

AIの相棒の紫色のアバターが現れた。

「通信を解析しています」

キランは破壊された扉のほうを見た。

コバルトが立ち上がろうとしていた。

レイモンド・ハリソンは彼に銃口を向けたままだった。

ワイルダー巡査が反対側から近づいた。

「動くな!」

コバルトは笑った。

「もう止められんぞ」

キランは彼に振り向いた。

「その台詞、よっぽど気に入ってるんだね」

「パージは始まった」

「うん。見ればわかるよ」

キランはバイザーを見た。

「マッハ、何かできるって言ってよ」

「ブルックス博士が通信を遮断できる可能性のある箇所を特定しました」

通信回線にナサニエルの声が入った。

『キラン! よく聞いて!』

「聞いてる!」

『認証は完了してる。でも、システムが命令を届けて、その効力を維持するには、市営ネットワークからの通信がまだ必要なんだ!』

キランは中央ディスプレイを見た。

「じゃあ、その通信を切ればいい」

『そう。でも、市営ネットワーク全体を止めちゃダメだ!』

「どうして?」

『あの設備は正規の緊急通信にも使われてる。間違った機器を停止させたら、事態がもっと悪化するかもしれない!』

キランは眉をひそめた。

「わかった。それで、具体的には何を止めればいいの?」

ナサニエルはためらった。

『今、それを調べてるところなんだ』

キランは目を閉じた。

「やっぱりね」

マッハが新たな警告を表示した。

【熱的余裕――14%】

【シールドシステム――停止】

【飛行システム――使用不可】

【推進出力――制限中】

キランはため息をついた。

「しかも、こっちはもう限界寸前だし」

マッハが答えた。

「動力源の説明としては不正確ですが、現在の状況を表す比喩としては適切です」

「ありがとう」

「どういたしまして」


突然、コバルトが飛びかかった。

ドガッ!

装甲の前腕がレイモンドの胸を打った。

レイモンドは後方へよろめいた。

「ぐあっ!」

ワイルダーが拘束用ランチャーを発射した。

シュパッ!

ケーブルがコバルトの腕に巻きついた。

コバルトがそれを引っ張った。

ワイルダーは危うく足を滑らせそうになった。

キランが加速した。

「おい!」

MACH-01Aがコバルトの脚に激突した。

ガキン!

指揮官がよろめいた。

キランはプラズマ砲を構えた。

マッハが即座に警告した。

「武器出力は二十パーセント以下に抑えてください!」

「了解!」

彼は発砲した。

ピュン!

プラズマ弾がコバルトの損傷した肩に命中した。

火花が飛び散った。

コバルトが吠えた。

「貴様!」

キランは微笑んだ。

「僕だよ!」

コバルトが拳を振った。

キランは後退した。

拳は数センチの差で外れた。

ドォォン!

コバルトの拳が壁にめり込んだ。

キランは鋭く旋回した。

MACH-01Aが指揮官の無防備な側面へ回り込んだ。

「レイモンド!」

レイモンドは体勢を立て直した。

「任せろ!」

彼は二本目の拘束ケーブルを発射した。

ケーブルがコバルトの両脚に巻きついた。

ワイルダーは最初のケーブルを構造物の支柱へ固定した。

レイモンドは二本目を頑丈な保守設備に固定した。

コバルトがもがいた。

ケーブルが締まった。

ギギギギッ!

しばらく、指揮官は立ったままだった。

そのとき、キランがMACH-01Aの補強された前部ガードで、コバルトの膝裏の関節を打った。

バキッ!

コバルトが倒れた。

ドォォン!

床が揺れた。

ワイルダーはすぐに近づいた。

「動くな!」

コバルトは立ち上がろうとした。

レイモンドは指揮官の損傷した肩関節に銃口を向けた。

「やってみろ」

コバルトは動きを止めた。

ワイルダーは追加の機械式拘束具を作動させた。

ガチャッ!

ガチャッ!

ガチャッ!

指揮官が怒鳴った。

「放せ!」

キランは息を吐いた。

「悪いね。君のくだらない話の定期購読は解約したんだ」

マッハが答えた。

「珍しく状況に適した冗談でした」

キランは微笑んだ。

「ありがとう」

そのとき、バイザーが点滅した。

【熱的余裕――11%】

笑顔が消えた。

「あ……」

マッハの声が真剣になった。

「キラン、これ以上の戦闘機動は強くお勧めできません」

キランは中央廊下を見た。

「じゃあ、もう戦わなくて済むことを祈ろう」


警察の指揮所では、アダムが街全体の被害状況を示す地図を見ていた。

赤い印が次々と増えていった。

一つ。

五つ。

二十。

五十。

毎秒のように、新たな印が現れた。

「パトロール……」

AIのセンサーが明滅した。

「移動機器の停止に関する確認済みの報告を受信しています」

アダムは唾を飲み込んだ。

「何件?」

「現在の報告は不完全です。件数は急速に増加しています」

アダムは地図を見た。

「命令を取り消せないの?」

「この場所からは不可能です」

「どうして?」

「影響を受けた機器は、侵害された市営認証システムを通じて命令を受け入れています。遠隔から送った復旧命令が正しく認証され、安全に実行されるとは限りません」

アダムは眉をひそめた。

「じゃあ、どうすればいいの?」

パトロールはネットワーク図を拡大した。

「悪意ある命令を送信している特定の通信経路を見つけ、隔離します」

アダムは身を乗り出した。

「ほかの通信は止めずにね」

「そのとおりです」

彼は東部中継装置を見た。

「そっちの警察部隊は?」

パトロールは無線を起動した。

「チャーリーチーム、現在位置を報告してください」

雑音混じりの声が返ってきた。

『東部中継装置の制御室へ接近中』

パトロールは少し間を置いた。

「主幹ネットワーク回線を切断しないでください。追加指示を待ってください」

アダムは彼を見た。

「どうして?」

「パージは、市営インフラに組み込まれた旧式の認証通信経路を利用しています」

アダムは眉をひそめた。

「それだけ切り離せる?」

「可能性はあります」

パトロールは図面上の細い接続部分を強調表示した。

「しかし、クリーン・スレートの当初の設計に関する追加情報が必要です」

アダムは画面を見た。

「そんなもの、どこで手に入れるの?」

新たな声が通信回線に入った。

ナサニエル・ブルックスだった。

『設計に関わった人なら、知ってるかもしれない』


ギアの工房では、ナサニエルが数十年前の技術資料を調べていた。

メインモニターには、スキャンされた設計図が表示されていた。

ギアが隣に立っていた。

「何か見つかった?」

ナサニエルは首を振った。

「クリーン・スレートの元の資料は、ほとんど残ってない」

「破棄されたの?」

「一部はね。残りは市の記録保管庫のどこかに埋もれてるんだと思う」

マッハのアバターが別の画面に現れた。

「マーカス・ヘイル博士なら、関連情報を知っている可能性があります」

ナサニエルはため息をついた。

「博士は人質なんだ」

ギアは腕を組んだ。

「ダニエル・リヴァースは?」

ナサニエルはタイピングを止めた。

「え?」

「レイモンドが言ってたよね。リヴァースはクリーン・スレートについて警告してたって」

ナサニエルは画面を見つめた。

そして再び検索を始めた。

「待って……」

一つの文書が現れた。

【プロジェクト・クリーン・スレート】

【緊急安全装置に関する審査】

【審査担当者:D・リヴァース】

【状態:配備不承認】

ナサニエルは身を乗り出した。

「何か見つけた」

ギアが近づいた。

「何?」

ナサニエルは文書を開いた。

大部分のページは欠けていた。

いくつもの項目が黒塗りにされていた。

しかし、一つの段落だけは完全に残っていた。

ナサニエルは声に出して読んだ。

「中央認証は、独立して検証可能な緊急安全装置なしに、利用者による直接操作に優先してはならない」

ギアは眉をひそめた。

「リヴァースらしいね」

ナサニエルは続けた。

「不正な命令が伝播した場合、侵害された権限を取り消すための、物理的に独立した手段をシステムに備えなければならない」

マッハが文章を処理した。

「緊急オーバーライドです」

ナサニエルはうなずいた。

「そのとおり」

ギアは画面を見た。

「どこにあるの?」

ナサニエルはスクロールした。

図面が現れた。

そこには、市営制御装置と旧式の予備認証サーバーが接続されていた。

その間には、次の名称の装置があった。

【リヴァース安全装置】

【二地点認証取消システム】

ギアの目が見開かれた。

「スナット!」

ナサニエルは画面を凝視した。

「二つの操作が必要なんだ」

マッハが答えた。

「一つは市営制御装置での物理的な隔離操作」

ナサニエルはうなずいた。

「もう一つは、元の予備認証サーバーから入力する認証取消命令だ」

ギアは微笑んだ。

「両方の場所に警察部隊がいる!」

ナサニエルは通信回線を起動した。

「エリソン! レイモンド! 見つけたよ!」


地下深くで、マーカス・ヘイル博士は司令室に響く低い機械音を聞いていた。

手首が痛んだ。

顔がずきずきした。

しかし、頭は働いていた。

ヴェインは部屋の向こうで、パージの進行状況を確認していた。

一人の士官が彼女に近づいた。

「司令官、市営ネットワークから確認が届いています」

ヴェインは微笑んだ。

「どれくらいです?」

「数千台の対応システムが応答しています。一部は命令を拒否していますが、認証は広がっています」

「続けなさい」

士官はためらった。

「まだ正常に動いている機器もあります」

ヴェインが振り向いた。

「ならば、次の送信サイクルで対処します」

ヘイルは目を閉じた。

神よ、どうか……。

彼は椅子の隣にあるコンソールを見た。

壁には小さな診断端末が取り付けられていた。

画面にはネットワークの稼働状況が表示されていた。

彼はその画面を知っていた。

新しいからではない。

古いからだった。

非常に古い。

クリーン・スレートの初期型監視システムだった。

ヘイルはゆっくりと画面へ身を寄せた。

警備員たちはヴェインのほうを見ていた。

彼は表示を調べた。

【認証経路――確認済み】

【命令送信――稼働中】

【旧式認証取消経路――利用可能】

ヘイルの心臓が跳ねた。

認証取消……?

彼はさらによく見た。

画面の隅に小さなアイコンがあった。

【リヴァース安全装置】

ヘイルは目を見開いた。

「ダニエル……」

彼は昔の口論を思い出した。

何年も前。

会議室。

積み重ねられた技術提案書。

そして、テーブルの先頭に立ち、激怒していたダニエル・リヴァース。

「人間から操作権を奪うシステムを作っておいて、それを保護と呼ぶつもりか!」

ヘイルは、緊急インフラには中央からの管理権限が必要だと主張した。

しかし、リヴァースは譲らなかった。

「だったら、その権限を利用者自身が取り戻せるようにしろ!」

記憶が薄れていった。

ヘイルは画面を見た。

この頑固者め。

かすかな笑みが浮かんだ。

本当に組み込ませたのか。

彼は警備員たちをちらりと見た。

それから端末を見た。

右手は拘束されていたが、先ほどもがいたときに左手首のベルトが少し緩んでいた。

彼は指を動かした。

ゆっくりと。

慎重に。

ベルトがずれた。

ヘイルは唾を飲み込んだ。

もう一度引っ張った。

手首に鋭い痛みが走った。

しかし、手が抜けた。

彼は動きを止めた。

誰も気づかなかった。

しばらく待った。

そして、診断端末へ手を伸ばした。


市営通信施設で、レイモンドはナサニエルの説明を聞いていた。

「リヴァースが安全装置を作ったのか?」

ナサニエルが答えた。

『正確には違う。彼が導入を要求して、最終的に誰かが旧式システムへ組み込んだんだ』

レイモンドは画面を見つめた。

「いかにもダニエルらしい」

キランは彼を見た。

「ずいぶん親しかったんだね?」

レイモンドはうなずいた。

「ああ。誰よりもよく知っていた」

彼の表情が暗くなった。

「あいつは、誰かが人々の人生をそこまで支配できるという考えを心底嫌っていた」

ナサニエルは続けた。

『安全装置には二つの操作地点がある。一つは君たちのいる場所。もう一つはエリソンの部隊が発見した予備サーバーだ』

ワイルダーは廊下を見た。

「それで、何を探せばいいんです?」

マッハが建物の内部地図を表示した。

「物理的に独立した認証接続装置です」

キランは眉をひそめた。

「普通の言葉でお願い」

ナサニエルはため息をついた。

『市のネットワーク全体を止めずに、パージの権限だけを切り離せる装置だよ』

キランは微笑んだ。

「ほら、そのほうがずっとわかりやすい」

レイモンドは地図を調べた。

「どこにある?」

マッハが主制御室の下にある区画を強調表示した。

「現在位置から約三十メートル下です」

ワイルダーは壊れたエレベーターを見た。

「素晴らしいですね」

キランも視線を向けた。

エレベーターの扉は曲がっていた。

操作盤は破壊されていた。

そして、見える範囲では非常階段しか残っていなかった。

キランは目を見開いた。

「ほかにも道があるって言ってよ」

マッハが建物を走査した。

「保守用の搬送シャフトを検出しました」

キランは顔を上げた。

「車椅子でも使える?」

「可能性はあります。大型機械を運ぶための作業用プラットフォームがあります」

キランは微笑んだ。

「やっといい知らせだね」

マッハは少し間を置いた。

「ただし、昇降装置は現在停止しています」

キランはため息をついた。

「そして、いい知らせは消えた」

レイモンドはワイルダーを見た。

「電源を復旧できるか?」

ワイルダーは近くの操作盤を調べた。

「たぶん」

キランは熱警告をちらりと見た。

【熱的余裕――10%】

彼は唾を飲み込んだ。

「マッハ?」

「はい?」

「あとどれくらいでオーバーヒートする?」

「あなたの行動によります」

「僕が行儀よくしてると仮定して」

「想定しにくい状況です」

キランは目を見開いた。

「ひどいな」

マッハは続けた。

「現在の地上走行負荷であれば、限られた時間は熱的余裕を維持できる見込みです。ただし、これ以上の高出力機動は完全停止を引き起こす可能性があります」

キランは作業用プラットフォームを見た。

「だったら、ゆっくり行こう」


シトロン・アカデミーでは、緊急対策本部が大勢の声で満ちていた。

電話は鳴り続けていた。

ボランティアたちは机の間を行き来していた。

報告は処理できる速度を上回って届いていた。

マイケイラは街の地図の前に立っていた。

「交差点の件はどうなりました?」

ボランティアが顔を上げた。

「女性の安全は確保されました。警察が交通を止めていて、資格のある移動機器技術者が向かっています」

「よかった。バスターミナルは?」

「救急隊員が二人を支援しています。一台はロックされたままですが、もう一台はまだ動いています」

「リハビリテーションセンターは?」

「職員が緊急対応手順に従って、一台ずつ状態を確認しています」

マイケイラはうなずいた。

「引き続き、すべて記録してください」

マーガレットが近づいた。

「セリーナがあなたと話したいそうよ」

マイケイラは振り向いた。

セリーナは車椅子に座ったままだった。

操作画面はまだ赤かった。

しかし、その表情は決意に満ちていた。

「マイケイラ」

「何?」

「緊急放送に私を出して」

マイケイラは眉をひそめた。

「本当にいいの?」

セリーナはうなずいた。

「みんな怖がってる。実際に被害を受けている人の声を聞いてほしいの」

マーガレットは微笑んだ。

「さすがね」

マイケイラは少しためらった。

そしてうなずいた。

「わかった」

ボランティアがマイクを接続した。

セリーナはカメラを見た。

隣では赤い認証警告が光っていた。

彼女は息を吸った。

「こんにちは。私はセリーナ・チョウです」

少し間を置いた。

「今日、車椅子を遠隔操作で停止させられた一人です」

教室が静かになった。

セリーナは続けた。

「どれほど怖いことか、私にはわかります。操作装置を動かしても反応せず、自分が動いていいかどうかを誰かが勝手に決めていると気づく。その恐ろしさを、私は知っています」

彼女はまっすぐカメラを見た。

「でも、これを見ているみなさんに、一つだけ理解してほしいことがあります」

声が強くなった。

「これは障害者が何かに失敗した結果ではありません。私たちに対する攻撃です」

マーガレットはうなずいた。

セリーナは続けた。

「機器が影響を受けた場合は、慣れない修理を試したり、不審な更新を承認したりしないでください。資格のある支援担当者へ連絡し、救急隊員には必要な介助を伝え、自分の意思が尊重されるようにしてください」

彼女は少し間を置いた。

「そして、この事件を起こした人たちへ……」

目を細めた。

「私たちの生き方を、あなたたちに決める権利なんてありません」


地下司令室で、ヘイルの指が診断端末に触れた。

画面が反応した。

【旧式メンテナンスアクセス】

【認証情報を入力してください】

ヘイルは眉をひそめた。

最終キーは持っていなかった。

しかし、別のものを覚えていた。

メンテナンス用の認証情報。

システムの初期試験で使われていた、古い技術者用アクセスコードだった。

彼は入力した。

【アクセス拒否】

ヘイルは目を閉じた。

「頼む……」

二つ目の認証情報を試した。

【アクセス拒否】

近くで警備員が身じろぎした。

ヘイルは凍りついた。

警備員が彼をちらりと見た。

「何か問題か?」

ヘイルは首を振った。

「いや」

警備員は再び部屋のほうへ注意を戻した。

ヘイルは息を吐いた。

そのとき、思い出した。

元の試験環境では、別の認証手順が使われていた。

彼個人の認証情報ではない。

緊急技術者用のプロファイルだった。

彼はその手順を入力した。

【アクセス許可――診断モード限定】

ヘイルは思わず笑いそうになった。

「ダニエル、この見事な厄介者め……」

彼は旧式の認証取消メニューを開いた。

【リヴァース安全装置】

【状態――利用可能】

【遠隔認証取消――無効】

【二地点での確認が必要】

ヘイルは画面を見つめた。

自分一人では安全装置を起動できなかった。

しかし、診断警告を送ることはできた。

彼は緊急通知回線を選択した。

メッセージ入力欄が現れた。

震える指で、できる限り素早く文字を入力した。

【リヴァース安全装置は現在も有効】

【市営制御装置で物理的隔離が必要】

【予備サーバーで第二認証が必要】

【緊急ネットワーク主幹回線を切断するな】

彼は送信ボタンを押した。

【メッセージ送信完了】

ヘイルは息を吐いた。

そのとき、背後から声がした。

「何をしているのです?」

全身の血が凍るようだった。

ヴェインが数フィート先に立っていた。


ギアの工房で、ナサニエルは予期しないメッセージを受信した。

【旧式システム技術警告】

【送信元――不明】

彼はそれを開いた。

目が見開かれた。

「ギア!」

ギアが振り向いた。

「何!?」

ナサニエルはメッセージを表示した。

「パージのネットワーク内部から、誰かが手順を送ってきたんだ」

マッハが送信元を解析した。

「通信は地下の指揮ノードから発信されています」

ナサニエルは目を見開いた。

「ヘイル博士がそこにいるんだ!」

ギアが身を乗り出した。

「追跡できる?」

マッハは少し間を置いた。

「メッセージは複数の経路を通過しています。位置を絞り込むことはできますが、正確な部屋までは特定できません」

ナサニエルは警察の通信回線を起動した。

「エリソン! ヘイル博士の居場所がわかったかもしれない!」


ヴェインは診断端末へ近づいた。

ヘイルは手を引っ込めた。

しかし、遅すぎた。

彼女は画面を見た。

表情が険しくなった。

「旧式システムにアクセスしたのですね」

ヘイルは何も言わなかった。

ヴェインは警備員を見た。

「どうして彼の手が自由になっているのです?」

警備員は凍りついた。

「司令官、それは――」

「黙りなさい」

彼女はヘイルへ向き直った。

「何を送信しました?」

彼は彼女を見つめた。

「あんたの役には立たないものだ」

ヴェインは顔を近づけた。

「重大な過ちを犯しましたね」

ヘイルは唾を飲み込んだ。

「そうかもしれん」

彼女は拳銃を抜いた。

警備員たちが身構えた。

ヴェインは銃口を彼の胸に向けた。

「何を送信したのか、言いなさい」

ヘイルはまっすぐ彼女を見た。

「断る」

ヴェインは目を細めた。

「機械のために死ぬつもりですか?」

ヘイルは首を振った。

「機械のためじゃない」

彼は、影響を受けた機器の数が増え続ける画面を見た。

「あんたが機械の中に閉じ込めた人々のためだ」

ヴェインの指が引き金に力を込めた。


市営制御装置で、キランとレイモンドは保守用シャフトに到着した。

作業用プラットフォームは巨大だった。

産業用機械を運べるほどの大きさがあった。

そして幸いにも、MACH-01Aを載せるには十分だった。

残念ながら、動いていなかった。

ワイルダーは操作盤を開いた。

「電源が切られています」

レイモンドは彼を見た。

「復旧できるか?」

「たぶん」

キランはプラットフォームを見つめた。

「今日はみんな、『たぶん』が口癖になってるね」

マッハが機構を走査した。

「モーターは正常です。現場の電源隔離スイッチが作動しています」

ワイルダーは操作盤を見た。

「見つけた」

彼はスイッチを戻した。

ガコン!

プラットフォームが揺れた。

そして照明が点灯した。

キランは微笑んだ。

「よし!」

プラットフォームが下降し始めた。

ゆっくりと。

非常にゆっくりと。

キランは深度表示を見た。

「どれくらい下?」

マッハが答えた。

「三十二メートルです」

キランはため息をついた。

「この速さなら、歩いたほうが早そうだね」

レイモンドが彼を見た。

キランは瞬きをした。

「……まあ、君たちならね」

ワイルダーが笑った。

レイモンドは首を振った。

「集中しろ」

キランは微笑んだ。

「してるよ」

プラットフォームは下降を続けた。

そのとき、警告が点滅した。

【不正なプラットフォーム制御要求】

マッハの声が鋭くなった。

「外部からの干渉を検出!」

プラットフォームが停止した。

キランは顔を上げた。

「もう、冗談でしょ……」

シャフトに機械のきしむ音が響いた。

ギギギギギッ!

プラットフォームが再び下降し始めた。

今度は速かった。

ワイルダーが手すりをつかんだ。

「これはまずい!」

マッハが叫んだ。

「制動装置が解除されました!」

キランは下のシャフトを見た。

暗闇。

コンクリート。

そして、長い落下距離。

「マッハ!」

「緊急制御を試みています!」

【アクセス拒否】

プラットフォームが加速した。

レイモンドは身構えた。

「何とかしろ!」

キランは保守用の操作装置を見た。

そして、プラットフォームの脇に設置された機械式非常ブレーキを見た。

「ワイルダー!」

「何だ!?」

「ブレーキ!」

ワイルダーが振り向いた。

保護カバーの奥に、太い赤いレバーがあった。

彼は手を伸ばした。

プラットフォームが揺れた。

ガァン!

ワイルダーは手を滑らせた。

キランはプラットフォーム上を加速した。

マッハが警告した。

「熱的余裕、九パーセント!」

「今はそれどころじゃない!」

彼はMACH-01Aをブレーキ装置の下に移動させた。

車椅子の機械式マニピュレーターが伸びた。

キランは保護カバーをつかんだ。

バキッ!

カバーが外れた。

彼はレバーをつかんだ。

「動いてよ!」

機構が抵抗した。

プラットフォームは落下し続けた。

【警告――速度超過】

キランは歯を食いしばった。

「マッハ、機械式アームの力を最大にして!」

「利用可能な駆動出力を再配分します!」

マニピュレーターが引っ張った。

ギギギギギッ!

レバーが動いた。

ガコン!

非常ブレーキが作動した。

キィィィィィッ!

プラットフォームが激しく揺れた。

レイモンドとワイルダーは手すりにしがみついた。

キランの身体を固定するベルトが強く締まった。

プラットフォームが停止した。

沈黙。

やがてキランは息を吐いた。

「ふう……」

彼は深度表示を見た。

最下部まで、あと四メートルもなかった。

「今のは気分が悪かったね」

マッハが答えた。

「控えめな表現です」

レイモンドはキランを見た。

「大丈夫か?」

キランはうなずいた。

「うん」

そのとき、バイザーが点滅した。

【熱的余裕――7%】

マッハの声が重くなった。

「キラン、稼働限界に近づいています」

キランは扉を見た。

「だったら、終わらせよう」


予備認証サーバーでは、ブラボーチームがナサニエルの指示を受けていた。

警察官たちは旧式コンソールを囲んでいた。

パトロールが遠隔から案内していた。

「市営制御装置で物理的隔離が確認されるまで、命令を入力しないでください」

部隊長はうなずいた。

「了解」

アダムはカメラ映像を見ていた。

「どうして順番が大事なの?」

パトロールが答えた。

「この安全装置は、予備サーバーが認証情報を取り消す前に、侵害された認証経路を物理的に切り離す必要があります」

アダムは眉をひそめた。

「逆にやったら?」

「悪意あるシステムが、すぐに認証を再発行する可能性があります」

ナサニエルが通信に加わった。

『そのとおり。支配権を更新できないようにしないといけないんだ』

ギアはモニターを見た。

「もうロックされてる車椅子はどうなるの?」

ナサニエルはためらった。

『悪意ある権限を取り消せば、そこから新しい有効な命令が送られるのは防げるはず。でも、すべての機器が自動的に復旧するとは限らない』

ギアの表情が暗くなった。

「じゃあ、動けないままの人もいるんだね」

『そうだよ』

マッハが答えた。

「機器ごとの復旧手順が必要になる場合があります」

アダムは地図を見た。

「だったら、まず攻撃を止めなきゃ」

パトロールのセンサーが明るくなった。

「同感です」


シトロン・アカデミーでは、マイケイラがセリーナの放送が緊急ネットワーク全体へ広がっていくのを見ていた。

メッセージが届き始めた。

人々が現在地を共有していた。

近隣住民が支援を申し出ていた。

資格を持つ技術者たちが救急サービスと連携していた。

そして正午以来初めて、未対応の緊急電話の件数が減り始めた。

マーガレットがマイケイラに近づいた。

「よくやってるわね」

マイケイラは首を振った。

「何とか追いついてるだけです」

「それでも、追いついてるじゃない」

マイケイラはセリーナを見た。

彼女の車椅子はまだロックされていた。

しかし、電話で別の被害者と話していた。

マイケイラはため息をついた。

「私がこれを直せたらいいのに」

マーガレットは彼女を見た。

「街中の車椅子を全部直すなんて、あなた一人には無理よ」

「わかってます」

「でも、誰かが攻撃を止める方法を見つけるまで、人々が見捨てられないようにすることはできるわ」

マイケイラは地図を見た。

そしてうなずいた。

「そうですね」

スマートフォンが振動した。

キランからのメッセージだった。

【キラン:通信を止める方法を見つけた。今、取りかかってる】

彼女はかすかに微笑んだ。

そして入力した。

【マイケイラ:お願いだから気をつけて】

返事が届いた。

【キラン:ものすごく慎重にやってるよ】

彼女は画面を見つめた。

すると、もう一つメッセージが届いた。

【キラン:だいたいは】

マイケイラは目を閉じた。

「このお馬鹿……」

しかし、彼女は笑っていた。


地下深くで、ヴェインはヘイルに銃口を向け続けていた。

「最後の機会です」

ヘイルは彼女を見た。

「地獄へ落ちろ」

ヴェインの表情が冷たくなった。

彼女は銃を持ち上げた。

そのとき、司令室のメインスクリーンが点滅した。

【警告】

【旧式認証取消要求を検出】

ヴェインが振り向いた。

「何ですって?」

一人の士官がコンソールへ駆け寄った。

「司令官! 何者かがリヴァース安全装置にアクセスしました!」

ヴェインは銃をわずかに下げた。

「あり得ません」

士官は首を振った。

「市営制御装置と予備サーバーの両方が、認証取消プロトコルに応答しています!」

ヴェインはヘイルを見た。

彼はかすかに微笑んだ。

「ダニエルは昔から頑固だった」

ヴェインの顔が怒りでゆがんだ。

「止めなさい!」

士官はタイピングを始めた。

「上書きを試みています!」

コンソールが命令を拒否した。

【物理的隔離が必要】

ヴェインは画面を凝視した。

そして理解した。

「接続装置を狙っているのね」

彼女は無線を起動した。

「残存する全部隊へ。市営制御装置に集結しなさい!」

ヘイルの笑みが消えた。

ヴェインは彼を見た。

「そして、あなたは……」

彼女は拳銃をホルスターに戻した。

「私と一緒に来てもらいます」


キラン、レイモンド、ワイルダーは下層制御室へ入った。

部屋は巨大だった。

太いケーブルが天井を走っていた。

産業用の制御盤が壁沿いに何列も並んでいた。

中央には、警告灯に囲まれた円筒形の構造物が立っていた。

マッハが走査した。

「旧式認証接続装置を確認しました」

キランはその構造物を見た。

「これ?」

ナサニエルが答えた。

『それだよ』

レイモンドが操作盤へ近づいた。

「どうやって隔離する?」

マッハが図面を表示した。

「二つの機械式ロックを解除し、その後に主隔離レバーを操作する必要があります」

ワイルダーは装置を調べた。

「簡単そうですね」

キランは微笑んだ。

「それ、絶対に言っちゃダメ」

ワイルダーはため息をついた。

「そうでした。すみません」

レイモンドは最初のロックへ移動した。

ワイルダーは二つ目へ向かった。

キランは主隔離レバーの横に位置を取った。

ナサニエルの声が通信回線に入った。

『よく聞いて。二つのロックは同時に解除しなきゃいけない』

レイモンドはうなずいた。

「準備完了」

ワイルダーはハンドルを握った。

「準備完了」

キランは中央ディスプレイを見た。

【最終パージ通信――稼働中】

【ネットワーク到達率――対応が想定される機器の81%】

【ローカル操作制限――伝播中】

彼は唾を飲み込んだ。

「マッハ?」

「はい?」

「合図して」

マッハがカウントダウンを始めた。

「三」

レイモンドは握る手に力を込めた。

「二」

ワイルダーは身構えた。

「一」

二人は引いた。

ガコン!

ガコン!

中央の隔離レバーのロックが外れた。

キランはMACH-01Aのマニピュレーターでレバーへ手を伸ばした。

そのとき、部屋の照明が赤く染まった。

【セキュリティ・オーバーライド作動】

【物理的隔離――阻止】

キランは目を見開いた。

「もう、いい加減にしてよ!」

マッハが機構を分析した。

「電子式インターロックが作動しています」

ナサニエルが叫んだ。

『ヴェインに気づかれたんだ!』

キランはレバーを見た。

「無理やり解除できる?」

マッハは少し間を置いた。

「機械式隔離レバーには物理的に接触できます」

キランは微笑んだ。

「よし」

「しかし、強制的に動かすには、かなりの駆動出力が必要です」

キランは熱表示をちらりと見た。

【熱的余裕――6%】

彼はレイモンドを見た。

レイモンドは首を振った。

「おい、小僧……」

キランはかすかに微笑んだ。

「わかってる」

マッハが静かに話した。

「キラン、現在の熱的限界を超えると、駆動システムに永久的な損傷が生じる可能性があります」

キランはレバーを見つめた。

それから街の地図を見た。

何千もの人々。

何千もの人生。

自分の移動を自分で決める権利を、誰かが取り戻してくれるのを待っている人々。

彼は息を吸った。

「マッハ」

「はい?」

「あと、どれくらい力を出せる?」

マッハは少し間を置いた。

「制御された高負荷の機械操作を一度だけ行う余力があります。ただし、その直後に該当システムを停止させる必要があります」

キランは微笑んだ。

「だったら、その一回を無駄にしないようにしよう」

彼はマニピュレーターを伸ばした。

金属の指がレバーをつかんだ。

「レイモンド、ワイルダー、離れて」

二人は後ろへ下がった。

キランは握る力を強めた。

「マッハ……」

「準備完了」

「引け!」

駆動装置がうなりを上げた。

ギギギギギッ!

警告灯が点滅した。

【熱的余裕――5%】

レバーがわずかに動いた。

キランは歯を食いしばった。

「動けぇぇっ!」

【熱的余裕――4%】

マッハが出力を再配分した。

マニピュレーターがさらに強く引いた。

バキィィィッ!

電子式インターロックが破損した。

レバーが勢いよく下がった。

ガシャァァン!

部屋全体が揺れた。

中央ディスプレイが点滅した。

【物理的隔離――確認】

【旧式認証経路――切断】

キランは息を吐いた。

「やった!」

そのとき、バイザーが真っ赤になった。

【重大な熱警告】

【駆動装置停止】

【推進機能制限】

MACH-01Aが震えた。

マニピュレーターが力なく垂れ下がった。

車椅子は車輪で支えられたままだったが、動力による移動はほとんどできなくなっていた。

マッハのアバターが明滅した。

「キラン……」

彼は唾を飲み込んだ。

「何?」

「緊急熱限界に達しました」

キランは画面を見た。

「成功した?」

マッハは少し間を置いた。

「物理的隔離は完了しました」

キランは微笑んだ。

「だったら、それで十分だよ」


予備サーバーで、パトロールが確認信号を受信した。

「物理的隔離を確認!」

アダムは身を乗り出した。

「やって!」

部隊長が認証取消命令を入力した。

【リヴァース安全装置】

【二地点認証――確認済み】

【侵害された市営認証権限を取り消しますか?】

警察官はパトロールを見た。

「実行していいか?」

パトロールが答えた。

「実行してください」

警察官はキーを押した。

【実行】

画面が点滅した。

【認証権限を取消中】

【悪意ある命令通信経路を切断中】

【偽造された認証情報を無効化中】

ギアの工房で、ナサニエルは通信グラフが急激に下降するのを見ていた。

「頼む……」

ギアが隣に立っていた。

「お願い……」

信号が弱まった。

東部中継装置は、侵害された認証情報の検証を停止した。

予備サーバーは、偽造された承認を拒否した。

悪意ある認証通信経路が停止し始めた。

【最終パージ通信――遮断】

ナサニエルは椅子から飛び上がった。

「やった!」

ギアは両手を突き上げた。

「スナット! 成功した!」

通信回線からマッハの声が聞こえた。

「主たる悪意ある通信の遮断を確認しました」

警察の指揮所では、アダムが歓声を上げた。

パトロールのセンサーが明るくなった。

「確認しました」

シトロン・アカデミーでは、マイケイラの緊急表示が変化した。

【新たな不正命令――検出されず】

彼女は画面を見つめた。

「待って……」

セリーナが顔を上げた。

「何?」

マイケイラは通知を確認した。

「通信が止まった」

マーガレットが身を乗り出した。

「じゃあ、車椅子は動くようになったの?」

マイケイラはセリーナを見た。

セリーナはジョイスティックを動かした。

何も起こらなかった。

彼女はため息をついた。

「私のは、まだダメ」

マイケイラはゆっくりとうなずいた。

「だったら、引き続きみんなを助けよう」


市営制御装置では、キランがMACH-01Aの中で動かずに座っていた。

レイモンドが近づいた。

「キラン?」

「大丈夫だよ」

マッハのアイコンが明滅した。

「キランのバイタルサインは安定しています。ただし、移動機能と戦闘機能の一部が使用できません」

ワイルダーは損傷したマニピュレーターを見た。

「ここから出られそうですか?」

キランはかすかに微笑んだ。

「ちょっと手伝ってもらわないとね」

レイモンドはうなずいた。

「なら、助けを呼ぼう」

キランは中央ディスプレイを見た。

【最終パージ通信――遮断】

彼は息を吐いた。

「少なくとも、止められたね」

マッハは少し間を置いた。

「キラン……」

その声に、キランは顔を上げた。

「何?」

「追加の通信を検出しました」

キランは眉をひそめた。

「どこから?」

マッハが信号を分析した。

「市営制御装置からではありません」

通信回線にナサニエルの声が入った。

『待って。こっちにも見えてる』

ギアは画面を見た。

「何なの?」

ナサニエルはネットワーク地図を拡大した。

新たな信号が現れた。

シトロンシティの市域から、はるか遠く離れた場所だった。

それは、見覚えのない認証ノードに接続されていた。

【第二制御ネットワーク】

【所在地――不明】

【旧式認証権限――有効】

ナサニエルは画面を凝視した。

「そんな……」

キランは胃の奥が冷たくなるのを感じた。

「お願いだから、僕が考えてるようなことじゃないって言って」

マッハのアバターが明滅した。

「主たるパージ通信は遮断されました」

二つ目の警告が現れた。

【第二パージ制御装置――オンライン】

【再認証処理――開始】

マッハは続けた。

「しかし、別の制御装置が独立したネットワークを通じて、侵害された認証権限を復旧しようとしています」

キランは画面を凝視した。

レイモンドは拳を握りしめた。

ワイルダーはゆっくりと無線機を下ろした。

ギアの工房で、ナサニエルは遠方から発信される信号を見つめた。

そして、誰も聞きたくなかった言葉をつぶやいた。

「あいつら……もう一台持ってるんだ」

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