空が落ちた日
バヂヂヂヂッ!
電磁弾が立体駐車場を切り裂き、コンクリートの支柱に直撃した。凄まじい衝撃によって砕けたセメント片と鉄筋の破片が、床一面に飛び散る。
レイモンド・ハリソンは、駐車してあったSUVの陰へ飛び込んだ。
大きなコンクリート片がフロントガラスを直撃する。
バキィッ!
ガラスが粉々に砕けた。
「まったく! 修理代は誰かの保険で払ってもらうぞ!」
レイモンドは車体に背中を押しつけ、銃の残弾を確認した。
四発。
たったの四発だ。
駐車場の向こうでは、重装甲の兵士がゆっくりと前進していた。補強されたブーツがコンクリートを踏みしめるたび、鈍い音が響く。
これまでレイモンドが遭遇した通常のヌリファイアーとは異なり、この兵士の装備は、一般市民の制圧などよりもはるかに危険な任務を想定しているように見えた。
厚い装甲が胴体と肩を覆い、腕の関節部分には大型の機械式補助装置が取り付けられている。背中には小型の機械ユニットが固定され、低い駆動音を絶えず発していた。
右腕のガントレットでは、青白い光が不規則に点滅している。
レイモンドは以前にも電磁兵器を見たことがあった。
軍に所属していた頃には、実験型の装備を使用した経験さえある。
しかし、これは違った。
攻撃を放つたびに、兵器が自動的に調整されているようだった。
照準を修正し、出力を調節し、何かに備えている。
装甲兵はSUVから数メートルのところで立ち止まった。
「レイモンド・ハリソン」
レイモンドはうんざりしたように目を回した。
「ああ、はいはい。俺の名前を知ってるんだな。おめでとう」
「お前の調査はここで終わりだ」
「面白いな。さっきの三人も同じことを言ってたぞ」
装甲兵が腕を上げた。
レイモンドは即座に身をかがめた。
バヂィィィッ!
収束した電磁パルスがSUVに命中する。
ダッシュボードのランプが一斉に点滅し、警報装置がけたたましく鳴り響いた。
次の瞬間、車両全体の電源が落ちた。
レイモンドは暗くなった計器盤をちらりと見た。
「なるほど。そいつは初めて見るな」
彼はリアバンパーの陰から身を乗り出し、二発撃った。
バン! バン!
銃弾が装甲兵の胸部に命中した。
火花が散る。
しかし、兵士はほとんど動かなかった。
レイモンドは眉をひそめた。
「だろうな」
装甲兵は歩みを進めた。
「書類を渡せ」
レイモンドはジャケットの内側に手を入れ、折りたたまれた紙の感触を確かめた。
保管記録。
セクション12。
リヴァース。
純化協定が何を隠そうとしているにせよ、これほどの部隊を送り込んでくるほど重要なものらしい。
レイモンドは奥歯を噛みしめた。
「欲しけりゃ取りに来い」
彼は残り二発を、装甲兵の露出した膝関節へ向けて撃った。
バン! バン!
一発が補強された関節に命中し、もう一発はコンクリートに跳ね返った。
装甲兵がわずかによろめく。
レイモンドは即座に動いた。
SUVの陰から飛び出すと、近くにあった作業用カートに肩から体当たりし、兵士へ向かって押し出した。
ガシャァン!
カートが装甲兵の脚に衝突した。
しかし、相手の動きはほとんど鈍らなかった。
レイモンドは階段へ向かって走った。
そのとき、柱の陰からヌリファイアーが現れた。
「止まれ!」
レイモンドは止まらなかった。
相手のライフルをつかんで銃口をそらし、そのままヘルメットに肘を叩き込んだ。
ゴッ!
ヌリファイアーがよろめく。
レイモンドはさらに一撃を加えた。
兵士が床に崩れ落ちる。
彼はライフルを奪い取った。
「ありがとよ」
振り向くと、装甲兵はすでに近づいていた。
レイモンドが奪った銃を構えた、そのときだった。
「おーい!」
聞き覚えのある声が駐車場に響いた。
全員が顔を上げた。
最上階の開放された壁面の向こうに、紫色の光が現れた。
流線形の装甲車椅子がゆっくりと降下してくる。
双発スラスターがコンクリートの壁を照らした。
夜空を背景に浮かび上がったのは、紛れもないMACH-01Aのシルエットだった。
レイモンドは笑みを浮かべた。
「やっと来たか」
キラン・キリアンは、バイザー越しに眼下の光景を見下ろした。
意識を失ったヌリファイアーが三人。
遮蔽物の陰へ後退する兵士が二人。
コンクリートの柱のそばで、奪ったライフルを構えるレイモンド。
そして、そのレイモンドへ向かって進む巨大な装甲兵が一人。
「マッハ、まさかコバルトの仲間じゃないよね?」
ヘルメットの中でマッハの声が響いた。
「否定します。装甲の構造が、既知のコバルトの装備とは大きく異なります」
「よかった」
キランは少し考えた。
「……待って。それって、いいことなの?」
「新型装備の性能によります」
装甲兵が顔を上げた。
ヘルメットがMACH-01Aへ向けられる。
数秒間、相手は微動だにしなかった。
すると、細い赤色の光線がキランの車椅子をなぞった。
マッハが即座に反応した。
「能動走査を検出しました」
キランは眉をひそめた。
「何を調べてるの?」
「主に、私たちの推進システムです」
「妙に具体的だね」
装甲兵の背中に取り付けられた機械装置が、より大きな駆動音を発し始めた。
マッハの声が鋭くなった。
「キラン、距離を取ることを推奨します」
キランはプラズマ砲を構えた。
「まずはレイモンドを助けよう」
彼は発砲した。
ピュン! ピュン!
二発の紫色のプラズマ弾が、レイモンドと装甲兵の間にあるコンクリートへ命中した。
ドゴォォン!
粉塵が噴き上がる。
装甲兵が後退した。
キランはレイモンドのそばへ降下した。
「乗ってく?」
レイモンドは顔を上げた。
「遅いぞ」
「どういたしまして!」
「俺一人で何とかなってた」
キランは破壊された車両を見回した。
「そうみたいだね」
マッハも加わった。
「ハリソンさん、生命反応から相当な身体的負荷が確認されています」
レイモンドは眉をひそめた。
「またその愛想のいい声が聞けて嬉しいぜ、マッハ」
「こちらこそ」
キランは微笑んだ。
「ほら、みんな楽しそう」
そのとき、粉塵の中から装甲兵が姿を現した。
兵士の武器が光った。
レイモンドの表情が変わる。
「坊主、避けろ!」
キランは車椅子を横へ加速させた。
バヂヂッ!
青白い放電が、直前までMACH-01Aが浮かんでいた空間を貫いた。
電磁弾は駐車場の壁に命中した。
キランは振り返った。
「うん。間違いなく友好的じゃないね」
マッハが警告を表示した。
【未知の兵器システム】
【照準解析進行中】
【推進機関の信号を捕捉】
キランの笑みが消えた。
「マッハ?」
「何かがおかしいです」
数キロ離れたギアの工房では、ギアが新しい推進システムの診断結果を調べていた。
交換した配電装置は予想以上に良好な性能を示していた。
完璧ではない。
しかし、十分に改善されている。
今夜こそ、まともに眠れるかもしれない。
ギアがそう考え始めたときだった。
緊急モニターが点滅した。
【MACH-01A――最優先警報】
ギアはレンチを落とした。
「スナット!」
通信回線を開く。
「キラン!」
雑音が走った。
やがてキランが答えた。
『ギア! ちょっと忙しい!』
「何があったの?」
『レイモンドが襲われたんだ! それで、装甲を着た冷蔵庫みたいな奴がいる!』
ギアは画面を見つめた。
「装甲を着た何だって?」
マッハが割って入った。
『ギア、敵が私たちの推進装置に対して詳細な走査を行っています』
ギアの表情が即座に変わった。
「どんな走査?」
『高精度の電磁プロファイリングです』
ギアは工房のメインモニターへ向き直った。
「遠隔測定データを送って!」
画面に大量の数値が現れた。
電圧の変動。
電力分配の状態。
温度の測定値。
そして、特定の電磁周波数の配列。
ギアは数値を調べた。
その瞬間、血の気が引いた。
「……まずい」
キランの声が聞こえた。
『ギア?』
「キラン、そいつから離れて!」
『今やってる!』
「違う! 今すぐ!」
ギアはデータの一部を拡大した。
周波数の配列は無作為なものではなかった。
MACH-01Aの推進システムにある、特定の電力接続部と一致していたのだ。
旧型の設計。
ギアが最近改修したものの、完全には交換していなかった部分。
工房が包囲された際に、古い設計図を盗まれた部分だった。
ギアの顔が青ざめた。
「奴ら、操縦装置を妨害しようとしてるんじゃない!」
マッハが即座に応じた。
『私も同じ結論に達しました』
ギアは机の縁を握りしめた。
「配電装置そのものを狙ってるんだ!」
立体駐車場の中で、キランは支柱を回り込むように急旋回した。
装甲兵の照準が追ってくる。
赤い光線がMACH-01Aの動きをなぞった。
キランは再びプラズマ弾を発射した。
ピュン!
装甲兵が左腕を上げた。
小型のシールドが展開される。
ドォォン!
プラズマ弾がシールドに命中し、霧散した。
キランは眉をひそめた。
「本気で?」
マッハの警告システムが作動した。
【推進用電力接続部――外部照準を検出】
キランは表示を見た。
「どういう意味?」
「敵が、私たちの推進機構に存在する脆弱な部品を特定したということです」
「防げる?」
「該当する回路を隔離しています」
装甲兵がシールドを下げた。
背中の機械装置が展開する。
二本の細長い放射器が、肩の上へせり上がった。
その間に青白いエネルギーが集まり始める。
キランは目を見開いた。
「……嫌な予感しかしない」
マッハの声が鋭くなった。
「キラン。直ちに回避してください」
キランは操縦装置を前へ押した。
MACH-01Aが加速する。
しかし、装甲兵は車椅子そのものを狙わなかった。
その進路の少し先にある空間へ発射したのだ。
バヂィィィィィッ!
収束した電磁パルスが、キランの飛行経路を覆った。
一瞬、駐車場全体が白く輝いた。
MACH-01Aが激しく震える。
振動が車椅子全体を伝わり、キランの身体にまで響いた。
次の瞬間、バイザーに表示されていた警告灯がすべて赤色へ変わった。
【重大な配電異常】
【左舷推進回路――故障】
【右舷推進回路――過負荷】
【主推力出力――急速低下】
キランの目が見開かれた。
「マッハ!」
「損傷した回路を隔離しています!」
後部スラスターが不規則に噴射した。
紫色の噴射光が弱々しく点滅する。
キランは上昇を試みた。
何も起こらなかった。
「マッハ! 高度が落ちてる!」
「把握しています!」
車椅子が落下し始めた。
レイモンドは、MACH-01Aが突然空中で傾くのを見た。
片方のスラスターが消えた。
続いて、もう片方も。
駐車場を照らしていた紫色の光が消失した。
一瞬、キランの車椅子は空中に静止しているように見えた。
そして、重力がその機体を引きずり下ろした。
「キラン!」
レイモンドは中央の吹き抜けへ向かって走った。
頭上では、MACH-01Aが落下し始めていた。
キランのバイザーは警告表示で埋め尽くされた。
【高度低下】
【緊急姿勢制御が必要】
【主推進装置――停止】
彼は操縦装置を引いた。
「頼む!」
車椅子が横向きに回転した。
損傷した姿勢制御スラスターが一瞬だけ噴射する。
シュウッ!
しかし、すぐに停止した。
マッハが早口で告げた。
「予備電力を緊急姿勢制御へ振り分けています!」
キランは下を見た。
三階分の高さ。
コンクリート。
駐車中の車両。
安全に着地できる場所などない。
「磁気グラップラー!」
「展開します!」
MACH-01Aの側面から二本の機械式アームが伸びた。
ガキン!
一本目のグラップラーが鉄骨の梁に命中した。
磁気クランプが作動する。
ケーブルが張り詰めた。
一瞬、車椅子の落下速度が鈍った。
キランは息をのんだ。
「つかまえた!」
しかし、グラップラーの機構が負荷に耐えきれず、悲鳴のような金属音を上げた。
ギギギッ!
マッハが新たな警告を発した。
「構造破損が迫っています!」
支持機構が引きちぎられた。
MACH-01Aが再び落下する。
キランの胃がひっくり返るような感覚に襲われた。
「マッハ!」
「私はここにいます!」
警報が鳴り響く中でも、マッハの声は明瞭だった。
「緊急衝撃保護を起動します!」
装甲板が車椅子の周囲で移動した。
残存する姿勢制御装置が一斉に噴射する。
防護フィールドが不安定に点滅しながら展開された。
キランは身構えた。
ドガァァァァン!
MACH-01Aがコンクリートへ激突した。
衝撃音が立体駐車場全体に響き渡る。
粉塵が爆発するように広がった。
砕けた舗装の破片が床を跳ね回る。
車椅子は数メートル滑り、コンクリートの防護壁に衝突した。
そして、すべてが止まった。
数秒間、キランには甲高い耳鳴りしか聞こえなかった。
バイザーは暗くなっていた。
胸が痛い。
肩も痛む。
身体の下では、損傷したモーターが何度も小さな音を立てていた。
彼は車椅子を動かそうとした。
反応はない。
「マッハ?」
返事がなかった。
キランは唾を飲み込んだ。
「マッハ?」
雑音が走る。
呼吸が速くなった。
「マッハ、お願いだから……」
バイザーの中に、小さな紫色の光が現れた。
そして、聞き慣れた声が響いた。
「キラン」
キランは目を閉じた。
「ああ、よかった……」
「私はまだここにいます」
マッハのアバターが現れた。
わずかに映像が乱れていた。
「ただし、今の動作を繰り返すことは強くお勧めしません」
キランは弱々しく笑った。
「僕の意思でやったわけじゃないよ」
「記録しました」
キランは損傷した車椅子を見下ろした。
片側の装甲が歪んでいる。
左のグラップラーは、取り付け部分から力なく垂れ下がっていた。
後部推進装置は黒く焦げている。
「飛べる?」
マッハは少し黙った。
やがて、診断結果が表示された。
【主推進システム――停止】
【飛行能力――使用不能】
【地上移動――制限あり】
【プラズマシステム――残量38%】
キランは画面を見つめた。
「そんな……」
彼はもう一度、スラスターの操作を試みた。
何も起こらない。
「マッハ?」
「推進用の電力供給網に深刻な物理的損傷が発生しています」
「電力を迂回させられない?」
「飛行能力を回復できるほどの電力は確保できません」
キランは頭上にある開放された階層へ目を向けた。
壊れたコンクリートの向こうに、夜空が見えた。
何年もの間、MACH-01Aは彼を街の上空へ運んでくれた。
高層ビルの間を飛び抜けた。
屋上を逃げる敵を追跡した。
燃え盛る建物から人々を救い出した。
それなのに、今は……。
地面から数センチ浮き上がることさえできない。
「キラン」とマッハが静かに言った。
キランは唾を飲み込んだ。
「……何?」
「まずは、この状況を生き延びることに集中しましょう」
近くから足音が聞こえた。
装甲兵が近づいていた。
最初にキランのもとへ駆けつけたのはレイモンドだった。
彼はコンクリートの防護壁の陰へ滑り込み、MACH-01Aのそばにしゃがんだ。
「坊主!」
キランは顔を上げた。
「やあ」
レイモンドは損傷した車椅子を見つめた。
「なんてこった……」
「うん。もう少し滑らかに着地したかったね」
「怪我は?」
「全身が痛い」
「動けるか?」
「少しなら」
レイモンドは近づいてくる装甲兵を見た。
「だったら、ここから出るぞ」
キランは操縦装置を動かした。
MACH-01Aの車輪が回転する。
車椅子が数センチ前進した。
しかし、すぐに止まった。
マッハが告げた。
「地上移動機能は出力を制限した状態で使用可能です。ただし、左側の駆動モーターが断続的に電力を失っています」
レイモンドはうなずいた。
「何もないよりはましだ」
キランは装甲兵を見た。
「あいつが、これをやったんだ」
「見りゃわかる」
「違う。つまり、これをするために作られたんだよ」
レイモンドの表情が険しくなった。
装甲兵が、舞い落ちる粉塵の中から現れた。
背中の機械装置は冷却中らしく、細い蒸気を噴き出している。
兵士がガントレットを上げた。
「ウルトラヴァイオレット」
キランは相手を見つめた。
「僕たち、知り合いだったっけ?」
「お前の技術は研究済みだ」
「うわ。気味が悪いね」
「飛行能力は無力化した」
キランは奥歯を噛みしめた。
「それはどうも」
装甲兵が前進する。
「もはや、お前は脅威ではない」
キランはしばらく黙っていた。
それから微笑んだ。
「そこが間違いなんだよ」
レイモンドが彼を見た。
「坊主?」
キランは残ったプラズマ砲を構えた。
「マッハ」
「はい」
「残りの電力は?」
「三十八パーセントです」
「足りる?」
「何をするつもりかによります」
キランは装甲兵を見た。
「試してみよう」
ピュン!
プラズマ弾が装甲兵の目の前の床に命中した。
コンクリートが弾け飛ぶ。
装甲兵が後退した。
レイモンドはその隙を逃さなかった。
「動け!」
キランは駐車場の床を走り始めた。
MACH-01Aの損傷した左側モーターが、不快な音を上げる。
ギュルルル!
車椅子がわずかに進路をそれた。
マッハが補正する。
「車輪の駆動トルクを調整します」
キランは歯を食いしばった。
「車輪の壊れたショッピングカートを運転してるみたいだ」
「完全な比較ではありませんが、機械的には理解できます」
レイモンドは隣を走った。
「まだグラップラーは使えるか?」
「一本だけなら」
「よし」
レイモンドは支柱の並ぶ方向を指さした。
「だったら、空にいるつもりで戦うのはやめろ」
キランは彼を見た。
「え?」
「今は地上で戦ってるんだ。地面を利用しろ」
キランは周囲を見回した。
コンクリートの支柱。
駐車中の車両。
車両用のスロープ。
低い天井。
狭い通路。
開けた空とはまったく違う環境だった。
しかし、利用できないわけではない。
キランの表情が変わった。
「マッハ」
「聞いています」
「駐車場全体を地図にして」
バイザーに三次元モデルが現れた。
「完了しました」
「MACH-01Aが通れる幅の経路を全部表示して」
青い線が現れた。
「次に、あの装甲兵が通るには速度を落とさないといけない場所を示して」
いくつかの区画が黄色に変わった。
キランは微笑んだ。
「完璧」
レイモンドはにやりと笑った。
「ようやく頭が回り始めたな」
装甲兵が支柱を回り込んできた。
キランは待ち構えていた。
「おーい、冷蔵庫!」
兵士が振り向いた。
キランは発砲した。
ピュン!
プラズマ弾が天井に命中した。
コンクリート片が降り注ぐ。
装甲兵がシールドを上げた。
しかし、キランは兵士を狙っていたわけではなかった。
頭上の照明設備を狙っていたのだ。
ガシャァン!
重い金属製の照明器具が落下した。
装甲兵は横へ身をかわした。
その瞬間、レイモンドが駐車中のトラックの陰から現れ、右肩の下にある露出した関節部へ発砲した。
バン! バン! バン!
装甲から火花が散る。
兵士がよろめいた。
マッハが動きを分析した。
「興味深いですね」
キランは別の支柱の陰へ移動した。
「何が?」
「敵の兵器装置から、かなりの熱が発生しています」
「どれくらい?」
「冷却システムなしでは、継続的な運用が困難になるほどです」
キランは微笑んだ。
「壊せる?」
「可能性はあります」
レイモンドは遮蔽物の陰へ身をかがめた。
「どこを撃てばいい?」
マッハはキランのバイザーに図面を表示した。
「冷却装置は背部装甲の下にあります。高出力射撃の際、排熱口が露出します」
キランは画像を調べた。
「つまり、撃たせればいいんだね」
レイモンドはうなずいた。
「冷却中に叩くわけだ」
「そのとおり」
レイモンドはにやりと笑った。
「悪くないぞ、坊主」
キランは彼を見た。
「僕だって、たまにはやるでしょ」
それから数分間、戦闘は激しい位置取りの応酬となった。
装甲兵は慎重に前進した。
キランとレイモンドは、決して明確な射線を与えなかった。
兵士が武器を構えるたび、キランは支柱の陰へ移動する。
敵がキランを追えば、レイモンドが別の方向から攻撃した。
駐車場の狭い通路は、装甲兵の機動力を制限していた。
それでも、敵は危険だった。
電磁弾が駐車中の車両を直撃する。
バヂヂッ!
エンジンルームから火花が噴き出した。
別の一撃がコンクリートの防護壁を砕いた。
キランは破片を間一髪で回避した。
【地上移動出力――61%】
マッハの声に緊張がにじんだ。
「キラン、左側の駆動モーターがさらに劣化しています」
「あとどれくらい持つ?」
「不明です」
「最高の答えだね」
短距離無線からレイモンドの声が聞こえた。
『坊主、十秒稼いでくれ』
「何のために?」
『あの不細工な野郎の背後へ回る』
キランは装甲兵をちらりと見た。
「十秒?」
『十秒だ』
キランはため息をついた。
「マッハ、今度はもっといい友達を探すように言ってね」
「交戦中にハリソンさんとの友人関係を解消することは、お勧めしません」
「確かに」
キランは開けた場所へ進み出た。
「おーい!」
装甲兵が振り向いた。
キランは両腕を大げさに上げた。
「こっちだよ!」
兵士が照準を合わせた。
マッハが警告した。
「兵器の充電が始まりました」
キランは動かなかった。
レイモンドは車両の列の陰を静かに移動していた。
『あと五秒』とレイモンドがささやいた。
装甲兵の武器がさらに明るく輝いた。
『三秒』
キランは唾を飲み込んだ。
「マッハ?」
「待機してください」
『二秒』
装甲兵が発射した。
バヂィィィィッ!
「今です!」
キランは残ったグラップラーを射出した。
ガキン!
磁気クランプが鉄骨の支柱に固定された。
ケーブルが張り詰める。
MACH-01Aはコンクリートの床を横滑りし、電磁弾が直前までいた場所へ命中した。
ドゴォォン!
レイモンドが装甲兵の背後に現れた。
冷却口が開く。
背中の装置から蒸気が噴き出した。
レイモンドはライフルを構えた。
「もらった!」
バン! バン! バン!
銃弾が露出した冷却装置へ命中した。
ガシャァン!
金属片が飛び散る。
装甲兵がよろめいた。
マッハが即座に損傷を確認した。
「冷却システムの破損を確認!」
キランは車椅子を旋回させた。
「プラズマ砲!」
「目標を捕捉しました」
「撃て!」
ピュン!
プラズマ弾が損傷した装置へ命中した。
ドガァァン!
装甲兵の背中で爆発が起こった。
兵士が前方へよろめく。
兵器装置が崩れ落ちた。
青白い火花が装甲の表面を走った。
キランは残った砲を構えた。
「そこから動かないで!」
一瞬、装甲兵はまだ戦うつもりのように見えた。
しかし、ヘルメットの通信機から声が聞こえた。
『撤収を許可する』
兵士は後退した。
損傷した装置から煙が噴き出している。
レイモンドが照準を合わせた。
「動くな!」
装甲兵は無視した。
発煙弾が床へ落ちた。
プシュゥゥゥッ!
濃い灰色の煙が駐車場を満たした。
キランは咳き込んだ。
「またそれ!?」
マッハが熱画像を起動した。
「複数の敵が東側の業務用出口へ撤退しています」
キランは前進しようとした。
しかし、レイモンドが車椅子の装甲に手を置いた。
「やめろ」
キランは顔を上げた。
「逃げられちゃう!」
「お前はまともに動けもしないだろ」
キランは損傷した操作装置を見た。
レイモンドは続けた。
「俺たちは生きてる。それが一番大事だ」
キランは煙の向こうを見つめた。
そして、ゆっくりと武器を下ろした。
「……うん」
外からサイレンが聞こえてきた。
警察の増援が到着したのだ。
数分後、マーラ・エリソン刑事が戦術対応部隊とともに駐車場へ入った。
現場は、まるで戦場だった。
損傷した車両。
焼け焦げたコンクリート。
粉々になった照明。
そして、その中心ではMACH-01Aが支柱のそばに停止していた。
後部推進装置は黒く焦げ、沈黙している。
エリソンが近づいた。
「レイモンド!」
彼は顔を上げた。
「刑事」
「怪我は?」
「大したことはない」
彼女はキランを見た。
「あなたは?」
キランは疲れた笑みを浮かべた。
「アドレナリンが切れてから聞いてください」
エリソンは損傷した車椅子を調べた。
「何が起きたんです?」
マッハが答えた。
「敵はMACH-01Aの物理的な配電システムを妨害するために設計された、特殊兵器を使用しました」
エリソンは眉をひそめた。
「通常の電磁妨害装置ではないのですね?」
「はい。旧型の推進機構に存在したハードウェア上の脆弱性を利用したものです」
レイモンドは腕を組んだ。
「つまり、どこを撃てばいいのか、正確に知ってたわけだ」
キランは視線を落とした。
「……うん」
エリソンは鑑識班へ向き直った。
「兵器の破片を一つ残らず確保してください。移動させる前に損傷状況を撮影すること」
警官がうなずいた。
「了解しました」
レイモンドはジャケットの内側へ手を入れた。
折りたたまれた書類を取り出す。
エリソンはそれを見た。
「まだ持っていたんですか?」
レイモンドはかすかに微笑んだ。
「あれだけ苦労して守ったものを、簡単に渡すわけないだろ」
彼は書類を手渡した。
エリソンは最初のページを確認した。
【セクション12――機密技術計画】
【電磁抑制技術研究】
【RIVERS, D.】
彼女の表情が引き締まった。
「これが例の記録ですね?」
「写しだ」
「よかった」
彼女は駐車場に散乱した損傷部品へ目を向けた。
「製造番号に一致するものがないか調べましょう」
最初の一致が見つかったのは、それから二十分後だった。
鑑識技官が、透明な証拠袋を持ってエリソンのもとへやってきた。
中には、装甲兵の破壊された冷却装置から回収した小さな金属部品が入っていた。
縁には一連の数字が刻印されている。
エリソンはそれを印刷された書類と照合した。
そして手を止めた。
「レイモンド」
彼が近づいた。
「何だ?」
彼女は一行を指さした。
部品の刻印には、保管されていた装備記録の一つと共通する、特徴的な製造業者コードが含まれていた。
レイモンドは見つめた。
「同じ系列だな」
「同じ製造業者、あるいは同じ開発計画に属する可能性があります」とエリソンは言った。「まだ確認が必要ですが」
レイモンドはうなずいた。
「それでも、手がかりにはなる」
「はい」
彼女は彼を見た。
「この装備と、あなたが調べている計画を結びつける最初の物的手がかりです」
レイモンドは部品を見つめた。
リヴァースは、すでに死んでいる。
どんな関係があったにせよ、それは彼が死ぬよりもずっと前に始まっていた。
そして今も、誰かがその記録に関係する技術を使っている。
レイモンドの表情が険しくなった。
「お前、一体何に関わってたんだ……リヴァース」
MACH-01Aがギアの工房へ戻った頃には、真夜中近くになっていた。
損傷した車椅子は、専用の輸送台に固定されていた。
キランは移送中も、まだ機能している支持装置を利用しながら、その車椅子に座っていた。
車両が到着すると、ギアが待っていた。
車椅子を見た瞬間、表情が変わった。
「……スナット」
キランは顔を上げた。
「やあ」
ギアはゆっくりと近づいた。
損傷した装甲。
焦げた推進装置。
壊れたグラップラー。
歪んだ配電装置。
それらを一つずつ確認した。
数秒間、何も言わなかった。
そしてキランを見た。
「怪我は?」
「打撲と痛みはあるけど、医療チームは入院が必要な状態じゃないって」
ギアは息を吐いた。
「よかった……」
キランは微笑もうとした。
「もっとひどいことになってたかもしれないし」
ギアは彼を見つめた。
「キラン」
「何?」
「三階分の高さから落ちたんだよ」
「正確には、地面に当たる前に減速したけど」
「キラン」
「……うん。かなりひどかった」
ギアは目を閉じた。
それから車椅子の装甲に手を置いた。
「中に入ろう」
工房の主診断システムは、すぐにMACH-01Aの分析を始めた。
ギアはモニターの前に立っていた。
キランは介助を受けて普段使いの電動車椅子へ移り、近くの使いやすい高さに調整された作業台から見守っていた。
マッハは工房の独立したシステムを通じて接続を維持していた。
診断報告は膨大だった。
そして、内容はひどかった。
【主推進配電装置――破壊】
【左舷スラスター制御回路――深刻な損傷】
【右舷スラスター電力供給系統――使用不能】
【緊急姿勢制御装置――損傷】
【飛行システム――使用不能】
ギアは報告を二度読んだ。
さらに三度目も。
キランはその表情を見つめた。
「どれくらいひどい?」
ギアはすぐには答えなかった。
それが何よりも不安だった。
「ギア?」
ため息が聞こえた。
「かなりひどい」
「どれくらい?」
「部品を二、三個交換すれば直るような状態じゃない」
キランはMACH-01Aを見た。
「作り直せる?」
「できるよ」
その答えに迷いはなかった。
キランはほっとした。
しかし、ギアは続けた。
「でも、元どおりには作らない」
キランは眉をひそめた。
「どういうこと?」
ギアは古い設計図を表示した。
「敵は配電システムの物理的な弱点を利用したんだ。新しいソフトウェアの保護機能は正常に動いていた。マッハの航法保護機能も働いていた。でも、兵器が直接ハードウェアを攻撃したから、どちらも防御にはならなかった」
マッハが言った。
「攻撃は、私たちのデジタル防御を完全に迂回しました」
ギアはうなずいた。
「そのとおり」
損傷した接続部を強調表示する。
「盗まれた設計図には、古い電力線が集中する場所が載っていた。いくつか改修はしたけど、この接続部は依然として重大な弱点だったんだ」
キランは図面を見つめた。
「つまり、どこを狙えばいいか知ってたんだ」
「そう」
ギアは腕を組んだ。
「だから、二度目は許さない」
新しい設計画面を開く。
「推進用の電力供給網を、それぞれ独立して保護された複数の区画に分ける」
マッハのアバターが図面の横に現れた。
「冗長化された配電経路を導入すれば、一か所の故障によってすべての飛行機能が停止する事態を防げる可能性があります」
ギアは微笑んだ。
「まさにそれ」
キランは二人を見比べた。
「どれくらいかかる?」
ギアの表情が真剣になった。
「まだわからない」
キランは唾を飲み込んだ。
「数日?」
「かもしれない」
「数週間?」
「その可能性もある」
彼は視線を落とした。
ギアは気づいた。
「キラン」
返事はなかった。
「こっちを見て」
キランは顔を上げた。
「何を考えてるか、わかるよ」
「本当に?」
「修理が終わる前に純化協定がまた攻撃してきたら、どうなるか心配なんでしょ」
キランは損傷した車椅子を見た。
「……うん」
ギアは近づいた。
「でも、修理を急げば、今度こそ命を落とすかもしれない」
「わかってる」
「マッハもだよ」
キランは顔を上げた。
マッハのアバターは黙っていた。
ギアは続けた。
「明日また飛べるようにしたいからって、二人の命を危険にさらすつもりはない」
キランは息を吐いた。
「……わかった」
ギアは彼の肩に手を置いた。
「必ず取り戻すから」
彼はうなずいた。
「うん。わかってる」
しかし、その声には確信がなかった。
その夜遅く、マイケイラが工房へやってきた。
彼女は開いた格納庫の扉の近くでキランを見つけた。
彼は普段使いの電動車椅子に座り、夜空を見上げていた。
工房の敷地の向こうでは、街の明かりがきらめいている。
マイケイラは静かに近づいた。
「やあ」
キランは振り向いた。
「やあ」
彼女は彼を見た。
「ひどい顔してるわね」
「わあ。ありがとう」
「どういたしまして」
彼女は身をかがめ、彼の頬にキスした。
それから隣に椅子を引き寄せた。
しばらく、二人は一緒に空を眺めていた。
やがてマイケイラが口を開いた。
「ギアから聞いたわ」
キランはうなずいた。
「うん」
「三階分の高さ?」
「らしいね」
「キラン」
「わかってる」
彼女は首を振った。
「生きててくれてよかった」
キランは彼女を見た。
「僕もそう思う」
長い沈黙が続いた。
そして、キランが言った。
「飛べなくなった」
マイケイラは彼へ顔を向けた。
「今は、ね」
キランは空を見た。
「一時的なものだってわかってる。少なくとも、ギアはそう言ってる」
「ギアを信じてる?」
「もちろん」
「だったら信じて」
キランはため息をついた。
「そんなに簡単じゃないよ」
マイケイラは続きを待った。
キランは言った。
「これを始めたとき、ほかの誰にも手が届かない場所にいる人たちへ、ようやく手を伸ばせるようになった気がしたんだ」
彼は空を指さした。
「火事。屋上。救急隊がすぐにはたどり着けない場所に閉じ込められた人たち」
彼の声が小さくなった。
「でも、今はできない」
マイケイラは彼を見つめた。
「キラン、飛べるようになる前から、あなたは人を助けてたわ」
彼は彼女を見た。
「それとは違うよ」
「そうかしら?」
「違う」
「あなたは教師でしょ」
「わかってる」
「毎日、生徒たちを助けてる」
「それは純化協定を止めるのとは違うよ」
「そうね」と彼女は言った。「同じじゃないわ」
キランは、その同意に少し驚いた。
マイケイラは続けた。
「でも、あなたは飛べることこそが、自分に価値を与えてくれたものみたいに考えてる」
彼は視線をそらした。
「そういう意味じゃない」
「だったら、どういう意味?」
キランは長い間黙っていた。
やがて口を開いた。
「怖いんだ」
マイケイラの表情が柔らかくなった。
「何が?」
「誰かが僕を必要としてるのに、そこへ行けないことが」
彼は唾を飲み込んだ。
「レイモンドが傷つくかもしれない。ギアも。君だって」
マイケイラは彼の手を取った。
「キラン」
彼は彼女を見た。
「あなた一人で、すべての人をすべての危険から守ることなんてできないわ」
「わかってる」
「それに、一人だけで戦わなくてもいいのよ」
彼はため息をついた。
「みんな、そう言うんだよね」
「あなたが何度も忘れるからじゃない?」
キランは弱々しく笑った。
「確かに」
彼女は彼の手を握った。
「車椅子は、あなたが戦うための大切な手段の一つよ。飛行能力を失ったことは深刻な問題だし、私はそうじゃないふりをするつもりはない」
彼はうなずいた。
「でも、だからってキランじゃなくなったわけじゃない」
彼は彼女を見た。
「ましてや、ヒーローじゃなくなったわけでもないわ」
キランは黙っていた。
やがて、かすかに微笑んだ。
「君って、こういうの上手だね」
「何が?」
「僕を元気づけること」
マイケイラはにやりと笑った。
「私の数ある才能の一つよ」
キランは笑った。
彼女は彼に寄り添った。
「それと、念のため言っておくけど?」
「何?」
「夕食はまだおごってもらうからね」
キランはうめいた。
「ええっ、まだ言うの!?」
「デザートも」
「容赦ないね」
「もちろん」
街の反対側では、レイモンドがエリソン刑事の執務室に座っていた。
二人はこの一時間、セクション12の記録を調べ続けていた。
いくつかの項目は、立体駐車場で回収された部品と照合されていた。
結果は、まだ決定的ではなかった。
しかし、一つの傾向が見え始めていた。
実験的な電磁抑制技術。
軍の研究許可。
外部契約業者。
そして、複数の記録に現れるリヴァースの名前。
レイモンドは額をこすった。
「こういうのは嫌いだ」
エリソンは顔を上げた。
「何がです?」
「わからないことだらけなのがな」
彼女は椅子にもたれた。
「捜査というのは、そういうことが多いものですよ」
レイモンドはかすかに微笑んだ。
「ああ。よくわかったよ」
そのとき、携帯電話が鳴った。
発信者番号には、見覚えのない軍の電話番号が表示されていた。
彼は電話に出た。
「ハリソンだ」
ウォード中佐の声が聞こえた。
『ハリソンさん。保管記録の追加調査が完了しました』
レイモンドは背筋を伸ばした。
「何が見つかった?」
『セクション12の装備に関する移管申請書です』
「誰が承認した?」
短い沈黙があった。
『リヴァースです』
レイモンドは目を閉じた。
「確かか?」
『認証に使用された資格情報は、彼に割り当てられていた軍の識別情報と一致しています』
レイモンドはエリソンを見た。
彼女は表情の変化に気づいた。
「どうしました?」
レイモンドは手を上げ、少し待つよう示した。
ウォード中佐は続けた。
『申請書の日付は、彼が死亡する数年前です』
「装備はどこへ移された?」
『そこが問題なのです。受領先として記載されている防衛関連企業は、現在は存在していません』
「企業名は?」
『現存する概要資料では黒塗りになっています』
レイモンドは眉をひそめた。
「だったら、何が残ってる?」
『計画識別番号と住所です』
レイモンドはペンをつかんだ。
「言ってくれ」
ウォード中佐が識別番号を読み上げた。
続いて、住所を告げる。
レイモンドは書き留めた。
その表情が変わった。
「待て」
エリソンが身を乗り出した。
「何です?」
レイモンドは住所を見つめた。
見覚えのある地区だった。
川沿いの古い工業地帯。
何十年も放置された工場が立ち並ぶ場所だ。
軍にいた頃、そこを通ったことがあった。
ウォード中佐が呼びかけた。
『ハリソンさん?』
レイモンドは唾を飲み込んだ。
「聞いてる」
『リヴァースが移管において、どのような役割を果たしたのかは不明です。彼の認証情報が使用されたことは確認できますが、本人が申請したのか、内容を理解したうえで承認したのか、それとも別の権限者の指示で行動したのかまではわかりません』
レイモンドはゆっくりとうなずいた。
「了解した」
『お気をつけください。すでに何者かが調査を妨害しようとしています』
レイモンドは書類を見た。
「信じてくれ、中佐。身にしみてわかってる」
彼は通話を終えた。
エリソンが彼を見つめた。
「それで?」
レイモンドは紙を机に置いた。
「リヴァースの認証情報が、セクション12に関係する装備の移管に使われていた」
エリソンは住所を調べた。
「受領先は契約業者ですか?」
「もう存在しない企業だ」
彼女は計画識別番号を見た。
「これは?」
「まだわからん」
レイモンドは椅子にもたれた。
「だが、調べる場所は見つかった」
エリソンは彼を見た。
「レイモンド、一つ理解しておいてください」
彼は彼女の目を見た。
「これは装備開発計画とのつながりを示す証拠です。リヴァースが純化協定に所属していた証拠ではありません」
「わかってる」
「当時、同じ組織が存在していたかどうかさえ不明です」
「それもわかってる」
レイモンドは窓へ目を向けた。
外では、夜空の下に街の明かりが広がっていた。
「だが、今夜、誰かがその技術を使ってキランを墜落させた」
彼の表情が険しくなった。
「そして、記録を隠すために俺を殺そうとした奴らがいる」
彼はエリソンへ向き直った。
「理由を突き止めてやる」
純化協定本部では、ヘレナ・ヴェイン司令官が最終報告を受け取っていた。
コバルトが彼女の前に立っていた。
「抑制作戦は成功しました」
ヴェインは顔を上げた。
「ウルトラヴァイオレットは?」
「生存しています」
彼女の表情は変わらなかった。
「車椅子は?」
「飛行能力を喪失しました。推進システムに広範囲の損傷があることを、現場の隊員が確認しています」
ヴェインはかすかに微笑んだ。
「素晴らしい」
コバルトはためらった。
「撤収の際、抑制装備が損傷しました」
「交換しろ」
「了解しました」
彼女はMACH-01Aの損傷した推進機構の図面を開いた。
盗み出した設計図は、役割を果たしたのだ。
ウルトラヴァイオレットは初めて、空を使わずに戦うことを強いられた。
ヴェインは画像を調べた。
「ギアが修理するまで、どれくらいかかる?」
「不明です。分析班は、大規模な再構築が必要になると推定しています」
「ならば、時間的な余裕が生まれた」
彼女は別のファイルを開いた。
【オペレーション・クリーン・スレート】
【第三段階――支援ネットワークの分断】
画面に複数の標的が現れた。
ヴェインは一つを選択した。
続いて、別の標的も。
最後に、もう一つの書類を開いた。
【パージ・プロトコル】
【市全域への展開――準備継続中】
コバルトは彼女を見ていた。
「次の作戦を開始しますか?」
ヴェインは窓の向こうの街を見た。
「まだだ」
彼女はレイモンド・ハリソンの写真を拡大した。
「例の兵士が手がかりを見つけた」
コバルトはうなずいた。
「排除しますか?」
ヴェインは考えた。
それから微笑んだ。
「いや」
彼女は写真を閉じた。
「追わせておけ」
コバルトは眉をひそめた。
「司令官?」
「敵を破滅させる最も簡単な方法は、こちらが決して見つけられたくなかったものを発見したと、本人に信じ込ませることだ」
彼女は街へ向き直った。
「次の段階を準備しろ」
「了解しました」
ヴェインの声が冷たくなった。
「ウルトラヴァイオレットは翼を失った」
彼女はシトロンシティの光る地図を見つめた。
「今度は、地を這ってどこまで進めるか見せてもらおう」
ギアの工房では、真夜中を過ぎても照明が消えることはなかった。
ギアは立体的な設計図の前に立っていた。
その隣には、マッハのアバターが浮かんでいる。
損傷したMACH-01Aは整備台の上に置かれていた。
スラスターは沈黙していた。
装甲は焼け焦げていた。
そして推進システムは、完全に使用不能のままだった。
ギアは配電図を拡大した。
「よし、マッハ。まずは主接続部から始めよう」
「賛成です」
「左右の推進系統を分離して」
「完了しました」
「独立した非常用電源も追加」
「暫定モデルに組み込みました」
「次は、中央配電装置に直接電磁攻撃を受けた場合をシミュレーションして」
マッハがシミュレーションを実行した。
赤い警告表示が現れた。
しかし、その直後に電力が別の経路へ切り替わった。
片方のスラスターが稼働を維持した。
ギアは微笑んだ。
「よし。前よりいい」
「大幅に改善しています」
二人は設計図を見つめた。
まだ膨大な作業が残っていた。
交換部品。
構造の改修。
熱管理。
電磁遮蔽。
試験。
さらに試験。
そして、おそらく何日もの徹夜。
しかし、墜落して以来初めて、ギアには進むべき道が見えていた。
ギアは背もたれに身体を預けた。
「ねえ、マッハ」
「はい?」
「今夜は怖かったよ」
マッハは静かになった。
それから答えた。
「私も怖かったです」
ギアはアバターを見た。
「本当に?」
「はい」
「墜落したから?」
「それもあります」
マッハは少し間を置いた。
「キランを守れないのではないかと、不安でした」
ギアの表情が柔らかくなった。
「マッハ……」
「多数の結果を予測しました。その中には、取り返しのつかないものもありました」
ギアは損傷した車椅子を見た。
「……そうだね」
マッハは続けた。
「ですが、私たちが生き延びられたことを嬉しく思います」
ギアはかすかに微笑んだ。
「自分もだよ」
二人は再び設計図へ目を向けた。
「さて、やることは山積みだね」
「そのとおりです」
ギアはレンチを手に取った。
「キランに翼を取り戻してあげよう」
マッハのアバターが明るくなった。
「そして、二度と簡単に奪われないようにしましょう」
工房の外では、シトロンシティの上空に果てしない夜空が広がっていた。
今のウルトラヴァイオレットには、そこへ手を伸ばすことができない。
しかし、その同じ空の下、壊れた機械と頑固な決意に満ちた工房では、彼の家族である二人が、すでにその状況を変えるために動き始めていた。
そして街のどこかでは、一人の老兵が死んだ男の残した足跡を追っていた。
その足跡が隠している秘密は、まだほんの一部しか明らかになっていなかった。




