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分断された街

翌朝の七時半までに、キラン・キリアンはどうやら凶暴な過激派になってしまったらしい。

少なくとも、インターネット上ではそういうことになっていた。

彼がその不愉快な事実を知ったのは、シトロン学園の教室で、説得のための修辞法と意図的な情報操作の違いについて授業の準備をしていたときだった。

何とも皮肉な話である。

「マッハ」

キランはパソコンのモニターに映し出された動画を見つめながら言った。

「お願いだから、僕が幻覚を見ているって言ってくれない?」

「残念ながら、幻覚ではないことを確認しています」

「じゃあ、どうして僕が平和的なデモ参加者に暴行を加えている映像を見せられているのか、説明してくれる?」

「事件直前の約四十三秒間が、意図的に削除されているためです」

キランはもう一度動画を再生した。

映像は、MACH-01Aが群衆の中へ突入する場面から始まっていた。

昨日、イライアス・マーサーの車椅子をつかんでいた大柄な男は、まるで何もせずに立っていたところを、キランの車椅子の装甲に突然殴られたかのように映っている。

男がよろめいて後退する。

次の瞬間、映像はキランがシールドを展開する場面へと飛び、まるで非武装の市民に対して戦闘用の防御装置を使用したかのような印象を与えていた。

覆面の襲撃者たちは、見事なまでに映像から消されていた。

イライアスも。

破壊された車椅子も。

キランが介入した理由を説明するものは、ほとんど何一つ残されていなかった。

動画の下には、大きな文字でこう書かれていた。

【ソニック・ウィーラー、抗議活動中の一般市民を襲撃!】

再生回数は、すでに二百万回を超えていた。

キランはゆっくりと机に突っ伏した。

「……素晴らしいね」

「編集された映像に対抗するため、無編集版をまとめましょうか?」

「お願い」

「すでに準備済みです」

キランは顔を上げた。

「だろうと思ったよ」

机の上にマッハのホログラムが現れた。紫色の輪郭が、憤慨しているかのように細かく明滅している。

「私は、この映像の加工方法に強い不快感を覚えます」

「嘘をついているから?」

「それもありますが、あまりにも稚拙な嘘だからです。場面の切り替わりで照明条件が変化し、音声には明らかな不連続部分があり、さらに連続する二つの場面の間で、あなたの車椅子が説明もなく三メートル移動しています」

キランはこめかみを押さえた。

「そんなこと、普通の人は気づかないよ」

「それならば、一般市民の観察能力を向上させる必要がありますね」

キランが返事をする前に、教室の扉が開いた。

三人の生徒が入ってきた。

彼らはキランの姿を見た途端、会話をやめた。

「おはよう」

キランが声をかける。

「お、おはようございます、キリアン先生」

生徒たちは足早に自分の席へ向かった。

一人がMACH-01Aをちらりと見た。

もう一人が何かをささやいた。

キランは聞こえなかったふりをした。

彼は長年、見知らぬ人々から車椅子をじろじろ見られることに慣れていた。

純粋な好奇心から見る人もいれば、どう接すればよいのかわからず、気まずそうに視線を向ける人もいた。

なかには、彼の身体を支える機械を見ただけで、普通なら他人に尋ねないような無遠慮な質問をしてくる人間もいた。

しかし、今回は違っていた。

人々は、ただ車椅子を見ているのではない。

それを恐れるべきなのかどうか、考えているのだった。


一時間目が始まる頃には、ほぼすべての生徒が例の動画を見ていた。

キランがそれを確信したのは、授業を始める前に、二列目の男子生徒が手を挙げたときだった。

「キリアン先生?」

「何かな、ダニエル?」

「先生、本当に昨日、デモ参加者を襲ったんですか?」

何人もの生徒が振り返った。

キランは授業用のノートを机に置いた。

「襲っていないよ」

「でも、動画があるじゃないですか」

「編集された動画ならね」

窓際の女子生徒が腕を組んだ。

「うちのお父さんは、政府が安全性を確認するまで、ヴェントを公共の場所で使わせるべきじゃないって言ってます」

教室に気まずい沈黙が流れた。

キランは彼女を見た。

「君のお父さんには、自分の意見を持つ権利があるよ」

「じゃあ、先生は反対なんですか?」

「一部の人間がしたことを理由に、ある集団全体を危険だと決めつけることには反対だね」

「でも、ブリザードとブレイズは犯罪者だったんでしょう?」

「そうだよ。二人の行動は、きちんと調べられるべきだ。でも、だからといってイライアス・マーサーに責任があるわけじゃない」

「イライアス・マーサーって誰ですか?」

「昨日、僕が到着する前にデモ参加者たちから襲われていた人だよ」

何人かの生徒が驚いたように顔を見合わせた。

キランは教室のプロジェクターを起動した。

スクリーンに、事件の完全な映像が映し出される。

彼は何も説明せず、そのまま再生した。

生徒たちは、イライアスが取り囲まれる様子を見た。

通してほしいと懇願する声を聞いた。

男が車椅子を殴りつける場面を目撃した。

そして、キランが到着した直後、覆面の襲撃者たちが現れ、電磁兵器を発射するところまで見届けた。

映像が終わると、教室は静まり返った。

ダニエルがゆっくりと手を挙げた。

「じゃあ、ネットの動画は偽物なんですか?」

「完全な偽物ではないよ。そこが厄介なんだ。実際に起きたことを使いながら、重要な前後関係だけを取り除いている」

キランは黒板に書かれた今日の授業の題目を見た。

【説得、プロパガンダ、そして情報を受け取る側の責任】

彼は少しだけ笑った。

「どうやら、今日は実践的な授業になりそうだね」

何人かの生徒が笑った。

キランは続けた。

「何かの主張を信じる前に、どんな証拠があるのか、何が省略されている可能性があるのか、そしてその情報が広まることで誰が得をするのか、考えてみてほしい」

窓際の女子生徒は、スクリーンに映るイライアスの姿を見つめていた。

「あの人、大丈夫なんですか?」

キランの表情が和らいだ。

「安全な場所にいるよ。車椅子は壊されたけど、修理の手配は進んでいる」

彼女はうなずいた。

「よかった……」

キランは授業用のノートに戻った。

これで話が終わればよいと思っていた。

ところが、授業終了のチャイムが鳴った途端、携帯電話が震え始めた。

最初のメッセージは、ニュースを見たかと尋ねる同僚からだった。

二通目は、説明を求める保護者から。

三通目には、昼休みに学園の管理職と面談するよう書かれていた。

キランは画面を見つめた。

「マッハ?」

「はい?」

「巨大ロボットと戦う生活に戻ってもいいかな?」

「残念ながら、雇用契約上、あなたには授業を行う義務があります」

「悲劇だね」


純化協定が記者会見を開いたのは、正午少し前のことだった。

報道陣の前に現れたのは、エイドリアン・ヴォスという銀髪の男性だった。

仕立てのよい紺色のスーツに身を包み、穏やかな笑みを浮かべたその姿は、急速に勢力を拡大する政治運動の代表者というより、信頼できる金融アドバイザーのように見えた。

彼は、組織の白い紋章が掲げられた演壇の後ろに立っていた。

目の前には、十数本ものマイクが並んでいる。

「昨日の事件は、シトロンシティの市民に深い不安を与えました」

ヴォスは落ち着いた声で話し始めた。

「私たちの組織は、誰によるものであろうと、あらゆる暴力を非難します」

カメラのシャッター音が響いた。

「しかし同時に、この事件によって浮き彫りになった正当な懸念にも目を向けなければなりません。重武装のヴェントを操縦する一個人が、市民のデモに突入し、人口密集地で軍用級の防御技術を使用したのです」

一人の女性記者が手を挙げた。

「ヴォスさん、無編集の映像には、覆面の人物たちがヴェント使用者を電磁兵器で攻撃する様子が映っています。その事実は認めますか?」

「もちろんです」

ヴォスは滑らかに答えた。

「犯罪的な暴力に関与した者は、誰であれ適切な処罰を受けるべきです」

「その襲撃者たちは、あなた方の組織と関係があるのでしょうか?」

「そのような関係を裏づける信頼できる証拠は、現時点で確認されていません」

「では、なぜソニック・ウィーラーを非難しているのですか?」

ヴォスは辛抱強い教師のような笑みを浮かべた。

「私たちが問いかけているのは、一般市民がこれほどの破壊力を持つ技術を、個人の判断だけで所有し、運用してよいのかということです。極めて合理的な疑問ではありませんか?」

別の記者が質問した。

「ヴェントの禁止を求めているのですか?」

「私たちが求めているのは、実効性のある監督体制です」

「移動手段としてヴェントに依存している人々も、その対象になるのでしょうか?」

「安全基準は、一貫して適用されなければなりません。感情的に難しい問題だからという理由だけで、例外を設けるわけにはいかないのです」

あまりにも穏やかな口調だったため、会場にいた何人かが思わずうなずいた。

ヴォスは続けた。

「障害のある方々が直面する困難について、私たちは十分に理解しています。彼らの尊厳は大切です。彼らの安全も大切です。しかし、地域社会全体の安全もまた、同じように重要なのです」

彼は一度言葉を切り、カメラに厳粛な表情を向けた。

「純化協定が目指すのは、どの家庭も第二のブリザードやブレイズを恐れずに済む未来なのです」

報道陣の後方に集まった支持者たちから、拍手が上がった。

ヴォスは微笑んだ。

そして会場の片隅では、純化協定の白い腕章をつけた男性が、静かに入会申込書を配っていた。


イライアス・マーサーがシトロン学園を訪れたのは、キランと校長の面談が終わった直後だった。

キランが彼を見つけたのは、職員室の外だった。

イライアスは、色の違う交換用パネルが取り付けられた車椅子に座っていた。右側のアームレストには、仮設の操作装置が固定されている。

「キリアン先生?」

キランは振り返った。

「イライアス?」

青年は緊張したように微笑んだ。

「お邪魔じゃないですか?」

「全然。どうしたの?」

「お礼を言いたくて」

キランは修理された車椅子を見た。

「ずいぶん頑張って直したみたいだね」

「はい。修理店が何とか動くようにしてくれたんですけど、交換用の制御装置が届くまで二週間くらいかかるそうです」

「乗り心地は?」

「機嫌の悪いショッピングカートみたいです」

キランは笑った。

「何となくわかるよ」

二人は空いている会議室へ移動した。

イライアスはしばらく黙り込み、自分の手を見つめていた。

やがて、ぽつりと言った。

「みんな、僕が全部でっち上げたと思ってるんです」

キランの笑みが消えた。

「……何?」

「ネットで。僕がお金をもらって、襲われたふりをしたって言われてます」

彼は携帯電話を取り出した。

画面には、無数のメッセージが並んでいた。

純化協定の評判を落とすための自作自演だと非難するもの。

嘘つきと罵るもの。

なかには、脅迫まがいの文章まであった。

キランは胃の奥が冷たくなるのを感じた。

「これ、通報した?」

「いくつかは……」

「脅迫については警察にも相談したほうがいい」

イライアスはうなずいた。

「でも、理解できないんです。僕はただ家に帰ろうとしていただけなのに」

声が少し震えた。

「こんなこと、頼んでないのに……」

キランは車椅子を少し近づけた。

「ねえ。僕を見て」

イライアスが顔を上げた。

「君は何も悪いことをしていないよ」

「でも、僕のせいでみんなが言い争っていて……」

「違う。誰かが君を攻撃しても構わない相手だと決めつけたから、こんなことになったんだ」

イライアスは唾を飲み込んだ。

キランは続けた。

「車椅子を使っていることを、誰かに謝る必要なんてない。外出する理由を説明する義務もないし、放っておいてもらう資格があることを証明する必要だってないんだ」

数秒間、イライアスは何も言わなかった。

それから、小さくうなずいた。

「……ありがとうございます」

キランは微笑んだ。

「それに、謝るべきなのはむしろ僕かもしれない」

イライアスは驚いた。

「えっ? どうしてですか?」

「僕の、どうやら無限に続くらしいスーパーヒーロー騒動に巻き込んじゃったからね」

イライアスは笑った。

小さな笑い声だったが、心からのものだった。

「先生、人を慰めるの下手ですね」

「よく言われるよ」

マッハのアバターが現れた。

「何度も言われています」

キランは彼を見た。

「君には聞いてないよ」

イライアスは再び笑った。

部屋に入ってきてから初めて、彼の肩から緊張が抜けたようだった。


その日の午後、レイモンド・ハリソンはギアの工房で襲撃事件の映像を確認していた。

彼が求めたのは、入手可能なすべての撮影角度だった。

マッハは工房で最も大きなモニターに、六つの映像を並べて表示した。

覆面の襲撃者たちは、異なる方向から現れながらも、不気味なほど正確に連携していた。

レイモンドが身を乗り出す。

「そこで止めてくれ」

映像が停止した。

一人の襲撃者が待合所の近くに立ち、別の一人がイライアスへ接近している。

レイモンドは画面を指さした。

「見えるか?」

作業台からギアが顔を上げた。

「何が?」

「間隔だ。互いの射線に入らないように動いている」

マッハが映像を拡大した。

「そのとおりです。複数人による連携戦闘に習熟している可能性があります」

レイモンドはうなずいた。

「それから、右側の奴を見ろ」

映像が進む。

襲撃者は体重を移動させ、武器を下げ、最も近い遮蔽物へと移動した。

レイモンドの表情が険しくなった。

「軍隊で訓練を受けている」

「所属部隊を特定できますか?」とマッハ。

「いや。似たような動きは、いろんな部隊で使われている」

彼は同じ動作をもう一度見た。

何かが気になった。

方向転換する直前の、わずかな間。

危険が予想される方向へ片方の肩を向けておく癖。

リヴァースも、あんなふうに動いていた。

第816大隊で共に戦っていた頃、レイモンドは何百回も似た動きを目にしていた。

そして後に、リヴァースがヴェンティックスとして姿を現したとき、その見慣れた動作は、恐ろしい意味を持つものへと変わっていた。

レイモンドは画面を見つめた。

一瞬、最後の対決が脳裏によみがえった。

銃声。

そして、その後に訪れた耐え難い静寂。

彼は無理やり視線を外した。

「レイモンド?」

マッハが声をかけた。

「ああ」

「心拍数が上昇しています」

レイモンドは息を吐いた。

「ちょっと思い出しただけだ」

「リヴァースのことですか?」

マッハは静かに尋ねた。

レイモンドはすぐには答えなかった。

やがて、うなずいた。

「動きの一部が、あいつを思い出させる」

ギアが顔を上げた。

「関係があると思う?」

「わからん」

レイモンドは背筋を伸ばした。

「ただ、似た動きをしているってだけで、勝手に結論を出したくはない」

マッハは映像を暗くした。

「了解しました」

レイモンドは停止した画面を、もう一度見つめた。

「リヴァースは死んだ。これが何であれ、証拠もないのに、あいつの亡霊を引っ張り出すわけにはいかない」


ギアが最初の有力な手がかりを見つけたのは、それから一時間後だった。

「スナット!」

ちょうど学園から戻ってきたキランは、危うく飲み物を落としかけた。

「な、何!?」

ギアは分解された電磁兵器の上に身をかがめ、絶縁工具で小さな回路基板をつまんでいた。

「見つけた!」

「もう少し静かに見つけてくれない?」

「無理!」

マッハのアバターが作業台の上に浮かんだ。

「何を発見したのですか?」

ギアは拡大カメラの下で部品を回転させた。

モニターに製造番号が表示される。

「産業用のパルス制御装置。もちろん改造されているけど、製造コードは残ってた」

キランは身を乗り出した。

「それで?」

「三週間前に盗まれた積み荷に含まれていた部品なんだ」

ギアは出荷明細書を開いた。

元の積み荷には、パルス制御装置、大容量コンデンサー、特殊冷却装置、そして数百個もの電磁場制御モジュールが含まれていた。

キランは眉をひそめた。

「ずいぶん大量だね」

「これだけあれば、あの兵器を小規模な軍隊に配備できるくらい作れるよ」

マッハが明細書を調べた。

「この窃盗事件は、当初、一般的な産業施設への侵入窃盗として処理されています」

「それ自体は不思議じゃない」

ギアは言った。

「でも、盗まれた部品の種類を見れば話は別だよ」

キランは損傷した武器を見た。

「誰かが、必要なものを正確に把握していたんだね」

「そのとおり」

ギアは画面を指さした。

「それで、ここからが面白いところ」

キランはため息をついた。

「面白いところなんてあるの?」

「ないね」

盗難事件が起きたのは、複数の警備技術会社へ製品を供給する配送倉庫だった。

報告書によると、犯人たちは一般の保管区域を素通りし、特殊部品が収められた木箱へ直接向かっていた。

警報装置は作動していなかった。

監視映像も残っていなかった。

キランはマッハを見た。

「内部の人間が関わっている?」

「可能性はありますが、現時点では断定できません」

ギアは回路基板を置いた。

「少なくとも、適当に盗んだわけじゃない。買い物リストを持っていたようなものだよ」

レイモンドは数量を見つめた。

「しかも、まだ終わっていない」

工房が静まり返った。

キランは壊れた武器を見た。

昨日までは、覆面の襲撃者三人による単発の事件だと思っていた。

しかし今は、同じ武器を持つ人間が、あと何人待ち構えているのだろうと考えずにはいられなかった。


翌日の午後、キランは事件を担当する捜査官、マーラ・エリソン刑事と会うため、繁華街へ向かっていた。

エリソン刑事は、ギアが発見した情報を確認し、警察が押収した証拠品と照合することに同意していた。

キランは、面会が何事もなく終わることを願っていた。

残念ながら、純化協定には別の予定があったらしい。

警察庁舎へ続く大通りでは、デモが行われていた。

数百人もの参加者が歩道を埋め尽くし、巨大な白い旗の下で看板を振り回しながら、声を張り上げていた。

警察のバリケードによって、道路には狭い歩行者用通路が設けられていた。

キランはMACH-01Aを減速させた。

「マッハ、別の道は?」

「検索中です」

そのとき、群衆の中から声が上がった。

「おい! あいつだ!」

キランは目を閉じた。

「……ああ、スナット」

何人ものデモ参加者が振り返った。

誰かが指をさした。

「動画に出てたウィーラーだ!」

一人の女性が近づいてきた。

「あんた、あの人たちを襲ったでしょう!」

キランはできるだけ落ち着いた声で答えた。

「完全な映像がネットで公開されていますよ」

「嘘をつくんじゃないわよ!」

別の男が進路を塞いだ。

「どうしてそんなものを街中で走らせていいんだ?」

キランは男を見た。

「僕の車椅子だからです」

「それは武器だろ!」

「職場へ行くための移動手段でもありますけどね」

男は鼻で笑った。

「だったら普通の車椅子に乗れよ!」

キランは奥歯を噛みしめた。

我慢にも限界が近づいていた。

しかし、周囲では携帯電話が次々と持ち上げられている。

発言の一つ一つが録画されていた。

どんな反応をしても、また編集されて拡散されるかもしれない。

「マッハ」

彼は小声で言った。

「帰ろう」

「迂回路を確認しました。二十メートル後方です」

キランは後退を始めた。

何かがMACH-01Aの後部装甲に当たった。

カンッ!

半分ほど中身の残ったペットボトルが、地面に跳ね返った。

キランは振り返った。

「……本気でやってるの?」

一人のデモ参加者が近づき、車椅子の操作パネルへ手を伸ばした。

「こいつの電源を切ったらどうなるか、試してやろうぜ!」

キランは素早く距離を取った。

「操作装置に触らないで!」

男の手は空を切った。

周囲から笑い声が上がった。

一方で、やめろと叫ぶ者もいた。

キランは露出した操作装置の周囲に、低出力の防護フィールドを展開した。

誰かを殴るつもりはなかった。

相手が望むような騒ぎを起こすつもりもなかった。

そのとき、マッハの声が変わった。

「キラン」

その声色だけで、キランの胃が冷たくなった。

「何?」

「道路上空で、複数の未確認電磁波反応を検出しました」

キランは見上げた。

大通りを見下ろす建物の屋上に、三人の人物が立っていた。

全員が黒いマスクを着用していた。

全員が武器を持っていた。

そして今回は――

ドローンまで連れてきていた。


「みんな、伏せて!」

キランの警告から、ほんの一瞬遅れて最初の銃撃が始まった。

バヂヂヂッ!

青い電磁パルスが空気を切り裂く。

MACH-01Aのシールドが展開された。

ドォォン!

衝撃で周囲の窓ガラスが震えた。

デモ参加者たちが悲鳴を上げた。

二発目の電磁パルスがキランの背後の路面に命中し、青白い火花が道路を走った。

「マッハ! 市民を射線から避難させて!」

「緊急避難案内を送信します!」

マッハは市の緊急警報システムを通じて、近くの公共放送用スピーカーに警告を流した。

「警告。武装集団による襲撃が発生しています。中央大通りから離れ、近くの建物内へ避難してください」

群衆が一斉に店舗へ向かって走り出した。

キランはあえて道路の中央へ飛び出し、襲撃者たちの注意を逃げる市民から自分へ向けた。

「こっちだよ、卑怯者!」

屋上から三機のドローンが降下してきた。

黒い機体は機械仕掛けの昆虫に似ており、それぞれ四基の回転式推進装置と、機体下部に小型兵器を備えていた。

「新しいおもちゃか……」

キランがつぶやいた。

「残念ながら、そのようですね」

一機目が発砲した。

ピュン! ピュン!

キランは横へ回避した。

弾丸が路面に突き刺さる。

バキッ! バキッ!

砕けたコンクリート片が飛び散った。

キランはプラズマキャノンを構えた。

「マッハ、低出力で。破片を人に降らせたくない!」

「推進装置を狙います」

ピュン!

紫色の光弾が、最も近いドローンに命中した。

左側のローターが爆発する。

機体は激しく回転しながら、停車中の配送トラックに衝突した。

ドォォン!

残る二機が左右に分かれた。

一機は道路の上空へ上昇する。

もう一機はキランへ急降下してきた。

「来ます!」

キランは加速した。

シュゴォッ!

ドローンがヘルメットのすぐ上をかすめた。

彼はMACH-01Aを旋回させ、再び発砲した。

ピュン! ピュン!

二発とも外れた。

「マッハ!」

「敵機が予測照準を回避しています」

「それは見ればわかるよ!」

鋭い警告音がバイザーに響いた。

【未知の信号を検出】

【センサーの整合性が損なわれています】

突然、視界が崩れた。

バイザーに複数の映像が重なって表示される。

建物が本来とは違う位置に現れた。

道路が曲がって見える。

三機のドローンが六機になった。

さらに十二機へと増殖する。

キランはまばたきした。

「マッハ、何これ!?」

「外部からのセンサー偽装装置を検出しました!」

屋上の襲撃者の一人が、円筒形の送信機を起動していた。

装置の周囲には、青い光の輪が脈打っていた。

「止められる?」

「試みています!」

MACH-01Aが大きく揺れた。

キランはアームレストを握りしめた。

「うわっ!」

「視覚ナビゲーションが使用不能です。慣性航法と直接光学入力に切り替えます」

バイザーから偽の映像が消え、必要最低限の情報だけが表示された。

再び道路が見えるようになった。

しかし、いつもの照準マーカーは消えていた。

「まいったな。ほとんど目隠し状態だ」

「完全にそうではありません」

マッハが答えた。

「私がいます」

キランは思わず微笑んだ。

「君を忘れるわけないだろ」

二機目のドローンが襲いかかった。

キランはその下をくぐり抜け、磁力式グラップラーを起動した。

ガシュン!

ワイヤーがドローンの下面に吸着した。

「捕まえた!」

彼は勢いよく引っ張った。

ドローンがアスファルトに叩きつけられた。

バキィッ!

推進装置が砕け散る。

「二機目!」

「三機目が上空から接近中です!」

キランは見上げた。

最後のドローンが降下してきた。

しかし、彼を狙う代わりに、逃げていくデモ参加者たちへ向きを変えた。

キランの目が見開かれた。

「マッハ!」

「確認しています!」

ドローンが発砲した。

キランは急加速した。

シュゴォォッ!

機体と市民たちの間に割り込む。

「シールド!」

ドォォン!

電磁パルスが障壁に激突した。

激しい電流がMACH-01Aの内部を走った。

【シールド耐久値:39%】

【推進効率低下】

キランは歯を食いしばった。

「こいつら、前より強くなってる!」

「以前の防御反応に合わせて、出力が調整されています」

キランはドローンをにらみつけた。

「学習してるの?」

「誰かが学習しているのです」


屋上では、覆面の工作員が携帯型モニターで戦闘を監視していた。

「標的はセンサー妨害に適応しました」

イヤホンから声が響いた。

『観測を続けろ』

「ドローンが破壊されています」

『反応を記録しろ』

工作員はためらった。

「民間人に死傷者が出る可能性があります」

『続行しろ』

その下では、最後のドローンが歩行者用通路の上に設置された大型広告看板へ向かって急旋回していた。

損傷した推進装置が不規則な音を立てる。

機体が支柱の一つに激突した。

ガァァァン!

金属がねじ曲がった。

大量の火花が飛び散る。

そして、構造物全体が傾き始めた。

キランは見上げた。

「……まずい」

巨大な電光広告が、群衆のいる歩道へ向かって崩れ落ち始めていた。


「みんな、逃げて!」

キランは追撃を中断した。

金属製の骨組みが支柱から引きちぎられるなか、歩行者用通路へ向かって加速する。

何人かは逃げることができた。

しかし、その場で立ち尽くしてしまった人々もいた。

一人の女性が幼い娘を引っ張りながら転倒した。

高齢の男性が杖を落とした。

そして、つい先ほどまでキランに怒鳴り散らしていた大柄なデモ参加者が、崩れ落ちる看板の真下に立っていた。

男は顔を上げた。

血の気が引いていく。

キランは一瞬もためらわなかった。

「マッハ! 最大推力!」

「キラン、推進システムは安全限界以下の性能しか発揮できません!」

「やって!」

MACH-01Aの後部スラスターが轟音を上げた。

シュゴォォォォッ!

車椅子が道路を突き進む。

キランが歩道へ到達した瞬間、広告看板が落下してきた。

「シールド拡張!」

紫色の障壁が頭上へ広がった。

ガラァァァァン!

巨大な金属構造物がシールドに激突した。

その衝撃で、MACH-01Aは路面に叩きつけられそうになった。

キランは歯を食いしばり、叫んだ。

バイザーに警告表示があふれた。

【シールド耐久値:18%】

【構造負荷が許容値を超過】

【推進装置過熱】

「マッハ!」

「電力を再配分しています!」

シールドが明滅した。

広告看板がさらに押し下がってくる。

キランの頭上で、金属がきしむ音が響いた。

障壁の下では、市民たちが必死に安全な場所へ逃げていた。

「行って! 早く!」

女性が娘の手を引いて走り出した。

高齢の男性は、崩れた構造物の端から這い出した。

しかし、大柄なデモ参加者だけは動けずにいた。

キランは彼を見た。

「おい!」

男は呆然としていた。

「早く逃げて!」

「お、俺……足が……」

キランはMACH-01Aの磁力ワイヤーを発射した。

ガシュン!

ワイヤーが男のそばにある金属製の手すりへ吸着する。

キランは巻き取り装置を起動し、シールドを維持したまま男へ近づいた。

「僕の車椅子の横をつかんで!」

男はためらった。

キランはにらみつけた。

「今すぐ!」

男は装甲パネルをつかんだ。

キランは後退した。

男はよろめきながらも、MACH-01Aに引っ張られるようにして危険地帯から抜け出した。

二人が安全圏へ出た瞬間、キランは残されたシールドのエネルギーを上方へ集中させた。

「マッハ! 押し返して!」

「実行します!」

集中した力の奔流が、崩れ落ちる広告看板をわずかに持ち上げた。

その重心が、誰もいない車道へと移動する。

ドガァァァァァン!

巨大な構造物が路面に激突した。

ガラスが砕け散る。

粉塵が道路一帯を覆った。

数秒間、誰も動かなかった。

やがて、咳き込む声が聞こえ始めた。

泣き声。

母親を呼ぶ子供の声。

キランは瓦礫の中に座ったまま、荒い呼吸を繰り返していた。

バイザーには、警告表示が何重にも並んでいた。

【シールド停止】

【推進装置温度:危険域】

【走行システム:安定】

マッハのアバターが明滅した。

「キラン?」

キランは唾を飲み込んだ。

「……まだいるよ」

「今の行動は、極めて無謀でした」

「どういたしまして」

「感謝しているわけではありません」

キランは弱々しく微笑んだ。

近くには、大柄なデモ参加者が震えながら立っていた。

男は崩壊した広告看板を見た。

それから、キランを見た。

「お前……」

キランは顔を上げた。

「何?」

「俺を……助けたのか?」

「うん」

男は手に握っていた看板へ目を落とした。

【この街にヴェントはいらない】

指の力が抜けた。

看板が地面に落ちた。

キランはそれを見届けた。

そして、静かに視線をそらした。

周囲では、何十人もの人々が撮影を続けていた。

今度は、そのカメラが一部始終を捉えていた。


警察が現場を封鎖した頃には、屋上の襲撃者たちはすでに姿を消していた。

マーラ・エリソン刑事は武装した警察部隊とともに到着し、直ちに目撃者への聞き取りを開始した。

キランは、ギアが遠隔でMACH-01Aの損傷状況を監視するなか、事件について説明していた。

『飛行禁止』

通信回線からギアの声が響いた。

キランはため息をついた。

「やあ、ギア。僕も会えてうれしいよ」

『シールド発生装置は焼き切れる寸前、推進装置は過熱、電磁遮蔽機構なんて溶接バーナーで炙られたみたいになってる!』

「正確には、電磁砲で攻撃されたんだけど」

『だからって、ましになるわけじゃない!』

マッハが割って入った。

「ギア、攻撃ドローンから部分的な通信データを回収しました」

ギアの声が止まった。

『どんな通信?』

「暗号化された指令通信です。ネットワークが切断される前に、いくつかのデータパケットを捕捉しました」

『送って』

次の瞬間、ギアのモニターにデータが表示された。

ギアは通信経路を調べた。

『……ん?』

キランはバイザーの隅を見た。

「いい意味の『ん?』? 悪い意味の『ん?』?」

『ものすごく悪い意味』

通信は複数の中継地点を経由して、ドローンへ送られていた。

ほとんどの中継地点は匿名化されていた。

しかし、一つだけ違った。

ギアは追跡可能な最後のアドレスを拡大した。

【ノーススター総合警備】

キランは眉をひそめた。

「警備会社?」

『ちゃんとした会社だよ。監視設備、建物の入退室管理、企業向けの監視システムなんかを扱ってる』

マッハが説明した。

「通信が不正に侵入された設備を経由した可能性もあります。会社そのものが関与したとは断定できません」

『そうだね』

ギアは同意した。

『でも、誰かが認証済みの中継システムを使える立場にいたのは確かだよ』

キランは、警察の証拠品保管車へ運び込まれていくドローンの残骸を見た。

「つまり、あいつらには協力者がいるってことか」

通信回線にレイモンドの声が加わった。

『あるいは、内部に人間を送り込んでいる』

キランは通信表示を見た。

「レイモンド?」

『ニュースを見た。今から工房へ向かう』

「また?」

『どうも、これからはあそこに入り浸ることになりそうだからな』

キランは破壊された広告看板へ目を向けた。

デモ参加者たちは、すでにいなくなっていた。

道路には瓦礫が散乱している。

そして、屋上の向こうのどこかでは、この事件を引き起こした者たちが、すでに次の行動を準備しているのだろう。

「……うん」

キランはつぶやいた。

「僕もそう思うよ」


シトロンシティの地下深くでは、純化協定の幹部たちが戦闘記録を確認していた。

冷却装置の低い駆動音と、周囲のモニターから時折鳴る電子音を除けば、会議室は静まり返っていた。

エイドリアン・ヴォスは会議テーブルの横に立ち、キランが崩れ落ちる広告看板を支えている映像を見つめていた。

「彼は市民を救いましたね」

ヴォスが言った。

部下がうなずいた。

「自分に敵意を向けていた者たちまで」

「我々の広報活動にとっては、少々厄介です」

「また編集した映像を公開しましょうか?」

ヴォスは少し考えた。

「いや。今すぐはやめておこう。今回は独立した目撃者が多すぎる」

テーブルの最奥では、組織の指導者が影の中に座ったままだった。

「世論など、いくらでも誘導できる」

その人物が言った。

ヴォスは振り返った。

「もちろんです」

指導者は画面を見つめた。

「それより、何を学んだ?」

技術担当者が報告書を表示した。

「ウルトラヴァイオレットの防御システムは、継続的な電磁攻撃に弱いことが判明しました。AIはセンサー妨害に対応できますが、その過程で戦闘効率が低下します。また、シールド発生装置には明確な熱的限界があります」

「行動面は?」

技術担当者はためらった。

「彼は敵の追跡よりも、常に民間人の安全を優先します」

指導者は身を乗り出した。

「ならば、それが弱点だ」

ヴォスはわずかに眉をひそめた。

「あるいは、彼の強さとも言えますが」

指導者が彼を見た。

ヴォスは視線を下げた。

「……失礼しました」

中央のモニターに新しいファイルが表示された。

【監視優先対象】

【キラン・キリアン――監視中】

【ギアの工房――監視中】

【レイモンド・ハリソン――監視準備中】

指導者は最後の項目を指さした。

「ハリソンの監視を開始しろ」

部下が対応する情報記録を開いた。

「閣下、少々妙なことが」

「何だ?」

「ハリソンの名前が、すでに保管済みの作戦記録に登録されています」

指導者の動きが止まった。

部下は続けた。

「現在の監視計画より古いファイルです。アクセス制限が設定されており、死亡した工作員に関する記述も含まれています」

ヴォスが画面を見た。

「どの工作員です?」

部下は記録を開こうとした。

認証警告が表示された。

【アクセス拒否】

【機密保管記録】

【識別名:ヴェンティックス】

会議室が静まり返った。

指導者がゆっくりと立ち上がった。

「そのファイルを閉じろ」

部下はためらった。

「しかし、閣下。確認する必要が――」

「閉じろ」

技術担当者は命令に従った。

画面が暗くなった。

指導者は周囲の者たちを見回した。

「その記録は、私の直接の許可なく閲覧することを禁じる」

ヴォスは指導者の姿をじっと見つめた。

「我々も知っておくべきことがあるのでは?」

「ない」

答えは即座に返ってきた。

「その件は、すでに終わっている」

指導者は中央のモニターへ視線を戻した。

画面には、紫色のシールドで崩れ落ちる広告看板を支えるキランの姿が映っていた。

「生きている者たちに集中しろ」

指導者は命じた。

「死者は、すでにその役目を果たした」

誰も口を開かなかった。

指導者はしばらく映像を見つめた。

やがて、画面が切り替わった。

シトロンシティの地図が現れ、そこに数百もの赤い印が表示された。

一つ一つが、登録されたヴェント使用者を示していた。

住宅。

学校。

病院。

介護施設。

何千もの人生が、画面上の小さな光点へと変えられていた。

「標的データベースの拡張を開始しろ」

指導者が言った。

ヴォスはスーツの袖口を整えた。

「世論誘導については?」

「継続しろ」

指導者は壁に輝く純化協定の紋章を見上げた。

「ヒーローと悪党について、好きなだけ議論させておけばいい。街中で何が起きたのか、いつまでも言い争わせておけ」

少し間を置いた。

「奴らが我々の本当の目的に気づく頃には、必要な設備はすべて整っているだろう」

地図上では、赤い光点が増え続けていた。

そして、その地下施設と厳重に守られた秘密のはるか上では、シトロンシティの人々が、何も知らずに日常生活を送っていた。

自分たちの名前が、ある名簿に追加されていることなど、知る由もなかった。

その名簿は、市民の安全を守るためのものではなかった。

ただ一つの目的のために作られたものだった。

誰から先に排除するか。

それを決めるための名簿だった。

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