制裁
ボタンが点灯した瞬間――
部屋にいた全員が凍りついた。
ザイラの目が見開かれる。
ジャリックの胃が沈んだ。
ブレイズから笑みが消える。
ブリザードは即座に、その装置が何なのか理解した。
『どうか、お許しを――』
サヴァントは無視した。
指がボタンを押し込む。
**ピッ**
その瞬間。
激痛が部屋を駆け抜けた。
**バチバチバチッ――!**
ブレイズが絶叫する。
ブリザードも叫んだ。
真紅のエネルギーがホログラムの身体を駆け巡り、二体のヴェントが激しく痙攣する。
『ああああああああっ!!』
悲鳴がコンクリートの壁に反響した。
ジャリックは身体を折り曲げる。
両手が車椅子のアームレストを強く握り締めた。
ザイラは歯を食いしばる。
電撃そのものが――
二人に直接流されているわけではない。
だが。
ヴェントたちが感じている苦痛は、彼らと繋がるすべてのニューラルリンクを通じて伝わってくる。
まるで――
頭蓋骨にナイフを突き刺されているようだった。
何度も。
何度も。
何度も。
制裁は――
ほんの数秒しか続かなかった。
それでも。
何時間にも感じられた。
そして――
サヴァントがボタンから指を離した。
電流が消える。
再び――
静寂。
ブレイズは辛うじて姿勢を保っていた。
ブリザードのホログラムは何度も激しく明滅している。
どちらも――
まともに話せる状態には見えなかった。
しばらく。
誰も動かなかった。
誰も息をしなかった。
机の向こうにいる男を――
誰も直視しようとはしなかった。
サヴァントは静かに両手を組んだ。
まるで。
何も特別なことなど起きなかったかのように。
「今後、また何か失態があれば……」
サヴァントの声は変わらない。
冷静。
事務的。
完全に――
制御されている。
だからこそ。
余計に恐ろしかった。
「お前たちのヴェントが機能を停止するまで、電流を流し続ける」
部屋が完全に静まり返った。
ジャリックの胸の奥に――
冷たい何かが沈んでいく。
恐怖。
いや。
正確には――
少し違う。
もっと。
無力感に近いもの。
なぜなら。
この部屋にいる全員が――
真実を知っていたから。
ヴェントは装備じゃない。
ソフトウェアでもない。
道具でもない。
家族だ。
サヴァントは少しだけ身を乗り出した。
小さな笑みが浮かぶ。
温かくない。
優しくもない。
その――
正反対。
「そうなれば……」
その視線がジャリックへ向けられた。
「お前は『カタワ』以下だ」
その言葉は――
どんな電撃よりも強く突き刺さった。
ジャリックは床を見つめた。
珍しく――
皮肉の一つも出てこない。
冗談も。
言い返す言葉も。
何も。
ザイラはゆっくりと弟の肩に手を置いた。
何か言葉があったからではない。
ただ――
その言葉がどれほど深く弟を傷つけたのか。
彼女には痛いほどわかっていたから。
◇ ◇ ◇
その後。
会議はすぐに終わった。
説教もない。
励ましもない。
二度目のチャンスもない。
サヴァントはただ――
自分の仕事へ戻った。
まるで。
今の制裁など、ただの定期メンテナンスだったかのように。
まるで――
彼らの誰一人として。
重要ではないかのように。
兄妹の背後でオフィスの扉が閉じた。
廊下は――
妙に静かだった。
ブレイズがジャリックの隣を漂う。
ブリザードがザイラの隣に浮かぶ。
誰も話さない。
しばらくは。
そして。
ようやくブレイズが沈黙を破った。
『まあ……』
ジャリックが顔を上げる。
「何?」
『もっとマシな日もあったよな』
その夜。
初めて――
ジャリックの顔に小さな笑みが浮かんだ。
本当に。
ほんの少しだけ。
「ああ」
「……あったな」




