ボス
本部へ戻るまでの道中――
誰も口を開かなかった。
ザイラも。
ジャリックも。
ブレイズも。
ブリザードも。
今夜起きた出来事が、四人全員に重くのしかかっていた。
倉庫での取引は失敗。
ベリゼールは激怒。
そして――
誰が責任を取らされるのか。
全員がわかっていた。
ナビゲーションシステム上で、位置情報ビーコンが点滅する。
**《位置情報:不明》**
前方に本部が見えてきた。
冷たい。
静か。
歓迎する気など――
まるでない。
何年ここで働いていても。
職場というより――
刑務所のように感じられた。
オフィスの扉へ近づいた時。
中から聞き慣れた声が響いてきた。
「承知しています。部下の無能については謝罪しますよ、ミスター・ベリゼール」
二人の動きが止まった。
ブレイズとブリザードも、不安そうに顔を見合わせる。
サヴァント。
すでにベリゼールと話している。
それは――
良い兆候ではなかった。
「二度とこのようなことは起こさないと約束しましょう」
ザイラが扉を開けた。
オフィスの中には、ほとんど何もない。
コンクリートの壁。
机。
通信機。
それだけ。
サヴァントは机の向こうに座り、未来的な通信機へ向かって話していた。
顔は影に隠れている。
部屋に響くのは――
その声だけ。
「待ってください。勝手にそんな――」
サヴァントが言葉を止めた。
相手の話を聞く。
そして。
その表情がゆっくりと変わる。
怒りではない。
愉快そうな――
表情へ。
「なるほど」
小さな笑みが浮かぶ。
危険な――
笑み。
「取引から手を引きたいのであれば、ご自由に」
ザイラの表情に不安が浮かんだ。
ジャリックからも笑みが消える。
二人には――
この後に何が続くのかわかっていた。
サヴァントは直接脅したりしない。
そんな必要が――
ないから。
「しかし……」
笑みがさらに広がる。
「アドリアナと、小さなシルヴィアが喜ぶかどうかまでは保証できませんね」
沈黙。
部屋の空気が――
凍りついた。
「少なくとも、私の部下たちが訪ねた後では……喜んでいないでしょう」
ジャリックの胃が締めつけられる。
オーガニゼーションで何年も働いてきた。
それでも――
こういう瞬間だけは。
今でも嫌だった。
「……そうでしょうね」
サヴァントは椅子に深くもたれた。
「お時間をいただき、ありがとうございました」
少し間を置く。
「今後とも、良いお付き合いを期待していますよ」
通信が切れた。
ガチャン!
通信機が乱暴に受話台へ叩きつけられた。
数秒間――
誰も動かなかった。
「申し訳ありません」
ザイラが一歩前へ出る。
「取引中に私たちがミスを犯したことは認めます。でも、ベリゼールの部下の一人がジャリックを『カタワ』と呼んで……それが彼にどう影響するか、あなたも知っているでしょう」
「どうか、お許しを――」
ブリザードの声さえ――
怯えていた。
サヴァントは答えない。
代わりに――
机の下へ手を伸ばした。
隠されていたボタンを押す。
**ピッ**
ザイラの血の気が引いた。
なぜなら。
そのボタンが何をするものなのか――
彼女は正確に知っていたから。




