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寄りかかれる誰か

工房の入口に掛けられた時計が止まったのは、三日前のことだった。

ギアは、まだ修理していない。

普段なら、故障した時計を放置するなど、技術者としてのプライドが許さなかっただろう。以前、何の報酬も得られないというのに、違う味の炭酸飲料ばかり出す自動販売機の修理に、午後を丸ごと費やしたことさえあった。

しかし、今回は違った。

時計の針は二時十七分を指したまま動かず、ギアは、時間が進まなくなったように見える部屋に入ることが、妙に心地よいと気づいていた。

残念ながら、世界のほうはそんな事情など知ったことではなかった。

ブブッ!

作業台の上でコミュニケーターが振動した。

ギアは無視した。

ブブッ! ブブッ!

目の前に吊り下げられた推進装置のボルトを締め直す。

その装置は商業用ホバークラフトのもので、所有者はどうやら「完成予定日」という言葉を「法的拘束力のある約束」と勘違いしているらしかった。

三度目の振動で、コミュニケーターがテーブルの端へ滑っていく。

ギアは画面も見ずにつかみ取った。

「何?」

「よう、ギア! モリソンだ。ホバークラフトの様子を聞こうと思ってな」

ギアは分解された推進装置を見つめた。

「まだホバークラフトだよ」

困惑した沈黙があった。

「ああ、そうじゃなくて。修理の進み具合だよ」

「作業中」

「明日にはできそうか?」

ギアは損傷したタービンの外装、散乱する診断機器、そしてまだ届いていない交換部品を見た。

「たぶん」

「よかった! 助かるよ!」

通話が切れた。

ギアはコミュニケーターを下ろした。

「スナット……」

*たぶん*と言ってしまった。

本当は*無理*と言うべきだった。

それくらい、自分でもわかっていた。

しかし、断るという行為は、昔から妙に難しかった。


ギアの工房は、シトロンシティ郊外の工業地区にある、古い建物を改装した施設だった。

周囲には倉庫や配送センターが並び、看板の文字がいくつか欠けたまま営業している店も少なくなかった。

工房の内部は、壮大な機械の反乱が終わった直後のような有様だった。

分解されたエンジンが床を占領し、天井のレールから電気ケーブルが垂れ下がっている。胸部パネルを外された整備用アンドロイドが壁際に立ち、内部の配線やプロセッサーをむき出しにしていた。

請求書は空のコーヒーカップの下に埋もれていた。

電力会社から届いた未開封の封筒が、交換用フィルターの山の隣に置かれている。

納期を過ぎた注文が三件。

明日が期限の仕事が二件。

そして書類のどこかには、ギアが一週間近く見ないふりをしている通知があった。

もう読み返す必要はなかった。

内容は覚えている。

支払い督促。

ギアは目をこすった。

最後に四時間以上続けて眠ったのがいつだったか、思い出せない。

工房を閉めようとするたび、新しい依頼が舞い込んでくる。

故障した車椅子の制御装置。

安定装置が壊れた配送ドローン。

突然動かなくなった非常用発電機。

本当に急を要する仕事と、単に早く仕上げてほしいだけの仕事の違いくらい、ギアにはわかっていた。

しかし、違いがわかるからといって、断るのが簡単になるわけではない。

コミュニケーターが再び鳴った。

今度は、いつもの客からのメッセージだった。

その客が使っている電動スクーターに、操舵装置の不具合が発生したらしい。

忙しいところごめんね、ギア。時間がある時でいいんだけど、いつ頃見てもらえそうかな?

ギアは画面を見つめた。

相手は無理な要求をしていない。

丁寧に頼んでいるだけだ。

しかも、そのスクーターは客の日常生活に欠かせないものだった。

ギアは返信を打ち始めた。

明日の朝、持ってきて。時間を作るよ。

考え直す前に送信した。

そして作業台にもたれかかった。

「素晴らしい。実に素晴らしい判断だ」

頭の奥で、古い記憶が動き始めた。

今よりずっと小さく感じられたキッチン。

幼いキラン。

請求書に囲まれ、テーブルに座っている母親。

そして、ドライバーを握り、壊れた家電の前に立つ自分。

心配しないで、母さん。直せるから。

何度そう言ったのか、もう覚えていなかった。

しかし、その言葉を聞いたスザンヌがほっとした顔を見せたことは、今でも覚えている。

いつしかギアは、その安堵の表情を求めるようになっていた。

洗濯機が動けば、母親は少し休める。

キランの車椅子の制御装置が直れば、心配事が一つ減る。

夕食の準備や買い物、突然の故障に自分が対応できれば、家族はその夜も何とか乗り切れる。

役に立つことで、物事は少しだけ楽になった。

そしていつの間にか、役に立つこと以外の自分を想像するのが難しくなっていた。

ギアは工具を手に取った。

推進装置が待っている。

少なくとも機械は、人間と違って、何が悪いのかを比較的正直に教えてくれる。


ミスが起きたのは、その日の午後七時四十三分だった。

ギアは推進装置の磁気封じ込めリングを再調整していた。

その時、手元が滑った。

ほんのわずかな動きだった。

ほとんど気づかないほどの。

しかし、トルクレンチの先端が、繊細なセラミック製の連結部品に引っかかった。

パキッ!

ギアは凍りついた。

部品の表面に、細い亀裂が走る。

数秒間、ただ見つめていた。

「……嘘だろ」

慎重にレンチを外す。

亀裂が広がった。

「いや、いやいや……」

診断モニターに警告が表示された。

封じ込め用連結部品の破損

交換が必要です

ギアは目を閉じた。

その部品は高価だった。

しかも、工房に在庫はない。

交換品を注文し、修理を延期し、モリソンには明日までに完成しないことを説明しなければならない。

十分に休んでいれば、絶対にしなかったはずのミスだった。

ギアはレンチを作業台に置いた。

そして、もう一度握り直した。

指に力が入る。

「スナットォッ!」

レンチを叩きつけた。

ソケットの入ったトレーが跳ね上がり、部品がコンクリートの床へ散らばった。

ギアは腕を振り払うようにして、作業台の上のものをなぎ倒した。

ドライバー。

ボルト。

測定器。

ガランッ!

ガシャァン!

金属製の容器が棚にぶつかった。

ギアは荒い息を吐きながら立ち尽くした。

突然訪れた静寂は、騒音よりもずっと不快だった。

手が震えている。

壊れた連結部品を見た。

床に散らばった工具を見た。

そして、工房を埋め尽くす終わりの見えない仕事を見渡した。

何年ぶりだろう。

ギアは初めて、何かを修理したいと思えなくなっていた。

近くのスツールに腰を下ろす。

両肘を膝に置き、床を見つめた。


ノックの音がしたのは、それから二十分後だった。

ギアは動かなかった。

もう一度、扉が叩かれる。

「ギア?」

すぐに声の主がわかった。

キランだ。

ギアは目を閉じた。

よりによって、今か。

数日前の口論以来、弟からの電話には出ていなかった。

嫌いになったからではない。

もしそうなら、もっと理解しやすかっただろう。

避けていたのは、自分が口にした言葉の後で、どうやって弟の顔を見ればいいのかわからなかったからだ。

「ギア? 僕だよ」

少し間があった。

「いや、わかってると思うけど、一応ね」

ギアは思わず微笑みそうになった。

キランは続けた。

「夕飯を持ってきたんだ。ちゃんとした夕飯。自動販売機から取り出した謎の物体じゃないよ」

ギアは扉を見た。

「帰って、キラン」

沈黙。

「わかった」

ギアは瞬きをした。

予想外の返事だった。

キランが再び話し始めた。

「食べ物は扉の前に置いていってもいいし、持って帰ってもいい。ギアが決めて」

ギアは入口を見つめた。

「わざわざここまで来て、そのまま帰るつもり?」

「一緒に過ごしたいかどうか、聞きに来たんだ」

少し間を置いた。

「でも、距離を置きたいって言われたことは覚えてるよ」

ギアは唾を飲み込んだ。

工房が突然、ひどく広く感じられた。

「……何を買ってきたの?」

「中華料理」

「何の?」

「小さい紙の箱に入ってるやつ」

「スナット、お前」

「僕も愛してるよ」

ギアは散乱した工具を見た。

壊れた部品を見た。

未完成の仕事が積み重なった作業台を見た。

そして、扉の制御装置へ手を伸ばした。

カチッ。

工房の入口が開いた。

外には、MACH-01Aに乗ったキランが待っていた。

膝の上には、持ち帰り用の料理が入った袋が置かれている。

隣にはマッハの紫色のホログラムが浮かんでいた。

キランは床を一目見た。

表情が変わる。

「大変な一日だった?」

ギアは脇へ退いた。

「まあね」

「入ってもいい?」

ギアはためらった。

そして頷いた。

「うん」


キランは散らかった工房について、何も言わずに入ってきた。

それが何よりもギアを驚かせた。

普段なら、弟は爆発事故だの機械の反乱だの、工房の安全基準が怪しいだのと、冗談の一つでも言っていたはずだった。

しかし今日は違った。

キランは休憩スペースへ向かい、テーブルに料理を置いた。

「いつものやつを買ってきたよ」

ギアは袋の中を覗いた。

チャーハン。

オレンジチキン。

野菜餃子。

追加のソース。

唾を飲み込む。

「覚えてたんだ」

キランは彼らを見た。

「当たり前だろ」

マッハは周囲の機械を観察した。

「この工房では、局地的な災害が発生したようだね」

キランはため息をついた。

「マッハ」

「単に環境状況を報告しただけだ」

ギアは短く笑った。

自分でも驚いた。

キランは微笑んだが、それ以上何も言わなかった。

二人はしばらく黙って食事をした。

ギアは料理を半分ほど食べたところで、昨日の朝以来、まともな食事を取っていなかったことに気づいた。

キランも気づいたようだった。

しかし、何も言わなかった。

やがてギアは箸を置いた。

「この前のことなんだけど……」

キランは顔を上げた。

「無理に話さなくてもいいよ」

「わかってる」

ギアは首の後ろをさすった。

「でも、話したいんだ」

キランは待った。

ギアは料理を見つめた。

「怖かった」

キランは少し眉をひそめた。

「僕が?」

「違う」

言葉を探す。

「自分が言ったことが。お前にどう受け取られたのかが」

キランの表情が和らいだ。

ギアは続けた。

「疲れたとか、子供の頃にいろいろ諦めたとか……そういう話をしたけど、お前の障害が問題だったって言いたかったわけじゃない」

「今はわかってるよ」

「ちゃんと理解してほしいんだ」

キランは頷いた。

ギアは息を吸った。

「あの状況が嫌になることはあった。疲れ果てるのが嫌だった。まだ背負う準備もできていない責任を負わなきゃいけないのが嫌だった」

声が小さくなった。

「でも、お前を嫌いになったことは一度もない」

キランは目を伏せた。

「僕は、嫌われてたんじゃないかって怖かった」

ギアは動きを止めた。

キランは悲しそうに微笑んだ。

「ノースブリッジのことを知ってから、ギアは本当は僕がきょうだいじゃなければよかったって思ってたんじゃないかって、考えるようになったんだ」

「キラン……」

「馬鹿みたいに聞こえるよね」

「そんなことない」

キランは顔を上げた。

ギアの胸が締めつけられた。

あの口論の後、弟が何を考えているのか、何日も想像していた。

実際に聞くと、想像以上につらかった。

「そんなふうに思わせたくなかった」とギアは囁いた。

キランはゆっくり頷いた。

「僕も、そう思わずに済めばよかった」


ギアは料理を脇へ寄せた。

古い棚に目を向ける。

そこには、何年も前の未完成の作品が入った箱が積まれていた。

「マーサー湖のこと、覚えてる?」

キランは少し考えた。

「キャンプ旅行?」

ギアは頷いた。

「十六歳の時、学校が企画したんだ」

「話してくれたことがあるね」

「行きたかった」

その声は、どこか遠くを見ているようだった。

「三日間。ハイキングして、キャンプして、焚き火を囲んで馬鹿な遊びをする。別に特別なことじゃない」

ギアは両手をこすり合わせた。

「みんな楽しみにしてた。誰と同じテントになるとか、何を持っていくとか、ずっと話してたよ」

キランは黙って聞いていた。

「参加同意書にも記入したんだ」

ギアは乾いた笑いを漏らした。

「でも、母さんの勤務予定が変わった。代わりの介助者もその週末は来られなくなって、他の人を手配する時間も足りなかった」

床を見つめた。

「だから、行かなかった」

キランは何も言わなかった。

「誰かに残れって命令されたわけじゃない。もっと強く頼めば、母さんも何か方法を探してくれたと思う」

少し間を置いた。

「でも、どれだけ疲れてるか知ってた。自分が行きたいって言ったら、母さんが何をしなきゃいけなくなるかもわかってた」

ギアは唾を飲み込んだ。

「そういうことが続くと、そのうち頼まなくなるんだ」

視線が、棚に置かれた古いロボット競技大会のトロフィーへ移った。

「ロボットの大会もあった。自律型の小さな救助ロボットを設計してたんだ。障害物を避けて、物資を運べるやつ」

キランはトロフィーを見た。

「どうなったの?」

「出なかった」

「どうして?」

ギアは肩をすくめた。

「旅費がなかった。時間も使えなかった。いつも何かしら事情があったんだ」

自分の手を見た。

「誕生日パーティーも、学校の行事も、友達と遊ぶ時間も、たくさん逃した」

声が震え始めた。

「そのたびに、どうでもいいって自分に言い聞かせてた」

キランは動かなかった。

「だって、家にはもっと大きな問題があった。母さんは精いっぱい頑張ってた。お前には必要な支援があって、それを提供するはずの制度や人手が足りないことも多かった」

ギアの呼吸が乱れ始めた。

「そのどれも、お前のせいじゃないってわかってた」

額に手を当てる。

「でも、わかってたって、疲れなくなるわけじゃないんだ」

頬を涙が伝った。

ギアは苛立たしげに拭った。

「……スナット」

キランは何も言わなかった。

ギアは笑おうとした。

「どこかに行って、家のことを心配しなくてもいいって、どんな感じなんだろうって考えてた」

声が裏返った。

「たった一回でよかったんだ。一回だけ、普通に十六歳でいられる週末が欲しかった」

両手で顔を覆った。

「時々、自分勝手になりたかった」

肩が震え始める。

「誰か別の人に、全部何とかしてほしかった」

キランは見守っていた。

その目にも涙が浮かんでいる。

ギアは手を下ろした。

顔は涙で濡れていた。

「キラン。お前のきょうだいでいるのを、やめたかったわけじゃないんだ」

声が完全に崩れた。

「ただ……誰かに、子供でいさせてほしかったんだよ」

その言葉が二人の間に残った。

ギアは呼吸を整えようとした。

しかし、代わりに嗚咽が漏れた。

前かがみになり、両手で顔を覆う。

長年の疲労が、一度に押し寄せてきたかのようだった。

キランは口を挟まなかった。

全部うまくいったじゃないか、とは言わなかった。

ギアが成し遂げた素晴らしいことを並べ立てることもしなかった。

ただ、隣にいた。

しばらくして、ギアは涙声で再び話し始めた。

「お前のために何か作るのは、好きだったんだ」

キランは聞いていた。

「うまく動いた時に、お前が笑うのが好きだった。何を作ってても、隣で百万個くらい質問してくるのも好きだった」

震える声で笑った。

「半分くらいは馬鹿な質問だったけど」

キランの口元に笑みが浮かんだ。

「半分だけ?」

ギアは顔を拭った。

「わかったよ。ほとんど全部」

しかし、すぐに表情が崩れた。

「でも、時々は……自分が何をしたいのか、誰かに聞いてほしかった」

キランは目を伏せた。

ギアは続けた。

「それで、ノースブリッジからあの手紙が届いた時……」

最後まで言葉にするのが難しかった。

「本当に行きたかったんだ」

声が囁きになった。

「封筒を開けた時の気持ち、今でも覚えてる」

キランは待った。

「五分くらい、本当に自分の人生が始まるんだと思った」

ギアは天井を見つめた。

「でも、家の中を見回したら、自分がいなくなった後のことばかり考え始めた」

肩が落ちた。

「だから、残った」

キランの頬を涙が伝った。

彼は拭わなかった。

ギアは弟を見た。

「ごめん」

キランは首を振った。

「子供時代が欲しかったことを、謝らなくていいよ」

ギアは彼を見つめた。

そして、再び泣き始めた。

今度は隠そうとしなかった。


ギアが落ち着くまでには、長い時間がかかった。

キランは隣にいたまま、時々ティッシュを差し出したり、水が欲しいか尋ねたりした。

二人とも、沈黙を無理に埋めようとはしなかった。

やがてギアは椅子の背にもたれた。

目が赤くなっている。

「いやあ……恥ずかしいところを見せたね」

キランは優しく見た。

「どうして?」

「弟の前で二十分も泣いてたんだよ」

「厳密には十七分ほどだった」とマッハが口を挟んだ。

二人は彼を見た。

マッハは少し間を置いた。

「場を和ませようとしたのだが、タイミングを誤ったようだね」

ギアは弱々しく笑った。

キランは首を振った。

「本当に信じられないな」

「よく言われる」

笑いが収まると、今度は少し心地よい沈黙が訪れた。

キランは壊れた推進装置を見た。

「ねえ、ギア」

「何?」

「僕、緊急事態には結構強いんだ」

ギアは片眉を上げた。

「結構どころじゃないだろ」

「燃えてる建物に飛び込んだり、ロボットと戦ったり、マッハが今にも死ぬって叫んでる中で判断したりできる」

「私は叫ばない」とマッハが抗議した。

「大文字を使うだろ」

「重要な違いだ」

キランはかすかに微笑んだ。

それからギアへ向き直った。

「でも、これはどうやって直せばいいのかわからない」

ギアの表情が和らいだ。

「何を?」

「全部」

キランは二人の間を示した。

「十五年分の、誰も話さなかったこと。ギアが失ったもの。父さんがいなくなったせいで変わってしまったこと」

声が小さくなった。

「何かできることがあるはずだって、ずっと考えてるんだ」

ギアは彼を見つめた。

キランは続けた。

「今の僕の仕事って、そういうことだろ? 何か問題が起きたら、助ける方法を考える」

首を振った。

「でも、時間を逆戻りさせて飛ぶことはできない。ノースブリッジを取り戻してあげることもできない」

「そうだね」とギアは答えた。

キランは彼らを見た。

ギアは顔に残った涙を拭った。

「でも、今はスーパーヒーローなんて必要ないんだ」

キランは黙っていた。

ギアは疲れたように微笑んだ。

「自分に必要なのは、弟なんだよ」

キランの表情が少し崩れた。

「それなら、できるよ」


工房の換気装置が低く唸っていた。

ギアは未完成の修理品を見渡した。

「どうやったらやめられるのか、わからないんだ」

「何を?」

「何でも自分で責任を取ろうとすること」

キランは少し考えた。

「一度に全部やめなくてもいいんじゃないかな」

ギアは彼を見た。

「時々は断ってもいいんだよ」

「客は嫌がるけどね」

「それくらいで死なないよ」

「どうだか」

キランは微笑んだ。

「人に助けを求めてもいいんだ」

ギアは天井を見た。

「そっちのほうがもっと嫌だな」

「どうして?」

「だって、断られるかもしれないだろ」

キランはその言葉を受け止めた。

ギアは続けた。

「それに、誰かに助けを頼むってことは、自分には全部できないって認めることだから」

キランは彼らを見た。

「誰にも全部はできないよ」

「わかってる」

「知ってることと、本当に信じられることは違うからね」

ギアは彼を見た。

「いつから哲学者になったんだ?」

「英語教師だからね。仕事内容に含まれてるんだ」

ギアは微笑んだ。

キランは続けた。

「ギアには、自分だけのものを持つ権利があるんだよ。母さんや僕の役に立つからじゃなくて、ギア自身が欲しいからっていう理由で」

ギアは作業台を見た。

「今となっては、それがどんなものなのかもわからない」

「だったら、これから探してみればいい」

「今さら?」

キランは笑った。

「九十歳みたいなこと言わないでよ」

「朝起きた時は九十歳くらいに感じるけどね」

「じゃあ、ちゃんと寝たほうがいいよ」

ギアはため息をついた。

「スナット」

キランの笑みが柔らかくなった。

「明日から大学に戻れって言ってるわけじゃない。工房を売れとも、人生を全部変えろとも言ってないよ」

少し間を置いた。

「ただ、自分で選んでいいんだって言いたいんだ」

ギアは考えた。

長い間、選択というものは解決すべき問題だった。

何かを決めるたび、それが他の誰にどう影響するかを計算しなければならなかった。

自分が欲しいから欲しい。

ただそれだけの理由で何かを望むことは、無責任なことのように感じられた。

そして、妙に怖かった。

「そういうの、得意じゃないんだ」と認めた。

キランは頷いた。

「じゃあ、一緒に覚えよう」

ギアは彼を見た。

「一緒に?」

キランは微笑んだ。

「まあ、僕も母さんのお節介なところを受け継いでるからね」

「それは控えめすぎる表現だな」

「おい」

ギアは笑った。

そして表情を和らげた。

「ありがとう、キラン」

彼は首を振った。

「お礼なんていらないよ」

「言いたいんだから、いいだろ」

キランは少し考えた。

「それもそうだね」


二人は食事を再開した。

オレンジチキンはすっかりぬるくなっていたが、ギアは気にしなかった。

何日ぶりだろう。

診断画面を確認したり、客のメッセージに返信したりせずに、ただ食事をしていた。

キランは、ハムレットが叔父をSNSでブロックしていれば悲劇のすべてを回避できたはずだと、自信満々に主張した生徒の話をした。

ギアは餃子を喉に詰まらせそうになった。

「いや、それは結構筋が通ってるだろ」

「お願いだから、生徒を甘やかさないで」

「追加点はあげた?」

「考えたよ」

マッハがテーブルの横に現れた。

「その生徒の分析には、エリザベス朝時代の政治と現代の通信技術の双方について、理解不足が見られる」

ギアは笑った。

「誰も聞いてないよ、マッハ」

「繰り返される不当な扱いだ」

キランは首を振った。

それからギアは、かつて出場したかったロボット競技大会について話し始めた。

最初の設計は、倒壊した建物の内部を移動できる小型救助ロボットだった。

「完璧じゃなかったけどね」とギア。「最初の試作機は、椅子の脚と壁をしょっちゅう間違えてた」

「聞き覚えがあるな」とキラン。

ギアは眉をひそめた。

「何が?」

「マッハの最初の走行試験」

マッハのアバターが振り向いた。

「初期システムは、ハードウェアの制約が非常に厳しかった」

「僕を本棚に突っ込ませたよね」

「あれは不幸な調整ミスだ」

「二回も」

「科学の進歩には、繰り返しの試験が不可欠だからね」

ギアは食べ物を置かなければならないほど笑った。

キランも一緒に笑った。

数分間、工房には昔のような笑い声が響いた。

過去が戻ってきたからではない。

問題が消えたからでもない。

二人が、これまでの出来事の下に埋もれていた、懐かしい何かを見つけたからだった。

まだ、お互いを笑わせる方法を覚えていたのだ。


キランが食べ終わる頃には、工房は静かになっていた。

天井の照明が、MACH-01Aの磨かれた装甲に反射している。

ギアは入口を見た。

「そろそろ帰る?」

「そうだね。採点しなきゃいけないプリントもあるし」

「そっか」

キランは、そのためらいに気づいた。

「何か必要?」

ギアは目を伏せた。

「実は……」

キランは待った。

「もう少し、ここにいてくれない?」

彼は微笑んだ。

「もちろん」

ギアは工房の中央制御盤を示した。

「機械を全部止めるの、手伝ってくれる?」

キランは片眉を上げた。

「本当に? 機械の電源を切るのは、ギアの宗教に反するんじゃなかった?」

「面白い冗談だね」

マッハの助けを借りて、キランは工房の中央制御システムにアクセスした。

一台ずつ、機械が静かになっていく。

換気ファンの回転が遅くなった。

診断モニターが暗くなった。

天井のロボットアームが格納位置へ折り畳まれる。

ギアは推進装置の試験設備を停止した。

何週間ぶりだろう。

何も、彼らの注意を求めてこなかった。

二人は開いた工房の扉の近くに並んだ。

外では、街灯に照らされた工業地区が静かに輝いていた。

配送トラックが通り過ぎる。

遠くで列車の警笛が鳴った。

ギアは背もたれに寄りかかった。

「変な感じだ」

「何が?」

「何もしてないこと」

キランは微笑んだ。

「怖いだろ?」

「ちょっとね」

二人は黙って座っていた。

ギアは沈黙を説明する必要を感じなかった。

キランも、それを埋めようとはしなかった。

しばらくして、ギアは弟を見た。

「キラン?」

「何?」

「また来てくれて、嬉しかった」

キランは彼らを見た。

「僕もだよ」

ギアはためらった。

「今夜だけで、全部うまくいくわけじゃないからね」

「わかってる」

「また怒ることもあると思う」

「たぶんね」

「それに、父さんのことをどうすればいいのかも、まだわからない」

キランは通りを見た。

「僕もだよ」

ギアは頷いた。

何が起こるかわからないことが、失敗のように感じられなかった。

少なくとも、今夜は。


キランが帰ったのは、午後十時近くだった。

ギアはMACH-01Aが通りの上空へ上昇し、紫色の航行灯が建物の間へ消えていくのを見送った。

しばらく入口に立っていた。

それから工房へ戻った。

壊れた推進装置の部品は、まだ作業台に置かれていた。

請求書も残っている。

客からのメッセージも、明日にはまた届くだろう。

何一つ、問題は消えていなかった。

ギアは散らばった工具を見た。

普段なら、あと一時間かけてすべて片づけ、それから疲労で動けなくなるまで仕事を続けていただろう。

しかし、今夜は違った。

通路を塞いでいる工具だけを拾った。

残りは明日でいい。

コミュニケーターを確認する。

別の客から、朝までに修理を終えられないかというメッセージが届いていた。

ギアは画面を見つめた。

指がキーボードの上で止まる。

そして、返信を打った。

申し訳ありませんが、明日までに修理を完了することはできません。残りの作業を確認したうえで、新しい完成予定日をお知らせします。

二度読み返した。

それから送信した。

何も恐ろしいことは起こらなかった。

警報も鳴らない。

工房も崩れない。

ギアは小さく笑った。

「……なんだ。できるじゃないか」

作業台の最後の照明を消した。

しかし、帰る前に、古い机の下の引き出しへ目が向いた。

ギアはそれを開けた。

中には、ノースブリッジ工科大学の紋章が入った、黄ばんだ封筒があった。

合格通知を取り出す。

何度も開いては畳んできたため、紙の折り目は弱くなり始めていた。

ギアは冒頭の文章を読んだ。

このたび、あなたの本学への入学を認めることとなりましたので、喜んでお知らせいたします……。

あの時の興奮を思い出した。

信じられなかった気持ち。

どこかに、自分の才能を認めてくれる人がいたのだ。

家族のために何ができるかではなく、ギア自身の能力を評価してくれる場所が。

長い間、その手紙は自分で閉ざした扉の象徴だった。

しかし、今夜は少し違って見えた。

もうノースブリッジは、自分の望む道ではないのかもしれない。

別の大学のほうが合っているかもしれない。

工房を続けながら、高度な工学研究に取り組む方法だってあるかもしれない。

あるいは、まだ考えたこともない夢を見つけるのかもしれない。

わからなかった。

そして初めて、今すぐ答えを出さなければならないとは感じなかった。

ギアは慎重に手紙を畳み、封筒へ戻した。

それから、引き出しに隠す代わりに、机の上へ置いた。

コミュニケーターが振動した。

キランからのメッセージだった。

無事に帰ったよ。今日は一緒にいさせてくれてありがとう。愛してるよ、ギア。

ギアは微笑んだ。

返信を打つ。

こっちこそ。愛してるよ、弟。

すぐに、もう一通届いた。

それと、明日はちゃんと朝ご飯を食べてね。

ギアは呆れたように目を回した。

スナット、お前。

キランはほとんど即座に返信した。

その調子!

ギアは小さく笑った。

最後にもう一度、工房を見渡す。

長い間、すべてを動かし続けることこそが、愛する人たちを守る唯一の方法だと思っていた。

しかし、誰かを愛することは、必ずしもその人の重荷を背負うことではないのかもしれない。

自分の荷物が重くなりすぎた時、隣に座ってもらうことを許すのも、愛情の一つなのかもしれなかった。

ギアは出口へ向かった。

疲れていた。

問題はまだ山積みだった。

それでも今夜、久しぶりに日付が変わる前に家へ帰ろうとしていた。

背後で工房の扉が閉まった。

そして机の上には、あえて消さずに残した小さなランプの温かな光に照らされて、古い大学の合格通知が置かれていた。

それはもう、失ったものすべてを思い出させるための手紙ではなかった。

ようやく自分自身に問いかけることを許した、一つの質問だった。

これから、自分は何をしたいんだろう?

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