奪われた子供時代
奪われた子供時代
部屋の反対側では、幼いキラン・キリアンが大笑いしていた。
「壊した!」
「壊してない!」
「煙が出てるよ!」
「これは機能の一つだ!」
キランはさらに笑い、車椅子のカップホルダーに置いたジュースをこぼしそうになった。
ギアはトースターのプラグを抜き、むき出しになった配線を調べた。交換したコンデンサーの一つが破裂し、基板には黒い焦げ跡が残っている。
ギアは眉をひそめた。
「……まあ、ちょっとだけ壊したかもな」
「ちょっと?」
「うるさい」
キランはにやりと笑った。
「母さんに怒られるよ」
「その前に直せばいいんだ」
ギアは別のドライバーに手を伸ばした。テーブルの上には配線や取り外した部品、元の位置がわからなくなったネジが散乱していたが、ギアの手つきには慣れがあった。
廊下から、疲れ切ったスザンヌの声が聞こえた。
「ジェラルド! 何か焦げ臭くない?」
ギアは凍りついた。
キランの笑みが広がった。
「終わったね」
「助けになってないぞ!」
スザンヌは仕事着のままキッチンに入ってきた。肩にはハンドバッグを掛けている。
彼女はトースターを見た。
次にギアを見た。
それからキランを見た。
そして再びトースターに視線を戻した。
「……事情を聞いたほうがいいのかしら?」
ギアは笑顔を作った。
「いい知らせがある! 動かなくなった原因がわかったと思う!」
スザンヌは目を閉じた。
「悪い知らせは?」
「前より動かなくなった」
キランは腹を抱えるように笑った。
スザンヌはため息をついたが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
「ちゃんとコンセントは抜いたの?」
「もちろん」
「火が出る前? それとも後?」
ギアは嘘をつこうか考えた。
「……後」
「ジェラルド!」
「ほんの小さな火だったんだ!」
スザンヌは首を振り、冷蔵庫へ向かった。
「ちゃんと直せるといいんだけど。今月は新しいのを買う余裕なんてないのよ」
ギアの笑顔が少し薄れた。
トースターに目を向ける。
「直せるよ、母さん」
スザンヌは振り返った。
「わかってるわ」
その言葉に嘘はなかった。
だからこそ、ギアは母親を失望させることができなかった。
ギアが機械に興味を持つようになったのは、数年前、キランの車椅子に断続的な電気系統の不具合が発生したことがきっかけだった。
修理技師は制御装置の交換にかなりの費用がかかると説明し、スザンヌはその後の診察中、どうすれば必要なお金を工面できるか考え続けていた。
ギアは修理技師の作業をじっと観察していた。
ケーブルを取り外す順番。
診断装置の使い方。
損傷したコネクターに故障の原因を絞り込む手順。
それ以来、ギアは電子工学について書かれたものを片っ端から読み始めた。
学校の図書館で修理マニュアルを借り、解説動画を見て、近所のリサイクル施設から捨てられた部品を集めた。
最初は簡単なものだった。
壊れた電気スタンド。
扇風機。
古いラジオ。
やがて、家計に余裕がない時に限って故障するキランの車椅子の部品にも手を出すようになった。
ギアは、機械が人間よりもずっと理解しやすいことに気づいた。
切れた配線は交換できる。
故障した回路は診断できる。
壊れたモーターは組み直せる。
動かないものには、たいてい原因がある。
だが、人間はそう簡単ではなかった。
特に、理由も説明せずに姿を消した父親となれば、なおさらだった。
中等学校に進む頃には、ギアの寝室は小さな工学研究室のようになっていた。机の上には回路基板や機械の設計図、組み立て途中の装置が山積みになっていた。
そんなギアの発明の一つが、理科教師のハルデン先生の目に留まった。
廃品から取り出したモーターと古い産業用制御装置を利用して作った、小型のロボットアームだった。
高い棚にある物を取るために設計したものだ。
授業での実演では、アームが机の上を伸び、プラスチック製のボトルをつかんで容器の中に入れた。
クラスから拍手が起こった。
ギアは得意げに笑った。
しかし次の瞬間、アームは容器まで持ち上げようとした。
ガシャーン!
プラスチック製品が床に散らばった。
拍手は笑い声に変わった。
ギアは装置を見つめた。
「……まあ、そこはまだ調整中だ」
授業が終わると、ハルデン先生が近づいてきた。
「ジェラルド、少し残ってくれるか?」
ギアはすぐに警戒した。
「怒られるんですか?」
「その装置が私を襲うつもりでなければね」
「保証はできません」
先生は笑い、ロボットアームを調べた。
「本当に一人で作ったのか?」
「はい」
「部品はどこで?」
「ほとんど廃品置き場とリサイクル施設です」
ハルデン先生は眉を上げた。
「制御プログラムは?」
「自分で書きました」
先生は改めて装置を見つめた。
「君には素晴らしい才能がある」
ギアは肩をすくめた。
「ただの趣味ですよ」
「いや、ただの趣味ではない」
ハルデン先生は机から一冊のパンフレットを取り出した。
「本格的に工学を学ぶことを考えたことはあるか?」
ギアは瞬きをした。
「大学とかですか?」
「そうだ」
ギアは笑った。
「もちろん。お金を印刷する機械を発明した後なら」
「真面目な話だよ」
先生はパンフレットを差し出した。
表紙には、近未来的な研究施設に囲まれた巨大なキャンパスが写っていた。
ノースブリッジ工科大学
ギアは目を見開いた。
その名前なら知っていた。
ノースブリッジは国内でも屈指の名門工科大学で、ロボット工学研究所や先進推進技術の研究で有名だった。
「冗談ですよね?」
「とんでもない」
ハルデン先生はパンフレットを手渡した。
「優秀な学生を対象とした奨学金制度がある。応募してみるべきだと思う」
ギアは写真を見つめた。
ロボットの試作品を組み立てる学生たち。
実験用エンジンを試験する研究者たち。
浮遊式機械プラットフォームが並ぶ研究室。
何年かぶりに、ギアは家の問題を解決するためではない機械を作る自分を想像した。
自分自身が作りたいものを作る未来。
出願の準備には数か月かかった。
ギアは機械設計の作品集、成績証明書、自作の発明品の写真をまとめた。ハルデン先生は、限られた資源で複雑な問題を解決するギアの能力を高く評価した推薦状を書いてくれた。
ギアは時間を見つけては出願書類に取り組んだ。
昼休み。
放課後。
そして多くの場合、キランの機器を点検し、スザンヌが眠った後の深夜だった。
母親には学校の課題をしていると説明していた。
完全な嘘ではなかった。
ただ、その課題がどれほど重要なのかを話していなかっただけだ。
ある夜、キランが推進装置の設計図を眺めるギアを見つけた。
「それ何?」
ギアは慌てて紙を隠した。
「何でもない」
キランは眉をひそめた。
「何でもなくは見えないけど」
「宿題だ」
「いつから宿題にロケットエンジンが出るようになったの?」
「先生が授業を面白くし始めてからだよ」
キランは身を乗り出した。
「それ、作れる?」
「たぶん」
「僕の車椅子につけられる?」
ギアは弟を見つめた。
「絶対に駄目だ」
「お願い!」
「駄目」
「空を飛べるじゃん!」
「爆発するかもしれないだろ」
キランは少し考えた。
「ギアが作り間違えなければ大丈夫だよ」
ギアは丸めた紙を投げつけた。
「出ていけ!」
キランは笑いながら走行していった。
ギアは弟が去るのを見届けると、設計図を広げ直した。
車輪や普通の道路に頼らず、人を空へ運ぶ機械。
どこへでも行ける乗り物。
そんなものを想像した。
そして微笑んだ。
いつか、きっと。
合格通知が届いたのは、木曜日の午後だった。
ギアは郵便物の中からその封筒を見つけた。電気料金の請求書と、キランの医療用品の支払い通知に挟まれていた。
封筒にはノースブリッジの校章が印刷されていた。
心臓が激しく鼓動し始めた。
ギアは封筒を寝室へ持っていき、扉を閉めて慎重に開封した。
ジェラルド・キリアン様
このたび、あなたがノースブリッジ工科大学の先端工学プログラムに合格されたことを、喜んでお知らせいたします。
ギアは読むのをやめた。
その一文を見つめた。
もう一度読んだ。
さらにもう一度。
「……嘘だろ」
続きを読んだ。
大学の設備や学生寮、そして授業料を負担する高額な成績優秀者向け奨学金について説明されていた。
生活費などの問題は残っていたが、今まで夢でしかなかった進学が現実的な選択肢になったのだ。
ギアはベッドに倒れ込んだ。
そして笑った。
本当に合格したのだ。
ノースブリッジ。
工学雑誌に載っている研究施設。
国内でも最先端の機械が開発される場所。
そこがギアを求めている。
しばらくの間、笑顔が止まらなかった。
学生寮での生活。
同じ興味を持つ友人たち。
写真でしか見たことのない設備が揃った研究室。
推進技術やロボット工学の講義。
空を飛ぶ機械の開発。
いつか自分の会社を立ち上げることさえ、夢ではないかもしれない。
久しぶりに、未来が無限に広がっているように感じられた。
しかも、その未来は自分自身のものだった。
ギアは寝室の扉へ駆け寄った。
「母さん! 聞いてくれ――」
ドアノブに伸ばした手が止まった。
キッチンからスザンヌの声が聞こえた。
「はい、支払いが遅れていることは承知しています」
ギアは動きを止めた。
「できる限りのことはしているんです」
沈黙。
「いいえ、今日中に全額は払えません」
声が苦しそうになった。
「お願いします。あと一週間だけ待っていただけませんか」
ギアはゆっくりと手を下ろした。
胸いっぱいに広がっていた喜びが薄れていった。
合格通知を振り返る。
ノースブリッジは、家から何百マイルも離れていた。
スザンヌはキランと二人きりになる。
そしてギアは、もう手伝えなくなる。
その夜、キランの車椅子が故障した。
夕食の直後、駆動モーターの一つから耳障りな摩擦音が響き始め、やがて完全に停止した。
ギギギギ――ガコン!
キランは操作装置を見つめた。
「あれ……」
ギアは流し台から顔を上げた。
「どうした?」
「また例のやつだ」
ギアは手を拭いて近づいた。
「例のやつ?」
「車椅子が車椅子であることを放棄するやつ」
ギアは診断画面を調べた。
モーター制御装置のエラーが点滅している。
ため息をついた。
「最悪だ」
スザンヌが入口に現れた。
「どうしたの?」
「駆動モーターだ」
「直せる?」
ギアは少しためらった。
「たぶん。でも、ケースを分解しないと」
スザンヌは時計を見た。
もう遅い時間だった。
「明日まで待てないかしら?」
キランはギアを見た。
「僕は平気だよ」
ギアは首を振った。
「いや。今夜直す」
「ジェラルド、明日は学校でしょう」
「わかってる」
「今週、ほとんど寝ていないじゃない」
「大丈夫だよ」
スザンヌはその顔を見つめた。
「本当に?」
ギアは笑った。
「うん。母さんは休んでて」
彼女はためらった末に頷いた。
「わかったわ。でも、あまり夜更かししないでね」
ギアは約束した。
そして、ほとんどすぐにその約束を破った。
真夜中になる頃には、キッチンテーブルが工具で埋め尽くされていた。
ギアは先ほどキランが安全にベッドへ移るのを手伝い、必要なものがすべて手の届く場所にあることを確認してから、故障した車椅子の修理に戻っていた。
モーターのケースは開かれ、卓上ランプの下に内部構造がむき出しになっている。
ギアは損傷した部品を調べ、接続部分を検査し、故障の原因を探した。
摩耗したベアリングが過剰な摩擦を引き起こし、制御装置にも負担をかけていた。
修理は可能だった。
ただし、時間がかかる。
午前一時、ベアリングを交換した。
午前二時、損傷した接続部分を修復した。
午前三時、ケースの組み立て直しを始めた。
指先は痛み、睡眠不足で目が焼けるようだった。
工具の隣には、ノースブリッジの合格通知が置かれていた。
母親に報告しようと思い、下へ持ってきたものだった。
だが今、その上には未払いの電気料金の請求書が重なっていた。
ギアは合格通知を見つめた。
そして廊下に目を向けた。
スザンヌは明日も長時間働く。
キランには学校がある。
医療用品の管理。
機器の整備。
次から次へと届く請求書。
自分がいなくなったら、誰がそれを引き受けるのだろう。
もちろん、母親にもできることはある。
だが、すでに疲れ切っていた。
キランも少しずつ自分でできることを増やしていたが、身体的な介助が必要な場面はまだ多かった。
ほかの支援を手配することもできるだろう。
しかし、それにはお金も時間も、信頼できる人手も必要だった。
キリアン家には、そのどれもが十分ではなかった。
ギアは奨学金の通知を見つめた。
初めて、その機会は招待状ではなく、一つの問いのように感じられた。
家族が助けを必要としているのに、出ていく人間って何なんだ?
ギアはスーツケースを思い出した。
雨の降る夜。
玄関から消えていく父親の背中。
母親を誰が助けるのかと尋ねたこと。
そして、返事がなかったこと。
ギアは歯を食いしばった。
自分にはできない。
絶対に。
午前四時、ようやくモーターが動いた。
ウィィィン!
診断画面が正常表示に戻る。
「よしっ!」
ギアは両手を上げて喜んだ。
しかし、肩に鋭い痛みが走り、すぐに後悔した。
「いてて……」
椅子の背もたれに寄りかかった。
合格通知はまだテーブルにあった。
ギアはそれを手に取った。
何分もの間、大学の校章を見つめていた。
そして紙を折り畳み、ポケットにしまった。
一週間後、ギアは入学を辞退した。
寝室の机に座り、大学の入学手続きサイトを見つめていた。
画面には二つの選択肢が表示されていた。
【入学を承諾する】
【入学を辞退する】
カーソルは最初の選択肢の上にあった。
ギアは研究室を想像した。
学生たち。
家のことを気にせずに目覚められる毎日。
自分がいなければ家庭が回らないのではないかと心配する必要のない生活。
ただの工学部生、ジェラルド・キリアン。
何でも修理する役目を背負った人間ではなく。
母親の請求書を手伝う人間でもなく。
問題が起きるたびに駆けつける人間でもなく。
ただの学生。
ただの自分。
手が震えた。
そしてカーソルを動かした。
【入学を辞退する】
確認画面が表示された。
本当に入学を辞退しますか?
ギアは画面を見つめた。
誰も、こんな決断をしろとは言っていなかった。
スザンヌなら、きっと進学を勧めてくれただろう。
キランなら、大喜びしたはずだ。
ハルデン先生なら、可能な限りの方法を一緒に探してくれたに違いない。
ギアにはわかっていた。
それでも、家を離れることができるとは思えなかった。
クリックした。
【確定】
画面が更新された。
回答を受け付けました。
ギアは動かなかった。
劇的な音楽が流れることもなかった。
突然、何かに気づくこともなかった。
誰かが部屋に入ってきて止めてくれることもなかった。
何か月も追いかけてきた夢は、画面上のわずかな文字によって終わった。
ギアはパソコンを閉じた。
そして階下へ降り、夕食の準備を始めた。
数日後の夕方、キランは古いラジオを修理しているギアを見つけた。
車椅子を作業台のそばに寄せ、ギアが損傷したスピーカーの接続部分を交換する様子を眺めていた。
「ねえ、ギア?」
「ん?」
「大きくなったら何になりたい?」
ギアの手が止まった。
「何だって?」
「仕事のことだよ」
ギアは笑った。
「何で急に?」
「学校で将来の仕事について話したんだ」
「ああ、そうか」
キランは元気よく頷いた。
「僕、先生になりたいんだ」
ギアは弟を見た。
「先生?」
「うん」
「どうして?」
キランは肩をすくめた。
「勉強するのも、人に説明するのも好きだから」
ギアは眉を上げた。
「誰も聞いてないのに喋るのも好きだしな」
「その通り!」
ギアは笑った。
「何の先生?」
「英語かな」
「理科が好きなんじゃなかったのか?」
「好きだよ。でも最近、本もたくさん読んでるんだ」
ギアはラジオに向き直った。
「まあ、お前ならいい先生になれると思うよ」
キランは微笑んだ。
「本当?」
「ああ。三人分くらい喋るからな」
「ひどい!」
ギアはにやりと笑った。
するとキランが尋ねた。
「ギアは?」
ギアの笑顔が薄れた。
「何が?」
「何になりたいの?」
ギアは部屋の隅を見た。
机の下には古い段ボール箱が置かれていた。
中には工学の設計図、出願書類、そしてノースブリッジの合格通知が入っていた。
一瞬、すべてを話そうと思った。
奨学金のこと。
研究室のこと。
自分が断った機会のこと。
しかし、キランは何の疑いもない笑顔でこちらを見ていた。
言葉が出てこなかった。
ギアは肩をすくめた。
「修理屋でも開こうかな」
キランの目が輝いた。
「本当?」
「悪くないだろ?」
「すごいじゃん!」
ギアはかすかに微笑んだ。
「そう思うか?」
「うん! いろんなものを直せるよ!」
「まあ、それが仕事だからな」
キランは身を乗り出した。
「それに、何か作ることだってできる!」
「そうだな」
「ギアなら何だって作れるよ!」
ギアは弟を見つめた。
キランは笑っていた。
その言葉がどれほど胸に響くのか、まったく知らないまま。
ギアは無理に笑った。
「ああ」
ラジオへ視線を戻した。
「作りたいものなら、何だってな」
現在。
その日の工房は、いつになく静かだった。
ギアは保管棚の前に立ち、数か月前に購入したはずの交換部品を探していた。
「どこにしまったんだよ、あれ……」
古いケーブルの入った容器を引っ張り出した。
ない。
壊れたセンサーの箱を開けた。
やはりない。
その時、壁際の奥に押し込まれた、埃まみれの段ボール箱が目に入った。
ギアは眉をひそめた。
見覚えがあった。
何年も開けていない箱だった。
本来の目的を忘れ、好奇心に負けたギアは箱を作業台へ運び、蓋を開けた。
中には昔の学校の課題、色褪せた機械の設計図、数式で埋め尽くされたノートが入っていた。
ギアは一枚の設計図を手に取った。
粗雑な飛行プラットフォームの図面だった。
思わず笑った。
「うわ……これ、絶対誰か死んでたな」
別の図面を調べた。
ロボットアーム。
教室で恥をかいた、あの装置だった。
箱の底には、見覚えのある封筒があった。
ギアの笑顔が消えた。
埃をかぶった封筒には、今もノースブリッジの校章が残っていた。
ギアはそれを手に取った。
慎重に。
どこかためらいながら。
紙は年月とともに少し黄ばんでいた。
折り畳まれた手紙を開いた。
このたび、あなたが合格されたことを、喜んでお知らせいたします……
ギアは最初の一文を読んだ。
そして、読むのをやめた。
長い間、作業台のそばに立ち尽くした。
合格通知を受け取った時の興奮を思い出した。
想像していた研究室。
まだ出会っていない友人たち。
手に入ったかもしれない人生。
そして、家に残ることだけが正しい選択だと自分に言い聞かせた、あの夜。
ギアは工房を見回した。
機械。
工具。
発明品。
自分は価値のあるものを築き上げた。
その仕事に誇りを持っていた。
しかし、だからといって、別の人生を歩んでいたらどうなっていたのか、一度も考えなかったわけではない。
「ギア?」
その声に、ギアはびくりとした。
慌てて手紙を折り畳む。
キランが工房の入口から浮遊しながら入ってきた。隣にはマッハがいた。
「やあ! 何してるの?」
ギアは封筒をノートの下に滑り込ませた。
「掃除だ」
キランは周囲を見回した。
「掃除?」
「ああ」
キランは物で埋め尽くされた作業台を眺めた。
「本当に?」
ギアは睨んだ。
「余計なこと言うな」
マッハが室内をスキャンした。
「一般的な基準から判断すると、この工房は依然として著しく散らかっているね」
「お前にも聞いてない」
キランは笑った。
そして開いた箱に気づいた。
「それ、何?」
「昔のガラクタだよ」
キランが近づいた。
「あれ、ロボットアーム?」
ギアは下を見た。
「ああ。学生の頃に作ったやつだ」
キランは微笑んだ。
「覚えてる!」
「本当か?」
「もちろん! 物をつかむやつでしょ!」
ギアはくすくす笑った。
「物を投げたりもしたけどな」
「そうそう! あれが一番面白かった!」
二人は笑い合った。
キランは別の設計図を調べた。
「すごいね。昔からこんなもの作ってたんだ」
ギアは肩をすくめた。
「ただ遊んでただけだよ」
キランはMACH-01Aを見た。
「昔から変わらないね」
「ああ」
マッハが箱に近づいた。
「これらの設計は、当時の年齢を考えると非常に高度な技術水準に達しているね」
ギアはかすかに微笑んだ。
「ありがとな」
キランは設計図を戻した。
「そうだ、夕飯買ってきたよ」
ギアは顔を上げた。
「何?」
「中華料理」
ギアは少し考えた。
「許す」
「何を?」
「お前がやらかしたこと全部だ」
キランは笑った。
弟が近くのテーブルへ向かうと、ギアは静かに合格通知を箱へ戻した。
上からノートを重ね、蓋を閉めた。
十五年間、ギアは自分の決断が必要だったと言い聞かせてきた。
家に残ることが責任ある選択だったのだと。
自分の意思で選んだことを後悔しても仕方がないのだと。
しかし、ダニエルの帰還によって、忘れたかった記憶が再び蘇っていた。
そして今、箱を胸に抱えながら、ギアは考えずにはいられなかった。
自分が犠牲にした人生は、本当に自分だけの判断で手放してよいものだったのだろうか。
「ギア!」
工房の向こうからキランが呼んだ。
「ご飯が冷めちゃうよ!」
ギアは弟を見た。
そして箱に視線を落とした。
「今行く!」
作業台の下に箱を置いた。
見えない場所へ。
十五年前と同じように。
それから弟と夕食を食べ始め、マッハと店が付けてくれたソースの量について言い争いながら笑った。
作業台の下に隠された古い封筒に、誰も気づかなかった。
奨学金のことも。
そして、MACH-01Aを生み出した優秀なエンジニアになるずっと前、ギアにはまったく違う未来を選ぶ機会があったことも。
その未来を、誰にも告げずに手放したことも。
才能がなかったからではない。
機会がなかったからでもない。
ただ、かつて一人の怯えた子供が、父親の去っていく背中を見つめながら、自分自身にある約束をしたからだった。
誰かが残らなきゃいけない。
そしてギアは、自分だけは決して去る側にならないと決めていた。




