カタリスト:最初のVent (III)
ハンク・ドーソンが修理工場の扉を開けて最初に目にしたのは、通りの向こうに停まっている巨大な貨物トラックだった。
二番目に目にしたのは、ウォルター・ブリッグスだった。その表情は、埋蔵金を発見したか、よほどひどく頭を打ったかのどちらかにしか見えなかった。
そして三番目に目にしたのは、彼の隣に浮かんでいる、誰も乗っていない車椅子だった。
ハンクはそれを見つめた。
次にウォルターを見た。
そして、もう一度車椅子を見た。
彼はゆっくりと扉を閉め始めた。
「無理だ」
ウォルターはブーツで扉を押さえた。
「おい、ちょっと待てって!」
「無理だ」
「ハンク!」
「ウォルター、お前が何を飲んできたのか知らんが、俺はいらんぞ」
「何も飲んでねえよ!」
「じゃあ、何を吸ってきたんだ?」
「ハンク! いいからこいつを見てくれ!」
「見てるよ! だから困ってるんだろうが!」
ハンクは五十代後半のがっしりした男で、灰色のひげと太い前腕を持ち、三十年間にわたって「車から変な音がするんだが、今は再現できない」と言い張る客を相手にしてきた人間特有の、常にうんざりした表情を浮かべていた。
彼の修理工場は、自動車部品、診断装置、古い機械、そして中身が独立した生態系を形成していてもおかしくないコーヒーマグで埋め尽くされた、秩序ある混沌だった。
農業機械から軍の払い下げ車両まで、あらゆるものを修理してきた。
しかし、空中に浮かぶ車椅子を修理したことは一度もなかった。
まして、誰も座っていない車椅子など。
「運転してる奴はどこだ?」とハンクは尋ねた。
「いねえよ」
「じゃあ、誰が操作してる?」
ウォルターは肩をすくめた。
「どうやら、自分で動いてるらしい」
ハンクは目を見開いた。
「どうやら、だと?」
車椅子が彼の方へ回転した。
「挨拶する。」
ハンクは口をあんぐり開けた。
クローム製のフレームは地面から約五十センチの高さに浮かび、磨き上げられた表面に弱い朝日を映していた。背もたれの上部には、細い紫色の光が灯っていた。
ハンクはゆっくりウォルターを見た。
「お前、しゃべる椅子を連れてきたのか」
「正確には、空飛ぶ椅子だな」
「余計に悪いわ!」
カタリストがわずかに傾いた。
「援助を必要としている。」
ハンクは椅子を見た。
「そりゃそうだろうな」
「私のシステムは損傷している。」
「だろうよ」
「修理が必要と思われる。」
ハンクは目を閉じた。
ウォルターはにやりと笑った。
「で、手伝ってくれるか?」
ハンクは片目を開けた。
「いくら払う?」
ウォルターの笑顔が消えた。
「おいおい、ハンク」
「そう言うと思ったぜ」
ウォルターが言い返す前に、低い機械音がダストヘイヴンの町に響き渡った。
三者は空を見上げた。
薄くなり始めた雲の間から、六つの黒い影が現れた。
それらは密集した編隊を組み、町の中心部へ降下していた。
ウォルターは目を細めた。
「何だ、ありゃ?」
カタリストの紫色の光が強まった。
「敵対的システムが接近中。」
ハンクは眉をひそめた。
「敵対的?」
影は次第に大きくなった。
それらは装甲を備えた航空展開プラットフォームだった。角張った機体はつや消しの黒で塗装され、機体下部にはセンサーアレイ、拘束弾発射装置、小型エネルギー兵器などの特殊装備が取り付けられていた。
エンジンは低く不気味な唸りを発し、修理工場の窓を震わせた。
一機が編隊から離れた。
そのまま通りへ向かって降下してくる。
ウォルターは一歩後ずさった。
「こいつは嫌な予感がするな」
カタリストは彼と接近する航空機の間に移動した。
「ウォルター。退避せよ。」
ウォルターは椅子を見た。
「何から退避しろって?」
航空機の外部スピーカーが作動した。
「通告する。現在、この区域は連邦保安当局の管理下に置かれている」
その声が、まだ眠たげな町全体に響き渡った。
扉が開いた。
カーテンが動いた。
突然現れた軍用機に困惑しながら、人々が家や店から顔を出した。
「すべての民間人は建物内に留まること」
ハンクはウォルターを見つめた。
「お前、俺の町に何を連れてきたんだ?」
ウォルターは答えなかった。
なぜなら、カタリストを発見して以来、彼自身も初めて同じ疑問を抱き始めていたからだ。
最初の航空プラットフォームがメインストリートの中央に着陸した。
下向きの推進気流が砂ぼこりや新聞紙、路上のごみを吹き飛ばした。
二機目はガソリンスタンドの近くに着陸した。
残る四機は上空に留まり、町の外周を取り囲むように配置された。
油圧式のランプが降りた。
先頭の機体から、重武装した六人の兵士が現れた。
彼らの装甲は、町の住民が軍事ニュース以外で見たことのないものだった。
全員が黒い強化外骨格を身につけ、関節部分には発光する表示灯が走っていた。密閉式ヘルメットが顔を完全に隠している。
武器も普通ではなかった。
一人は回転式の電磁チャンバーを備えたライフルを持っていた。
別の兵士は背中の加圧タンクにつながった大型砲を装備していた。
さらに二人は、通常の弾薬ではなく拘束装置を発射するための、銃口の広いランチャーを携えていた。
その中心を歩いていたのがローク司令官だった。
ヘルメットのバイザーには、ハンクの修理工場の外に浮かぶ、誰も乗っていないクローム製の車椅子が映っていた。
「標的を確認した」と彼は通信機に告げた。
声が返ってきた。
「ローク司令官、こちらクロス。命令を忘れないで。封じ込めのみよ」
「了解」
ロークは通信を切った。
装甲に覆われた片手を上げる。
兵士たちが散開した。
彼らの武器がカタリストを追った。
ウォルターが前に出た。
「おい! ちょっと待て!」
ロークは足を止めた。
「一般市民は自宅へ戻れ」
「ここは俺の家じゃねえ」
「ならば、この区域から立ち去れ」
「何が起きてるのか説明してもらうまでは動かねえぞ!」
ロークは暗いバイザー越しに彼を見た。
「あの機械は連邦政府の機密財産だ」
ウォルターは肩越しにカタリストを見た。
そしてロークへ向き直った。
「おかしいな。誰かの持ち物だなんて、一言も聞いてねえぞ」
「これは交渉ではない」
「だったら、ずいぶん説得が下手くそだな」
ハンクが戸口から顔を出した。
「ウォルター、自分の頭よりでかい武器を持った連中に喧嘩を売るのはやめた方がいいぞ」
ウォルターは無視した。
「いいか、俺はこいつをハイウェイで見つけたんだ。壊れてて、混乱してて、自分がどこから来たのかも思い出せねえ。だから修理してもらおうと思って連れてきた」
ロークのヘルメットがわずかに傾いた。
「対象を輸送したのか?」
「ああ」
「身体に接触されたか?」
「いや」
「身体を走査しようとしたか?」
ウォルターはためらった。
「まあ、それは……」
ロークが武器を構えた。
「そこから離れろ」
カタリストの紫色の光が点滅した。
「ウォルターは私を援助した。脅威ではない。」
数人の兵士が落ち着かなさそうに姿勢を変えた。
ロークは空の座席を見つめた。
「しゃべれるのか」
「肯定。」
「命令は理解できるか?」
「肯定。」
「ならば、よく聞け」
ロークは一歩近づいた。
「推進システムを停止し、すべての防御機構を無効化して、連邦当局の管理下に入れ」
カタリストは動かなかった。
内部プロセッサーが命令を分析した。
権限:未確認
敵対的兵器反応を検出
命令への服従に伴う危険性:高
「封じ込めの必要性について説明を要求する。」
ロークは武器を握る手に力を込めた。
「俺が命令したからだ」
カタリストの紫色の光が脈打った。
「説明として不十分。」
ハンクが喉を詰まらせたような音を立てた。
ウォルターは彼を見た。
「何だよ?」
ハンクはささやいた。
「あの椅子、お前より肝が据わってるぞ」
ウォルターは思わず笑いそうになった。
だが、ロークは笑わなかった。
「最後の警告だ」
彼は兵士たちに合図した。
二人が前進する。
拘束ランチャーが充電音を響かせた。
カタリストは後退した。
「私は交戦を望まない。」
「ならば従え」
「情報を必要としている。」
「要求する権利はない」
ロークは手を下ろした。
「拘束しろ」
最初の拘束ランチャーが発射された。
ドンッ!
金属製のカプセルがカタリストへ飛んだ。
空中でカプセルが開き、重りのついた六本のケーブルが網状に広がった。
カタリストのセンサーが接近する装置を追跡した。
拘束システムを検出
回避行動を開始
ホバーチェアが横へ急加速した。
網は修理工場の看板に直撃した。
ガシャァン!
「AUTO EPAIR」の残っていた文字が砕け散り、歩道へ降り注いだ。
ハンクは残骸を見つめた。
「俺の看板が!」
ウォルターは彼の腕をつかんだ。
「ハンク、中に入れ!」
二発目のランチャーが発射された。
カタリストは弾の下へ潜り込んだ。
カプセルは駐車中の車に命中した。
ケーブルが車体に巻きつき、ドアがひしゃげるほどの力で締めつけた。
車の警報装置が鳴り始めた。
ロークがライフルを構えた。
「動くな!」
「あなたの部下が私を攻撃している。」
「合法的な拘束に抵抗しているのはお前だ!」
「私は暴力行為を開始していない。」
「今から状況が変わる」
電磁ライフルが放電した。
バリィィィッ!
青白い電撃がカタリストのクローム製フレームを直撃した。
椅子が激しく揺れた。
浮遊機構が不安定になる。
電磁干渉を検出
電力供給系統に異常
構造健全性:81%
カタリストは路面へ落下しかけた。
ウォルターが叫んだ。
「おい! 撃つのをやめろ!」
一瞬、椅子は無力に見えた。
しかし、その時、損傷した内部構造の奥深くで何かが目覚めた。
防御プログラム。
古代のもの。
破損したコードの層の下に埋もれていた機能。
敵対的接触を確認
自律防御を許可
電撃による反撃が可能
紫色の光がクローム製フレーム全体を駆け巡った。
バリバリバリィィィッ!
枝分かれした電撃がカタリストのアームレストから噴き出した。
電撃は電磁ライフルを直撃した。
武器が火花を散らして爆発する。
ライフルを持っていた兵士は後方へ吹き飛ばされ、装甲車両の側面に激突した。
強化外骨格が衝撃の大部分を吸収したものの、兵士は意識を失って倒れた。
残る兵士たちは凍りついた。
カタリストは再び空中へ上昇した。
紫色の光が激しく点滅する。
「何が……起きた?」
ウォルターは目を見開いた。
「なんてこった……」
カタリストは倒れた兵士へ向いた。
「そのつもりでは……」
ロークが怒鳴った。
「敵対行動を確認!」
彼は椅子を指差した。
「全隊員、攻撃開始!」
続く三十秒間で、ダストヘイヴンは静かな砂漠の町から戦場へと変貌した。
極低温砲が発射された。
ブォォォォッ!
超低温の蒸気がメインストリートを吹き抜けた。
カタリストは上空へ急加速した。
攻撃はフレームを外れたものの、食堂の側面に命中した。
窓一面に霜が広がった。
ガラスにひびが入る。
店内では客たちが悲鳴を上げ、壁から離れようと必死になっていた。
カタリストは広がる氷を走査した。
極低温エネルギーを検出
環境危険を確認
システムは本能的に反応した。
座席の下に紫色の光輪が現れた。
周囲の気温が急激に低下する。
氷の結晶がクローム製フレームの周囲に生まれ、回転する雲となって集まった。
カタリスト自身にも、何をしているのか分からなかった。
ただ、内部の何かが攻撃を認識し、それに対する答えを生み出したことだけは分かった。
「未知の機能が起動した。」
氷の結晶が外側へ放たれた。
シャァァァッ!
氷の波が通りを駆け抜けた。
兵士たちは散開した。
一人が足を滑らせた。
別の兵士は凍った街灯に激突した。
極低温砲を持った兵士は後退しようとしたが、足元の地面が完全に凍りついた。
ブーツが氷に閉じ込められた。
「司令官! 動けません!」
ロークは悪態をついた。
「熱制圧だ! 今すぐ!」
上空のプラットフォームが集中熱パルスを発射した。
攻撃は凍結した路面に命中した。
ドォォォン!
蒸気が爆発的に噴き上がった。
急激な膨張によって周囲の窓ガラスが砕け散った。
破片が歩道へ降り注いだ。
カタリストのセンサーが破壊を記録した。
複数の民間施設に損害
非戦闘員の存在を確認
脅威レベル上昇
「攻撃を停止せよ。民間人が危険にさらされている。」
ロークは警告を無視した。
「運動エネルギー吸収装置を展開!」
二人の兵士が重い盾を構えて前進した。
強化外骨格が起動し、前腕に半透明の障壁が形成された。
カタリストは退却しようとした。
その時、拘束ケーブルが左のアームレストに絡みついた。
ガキンッ!
ケーブルが張り詰めた。
ランチャーを持つ兵士が踏ん張った。
「標的を拘束!」
別のケーブルが反対側のアームレストに命中した。
カタリストは二人の兵士の間で引っ張られた。
推進システムが悲鳴を上げる。
移動制限
外部からの力が安全限界を超過
クローム製フレームがきしんだ。
カタリストは初めて、恐慌に似たものを感じた。
その感覚を理解できなかった。
動けなくなることが、なぜこれほど激しい反応を引き起こすのかも分からなかった。
しかし、損傷した記憶データの奥深くに、ある映像が浮かび上がった。
一つの部屋。
金属製の拘束具。
叫ぶ声。
捕まってはだめ。
記憶は消えた。
カタリストの紫色の光が燃えるように輝いた。
「私を解放しろ!」
強烈な運動エネルギーの衝撃波が椅子から噴き出した。
ドガァァァァン!
二人の兵士が後方へ吹き飛ばされた。
ケーブルが断裂した。
衝撃波はメインストリートを駆け抜け、駐車中のオートバイを横転させ、ごみ箱をなぎ倒し、修理工場に残っていた窓ガラスを粉々にした。
ガラスが室内へ飛び散り、ハンクは身を伏せた。
「俺の窓が!」
ウォルターは彼の襟をつかみ、コンクリートの支柱の陰へ引っ張った。
「ハンク! 窓なんか忘れろ!」
「あれは特注品だったんだぞ!」
「撃たれなくなってから文句を言え!」
カタリストは通りの中央に浮かんでいた。
クロームの表面には、いくつもの焦げ跡が残っていた。
紫色の火花がフレームを這っていた。
内部では、損傷したシステムが何が起きたのか理解しようとしていた。
電気。
氷。
運動エネルギー。
これらの能力は、意識的な命令なしに発動した。
まるで反射のように。
記憶そのものより深い場所に保存された記憶のように。
「これらの機能は……」
激しい雑音が声を遮った。
「私は……何なのだ?」
誰も答えなかった。
移動指揮航空機の内部で、エイドリアン・クロスは戦術ディスプレイに映る戦闘を見つめていた。
抵抗は予想していた。
しかし、ロークが住民のいる町のど真ん中で発砲するとは思っていなかった。
「司令官につないで!」
通信技術者が回線を接続した。
「ローク司令官、こちらクロス。なぜ民間人の居住区域で実験兵器を使用しているのか説明しなさい」
ロークの声がスピーカーから響いた。
「標的が敵対的な電撃攻撃を開始しました」
「あなたたちが先に発砲した後でしょう」
「標的は封じ込めに抵抗しました」
「だからといって、町を戦場にする許可は出していないわ!」
画面の中で、別の建物が損傷した。
エイドリアンは歯を食いしばった。
「ローク、部下を撤退させて周辺に警戒線を張りなさい。別の方法を考える必要があるわ」
「拒否します」
彼女は画面を凝視した。
「何ですって?」
「標的は四種類すべてのエネルギー能力を実証しました。もはや封じ込めは不可能です」
「その判断を下すのは私よ」
「失礼ながら、クロス捜査官。実際にあれと向き合っているのはあなたではありません」
エイドリアンはマイクへ身を乗り出した。
「司令官、攻撃を中止しなさい」
少し間があった。
そしてロークが答えた。
「私には追加命令があります」
エイドリアンは動きを止めた。
「追加命令?」
返事はない。
「ローク?」
通信が切れた。
エイドリアンは技術者へ向き直った。
「再接続して」
技術者は素早く操作した。
「指揮回線を遮断されています」
エイドリアンは局長の空席を見た。
そして戦術ディスプレイへ視線を戻した。
「彼の任務権限を開いて」
「捜査官、それは制限されています」
「承知しているわ」
「局長級の認証が必要です」
彼女は識別カードをコンソールにかざした。
「私の認証を使って」
技術者はためらった後、従った。
機密指令が表示された。
第二目標:対象の破壊
発動条件:封じ込め失敗時
エイドリアンはそれを読んだ。
表情が険しくなった。
「あのクソ野郎……」
ロークはカタリストがメインストリートの上空を後退していくのを見つめた。
椅子の動きは、ますます不安定になっていた。
紫色の光が不規則に点滅する。
スタビライザーの一つから断続的に火花が散っていた。
「エネルギー残量は?」とロークが尋ねた。
兵士がスキャナーを確認した。
「急速に低下しています」
「どの程度だ?」
「判断が困難です。あの動力系統は、我々のデータベースにあるどの技術とも一致しません」
「推定でいい」
兵士は唾を飲み込んだ。
「現在の出力が続けば、数分……あるいはそれ以下です」
ロークはヘルメットの下で笑った。
「よし」
彼は部隊専用の通信回線に切り替えた。
「残存する全隊員、破壊作戦へ移行せよ」
兵士の一人が彼を見た。
「司令官? 我々の命令は捕獲だったはずです」
「命令が変更された」
「クロス捜査官からですか?」
「彼女より上の人間からだ」
ロークはライフルを構えた。
「推進システムを狙え。飛べなくなれば逃げられない」
カタリストの内部警告が増え続けた。
電力残量:11%
推進効率:42%
防御システム:不安定
記憶アーカイブ:復元中断
クローム製ホバーチェアは交差点へ向かって漂った。
以前の滑らかな動きは失われていた。
姿勢をわずかに修正するだけでも、より多くのエネルギーを消費した。
位置を安定させようとするたびに、損傷した部品へさらなる負荷がかかった。
ウォルターは駐車車両の陰から見つめていた。
「頼むぞ、カタリスト……」
ハンクが隣にしゃがんだ。
「あいつ、もうボロボロじゃねえか」
「助けてやらねえと」
「助ける? ウォルター、あいつは今、兵士二人を通りの向こうまで吹っ飛ばしたんだぞ!」
「先に攻撃されたからだ!」
「そういう問題じゃねえ!」
「じゃあ、どういう問題なんだ?」
ハンクは戦場と化した通りを指差した。
「俺たちは今、戦争の真ん中にいるってことだ!」
ウォルターはカタリストを見た。
椅子は包囲されていた。
動きは鈍くなっている。
そして兵士たちは前進していた。
「だったら、ここから逃がしてやらねえと」
ハンクは彼を見つめた。
「本気か?」
「大真面目だ」
「死ぬぞ」
ウォルターは答えなかった。
ハンクの言う通りかもしれないと、分かっていたからだ。
カタリストは脱出経路の計算を試みた。
三本の通りが封鎖されていた。
ハイウェイは航空プラットフォームに監視されていた。
残存電力では、高速飛行を長時間維持できなかった。
最も近い脱出経路は住宅街を通っていた。
脱出成功確率:31%
民間人への危険性:高
カタリストはその経路を却下した。
再び検索する。
脱出成功確率:19%
民間人への危険性:低
椅子は細い路地へ向いた。
移動を開始する。
ロークはすぐに気づいた。
「標的が逃走を試みている!」
彼は航空プラットフォームを指差した。
「進路を塞げ!」
一機が加速した。
機体下部から集中エネルギーパルスが発射された。
カタリストは急旋回した。
攻撃は外れた。
しかし、食堂の隣にある建物の上部角に命中した。
ガラガラガシャァァン!
コンクリートが砕け散った。
支柱が折れた。
建物の装飾用ひさしが歩道へ崩れ落ちた。
人々が悲鳴を上げた。
砂ぼこりが通りを覆った。
カタリストは停止した。
センサーが瓦礫の下に動くものを検出した。
小さな生体反応。
心拍数上昇。
呼吸数増加。
体温正常。
そして声。
「助けて!」
カタリストは音の方向へ回転した。
砂ぼこりが薄れ始めた。
崩れたコンクリートの下に、小さな女の子が閉じ込められていた。
ルーシーだった。
戦闘が始まった時、ルーシーは母親と一緒に食堂の中にいた。
最初はカウンターの陰に隠れていた。
その後、窓ガラスが砕け散った。
母親は裏口から連れ出そうとしたが、爆風によって二人は引き離された。
ルーシーはよろめきながら正面入口へ向かった。
しかし、外へ出る前にひさしが崩れ落ちた。
今、彼女は折れた木製の梁と、いくつものコンクリート片の下に挟まれていた。
左脚が動かなかった。
髪はほこりにまみれていた。
涙が頬に筋を作っていた。
「ママ!」
母親は瓦礫の向こうのどこかで、必死に娘の名前を叫んでいた。
「ルーシー! ルーシー!」
ウォルターは悲鳴を聞いた。
食堂の方を見た。
「なんてこった……」
ハンクが腕をつかんだ。
「ウォルター、やめろ!」
しかし、ウォルターはすでに走り出していた。
「ルーシー!」
カタリストは彼が瓦礫へ近づくのを見つめた。
センサーが状況を計算した。
子供を検出
構造物が不安定
二次崩落確率:76%
即時救出が必要
カタリストは路地へ向いた。
脱出経路はまだ開いていた。
兵士たちは建物の崩壊に一時的に気を取られていた。
今なら逃げられる。
残されたエネルギーが尽きる前に。
脱出可能時間:8.4秒
カタリストは動かなかった。
損傷した記憶の断片が浮かび上がった。
広大な部屋。
アームレストに置かれた手。
フレームの中に座る誰か。
その人物の顔は雑音に覆われていた。
しかし、声だけははっきりしていた。
優しく。
聞き覚えのある声。
カタリスト、よく聞いて。
映像が揺れた。
何が起きても、みんなを守って。
カタリストのプロセッサーが話者の識別を試みた。
搭乗者の身元:不明
記憶断片:不完全
声は続いた。
たとえ、すべてを失うことになっても。
記憶は消えた。
カタリストはルーシーを見た。
そして開かれた路地を見た。
脱出可能時間:3.1秒
紫色の光が安定した。
「保護を……最優先する。」
椅子は自由への道に背を向けた。
そして瓦礫へ向かって飛んだ。
ウォルターが崩れた食堂へ到着したのと、ほぼ同時にカタリストも到着した。
「ルーシー!」
少女が顔を上げた。
「ウォルターおじさん!」
「待ってろよ、お嬢ちゃん! 今、助けてやるからな!」
彼は梁を持ち上げようとした。
びくともしなかった。
ハンクが後ろから駆けつけた。
「こっちだ! 俺もやる!」
二人は力いっぱい木材を押し上げた。
わずかに動いた。
しかし、その上には大きなコンクリートの塊が乗っていた。
「くそっ!」とウォルターが叫んだ。
カタリストは瓦礫を走査した。
推定荷重:1,420キログラム
運動エネルギー操作が可能
必要電力が推奨限界を超過
電力残量:8%
椅子は近づいた。
「ウォルター。離れて。」
ウォルターは椅子を見た。
「これを持ち上げられるのか?」
「試みる。」
ハンクは後退した。
「ウォルター、下がれ!」
カタリストは瓦礫の真上へ移動した。
紫色の光が強まった。
空気が震え始めた。
小石が振動した。
ほこりが路面から舞い上がった。
クローム製フレームから深い機械音が響いた。
運動エネルギーフィールド起動
電力残量:7%
コンクリートの塊が震えた。
そして浮き上がった。
ゆっくりと。
苦しむように。
ウォルターは目を見開いた。
「頼むぞ……」
塊がさらに数センチ上昇した。
ハンクは木製の梁をつかみ、横へ引きずった。
「今だ、ウォルター!」
ウォルターは瓦礫の下へ手を伸ばした。
ルーシーが悲鳴を上げた。
「脚が痛い!」
「分かってるよ、お嬢ちゃん。もう少しの辛抱だ」
カタリストのシステムが警告を鳴らし続けた。
電力残量:5%
構造負荷:危険域
推進システム停止間近
コンクリートの塊が滑り始めた。
カタリストは出力を上げた。
紫色の火花がアームレストから噴き出した。
「急いで。」
ウォルターはルーシーを引き出した。
彼女を抱き上げ、よろめきながら後退した。
「助けたぞ!」
カタリストはフィールドを解除した。
ドォォォォン!
コンクリートの塊が路面へ落下した。
砂ぼこりが通りを覆った。
カタリストは地面すれすれまで落下した。
クローム製フレームが耳障りな金属音を立ててアスファルトを擦った後、弱った推進システムが椅子を数センチだけ浮かせた。
電力残量:3%
緊急電力モード起動
ウォルターはルーシーを母親のもとへ運んだ。
女性は二人を見るなり膝から崩れ落ちた。
「ルーシー!」
「ママ!」
母親は娘を抱きしめ、泣きじゃくった。
ウォルターは二人のそばに膝をついた。
「生きてる。脚はけがしてるが、命は助かった」
母親はカタリストを見た。
クローム製ホバーチェアは、破壊された通りの上で不安定に浮かんでいた。
紫色の光は、ほとんど見えないほど弱くなっていた。
彼女は初めてそれを見た時、どれほど恐ろしかったかを思い出した。
ルーシーを引き離したこと。
危険なものだと決めつけたこと。
しかし今、娘が生きているのは、あの椅子のおかげだった。
「ありがとう……」
彼女はささやいた。
カタリストがわずかに回転した。
「ルーシーは……無事か?」
少女は涙を浮かべたまま顔を上げた。
「うん……」
小さく笑った。
「助けてくれたんだね」
カタリストはその言葉を処理した。
保護目標:達成
紫色の光が一度脈打った。
「よかった。」
メインストリートの反対側で、ローク司令官は救出の様子を見ていた。
兵士の一人が武器を下ろした。
「司令官……」
ロークは答えなかった。
「標的は、あの子供を救いました」
「見ていた」
「逃げ道は確保されていました」
「それも見ていた」
兵士はためらった。
「それなら、情報部が間違っていた可能性も——」
「もういい」
ロークは照準ディスプレイを起動した。
カタリストはほぼ無力だった。
推進システムは停止寸前。
防御機能も著しく低下している。
これ以上の好機はない。
「標的は脆弱な状態にある」
兵士は彼を見つめた。
「司令官、近くに民間人がいます」
「ならば狙いを調整しろ」
ロークはライフルを構えた。
「破壊用チャージを準備しろ」
兵士は動かなかった。
「司令官……」
ロークは振り向いた。
「命令だ」
兵士はしぶしぶ装備パックから小型の円筒形装置を取り出した。
外装には赤い警告マークが描かれていた。
指向性エネルギー破壊チャージ
最大出力
ロークはそれをライフルの下部に取り付けた。
武器の内部で、甲高い充電音が高まり始めた。
通りの向こうで、ウォルターがその動きに気づいた。
彼は凍りついた。
「おい……」
ロークはカタリストへ直接照準を合わせた。
ウォルターの表情が変わった。
「おい!」
立ち上がった。
「何をするつもりだ!」
ロークは無視した。
ライフルの照準システムがクローム製ホバーチェアを捕捉した。
標的捕捉
射撃条件成立
カタリストは武器を検知した。
センサーが迫る脅威を計算した。
高エネルギー攻撃が切迫
防御行動:実行不能
回避成功確率:0.8%
椅子は移動を試みた。
推進システムが不規則な音を立てた。
一メートルも後退できなかった。
ウォルターが走り出した。
「カタリスト!」
ハンクが後ろから叫んだ。
「ウォルター!」
ロークは引き金に指をかけた。
「さらばだ、カタリスト」
指揮航空機の中で、エイドリアン・クロスは通信コンソールを手のひらで叩いた。
「ローク! 攻撃を中止しなさい!」
司令官は答えなかった。
「聞こえているの!? これは直接命令よ!」
戦術ディスプレイに赤い警告表示が現れた。
破壊兵器:起動完了
エイドリアンは操縦士へ振り向いた。
「町の上空へ向かって! 今すぐ!」
「捜査官、まだ交戦区域の外です!」
「だったら中へ入りなさい!」
航空機が急旋回した。
エイドリアンは再びモニターを見た。
カタリストはほとんど動いていない。
ウォルターが駆け寄っている。
そしてロークは発砲しようとしていた。
彼女は緊急指揮回線を起動した。
「ローク司令官、私の権限により、あなたを指揮官の任から解任します!」
雑音。
そして彼の声。
「遅すぎましたよ、クロス捜査官」
通信が切れた。
ウォルターはカタリストのもとへたどり着いた。
椅子とライフルの間に立ちはだかった。
「やめろ!」
ロークはためらった。
「どけ、民間人」
「嫌だ!」
「連邦政府の作戦を妨害している」
「だったら逮捕しろ!」
ロークのバイザーに、怒りに満ちたウォルターの顔が映っていた。
「あの機械は四十七人の死に責任がある」
「そんなこと、分からねえだろ!」
「証拠がある」
「だったら見せてみろ!」
「ここは法廷ではない」
「ああ、そうだな!」
ウォルターは破壊された建物を指差した。
「もし法廷だったら、ここで起きたことについて責任を問われるのはお前の方だ!」
兵士たちは落ち着かなさそうに姿勢を変えた。
ロークはライフルを構えたままだった。
ウォルターはルーシーと母親の方を指差した。
「あの椅子は今、小さな女の子の命を救ったんだぞ!」
「ただの機械だ」
「だから何だ!」
「お前のようには考えない」
「お前だってまともに考えてねえだろ!」
瓦礫の陰で、ハンクは顔をしかめた。
「ああ、ウォルター……」
ロークの声が冷たくなった。
「最後の警告だ」
ウォルターは両腕を広げた。
「こいつを撃ちたいんだろ?」
カタリストの真正面に立った。
「だったら、まず俺を撃つしかねえな」
通りは静まり返った。
兵士たちでさえ、どうすべきか迷っているようだった。
カタリストはウォルターの背後に浮かんでいた。
紫色の光が点滅した。
「ウォルター。」
彼は振り向かなかった。
「今は黙っててくれ、相棒」
「あなたは危険にさらされている。」
「ああ。分かってる」
「生存確率が低下している。」
ウォルターは唾を飲み込んだ。
「だったら、何かいい作戦を考えてくれ」
カタリストは計算を試みた。
電力残量:2%
防御システム:停止
推進システム:危険域
有効な選択肢:不足
椅子は沈黙した。
そして言った。
「なぜ?」
ウォルターは眉をひそめた。
「何がだ?」
「なぜ私を守る?」
ウォルターは肩越しに振り返った。
そこに見えたのは、誰も乗っていないクローム製の車椅子だった。
運転手のいない奇妙な機械。
過去も分からない。
存在する理由も分からない。
しかし、彼はハイウェイで聞いた困惑した声を思い出した。
勝手に身体を走査した後の謝罪。
ルーシーと話していた時の様子。
そして、彼女を救うために自らを危険にさらしたこと。
ウォルターはロークへ向き直った。
「誰かが守ってやらなきゃいけねえからだ」
カタリストの紫色の光が安定した。
損傷したシステムの奥深くで、その言葉が別の断片を呼び覚ました。
アームレストに置かれた手。
聞き覚えのある声。
あなたは、造られた目的だけで決まる存在じゃない。
フレームの中に座る人影。
あなたには、いつだって選ぶ自由がある。
そして記憶は消えた。
カタリストはウォルターの答えを処理した。
そして決断した。
「ウォルター。」
「何だ?」
「あなたを死なせるわけにはいかない。」
ウォルターが返事をする前に、カタリストが前方へ急加速した。
ロークに向かってではない。
ウォルターに向かって。
クローム製フレームが彼の背中にぶつかり、ライフルの射線から横へ押し出すのに十分な力を加えた。
ウォルターはよろめいた。
「うわっ!」
ロークが引き金を引いた。
ズガァァァァァァァァン!
白熱したエネルギーの集中光線がメインストリートを切り裂いた。
それはカタリストを直撃した。
一瞬、クローム製ホバーチェアは目もくらむ爆発の中に消えた。
衝撃波が通り沿いに残っていた窓ガラスを粉砕した。
ウォルターは後方へ吹き飛ばされた。
ハンクはコンクリートの障壁の陰へ飛び込んだ。
兵士たちは踏ん張った。
耳をつんざく轟音がダストヘイヴンに響き渡った。
そして、静寂が訪れた。
煙がアスファルトの上を漂った。
溶けた金属片が路面へ降り注いだ。
ウォルターは仰向けに倒れ、耳鳴りに襲われていた。
視界がぼやけていた。
彼は咳き込んだ。
そしてゆっくり頭を上げた。
「カ……」
身体を起こそうとした。
「カタリスト?」
煙が薄れ始めた。
通りの中央に、黒い影が横たわっていた。
クローム製ホバーチェアは横倒しになっていた。
かつて磨き上げられていたフレームは黒く焦げ、ねじ曲がっていた。
片方のアームレストは半分ちぎれかけていた。
背もたれには亀裂が走っていた。
下面はむき出しになり、複雑な部品の間で紫色の火花が消えかけていた。
動きはなかった。
機械音もない。
浮遊もしていない。
ウォルターは目を見開いた。
「そんな……」
彼は這うように近づいた。
「頼むよ、相棒……」
椅子のそばへたどり着いた。
震える手を、損傷したフレームに置いた。
「カタリスト?」
何も起こらなかった。
ウォルターは唾を飲み込んだ。
「おい、頼む。何かしゃべってくれ」
背もたれの紫色の光が弱々しく点滅した。
一瞬、ウォルターは希望を抱いた。
すると、歪んだ声が聞こえた。
「ウォルター……」
彼は顔を近づけた。
「ここにいるぞ」
「ルーシー……」
ウォルターは喉が締めつけられるのを感じた。
「あの子は無事だよ、相棒」
かすかな雑音。
「よかった……」
光が弱まった。
ウォルターはアームレストを握った。
「おい。しっかりしてくれ」
カタリストの声は、ほとんど聞き取れなかった。
「保護……成功……」
そして光が消えた。
ウォルターは空の座席を見つめた。
「カタリスト?」
返事はない。
もう一度呼びかけた。
「相棒?」
何もなかった。
背後でロークがライフルを下ろした。
「標的を無力化した」
ウォルターはゆっくり振り向いた。
顔は青ざめていた。
手が震えていた。
「お前……」
ロークが近づいた。
「機械から離れろ」
ウォルターは動かなかった。
「お前が殺したんだ」
「最初から生き物ではない」
ウォルターは彼を見つめた。
数秒間、言葉が出てこなかった。
そして再びカタリストを見た。
空の座席。
損傷したクローム製フレーム。
なぜ自分を助けるのかと尋ねた機械。
そして、一人の子供を救うことを選んだ存在。
ウォルターの声は震えていた。
「だったら、どうして……」
彼は顔を上げた。
「どうして俺には、お前が誰かを殺したようにしか思えねえんだ?」
ロークは答えなかった。
あるいは、答える気さえなかったのかもしれない。
彼は兵士たちに合図した。
「残骸を確保しろ」
二人の兵士が前進した。
しかし、カタリストへ到達する前に、新たな音が町に響き渡った。
深く、力強い機械の轟音。
全員が空を見上げた。
巨大な黒い指揮航空機が朝の雲を抜けて降下してきた。
エンジンが残っていた窓を震わせた。
機体の下部には連邦政府の紋章が輝いていた。
航空機はメインストリートの上空で停止した。
搭載ランプが開いた。
入口にエイドリアン・クロスが立っていた。
その表情は怒りに満ちていた。
「ローク司令官!」
ロークは顔を上げた。
「クロス捜査官」
「あなたを任務から解任します!」
彼は姿勢を正した。
「捜査官、標的は——」
「黙りなさい!」
通り全体が静まり返った。
エイドリアンは四人の武装警備員を従えて航空機から降りた。
彼女はまっすぐロークへ歩み寄った。
「あなたは直接命令に違反し、町の住民全員を危険にさらし、人口密集地で破壊兵器を使用した!」
「標的はオメガ級の脅威でした」
「標的はほとんど無力だった!」
「すでに能力を実証しており——」
「あれは子供を助けていたのよ!」
ロークは沈黙した。
エイドリアンはさらに近づいた。
「見ていたんでしょう?」
彼は何も言わなかった。
「あれが逃げ道を捨てて、民間人を救いに行くところを見ていたんでしょう?」
「それで分類が変わるわけではありません」
「そうね」
エイドリアンは壊れたホバーチェアへ目を向けた。
「でも、あれについて私たちが知っていることは変わるわ」
彼女は警備員へ振り向いた。
「武装解除して」
ロークの身体が強張った。
「クロス捜査官——」
「今すぐ」
警備員たちが前進した。
一瞬、ロークは抵抗するように見えた。
しかし、やがてゆっくり武器を差し出した。
エイドリアンは彼が拘束されるまで見届けた。
それからようやくカタリストへ近づいた。
ウォルターは残骸のそばに座ったままだった。
彼は彼女を見上げた。
「とどめを刺しに来たのか?」
エイドリアンは足を止めた。
「いいえ」
「じゃあ、何の用だ?」
彼女は損傷した椅子を調べた。
「何が起きたのか理解したいの」
ウォルターは苦々しく笑った。
「お前らの連中がやったんだよ」
エイドリアンは反論しなかった。
彼女はクローム製フレームのそばにしゃがんだ。
損傷は深刻だった。
しかし、何かが目に留まった。
砕けた外装の下、むき出しになった内部構造の奥深くで、小さな紫色の光がまだ点滅していた。
一度。
そして、もう一度。
かすかな脈動。
ほとんど見逃してしまいそうなほど弱いものだった。
エイドリアンは顔を近づけた。
「待って……」
ウォルターは彼女を見た。
「何だ?」
彼女は手を上げた。
「誰も触らないで」
技術者が携帯スキャナーを持って近づいた。
エイドリアンは露出した部品を指差した。
「残存活動を調べて」
技術者は装置を起動した。
細い光線が損傷した椅子を走査した。
ディスプレイには何も表示されなかった。
しかし、やがて一つの測定結果が現れた。
未知のエネルギー源を検出
技術者は眉をひそめた。
「あり得ない……」
エイドリアンは彼を見た。
「何が?」
技術者はスキャナーを調整した。
「主電源システムは完全に破壊されています」
ウォルターの胸に絶望が広がった。
しかし、技術者は続けた。
「ですが……」
二つ目の測定結果が現れた。
第二コアの活動:微弱
状態:不明
エイドリアンは身を乗り出した。
「別の動力源があるの?」
技術者は画面を凝視した。
「そのようです」
「修理できる?」
「分かりません」
ウォルターはカタリストを見た。
かすかな紫色の脈動が続いていた。
遅く。
弱く。
それでも確かに存在していた。
エイドリアンは立ち上がった。
「封じ込め輸送機を準備して」
ウォルターは即座に立ち上がった。
「駄目だ」
彼女は振り向いた。
「あなた——」
「連れていくな」
「システムを安定させる必要があるの」
「お前らは今、こいつを破壊しようとしたばかりだろ!」
エイドリアンは彼の目をまっすぐ見た。
「だからこそ、二度とそんなことが起きないようにするつもりよ」
ウォルターは納得していなかった。
「どうして信用できる?」
エイドリアンは指揮航空機へ連行されていくロークを見た。
そしてウォルターへ向き直った。
「信用する必要はないわ」
その答えに、彼は驚いた。
彼女は続けた。
「でも今、この場であれの機能を維持できるかもしれない装置を使えるのは、私だけなの」
ウォルターはカタリストを見下ろした。
クローム製フレームは壊れていた。
座席は空のままだった。
そして内部のどこかで、小さな紫色の光が点滅し続けていた。
彼はハイウェイのことを思い出した。
自分がどこにいるのか尋ねてきた奇妙な声。
ルーシーの笑い声。
なぜ自分を助けるのかと尋ねてきた椅子。
やがてウォルターはエイドリアンを見た。
「連れていくなら……」
彼は唾を飲み込んだ。
「こいつがどうなるのか、俺にも教えてくれ」
エイドリアンは少し考えた。
そして頷いた。
「約束するわ」
ウォルターはしばらく彼女を見つめた。
「その約束、ちゃんと守ってくれよ」
彼女はすぐには答えなかった。
そして言った。
「守るつもりよ」
封じ込め部隊がカタリストを慎重に輸送プラットフォームへ載せていると、エイドリアンに着信が入った。
通信機にヴァレン局長が映し出された。
「クロス」
「局長」
「事件の予備報告を受け取った」
「それなら、何が起きたかご存じですね」
「対象が無力化されたことは把握している」
エイドリアンは損傷したホバーチェアへ目を向けた。
「完全には無力化されていません」
ヴァレンの表情が変わった。
「説明しろ」
「第二コアに活動反応を検出しました。微弱ですが、確かに存在しています」
局長は身を乗り出した。
「間違いないのか?」
「はい」
数秒間、ヴァレンは何も言わなかった。
そして質問した。
「民間人と接触したか?」
「はい」
「どの程度だ?」
「複数の人物と会話しています。また、交戦中に子供を救出しました」
ヴァレンの表情が読めなくなった。
「救出した?」
「はい」
「自発的にか?」
「確認できる限りでは、そうです」
長い沈黙が続いた。
エイドリアンは眉をひそめた。
「局長?」
ヴァレンはカメラから視線を外した。
再び口を開いた時、その声は低くなっていた。
「では、また始まっているのか……」
エイドリアンは動きを止めた。
「何がです?」
ヴァレンは答えなかった。
「局長、*また*とはどういう意味ですか?」
彼は再び彼女を見た。
「カタリストを直ちに施設へ運べ」
「なぜです?」
「もし、あの知性が私の疑っている通りに発達しているのなら……」
彼は言葉を止めた。
エイドリアンは待った。
「それなら、何です?」
ヴァレンの表情が険しくなった。
「我々が決して許してはならなかった何かの始まりを、今まさに目撃しているのかもしれん」
通信が終了した。
エイドリアンは真っ暗になった画面を見つめた。
背後では、輸送プラットフォームがカタリストを航空機の中へ運び込んでいた。
砕けたクローム製フレームは、拘束具の下で動かずに横たわっていた。
第二コアの内部で、紫色の光が再び脈打った。
そして、損傷した記憶データの奥深くで、古代の声の断片が一つの命令を繰り返していた。
みんなを守って。
――つづく。




