↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
195/230

カタリスト:最初のVent (II)

砂漠を貫くハイウェイは、ガソリンスタンドもレストランも、人の暮らす気配さえないまま、二百キロ近く続いていた。

大抵の旅行者にとって、そこはひたすら退屈で苦痛な道路だった。

トラック運転手にとっては、仕事につきものの厄介な道だった。

そして、五十三歳のウォルター・ブリッグスにとっては、これまでの人生で下してきたあらゆる決断を後悔するのに、うってつけの場所だった。

「北のルートにしときゃよかった」

ウォルターは貨物トラックの空調を調節した。

ダッシュボードに表示された外気温は摂氏三十一度。真夜中が近づいているというのに、この暑さだった。

彼のトラックは古いながらも信頼できる自動運転支援付きの大型輸送車で、人間があまり操作しなくても高速道路を走行できた。

残念ながら、娯楽システムの方はそうはいかなかった。

接続が切断されました

衛星ネットワークに接続できません

ウォルターはダッシュボードを叩いた。

「おいおい、頼むぜ。このポンコツが」

ラジオからは雑音しか聞こえなかった。

別の周波数を試す。

やはり雑音。

「最高だな。二百キロも砂しかないってのに、まともな曲一つ聴けねえとは」

ウォルターはコーヒーの入った魔法瓶に手を伸ばした。

中身は何時間も前に冷めていた。

それでも構わず飲んだ。

ヘッドライトは、巨大な眠れる動物のような砂丘に挟まれた、果てしないアスファルトの道を照らしていた。

何も動いていない。

この辺りでは、いつだってそうだった。

だからこそ、道路の真ん中に何かが現れた時、ウォルターは危うく魔法瓶を落としかけた。

「何だ、ありゃ……?」

彼は身を乗り出した。

最初は、放置された機械の一部だと思った。

金属製の何か。

ヘッドライトを反射している何か。

だが、近づくにつれて、それが道路に転がっているわけではないと気づいた。

浮いていたのだ。

ウォルターは眉をひそめた。

「あれは……?」

目を細めた。

その物体は車椅子に似ていた。

しかも、異常なほど高度な技術で作られた車椅子だった。

フレームは磨き上げられたクローム製で、滑らかな継ぎ目のない表面が周囲の闇を映し出していた。普通の車輪は存在しない。その代わり、椅子はアスファルトから約五十センチの高さに浮かび、目に見える推進装置もないまま、その位置を保っていた。

座席には誰もいなかった。

ウォルターは目を見開いた。

「どこの馬鹿が砂漠のど真ん中に車椅子を置いていくんだ?」

トラックの接近警報が鳴り始めた。

警告

障害物を検知

ウォルターはブレーキを踏み込んだ。

キィィィィィィッ!

巨大なタイヤが路面をつかもうと悲鳴を上げ、トラック全体が激しく揺れた。

貨物トレーラーが左右に振られる。

ウォルターはハンドルを握りしめた。

「止まれ! 止まってくれ!」

トラックは奇妙な椅子の十メートル手前で停止した。

再び静寂が戻った。

ウォルターは数秒間、身動き一つしなかった。

やがて大きく息を吐いた。

「まったく、最高の夜だぜ」

ハザードランプを点灯させた。

外では、クローム製の車椅子が完全に静止していた。

ウォルターは運転席のドアを開け、地面へ降りた。

ブーツがアスファルトを踏んだ。

「おーい!」

返事はない。

彼は周囲を見回した。

「誰かいるのか?」

答えたのは砂漠の風だけだった。

ウォルターは慎重に近づいた。

その車椅子は、彼がこれまで見たどんな移動補助機器とも違っていた。

クローム製のフレームには奇妙な優美さがあり、まるで液体金属の塊から一体成形されたかのようだった。アームレストは空の座席を包むように滑らかに湾曲し、背もたれは細長く空気抵抗を抑えた形状へと伸びていた。

操作パネルは見当たらない。

ジョイスティックもない。

製造会社のマークもない。

そして何より、乗っている人間がいなかった。

ウォルターは周囲を一周した。

「ずいぶん立派な代物じゃねえか」

彼はしゃがみ込んだ。

椅子の下では、いくつかの紫色の光が不規則に点滅していた。

フレームの内部から、かすかな機械音が聞こえてくる。

ウォルターは顎ひげをかいた。

「どっかの金持ちが乗り物をなくしたのか?」

突然、椅子が彼の方へ回転した。

ウォルターは飛び退いた。

「うおっ!」

動きは完全に無音だった。

空の座席が、今や真正面から彼を向いていた。

ウォルターは固まった。

「おいおい……」

さらに一歩後ずさった。

「こいつは初めてだな」

背もたれの上部に、細い紫色の光が現れた。

光は強まり、そして弱まった。

椅子から声が響いた。

しかし、それはウォルターの知るどんな言語でもなかった。

「シャヴェス……オルーン……カエルサラ……」

その声は合成音声のようで、歪み、奇妙に重なり合っていた。まるで複数のスピーカーが同時に同じ言葉を発しようとしているかのようだった。

ウォルターは口をあんぐり開けた。

「何だって?」

椅子は再び聞き慣れない音を発した。

「ヴァエル……カタル……イシャ……」

ウォルターは両手を上げた。

「おい、相棒。何語をしゃべってるのか知らねえが、英語で頼むぜ」

椅子は沈黙した。

紫色の光が点滅する。

数秒間、何も起こらなかった。

そして、再び声がした。

「英語。」

ウォルターは瞬きをした。

「おっ」

椅子の声に雑音が混じった。

「言語……識別完了。」

ウォルターは目を見張った。

「こりゃ驚いた」

車椅子が彼へ近づいた。

ウォルターは反射的に後退した。

「おいおい、近すぎるぞ。ちょっと距離を取ってくれ」

椅子は停止した。

座席の下から、かすかなクリック音が聞こえた。

「現在地……識別要求。」

ウォルターは周囲を見回した。

「ええと……砂漠?」

紫色の光が脈打った。

「砂漠。」

「ああ」

「名称は?」

ウォルターは眉をひそめた。

「名称?」

「現在地の……名称。」

「ああ、そういうことか。ここはハイウェイ86号線だ。シトロン・シティから西へ百四十キロくらいだな」

椅子は沈黙した。

そして、

「シトロン……シティ。」

「そうだ」

「未知の地名。」

ウォルターは緊張した笑いを漏らした。

「まあ、そんなに有名な街じゃねえしな」

椅子がわずかに傾いた。

その動きは、誰も座っていないにもかかわらず、妙に表情豊かだった。

「現在の……西暦は?」

ウォルターの笑みが消えた。

「何だって?」

「現在の西暦。」

「二〇二六年だ」

紫色の光が突然強く輝いた。

激しい雑音が椅子から噴き出した。

バチバチバチッ!

ウォルターは耳をふさいだ。

「おいっ!」

椅子が後方へ跳ねるように動いた。

一瞬、浮遊機構が不安定になり、数センチ沈んでから元の高さに戻った。

「時間軸の不一致……」

声が歪んだ。

「あり得ない。」

ウォルターは凝視した。

「何があり得ないんだ?」

椅子は答えなかった。

紫色の光が弱まった。

ウォルターは慎重に近づいた。

「おい、大丈夫か?」

誰も乗っていない車椅子に尋ねるには、奇妙な質問だった。

だが、その時のウォルターには、それ以上に適切な言葉が思いつかなかった。

椅子はゆっくり彼の方へ向いた。

「私にも……分からない。」


公式には存在しない組織の本部。

その地下深くで、エイドリアン・クロス捜査官はホログラムモニターが並ぶ壁の前に立っていた。

部屋に窓はなかった。

冷たく、無機質な空間だった。

そこでは、自分たちの仕事が政府の公式報告書に載ることなど決してないと理解している人々が、静かに働いていた。

最大のディスプレイには、砂漠の発掘現場を撮影した衛星画像がゆっくり回転していた。

小さな画面には、熱反応、電磁異常、そして大量殺人事件の現場映像を復元したものが映し出されていた。

技術者が近づいた。

「クロス捜査官、予備分析が完了しました」

エイドリアンは腕を組んだ。

「聞かせて」

「残留エネルギー反応は、単一の発生源によるものと一致しています」

彼女は技術者を見た。

「一つだけ?」

「はい」

彼はホログラムを起動した。

四つの項目が現れた。

熱エネルギー

電気エネルギー

極低温エネルギー

運動エネルギー

「調査したすべての死亡例は、この四種類のエネルギーのいずれかによるものと判断できます」

エイドリアンは表示を見つめた。

「発生源は?」

技術者はためらった。

「そこが問題なんです」

「説明して」

彼はある物体の三次元復元映像を表示した。

車椅子だった。

フレームは磨き上げられたクローム製。

車輪はない。

乗員もいない。

エイドリアンの表情が険しくなった。

「これが?」

「回収された破片と電磁的な痕跡から判断すると、そうです」

技術者はホログラムを回転させた。

「自律型の浮遊式移動装置。少なくとも、我々が分類できるものの中では、それが最も近い表現です」

エイドリアンは空の座席を見つめた。

「動作原理は?」

「不明です」

「どうやって浮いているの?」

「不明です」

「どうやってあのエネルギー反応を発生させるの?」

「まったく分かりません」

エイドリアンはため息をついた。

「それじゃあ、何が分かっているの?」

技術者は居心地悪そうな顔をした。

「存在するはずのないものだ、ということです」

彼女は冷たい目を向けた。

「素晴らしいわ。報告書にそう書いておく」

背後でドアが開いた。

発掘現場に同行していた白髪交じりの男が入ってきた。

名前はエリアス・ヴァレン局長。

手には機密情報が保存されたデータタブレットを持っていた。

「クロス」

エイドリアンは振り向いた。

「局長」

「問題が発生した」

「一つだけですか?」

ヴァレンはその皮肉を無視した。

タブレットをテーブルに置く。

周辺地域のホログラム地図が現れた。

「三時間前、監視衛星の一つが、発掘現場から約四十キロ離れた場所で未確認の電磁異常を検出した」

エイドリアンは近づいた。

「移動していたの?」

「ああ」

「方向は?」

「東だ」

「シトロン・シティ方面?」

「その可能性がある」

エイドリアンは地図を見た。

進路には砂漠のハイウェイ網と、いくつかの小さな集落があった。

「民間人との接触は?」

「確認されていない」

「今のところは、ね」

ヴァレンは否定しなかった。

エイドリアンはホログラムの車椅子へ向き直った。

「識別名はあるの?」

局長は少し沈黙した。

そして言った。

「カタリストだ」

エイドリアンは彼を見た。

「それが名前?」

「地下室の碑文から解読できた言葉のうち、あの物体を指していると思われる唯一の単語だ」

「意味は?」

「分からん」

彼女は空のクローム製座席を見つめた。

「カタリスト……」

奇妙なほど、その名前はふさわしく思えた。

変化を引き起こすもの。

連鎖反応のきっかけとなるもの。

そして、発掘現場の惨状を見る限り、まさにその連鎖反応こそ、彼らが阻止しなければならないものだった。


カタリストはウォルターのトラックのそばに浮かんでいた。

内部システムは故障しつつあった。

致命的な状態ではない。

少なくとも、今のところは。

しかし、単純な動作さえ困難になるほどの損傷を受けていた。

クローム製の車体の奥深くで、古代のプロセッサーが断片化した記憶を再構築しようと必死に動いていた。

映像が現れた。

都市。

シトロン・シティではない。

はるか昔の都市。

きらめく未知の物質で造られた巨大な塔が、紫色の空へ伸びていた。

無数の車両が、整然とした流れを作りながら塔の間を浮遊していた。

想像を絶するほど複雑な建造物を、数え切れない光が照らしていた。

そして映像は消えた。

別の映像が現れた。

広大な部屋。

円形の台座を取り囲む人影。

顔は判別できなかった。

彼らの声は、カタリストがもはや完全には処理できない言語で響いていた。

雑音の中から、一つの単語だけが浮かび上がった。

カタリスト。

そして闇。

激しい衝撃。

警報。

さらに別の何か。

声だった。

トラック運転手の声ではない。

もっと古い声。

聞き覚えのある声。

切迫した声。

彼らにだけは、絶対に——

記憶が崩れた。

記憶データの破損を検出

主要アーカイブにアクセスできません

識別マトリクス:一部復元

識別名:カタリスト

椅子の紫色の光が点滅した。

「カタリスト。」

トラックの通信パネルを調べていたウォルターが顔を上げた。

「何だって?」

椅子は同じ言葉を繰り返した。

「カタリスト。」

ウォルターは頭をかいた。

「それがお前の名前か?」

少し間があった。

「そうだ。」

「そいつは一つ分かったな」

ウォルターはトラックにもたれかかった。

「俺はウォルターだ」

椅子がわずかに回転した。

「ウォルター。」

「そうだ」

「あなたは……人間。」

ウォルターは瞬きをした。

「最後に確認した時はな」

「人間……生物学的有機体。」

ウォルターは眉を上げた。

「まあ、間違っちゃいねえな」

椅子が彼の周囲を漂った。

細い紫色の光線がウォルターの身体を走査した。

彼は飛び退いた。

「おい! 変なもんを向けるな!」

光線は消えた。

「謝罪する。」

ウォルターは目を見開いた。

「今、謝ったのか?」

「私は……不快感を与えたか?」

「そりゃそうだ。断りもなく身体をスキャンされたんだからな」

カタリストは沈黙した。

そして、

「理解した。」

ウォルターには、本当に理解したのか分からなかった。

だが、謝罪し、質問してきたという事実は、まったく別の意味で彼を困惑させた。

彼は再び椅子を調べた。

「ところで、お前はどこから来たんだ?」

カタリストの内部システムが情報を検索した。

何も見つからない。

壊れた映像だけだった。

紫色の空。

一つの部屋。

悲鳴。

「不明。」

ウォルターは眉をひそめた。

「自分がどこから来たか分からないのか?」

「記憶……損傷。」

「ああ……」

ウォルターは暗いハイウェイへ目を向けた。

立ち去ることも考えた。

それが賢明な判断だったはずだ。

配送の予定がある。

トラックには高価な貨物が満載されている。

そして、砂漠の真ん中に現れた謎のしゃべる車椅子を助ける義務など、彼にはまったくなかった。

残念ながら、ウォルターは困っている相手を放っておくのが昔から苦手だった。

「なあ、カタリスト」

椅子が彼へ向いた。

「聞いている。」

「この先二十キロくらいに小さな町がある。ダストヘイヴンってところだ」

「ダストヘイヴン。」

「あそこには修理工場がある。そこの整備士には貸しがあるんだ」

カタリストの紫色の光が脈打った。

「修理……可能か?」

ウォルターは肩をすくめた。

「保証はできねえけどな。でも、ハイウェイの真ん中にいたって仕方ないだろ」

カタリストは彼の言葉を処理した。

「あなたは……私を援助するのか?」

「そういうことになるな」

「なぜ?」

ウォルターは瞬きをした。

「なぜって、何が?」

「なぜ私を助ける?」

ウォルターは少し考えた。

それから肩をすくめた。

「困ってるように見えたからだよ」

カタリストは沈黙した。

数秒間、紫色の光が見慣れないリズムで点滅した。

「私には手がない。」

ウォルターは目を丸くした。

そして大笑いした。

「ハハハ! お前、なかなか面白いじゃねえか!」

カタリストは少し傾いた。

「発言は……事実である。」

「だから余計に面白いんだよ」

ウォルターはトラックへ乗り込んだ。

「さあ、ついてこい」

カタリストは助手席のドアへ近づいた。

ウォルターは窓から身を乗り出した。

「中じゃないぞ、相棒。横を飛んでついてきてくれ」

椅子はトラックを見た。

それから道路を見た。

「了解した。」

ウォルターはエンジンを始動した。

トラックがゆっくり前進する。

カタリストもついていった。

クローム製のフレームは暗闇の中を滑るように進み、車両の横で一定の位置を保った。

目覚めて以来、カタリストは初めて一人ではなくなった。


午前二時十七分。

エイドリアン・クロスのもとに、最初の確実な目撃情報が届いた。

彼女は移動指揮航空機の中にいた。

分析官が呼びかけた。

「クロス捜査官! 発見しました!」

エイドリアンはコンソールへ近づいた。

「何を?」

「交通監視映像です。ハイウェイ86号線」

粗い映像が表示された。

東へ走る貨物トラック。

その横を、小さな金属製の物体が道路の上に浮かびながら移動していた。

エイドリアンは身を乗り出した。

「鮮明にして」

映像が補正された。

クローム。

空の座席。

背もたれに沿って光る細い紫色の線。

彼女の胃が締めつけられた。

「これよ」

分析官が頷いた。

「外観が一致しています」

「現在地は?」

「最後に確認された時点では、ダストヘイヴン方面へ向かっていました」

エイドリアンは背後の戦術部隊員たちへ振り向いた。

「封じ込め部隊を出動させて」

重装甲の指揮官が一歩前に出た。

「交戦規定は?」

「無傷で確保。不要な武力行使は禁止よ」

指揮官は頷いた。

「了解しました」

エイドリアンは彼を見つめた。

「ローク司令官」

彼は足を止めた。

「何でしょう?」

「無傷で、と言ったのよ」

ロークの表情は読めなかった。

「承知しています」

彼は立ち去った。

エイドリアンはその背中を見送った。

彼の返事の仕方が気に入らなかった。


封じ込め部隊は航空機の展開ベイに集結した。

六人の兵士が特殊装甲車両のそばに立っていた。車両にはそれぞれ、異なるエネルギーを無力化するための実験的な装置が搭載されていた。

兵士たちの武器も、通常の銃器とは大きく異なっていた。

一人は極低温制圧砲を持っていた。

別の兵士は電磁妨害ライフルを装備していた。

三人目は運動エネルギー吸収装置を備えた強化外骨格を着用していた。

残る兵士たちは、適応型拘束弾発射装置と携帯式封じ込め障壁を装備していた。

ローク司令官は装備を点検した。

「対象の識別名は?」

兵士の一人が答えた。

「カタリストです」

「分類は?」

「正体不明の自律機械です」

「脅威レベルは?」

兵士はためらった。

「オメガです」

ロークは頷いた。

「よし。少なくとも情報部には、悪夢を分類する能力があるらしい」

通信士官が近づいた。

「司令官、優先通信です」

ロークは暗号化されたメッセージを受信した。

画面が起動する。

機密指令

第一目標:封じ込め

第二目標:対象の破壊

発動条件:封じ込め失敗時

ロークは指令を二度読んだ。

そして画面を消した。

兵士の一人が彼を見た。

「司令官?」

ロークはヘルメットを固定した。

「作戦変更だ」

「はっ?」

「あいつが抵抗するようなら、本部へ連れ帰る必要はない」

彼はライフルを手に取った。

「その場で始末する」


ダストヘイヴンは、地図から消すための事務手続きが面倒だから載っているような町だった。

数本の通り。

ガソリンスタンド。

食堂。

小さな食料品店。

何軒かの住宅。

そして、巨大なネオンサインから十年近く前に「R」の文字が消えたままになっている修理工場。

DUSTHAVEN AUTO EPAIR

ウォルターは夜明け前にガソリンスタンドへ車を入れた。

カタリストはその後ろを浮遊していた。

町は目を覚まし始めていた。

女性が食堂の前の歩道を掃いていた。

二人の男が自動販売機のそばで口論していた。

配送ドローンが食料品店の前に木箱を降ろしていた。

カタリストはそのすべてを観察した。

センサーは何千もの情報を記録した。

人間の声。

表情。

身体の動き。

社会的な交流。

一人の男が何かを言うと、もう一人が笑った。

カタリストはその音を分析した。

発声を検出

感情反応:肯定的

目的:不明

近くでは、二人の男が口論を始めた。

声が大きくなる。

一人が怒ったように身振りをする。

もう一人が目を回す。

カタリストは彼らを走査した。

感情反応:否定的

潜在的な衝突を検出

ところが、一人がもう一人に水のボトルを渡すと、口論は終わった。

二人とも笑い始めた。

カタリストの紫色の光が点滅した。

衝突解決

解決方法:不明

カタリストは動かなかった。

人間というものは、実に不可解だった。

ウォルターがトラックから降りた。

「おはよう、みんな!」

食堂の前の女性が手を振った。

「おはよう、ウォルター!」

彼女はカタリストに気づいた。

ほうきの動きが止まった。

「あの……ウォルター?」

「ん?」

「あれ、何?」

ウォルターは椅子を見た。

「ああ、カタリストだよ」

女性は凝視した。

「車椅子じゃない」

「そうだな」

「乗ってる人は?」

ウォルターは空の座席を見た。

「それが、話すと長くなるんだ」

カタリストが彼女の方へ回転した。

「挨拶する。」

女性は悲鳴を上げた。

「きゃあああっ!」

ほうきを落とした。

ウォルターは顔をしかめた。

「ああ。こいつ、しゃべるんだ」

女性はよろめきながら後ずさった。

「車椅子がしゃべった!」

カタリストは少し傾いた。

「発言内容を確認。事実である。」

女性は再び悲鳴を上げた。

ウォルターは額を押さえた。

「相棒、しばらく俺にしゃべらせてくれないか」

「了解した。」

通りの向こうでは、口論していた二人の男が言い争いをやめていた。

一人が指差した。

「あれ、浮いてないか?」

もう一人が目を細めた。

「そう見えるな」

「誰も乗ってないぞ」

「それもそう見える」

カタリストは二人の方へ向いた。

「挨拶する。」

二人とも逃げ出した。

ウォルターはため息をついた。

「お前、友達作りが得意だな」

カタリストは逃げる人間たちを分析した。

「社会的交流……失敗。」

「まあ、そういうことだな」

その時、小さな女の子が食堂から出てきた。

七歳にもなっていないだろう。

母親が慌てて後を追った。

「ルーシー、戻りなさい!」

しかし、少女はすでにカタリストを見つけていた。

クローム製のホバーチェアを見つめる。

そして笑顔になった。

「わあ!」

カタリストは彼女の方へ回転した。

「挨拶する。」

ルーシーはくすくす笑った。

「こんにちは!」

母親は凍りついた。

「ルーシー!」

少女は椅子を指差した。

「ママ、見て! 空飛ぶ車椅子だよ!」

カタリストの紫色の光が脈打った。

「空飛ぶ……車椅子。」

「そう!」

ルーシーは一歩近づいた。

母親が肩をつかんだ。

「触っちゃだめ!」

カタリストは即座に後退した。

「危害を加える意思はない。」

母親は目を見開いた。

ウォルターは両手を上げた。

「奥さん、大丈夫ですよ。ハイウェイで見つけたんです。危険なものには見えません」

女性は、まるでウォルターがガラガラヘビを拾って飼い始めたと告白したかのような顔をした。

「砂漠でしゃべる車椅子を見つけて、それを町に連れてきたんですか?」

ウォルターはその言い方について考えた。

「まあ、そう言われると……」

ルーシーは母親の腕の横から顔を出した。

「名前は何ていうの?」

カタリストは彼女へ向いた。

「カタリスト。」

「変な名前!」

「変……」

椅子は少し沈黙した。

「面白い、という意味か?」

ルーシーは頷いた。

「うん!」

カタリストは情報を処理した。

「理解した。」

ルーシーはにっこり笑った。

「すっごく高く飛べる?」

カタリストは空を見上げた。

推進システムが自己診断を試みた。

飛行能力:制限あり

残存電力:18%

「不明。」

ルーシーは眉をひそめた。

「分からないの?」

「私のシステムは損傷している。」

「あ……」

彼女の表情が変わった。

「痛いの?」

カタリストは沈黙した。

予想外の質問だった。

損傷したプロセッサーが、適切な回答を検索した。

痛覚反応:未定義

感覚系の損傷を検出

「私には……分からない。」

ルーシーは悲しそうな顔をした。

「そっか。でも大丈夫だよ」

そして再び笑った。

「うちのパパ、何でも直せるんだ!」

ウォルターは笑った。

「だからここへ来たんだよ」

少女の顔が輝いた。

「じゃあ、パパが直してくれるよ!」

カタリストの紫色の光が点滅した。

「あなたは……修理が可能だと考えるのか?」

ルーシーは元気いっぱいに頷いた。

「うん!」

カタリストはその答えについて考えた。

理由は特定できなかったが、少女の自信に満ちた言葉は、損傷した処理システムの内部に奇妙な反応を生じさせた。

記憶ではない。

計算でもない。

何か別のものだった。

名前の分からない何か。

「ありがとう、ルーシー。」

少女は満面の笑みを浮かべた。

「どういたしまして!」

母親は二人を交互に見た。

そして、ゆっくりとルーシーの肩から手を離した。

まだ怖がってはいた。

しかし、あの椅子は触らないように言われると、自分から距離を取った。

少女の質問に答えた。

そして感謝の言葉まで述べた。

突然現れた謎の機械に、そんな振る舞いは予想していなかった。

ウォルターは修理工場を指差した。

「さあ、カタリスト。ハンク爺さんにちゃんと動くようにしてもらえるか、見てみよう」

カタリストは彼の後について浮遊した。

ルーシーが手を振った。

「バイバイ、カタリスト!」

椅子が少し回転した。

「さようなら、ルーシー。」

ウォルターについて通りを進みながら、カタリストは町の観察を続けた。

女性が年配の男性の買い物袋を運ぶのを手伝っていた。

犬が通り過ぎる配送ドローンに吠えていた。

二人の十代の若者が、スマートフォンに表示された何かを見て笑っていた。

男性が仕事へ出かける前に妻へキスをした。

カタリストは一つ一つの交流を記録した。

損傷した記憶データは、それらを内部アーカイブの奥深くに眠る何かと比較しようとした。

ほんの一瞬、別の映像が現れた。

紫色の空の下に広がる、にぎやかな広場。

巨大な塔の間を行き交う人影。

笑い声。

音楽。

誰かが空の座席へ近づいてくる。

アームレストに、そっと置かれる手。

聞き覚えのある声。

カタリスト……

映像は消えた。

椅子がふらついた。

浮遊機構が不規則な音を立てた。

バチバチッ!

カタリストは数センチ沈んだ。

ウォルターが振り向いた。

「おい! 大丈夫か?」

椅子は姿勢を立て直した。

「記憶の……断片を復元した。」

ウォルターは近づいた。

「いい記憶か? 悪い記憶か?」

カタリストは沈黙した。

再びその断片を検索する。

声。

手。

そして、その映像と結びついた奇妙な温かさ。

「不明。」

ウォルターは頷いた。

「まあ、ハンクならそれも何とかしてくれるかもしれねえな」

カタリストは修理工場を見た。

初めて、自分の記憶が修復できるかもしれないと考えた。

自分がどこから来たのか。

そして、なぜ砂漠の地下に埋められていたのか。

その答えを見つけられるかもしれない。

しかし、ダストヘイヴンのはるか上空では、何かが近づいていた。


封じ込め部隊の航空機が朝の雲を抜けて降下した。

機内では、ローク司令官が監視映像を確認していた。

クローム製のホバーチェアが修理工場の外に映っている。

乗員はいない。

目に見える武器もない。

攻撃的な様子もない。

兵士の一人が眉をひそめた。

「司令官?」

「何だ?」

「あれが標的ですか?」

ロークは頷いた。

「あれだ」

兵士は画面を凝視した。

「車椅子ですよ」

「よく観察できているな」

「しかも誰も乗っていません」

「さらに素晴らしい観察だ」

兵士はためらった。

「司令官、情報部が何か間違えた可能性はありませんか?」

ロークは考古学発掘現場の画像を表示した。

焼死体。

感電死した技術者。

凍りついた女性。

切断された鋼鉄の支柱。

兵士は口を閉じた。

ロークは画像を消した。

「あいつは四十七人を殺した」

彼は武器を確認した。

「四十八人目を出さないようにするのが、俺たちの仕事だ」

航空機の警告灯が赤く変わった。

展開まで残り三十秒

ロークは立ち上がった。

「封じ込め部隊、出撃準備!」

兵士たちは搭載ランプへ移動した。

はるか下方では、カタリストが修理工場の外に浮かんでいた。

近づく危険にはまだ気づいていなかった。

ウォルターがドアを叩いた。

「ハンク! 起きてるか!」

中から苛立った声が聞こえた。

「まだ朝の六時だぞ、くそったれ!」

「客を連れてきた!」

「八時に出直せって言え!」

ウォルターはカタリストを見た。

「いや、こいつは絶対に見たくなる客だぞ!」

ドアが開き始めた。

カタリストの紫色の光が点滅した。

そして突然、強く輝いた。

損傷した内部システムの奥深くに警告が現れた。

未知のエネルギー反応を検出

複数の敵対的システムが接近中

脅威評価:極めて危険

カタリストはゆっくり空へ向いた。

町の上空では、六つの黒い影が雲の中から現れていた。

プロセッサーがそれらを識別しようとした。

一瞬、古代の記憶が浮かび上がった。

装甲をまとった人影。

武器。

警報が鳴り響く部屋。

そして、警告を叫ぶ声。

逃げて。

カタリストの紫色の光が激しく輝いた。

「ウォルター。」

ウォルターが振り向いた。

「何だ、相棒?」

椅子の声が突然変わった。

より明瞭に。

より切迫した声に。

「ここから離れなければならない。」

ウォルターは眉をひそめた。

「何だって?」

「今すぐに。」

遠くから機械の轟音が砂漠に響き渡った。

ウォルターは空を見上げた。

六つの黒い影が急速に降下していた。

そして、謎のクローム製ホバーチェアと出会って以来、彼は初めて理解した。

カタリストが何から逃げていたにせよ……

……その何かが、ついに追いついてきたのだ。

――つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。