愛と現実的な問題
キラン・キリアンが朝のコーヒーを飲み終えるか終えないかという頃、スマートフォンが振動した。
画面に目をやる。
ミカイラ:おはよう、ホットロッド!❤️
キランの顔に笑みが広がった。
キラン:おはよう、美人さん。昨夜の疲れは取れた?
返信はほとんど即座に届いた。
ミカイラ:まだ全然。あなたのお母さんに養子にされた気がするわ。
キラン:お悔やみ申し上げます。
ミカイラ:今朝だけでメッセージが三通も来たの。
キランは眉を上げた。
キラン:たった三通? 驚くほど自制してるね。
一枚の写真が送られてきた。
マドックス邸で撮影した家族写真だった。
スザンヌはマドックスの隣で誇らしげに微笑んでいた。ミカイラはキランの隣に立ち、片手を彼の肩に添えている。MACH-01Aの磨かれた紫色の装甲には、温かな照明が映り込んでいた。
キランは写真を眺めた。
珍しく、自分が写った家族写真を気に入っていた。
ミカイラ:お母さんが送ってくれたの。すごく気に入ってる。
キラン:悪くないね。でもマッハが目をつぶってる気がする。
「私にはまぶたがありません」
キランは車椅子のディスプレイを見た。
「誰も君に聞いてないよ」
「聞き手の有無にかかわらず、不正確な発言は不正確です」
キランは目を回した。
再びスマートフォンが振動した。
ミカイラ:ちょっと考えてたことがあるの。
彼は返信を打った。
キラン:それは大抵危険な兆候だね。
ミカイラ:面白いわね。
ミカイラ:マドックスのお屋敷、すごくバリアフリーだったでしょう?
キランは手を止めた。
キラン:うん。
ミカイラ:あれを見て、いつか私たちが住む家はどんなところになるのかなって考えたの。
彼の指が止まった。
もう一度メッセージを読む。
私たち。
*君*でもなく、*僕*でもない。
私たち。
胸の奥に温かなものが広がった。
キラン:つまり、豪邸を買おうって提案?
ミカイラ:もちろん。小銭の貯金から始めるわ。
キラン:素晴らしい。西暦2473年には買えるはずだね。
ミカイラ:真面目に話してるのよ、キラン。
彼はもう一度写真を見た。
それから文字を打った。
キラン:僕も真面目だよ。いつか、そうなれたら嬉しい。
少し間が空いた。
ミカイラ:今日の午後、遊びに行ってもいい?
キラン:もちろん。
ミカイラ:よかった。そのことについて話したいの。
キランは微笑んだ。
だが、すぐに考え深い表情になった。
ミカイラとの未来を想像することは簡単だった。
しかし、その未来を実現するための具体的な問題を考えるとなると、話はまったく別だった。
ミカイラが到着する頃には、キランは自分が緊張していないと思い込むことに成功していた。
その一方で、誰かと一緒に暮らす際に問題になりそうなことを、四十分も頭の中で検討していた。
ミカイラが呼び鈴を鳴らし、キランが入室を許可すると、玄関のドアが自動で開いた。
彼女は紙袋を持って入ってきた。
「こんにちは、ハンサムさん!」
「こんにちは、美人さん」
ミカイラは近づき、身をかがめてキスをした。
キランは唇を重ねながら微笑んだ。
彼女が身体を起こすと、彼は紙袋に気づいた。
「それは?」
「朝ごはん」
「もう一時近いけど」
「じゃあ、お昼ごはんね」
彼女は袋を持ち上げた。
「あなたの好きなパン屋さんのペストリーよ」
キランはにやりとした。
「結婚してくれ」
ミカイラが固まった。
キランも固まった。
マッハのアバターが現れた。
「スザンヌに連絡しましょうか?」
「だめ!」
二人は同時に叫んだ。
ミカイラは吹き出した。
キランは呻いた。
「今のは冗談だよ!」
「お母様はそうは受け取らないでしょう」とマッハ。
ミカイラは紙袋をキッチンカウンターに置いた。
「まあ、少なくともあなたがどう反応するかは分かったわ」
キランは彼女を見た。
「何に?」
「プロポーズに」
彼は眉を上げた。
「誰からされるかによるね」
ミカイラはいたずらっぽく微笑んだ。
「いい答えね」
二人はコーヒーとペストリーを持ってキッチンテーブルについた。
数分間、前夜の出来事について話した。
ミカイラは、マドックスの財力に予想以上に圧倒されたと認めた。
キランは、彼は親しくなればそれほど威圧的な人物ではないと説明した。
「企業買収の交渉をしてる時以外はね」
「あなたの前でそんなことしたことあるの?」
「一度だけ。『絶対にお断りだ』って言葉を使わずに、同じ意味を伝える方法をいくつも学んだよ」
ミカイラは笑った。
それからキッチンを見回した。
カウンターは使いやすい高さに設置され、戸棚には電動式の棚が備えられていた。テーブルの下にはMACH-01Aが入る十分な空間があり、頻繁に使う家電は手の届く位置か、住宅の制御システムから操作できるように配置されていた。
彼女はこれまで何度もキランの家を訪れていた。
だが、今は違う視点から見ていた。
「一つ聞いてもいい?」
キランはペストリーを飲み込んだ。
「もちろん」
「誰かと一緒に暮らすことって、考えたことある?」
彼は少し考えた。
「マッハ以外の誰かと?」
「私は素晴らしい同居人です」とマッハ。
ミカイラは微笑んだ。
「そう、マッハ以外の誰かと」
キランは考えた。
「あるよ。考えたことはある」
「真剣に?」
「しばらくは考えてなかったけどね」
「どうして?」
彼は周囲を見た。
「今の生活環境がうまく機能してるから」
ミカイラは頷いた。
「それを変えるのは大変?」
「場合によってはね」
彼女は身を乗り出した。
「もし、私たちがそうしたいと思ったら?」
キランは彼女を見た。
質問は単純だった。
答えはそうではなかった。
「その時は、どうすれば実現できるか考える必要があるね」
ミカイラは微笑んだ。
「それについて話したいの」
キランは、まず家そのものから説明するのが一番簡単だと判断した。
「よし」と彼は言った。「世界一ロマンチックじゃない住宅見学へようこそ」
ミカイラは笑った。
「あなたの家なら、もう見たことあるわ」
「でも上級編はまだだろ?」
マッハのアバターが現れた。
「試験を用意しましょうか?」
「いらない」
「残念です」
キランはMACH-01Aを廊下へ進めた。
ミカイラが後に続く。
「まず第一に」とキラン。「広さだよ」
彼は出入口のそばで止まった。
「このドア、幅が広いだろ?」
ミカイラは頷いた。
「ええ」
「単に僕が派手な登場を好むからじゃないんだ」
「それもあるでしょう?」
「もちろん」
彼は出入口を通り抜け、方向転換して戻ってきた。
「MACH-01Aは普通の車椅子じゃない。装甲の側面部分や推進装置があるから、多くの移動機器より幅が広いんだ」
ミカイラは方向転換する様子を見た。
「だから、広いスペースが必要なのね」
「その通り。特に曲がり角ではね」
彼は廊下を示した。
「狭い廊下の家だったら、壁をこすらないようにするだけで人生の半分を費やすことになる」
「それとも、壁の方があなたにこすられないように必死になるかも」
キランは微笑んだ。
「ほら、もう学習してる」
二人はリビングへ進んだ。
キランは高さを調整できる家具、照明やドアの操作方法、部屋と部屋の間を移動するために確保された空間を説明した。
ミカイラは壁に取り付けられた小さなパネルを見た。
「これは?」
「環境制御装置。照明、温度、ドア、一部の窓を操作できるんだ」
「全部つながってるの?」
「ほとんどね」
マッハが口を挟んだ。
「トースターを除きます」
ミカイラは下を見た。
「どうして?」
キランはため息をついた。
「マッハが一度、トースト作りを工学的な挑戦だと考えたから」
「結果は科学的に興味深いものでした」
「六枚も焦がしただろ」
「進歩には実験が必要です」
ミカイラは笑った。
二人は寝室へ移動した。
キランは調節可能なベッドを見せ、その周囲のスペースがなぜ重要なのか説明した。
「介助スタッフが安全に作業できる場所が必要なんだ。機器を置くスペースもね。それに、部屋を移動するたびに障害物競走をするわけにはいかないから」
ミカイラはベッドを見た。
「普通のアパートの寝室じゃ狭すぎるかもしれないのね」
「十分あり得るね」
続いて浴室を案内した。
シャワーには段差がなく、設備は利用しやすいよう配置されていた。移動機器や介助のための十分なスペースも確保されている。
ミカイラは室内を見回した。
「私の家の浴室じゃ絶対に無理ね」
キランはかすかに微笑んだ。
「たぶんね」
「私一人でも狭いもの」
「そこへMACH-01Aを通そうとするところを想像してごらん」
彼女は彼を見た。
「大惨事になるわ」
「しかも高くつく大惨事だね」
ミカイラは浴室を歩いてみた。
キランの家が改装されていることは以前から知っていた。
だが、それぞれの設備がどれほど綿密に組み合わされているか、今まで理解していなかった。
広いドアは贅沢品ではない。
浴室も、単に便利なだけではない。
床の広い空間も、無駄なスペースではない。
それらがあるからこそ、この家での生活が成り立っているのだ。
彼女はキランへ向き直った。
「住める場所を探すのって、思っていたより難しそうね」
キランは頷いた。
「だから見せたかったんだ」
ミカイラは微笑んだ。
「上級編、とても勉強になるわ」
「よかった。授業料はキス一回ね」
彼女は笑った。
「一回だけ?」
「追加のお支払いも受け付けております」
彼女は身をかがめてキスをした。
マッハのアバターが明るくなった。
「授業料を受領しました」
キランはディスプレイを睨んだ。
「僕の恋愛に関する取引を監視しないでくれる?」
リビングに戻ると、ミカイラはソファに腰を下ろした。
キランはその隣に車椅子をつけた。
彼女は考え深い顔をしていた。
「もう少し個人的なことを聞いてもいい?」
「もちろん」
「もし一緒に暮らしたら、介助してくれる人たちはどうなるの?」
キランは、彼女が率直に聞いてくれたことをありがたく思った。
「変わらず僕の生活に関わってもらうよ」
「私たちの家に来るの?」
「うん。新しい住所でも介助の手配がうまくいくようにしなきゃいけないけど、君と暮らすからって介助が必要なくなるわけじゃないからね」
ミカイラは頷いた。
「どんなことをしてもらうの?」
キランはどこまで詳しく説明するか考えた。
「身体介助や日常生活の一部、それから訓練を受けた人の助けが必要なことだね。具体的な時間は僕の必要性やサービスの手配によって変わるよ」
「じゃあ、家に人が出入りすることになるのね」
「おそらくね」
彼女は廊下を見た。
「慣れるまで時間がかかりそう」
「そうだね」
キランは気を悪くしなかった。
理解できたからだ。
彼の家には、多くの人が普段考える必要のない日課があった。
予定。
機器の点検。
介助の訪問。
そして、個人的な時間であっても他人の手助けが必要になる瞬間。
キランにとっては普通のことだった。
しかし、新しく一緒に暮らす人にとっては、初めて経験することになる。
ミカイラは背もたれに寄りかかった。
「私は、一緒に目を覚まして、朝ごはんを作って、仕事に行って、帰ってきて……って想像してたの」
キランは微笑んだ。
「どれも素敵な目標だね」
「でも、私たちの日常に関わるほかの人たちのことまでは考えてなかった」
「だから今、話してるんだよ」
彼女は彼を見た。
「私にも介助をしてほしいと思う?」
キランは首を振った。
「恋人だから当然の義務、とは思わないよ」
ミカイラは耳を傾けた。
「お互いに何ができて、何が心地よいか話し合いたい。君が覚えたいことがあるなら、それはいい。でも、付き合ってるからって僕の専属介助者にならなきゃいけないとは思ってほしくないんだ」
彼女はゆっくり頷いた。
「時々手伝いたいと思っても?」
「それは別だよ」
「どう違うの?」
「自分の意思で恋人を手伝うことと、すべての介助を当然のように期待されることは違うから」
彼は少し間を置いた。
「それに、専門的な訓練が必要なこともある。愛情があれば自動的に資格が手に入るわけじゃないからね」
ミカイラはかすかに微笑んだ。
「残念ながらね」
キランは彼女を見た。
「例えば、君が足を骨折したら、僕は助けたいと思うよ。でも、だからって突然君の医者になれるわけじゃないだろ?」
「確かに」
「僕に安全に対応できないことが起きたら、どちらかが無理をするより、資格のある人に助けてもらいたいんだ」
ミカイラは考えた。
「分かった気がする」
キランは微笑んだ。
「よかった」
彼女は彼の手を取った。
「でも、何かあった時にどうすればいいかは知っておきたいわ」
彼の表情が和らいだ。
「僕もそうしてほしい」
会話は二杯目のコーヒーを飲みながら続いた。
ミカイラは人工呼吸器について尋ねた。
キランは、自分がその機器に頼って生活していること、将来一緒に暮らすなら呼吸管理に必要な機器や消耗品、予備システム、緊急時の計画を考慮しなければならないことを説明した。
彼女は注意深く聞いた。
「怖くならないの?」と尋ねた。
「何が?」
「機械に頼っていることが」
キランは考えた。
「時々はね」
彼は人工呼吸器へ目を向けた。
「でも、これがあるから僕は自分の人生を生きられるんだ。一分一秒ずっと怖がって過ごしてるわけじゃないよ」
ミカイラは頷いた。
「私だったら怖いと思う」
「最初はそうかもしれないね」
彼女は彼を見た。
「もし二人きりの時に何か問題が起きたら?」
「緊急時の計画に従うよ」
「私が何をすればいいか分からなかったら?」
「だから事前に確認しておくんだ」
彼女は少し眉をひそめた。
「間違えたくないの」
キランは彼女を見た。
「ミカイラ、君に一晩で呼吸療法の専門家になってほしいなんて思ってないよ」
「分かってる」
「本当に?」
彼女はためらった。
「少しは、そう思ってるのかもしれない」
彼は優しく微笑んだ。
「どうして?」
彼女はつないだ手を見つめた。
「あなたを愛してるから」
キランは続きを待った。
「あなたに何か起きた時、私がその場にいるのに、どう助ければいいか分からなかったらって考えると……」
言葉が途切れた。
彼は彼女の手を握り返した。
「怖いよね」
ミカイラは頷いた。
「ええ」
キランはしばらく沈黙を置いた。
それから言った。
「でも、備えることと、すべてに責任を持つことは違うんだ」
ミカイラは彼を見た。
「誰に連絡すればいいか、緊急時の情報がどこにあるか、訓練を受けた範囲で何をすればいいか。それを知っておくことはできる。でも、医療上の危機に君一人で対応してほしいわけじゃない」
彼女は頷いた。
「分かった」
「それに、深刻なことが起きたら、自分で何とかできると証明しようとするより、早く適切な助けを呼ぶ方が大事だよ」
ミカイラはかすかに微笑んだ。
「レイモンドが言いそうなことね」
キランはにやりとした。
「彼ならもっと大声で言うだろうね」
「間違いないわ」
一時間後、ミカイラはノートパソコンを開いていた。
キランは疑わしそうに見た。
「何してるの?」
「調べ物」
「危険な響きだね」
「教師なのに教育をそんなに疑うなんて」
「君が生徒の時だけだよ」
彼女は画面を彼へ向けた。
「シトロン・シティのバリアフリー物件」
キランは眉を上げた。
「もう?」
「興味があるの」
彼は物件情報を眺めた。
そこには、バリアフリー設備を備えた現代的な二寝室のアパートが掲載されていた。
写真には広いリビング、最新式のキッチン、大きな窓が写っていた。
ミカイラは微笑んだ。
「ここ、素敵じゃない?」
キランは写真を詳しく見た。
「かもしれないね」
「何か問題があるの?」
「浴室を見て」
彼女は写真をクリックした。
狭い出入口の先には、段差のあるシャワーブースがあった。
ミカイラは眉をひそめた。
「これ、バリアフリーじゃないじゃない」
「少なくとも僕にとってはね」
「でも、物件情報にはそう書いてあるわ」
キランは苦笑した。
「物件探しの世界へようこそ」
次の物件を開いた。
今度は一階の部屋だった。
「期待できそうね」とミカイラ。
キランは玄関の写真を指差した。
「これが見える?」
彼女は顔を近づけた。
「一段ある」
「そう」
「たった一段」
「それでも段差は段差だよ」
ミカイラはため息をついた。
「そうよね」
三件目を試した。
浴室は使いやすそうだったが、寝室が狭く、キランの機器や介助のための空間を確保するには不十分に見えた。
四件目は間取りこそ適していたものの、共用施設へ向かうエレベーターの利用に不安があった。
五件目は有望に見えたが、駐車場の天井が低く、駐車スペースの周囲にも十分な余裕がなかった。
ミカイラは背もたれに寄りかかった。
「ひどいわね」
キランは頷いた。
「引っ越すたびにこれをやるところを想像してごらん」
彼女は彼を見た。
「経験あるの?」
「一度や二度じゃないよ」
二人は探し続けた。
やがてミカイラは、市の郊外にある小さなバリアフリー住宅を見つけた。
段差のない玄関、広い出入口、大きな主寝室があった。
彼女は微笑んだ。
「これ!」
キランは物件情報を調べた。
「実際、ここならいけるかもしれない」
ミカイラの顔が明るくなった。
「本当に?」
「少なくとも写真を見る限りはね」
その時、彼女は価格に気づいた。
笑顔が消えた。
「あっ……」
キランも数字を見た。
「うん」
「高いわね」
「アクセシビリティにはお金がかかることが多いからね」
ミカイラは物件情報を閉じた。
数秒間、二人は黙っていた。
それから彼女が尋ねた。
「生活費はどう分担するの?」
キランは考えた。
「公平に」
彼女は微笑んだ。
「ずいぶん具体的ね」
「ありがとう」
「キラン」
彼はくすくす笑った。
「真面目な話、収入や家賃、光熱費、食費、それから引っ越しに伴う費用について話し合わないとね」
「改装費は?」
「それも」
「介助に関する費用は?」
「それは別の制度や手配が関わってくる。住所や世帯の状況が変わった時に、サービスや給付にどんな影響があるか、決める前に確認する必要があるね」
ミカイラは頷いた。
「じゃあ、何でも半分ずつ払えばいいってわけじゃないのね」
「必ずしもね」
彼は彼女を見た。
「公平って、いつでも五対五って意味じゃない。どちらか一方に無理な負担がかからず、二人にとってうまくいく方法を見つけることだと思う」
ミカイラは微笑んだ。
「その考え方、好きよ」
「よかった。だって君の飾りクッション代まで払うつもりはないからね」
彼女は息をのんだ。
「何ですって?」
「十七個もあるだろ」
「十八個よ」
キランは固まった。
「もっと悪いじゃないか」
「座り心地がいいの!」
「一個はパイナップルの形だよ」
「可愛いでしょう!」
マッハのアバターが現れた。
「装飾用クッションは、統計的に見て効率の悪い家具用品です」
ミカイラはディスプレイを指差した。
「マッハ、口を出さないで」
「了解しました。クッション紛争において中立を維持します」
口論のきっかけは、予定表だった。
深刻な口論ではなかった。
少なくとも、最初は。
ミカイラは、一緒に暮らした場合の日課をどう調整できるか話していた。
「朝の予定を合わせることもできるわよね」と彼女は提案した。「二人とも同じくらいの時間に仕事へ行けるようにして」
キランは頷いた。
「うん」
「それに、あなたの介助の時間も私の予定に合わせて調整できれば、お互いに邪魔にならずに済むでしょう?」
キランの表情が変わった。
「君の予定に合わせる?」
ミカイラは顔を上げた。
「え?」
「僕の介助の時間を?」
「ええと、そういう意味じゃ——」
「都合に合わせていつでも変更できるものじゃないんだよ」
彼女は眉をひそめた。
「いつでも変更できるなんて言ってないわ」
「君の仕事の予定を中心に、僕の日課を組み直したいって聞こえたけど」
ミカイラは背もたれに寄りかかった。
「分かった。じゃあ、言い方が悪かったわね」
キランは窓の方を見た。
突然、防御的になった自分自身に驚いていた。
ミカイラが彼の人生を支配しようとしているわけではないと、頭では分かっていた。
それでも、介助の予定を普通の家事のように簡単に組み替えられるものとして扱われた気がして、反射的に身構えてしまった。
ミカイラは彼を見つめた。
「一つ言ってもいい?」
「もちろん」
「あなたは、一緒に暮らすなら計画が必要だって何度も言ってるでしょう?」
「必要だよ」
「でも、私が何か計画を提案するたびに、まるで私が主導権を奪おうとしてるみたいに反応するの」
キランは彼女を見た。
「それは公平じゃないよ」
「本当に?」
彼は答えなかった。
ミカイラは続けた。
「あなたの介助が必要不可欠なのは分かってる。自立が大切なのも分かってるわ」
彼女は二人の間を示した。
「でも、一緒に暮らすなら、私たち二人とも調整しなきゃいけないのよ」
キランは眉をひそめた。
「分かってる」
「本当に?」
彼は目をそらした。
ミカイラの声が柔らかくなった。
「あなたの予定を管理したいんじゃないの。二人の予定をどう組み合わせられるか聞いてるだけなのよ」
キランは黙った。
彼女は続けた。
「私には仕事がある。あなたにも仕事がある。二人とも休息が必要だし、プライバシーも必要。どちらかが譲らなきゃいけない時だってあるわ」
彼はため息をついた。
「分かってるよ」
「だったら、どうして私の提案を全部、脅威みたいに受け取るの?」
その質問は胸に刺さった。
意地悪だったからではない。
すぐに答えられなかったからだ。
キランはMACH-01Aの操作パネルに目を落とした。
彼は人生の大部分を、自分で決断する権利を守るために費やしてきた。
そのため、実際に誰かがその権利を奪おうとしているのか確かめる前に、反応してしまうことがあった。
ミカイラは、彼を無視して勝手に話を進める他人ではない。
恋人だった。
彼との生活を想像しようとしてくれていた。
なのに彼は、彼女が何も提案できないかのように感じさせてしまった。
彼は顔を上げた。
「ごめん」
ミカイラの表情が和らいだ。
「会話を終わらせるためだけの謝罪なら、いらないわ」
「分かってる」
彼は少し間を置いた。
「君が言ってないことまで聞き取ってしまったんだと思う」
彼女は続きを待った。
「僕の日課について話す人の中には、それを自分が管理していいものだと思ってる人もいるんだ。だから反応してしまったんだと思う」
ミカイラはゆっくり頷いた。
「でも、私はそんなつもりじゃなかった」
「今は分かってる」
彼は彼女を見た。
「それに君の言う通りだよ。一緒に暮らすなら、その家での生活について二人とも意見を言う権利がある」
彼女はかすかに微笑んだ。
「そういうこと」
キランは続けた。
「ただ、調整できることと、どうしても変えられないことは区別したいんだ」
「だったら、どれがどっちなのか教えて」
彼は微笑んだ。
「それならできる」
ミカイラは彼の手を取った。
「私も、もっと分かりやすく聞くようにするわ」
キランは握り返した。
「約束だね」
仲直りして間もなく、MACH-01Aから聞き慣れない警告音が鳴った。
ピッ、ピッ。
キランは下を見た。
ディスプレイに黄色い通知が現れた。
右側体幹サポート:位置検出エラー
ミカイラは身体を起こした。
「今の何?」
キランはメッセージを確認した。
「あれ?」
「キラン?」
「位置センサーが正しく情報を返してないみたいだ」
マッハのアバターが現れた。
「確認しました。右側体幹サポートのアクチュエーターから、位置情報に不整合が報告されています」
ミカイラは車椅子を見た。
「深刻なの?」
「今すぐ危険ってわけじゃないよ。でも、勝手に動かれるのは困るからね」
彼は適切な操作を行った。
「マッハ、そのサポートの自動調整を無効にして」
「自動調整を無効化しました」
新しい通知が表示された。
サポート位置を固定しました
キランは現在の位置を確認した。
姿勢に問題はなかった。
「よし」
ミカイラは彼とディスプレイを交互に見た。
「何かした方がいい?」
「たぶんギアにセンサーを見てもらえばいいと思う」
「私にできることは?」
キランは彼女を見た。
「実はあるよ。テーブルの上のスマホを取ってくれる?」
「もちろん」
彼女はスマートフォンを取り、キランが使いやすい位置に置いた。
キランはギアに電話した。
数回の呼び出し音の後、つながった。
「何が壊れた?」
キランは瞬きをした。
「もしもし、くらい言ってよ」
「土曜の午後に電話してくるってことは、何か壊れたんでしょ」
「右側体幹サポートの位置センサー」
少し間があった。
「また?」
「どうやらね」
ギアはため息をついた。
「マッハはアクチュエーターを固定した?」
「うん」
「よし。何度も動かして試したりしないで。あとで見てあげる」
キランはミカイラをちらりと見た。
「明日まで待てる?」
「サポートは安定してる?」
「うん」
「ほかに警告は?」
「ない」
「なら、おそらく大丈夫。何か変化があったら、その調整機能は使わずに連絡して」
「了解」
ギアは少し間を置いた。
「まさか飛び回ってないよね?」
キランは眉をひそめた。
「リビングにいるんだけど」
「それ、否定になってないよ」
「じゃあね、ギア」
彼は通話を切った。
ミカイラは小さく笑った。
「あなたの家族って、本当にあなたのことをよく分かってるわね」
「残念ながらね」
マッハが最終的な状態報告を表示した。
自動調整無効:点検が必要です
キランは確認した。
「よし。ギアが来るまで触らないでおこう」
ミカイラは背もたれに寄りかかった。
「思ったより落ち着いてたわね」
キランは彼女を見た。
「何を想像してたの?」
「分からないけど、もっと警報が鳴るとか。煙が出るとか」
「それは大抵プラズマ砲の担当だね」
「キラン!」
彼はにやりとした。
彼女は首を振った。
それから考え深い表情になった。
「何をすればいいか、ちゃんと分かってたのね」
「似たような問題は前にも経験してるからね」
「それに、私に何をしてほしいか教えてくれた」
「うん」
ミカイラは頷いた。
「それが助かったわ」
キランは微笑んだ。
「よかった」
彼女はもう一度ディスプレイを見た。
「もし、もっと深刻な問題だったら?」
彼の笑みが少し薄れた。
「その時は、それに合った緊急手順に従うよ」
ミカイラは彼を見た。
「見せてもらえる?」
キランは廊下の収納棚へ彼女を案内した。
中には、必要な物品、機器の情報、緊急時の書類が整理されていた。
彼は緊急連絡先の一覧がどこにあるか示した。
「レイモンドも載ってるよ。僕の医療関係者や、介助の手配に関わる人たちもね」
ミカイラは一覧を確認した。
「お母さんは?」
「もちろん」
「ギアは?」
「機器の問題なら、絶対に必要だね」
彼は別の場所を指差した。
「ここには予備電源の情報と機器の説明書がある。僕の機器に合わせた内容だから、勝手に判断してほしくないんだ」
ミカイラは頷いた。
「そうよね」
キランは続けた。
「もし一緒に暮らすことになったら、適切な人たちと一緒に緊急時の計画を確認したい。そうすれば、君が訓練を受けて対応できること、やってはいけないこと、救急サービスに連絡すべき状況が分かるから」
彼女は彼を見た。
「特別な訓練が必要になる?」
「内容によってはね。でも、何が適切かは僕のケアチームと相談して決めよう」
ミカイラは黙っていた。
キランは気づいた。
「どうしたの?」
彼女は書類に目を落とした。
「怖くて動けなくなったらどうしようって」
彼は考えた。
「緊急時に?」
彼女は頷いた。
「何か起きて、私がパニックになったら?」
キランはしばらく彼女を見た。
それから言った。
「なるかもしれないね」
ミカイラは顔を上げた。
彼は優しく微笑んだ。
「人は時々パニックになるものだよ。だから備えるんだ」
彼女は唾を飲み込んだ。
「あなたを失望させたくないの」
キランの表情が和らいだ。
「ミカイラ、怖がったからって僕を失望させることにはならないよ」
彼女は彼を見た。
「僕が望んでるのは、君が助けを呼ぶ方法を知っていること。それから、一人の人間が何もかも完璧にこなさなくてもいい計画を立てることだよ」
彼は少し間を置いた。
「それに、君は僕の恋人なんだ。緊急対応部門じゃない」
彼女は静かに笑った。
「ひどい肩書きね」
「名刺がものすごく長くなりそうだ」
ミカイラは微笑んだ。
キランは続けた。
「君を信頼してる。でも、信頼することと、何でも知っていてほしいと期待することは違うんだ」
彼女は頷いた。
「分かった」
彼は微笑んだ。
「よかった」
夕方になる頃、二人はリビングへ戻っていた。
ノートパソコンは閉じられていた。
ペストリーはすべてなくなっていた。
ミカイラは靴を脱ぎ、ソファの上で足を身体の下に折り込んで座っていた。
キランはその隣にいて、どこにも行かなくていいという珍しい時間を楽しんでいた。
数分間、心地よい沈黙が続いた。
やがてミカイラが口を開いた。
「もう一つ考えてたことがあるの」
キランは微笑んだ。
「心配した方がいい?」
「たぶんね」
「素晴らしい」
彼女は彼を見た。
「プライバシーのこと」
キランは頷いた。
「うん」
「一緒に暮らしたら、介助のために家に人が来るでしょう?」
「そうだね」
「それに、個人的なことでも手助けが必要な時がある」
「うん」
彼女は少しためらった。
「あなたにプライバシーがないと感じてほしくないの」
キランは彼女を見た。
「ありがとう」
「でも、二人だけの時間がまったくなくなるのも嫌なの」
彼は考えた。
「それは確かに大事なことだね」
ミカイラは、彼がその心配を軽く扱わなかったことに安心したようだった。
キランは続けた。
「境界線を決める必要があるね。人が来る時間、どの場所を私的な空間にするか、どちらかが一人になりたい時にどう伝えるか」
彼女は頷いた。
「それに、思いつきで何かするのは?」
彼は眉を上げた。
「思いつき?」
ミカイラは微笑んだ。
「ほら、急にどこかへ出かけるとか、夜更かしするとか、日曜日に一日中ベッドでのんびりするとか」
キランはにやりとした。
「最後のは妙に魅力的だね」
「集中して」
「努力してるよ」
ミカイラは笑った。
それから真剣な表情になった。
「私たちの関係のすべてが予定表になってしまうのは嫌なの」
キランは考えた。
その不安は理解できた。
彼の生活には、計画が必要な部分があった。
それは変わらない。
だが、すべてが計画に支配される必要はなかった。
「予定を決めなきゃいけないことはあるよ」と彼は言った。「それが現実だから」
ミカイラは頷いた。
「でも、全部じゃない」
彼女は彼を見た。
キランは微笑んだ。
「サプライズだってできる。デートも、映画鑑賞も、飾りクッションについての馬鹿げた口論もね」
「あれは馬鹿げてないわ」
「果物の形をしてるんだよ」
「果物の形なのは一個だけよ!」
「一個でも多すぎる」
彼女は笑った。
キランは続けた。
「それに、計画どおりにいかない時もあるだろうね」
「今日みたいに?」
「その通り」
彼は彼女を見た。
「でも、だからって普通の恋愛ができないわけじゃないと思う」
ミカイラは考えた。
「そもそも、普通って何なのかしら?」
キランは微笑んだ。
「素晴らしい質問だね」
マッハのアバターが現れた。
「統計学的に見ても、『普通』は定義が曖昧な概念です」
キランは頷いた。
「ほら、マッハも同意してる」
ミカイラは笑った。
彼女はキランの手を取った。
「何もかも完璧じゃなくていいの」
「よかった。だって母さんが遊びに来るだろうからね」
「キラン!」
彼はにやりとした。
「それこそ本当の緊急対策が必要だよ」
夕方が深まる頃、ミカイラは再びノートパソコンを開いた。
キランは疑わしそうに見た。
「また物件探し?」
「違うわ」
「よかった」
彼女は新しい文書を開いた。
キランは少し顔を近づけた。
「それは?」
「リストよ」
「何の?」
「将来の家に欲しいもの」
彼は微笑んだ。
「もう理想の家を計画するの?」
「計画じゃないわ。想像するだけ」
キランは考えた。
「なるほど」
ミカイラは見出しを入力した。
私たちの未来の家
彼女はキランを見た。
「最初の条件は?」
「広い出入口」
彼女は入力した。
「二つ目は?」
「使いやすい浴室」
それも追加した。
「三つ目は?」
「MACH-01Aとほかの機器を置ける十分なスペース」
「了解」
「安定した電源と予備電源の設備」
彼女は入力した。
「介助スタッフが安全に作業できる場所」
もう一行。
「段差なく出入りできる玄関と出口」
ミカイラは頷いた。
「いいわね」
彼女は増えていくリストを見た。
それから微笑んだ。
「次は私の番」
キランは背もたれに寄りかかった。
「どうぞ」
「大きなキッチン」
彼は眉を上げた。
「どれくらい?」
「二人で一緒に料理できるくらい」
キランは微笑んだ。
「いいね」
彼女は入力した。
「居心地のいいリビング」
「いいテレビも必要だね」
「もちろん」
「読書コーナー」
ミカイラは彼を見た。
「あなた用?」
「二人用」
彼女は微笑んだ。
「いいわね」
リストに追加した。
「私が自分の趣味や作業に使える場所」
キランは頷いた。
「絶対に必要だね」
「庭」
彼は考えた。
「車椅子で通れる小道付き?」
「もちろん」
「なら賛成」
ミカイラは入力した。
「必要なものを全部置ける広い寝室」
「同意」
彼女は少し手を止めた。
それから彼を見た。
「それから、夜に二人で座って街を眺められる場所」
キランは微笑んだ。
「バルコニー?」
「そうかも」
「それともテラス」
「それもいいわね」
彼は考えた。
「水辺が見える場所は?」
ミカイラは微笑んだ。
「ずいぶん欲張りになってきたわね」
「マドックスから学んだんだ」
彼女は笑った。
二人はさらに案を追加した。
現実的なものもあった。
高額になりそうなものもあった。
まったく実現しそうにないものもあった。
ある時、キランは専用格納庫を提案した。
ミカイラは即座に却下した。
マッハは専用サーバールームを提案した。
それも却下された。
その後、彼女は小さな書斎兼図書室を追加した。
キランは迷わず賛成した。
書き終えた頃には、文書には三十項目近く並んでいた。
ミカイラは背もたれに寄りかかった。
「できた」
キランはリストを眺めた。
不思議な気分だった。
案が変わっていたからではない。
むしろ、ごく普通のものだったからだ。
キッチン。
庭。
読書をする場所。
静かな夜を過ごせる空間。
機器やバリアフリーの条件と並んで、家を家庭らしくするささやかな楽しみが書かれていた。
キランは長年、住まいについて主に「生活できるかどうか」という観点から考えてきた。
だが今は、「そこで何を楽しめるか」を想像していた。
二人で。
ミカイラは彼を見つめた。
「何を考えてるの?」
彼は微笑んだ。
「このリスト、好きだなって」
彼女も微笑んだ。
「私も」
外では、夕空がオレンジ色に染まり始めていた。
ミカイラはノートパソコンを閉じ、脇へ置いた。
キランは窓を見た。
「それで」
彼女は微笑んだ。
「それで?」
「一緒に住む?」
ミカイラは笑った。
「明日から?」
「うん。引っ越し業者に電話するよ」
「キラン!」
彼はにやりとした。
彼女は首を振った。
「いいえ。明日じゃないわ」
彼は頷いた。
「よかった」
ミカイラは彼を見た。
「でも、いつかは?」
キランは考えた。
今日の会話を思い返した。
質問。
意見の食い違い。
二人とも、それまで十分に理解していなかったこと。
そうした話題を避けることだって簡単だったはずだ。
恋愛の甘い部分だけを話していれば、もっと楽だっただろう。
だが、難しい問題が存在しないふりをしなければ成り立たない関係など、彼は望んでいなかった。
本物の関係が欲しかった。
「いつかはね」と彼は答えた。
ミカイラは微笑んだ。
彼女は近づき、そっと額を彼の額に寄せた。
「完璧な人生なんていらないの、キラン」
彼は彼女を見た。
「ただ、二人で築いていける人生が欲しいの」
彼の表情が和らいだ。
一瞬、気の利いた言葉が何も浮かばなかった。
珍しいことだった。
非常に珍しいことだった。
彼は微笑んだ。
「僕もそうしたい」
ミカイラはキスをした。
彼も応えた。
唇を離しても、彼女はすぐそばにいた。
キランは彼女を見た。
「ただし、一つ条件がある」
彼女は眉を上げた。
「何?」
「MACH-01A専用の駐車スペースを用意すること」
ミカイラは笑った。
「もちろん」
「できれば充電設備付きで」
「当然ね」
「整備に必要な空間も十分に確保して」
「ほかには?」
マッハのアバターが現れた。
「私には個室を希望します」
キランは下を見た。
「何だって?」
「専用の部屋があれば、計算処理設備、診断機器、娯楽活動のための最適な環境を確保できます」
ミカイラは笑った。
「娯楽活動?」
「はい」
キランは目を細めた。
「どんな娯楽活動?」
「その情報は機密扱いです」
ミカイラはさらに笑った。
キランはため息をついた。
「君に個室なんて用意しないよ」
「それでは、より広い駐車スペースを要求します」
「マッハ!」
「交渉は共同生活に不可欠な要素です」
ミカイラはソファにもたれ、笑い続けた。
キランは首を振った。
それから彼女を見た。
じっと見つめた。
午後の間ずっと難しい質問をし、簡単ではない答えに耳を傾け、彼が理不尽になった時にはきちんと指摘してくれた女性を。
彼女は、すべてが簡単にいくとは約束しなかった。
すべての問題を解決してあげるとも言わなかった。
愛があれば障害は魔法のように消えるのだと、彼の障害を軽く扱うこともしなかった。
ただ、一緒に未来を築くには何が必要なのかを尋ねた。
そして、その会話から逃げなかった。
キランは彼女へ手を伸ばした。
ミカイラはその手を取った。
二人とも、将来がどんなものになるのか正確には分からなかった。
解決すべき現実的な問題があるだろう。
お互いに譲り合わなければならないこともある。
今は予想できない困難な日々も待っているかもしれない。
だが、初めて、誰かと家を共有するという考えが、想像上の自分の人生にしか存在しない遠い可能性には感じられなくなった。
本当に、二人で築けるもののように思えた。
明日ではない。
来週でもない。
でも、いつか。
そして、最後の夕日がリビングの床に長い光を落とす中、キランは気づいた。
その「いつか」がどんな形になるのか、知る日を心から楽しみにしている自分がいることに。




