もう一方の家族
ミカイラ・マッキントッシュは、土曜日の午後の大半を、自分の服装が恋人の家族に会いに行く女性らしいのか、それとも就職面接に向かう女性らしいのか、判断するために費やしていた。
その違いは、考えれば考えるほど分からなくなっていた。
ベッドの上には三着のドレス。
クローゼットの扉には四着目。
そして、すでに二度却下した五着目を、今まさに手に持っていた。
彼女はそれを身体に当て、鏡の中の自分を見つめた。
「フォーマルすぎるわね」
ドレスをベッドへ放り投げる。
だが、すぐに考え直した。
「いや、逆にフォーマルさが足りない?」
スマートフォンが鳴った。
キランからだった。
ミカイラはすぐに応答した。
「もしもし、ホットロッド」
「やあ、美人さん。準備はどう?」
「最悪よ」
「素晴らしい。予定どおりだね」
ミカイラは電話を睨んだ。
「楽しんでるでしょう?」
「ものすごく」
「キラン!」
「何だよ。僕は君のご両親との夕食を生き延びたんだ。今度は君が同じ目に遭うところを楽しむ権利くらいあるだろう?」
ミカイラは目を回した。
「あなたのお母さんは、もう私のことを気に入ってくれてるじゃない」
「だから危険なんだよ」
「どうして?」
「母さんは誰かを気に入ると、ただ家族として歓迎するだけじゃ済まないんだ。その人の人生設計まで始めちゃうんだよ」
ミカイラは笑った。
「大げさね」
「昨日、屋外での結婚式は好きかって聞かれたよ」
ミカイラの笑いが止まった。
「何ですって?」
「どうやら素敵な庭園式場を見つけたらしいんだ。ただ、花が季節限定だから早めに予約しないといけないらしい」
「キラン!」
「僕は情報を伝えてるだけだよ」
ミカイラはベッドの端に腰を下ろした。
「冗談だって言って」
「式場については本当。予約については……たぶん冗談」
電話の向こうから、別の声が聞こえた。
「お母様はシェイクスピアをテーマにした式も検討されています」
ミカイラはにやりとした。
「こんにちは、マッハ」
「こんにちは、ミカイラ」
「キランの準備を手伝ってるの?」
「不必要に派手な登場を阻止しようとしているところです」
キランが抗議した。
「考えてただけだろ!」
「マドックス邸の玄関ホールで推進システムを起動することは推奨できません」
ミカイラは口元を覆った。
「キラン、まさか本気で家の中へ飛んで入るつもりだったの?」
「もうやめたよ」
彼女は笑った。
「本当にしょうがない人ね」
「それなのに、なぜか君は僕を愛してくれてる」
「永遠の謎ね」
キランはくすくす笑った。
それから、声が少し優しくなった。
「でも、本当に今夜は心配しなくていいよ」
ミカイラはベッドに散らばったドレスを見た。
「あなたは簡単に言うけど」
「母さんは何週間も君に会うのを楽しみにしてたんだ。マドックスだっていい人だよ」
「分かってる。ただ、気に入ってもらいたいの」
「もう気に入られてるよ」
「そんなの分からないでしょう?」
「母さんは街中の半分の人に君の話をしてるからね」
ミカイラは瞬きをした。
「本当に?」
「多少の誇張はあるかな。でもギアには確実に話してる。レイモンドにもたぶん。美容師さんには間違いなく」
ミカイラは呻いた。
「ああ、素晴らしいわね」
「いつもどおりの君でいればいいんだよ」
彼女はかすかに微笑んだ。
「それ、私があなたに言った言葉よ」
「そして君は正しかった」
ミカイラは少し考えた。
それから再びドレスを見た。
「一つ質問」
「どうぞ」
「お母さんは緑と青、どっちが好き?」
キランは一瞬黙った。
「結婚式のテーマカラー?」
「キラン!」
彼は大笑いした。
午後六時半までに、ミカイラはようやくドレスを決めた。
控えめな襟元と身体に沿ったウエストラインが特徴の、濃紺のドレスだった。
首元には繊細な銀のネックレスをつけ、ルビー色の髪は下ろしたままにしていた。
眼鏡も綺麗に磨いた。
化粧は控えめ。
誰が見ても、きちんとした装いだった。
当然ながら、それで緊張が収まることはなかった。
キランは、彼女をマドックス邸まで送る車を手配していた。
最初、ミカイラは断った。
自分で運転できる。
車だってちゃんと持っている。
だがキランによると、マドックスは客人には運転手を迎えに行かせることにこだわるらしい。
どうやら、それが彼なりのもてなし方なのだ。
迎えの車が到着すると、ミカイラは高級ホテルの客室よりも立派な内装を持つ、黒い高級セダンを目にした。
運転手は名前を呼んで挨拶した。
「こんばんは、マッキントッシュ様」
「こんばんは」
「マドックス様がお待ちです」
ミカイラは後部座席に座った。
シートは柔らかな革張りだった。小さなタッチスクリーンで空調、音楽、窓の遮光まで操作できる。
冷蔵スペースには飲み物まで用意されていた。
彼女は操作パネルを眺めた。
「この車、キッチンまでついてるんですか?」
運転手はバックミラー越しに微笑んだ。
「このモデルにはございません、お客様」
ミカイラは固まった。
このモデルには?
ほかのモデルについては聞かないことにした。
車は次第に高級住宅街へと入っていった。家々はどんどん大きくなり、芝生は不自然なほど完璧に整えられていた。
やがて、車は木々に囲まれた私道へ曲がった。
前方には照明に照らされた門。
その向こうには、美しく整備された敷地を曲がりながら進む長い車道が見えた。
そして、邸宅が姿を現した。
ミカイラは身を乗り出した。
「嘘でしょう……」
屋敷は巨大だった。
クリーム色の石壁が優雅な屋根の下にそびえ、背の高い窓には夕空が映っていた。バルコニーやテラス、屋根付きの通路が温かな照明に照らされている。
車寄せの中央には円形の噴水。
屋敷の奥には庭園、ガラス張りの建物、そして別棟のゲストハウスらしきものまで見えた。
彼女は運転手を見た。
「これ、本当に家なんですか?」
彼は微笑んだ。
「はい、お客様」
「博物館みたいですけど」
「マドックス様も時々そう言われます」
ミカイラは座席に深くもたれた。
マドックスが裕福なのは知っていた。
シトロン・シティでマドックス・コーポレーションを知らない人はいない。
だが、誰かがお金持ちだと知っていることと、その人が暮らす場所を実際に見ることは、まったく別の経験だった。
車は広い屋根付きの玄関前で止まった。
ミカイラがドアを開けるより先に、運転手が降りてドアを開けてくれた。
彼女は礼を言った。
それから玄関を見つめた。
扉は巨大だった。
当然あると思っていた石段はなかった。代わりに、緩やかな傾斜のアプローチが玄関へ続いている。その表面は建築と自然に一体化しており、最初からそう設計されていたかのようだった。
両開きの扉が開いた。
そこに立っていたのはスザンヌだった。
「ミカイラちゃん!」
ミカイラが笑顔を浮かべる間もなく、スザンヌは駆け寄り、熱烈に抱きしめた。
「ああ、あなた! まあ、なんて素敵なの!」
ミカイラは驚きながら笑った。
「こんばんは、スザンヌ!」
スザンヌは少し離れ、両手を握った。
「本当に綺麗ね!」
「ありがとうございます」
「キランから綺麗な人だとは聞いていたけど、あの子の説明じゃ全然足りなかったわ!」
屋敷の中から聞き慣れた声がした。
「母さん!」
スザンヌは無視した。
「それにそのドレス! その色、大好きよ!」
ミカイラは微笑んだ。
「ありがとうございます。何を着ればいいか迷っていたんです」
「何を言ってるの! とっても似合ってるわ!」
キランが玄関に姿を現した。
MACH-01Aは磨き上げられた床の上を滑らかに進んでくる。
彼は濃い紫色のシャツと黒いズボンを着ていた。
ミカイラは微笑んだ。
「こんばんは、ハンサムさん」
「やあ、美人さん」
スザンヌは両手を合わせた。
「ああ、なんて可愛い二人なの!」
キランは目を閉じた。
「始まったよ……」
ミカイラはスザンヌについて屋敷へ入った。
玄関ホールは、普通の家のリビングがいくつも入るほど広かった。
大きな曲線階段が壁沿いに二階へ続き、装飾的な仕切りの奥には現代的なガラス張りのエレベーターがあった。
床は磨かれた石材。
頭上には巨大なシャンデリア。
ミカイラは辺りを見回した。
「すごい……」
キランが隣を進んだ。
「うん。僕も初めて来た時、だいたい同じ反応だった」
スザンヌは笑った。
「お屋敷に圧倒されないでね」
ミカイラは、どう見ても美術館に飾られていそうな絵画をちらりと見た。
「頑張ります」
ホールの向こうから一人の男性が近づいてきた。
背が高く、銀髪で、ネクタイを締めていないチャコールグレーのスーツ姿だった。
表情は温かいが、人から話を聞いてもらうことに慣れている者特有の、静かな自信があった。
「ミカイラ・マッキントッシュさんですね」
彼女は振り向いた。
「はい」
男性は手を差し出した。
「マドックスです。ようやくお会いできて嬉しいですよ」
ミカイラは握手した。
「こちらこそ、マドックスさん」
「マドックスで構いません」
キランが彼女へ身を寄せた。
「そう言うのは、街の半分を所有してることを思い出されたくないからだよ」
マドックスはくすくす笑った。
「大げさだな」
マッハのアバターが現れた。
「公開されている企業保有資産の情報によりますと——」
「マッハ」とキランが遮った。
「はい?」
「やめて」
マドックスは微笑んだ。
「賢明な判断だ」
スザンヌはミカイラと腕を組んだ。
「さあ、あなた。夕食の前に少し案内するわね」
キランは不安そうな顔をした。
「母さん」
「何?」
「圧倒しないであげてよ」
スザンヌは無邪気に微笑んだ。
「どうしてそんなことすると思うの?」
「前に配達員さんにバラ園を四十分も案内しただろ」
「お花について聞かれたのよ!」
「綺麗ですねって言っただけだよ!」
ミカイラは笑った。
「ぜひ案内してほしいです」
キランは彼女を見た。
「裏切り者」
ミカイラはウインクした。
「私も愛してるわ」
屋敷の内部は、外観以上に豪華だった。
天井は高く、廊下は広く、巨大な窓から庭園が見渡せた。
スザンヌに案内されながら、ミカイラはあることに気づいた。
狭い通路がない。
高い敷居もない。
床材が変わる場所でさえ、段差なく滑らかにつながっている。
エレベーターはMACH-01Aが余裕を持って入れるほど広い。
家中の扉も、普通よりずっと幅が広かった。
ゲストルームを案内された時、ミカイラは浴室に車椅子のまま入れるシャワー、使いやすい位置に配置された設備、そして電動車椅子が方向転換できる十分な空間があることに気づいた。
彼女はキランへ向き直った。
「マドックスが全部、あなたのために設計したの?」
キランは部屋を見回した。
「全部じゃないよ。もともとあった設備もある。でも、かなり改装してくれたんだ」
同行していたマドックスが頷いた。
「スザンヌとの関係が深まった時、キランが遊びに来るたびに、部屋を一つ移動するだけで大がかりな問題にならないようにしたかったんです」
キランは微笑んだ。
「本当にありがたかったです」
マドックスは廊下を示した。
「アクセシビリティは玄関で終わってはいけませんからね」
ミカイラは両親の家を思い出した。
三段の階段。
狭い浴室。
誰かがキランを抱えて運べばいいと提案した自分。
彼女は広い出入口を見た。
「本当に、その通りですね」
マドックスは微笑んだ。
「何が実際に使いやすいか、キランにも意見をもらいました。設計図では立派に見えても、実用性のない案もありましたから」
キランは笑った。
「廊下が完全に平らなのに、昇降機を設置しようとした設計士もいましたね」
ミカイラは目を丸くした。
「どうして?」
「実にいい質問です」とマドックス。
スザンヌは首を振った。
「あの気の毒な設計士さん」
キランはにやりとした。
「ちゃんと生き延びたよ」
「職業的には?」とマッハ。
マドックスは笑った。
「幸い、そちらも無事です」
見学は庭園へと続いた。
広く緩やかな曲線を描く小道が、花壇や噴水、丁寧に手入れされた生け垣の間を通っていた。
車椅子でも利用しやすい休憩スペースや、MACH-01Aが余裕を持って入れる屋根付きのテラスもあった。
ミカイラはバラ園のそばで足を止めた。
「綺麗……」
スザンヌは微笑んだ。
「ありがとう」
キランは母親を見た。
「お願いだから、一種類ずつ説明し始めないでね」
スザンヌは大げさに息をのんだ。
「キラン!」
「何?」
「ミカイラちゃんは興味があるかもしれないでしょう!」
ミカイラはにやりとした。
「実は、興味あります」
キランはため息をついた。
「やっぱりね」
スザンヌはすぐにバラの説明を始めた。
キランは空を見上げた。
マッハが小声で言った。
「バラ園の講義を阻止する試みは失敗しました」
「記録しておいて」
夕食は、庭園を見渡せる正式なダイニングルームで振る舞われた。
中央には長いテーブルがあったが、スザンヌの希望で、四人が近くに座れるよう片側だけを使うことになっていた。
キランはMACH-01Aをミカイラの隣につけた。
マドックスは向かい側。
スザンヌは息子の近くに座った。
料理長が短く姿を現し、料理を紹介した。
ミカイラは驚いた顔をしないよう努力した。
最初の料理は、繊細な味わいのスープと焼きたてのパンだった。
続いて、ロースト野菜、香草をまとったチキン、そして数種類の付け合わせが運ばれてきた。
ミカイラはキランを見た。
彼は微笑んだ。
「これがマドックス流の気軽な家族の夕食だよ」
マドックスは眉を上げた。
「かなり控えめにしたつもりなんだが」
キランはテーブルを見た。
「バターが三種類もありますよ」
「四種類です」とマッハが訂正した。
ミカイラは笑った。
マドックスは微笑んだ。
「一定の水準は維持しないとね」
スザンヌはミカイラへ身を乗り出した。
「それで、あなたのことを聞かせてちょうだい」
ミカイラは少し姿勢を正した。
「ええと、私は仕事で——」
キランが遮った。
「気をつけて。母さんはもう君の経歴を全部読んでるから」
スザンヌは彼の腕を軽く叩いた。
「キラン!」
「何? 先週、君について二十七個も質問されたんだよ」
「興味があるんだもの!」
ミカイラは笑った。
「私は構いませんよ」
彼女は仕事や趣味、自由な時間に楽しんでいることについて話し始めた。
マドックスは考えの深い質問をした。
特に、彼女が仕事を通して何を成し遂げたいのかに興味を持っているようだった。
スザンヌは愛情のこもった笑みで耳を傾け、ときおり家族や子供時代について尋ねた。
しばらくの間、会話は自然に進んだ。
その時、スザンヌが両手を合わせた。
「あっ! 忘れるところだったわ!」
キランはすぐに疑いの目を向けた。
「何を?」
スザンヌは微笑んだ。
「素敵なものよ」
キランは見つめた。
「全然安心できないんだけど」
彼女は戸棚へ向き直った。
「あなたの子供の頃の写真!」
キランは固まった。
ミカイラの目が輝いた。
「あら?」
「だめ」とキラン。
スザンヌは戸棚を開けた。
「いいえ!」
「母さん」
「ずっと取っておいたんだから!」
「それが怖いんだよ」
写真アルバムは巨大だった。
スザンヌがテーブルに置くと、ミカイラは目を見張った。
厚い革張りの表紙で、中には丁寧に並べられた写真がぎっしり収められていた。
キランは恐怖に満ちた顔をした。
「どこからそんなものを見つけてきたの?」
スザンヌは微笑んだ。
「家族のコレクションよ」
「そんなコレクションがあるの?」
「もちろん」
マドックスはくすくす笑った。
「先週、箱をいくつも運び込ませていたよ」
キランは彼を見た。
「知ってたんですか?」
マドックスは両手を上げた。
「口止めされていたんだ」
「信じられない」
スザンヌはアルバムを開いた。
最初の写真には、小さな特注の車椅子に座り、鮮やかな黄色いシャツを着た幼いキランが写っていた。
表情は真剣そのもの。
周囲には色とりどりの積み木が散らばっていた。
ミカイラは微笑んだ。
「まあ、なんて可愛いの!」
キランは呻いた。
「お願いだから……」
スザンヌは写真を指差した。
「家で一番高い塔を作ろうとしていたのよ」
ミカイラは顔を近づけた。
「できたんですか?」
「最終的にはね。でも、その前に積み木の欠陥を訴えていたわ」
キランは抗議した。
「本当に欠陥があったんだよ!」
スザンヌは笑った。
「あなた、四歳だったのよ!」
「設計不良は年齢を選ばないんだ」
ミカイラは吹き出した。
次の写真には、学校行事で大きすぎる卒業帽をかぶり、帽子が横にずれているキランが写っていた。
別の写真では、大量の本に囲まれている。
さらに別の写真では、漫画風の飛行機で飾られた誕生日ケーキを睨みつけていた。
ミカイラは写真をじっくり眺めた。
笑顔のキランもいた。
真剣な顔も、不機嫌そうな顔もあった。
学校へ通い、誕生日を祝い、世界を知っていく一人の子供の姿だった。
写真には車椅子や医療機器も写っていた。
だが、すべての思い出の主役がそれらだったわけではない。
スザンヌは、本の山の隣にいるキランの写真を指差した。
「この子はいつも本を読んでいたの」
キランはかすかに微笑んだ。
「今もだけどね」
「先生たちからは、文学の理解力が同年代の子よりずっと進んでいるって言われていたわ」
ミカイラは彼を見た。
「でしょうね」
キランは肩をすくめた。
「趣味がよかったんだよ」
スザンヌはページをめくった。
「そして、この年には有名な作家になるって決めたのよ」
キランは眉をひそめた。
「九歳だったんだよ」
「それはもう真剣だったわ」
ミカイラはにやりとした。
「何を書いたの?」
キランは目をそらした。
「大したものじゃないよ」
スザンヌはいたずらっぽく微笑んだ。
「文法を使ってドラゴンを倒す、勇敢な騎士の四十ページの冒険物語よ」
ミカイラは固まった。
そして笑い出した。
「もう、キラン!」
彼は顔を覆った。
「あのドラゴンの文章構造がひどかったんだよ!」
マドックスは笑いすぎて、グラスを置かなければならなかった。
マッハのアバターが明るくなる。
「その原稿をぜひ拝読したいものです」
「だめ」
「教育目的です」
「絶対にだめ」
スザンヌはページをめくり続けた。
やがて、病室で撮られた写真が現れると、笑い声は静かになった。
キランはまだ若く、十代前半くらいに見えた。
そばには本が置かれている。
スザンヌは隣に座り、彼の手を握っていた。
ミカイラは写真を見た。
スザンヌの笑みが優しくなった。
「あの年は大変だったわ」
キランは写真をちらりと見た。
覚えていた。
すべての細部ではない。
だが、十分に。
スザンヌはページの端に触れた。
「長い間、入院していたの」
ミカイラはキランを見た。
彼は小さく頷いた。
「うん」
スザンヌは続けた。
「学校へ行けないのが嫌で、ずっと不機嫌だったのよ」
キランはかすかに微笑んだ。
「主にシェイクスピアの授業を丸々一単元逃してたからね」
ミカイラは静かに笑った。
「いかにもあなたらしいわ」
スザンヌは息子を見た。
「それに、みんなに置いていかれるのが嫌だったのよね」
キランはすぐには答えなかった。
やがて頷いた。
「それもある」
スザンヌはアルバムを半分閉じた。
その表情には、誇りだけではない複雑なものが浮かんでいた。
愛情。
思い出。
そして、決して楽ではなかった年月の疲れが、今もかすかに残っているようだった。
ミカイラはそれに気づいた。
夕食の後、スザンヌはミカイラを庭園へ誘った。
キランはマドックスと新しいアクセシビリティ関連の計画について話しており、二人の女性は屋根付きのテラスへ出た。
夜の空気は涼しかった。
柔らかな照明が花壇の間の小道を照らしていた。
しばらく、スザンヌは庭について話していた。
やがて静かになった。
「ミカイラちゃん?」
「はい?」
スザンヌは屋敷へ目を向けた。
「あなたにお礼を言いたかったの」
ミカイラは微笑んだ。
「何のですか?」
「キランのそばにいてくれることよ」
ミカイラの表情が和らいだ。
「もちろんです」
スザンヌは両手を組んだ。
「あの子は本当にいろいろなことを経験してきたの。ほとんどの人が思っている以上にね」
彼女は窓の方を見た。
「小さい頃、あの子がその場にいないかのように話すお医者さんもいたわ。あまり勉強できないだろう、大したことは成し遂げられないだろう、豊かな人生は送れないだろうって決めつける人たちもいた」
ミカイラは耳を傾けた。
スザンヌは続けた。
「本来ならもっと理解しているはずの人たちと、何年も言い争ってきたわ」
彼女は悲しげに微笑んだ。
「ほかの子供たちには当たり前に与えられる機会を、息子にも与えてもらうために、世界中を相手に戦っているような気分になることもあったの」
ミカイラは屋敷を見た。
窓越しに、マドックスの言葉に笑っているキランの姿が見えた。
スザンヌもその視線を追った。
「あの子は昔から頑固だったわ」
ミカイラは微笑んだ。
「気づいてます」
「あら、あなたはまだ何も知らないわよ」
二人は静かに笑った。
それからスザンヌの表情が再び真剣になった。
「私、少し過保護になってしまったのかもしれないわね」
ミカイラは考えた。
「そうなるのも分かります」
「そうかもしれない。でも、それがいつもあの子にとって公平だったわけじゃないの」
スザンヌは手すりにもたれた。
「小さい頃は、いつも心配していたわ。病気になるたび、入院するたび、新しい壁にぶつかるたびにね」
彼女はミカイラを見た。
「そして、大人になってからも、あの子の代わりに何もかも決めてあげたいと思ってしまう自分がいたの」
ミカイラはゆっくり頷いた。
「手放すのは難しかったでしょうね」
スザンヌはかすかに微笑んだ。
「今でも難しいわ」
しばらく、二人は噴水の音を聞いていた。
やがてスザンヌが再び口を開いた。
「だから、あなたがいてくれて本当にありがたいの」
ミカイラは微笑んだ。
「私も、キランがいてくれて幸せです」
スザンヌは彼女の腕に触れた。
「危険な冒険や、体調を崩した時にもそばにいてくれたでしょう。あの恐ろしい戦いに巻き込まれた時も……」
声がわずかに揺れた。
「あの子を守ってくれる人がいると思うと、安心できるの」
ミカイラの笑みが薄れた。
気持ちは理解できた。
だが、その言葉には引っかかるものがあった。
「スザンヌ?」
「何かしら?」
「私はキランを心から愛しています」
「分かっているわ」
「でも、彼を必ず守れるとは約束できません」
スザンヌは驚いたようだった。
ミカイラは優しく続けた。
「彼は自分で決断します。時には危険な決断もします。私が反対することだってあります」
彼女は屋敷をちらりと見た。
「時には、思いきり揺さぶってやりたくなることもあります」
スザンヌは小さく笑った。
「よく分かるわ」
「でも、彼をコントロールすることはできません。それに、愛しているからといって、そうすべきだとも思いません」
スザンヌは考え込んだ。
ミカイラは続ける。
「支えることはできます。無茶をしていると思ったら、そう伝えることもできます。必要な時にはそばにいられます」
彼女はかすかに微笑んだ。
「でも、彼に起こるすべてのことに責任を負うことはできません」
スザンヌは目を伏せた。
一瞬、遠い昔の何かを思い出しているようだった。
やがて頷いた。
「あなたの言う通りね」
ミカイラは微笑んだ。
スザンヌはため息をついた。
「それも、私がまだ学ばなければならないことなのね」
彼女は再び窓を見た。
「あの子は私の息子だもの。心配するのをやめることなんて、きっとできないわ」
「やめなくていいんです」
ミカイラは彼女の手に触れた。
「でも、信じることはできます」
スザンヌは微笑んだ。
「信じているわ」
少し間を置いた。
「ほとんどの場合は」
ミカイラは笑った。
「それは仕方ないかもしれませんね」
屋敷の中では、マドックスがグラスに少量の炭酸水を注いでいた。
キランはその様子を見ていた。
「今日は妙に静かですね」
マドックスは微笑んだ。
「そうかい?」
「ええ。怪しいです」
「ただ穏やかな夜を楽しんでいるだけかもしれないよ」
キランは庭園へ目を向けた。
「母さんがいるのに?」
マドックスはくすくす笑った。
「それはもっともだ」
彼はキランの向かいの椅子に腰を下ろした。
「スザンヌはとても幸せそうだよ」
キランは微笑んだ。
「気づいてます」
「いつもミカイラの話をしている」
「それで結婚式のパンフレットが出てきたわけですね」
マドックスは笑った。
「残念ながら、そういうことだ」
彼はテラスへ目を向けた。
「君を誇りに思っているんだ」
キランの笑みが柔らかくなった。
「分かってます」
マドックスは少し考えた。
「一つ聞いてもいいかな?」
キランは眉を上げた。
「結婚はいつかって質問じゃなければ」
「違うよ」
「よかった」
「少なくとも今夜はね」
キランは呻いた。
マドックスは微笑んだ。
それから思慮深い表情になった。
「君とミカイラは、いろいろなことにどう向き合っているんだい?」
キランは考えた。
「いろいろなこと?」
「周囲の注目。仕事。君が引き受ける危険。そして、二人それぞれの生活にかかる負担だよ」
キランは少し背もたれに寄りかかった。
「話し合ってます」
「それだけかい?」
「いつも簡単とは限りませんけど」
マドックスは頷いた。
「そうだろうね」
キランは彼を見た。
「どうしてそんなことを?」
マドックスは炭酸水を一口飲んだ。
「大きな責任を中心に人生を組み立てることが、どういうものか知っているからだよ」
彼は屋敷の方へ軽く手を動かした。
「マドックス・コーポレーションには、自分でも認めたくないほど多くの時間を費やしてきた。愛する人たちの生活を支えることと、その人たちのそばにいることは同じだと思い込んでいた時期もあった」
キランは耳を傾けた。
「でも、同じではないんだ」
キランは頷いた。
「そうですね」
マドックスはかすかに微笑んだ。
「人間関係には、善意以上のものが必要なんだよ」
キランはテラスを見た。
「分かります」
マドックスもその視線を追った。
「ミカイラは素晴らしい女性のようだ」
「ええ」
「なら、彼女が彼女自身でいられる余地を大切にしてあげなさい」
キランは彼を見た。
マドックスは続けた。
「彼女の夢も大切だ。仕事も、友人関係も、趣味もね」
キランは頷いた。
「もちろんです」
「君が意図的にそれを奪うと言っているわけではないよ」
「分かってます」
「ただ、君の人生は予測が難しいからね」
キランは静かに笑った。
「そうですね。控えめな表現ですが」
マドックスは微笑んだ。
「妥協は一方通行であってはいけない。それを覚えておいてほしい」
キランはその助言について考えた。
そして頷いた。
「その通りですね」
マドックスはグラスを掲げた。
「よかった」
キランは微笑んだ。
「てっきり尋問されるのかと思ってました」
マドックスはくすくす笑った。
「いや。それはスザンヌに任せているよ」
ミカイラとスザンヌが戻ると、キランとマドックスはバリアフリー交通の未来について議論していた。
キランは、革命的だと宣伝される車椅子の設計の中には、実際に使う人の必要性を考慮していないものがあると説明していた。
マドックスは熱心に聞いていた。
「まさに、うちの技術者たちが聞くべき意見だ」
キランは微笑んだ。
「何年も前から言ってるんですけどね」
ミカイラが近づいた。
「お邪魔かしら?」
キランは顔を上げた。
「企業革命の真っ最中だけどね」
マドックスは笑った。
スザンヌが手を叩いた。
「素晴らしいわ! さて、デザートはいかが?」
キランは目を細めた。
「どうして何か発表するみたいな言い方なの?」
スザンヌは微笑んだ。
「サプライズがあるからよ!」
彼はため息をついた。
「やっぱりね」
サプライズは、美しく飾られたケーキだった。
結婚式のケーキではなかった。
幸いにも。
チョコレートケーキの上には、紫色の花が繊細なクリーム細工で飾られていた。
ミカイラは微笑んだ。
「綺麗ですね」
スザンヌは嬉しそうだった。
「喜んでもらえたらと思って」
キランは飾りを眺めた。
「母さん」
「何?」
「どうして紫なの?」
スザンヌは無邪気な顔をした。
「あなたの好きな色でしょう?」
「それだけ?」
「とても綺麗な色だもの」
キランは待った。
スザンヌは微笑んだ。
「それに、結婚式にもぴったりだと思うの」
「やっぱり出た!」
ミカイラは吹き出した。
マドックスは手で笑みを隠した。
スザンヌは嬉しそうだった。
「何よ! ただ言ってみただけでしょう!」
キランは首を振った。
「母さん、僕たちは付き合ってるけど、結婚について真剣に話し合ったことすらないんだよ」
「それなら話し合えばいいじゃない!」
ミカイラは笑った。
「スザンヌ!」
「何? 楽しみにしたっていいでしょう!」
キランはマドックスを見た。
「助けてください」
マドックスは少し考えた。
「スザンヌ、二人のペースで決めさせてあげよう」
スザンヌは大げさにため息をついた。
「ああ、分かったわ」
キランは安心した。
だが、彼女は続けた。
「でも、もし屋外で式を挙げるなら、南側の庭園が完璧よ」
キランは固まった。
ミカイラは口元を覆った。
マドックスはため息をついた。
「スザンヌ」
「それに、お客様を招くスペースも十分あるし!」
「母さん!」
「バリアフリーの小道もあるわ!」
キランは天井を見上げた。
「どうして僕がこんな目に……」
マッハのアバターが現れた。
「屋外での挙式には、確かにいくつかの運営上の利点があります」
キランは下を見た。
「君まで!?」
ミカイラは笑いが止まらなかった。
スザンヌは誇らしげに微笑んだ。
「ほら! マッハだって賛成してるわ!」
キランは目を閉じた。
「裏切り者しかいない……」
やがて笑い声が収まった。
スザンヌはケーキを切り始めた。
マドックスは皿を配るのを手伝った。
キランはミカイラを見た。
彼女はまだ微笑んでいた。
だが、表情の奥に何か考えている様子があった。
「どうしたの?」
彼女は顔を近づけた。
「何でもないわ」
「その言葉は絶対に信用できないね」
ミカイラはスザンヌをちらりと見た。
それからキランへ戻る。
「みんながもう、あなたの将来を決めてるみたいに感じることってある?」
キランは考えた。
「しょっちゅう」
彼女はかすかに微笑んだ。
「お母さんに悪気がないのは分かるわ」
「うん」
「でも、時々、私たちの人生がどうあるべきか、もう決めてしまっているみたいに感じるの」
キランは頷いた。
「そうだね」
ミカイラは彼を見た。
「私はあなたを愛してる。あなたとの未来も想像できるわ」
彼の表情が和らいだ。
「でも?」と尋ねる。
「でも、周りのみんなが次はこうするべきだと思っているからって、急いで何かを決めたくないの」
キランは微笑んだ。
「僕もだよ」
ミカイラは少し安心したようだった。
彼は続けた。
「母さんが頭の中で何回結婚式を計画しようと、僕たちが全部出席する義務はないからね」
ミカイラは笑った。
「そういう考え方もあるわね」
キランは彼女の手を取った。
「僕たちが築く未来は、僕たち自身のものにしたい」
彼女は微笑んだ。
「私も」
スザンヌがケーキを持って戻ってきた。
「あら、二人で何をこそこそ話しているの?」
キランは彼女を見た。
「境界線について」
スザンヌは瞬きをした。
「まあ、ロマンチックね」
マドックスはくすくす笑った。
キランは微笑んだ。
「実際、ロマンチックなことだよ」
スザンヌが皿を置いた。
ミカイラは彼女を見た。
「スザンヌ、少しお話ししてもいいですか?」
「もちろんよ、あなた」
ミカイラはキランをちらりと見た。
彼は頷いた。
彼女は続けた。
「私たちのことを楽しみにしてくださっているのは分かっています」
スザンヌは微笑んだ。
「とってもね」
「それは本当に嬉しいです」
「もちろんよ」
「でも、将来のことは自分たちで決めたいんです」
スザンヌの表情が少し真剣になった。
ミカイラは続ける。
「結婚するかどうかも、子供が欲しいかどうかも、いつ一緒に暮らすかさえ、まだ決めていません」
キランは頷いた。
「それに、僕たちの未来が誰かの想像と違っていても、誰かをがっかりさせているように感じたくないんだ」
スザンヌは黙った。
マドックスはフォークを置いた。
キランは母親を見た。
「母さん、愛してるよ」
スザンヌはかすかに微笑んだ。
「私も愛してるわ」
「僕に幸せになってほしいんだよね」
「何よりも」
「だったら、僕たちにとっての幸せが何なのか、僕たち自身に見つけさせてほしい」
スザンヌはミカイラを見た。
それから息子を見た。
一瞬、少し恥ずかしそうだった。
「ああ、あなた……」
彼女はテーブル越しに手を伸ばし、キランの手に触れた。
「プレッシャーをかけるつもりはなかったの」
「分かってる」
「少し舞い上がってしまったのね」
キランは微笑んだ。
「少しね」
マドックスが咳払いした。
スザンヌは彼を見た。
「分かったわ。かなりね」
全員が笑った。
彼女はミカイラを見た。
「ごめんなさいね」
ミカイラは微笑んだ。
「大丈夫です」
スザンヌは首を振った。
「いいえ。あなたたちには自分の人生を選ぶ権利があるわ。二人ともね」
キランは頷いた。
「ありがとう」
スザンヌは微笑んだ。
「おとなしくするよう努力するわ」
キランは眉を上げた。
「努力?」
彼女は笑った。
「約束できるのはそこまでよ」
その夜遅く、マドックスは全員をメインの居間へ招いた。
部屋からはライトアップされた庭園が見渡せた。
一方の壁には大きな暖炉があったが、夜は十分暖かかったため、火は入っていなかった。
スザンヌは小さなカメラを持っていた。
キランはすぐに気づいた。
「だめ」
彼女は足を止めた。
「何が?」
「何を考えてるにしても、だめ」
スザンヌは心外そうな顔をした。
「まだ何も言ってないでしょう!」
「カメラを持ってる」
「それが?」
「いい予感がしない」
ミカイラは笑った。
スザンヌは微笑んだ。
「家族写真を撮りたいのよ」
キランはため息をついた。
「母さん」
「一枚だけ!」
「十二歳の時もそう言ったよね。結局四十七枚撮ったじゃないか」
「あなたが変な顔ばかりするからよ!」
「自己表現してたんだよ」
マドックスはくすくす笑った。
ミカイラはキランの肩に触れた。
「いいじゃない、ホットロッド。一枚だけ」
彼は彼女を見た。
「君まで母さんの味方?」
「今回だけね」
キランはため息をついた。
「分かったよ」
スザンヌは満面の笑みになった。
「素晴らしいわ!」
彼女は全員の位置を決め始めた。
マドックスはソファの後ろに立った。
ミカイラはキランの隣へ。
スザンヌは三脚にカメラを設置した。
それから足を止めた。
「あら、やっぱりその椅子を動かしましょう」
キランは隣の肘掛け椅子を見た。
スザンヌはそれを指差した。
「MACH-01Aのために、もう少しスペースを空けたいの」
マドックスが椅子を移動させた。
空間が広がった。
キランはミカイラの隣へ車椅子を進めた。
スザンヌは構図を確認した。
「完璧!」
ミカイラは微笑んだ。
キランは彼女をちらりと見た。
「どうしたの?」
彼女は首を振った。
「何でもない」
だが、彼女は気づいていた。
スザンヌは、キランに車椅子から移るよう頼まなかった。
医療機器を隠そうともしなかった。
家具の後ろに配置したり、写真から車椅子を切り取ったりすることも提案しなかった。
ただ、場所を空けた。
家族なら、そうするのが当たり前であるかのように。
スザンヌは急いでマドックスの隣へ移動した。
「みんな、準備はいい?」
キランは微笑んだ。
「できる限りはね」
カメラがカウントダウンを始めた。
「三……」
ミカイラはキランの手を握った。
「二……」
スザンヌはマドックスに寄り添った。
「一……」
フラッシュが部屋を照らした。
その一瞬、四人の姿が一枚の写真に収められた。
完璧にポーズを決めているわけではない。
気まずさがすべて消えたわけでもない。
それでも、全員が笑っていた。
そして、一緒にいた。
その後まもなく、夜はお開きとなった。
マドックスは運転手にミカイラを送らせる手配をしたが、彼女は帰る前にキランと二人きりで少し話したいと言った。
二人は屋根付きの玄関で足を止めた。
背後では庭園が柔らかく輝いていた。
ミカイラは彼へ向き直った。
「さて」
キランは微笑んだ。
「さて」
彼女は笑った。
「どうやら、私たちの家族との夕食は毎回こうやって終わるみたいね」
「伝統になりつつあるね」
ミカイラは屋敷を振り返った。
「あなたのお母さん、素敵な人ね」
キランは眉を上げた。
「そういう表現もあるね」
「温かくて、面白くて、誰よりもあなたを愛してる」
彼はかすかに微笑んだ。
「うん」
「マドックスも素敵な人だったわ」
「そうだね」
彼女は少し考えた。
「それにしても、運転手付きの車を用意してくれるなんて、まだ信じられない」
キランは笑った。
「あれでも控えめにしてるんだよ」
ミカイラは首を振った。
「あなたの家族って、本当にすごいわね」
キランは彼女を見た。
「いい意味? 悪い意味?」
彼女は微笑んだ。
「いい意味よ」
彼は安心した。
ミカイラは考え深い表情になった。
「今日、あなたのことが少し分かった気がする」
キランは眉を上げた。
「そう?」
彼女は頷いた。
「頑固なところ」
「魅力的な長所だね」
「皮肉っぽいところ」
「さらに魅力的だね」
「自分のことは自分で決めたいっていう気持ち」
キランの笑みが柔らかくなった。
ミカイラは続けた。
「お母さんは何年もあなたのために戦ってきたのね。だから心配する気持ちも分かるわ」
彼は頷いた。
「うん」
「でも、あなたがもう小さな男の子じゃないって、時々思い出してもらう必要があるのも分かる」
キランは屋敷を見た。
「その話は何度もしてきたよ」
ミカイラは微笑んだ。
「でしょうね」
彼女は身をかがめ、キスをした。
唇を離すと、キランはにやりとした。
「それで、合格した?」
ミカイラは笑った。
「何に?」
「彼氏の家族審査」
彼女は考えるふりをした。
「うーん……」
キランは目を細めた。
「慎重に答えてね」
「お母さんには気に入られたし」
「残念ながらね」
「マドックスも認めてくれたみたいだし」
「当然だね」
「それに、小さい頃のあなたの写真も見られたし」
キランは呻いた。
「お願いだから忘れて」
「絶対に嫌」
彼女は頬にキスした。
「特にドラゴンのお話はね」
キランは恐ろしそうな顔をした。
「あのドラゴンは文法がめちゃくちゃだったんだよ!」
ミカイラは笑った。
「愛してるわ、ホットロッド」
彼は微笑んだ。
「僕も愛してるよ」
彼女は最後にもう一度キスをしてから、待っている車へ向かった。
キランは、彼女が無事に乗り込むまで見守った。
車が走り去った。
彼はしばらく玄関の下に留まり、屋敷の静かな音に耳を傾けた。
マッハのアバターが現れた。
「成功した夜でしたね」
キランは微笑んだ。
「うん」
「評価をお伝えしましょうか?」
「いらない」
「Aマイナスが妥当かと思われます」
キランは下を見た。
「どうしてAじゃないの?」
「お母様が結婚式について十一回言及されました」
「僕のせいじゃないだろ!」
「それでも、全体の雰囲気に影響しました」
キランは笑った。
「おやすみ、マッハ」
「おやすみなさい、キラン」
屋敷の中では、スザンヌがマドックスの隣に立ち、カメラの画面に映る写真を眺めていた。
彼女は微笑んだ。
「幸せそうね」
マドックスも写真を見た。
「そうだね」
スザンヌは画面にそっと触れた。
しばらく、二人は何も言わなかった。
やがて彼女はため息をついた。
「私、あの子に恥ずかしい思いをさせちゃったかしら」
マドックスは微笑んだ。
「少しね」
彼女は彼を見た。
「そこは否定するところでしょう」
「正直な方が役に立つと学んだんだ」
スザンヌは小さく笑った。
それから考え深い表情になった。
「ただ、あの子に素晴らしい人生を送ってほしいだけなの」
マドックスは彼女の肩に腕を回した。
「もう送っているよ」
スザンヌは彼を見た。
「分かってるわ」
「自分自身の力で人生を築いてきた。そして今、その一部を愛する人と分かち合っているんだ」
スザンヌは写真を見つめた。
キランは笑っていた。
形式的な写真を撮る時の、礼儀正しい笑みではない。
心からの笑顔だった。
ミカイラは隣に立ち、自然に彼の手に触れていた。
写真にはMACH-01Aも写っており、紫色の装甲が部屋の温かな光を反射していた。
スザンヌは微笑んだ。
「あの子が小さかった頃、将来どんな人生を送るのか、よく考えたものよ」
マドックスは耳を傾けた。
「何もかも心配だったわ。友達ができるか。好きな仕事を見つけられるか。周りの人が、あの子自身を見てくれるか」
彼女の目が潤んだ。
「そして、あの子にふさわしい愛情を注いでくれる人が現れるかどうかも」
マドックスは優しく肩を抱き寄せた。
スザンヌは再び写真を見た。
「それが今は、こんなに立派になって……」
マドックスは微笑んだ。
「なかなかうまくやっているようだね」
彼女は静かに笑った。
「ええ。本当に」
二人はしばらく寄り添って立っていた。
やがてスザンヌが首を傾げた。
「ねえ……」
マドックスは目を閉じた。
「やれやれ」
彼女は無邪気に微笑んだ。
「何よ?」
「その声には覚えがある」
「ちょっと考えていただけよ」
「何を?」
スザンヌは写真を見た。
「南側の庭園って、本当に素敵な結婚式場になると思うのよね」
マドックスはため息をついた。
「スザンヌ」
「何よ! 二人に言うなんて一言も言ってないでしょう!」
彼は彼女を見た。
スザンヌは微笑んだ。
「少なくとも、今夜はね」
マドックスは首を振った。
そして、その頃二階では、下で交わされている会話など知る由もなく、キラン・キリアンが、母親の結婚式計画はようやく終わったのだと勘違いしながら、穏やかな時間を楽しんでいた。
少なくとも、今のところは。




