第一印象
キラン・キリアンは、かれこれ二十分もの間、三枚のシャツを見つめ続けていた。
一枚は青。
一枚は黒。
そして三枚目は、誕生日にスザンヌが買ってくれた濃い紫色のボタンダウンシャツだった。
どれを着ても問題はない。
三枚ともきちんと洗濯されている。
それなのに、どれを選ぶかというだけのことが、彼の人生で最も難しい決断になりつつあった。
「マッハ」
「はい、キラン」
「どれがいいと思う?」
寝室のディスプレイに、紫色の輪郭で描かれたマッハのアバターが現れた。
「外見、快適性、あるいは恋人のご両親に好印象を与える統計的確率のうち、どの観点からの推薦をご希望ですか?」
キランは考えた。
「全部」
「でしたら、紫色のシャツを推奨します」
「どうして?」
「MACH-01Aのカラーリングと調和し、やや改まった夕食の席にも適しています。さらに、ミカイラから好意的な評価を受けた実績があります」
キランはシャツを見た。
「いつ?」
「三週間前です。彼女はそのシャツを着たあなたについて、『反則なくらいハンサム』と表現しました」
キランは微笑んだ。
「そんなこと言ってた?」
「はい」
「本当にその言葉で?」
「はい」
彼はシャツを手に取った。
「よし、紫に決定」
「素晴らしい判断です。選択を開始してから二十三分を要したことを考慮すれば、なおさらです」
「時間の報告なんて頼んでないよ」
「記録を喜んでいただけるものと判断しました」
キランは鏡へ目を向けた。
MACH-01Aの紫色の装甲は磨き上げられていた。側面パネルには汚れ一つなく、スタビライザーは正常に作動し、推進システムもすべての診断を通過している。
その日の朝には、ギアに機体の点検まで頼んでいた。
ギアは、まるで彼の正気を疑うような顔をした。
「夕食に行くんだろ? 空母と戦うわけじゃないんだから」
キランは、第一印象が大切なのだと説明した。
ギアは結局、推進ユニットを点検してくれたが、夕食中にプラズマキャノンを起動したら兄弟の縁を切ると宣言した。
一時的に。
たぶん。
キランはその言葉を心強く受け止めた。
スマートフォンが振動する。
レイモンドからのメッセージだった。
レイモンド:忘れるな。しっかり握手。目を見て話す。それから爆発の話はするな。
キランは返信した。
キラン:どうして僕が爆発の話をすると思うんだ?
ほとんど即座に返事が来た。
レイモンド:お前はいつも爆発の話をするからだ。
キランは眉をひそめた。
「失礼だな」
マッハのアバターが明るくなる。
「前回レイモンドと夕食を取った際、あなたは三件の爆発について話しました」
「あれは会話に関係があったんだよ」
「そのうち一件は、スープについて話している最中でした」
キランは追及しないことにした。
またメッセージが届く。
レイモンド:あと、ヒドラと戦った話で父親に自慢しようとするなよ。
キランは画面を見つめた。
「もう完全にふざけてるだろ」
「レイモンドは、あなたをあなた自身から守ろうとしているのかもしれません」
「君は誰の味方なの?」
「その問題については、私も長らく考察を続けています」
キランはため息をついた。
素晴らしい夜の始まりだった。
午後五時半までに、キランは紫色のシャツを選び、身支度を終え、想定される質問への回答を練習し始めていた。
「自己紹介をお願いします」
マッハが聞いている。
「シトロン・アカデミーで英語を教えています。趣味は文学、飛行、それから時々、街の壊滅を防ぐことです」
「大げさすぎます」
「分かった。英語教師です。読書と、娘さんと一緒に過ごす時間が好きです」
「改善されました」
「ただし、飛行については高性能な車椅子を使っていることを説明した方がいいかな」
「質問されない限り不要です」
キランは頷いた。
「そうだね」
次の質問に移る。
「娘と付き合っている目的は何ですか?」
彼は姿勢を正した。
「私の意図は誠実そのものです」
マッハは黙っていた。
キランは待った。
「どう?」
「十九世紀を舞台にした時代劇のオーディションを受けているのですか?」
キランは眉をひそめた。
「誠実で何が悪いの?」
「何も。ただし、台詞を暗記してきたように聞こえる可能性があります」
「実際に練習してるんだから!」
「まさにその点です」
キランは呻いた。
スマートフォンが鳴った。
画面にはスザンヌの名前。
「ああ、もう」
「応答しますか?」
キランはため息をついた。
「お願い」
画面に、満面の笑みを浮かべたスザンヌが現れた。
「こんにちは、あなた!」
「やあ、母さん」
「あら、素敵じゃない!」
キランは自分の服を見下ろした。
「ありがとう」
「それ、私が買ってあげたシャツでしょう?」
「そうだよ」
「やっぱり似合うと思ったのよ!」
彼女はカメラへ顔を近づけた。
「髪は整えた?」
「うん、母さん」
「身だしなみはきちんとしてる?」
「してるよ」
「車椅子は?」
「磨いた」
「素晴らしいわ! それで、お花は忘れてないでしょうね?」
キランは固まった。
「何?」
スザンヌの笑みが消えた。
「お花よ、キラン」
彼は見つめ返した。
「何の花?」
「ミカイラちゃんのお母様に渡すお花!」
「母さん、ただの夕食だよ」
「だからこそよ!」
「結婚式じゃないんだから」
「誰も結婚式だなんて言ってないでしょう」
キランは眉を上げた。
スザンヌは視線をそらした。
「今日はね」
「母さん」
「初対面でお花を贈るなんて、素敵な第一印象になると思うの」
キランは考えた。
彼女の言うことにも一理ある。
それが腹立たしかった。
「分かった。途中で買うよ」
「いい子ね」
「その呼び方はやめて」
「それから、自分らしく振る舞うのよ」
キランは微笑んだ。
「ありがとう、母さん」
「ただし、皮肉は少し控えめにした方がいいかもしれないわね」
笑みが消えた。
「ひどいな」
「それから、あなたが関わってきた危険な事件の話はしないこと」
「レイモンドにも言われたよ」
「賢い人ね」
キランはため息をついた。
スザンヌの表情が優しくなる。
「あなたなら大丈夫よ」
彼は母親を見た。
「どうして分かるの?」
「あなたは立派な人だもの。それに、ミカイラちゃんはあなたを愛しているでしょう?」
キランはかすかに微笑んだ。
「ありがとう」
「さあ、素敵な第一印象を残してきなさい」
「頑張るよ」
「それから、終わったら電話してね!」
「もちろん」
「もし特にうまくいったら——」
「じゃあね、母さん」
「——素敵な結婚式の招待状を作ってくれるお店を知ってるのよ!」
キランは通話を切った。
真っ暗になった画面を見つめる。
マッハが口を開いた。
「お母様は非常に楽観的ですね」
「まだ両親との初対面すら終わってないのに、結婚式の準備をしてるんだよ」
「その自信は称賛に値します」
「恐怖に値するよ」
午後六時四十五分、キランはウォーターフロントのレストランに到着した。
約束の十五分前だった。
もちろん、わざと早く来たのだ。
席に落ち着き、テーブルの配置を確認し、余計な問題が起こらない状態で夕食を始めたかった。
入口は歩道と同じ高さにあり、両開きのドアは自動で開いた。
店内では、案内係が温かく迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ご予約は?」
「キリアンです。四名で」
女性はタブレットを確認した。
「はい。お席をご用意しております」
キランは彼女について店内を進んだ。
案内されたのは、港を見渡せる窓際の広いテーブルだった。周囲の通路には十分な幅があり、MACH-01Aを直接テーブルにつけても、ほかの客の通行を妨げることはない。
完璧だ。
彼は購入してきた花束をテーブルに置いた。
白いユリと淡い青色の花を組み合わせた、控えめなアレンジメントだった。
スザンヌは上品なものを選ぶよう強く勧めていた。
キランは反抗心からサボテンを一本だけ買おうかとも考えた。
幸い、その誘惑には勝った。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「完璧です。ありがとうございます」
案内係は微笑んで立ち去った。
マッハのアバターが車椅子のディスプレイに現れた。
「問題なく到着しました」
「このまま何事もなく終わってほしいね」
「会話の予行演習を再開しますか?」
「しない」
「最初の挨拶だけでも?」
「しない」
「緊急脱出計画は?」
キランは下を見た。
「何だって?」
「精神的負担が大きくなった場合に備えて、準備してあります」
彼は画面を見つめた。
「マッハ」
「はい?」
「夕食から逃げ出す計画なんて立てないよ」
「了解しました。予備計画として保存しておきます」
キランはため息をついた。
その時、ミカイラが近づいてくるのが見えた。
深緑色のドレスをまとい、ルビー色の髪を肩に流している。眼鏡には、レストランのシャンデリアの温かな光が映っていた。
キランは約三秒間、夕食のことを忘れた。
ミカイラが微笑む。
「あら、ハンサムさん」
キランも笑った。
「やあ、美人さん」
彼女は身をかがめ、キランにキスをした。
唇を離すと、テーブルの花束に目を向けた。
「あら、素敵なお花!」
「ありがとう」
「私に?」
キランはためらった。
ミカイラは目を細める。
「ホットロッド」
「君のお母さんに」
彼女は笑った。
「もう点数稼ぎ?」
「君のお父さんは恐ろしい数の園芸道具を持っているらしいからね。予防措置だよ」
ミカイラは彼の頬にキスした。
「大丈夫よ」
キランは入口を見た。
「ご両親は?」
「もうすぐ」
「どれくらい?」
「駐車してるところ」
キランは姿勢を正した。
「なるほど」
ミカイラは、彼がシャツの襟を直す様子を見ていた。
「緊張してるでしょう?」
「してない」
「キラン」
「多少は」
「襟はちゃんとしてるわ」
彼は手を下ろした。
「ありがとう」
ミカイラは肩を優しく握った。
「いつも通りでいいのよ」
キランは微笑んだ。
「みんなそう言うね」
「いい助言だからよ」
「母さんには、皮肉を控えめにしろって言われた」
ミカイラは笑った。
「そこまでしなくてもいいわ」
ミカイラが入口付近の両親を見つけた。
手を振る。
「こっちよ!」
キランは振り向いた。
近づいてきたのは、白髪交じりの茶色い髪と整えられた顎ひげを持つ背の高い男性と、肩まで伸びた赤褐色の髪の女性だった。
男性は紺色のブレザーに淡い色のシャツを合わせていた。親しみやすい表情をしており、新しい場所を訪れるのが好きな人らしく、興味深そうに店内を見回している。
女性はクリーム色のブラウスと濃い色のパンツを身につけていた。落ち着いた物腰だったが、キランは彼女の視線が一瞬MACH-01Aへ向かい、それから自分の顔に戻るのに気づいた。
ミカイラが微笑む。
「ママ、パパ、こちらがキランよ」
彼女はキランを紹介した。
「キラン、私の両親。ダニエルとイヴリン・マッキントッシュよ」
ダニエルが手を差し出した。
「キラン! やっと会えたね」
キランは握手した。
「こちらこそ、マッキントッシュさん」
「ダニエルでいいよ。マッキントッシュさんなんて呼ばれると、君に居残りを命じる教師みたいじゃないか」
キランは微笑んだ。
「実は僕が教師なんですけどね」
ダニエルは笑った。
「それなら、私が行儀よくしないとな」
「そうしていただけると助かります」
二人は笑い合った。
続いてイヴリンが近づいた。
「こんばんは、キラン」
彼は微笑んだ。
「マッキントッシュさん。お会いできて光栄です」
彼女は握手した。
「こちらこそ」
視線が一瞬、車椅子に組み込まれた機器へ移る。
そしてキランへ戻った。
彼は気づかないふりをした。
ミカイラがテーブルを示した。
「座りましょうか?」
「そうだね」とダニエル。
席につくと、イヴリンは花束に目を留めた。
「あら、綺麗ね」
キランは微笑んだ。
「よろしければ、どうぞ」
彼女は驚いた。
「私に?」
「はい。何かお持ちしたいと思いまして」
イヴリンは花束を手に取った。
「まあ、ご丁寧に。ありがとう」
「どういたしまして」
ダニエルは花を眺めた。
「ユリか。いい選択だ」
キランは頷いた。
「専門家の助言を受けまして」
「花屋さん?」
「母です」
ダニエルは笑った。
「それなら間違いない」
ミカイラはキランの隣に座った。
最初の数分間は順調だった。
メニューが配られた。
飲み物を注文した。
ダニエルは、キランが教師になって何年になるのか尋ねた。
「もう何年かになります。シトロン・アカデミーで英文学を教えています」
「楽しいかい?」
「とても。ただ、生徒たちが組織的に僕の忍耐力を試しているんじゃないかと思う日もあります」
ダニエルはにやりとした。
「子供の頃のミカイラみたいだな」
「パパ!」
「何だ? お前はなかなか手のかかる子だったぞ」
「私はいい子だったわ」
「校長先生が宇宙人に入れ替わったって、クラス全員に信じ込ませたことがあっただろう」
キランは彼女を見た。
ミカイラは顔を覆った。
「あれは一回だけよ」
キランは微笑んだ。
「実に勉強になるなあ」
ダニエルは笑った。
キランは、この夕食も案外簡単に乗り切れるのではないかと思い始めた。
その時、イヴリンが口を開いた。
「ミカイラ、このお店が彼を受け入れられるか、ちゃんと確認したの?」
キランは顔を上げた。
ミカイラは一瞬止まった。
「したわ、ママ」
「だって、彼の車椅子はかなり大きいでしょう?」
キランはMACH-01Aをちらりと見た。
それからイヴリンへ向き直る。
「このレストランはバリアフリーですよ。何度も利用しています」
イヴリンは頷いた。
「あら、そうなの。よかったわ」
彼女はメニューに目を戻した。
キランも同じようにした。
ちょっとした行き違いだ。
気にするほどのことではない。
少なくとも、今はまだ。
ウェイターが注文を取りに来た。
ダニエルはサーモンのグリル。
イヴリンはチキン。
ミカイラはパスタ。
キランはステーキを注文した。
イヴリンは娘を見た。
「彼の料理は、何か特別な調理が必要なの?」
ウェイターの手が止まった。
キランは顔を上げた。
ミカイラの表情が硬くなる。
「ママ——」
「特別な調理は必要ありません」とキランが答えた。「ミディアムレアでお願いします」
ウェイターは頷いた。
「かしこまりました」
イヴリンは瞬きをした。
「あら、私はただ——」
「分かっています」とキランは小さく微笑んだ。「お気遣いありがとうございます」
ウェイターは立ち去った。
ダニエルは港の話を始めた。
窓の外を指差し、来月、歴史ある船が入港する予定だと説明する。
キランは耳を傾けていた。
しかし、意識の一部は先ほどのやり取りに残っていた。
人が質問する理由は理解している。
障害についてよく知らない場合もある。
純粋に助けたいと思っている場合もある。
だが、自分が目の前に座っているのに、自分についての会話だけが自分を避けて進んでいくというのは、独特の疲労感があった。
イヴリンが再び口を開いた。
「ミカイラ、キランは飲み物を飲む時に手伝いが必要なの?」
キランは皿の脇にあるグラスを見た。
すでに何口か飲んでいた。
「大丈夫です。ありがとうございます」と彼は答えた。
イヴリンが彼を見る。
「あら」
キランは丁寧に微笑んだ。
「何か必要な時はこちらからお伝えします」
「もちろんよ」
ミカイラは椅子の上で身じろぎした。
ダニエルが咳払いする。
「ところでキラン、ミカイラからシェイクスピアが好きだと聞いたよ」
キランは彼に向き直った。
「そうですね。かなり好きです」
「一番好きな作品は?」
キランは微笑んだ。
ようやく、ありがたい質問が来た。
前菜が運ばれてくる頃には、キランとダニエルは『ハムレット』について熱心に議論していた。
「私は昔から、あの王子がさっさと決断していれば、みんな相当な苦労をせずに済んだと思っているんだ」とダニエル。
キランは笑った。
「そうしたら二十分くらいで終わる芝居になってしまいますよ」
「むしろ改善だと言う人もいるだろうね」
「英文学への侮辱だと言う人もいるでしょう」
ダニエルはにやりとした。
「君はどっちだい?」
「職業上、シェイクスピアを擁護する義務があります」
「なるほど。職業病か」
「まさに」
ミカイラは楽しそうに二人を眺めていた。
彼女の父親は、新しく知り合った相手をすぐに話し相手にしてしまう癖があった。特に文学、歴史、園芸に詳しい相手ならなおさらだ。
キランとは、驚くほど気が合っていた。
ダニエルが身を乗り出す。
「では、『マクベス』はどうだ?」
キランは大げさに呻いた。
「あれは妻の言うことを聞くべきではなかった男の典型ですね」
イヴリンが眉を上げた。
「何ですって?」
ダニエルは笑った。
「気をつけたまえ。私の妻が目の前にいるぞ」
キランは微笑んだ。
「もちろん、レディ・マクベスに限った話です」
「都合のいい区別だな」
「学術的に正当化できます」
ミカイラは笑った。
ダニエルは続ける。
「ミカイラが小さい頃、よくシェイクスピアを教えたものだ」
「パパ」
「あの子は大嫌いだった」
「嫌いじゃなかったわ」
「ロミオのことを馬鹿だと言っていたな」
キランは彼女を見た。
ミカイラはため息をつく。
「実際、馬鹿でしょう?」
キランは考えた。
「実は、それも十分に擁護できる解釈だよ」
彼女はキランを指差した。
「ありがとう!」
ダニエルは首を振った。
「素晴らしい。これで二人になった」
キランが笑っていると、イヴリンが口を開いた。
「情熱を持てる仕事があるのは素敵ね」
彼は彼女へ向き直った。
「ありがとうございます」
イヴリンは少しためらった。
「でも、あなたの状態に対応してくれる学校を見つけるのは、大変だったでしょうね」
笑い声が少し静まった。
キランは質問について考えた。
「アクセシビリティの面で調整は必要でした」と彼は答えた。「でも、僕には教師としての資格がありますし、アカデミーも教えるために採用してくれました」
「もちろんよ」
イヴリンは頷いた。
「ただ、大変でしょうと思って」
「大変な部分もあります。でも、同僚たちとあまり変わらない部分も多いですよ」
ダニエルは微笑んだ。
「例えば採点かい?」
キランは呻いた。
「特に採点です」
ダニエルは笑った。
「教師共通の苦しみだな」
「その通りです」
会話は別の話題へ移った。
だが、キランは気づいていた。
イヴリンの質問は、いつも彼に何ができないのかという方向へ戻っていく。
一方のダニエルは、彼が何を楽しんでいるのかに興味を持っていた。
微妙な違いだった。
そして、次第にはっきりと感じられる違いでもあった。
メインディッシュが運ばれてきた。
しばらくはミカイラの子供時代の話で盛り上がった。
ダニエルは、彼女がインターネットで見つけた設計図を使ってツリーハウスを作ろうとした時の話をした。
ミカイラは、構造そのものは完璧だったと言い張った。
ダニエルは、誰かが登る前に崩壊したことを指摘した。
キランは大笑いし、マッハが一瞬、呼吸状態に関する通知を表示したほどだった。
ミカイラは彼を指差した。
「余計なこと言わないでよ」
「何も言ってない!」
「考えてたでしょう?」
「いろいろとね」
ダニエルは笑った。
「昔からああだった。とにかく行動力があってね」
イヴリンも思い出に微笑んだ。
それからキランを見た。
「ミカイラは昔から優しい子だったのよ」
キランは微笑んだ。
「本当にそうですね」
「いつも誰かを助けたがる子でね」
ミカイラが母親を見る。
「ママ?」
イヴリンは続けた。
「小さい頃は怪我をした鳥を家へ連れてきて、絶対に治してあげるんだって言い張っていたの」
ダニエルは笑った。
「ある夏なんて、ガレージが大変なことになったよ」
キランは丁寧に微笑んだ。
イヴリンは二人を見比べた。
「だから、少し特別な助けが必要な人に惹かれるのも、あの子らしいと思うの」
テーブルが静まり返った。
キランの笑みは残っていた。
だが、目はもう笑っていなかった。
ミカイラはゆっくりフォークを下ろした。
「ママ」
イヴリンは驚いたようだった。
「何?」
「だからキランと付き合ってるわけじゃないわ」
「あら、悪い意味で言ったんじゃないのよ」
「分かってる。でも——」
「立派なことだと思うの」とイヴリンは続けた。「これほど大変なことが多い関係を引き受けようと思える人ばかりじゃないでしょう?」
キランは皿を見た。
来た。
彼が恐れていた褒め言葉だった。
ミカイラの表情が険しくなる。
「ママ、もうやめて」
イヴリンは瞬きをした。
「褒めてるのよ?」
「キランと付き合うことが、まるで慈善活動みたいに聞こえるわ」
「そんなこと言ってないでしょう」
「そういう意味に聞こえるの」
ダニエルはグラスを置いた。
「イヴリン」
彼女は二人を見比べ、本当に困惑しているようだった。
「私はただ、ミカイラは昔から思いやりがある子だって言いたかっただけよ」
キランは息を吸った。
ミカイラに任せることもできた。
彼女には十分その力がある。
だが、これは自分の恋愛でもあった。
彼はイヴリンを見た。
「マッキントッシュさん」
彼女が向き直る。
「はい?」
「善意でおっしゃっているのは分かります」
イヴリンの表情が和らいだ。
「ありがとう」
「でも、一つ説明させてください」
「もちろんよ」
キランはミカイラをちらりと見た。
彼女は小さく頷いた。
彼は続ける。
「ミカイラは、僕がかわいそうだから付き合っているわけではありません。社会奉仕をしているわけでもありません。それに僕も、面倒を見てくれる人が欲しくて彼女をデートに誘ったわけではないんです」
イヴリンは耳を傾けた。
「一緒にいて楽しいから付き合っているんです。お互いを笑わせられるから。大切に思っているから」
彼はかすかに微笑んだ。
「それに、いまだによく分からない理由で、彼女は僕のひどい冗談を魅力的だと思ってくれています」
ミカイラは微笑んだ。
「一部だけね」
「その容赦ない訂正をありがとう」
ダニエルが小さく笑った。
キランは再びイヴリンを見た。
「僕の障害が目につくことは分かっています。見えないふりをしてほしいわけじゃありません。でも、娘さんが僕を愛してくれる理由は、そこにはないんです」
イヴリンは目を伏せた。
その夜初めて、何を言えばいいのか分からない様子だった。
やがて頷いた。
「分かったわ」
キランは完全に納得したわけではなかった。
それでも、耳を傾けてくれたことには感謝した。
会話はゆっくりと元に戻っていった。
ダニエルはキランの生徒たちについて尋ねた。
ミカイラは最近二人で出かけた時の話をした。
イヴリンも時々会話に加わったが、先ほどより慎重になっているようだった。
やがて、将来の話題になった。
きっかけはごく自然だった。
ダニエルが、キランはこれからもシトロン・アカデミーで働くつもりなのかと尋ねたのだ。
「そのつもりです」とキラン。「教えるのが好きですから」
「転職には興味がないのかい?」
キランは微笑んだ。
「面白い質問ですね。つい最近、プロのレースチャンピオンからレーサーへの転向を勧められたんです」
ダニエルは目を見開いた。
「冗談だろう?」
「残念ながら本当です」
ミカイラは笑った。
「バロン・テニモスに、あと少しで勝つところだったのよ」
ダニエルの目がさらに大きくなった。
「あのバロン・テニモスかい?」
「そのバロンです」
「なんてことだ」
キランは肩をすくめた。
「〇・〇八秒差で負けましたけどね」
ダニエルは背もたれに寄りかかった。
「それはすごい!」
イヴリンは不思議そうな顔をした。
「レースをするの?」
「プロではありません」とキラン。「友好的なエキシビションレースでした」
「その車椅子で?」
キランは微笑んだ。
「はい」
ダニエルは新たな興味を持ってMACH-01Aを眺めた。
「その推進装置は何に使うのかと思っていたよ」
「主に飛ぶためです」
ダニエルは笑った。
「なるほど、当然だな」
イヴリンは眉をひそめた。
「危なくないの?」
「危険な場合もあります」とキランは認めた。「だからこそ、安全には気をつけています」
ミカイラが彼を見た。
キランは気づいた。
「ほとんどの場合は」
「キラン」
「分かった。改善中です」
ダニエルは笑った。
イヴリンは両手を組んだ。
「まあ、人生を楽しんでいるのはいいことね」
キランは、その言葉にどう返せばいいのか少し迷った。
幸い、ダニエルが話題を変えた。
「ところで、二人は将来のことを何か考えているのかい?」
ミカイラはキランをちらりと見た。
彼も彼女を見る。
「いくつか話してるわ」とミカイラ。
「例えば?」とイヴリン。
「一緒に旅行するとか、お互いの家族ともっと過ごすとか。それから、いつか一緒に暮らすことも」
イヴリンの表情が変わった。
「一緒に暮らす?」
ミカイラは頷いた。
「いつかね。明日引っ越すって話じゃないわ」
母親はキランを見た。
「それは可能なの?」
キランは止まった。
「一緒に暮らすことですか?」
「ええ」
「もちろんです」
イヴリンはためらった。
「その、あなたの医療的な事情を考えると……」
キランはフォークを置いた。
「計画は必要になります」と答えた。「でも、可能ですよ」
「ミカイラが介護をしなければならなくなるの?」
また、その質問だった。
今度はキランにも心の準備ができていた。
「いいえ」と彼は答えた。
イヴリンは、その明確な返事に驚いたようだった。
キランは続ける。
「必要な介助を受けるための体制は、すでに整っています。もしミカイラと一緒に暮らすことになったら、住まいがバリアフリーであることや、その体制を維持できることを確認する必要があります」
ミカイラは頷いた。
「そのことは話してあるわ」
「細かいところまでは、まだですけどね」とキラン。「でも、慎重に計画しなければならないことは分かっています」
イヴリンは考えた。
「緊急時は?」
「それも計画に含まれます」
「ミカイラは対処できるようになるの?」
「本人が知っておきたいことや、必要なことは学べると思います」とキラン。「でも、彼女一人に僕の生活のすべてを支えてもらうつもりはありません」
ダニエルはゆっくり頷いた。
「もっともだね」
キランはイヴリンを見た。
「僕はミカイラに恋人でいてほしいんです。専属介護者になる義務を感じてほしくはありません」
イヴリンはナプキンを折った。
「そういうふうには考えたことがなかったわ」
「そういう人は多いです」とキラン。
責めるような口調ではなかった。
ただの事実だった。
ミカイラはテーブルの下で彼の手を取った。
キランは握り返した。
イヴリンは二人の手を見た。
それから、別の質問をした。
「結婚は?」
キランは危うく水を気管に入れそうになった。
咳き込む。
ミカイラがすぐに振り向いた。
「キラン?」
彼は片手を振った。
「大丈夫」
マッハのインジケーターが点灯した。
「呼吸状態は安定しています」
キランはディスプレイを睨んだ。
「ありがとう」
ダニエルは小さく笑った。
「少し唐突だったかな」
イヴリンは気まずそうだった。
「驚かせるつもりはなかったのよ」
キランは落ち着きを取り戻した。
「いえ、大丈夫です。ただ、昨日から母が結婚式のテーマカラーを考え始めているもので」
ミカイラが吹き出した。
ダニエルはにやりとした。
「もう?」
「どうやら紫が候補らしいです」
「いい色じゃないか」
「お願いですから、母を後押ししないでください」
イヴリンまで微笑んだ。
だが、質問はまだ終わっていなかった。
「子供は?」
笑いが静まった。
ミカイラは母親を見た。
「ママ」
「ただ聞いているだけよ」
キランは少し時間を置いてから答えた。
「それは二人で決めることです」
イヴリンはためらった。
「でも、現実的に可能なの?」
キランは彼女を見た。
「どういう意味ですか?」
「その、あなたの障害を考えると……」
彼女は言葉を止めた。
キランは待った。
イヴリンは居心地悪そうだった。
「何が可能なのか、私には分からないの」
キランは頷いた。
「正直、僕たちにもまだ分からないことはあります」
ミカイラが彼を見る。
キランは続けた。
「医学的なこと、生活上のこと、経済的なこと、それから僕たち自身の希望についても考える必要があります。でも、それは準備ができた時に、二人で考えていくことです」
彼は少し背もたれに寄りかかった。
「障害があるからといって、僕の将来についての決断が全部、最初から決まっているわけではありません」
イヴリンは目を伏せた。
「もちろんね」
「それに、そもそも僕たちは子供が欲しいかどうかさえ、まだ決めていません」
ミカイラは頷いた。
「その通りよ」
ダニエルは微笑んだ。
「それは大人二人が自分たちで決めていいことだと思うよ」
キランは彼を見た。
「ありがとうございます」
イヴリンは夫をちらりと見た。
ダニエルは穏やかに見返した。
会話は別の話題へ移った。
しかし、その夜は誰もが予想していた以上に複雑なものになっていた。
デザートを半分ほど食べた頃、キランは右脇に不快感を覚えた。
少し姿勢を変える。
だが、圧迫感は残った。
彼はMACH-01Aの姿勢調整ディスプレイを確認した。
身体を支える設定の一つを調整する必要があった。
「マッハ」と小声で呼ぶ。
「はい?」
「右側の体幹サポートを調整してくれる?」
「承知しました」
車椅子から小さな機械音がした。
サポート部分がわずかに動く。
キランは身体の力を抜いた。
「よし、楽になった」
「姿勢調整完了」
イヴリンが勢いよく顔を上げた。
「何が起きてるの?」
キランは彼女へ向き直った。
「姿勢を調整しただけです」
彼女は車椅子を見た。
「何か問題が?」
「いいえ」
「今、モーターの音がしたわ」
「そうですね」
「本当に大丈夫なの?」
キランは微笑んだ。
「まったく問題ありません」
イヴリンはミカイラを見た。
「誰か呼んだ方がいいんじゃない?」
ミカイラが口を開きかけた。
その前にキランが答えた。
「必要ありません。大丈夫です」
「でも、機械が——」
「正常に動いているだけですよ」
イヴリンは車椅子を見つめた。
キランは説明の仕方を考えた。
「車のシートを調整するようなものです。少し身体がつらくなったので、支える位置を変えました」
ダニエルは頷いた。
「ああ、なるほど」
イヴリンは安心したようだった。
「そうだったのね」
キランは微笑んだ。
「大したことではありません」
マッハのアバターが現れた。
「なお、今回の調整は極めて高い精度で実行されました」
キランは下を見た。
「誰も作業評価を頼んでないよ」
ダニエルは笑った。
イヴリンも小さく微笑んだ。
それから、少しして彼女が言った。
「私、こういうことについて、まだまだ学ばないといけないみたいね」
キランは頷いた。
「知らない人の方が多いですから」
彼女は彼を見た。
「質問されるのは嫌?」
「必ずしもそうではありません」
「じゃあ、何が嫌なの?」
キランは考えた。
「答えをもう知っているつもりで、決めつけられることです」
イヴリンは黙った。
ミカイラは母親を見た。
しばらくは、ようやく落ち着いた会話になりそうだった。
ところが、イヴリンがまた口を開いた。
「ただ、ミカイラがどれほど多くのものを犠牲にすることになるのか、心配なのよ」
ミカイラのフォークが皿に当たった。
思った以上に大きな音がした。
「ママ」
イヴリンは驚いた。
「何?」
「もう十分よ」
ダニエルが姿勢を正した。
「ミカイラ——」
「いいえ、パパ。今夜ずっと聞いてたんだから」
キランは彼女へ向き直った。
「ミカイラ」
彼女は母親をまっすぐ見ていた。
「キランが仕事の話をすれば、大変じゃないかって聞く。普通のことをすれば驚く。そして私たちの関係について話すたびに、まるで私が一生不幸になる契約を結ぼうとしてるみたいに言うの!」
イヴリンの顔が赤くなった。
「それは不公平よ」
「本当に?」
「あなたが心配なの!」
「分かってる! でも、ママはキランのことを知ろうとしてないじゃない!」
近くのテーブルが静かになった。
何人かがこちらを見ていることにキランは気づいた。
胃のあたりが重くなる。
「ミカイラ」と彼は優しく呼んだ。
だが、彼女は続けた。
「キランはここに座ってるのよ、ママ。質問には全部自分で答えてる。それなのに、まだ私がよく考えていない問題みたいに話してるじゃない!」
イヴリンは傷ついた表情になった。
「問題だなんて言ってないわ」
「その言葉を使わなくても、同じことよ」
「ミカイラ」
今度のキランの声は、少し強かった。
彼女が振り向く。
「何?」
キランは彼女を見た。
「僕を守ろうとしてくれてるのは嬉しいよ」
ミカイラの表情が少し和らいだ。
「でも、自分のことは自分で話したい」
彼女は止まった。
一瞬、母親と同じくらい驚いた顔になった。
それから周囲のテーブルを見た。
再びキランへ目を向ける。
彼は怒っていなかった。
だが、居心地が悪そうだった。
ミカイラは彼を守ろうとするあまり、母親にやめてほしいと訴えていたことを、自分でもしてしまっていた。
本人の代わりに話すことを。
ミカイラはゆっくり椅子にもたれた。
「そうね」
キランは頷いた。
「ありがとう」
彼女は母親を見た。
それから皿へ目を落とした。
「声を荒らげてごめんなさい」
ダニエルが息を吐いた。
緊張が消えたわけではない。
だが、周囲の空気がようやく動き始めたように感じられた。
キランはイヴリンへ向き直った。
「マッキントッシュさん、少しお話ししてもいいですか?」
彼女は頷いた。
「もちろん」
キランは考えをまとめるため、少し時間を取った。
はっきり伝えたかった。
だが、説教にもしたくなかった。
何より、自分が娘さんの人生に存在する許可を求めに来たわけではないと、理解してほしかった。
「障害のある生活がいつも簡単だなんて、言うつもりはありません」
イヴリンは耳を傾けた。
「人の助けが必要なこともあります。事前に計画しないと行けない場所もあります。医療的な事情も日常生活の一部です」
彼はMACH-01Aをちらりと見た。
「でも、僕はずっとそういう現実と付き合ってきました。娘さんと付き合い始めたから突然現れた問題ではないんです」
ダニエルは小さく頷いた。
キランは続ける。
「それにミカイラは、僕に障害があることを知らずに、たまたま僕の人生へ迷い込んできた人ではありません」
ミカイラは彼を見た。
「彼女は頭がいい。質問もする。学ぼうとする。意見が食い違うこともあります。時にはどちらかが馬鹿なことを言うこともあります」
彼はかすかに微笑んだ。
「たいてい僕ですけど」
ミカイラが静かに笑った。
キランはイヴリンを見た。
「娘さんを愛していることは分かっています。幸せな未来を歩んでほしいと思っていることも」
イヴリンは頷いた。
「何よりもそう願っているわ」
「それなら、彼女が幸せだと言った時、その言葉を信じてほしいんです」
イヴリンの表情が変わった。
キランは続けた。
「今夜、僕の障害について全部理解してもらう必要はありません。これから困難がないふりをしてほしいわけでもありません」
彼は少し身を乗り出した。
「でも、その困難が僕たちの関係にとって何を意味するのか決める前に、まず僕自身を知ってもらえたら嬉しいです」
テーブルに沈黙が落ちた。
イヴリンは長い間、彼を見つめていた。
やがて目を伏せる。
「私……」
言葉が止まった。
息を吸う。
「あなたに謝らなければいけないわね」
キランは待った。
イヴリンは再び顔を上げた。
「ミカイラのことが心配で、あなたたち二人の話をきちんと聞いていなかったわ」
声は先ほどより静かだった。
「現実的に考えているつもりだったの。責任ある母親として、聞くべきことを聞いているんだと思っていた」
彼女は娘をちらりと見た。
「でも、あの質問がどう聞こえたか、今なら分かるわ」
キランは頷いた。
イヴリンは彼をまっすぐ見た。
「ごめんなさい、キラン」
彼は彼女の顔を見た。
謝罪は誠実に思えた。
それは大切なことだった。
だが、一度の謝罪で長年の思い込みが消えるわけではないし、今後の誤解がなくなる保証もない。
「ありがとうございます」と彼は答えた。
イヴリンは少し不安そうに微笑んだ。
「せっかくの夕食を台無しにしてしまったかしら」
キランは考えた。
それから微笑んだ。
「まあ、チーズケーキは絶品でしたから」
ダニエルは笑った。
ミカイラは口元を覆った。
イヴリンまで小さく笑った。
キランは続ける。
「まだ十分、挽回できる夜だと思いますよ」
イヴリンの笑みが少し自然になった。
「それならよかったわ」
残りの夕食は静かだった。
だが、不愉快な静けさではなかった。
先ほどの緊張が、全員を少し考え深くさせていた。
ダニエルは、本を読むのが嫌いな生徒にどんな作品を勧めるのか尋ねた。
キランはすぐに、すべての生徒に同じ古典を好きにならせようとするより、その子に合った本を見つける方が大切なのだと熱心に説明し始めた。
ダニエルは本当に興味深そうに聞いていた。
イヴリンも質問した。
「教える仕事で、一番好きなことは何?」
キランは彼女を見た。
その夜、彼女が初めて尋ねた、障害とはまったく関係のない質問だった。
彼は微笑んだ。
「ありますよ」
彼女は続きを待った。
「生徒が、ずっと分からなかったことを理解した瞬間です」
ダニエルは頷いた。
「それは嬉しいだろうね」
「ええ」
キランは続ける。
「何週間も、ある本が嫌いだと言い続けていた生徒が、ある日突然、登場人物やテーマについて何かに気づくことがあるんです。そうすると急に、その作品について話したがるようになる」
彼はその光景を思い出して微笑んだ。
「そういう瞬間があるから、採点の苦労も報われるんです」
イヴリンは耳を傾けていた。
「素敵ね」
「本当に」
ミカイラはそのやり取りを見守った。
母親が突然、障害について何でも理解できる人になったわけではない。
まったく別人に変わったわけでもない。
だが、キランにとって大切なことを尋ねていた。
そして、その答えを聞いていた。
それは始まりだった。
ダニエルが背もたれに寄りかかった。
「本といえば、街の中心部にある小さな書店に行ってみたいと思っていたんだ」
キランは興味を示した。
「どのお店ですか?」
ダニエルが店名を告げた。
キランの顔が輝いた。
「ああ、知っています!」
「本当かい?」
「古い版の本が素晴らしく充実しているんです」
「そうなんだよ!」
ダニエルはにやりとした。
「ずっと『モンテ・クリスト伯』のいい版を探していてね」
キランは笑った。
「それは探す価値がありますね」
ダニエルは妻を見た。
「イヴリン、どうやら私と三時間も書店にいられる人を見つけたようだ」
彼女は微笑んだ。
「私よりキランの方が適任ね」
ミカイラは笑った。
ダニエルはキランへ向き直った。
「今度、一緒にどうだい?」
キランは微笑んだ。
「ぜひ」
「決まりだな」
ダニエルはグラスを掲げた。
「では、本に乾杯」
キランもグラスを上げた。
「本に乾杯」
ミカイラも加わる。
イヴリンは少しためらった後、グラスを持ち上げた。
「本に乾杯」
四人は飲んだ。
その夜初めて、キランは自分が審査されていないように感じた。
ただ、恋人の家族と夕食を楽しんでいる。
それだけだった。
レストランを出る頃には、ウォーターフロントは静かになっていた。
港の灯りが暗い水面に揺れ、涼しい風が遊歩道を吹き抜けていた。
ダニエルはキランと握手した。
「会えてよかったよ」
「こちらこそ」
「書店の話、本気だからね」
キランは微笑んだ。
「僕もです」
ダニエルはにやりとした。
「よし。約束だぞ」
続いてイヴリンが近づいた。
少し迷っている様子だった。
それから微笑んだ。
「今夜はありがとう、キラン」
「こちらこそ」
「それから、辛抱強く付き合ってくれてありがとう」
キランは少し考えた。
「話を聞いてくださって、ありがとうございます」
彼女は頷いた。
「また近いうちに会えたら嬉しいわ」
キランは微笑んだ。
「僕もです」
ミカイラは両親を抱きしめた。
ダニエルは娘の額にキスをした。
イヴリンは少し長めに娘を抱きしめた。
やがて二人は駐車場へ向かっていった。
キランとミカイラは、その後ろ姿を見送った。
数秒間、どちらも何も言わなかった。
やがてミカイラが振り向く。
「さて」
キランは彼女を見た。
「さて」
彼女は緊張気味に微笑んだ。
「どうだった?」
キランは考えた。
「社交辞令の答えと、正直な答え、どっちがいい?」
「正直な方」
彼はレストランを見た。
それから港。
そして彼女へ向き直る。
「人生で最も疲れる夕食の一つだったよ」
ミカイラは顔をしかめた。
「ごめんなさい」
「謝らないで」
「キラン——」
彼は微笑んだ。
「悪いことばかりじゃなかった」
彼女は顔を覗き込んだ。
「本当に?」
「お父さん、いい人だね」
ミカイラは笑った。
「あなたのこと、気に入ってたわ」
「分かったよ」
「もう書店に行く計画を立ててるもの」
「それも分かった」
彼女は微笑んだ。
「ママは?」
キランは少し考えた。
「理解しようとはしてくれてると思う」
ミカイラは頷いた。
「そうよ」
「でも、理解したいと思うことと、本当に理解することは違うからね」
「分かってる」
彼は彼女を見た。
「謝ってくれた。それには意味があるよ」
ミカイラはかすかに微笑んだ。
「うん」
キランは続ける。
「すぐに全部分かってくれるとは思ってない。ただ、次に会う時は、いろいろ心配する前に、僕が一人の人間だってことを思い出してくれたら嬉しいな」
ミカイラは頷いた。
「私からも話しておく」
キランは優しく首を振った。
「僕の代わりに、全部戦わなくていいんだよ」
彼女はキランを見た。
「分かってる」
「守ってくれようとしたのは嬉しかった」
「でも?」
彼は微笑んだ。
「時には、自分のことを自分で主張する余地も欲しいんだ」
ミカイラはしばらく彼を見た。
そして頷いた。
「そうね」
キランは手を伸ばした。
彼女はその手を取った。
「それに」と彼は付け加えた。「君に味方してほしい時もあると思う」
彼女の表情が和らいだ。
「私はいつだってあなたの味方よ」
「知ってる」
ミカイラは身をかがめ、彼にキスをした。
急いだキスではなかった。
すべてが魔法のように解決したと安心させるためのキスでもない。
ただ、愛情のこもったキスだった。
自然で、親しみのあるキス。
難しい夜を一緒に乗り越えた二人だからこそのキスだった。
唇が離れると、キランは微笑んだ。
「いやあ」
ミカイラは笑った。
「何?」
「もう一回バロンとレースする方が楽だと思う」
彼女は吹き出した。
「そんなに大変だった?」
「バロンは〇・〇八秒差で僕を負かしただけだよ。君のお母さんは二時間かけて僕の将来すべてを問い詰めたんだ」
ミカイラはさらに笑った。
キランはにやりとした。
「少なくともバロンとの勝負では、トロフィーみたいな形の心の傷が残った。でも今夜は修了証すらもらえなかったよ」
マッハのアバターが現れた。
「発行しましょうか?」
キランは下を見た。
「絶対にいらない」
「推奨タイトルは『初回保護者面談・無事終了』です」
ミカイラは口元を覆った。
マッハは続ける。
「総合評価はBプラス」
キランは画面を見つめた。
「Bプラス?」
「会話中に複数の失点が確認されました」
「君まで採点するの?」
「シバ先生が前例を確立しましたので」
ミカイラは笑いすぎて、近くの手すりにもたれかからなければならなかった。
キランは首を振った。
「信じられない」
マッハは続ける。
「ただし、予想外の質問から立て直す能力は高く評価できます」
キランはため息をついた。
「それはどうも」
「詳細な評価報告書をご希望ですか?」
「いらない」
「あるいは修了証を?」
「いらないってば!」
ミカイラは目元の涙を拭った。
「ああ、愛してるわ」
キランは彼女に微笑んだ。
「僕も愛してるよ」
二人はウォーターフロントを進み始めた。
ミカイラはMACH-01Aの隣を歩き、ときおり彼の手にそっと触れた。
キランは街の夜景を見た。
今夜は、期待していたようには進まなかった。
気まずい質問があった。
不愉快な思い込みがあった。
帰りたくなる瞬間もあった。
そもそも説明しなくて済めばいいのにと思うことを、何とか説明しなければならない瞬間もあった。
だが、笑いもあった。
シェイクスピアについての会話もあった。
謝罪もあった。
そして、書店への誘いも。
完璧な始まりではなかった。
そもそも、完璧な始まりなんて存在しないのかもしれない。
それでも、始まりには違いなかった。
ミカイラが自分の手を握るのを感じながら、キランは次に何が待っているのか、少し楽しみに思い始めていた。
少なくとも、スマートフォンが振動するまでは。
彼は画面を見た。
スザンヌからのメッセージだった。
母さん:どうだった、あなた? 気に入ってもらえた?
キランは微笑んだ。
返信を打つ。
キラン:けっこううまくいったよ。お父さんに書店へ誘われた。
三つの点が現れた。
スザンヌが入力中だ。
母さん:素晴らしい! もうほとんど家族みたいなものね!
キランはため息をついた。
さらにメッセージが届く。
母さん:それで、ミカイラちゃんはいつ、うちに夕食を食べに来るの?
彼は動きを止めた。
ミカイラが気づいた。
「どうしたの?」
キランは電話を見つめた。
マッハのアバターが明るくなる。
「ああ。第二回保護者面談ですね」
キランはゆっくり空を見上げた。
「そう来たか」
ミカイラは身を寄せ、メッセージを読んだ。
そして微笑んだ。
「じゃあ、今度は私の番ね」
キランは彼女を見た。
ゆっくりと、にやりとした笑みが広がった。
「ああ、君はきっと気に入るよ」
ミカイラは目を細めた。
「どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「だって、君は母さんと電話で話したことはあるだろう?」
「ええ?」
「でも、母さんとマドックスが同じ部屋にいるところは、まだ見たことがない」
ミカイラの笑みが薄れた。
「心配した方がいい?」
キランは考えた。
それから彼女の肩を愛情を込めて軽く握った。
「母さんは、この瞬間をずっと待ち望んでいたんだ、とだけ言っておこうかな」
マッハが口を開いた。
「ミカイラのために緊急脱出計画を準備しましょうか?」
キランは笑った。
「頼むよ、マッハ」
ミカイラは彼を見つめた。
「キラン!」
彼はにやりと笑った。
「僕を信じてよ、美人さん」
そして、その時キラン・キリアンは、大切なことを一つ理解した。
恋人の両親に会うのは恐ろしい。
だが、自分の恋人が自分の母親と対面するところを見るのは?
それは案外、面白い見世物になるかもしれなかった。




