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ファイナルラップ

スタートランプが青に変わった。

二台のマシンがスタートラインから飛び出す。

一台は、長年の経験を積んだチャンピオンが操る、プロ仕様のレーシングマシン。

もう一台は、最初の練習ラップでD+を取った英語教師が操る、大幅に改造された空飛ぶ車椅子だった。

その違いは、ほとんど瞬時に明らかになった。

シュゴオオオッ!

ヴェロシティがストレートを加速する。

MACH-01Aが追いかけた。

最初の三秒ほど、キランはなかなか順調だと思っていた。

だが、バロンが前へ出た。

「ちょっと待ってよ!」

マッハのインジケーターが点滅する。

「バロンの発進加速性能が上回っています」

「見れば分かる!」

「初期推力配分がこのコースに最適化されています」

「それも分かる!」

「あなたの反応時間は約——」

「マッハ!」

「——効率面で劣っています」

キランは操縦装置を握り直した。

前方では、ヴェロシティが最初のコーナーへ近づいていた。

バロンは減速し、滑らかにカーブへ進入すると、出口から加速した。あまりにも自然な動きで、まるで何の苦労もしていないように見える。

キランも後に続いた。

「ブレーキポイントは?」

「接近中です」

「今?」

「まだです」

「今?」

「まだです」

「今?」

「今です」

キランはブレーキをかけた。

MACH-01Aがコーナーへ入る。

今度は外側の境界へ流れなかった。

慌てることもない。

旋回途中で急にアクセルを踏み込むこともなかった。

代わりに、バイザーへ投影されたレーシングラインをたどった。

車椅子はカーブを抜け、次の区間へ加速する。

キランはニヤリとした。

「よし! 完璧!」

「許容範囲です」とマッハ。

「それってほぼ完璧ってことだろ!」

「まったく違います」

キランは距離表示をちらりと見た。

バロンはさらに差を広げていた。

笑みが消える。

「ああ……」

「はい」とマッハ。

「ああ……」

「まさにその通りです」

キランはため息をついた。

「長い一周になりそうだな」


「さあ、スタートしましたぁぁぁ!」

シバの声が管制ブースのスピーカーから響き渡った。

父親がびくりとする。

ミカイラは笑った。

シバはマイクへ身を乗り出し、頭にはヴェロシティのサイン入りキャップを誇らしげにかぶっている。

「バロン・テニモスとヴェロシティが序盤からリード!」

彼女はテレメトリーのモニターを確認した。

「ですが、キラン・キリアンとマッハも侮れません!」

父親がそっと肩に触れる。

「シバ、そんなに叫ばなくても大丈夫だよ。マイクが声を大きくしてくれるんだから」

「分かってるよ、パパ!」

父親は手を引っ込めた。

「そうか……」

ミカイラは二台が最初の区間を走る様子を見ていた。

「最初の練習よりずっと上手ね」

シバは勢いよく頷く。

「ずっと上手です!」

「勝てると思う?」

シバはモニターを見る。

バロンはすでにかなりのリードを築いていた。

彼女は少し考える。

そしてキャップの位置を直した。

「もちろんです」

父親が眉を上げる。

「本当に?」

「ええと……」

彼女はもう一度数字を確認した。

「数学的には複雑です」

ミカイラは微笑んだ。

「ずいぶん外交的な答えね」

シバは背筋を伸ばす。

「シバ先生は数学なんかに屈しません!」

彼女はマイクへ戻った。

「そしてキランが第二コーナーへ進入!」

一拍。

「先生、お願いだからクラッシュしないでぇぇぇ!」

ミカイラは吹き出した。


キランは第二コーナーへ接近していた。

バロンはすでに出口へ向かっている。

チャンピオンの動きは驚くほど正確だった。

すべての調整に意味がある。

すべての加速が適切なタイミングで行われる。

ヴェロシティがプロのサーキットで圧倒的な強さを誇ってきた理由が、キランにも理解できた。

「マッハ、離されてる」

「その通りです」

「何か提案は?」

「彼のレーシングラインを真似するのをやめてください」

キランは瞬きをした。

「え?」

「あなたは、地上走行に最適化されたマシンと同じ軌道を追っています」

「なるほど」

「MACH-01Aは同じ動作特性を前提として設計されていません」

キランは光る垂直方向の境界マーカーを見た。

そしてバロンの助言を思い出す。

俺みたいに走ろうとするな。

キランは笑った。

「よし」

進路を調整する。

「僕たちのやり方で行こう」

MACH-01Aが上昇した。

指定されたレース空間から外れるほどではない。

ただ、違う角度から次のカーブへ進入できる高さまで。

キランは左へ機体を傾け、地上のレーシングラインの上に大きな弧を描いた。

出口へ向けて下降する。

マッハは前方の推進ユニットとスタビライザーの間で推力を再配分した。

車椅子が加速する。

キランは速度表示を見る。

「いい感じだ!」

「大幅に改善しています」

次の区間には、左右交互の二連続コーナーがあった。

バロンは正確なブレーキングと素早い方向転換で通過していた。

キランは違う方法を選んだ。

最初のコーナーで上昇。

次のコーナーへ向けて滑らかに機体を傾ける。

そして連続した弧を描きながら下降する。

MACH-01Aを二つの別々のコーナーへ無理やり押し込むのではなく、一つの流れるような機動につなげた。

距離表示が変化する。

キランの目が見開かれた。

「マッハ!」

「確認しています」

「追いついてる!」

「少しずつですが」

「それでもいい!」

前方でバロンが後方テレメトリーを確認した。

ヴェロシティが話す。

「キランが距離を縮めています」

バロンは笑った。

「いいぞ」

「高度変化を利用して運動量を維持しています」

「見えてる」

「型破りな方法です」

「だから面白いんだ」

ヴェロシティはデータを処理した。

「走行戦略を調整しますか?」

バロンは身を乗り出す。

「もちろんだ」

笑みが広がる。

「新人の実力を見せてもらおうじゃないか」


管制ブースでは、シバが椅子から転げ落ちそうになっていた。

「見て!」

父親がモニターを見る。

「何を?」

「距離!」

ミカイラが身を乗り出した。

キランの位置が少しずつバロンへ近づいている。

「追いついてる!」

シバは両手を机に叩きつけた。

「やっぱり!」

父親が顔をしかめる。

「機材は壊さないでくれよ」

シバはマイクをつかんだ。

「皆さん、ご注目ください! キラン・キリアンが差を縮めています!」

ミカイラは微笑んだ。

「頑張って、ホットロッド」

シバは続ける。

「ヴェロシティには使えない空中レーシングラインを活用しています!」

彼女はモニターのバロンを見る。

「バロン、ごめんなさい! 悪気はありません!」

父親は彼女を見つめた。

「バロンにも聞こえてるのか?」

シバは止まった。

そしてマイクを見る。

「……たぶん」


バロンが加速した。

激しく。

ヴェロシティの推進システムが即座に応答する。

チャンピオンは、キランが最初の練習ラップで見たら恐怖を覚えただろう速度で次のコーナーへ進入した。

だが、バロンは無謀ではなかった。

機体がどれほどの速度を維持できるか、正確に理解している。

限界がどこにあるのか知っている。

そして何より、その限界を越えずに近づく方法を知っていた。

ヴェロシティがカーブへ入る。

スタビライザーが調整される。

車体は理想のレーシングラインとほぼ完全に一致した姿勢を維持した。

バロンが出口から加速する。

キランは再び差が広がるのを見た。

「それ、ずるくない?」

マッハが答える。

「彼は走行性能をさらに高い水準へ引き上げました」

「さっきまでは違ったの?」

「どうやら、そのようです」

キランは呻いた。

「素晴らしいね……」

バロンは高架区間へ近づく。

ヴェロシティはコースを上昇し、大きな旋回を抜け、速度をほとんど失わずに下降した。

キランが後に続く。

だが、同じラインは使わない。

代わりに、利用可能な空域を調べた。

高架区間の上では、許可された垂直空間が狭くなっている。

直接ショートカットすれば反則だ。

しかし、小さな高度変化を利用する余地は残されていた。

「マッハ、最速の合法的な空中ルートを表示して」

軌道が現れた。

キランはそれを見る。

「かなり狭いね」

「その通りです」

「安全?」

「運用許容範囲内です」

「安心できるね」

「より遅いルートをご希望ですか?」

キランは前を見る。

バロンが遠ざかっている。

「いや」

身を乗り出した。

「やってみよう」

MACH-01Aが高架区間へ入る。

キランは許可された境界に沿って上昇した。

車椅子が傾く。

第一スタビライザーが調整される。

続いて第二スタビライザー。

高度を変化させながら、コースの輪郭に沿って滑らかに進む。

一瞬、機体は旋回しているというより、滑空しているように見えた。

眼下でコースが遠ざかる。

次のカーブが迫る。

キランは下降。

加速。

予想以上の勢いを保ったまま、次のストレートへ飛び出した。

「よっしゃあ!」

マッハのインジケーターが明るくなる。

「見事な実行でした」

キランは笑った。

「今日二回目だ!」

「何がです?」

「君が僕を褒めた!」

「気を取られないでください」

距離表示が再び縮まった。

キランは笑う。

「そんなことしないよ」


バロンはテレメトリーを確認した。

キランが近づいている。

まただ。

ヴェロシティが言う。

「高架区間での空中軌道により、彼の区間タイムが短縮されました」

バロンは頷く。

「学んでるな」

「急速に」

「それもそうだ」

バロンは最後の連続コーナーへ視線を向けた。

彼はこのサーキットを知っている。

ヴェロシティが最も得意とする場所も知っている。

そしてキランの飛行マシンが、コースの境界を無視できないことも。

「よし、相棒」

ヴェロシティのインジケーターが光る。

「はい?」

「少し苦労してもらおう」

「喜んで」

ヴェロシティがテクニカルセクションへ加速する。

最初のコーナーへ驚くほど正確に進入した。

バロンはイン側のラインを使う。

次のコーナーへ移行。

さらに次。

すべての動きが、可能な限り速度を維持するためのものだった。

キランも後に続いた。

だが、今度はバロンが簡単には通してくれない。

ヴェロシティは最も効率的なレーシングラインを占めている。

キランはそのまま通り抜けることができない。

無制限に上昇することもできない。

許可された垂直空間が狭すぎる。

「マッハ!」

「分析中です」

「一番いいルートを塞がれてる!」

「彼は最適なレーシングラインを使用しています」

「それって合法?」

「はい」

「腹立つな!」

「それも同意します」

キランは次のコーナーへ接近した。

バロンはまだ前にいる。

差は縮まっているが、十分な速さではない。

キランはコースを見る。

そして垂直マーカー。

さらにテレメトリー。

何か違うものが必要だった。

バロンが予測できない何か。

「マッハ」

「はい?」

「キリアン・シャッフル、覚えてる?」

一拍。

「残念ながら」

キランは笑う。

「あれの、ひどくないバージョンを作ったらどうかな?」

「それは大幅な改善になります」

「真面目に言ってるんだよ」

「私も真面目です」

キランは次のコーナーを調べた。

地上のラインは右へ急激に曲がっている。

その上では、緩やかな上昇が許可されていた。

続いて、次のストレートへ下降できる。

キランは投影されたルートを指差した。

「旋回後に修正するんじゃなくて、旋回中に推力を再配分したらどうなる?」

マッハが計算する。

「説明してください」

「スタビライザーで旋回に逆らうんじゃなくて、旋回そのものを作るために使うんだ」

マッハが計算した。

「左右の推力を協調して調整すれば、修正ブレーキの必要性を減らせる可能性があります」

「そう、それ!」

「ただし、正確なタイミングが必要です」

キランはニヤリとした。

「幸い、僕にはものすごく高価なAIがいる」

「高性能と呼んでいただきたいですね」

「分かった。高性能で高価なAI」

「許容します」

新しい軌道が表示された。

上昇しながら曲がる。

緩やかに機体を傾ける。

そして出口へ下降する。

マッハが推力配分を強調表示した。

「初期上昇中は前方推力を減少。旋回軌道を維持するようスタビライザー出力を調整。下降中は主推力を段階的に増加させます」

キランは図を見た。

「うまくいく?」

「シミュレーションでは有効な改善が見込まれます」

「じゃあ、試してみよう」

コーナーへ進入。

MACH-01Aが上昇する。

スタビライザーの出力が変化した。

キランは機体を傾ける。

だが、今度は動きに逆らわず、その弧に沿って車椅子を進ませた。

推進システムが連続的に調整される。

機体が滑らかに旋回した。

そして下降。

キランは出口へ加速する。

速度表示が上昇。

距離表示が一気に縮まった。

キランが叫ぶ。

「やった!」

マッハのインジケーターが点滅する。

「成功です!」

「できた!」

「その通りです」

キランは笑った。

「最高の感覚だ!」

「以前の即興機動より大幅に効率的でした」

キランはニヤリとする。

「で、何て名前にする?」

マッハは少し黙った。

「名前が必要ですか?」

「絶対に必要」

「そうですか」

キランは周囲の紫色の装甲を見る。

「キリアン・シャッフルよりいい名前にしよう」

「基準が非常に低いですね」

「マッハ」

「ヴァイオレット・アークはいかがでしょう?」

キランは瞬きをした。

「ヴァイオレット・アーク?」

「機体の特徴的な色と、弧を描く空中軌道を組み合わせた名称です」

キランは考えた。

そして笑った。

「いいね」

「予想外の反応です」

「おい!」

「ですが、私も賛成です」

前方でバロンがテレメトリーを確認した。

差が劇的に縮まっていた。

ヴェロシティが言う。

「新しい機動を検出しました」

バロンは振り返る。

MACH-01Aが迫っている。

速い。

バロンはニヤリとした。

「そうこなくちゃな」


「今の何ぃぃぃ!?」

シバがマイクへ向かって叫んだ。

父親は片耳を押さえた。

ミカイラはモニターへ身を乗り出す。

キランは最新のコーナーで大きく距離を縮めていた。

シバは映像を再生する。

もう一度再生する。

「スタビライザーの使い方が違う!」

ミカイラは笑う。

「それっていいこと?」

「いいこと!?」

シバは彼女を見た。

「ものすごいことです!」

父親が咳払いする。

「小さな声でね」

シバは無視した。

マイクをつかむ。

「皆さま、ご覧ください——」

父親はため息をつく。

「観客は三人だけなんだけどな」

「——キラン・キリアンが新しいレース技術を発明しました!」

ミカイラは笑った。

「本当に?」

シバはテレメトリーを見る。

「たぶん!」

通信システムからマッハの声が聞こえた。

「技術名称、ヴァイオレット・アーク」

シバの目が見開かれる。

「ヴァイオレット・アーク!」

彼女はミカイラを見る。

「キリアン・シャッフルよりずっとかっこいい!」

ミカイラは頷く。

「間違いないわね」

シバはマイクへ戻る。

「そして、その技を使って私の生徒がチャンピオンへ迫っています!」

父親が微笑んだ。

「誇らしそうだね」

シバは満面の笑みを浮かべる。

「もちろん!」

それからモニターを見る。

表情が変わった。

「あっ」

ミカイラが身を乗り出す。

「どうしたの?」

シバは指差した。

「もう最終区間だ……」


キランには、今やバロンがはっきり見えていた。

遠くの小さな姿ではない。

バイザー上の小さなマーカーでもない。

すぐ前にいる。

チャンピオンが最後のテクニカルセクションへ入ると、ヴェロシティの推進システムが輝いた。

キランも後を追う。

「マッハ、距離は?」

「縮小中です」

「どのくらい?」

「最終ストレートで競り合える程度には」

キランは笑う。

「それが聞きたかった」

次のコーナーが迫る。

バロンはイン側のラインを取った。

キランは上昇。

バロンは出口で加速。

キランは下降。

二台はほとんど並んだ状態で次の区間へ入った。

バロンが横を見る。

「悪くないぞ、新人!」

キランは笑う。

「どうも!」

「まだ後ろだけどな!」

「今、何とかしてます!」

ヴェロシティが言う。

「バロン、彼が右側から接近しています」

「分かってる」

マッハが応じる。

「ヴェロシティ、あなたのパイロットは競技中によく話しますね」

「あなたのパイロットは、どんな状況でもよく話します」

キランは眉をひそめた。

「おい!」

バロンが笑う。

「言われてるぞ!」

次のコーナーが迫る。

両機が軌道を調整した。

ヴェロシティは正確な地上ラインを維持する。

MACH-01Aは許可された空域を上昇する。

数秒間、二台はまったく異なる経路を進んだ。

そして同じ出口へ収束する。

キランが下降。

バロンが加速。

位置はほぼ同じだった。

最終ストレートが前方に現れる。

キランの胸が高鳴った。

恐怖からではない。

興奮からだった。

「マッハ!」

「はい?」

「いけるぞ!」

「可能性はあります」

「それで十分!」

二台が加速する。

横並びで。


シバが話すのをやめた。

マイクを手にして以来、初めて完全に黙った。

父親が彼女を見る。

「シバ?」

返事はない。

ミカイラがモニターへ身を寄せる。

「シバ?」

少女はテレメトリーを見つめていた。

キランとバロンがほぼ並んでいる。

フィニッシュラインが近づいていた。

シバはゆっくりマイクを下ろした。

「嘘……」

ミカイラは笑う。

「本当にやってるわ」

シバは頷いた。

「本当に……」

父親がコースを見る。

「どっちが勝ってるんだ?」

シバは息を呑んだ。

「分からない……」


最終ストレートが前方へ伸びていた。

バロンとヴェロシティが加速する。

キランとマッハも速度を合わせた。

ほんの一瞬、二台は完全に横並びになった。

キランにはバロンのヘルメットが見えた。

バロンがこちらを見る。

バイザー越しに目が合う。

チャンピオンが笑った。

キランも笑い返す。

そしてバロンが身を乗り出した。

ヴェロシティの推進出力が上昇する。

チャンピオンが前へ出始めた。

「そうはいかないよ!」

キランも加速した。

マッハのインジケーターが点滅する。

「最後の機動を実行できるだけのエネルギーが残っています」

キランはフィニッシュラインを見る。

そして垂直方向の境界。

最終ストレートでは、小さな高度変化が許可されていた。

劇的な上昇には足りない。

だが、別のことならできる。

「マッハ」

「はい?」

「もう一度ヴァイオレット・アークだ」

「ストレートで、ですか?」

「正確には違う」

キランは軌道を確認した。

最後の区間には、フィニッシュラインの手前に緩やかなカーブがある。

バロンは最適な地上ラインを走っている。

キランは浅い空中の弧を使い、そのカーブを速度を落とさずに通過できる。

マッハが計算した。

「その軌道は合法です」

「よし」

「ただし、使用可能な空間は狭くなっています」

「できる?」

「はい」

キランはニヤリとした。

「じゃあ、行こう!」

MACH-01Aが上昇した。

わずかに。

スタビライザーが推力を再配分する。

キランは緩やかなカーブへ機体を傾けた。

車椅子が滑らかな弧を描く。

そしてフィニッシュラインへ下降した。

機動は成功した。

キランが速度を上げる。

差が縮まった。

バロンが横を見る。

初めて、チャンピオンの表情に本物の驚きが浮かんだ。

そして笑った。

「冗談だろ!?」

ヴェロシティが言う。

「バロン」

「見えてる!」

「許可された最大加速が可能です」

バロンはニヤリとする。

「なら使おうじゃないか!」

ヴェロシティが一気に加速した。

MACH-01Aも加速する。

二台はフィニッシュラインへ突進した。

キランが叫ぶ。

「行けぇぇぇ!」

マッハのインジケーターが点滅する。

「最大持続推力!」

バロンが身を乗り出した。

「行くぞ、相棒!」

ヴェロシティが応じる。

「喜んで!」

フィニッシュラインが迫る。

十メートル。

五メートル。

三メートル。

一メートル。

シュゴオオオッ!

二台が通過した。

ほぼ同時に。

タイマーが止まる。

一瞬、誰も話さなかった。

キランは減速する。

バロンを見る。

バロンも彼を見る。

そして二人は管制ブースへ向き直った。

キランは息を呑む。

「マッハ?」

「はい?」

「どっちが勝った?」

一拍。

「公式タイムの確定を待っています」

キランは凝視した。

「冗談だろ」

「目視では正確に判定できないほどの僅差です」

バロンが笑った。

「これぞレースだ!」


管制ブースの中で、シバは結果画面を見つめていた。

ミカイラが身を乗り出す。

父親が二人の後ろに立つ。

計時システムが結果を処理した。

画面に表示が現れる。

プライベート・エキシビション 最終結果

第1位:バロン・テニモス/ヴェロシティ

第2位:キラン・キリアン/マッハ

タイム差:0.08秒

シバは瞬きをした。

もう一度。

ミカイラは凝視する。

「百分の八秒?」

シバはゆっくり頷いた。

「百分の八秒……」

父親が口笛を吹く。

「すごい接戦だな」

シバはマイクをつかんだ。

「結果が出ました!」

声がサーキットに響き渡る。

「勝者はバロン・テニモスとヴェロシティ!」

一拍。

「タイム差は、わずか0.08秒です!」

キランはその発表を聞いた。

フィニッシュラインを見つめる。

そしてバロン。

それからマッハ。

「0.08秒?」

「その通りです」

キランは呻いた。

「0.08秒ぉぉぉ!?」

バロンは大笑いした。

「それがレースだ!」

キランは首を振る。

「すぐそこだったのに!」

「そうだな」

「あと少しだった!」

「本当にあと少しだった」

キランはチャンピオンを見つめた。

そしてゆっくり笑い始めた。

最初は小さな笑い。

それが大きくなる。

やがて、マッハが安全な速度で管制エリアへ戻るよう注意しなければならないほど笑っていた。

「最高だった!」

マッハのインジケーターが明るくなる。

「同感です」

キランは笑う。

「負けたね」

「その通りです」

「ほんの少しの差で」

「0.08秒です」

キランはまた笑った。

「分かってる!」

マッハは少し黙った。

「悔しいですか?」

キランは考えた。

負けた。

本気で勝ちたかった。

最後の数秒間は、何よりも勝利を望んでいた。

それでも……。

「いや」

彼は笑った。

「そうでもないよ」


キランが戻ると、バロンが待っていた。

チャンピオンは満面の笑みで近づいてくる。

「さて、新人」

キランはため息をついた。

「はいはい」

バロンが手を差し出す。

キランは瞬きをした。

そして握り返した。

「いいレースだった」とバロン。

キランは笑う。

「いいレースでした」

バロンはしっかり握手した。

「本気を出させてくれたな」

キランは眉を上げる。

「本当に?」

「本当だ」

ヴェロシティのインジケーターが点灯する。

「バロンはデモンストレーションラップよりも大幅に高い性能水準で走行しました」

キランはチャンピオンを見る。

バロンは肩をすくめた。

「お前が追いついてきたからな」

マッハが言う。

「見事な走行でした、ヴェロシティ」

「あなたもです、マッハ」

「あなたのパイロットは追い抜くのが難しいですね」

「あなたのパイロットは予測するのが難しいですね」

キランは笑う。

「それって褒め言葉だよね?」

ヴェロシティは少し黙った。

「おおむね」

バロンが笑った。

「調子に乗るなよ。まだ学ぶことは山ほどある」

キランは頷く。

「分かってます」

「だが……」

バロンはMACH-01Aを見る。

「あのヴァイオレット・アークは?」

キランは笑う。

「なかなかよかった?」

バロンは首を振る。

「なかなかどころじゃない」

キランは瞬きをした。

「本当に?」

「ルールを守りながら、自分の機体の強みを生かす方法を見つけた」

彼はコースを指差す。

「それが優れたレーサーのやることだ」

キランはMACH-01Aを見る。

朝日を浴びて、紫色の装甲が輝いていた。

長年、彼にとってこの車椅子は主に自立と移動、そして身を守るためのものだった。

これがあるから教壇に立てる。

移動できる。

戦える。

人を助けられる。

だが今日、この車椅子は思いがけないものを与えてくれた。

競争するという、純粋な楽しさ。

そして、そのために別人になる必要などなかった。

彼は自分自身としてレースをした。

自分のマシンで。

自分のやり方で。

キランは笑った。

「ありがとうございます、バロン」

チャンピオンは頷いた。

「いつでもな」

そこへシバが現れた。

クリップボードを持って。

キランの笑みが消えた。

「ああ、嫌な予感がする」

シバは彼の前で止まった。

「先生」

キランは凝視する。

「お願いだから」

「最終評価が終わりました」

「だろうね」

彼女はクリップボードを裏返した。

最終評価:A−

キランは瞬きをした。

「Aマイナス?」

シバは厳かに頷く。

「おめでとうございます」

キランは評価を見る。

そして彼女。

「Aマイナス?」

「はい」

「あれだけ頑張ったのに?」

「はい」

「バロン・テニモスに勝ちかけたんだよ!」

「でも勝ってません」

キランは口を開いた。

閉じた。

バロンが顔をそむける。

肩が震えていた。

キランは指差す。

「笑ってますよね」

バロンは必死に答える。

「笑ってない」

「絶対笑ってる!」

シバはクリップボードを軽く叩いた。

「Aは勝者だけに与えられます」

キランは凝視する。

「そんな採点基準、理不尽だよ!」

彼女は笑う。

「競技の世界へようこそ」

マッハが応じる。

「彼女の採点基準は、明示された目標と一致しています」

キランは下を見る。

「君は僕の味方のはずだろ!」

「私は学問的誠実さの味方です」

ミカイラが吹き出した。

キランは顔を覆う。

「信じられない……」

シバはバロンを見る。

そして少しためらった。

「あの……」

バロンが気づく。

「どうした?」

彼女はノートを差し出した。

「これに……」

声が小さくなる。

「……サインしてもらえますか?」

バロンは笑った。

「もちろん」

シバが固まる。

バロンはノートを受け取った。

表紙にサインする。

そしてヴェロシティへ渡した。

Ventはサインの隣にデジタル認証マークを追加した。

シバは凝視する。

口が開く。

だが声が出ない。

キランはミカイラへ身を寄せた。

「なるほど。あの子を黙らせる方法があったんだ」

ミカイラは笑う。

「今のうちに楽しんでおきなさい」

シバが顔を上げる。

「本当にありがとうございますぅぅぅ!」

キランはため息をつく。

「四秒しか持たなかった」


その後、一行は中央管制棟の近くに集まった。

レーシングマシンの電源は落とされている。

技術者たちはサーキットの片づけを始めていた。

シバは父親の隣に座り、新しくサインされたノートを、古代の宝物でも調べるように眺めていた。

ミカイラはキランの隣に立つ。

バロンはヴェロシティに寄りかかっていた。

「それで」とチャンピオン。

キランが顔を上げる。

「それで?」

「次はいつ来る?」

キランは瞬きをした。

「次?」

「レースだよ」

キランは笑った。

「ああ、無理です」

バロンが眉を上げる。

「無理?」

「絶対に」

「本当に?」

「ええ」

バロンは腕を組む。

「才能はあるぞ」

キランは笑う。

「ありがとうございます」

「本気で言ってる」

「分かってます」

「きちんと訓練すれば、正式なVRFレーサーになれるかもしれない」

キランはコースを見る。

一瞬、想像した。

スタートランプ。

推進システムの轟音。

プロレーサーと競い合う興奮。

難しいコーナーで完璧なラインを見つける満足感。

それから教室のことを考えた。

生徒たち。

本。

コックピットの外にある自分の生活。

彼は笑った。

「誘ってくれてありがとうございます」

バロンは待った。

「でも、僕にはもう大好きな仕事があります」

「教師か?」

「教師です」

キランはシバをちらりと見た。

彼女は父親にサインを見せていた。

おそらく七回目くらいだ。

「それに、生徒たちの相手だけでも十分大変ですから」

バロンが笑う。

「それはそうだな」

「僕を頼ってくれる人たちもいます」

キランはミカイラを見る。

彼女は微笑んだ。

「それに、プロレースまで予定に加えなくても、僕の人生には十分すぎるほど刺激があります」

マッハが言う。

「的確な評価です」

キランは頷く。

「ほらね」

「ただし、最近のあなたの行動を見る限り、十分な刺激という言葉の定義は非常に柔軟なようですが」

キランはため息をつく。

「ありがとう、マッハ」

バロンは笑った。

「まあ、誘いはいつでも有効だ」

キランは頷く。

「いつか、もしかしたら」

「またレースするか?」

キランは考えた。

「また友達同士のレースなら」

バロンは手を差し出した。

「約束だ」

キランは握手する。

「約束です」

ヴェロシティが言う。

「マッハと再び競う機会があれば、歓迎します」

マッハが答える。

「こちらこそ」

キランは笑う。

「ほら。Vent同士まで次の予定を立ててる」

バロンが笑う。

「相棒ってのはそういうものだ」

その瞬間、キランは昨日の混乱を思い出した。

VARK-01。

勝つことだけがすべてだと考えたマシン。

最初にフィニッシュラインを越えた。

それでも攻撃を続けた。

競争には限界があるということを理解できず、レーサーや観客を危険にさらした。

だが、今日は違った。

バロンが勝った。

キランが負けた。

それでも二人とも笑っていた。

キランはサーキットを見た。

きっと、そこが違いなのだ。

もう一度一緒にレースしたいと思ってくれる相手がいなくなったら、勝利にどれほどの価値があるだろう。


翌朝、キラン・キリアンはシトロン・アカデミーへ戻った。

普通の一日を楽しみにしていた。

平和な一日。

文学と授業中の議論、そして適度な採点作業だけで済む一日。

ロボットなし。

爆発なし。

レースなし。

プロアスリートからの突然の挑戦もなし。

ただシェイクスピアだけ。

素晴らしく予測可能なシェイクスピア。

キランは教室へ入った。

「みんな、おはよう」

生徒たちが顔を上げる。

何人かは笑った。

何人かはひそひそ話している。

キランは気づいた。

足を止める。

「どうしたの?」

誰も答えない。

キランは目を細めた。

「なんでみんな、そんな目で僕を見てるの?」

窓際の生徒が手を上げた。

キランはため息をつく。

「はい」

「キリアン先生?」

「何?」

「バロン・テニモスに勝ちかけたって本当ですか?」

キランは目を閉じた。

やっぱり。

別の生徒が手を上げる。

「先生が新しいレース技を発明したって本当ですか?」

三人目が口を開く。

「ヴァイオレット・アークっていうんですか?」

キランは目を開いた。

「どうして知ってるの?」

何人かの生徒が笑った。

一人がスマートフォンを掲げる。

画面には動画が映っていた。

MACH-01Aがコーナーを上昇する。

機体を傾ける。

下降。

加速。

動画のタイトルは——

キリアン・シャッフル2.0! 教師がVRFチャンピオンにあと一歩!

キランは凝視した。

「嫌だ」

生徒は笑う。

「何千回も再生されてますよ!」

「嫌だ」

「空飛ぶ教授って呼ばれてます!」

「絶対に嫌だ」

マッハのインジケーターが点灯する。

「動画の人気は上昇しているようです」

キランは下を見る。

「お願いだから」

別の生徒が手を上げる。

「先生、レースの仕方を教えてくれませんか?」

キランは黒板を指差した。

「いいえ。今日はシェイクスピアを勉強します」

前列の女子生徒が手を上げる。

「シェイクスピアってレースしたことありますか?」

キランは凝視する。

「ありません」

「本当に?」

「はい」

「馬に乗ったことくらいあるかも」

キランはため息をつく。

「それは同じことじゃないよ」

その時、教室の扉が開いた。

シバが入ってきた。

ヴェロシティのサイン入りキャップをかぶっている。

サイン入りノートを持っている。

そして、まさにこの瞬間を朝から待っていたかのような笑みを浮かべていた。

キランは凝視した。

「嫌だ」

シバが止まる。

「おはようございます、先生」

キランは指差した。

「やめて」

彼女はクラスへ向き直った。

「皆さん、ご注目ください!」

キランは目を閉じる。

「お願いだから……」

シバは誇らしげにノートを掲げた。

「発表があります!」

教室が静まり返った。

キランはゆっくり机に頭を伏せた。

シバは続ける。

「ご存じの方もいると思いますが、キリアン先生は最近、バロン・テニモスとのプライベートレースに参加しました!」

何人かの生徒が歓声を上げる。

「そして、その公式コーチを務めたのが私です!」

教室が沸いた。

「ええっ!?」

「マジで!?」

「シバが先生を教えたの!?」

シバは誇らしげに頷く。

「その通り!」

キランは顔を上げる。

「非公式コーチだよ」

シバは無視した。

「私の指導により、先生の評価はD+からA−まで向上しました!」

生徒たちは大笑いした。

キランは凝視する。

「シバ!」

彼女が振り返る。

「はい、生徒さん?」

笑い声がさらに大きくなる。

キランは彼女の席を指差した。

「座りなさい」

シバは笑う。

「もちろんです、先生」

彼女は席へ向かった。

だが、途中で止まる。

「あ、もう一つ」

キランは目を細めた。

「何?」

彼女はノートから一枚の紙を取り出した。

印刷された賞状だった。

それをキランの机へ置く。

キランは下を見た。

レーシング達成証明書

授与者:キラン・キリアン

クラッシュせずに競技ラップを一周完走した功績を称える

最終評価:A−

指導者:シバ先生

キランは凝視した。

長い間。

そしてゆっくり顔を上げる。

シバは可愛らしく笑った。

「どういたしまして」

マッハのインジケーターが点滅する。

「おめでとうございます、キラン」

キランは下を見る。

「余計なこと言わないで」

「この証明書をあなたの職業上の実績へ追加しますか?」

「しない」

「レーシングポートフォリオへ?」

「しない」

「教員としての履歴書へ?」

「マッハ!」

教室は笑いに包まれた。

キランは車椅子の背もたれに身を預ける。

天井を見る。

そして賞状。

最後に生徒たち。

ようやく、ため息をついた。

「分かった」

教室が少しずつ静かになる。

キランは『ハムレット』を手に取った。

「さて、僕のレーサー人生が正式に終わったことを確認できたところで……」

シバが手を上げた。

キランは指差す。

「だめ」

彼女は手を下ろした。

キランは本を開いた。

「今日は、英文学で最も有名な問いの一つについて考えます」

黒板へ向き直る。

そして書いた。

TO BE, OR NOT TO BE

生きるべきか、死ぬべきか。

キランはクラスへ向き直った。

「ハムレットが何に悩んでいるのか、分かる人は?」

後ろの席の男子生徒が手を上げた。

キランは頷く。

「はい」

少年は笑った。

「レースするべきか、しないべきか?」

教室が爆笑した。

キランは本を閉じた。

とてもゆっくり。

マッハのインジケーターが点灯する。

「興味深い再解釈ですね」

キランは天井を見つめた。

「もう決めた」

彼はクラスを見る。

「引退する」

シバが手を上げた。

「レースからですか? 教師からですか?」

キランは止まった。

そしてため息をつく。

「今のところ……」

教室を見回す。

「両方考えてる」

生徒たちが笑った。

ミカイラからのメッセージがバイザーに表示された。

ミカイラ:学校に戻った初日はどう、ホットロッド?

キランはメッセージを見る。

そして笑っている生徒たち。

さらに、隣の女子生徒へサイン入りノートを誇らしげに見せているシバ。

彼は思わず笑った。

そして返信を打つ。

キラン:もう一度バロンとレースした方がマシかもしれない。

マッハがメッセージを読み取った。

「彼に連絡しましょうか?」

キランの笑みが消える。

「やめて!」

教室がもう一度笑いに包まれた。

その笑い声と、からかいと、シトロン・アカデミーの日常的な騒ぎの中で、キラン・キリアンは心から感謝していた。

レースは終わった。

チャンピオンが勝った。

新人は何かを学んだ。

そして人生は、ようやく日常へ戻りつつあった。

少なくとも……。

キラン・キリアンの教室で、日常と呼べるものへ。

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