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現在の本命

キランは一時間目が始まってから二十分ほど経った頃、少し恥ずかしい事実に気づいた。

自分はVentレースについて、ほとんど何も知らない。

まったく何も知らないわけではない。

さすがにそれは言いすぎだ。

Vent Racing Federationが何なのかは知っている。

基本的なルールも知っている。

マシンが速いことも知っている。

そしてパイロットたちは、とてつもなく優秀なのか、それとも全員揃って重力を「法則」ではなく「提案」程度にしか考えていないのか、そのどちらかだということも知っている。

だが、それ以上となると——

あまり知らない。

特に、現在の競技事情については。

生徒たちが課題に取り組んでいる間、キランは机の間をゆっくりと進んでいた。

イヤーピースを通じて、マッハが彼にだけ聞こえる声で話しかける。

「集中力が散漫になっているようですが」

「授業中だよ」

「時計を七回確認しました」

「時間を確認してるだけ」

「それに、『VRF 現役レーサー』を二回検索しています」

キランが止まった。

「僕を監視してるの?」

「私はあなたの椅子の中に常駐しています」

「質問の答えになってない」

「大半の意味では答えになっています」

キランは教室を見回した。

生徒たちはまだ課題に取り組んでいる。

少なくとも、取り組んでいるふりはしている。

クリストファーは、まるでプリントと交渉でもしているかのような顔で紙を睨んでいた。

キランは教室の前へ戻る。

「分かったよ。認める」

「何をです?」

「今のレース事情なんて全然知らない」

「まったく知らないわけではありません」

「じゃあ、今のチャンピオンは誰?」

マッハが一瞬黙る。

「私が答えても?」

「ダメ」

「では、なぜ質問したのです?」

「僕が知らないって証明するため」

「奇妙な証明方法ですね」

キランは教卓へ戻った。

「最後に覚えてるレーサーはウィリアム・タフトだよ」

マッハが黙った。

今度は少し長かった。

キランが眉をひそめる。

「何?」

「ウィリアム・タフト?」

「そう」

「そしてストライプス?」

「そう、それ」

また沈黙。

「キラン」

「何?」

「彼らが引退したのは二十年前です」

キランは正面を見つめた。

「知ってたよ」

「いいえ、知りませんでした」

「君に言われる三秒くらい前には知ってた」

「それを『知っていた』とは言いません」

キランは背もたれに寄りかかる。

「タフトはすごく有名だったんだぞ」

「二十年前は」

「どこにでも出てた」

「二十年前は」

「ストライプスだって、みんな知ってた」

「二十年前は」

キランは目を細める。

「楽しんでる?」

「非常に」

ベルが鳴った。

授業中には見せなかったほどの情熱で、生徒たちが一斉に荷物をまとめ始める。

「忘れないように」

キランが声を上げた。

「明日までに八十四ページから九十ページまで」

教室全体からうめき声が上がった。

一人の生徒がドアのところで止まる。

「キリアン先生、シェイクスピアを強制的に読ませるのってジュネーブ条約違反じゃないんですか?」

「違う」

「本当に?」

「確認済み」

生徒はため息をつき、廊下へ消えた。

数秒後、教室は空になった。

キランはMACH-01Aへ視線を落とす。

「よし」

「よし?」

「僕に教えて」

マッハの声が少し嬉しそうに聞こえた。

「何についてでしょう?」

「VRF」

「ああ」

「そんなに嬉しそうにするな」

「二十年分の無知を一度に訂正する許可をいただく機会は滅多にありませんので」

キランはコンピューターを開いた。

「まだ君のソフトウェア更新をキャンセルできるからな」

「できません」

キランが止まる。

「……ギア?」

「ギアです」

「裏切り者」

ブラウザを開く。

次の授業まで数分ある。

十分な時間だ。

そう思っていた。

キランは一番分かりやすいところから始めた。

VENT RACING FEDERATION 最新ランキング

検索結果がすぐに表示される。

名前。

チーム。

成績。

レース結果。

チャンピオンシップ順位。

マシンの仕様。

キランは画面を見つめた。

「へえ」

「何か?」

「僕が覚えてる頃よりチームがかなり増えてる」

「タフトとストライプスの時代以降、VRFは大幅に規模を拡大しています」

「『時代』って言うのやめて。すごく年寄りになった気がする」

「二十年前に引退した選手を例に挙げたのはあなたです」

「年寄りじゃない。情報に疎いだけ」

「重要な違いですね」

キランはスクロールした。

何度も出てくる名前がある。

若手ドライバー。

ベテラン。

元チャンピオン。

急成長中の新星。

その中で、特に頻繁に目に入る名前があった。

バロン・テニモス

キランの指が止まる。

「この人、やたら出てくるな」

「バロン・テニモス」

写真には、レーシングスーツ姿の自信に満ちた男と、その隣に停まる洗練されたレーシングVentが写っていた。

そのマシンはMACH-01Aとはまるで違う。

細い。

滑らか。

すべての表面が空力効率だけを追求して設計されたように見える。

その横には名前が大きく表示されていた。

VENT:ヴェロシティ

キランは頷く。

「ヴェロシティか」

「適切な名称です」

「ちょっと分かりやすすぎない?」

「あなたのVentはマッハという名前ですが」

キランは下を見る。

「……それはそうだな」

マッハは公開されているプロフィール情報を読み進める。

「テニモスはVRFの経験豊富なベテランです。主要レースで複数回優勝。チャンピオンシップでも安定して上位に入り続けています。特にテクニカルコースで高い成績を残しています」

「シトロンにも出る?」

「はい」

キランはシトロン・レースウェイのイベントページを開いた。

そこにいた。

バロン・テニモス&ヴェロシティ

目立つ位置に大きく掲載されている。

キランは口笛を吹いた。

「ミカイラ、かなり大きなイベントのチケット取ったんだな」

「そのようですね」

別の記事では、すでに優勝予想まで出ていた。

本命はテニモス。

圧倒的というほどではない。

だが、明確な優勝候補だった。

豊富な経験。

信頼性の高いVent。

優れた戦績。

大舞台での強さ。

キランは短い映像を再生した。

テニモスとヴェロシティが、キランが思わず画面に向かって体を傾けてしまうほどの速度でコーナーへ突入する。

ヴェロシティが機体を旋回させる。

テニモスもそれに合わせる。

別のレーサーから数センチしか離れていないように見える距離を抜け、そのままコーナー出口から一気に加速した。

キランは瞬きをした。

「……なるほど」

「感心しましたか?」

「少し」

「『金のかかる空中ぐるぐる競争』からは大きな進歩ですね」

「少しって言っただろ」

次のクラスの生徒たちが教室へ入ってきた。

キランはページを最小化する。

「教科書出して」

一人の生徒が彼を見る。

「まだ来たばっかりなんですけど」

「なのにもう学び始めてる。素晴らしいね」

うめき声が上がった。

調査は一旦中断。

二時間目と三時間目の間に再開した。

昼休みにも。

コピー機が印刷を終えるまでの三分間にも。

やがてマッハが言った。

「興味がないと主張しているものにしては、かなり熱心に調べていますね」

「イベントに行くんだから、何を見てるのかくらい知っておきたいんだよ」

「もちろんです」

「その言い方は何?」

「何も」

「絶対何か意味あっただろ」

「何も言っていません」

「そういうの上手くなってきたな」

最後の授業準備時間になる頃には、キランも現代のVentレースについて、それなりの知識を身につけていた。

主要チーム。

現在のランキング。

有名なドライバーたち。

そしてシトロン・レースウェイでは、バロン・テニモスとヴェロシティが優勝候補であること。

現在のルールについても、ミカイラへ三十秒ごとに質問しなくてもレースを観戦できる程度には理解した。

目的達成。

キランはブラウザを閉じようとした。

その時だった。

シトロン・レースウェイのイベントページ下部に、今まであまり気に留めていなかった項目があった。

VRF特別プレゼンテーション

キランの手が止まる。

「マッハ」

「はい?」

「これ見た?」

「あなたのシステム上に表示されているものはすべて確認できます」

「自慢するな」

キランはページを開いた。

そこに書かれている情報は、苛立つほど曖昧だった。

VRFによれば、シトロンでのイベントは予定されているレースだけでは終わらない。

特別なプレゼンテーションも行われる。

技術に関する発表。

キランは画面へ身を寄せた。

「何を発表するんだ?」

「記載されていません」

「メーカーは?」

「記載なし」

「新型レーシングVent?」

「確認できません」

「新しい推進システム?」

「確認できません」

「操縦インターフェース?」

「確認できません」

「じゃあ何が書いてあるんだよ」

「ほとんど何も」

キランはスクロールした。

発表文には、重要そうに聞こえるくせに、実際には何一つ明かさない言葉が並んでいた。

重大な進歩。

競技Ventレースにおける新たな発展。

スポーツの未来に影響を与えることが期待される技術。

詳細はシトロン・レースウェイで行われるライブプレゼンテーションまで非公開。

キランの興味が一瞬で変わった。

レースの成績など、もう頭から消えていた。

テニモスも消えた。

ヴェロシティも消えた。

チャンピオンシップ順位さえどうでもよくなった。

「……なるほど」

マッハはその声色を聞き逃さなかった。

「興味が大幅に上昇しましたね」

「かなり」

「確認しました」

キランは新しい検索を始めた。

VRF シトロン 秘密の新技術

検索結果が表示される。

ほとんどが憶測だった。

検索条件を変える。

VRF 新技術 シトロン・レースウェイ

さらに多くの憶測。

レース専門メディアによる噂。

ファンによる予想。

推進技術だと主張する者。

新型の安全技術だと予想する者。

パイロットなしで動作可能なVentを開発したのだと言い張る者までいる。

実験的なエネルギーシステムだという説もあった。

キランは眉をひそめた。

「誰も知らないんだ」

「『秘密』という言葉には、通常そのような意味があります」

「ありがとう、マッハ」

「どういたしまして」

キランは検索を続けた。

仕様書はない。

該当しそうな特許発表も見つからない。

名乗りを上げているメーカーもない。

確かな情報は何一つない。

だからこそ余計に知りたくなった。

「推進システムの革新かも」

「可能性はあります」

「適応型スタビライザー」

「可能性はあります」

「新しいパイロットとVentの接続インターフェース」

「可能性はあります」

「実験的なフレーム構造」

「可能性はあります」

キランが止まる。

「君の予想は?」

「複数あります」

「それで?」

「証拠不足です」

「証拠不足くらいで僕たちが予想をやめたことあった?」

「あなたが肺炎から療養を始め、私が平穏な生活の素晴らしさを知ってからです」

キランは笑った。

再び発表ページへ戻る。

数秒間、ただ画面を見つめた。

そして——

「これ、見たいな」

「レースよりも?」

「圧倒的にこっち」

「興味深いですね」

「だって、初公開の秘密の新技術だぞ?」

キランは画面を指差した。

「こんなの、ほとんど餌じゃないか」

「あなた専用の?」

「センスのある人間全員にとって」

「来場者の大半はレースを見るためにチケットを購入していると思われます」

「その人たちが間違ってる」

マッハが一拍置いた。

「数時間前まで、あなたはレースを『空をぐるぐる飛ぶだけ』と表現していました」

「人は変わるんだよ」

「一日の授業時間内で変わるとは驚きです」

キランは背もたれに寄りかかった。

今は本当にイベントへ行きたかった。

最初に行くと答えた理由がミカイラだったことは変わらない。

だが今は——

シトロン・レースウェイに、キラン自身が見たいものも待っている。

新しい何か。

技術的な何か。

VRFがイベント当日まで秘密にするほど重要だと考えている何か。

キランは微笑んだ。

「ミカイラ、これについて何も言ってなかったな」

「知らない可能性もあります」

「かもね」

「あるいは、謎のVent技術について教えれば、あなたがまさに今のような行動を取ると正確に予測していたのかもしれません」

キランは自分が開いた大量のタブを見る。

記事。

噂。

VRFの発表。

技術予想。

レーサーのプロフィール。

そして、二十年前のウィリアム・タフトとストライプスを振り返る記事が一つ。

キランはゆっくりといくつか閉じた。

「……それもあり得る」

ベルが鳴った。

キランはドアを見る。

次の生徒たちが教室へ入り始める。

ブラウザを閉じた。

「よし。レースの調査は後で」

「ドクター・ラクソンから参加許可が出れば、ですが」

キランの笑顔が消えた。

「なんで思い出させるの?」

「誰かが思い出させる必要があるようですので」

キランはため息をついた。

そしてクラスへ向き直る。

「こんにちは」

疲れ切った挨拶が返ってくる。

キランは本を手に取った。

だが、頭の中は別のことでいっぱいだった。

バロン・テニモスではない。

ヴェロシティでもない。

レースそのものですらない。

頭から離れないのは、VRFの発表に書かれていた、慎重に選ばれたわずかな言葉だった。

秘密の革新。

新たな進歩。

Ventレースの未来。

もともとキランが行くと決めたのは、ミカイラが一緒に行きたがっていたからだった。

だが今は?

キランとマッハにも、もう一つ行く理由ができた。

そして二人にとっては、誰が最初にゴールラインを越えるかなど、もう大した問題ではなかった。

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