移送ハブ7
午後10時47分。
指揮車のメインモニターに、移送ハブ7の姿が映し出された。
キランは画面を見つめた。
そして、瞬きをした。
「……これ?」
刑事が振り向く。
「何を期待してたんです?」
「いや、分かんないけど」
キランはドローンの映像をもう一度確認した。
「もっと悪そうな建物とか」
マッハが即座に反応する。
「建築学的に邪悪な建物の定義をお願いします」
「黒い壁。トゲ。あと堀とか」
「堀は運用効率が悪いと思われます」
「雰囲気が出るだろ」
だが、移送ハブ7には雰囲気などというものがまるでなかった。
それこそが問題だった。
そこはシトロン・シティ郊外にある古い物流施設で、梱包倉庫と配送センターの間に挟まれていた。
二階建て。
平らな屋根。
色あせたコンクリート。
六つの搬入口。
建物の正面には小さな事務所区画があり、周囲にはフェンスで囲まれた駐車場が広がっている。
施設名を示す看板すらない。
退屈で、何の変哲もなく、記憶にも残らない建物だった。
毎日その前を車で通り過ぎても、中で何が行われているのか疑問に思う人間などいないだろう。
キランの冗談めいた表情が消えた。
「……やっぱり」
刑事が横目で見る。
「何です?」
「堀があった方がよかったかも」
誰も理由を尋ねなかった。
尋ねる必要がなかったからだ。
周辺の工業地帯には、すでに複数の警察部隊が配置されていた。
目立たない程度に距離を保ち、私服警官たちは駐車した車両の中で待機している。
上空では二機のドローンが監視を続け、追加部隊は数本離れた道路で待機していた。
救急隊も近くに配置されている。
準備はすべて整っていた。
子供たちを除いては。
マッハが接近中の車両を表示する。
対象B――灰色のバン
到着予想:18分後
続いて——
対象D――白いバン/優先移送
到着予想:2分後
キランは二つ目の表示を凝視した。
「頼むぞ……」
白いバンがドローン映像の端に現れた。
減速する。
曲がる。
移送ハブ7へ接近する。
誰も動かなかった。
キランの耳には、周囲の警察無線が聞こえていた。
短く、抑制された声。
「対象、敷地内へ進入」
「視認確認」
「各員、待機」
「誰も動くな」
正門が開いた。
白いバンが敷地へ入る。
門が閉まった。
キランの指がMACH-01Aの操作部を強く握り締める。
バンは建物の側面へ回り込み、第四搬入口で停止した。
建物から二人が出てくる。
そのうちの一人が後部ドアを開けた。
キランは身を乗り出す。
「中が見える?」
「ドローンの角度を調整します」
映像が切り替わる。
一瞬、何も見えなかった。
そして——
子供。
キランの動きが止まった。
行方不明だった生徒が、バンから降ろされていた。
生きている。
自分の足で歩いている。
かろうじて、だが。
両手首は身体の前で拘束されているようだった。
左右から大人に腕を掴まれている。
子供がよろめいた。
誰かが乱暴に引き起こす。
キランの声が低くなった。
「見つけた」
「映像による確認が取れました。行方不明の生徒との一致率は96.4%です」
刑事が無線機を持ち上げた。
しかし、そこで手を止めた。
キランが見る。
「何してるの?」
「待ってるんです」
「は?」
刑事は無線機を下ろした。
「三人目がまだ到着していない」
キランは目を見開く。
「一人は目の前にいるだろ!」
「分かってます」
「だったら行って!」
「ダメです」
子供が第四搬入口の奥へ消えていった。
キランはMACH-01Aをわずかに前進させた。
「刑事さん」
「今ここを襲撃すれば、まだ施設の外にいる連中へ警告することになります」
「灰色のバンが——」
「引き返す」
キランはマーカーを見る。
まだ十七分。
「その子を失うかもしれない」
「そうです」
「今ここにいる子だって失うかもしれない!」
「そうです」
キランは、その落ち着き払った声がたまらなく嫌だった。
「ここに座って見てろって?」
「全員にそうしてもらいます」
キランは指揮車の中を見渡した。
満足そうな人間など一人もいなかった。
安心している人間もいない。
刑事が冷静なのは、子供たちのことなどどうでもいいからではなかった。
誰かが冷静でいなければならないからだ。
キランは再び搬入口を見る。
シャッターはすでに閉まっていた。
マッハが静かに言う。
「現時点で介入した場合、対象Bが予定経路から離脱する確率は大幅に上昇します」
「分かってる」
「施設内の子供は現在、移動を停止しています」
「追跡できる?」
「完全には。熱画像では、西側区画を移動する複数の人物を確認しています」
キランは息を吸った。
そして吐いた。
「……待とう」
刑事が彼を見る。
キランは、その言葉を口にすること自体が嫌だった。
それでも言った。
「待つしかない」
刑事が頷く。
「賢明です」
「褒めないで」
「褒めるつもりはありませんでした」
「ならいい」
「心の中では褒めてましたが」
キランが睨む。
マッハが言う。
「私も賛成です」
「二人とも聞いてないから」
彼らは待った。
四分後。
別の車両が到着した。
黒い高級セダンだった。
キランは眉をひそめる。
「あれは違うな」
「はい」
セダンが門を通過する。
三人が降りてきた。
いずれも、先ほどのバンに乗っていた連中とは服装が違っていた。
戦闘服でもない。
制服でもない。
高価そうなコート。
ビジネススーツ。
一人は金属製のケースを持っていた。
情報提供者が勢いよく立ち上がり、隣の警察官が反応した。
「座ってください」
「あいつらが来た」
キランが振り向く。
「誰?」
「誰なのかは知らない」
「非常に参考になる情報だね」
「会ったことがないって意味だ!」
情報提供者は画面を指差す。
「でも、あいつらは回収チームじゃない」
刑事が近づく。
「なぜ分かる?」
「回収チームはあんな格好をしない。それに、候補者が到着してから別々に来ることもない」
キランは三人の見知らぬ人物が側面の扉から建物へ入っていくのを見つめた。
「じゃあ誰?」
情報提供者は画面から目を離さなかった。
「次の段階の連中だ」
沈黙。
キランは建物へ視線を戻す。
供給ルート。
学校で弱い立場にある子供を見つける。
記録を書き換える。
偽の保護者が連れ出す。
倉庫で拘束し、検査する。
そして、この施設では——
別の誰かへ引き渡す。
「受け取り側か」
情報提供者がゆっくり頷く。
「おそらく」
刑事はすぐに無線機を使った。
「今到着した三名の画像を確保しろ。車両、ナンバー、顔。まだ接触するな」
マッハが付け加える。
「利用可能な映像はすべて記録しています」
キランは見知らぬ人物が持っていた金属ケースを見る。
「あの中、何だと思う?」
「情報不足です」
「金?」
「可能性はあります」
「医療機器?」
「可能性はあります」
「何か恐ろしいもの?」
「統計的に曖昧な表現です」
キランは眉をひそめる。
「つまんない奴」
「そのとおりです」
時間が恐ろしくゆっくり流れた。
灰色のバンは施設へ近づき続ける。
十四分。
十二分。
九分。
移送ハブ7の内部では、最初の子供が依然として建物の西側にいると推定されていた。
新しく到着した三人も中にいる。
そして、灰色のバンが到着まで六分という地点へ差しかかった時だった。
マッハが突然口を開く。
「対象Bが減速しました」
全員が画面を見る。
灰色のバンは工業地帯へ続く道路を走っていた。
速度が落ちる。
時速約64キロ。
56キロ。
45キロ。
刑事が無線機を掴む。
「状況を報告しろ」
声が返ってくる。
「対象が減速中。前方に交通障害なし」
キランの胃が締めつけられる。
「何かに気づいた?」
「不明です」
バンが交差点へ近づく。
方向指示器が点滅した。
情報提供者が画面を凝視する。
「違う……」
「何?」
「あれは予定のルートじゃない!」
バンが曲がった。
移送ハブ7とは反対方向へ。
刑事が悪態をついた。
「監視に気づかれた!」
「必ずしもそうとは限りません。ただし、対象Bが回収した移送経路から逸脱したことは確かです」
「どこへ向かってる?」
「現在、北西方向です」
遠ざかっていく。
キランは施設の映像を見る。
一人は中。
もう一人は逃げようとしている。
「もういいだろ」
刑事はすでに無線機を握っていた。
「全部隊へ」
キランが振り向く。
刑事の声が変わった。
もう迷いはなかった。
「作戦開始!」
指揮車の内部が一気に慌ただしくなる。
「施設突入班、実行!」
「対象B追跡班、阻止しろ!」
「周辺部隊、道路を封鎖!」
「救急隊、待機!」
モニターの中で、工業地帯の各所に配置されていた警察車両が一斉に動き出した。
最後の瞬間まで回転灯は消されていた。
そして——
夜の街に赤と青の光が炸裂した。
灰色のバンが加速する。
「対象B、逃走開始!」
二台の覆面車両が後方から距離を詰める。
脇道からパトカーが現れた。
バンが急ハンドルを切る。
「横転させるな!」
刑事が命じた。
同時に、移送ハブ7では警察官たちが正面入口を突破していた。
別の部隊が搬入口へ突入する。
「警察だ!」
キランの耳に、ボディカメラからの怒号が響く。
「捜索令状だ! 両手を見える位置に!」
建物の中で人々が散り散りになる。
回収チームの一人が即座に床へ伏せた。
別の一人は逃走。
第二搬入口付近で警察官に取り押さえられた。
新しく到着した三人の姿は見えなくなった。
キランは反射的に操作部を動かした。
MACH-01Aが指揮車の出口へ向かう。
マッハが口を開く。
「キラン」
止まった。
「やめてください」
「……」
「ここに残ると約束しました」
「分かってる」
「呼吸数が上昇しています」
「分かってる」
「戦闘システムは依然としてロックされています」
「分かってる」
「追跡しないと約束しました」
キランは建物へ突入する警察官たちを見つめた。
身体中の神経が、後を追えと叫んでいた。
「マッハ」
「はい?」
「これ、大嫌いだ」
「分かっています」
キランはその場に留まった。
そして、モニターへ向き直る。
「……分かったよ」
MACH-01Aをワークステーションへ移動させる。
「ここにいるなら、全部見せて」
「それなら可能です」
施設の平面図が表示された。
警察官の位置。
ドローン映像。
熱反応。
確認済みの出入口。
搬入口。
事務所区画。
倉庫。
キランは図面を調べる。
「子供はどこ?」
「最終確認地点は西側処理区画です」
「一番近い警察部隊は?」
「第二班です」
「刑事さんに伝えて」
「すでに送信しました」
キランは映像を見守った。
第二班が西へ進む。
その時——
マッハが一瞬沈黙した。
「興味深いですね」
キランはすぐに振り向く。
「お前がそれを言う時、ろくなことにならない」
「施設の平面図と実測寸法が一致しません」
「何?」
マッハは建物の外寸と、市の記録から取得した内部図面を重ね合わせた。
南側に隙間が現れる。
幅は約三メートル。
搬入口の背後に沿って延びていた。
キランが身を乗り出す。
「空間が足りない」
「そのとおりです」
刑事も画面を見る。
「設備用の通路かもしれない」
「可能性はあります」
キランは隙間を見つめる。
それから車両の経路。
そして搬入口。
「……別の出口かも」
マッハがドローン映像を確認する。
何もない。
次に熱画像。
動きがあった。
建物の裏側。
「確認しました」
公式図面には存在しない場所で扉が開いた。
三人が姿を現す。
大人が一人。
もう一人。
そして——
二人の間に、小柄な人影。
キランの心臓が跳ねた。
「子供を連れて逃げてる!」
刑事がモニターへ振り向く。
プライオリティ・ワンの子供が、隠された通路から引きずり出され、隣接する建物の陰に停められた小型車両へ連れていかれていた。
警察部隊は目立つ出入口に集中している。
あそこには誰もいない。
「南側だ!」
キランが叫ぶ。
「隠し出口がある!」
刑事が無線機を掴む。
「南側警戒班! 移動しろ! 第五、第六搬入口の背後に隠し出口だ!」
大人たちが子供を車内へ押し込む。
運転席のドアが開いた。
キランは何もできずに見つめていた。
「頼む……」
警察官たちが角を曲がる。
車両のエンジンが始動する。
「頼むから!」
車が動き出す。
その時——
二台のパトカーがサービス通路へ飛び込んできた。
両方向から。
逃走車両が急ブレーキを踏む。
完全に塞がれた。
警察官たちが一斉に降りる。
「警察だ! 車から降りろ!」
大人の一人が走り出した。
約六歩。
そこで警察官に取り押さえられた。
運転手は両手を上げる。
別の警察官が後部ドアを勢いよく開けた。
キランは再び息を止めた。
今回はマッハも呼吸を促そうとはしなかった。
警察官が車内へ手を伸ばす。
そして無線が鳴った。
「子供を発見」
キランは目を閉じた。
「生存。呼びかけに反応あり」
肩から力が抜ける。
「二人……」
マッハが訂正した。
「三人です」
キランが目を開く。
「え?」
同時に、刑事の無線が激しく鳴った。
「対象B、停止させました! 乗員を拘束!」
別の声が続く。
「後部区画で子供を発見!」
灰色のバン。
キランはその映像を凝視する。
車両は交差点の中央に斜めに停止していた。
周囲を警察官が取り囲んでいる。
救急隊員もすでに近づいていた。
後部ドアが開く。
また一人、怯えた子供が姿を現した。
生きている。
三人全員。
数秒間、キランは何も言えなかった。
言葉が出てこなかった。
黒いバンから救出された一人目。
灰色のバンから救出された二人目。
そして移送ハブ7から救出された三人目。
改ざんされた記録の中へ消えていった三人の生徒。
名前を奪われ、番号に変えられるはずだった三人。
在庫。
荷物。
その三人全員が生きていた。
マッハが静かに言う。
「シトロン・アカデミーの行方不明生徒、全員の所在を確認しました」
キランはMACH-01Aの背もたれに身体を預けた。
「もう一回言って」
「行方不明だった三名全員が生存し、警察によって保護されています」
キランは笑った。
大笑いではない。
冗談でもない。
ただ、安堵した。
「もう一回」
マッハは少し間を置いた。
そして、おそらくキランがなぜ繰り返しを求めているのか理解したのだろう。
「子供たち三人は、全員無事です」
キランは目を閉じた。
「……よかった」
突入作戦は続いていた。
警察は部屋を一つずつ制圧していく。
複数の容疑者が拘束された。
受け取り側の三人は、書類を破棄しようとしていた事務室で発見された。
金属ケースの中身は、暗号化された記憶装置だった。
堀はなかった。
邪悪な要塞もなかった。
あったのは書類。
コンピューター。
医療用品。
そして、子供たちの名前を使わなくなれば、彼らを在庫として扱っても構わないと思い込んだ人間たち。
刑事がようやく椅子へ腰を下ろした。
「もう息をしていいですよ」
キランが見る。
「マッハが今夜ずっと同じこと言ってる」
「賢いAIですね」
「調子に乗らせないで」
「刑事からの評価に感謝します」
「手遅れか……」
指揮車の反対側では、情報提供者が黙り込んでいた。
警察官が隣に立っている。
まだ手錠はかけられていない。
今のところは。
情報提供者は、救急隊員が救出された子供たちを診察する映像を見つめていた。
「……俺がやったんだ」
キランが振り向く。
情報提供者は続ける。
「あの子たちの名前を、リストに載せた」
誰も口を挟まなかった。
「ただの事務作業だって、自分に言い聞かせてた」
声がさらに小さくなる。
「支援対象の適格性審査。家庭環境の不安定さ。福祉サービス。連中はそう呼んでた」
情報提供者は自分の両手を見る。
「認める前から、何かがおかしいって分かってたんだ」
キランは答えなかった。
「もっと早く止められたはずなのに」
「そうかもな」
情報提供者が顔を上げる。
「そうかも?」
「簡単に済ませるつもりはないよ」
苦々しい笑いが漏れた。
「……だよな」
「お前は、あの子たちを選ぶのを手伝った」
「分かってる」
「子供を連れ去りやすくするための情報を、あいつらに渡した」
「分かってる」
「それから、僕に警告した」
情報提供者は唾を飲み込む。
「遅すぎた」
「間に合わなかったこともある」
その視線が再び画面へ向く。
「これで償えたと思うか?」
キランには、相手が何を求めているのか正確に分かった。
許し。
最後に良いことをしたのだから、それ以前のすべてが帳消しになったと信じるための言葉。
だが、そんなものを与えるつもりはなかった。
「いや」
情報提供者の表情が沈んだ。
キランは、その答えをすぐには取り消さなかった。
そして続けた。
「でも、意味はあった」
情報提供者が彼を見る。
「お前がやったことは消えない」
キランはモニターへ顎を向けた。
「でも、最終的に何かしようと決めたから、あの子たちは生きてる」
沈黙。
「その二つは、どっちも本当だ」
情報提供者は長い間、子供たちの映像を見つめていた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
近くの警察官が警戒した。
情報提供者は逃げなかった。
抵抗もしなかった。
言い訳もしなかった。
代わりに刑事へ向き直った。
「全部話す」
刑事は相手を見つめる。
「全部?」
「名前。事務所。内部システム。俺が報告していた相手。覚えている候補者リストは全部」
少し間を置く。
「それから、証言もする」
刑事が頷く。
「詳しく話を聞かせてもらいます」
情報提供者は両手を差し出した。
警察官が刑事を見る。
刑事が頷くと、警察官は静かに手錠をかけた。
抵抗はなかった。
情報提供者は最後にもう一度、キランを見た。
「キリアン先生」
キランが振り向く。
「ありがとう」
キランは首を振った。
「あの子たちが話を聞けるようになったら、本人たちに言ってやって」
情報提供者は頷いた。
警察官に付き添われ、指揮車から出ていく。
キランは扉が閉まるまで見送った。
マッハは数秒間、何も言わなかった。
そして——
「キラン」
「何?」
「酸素飽和度が改善しています」
キランは画面を見つめた。
「それがお前なりの感動的なコメント?」
「喜んでいただける情報だと思いました」
「まあ、そうだけど」
新しい映像が表示された。
救出された三人の子供たちは、それぞれ医療検査を受けるために搬送されていた。
警察車両が付き添っている。
家族への連絡も進んでいた。
その背後では、移送ハブ7の組織が崩壊しつつあった。
証拠品の箱が運び出される。
容疑者が警察車両へ乗せられる。
コンピューターが押収される。
鑑識班が建物へ入っていく。
キランは施設を見つめた。
すべては、一通の警告から始まった。
放課後、学校に残るな。
それから——
あいつらに返事をするな。
そして、怯えた生徒が訴えた。
お願いです。家に帰さないで。
すべてが、この場所へ繋がっていた。
スーパーヒーロー同士の戦いではなかった。
プラズマキャノンも使わなかった。
MACH-01Aで空を切り裂くこともなかった。
今夜、キランは一発も撃っていない。
拳を振るってすらいない。
飛ぶことさえ許されなかった。
彼がしたのは、警察の指揮車に座ることだった。
モニターを見る。
情報を共有する。
他の人間を信頼する。
そして、そのおかげで三人の子供たちが家へ帰れることになった。
キランは小さく微笑んだ。
マッハが気づく。
「何か面白いことでも?」
「いや」
「では、なぜ笑っているのですか?」
キランは、生徒の一人を乗せた救急車が道路の向こうへ消えていくのを見つめた。
「ちょっと考え事」
「過去の事例から判断すると危険ですね」
「うるさい」
「了解しました」
キランは救急車が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送った。
そして、ようやく口にすることができた。
「みんな無事なんだな」
マッハの声が優しくなる。
「はい」
今度こそ——
キランは、その言葉を信じることができた。




