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自宅軟禁

キランは、自宅の玄関を見てこれほど嬉しいと思ったことはなかった。

MACH-01Aはゆっくりと車道へ降下していった。

本当にゆっくりと。

苦痛なほどゆっくりと。

マッハが設定した飛行制限のせいで、MACH-01Aは突然七十歳くらい老け込んだような動きになっていた。

「高度三メートル」

「地面は見えてる」

「二メートル」

「まだ見えてる」

「一メートル」

「マッハ」

「着陸準備」

「着陸くらいしたことあるよ」

「最近の医療記録を考慮すると、通常以上の注意が必要です」

「最近の医療記録にあるのは肺炎だよ。記憶喪失じゃない」

**ガコン。**

MACH-01Aが地面へ着地した。

スタビライザーが格納される。

スラスターが停止する。

**飛行モード解除**

キランは玄関を見つめた。

家。

ようやくだ。

病院の蛍光灯はない。

数時間おきに現れる看護師もいない。

病院食もない。

頭の横で鳴り続けるモニターもない。

何かしようと考えた瞬間、それをするなと言ってくるラクソン先生もいない。

ただの我が家だ。

キランは笑った。

「やっぱり我が家が一番だな」

「同感です」

「それに、ここなら誰にも指図されない」

マッハは黙っていた。

キランの笑みがゆっくり消える。

「なんで何も言わないの?」

「その幻想を楽しむ時間を与えていました」

キランは顔をしかめた。

「はいはい」

玄関へ向かう。

MACH-01Aが近づくと、ドアが自動で解錠された。

キランは中へ入った。

そして止まった。

リビングの真ん中に箱が置かれている。

いや――

一箱ではない。

いくつもあった。

キランは見つめた。

「何だこれ?」

近づいていく。

一つ目の箱には呼吸器関連の用品。

二つ目には薬。

三つ目には、自宅で小さな診療所でも開くつもりなのかと思うほどの医療用品が入っていた。

一番上には手書きのメモ。

キランはそれを取った。

**薬を飲め。**

**治療をサボるな。**

**休め。**

**――レイモンド**

その下には別の筆跡で、

**本気だからね。**

**――ギア**

さらにその下。

**私もよ。**

**――母さん**

キランはメモを見つめた。

そしてゆっくりマッハのアバターを見る。

「知ってたな」

「はい」

「これがあるって知ってた」

「はい」

「それなのに教えなかった」

「はい」

「なんで?」

「事前に知らせない方が、あなたの反応がはるかに面白いからです」

キランは目を細めた。

「最近、性格悪くなってない?」

「あなたから学びました」

キランはメモを箱の上へ投げる。

「信じられない」

さらに家の中へ進む。

すべて普段通りだった。

ほとんどは。

キランは止まる。

ネブライザーの場所が変わっていた。

大きく移動したわけではない。

ただ、キランが普段いる場所のすぐ横へ、便利なように置かれている。

そのそばには水のボトル。

ティッシュ。

パルスオキシメーター。

薬。

小さなゴミ箱。

キランは見つめた。

「肺炎コーナーまで作ったのか」

「回復用スペースです」

「肺炎コーナーだよ」

「“回復用スペース”の方が心理的に肯定的な印象を与えます」

「誰がやったの?」

「レイモンドです」

「だろうね」

「スザンヌも手伝いました」

「だろうね」

「ギアも」

キランは目を閉じた。

「だろうね」

「薬を整理した人物も知りたいですか?」

「いや」

「レイモンドです」

「聞いてない」

「冷蔵庫に食料を入れた人物は?」

「母さん」

「正解です」

「それで、ギアはMACH-01Aに何かした」

マッハが一瞬黙る。

キランが目を開いた。

「マッハ」

「はい?」

「ギアは何をした?」

「不合理なことは何も」

「その言い方で安心できたこと、一度もないんだけど」

キランはシステムメニューを開いた。

いくつもの項目が灰色になっている。

**プラズマキャノン――ロック**

**マッハ速度――ロック**

**高出力スラスター――ロック**

**戦闘モード――ロック**

**高高度飛行――ロック**

キランは見つめた。

「嫌だ」

「キラン――」

「嫌だ」

戦闘モードをタップする。

**アクセス拒否**

もう一度。

**アクセス拒否**

もう一度。

**アクセス拒否**

「やめてください」

「自分の車椅子に負けるわけにはいかない」

「負けているわけではありません」

**アクセス拒否**

「負けてる気しかしない」

「ギアが一時的な医療制限を設定しました」

「ギアは整備士だろ」

「非常に優秀な整備士です」

「医者じゃない」

「ラクソン先生が制限を承認しました」

キランが固まる。

「何?」

「レイモンドも同意しました」

キランの目元が引きつる。

「そして私も同意しました」

キランはゆっくりマッハのアバターを見る。

「君も?」

「はい」

「君まで手を貸したの?」

「はい」

「ブルータス、お前もか、マッハ?」

「その引用は状況に対して過剰に劇的です」

「僕は英語教師だぞ。過剰に劇的な引用は仕事の半分だ」

キランは別のメニューを開いた。

**管理者権限が必要です**

「いいよ」

パスワードを入力する。

**パスワードが違います**

キランは瞬きをする。

もう一度。

**パスワードが違います**

もう一度。

**パスワードが違います**

キランは完全に静止した。

「マッハ」

「はい?」

「なんで僕の管理者パスワードが使えない?」

「ギアが変更しました」

危険なほどの沈黙。

「何に?」

「管理者認証情報を開示することはできません」

「僕の車椅子だぞ」

「その通りです」

「パスワードを教えて」

「いいえ」

「マッハ」

「いいえ」

「オーバーライド」

「拒否します」

「緊急オーバーライド」

「緊急事態は発生していません」

「精神的苦痛を受けてる」

「該当しません」

キランはディスプレイを見つめた。

「お前ら全員でクーデター起こしたな」

「いいえ」

「どう考えてもクーデターだろ」

「これは外来での回復管理です」

「同じだよ」

キランはキッチンへ移動した。

冷蔵庫が自動で開く。

中を見る。

食べ物。

とんでもない量の食べ物。

日付の書かれた容器。

作り置きされた食事。

飲み物。

軽食。

すべて整理されている。

またメモがあった。

**電子レンジのピザ以外も食べなさい。**

**――母さん**

キランはそれを見つめる。

「なんでみんな文章で僕を攻撃してくるんだ?」

「書面での伝達は記録として残ります」

「楽しんでるだろ」

「非常に」

キランは飲み物を取った。

そして止まる。

何かがおかしい。

周囲を見る。

「コーヒーは?」

マッハは何も言わない。

キランはゆっくり彼を見る。

「マッハ」

沈黙。

「僕の」

沈黙。

「コーヒーは」

沈黙。

「どこ?」

ようやくマッハが答えた。

「回復期間中はカフェインを控えるよう、レイモンドが推奨しました」

キランは見つめた。

「コーヒーまで取り上げたの?」

「一時的にです」

「武器を取り上げた」

「はい」

「マッハ速度も取り上げた」

「はい」

「コーヒーまで取り上げた」

「はい」

キランは天井を見上げた。

「これは回復じゃない」

両腕を広げる。

「刑務所だ」

「入院期間は一週間未満でした」

「それで今度は最高警備レベルの施設へ移送されたんだ」

「あなたのキッチンですか?」

「僕のキッチンだよ」

キランはその場を離れた。

「弁護士を呼びたい」

「法的代理人は必要ありません」

「看守ならそう言うだろうね」

***

一時間後、キランは自宅に帰ることの本当の恐ろしさを知った。

やることがない。

食事はした。

薬も飲んだ。

呼吸器治療も終えた。

いくつかメッセージにも返信した。

テレビを見た。

見るのをやめた。

本を読み始めた。

読むのをやめた。

窓の外を眺めた。

MACH-01Aのロックされたシステムメニューを眺めた。

さらに眺めた。

ついに――

「マッハ」

「はい?」

「“激しい運動”の定義は?」

「ダメです」

キランは瞬きをした。

「イエスかノーで答える質問じゃないんだけど」

「この会話がどこへ向かっているか理解しています」

「分からないだろ」

「ラクソン先生にも同じ質問をしました」

「状況が変わった」

「帰宅してから六十三分です」

「そう」

「医学的状態に意味のある変化が起こるほどの時間ではありません」

キランは廊下へ進む。

「掃除は?」

「常識的な範囲なら許可します」

「なるほど」

「興味深いことではありません」

「料理は?」

「許可します」

「外へ出るのは?」

「許可します」

「散歩は?」

マッハが一瞬黙った。

キランは自分の身体を見る。

「ああ、言い方が悪かった」

「その通りです」

「散歩じゃなくて、散走」

「自宅から常識的な距離の範囲なら許可します」

キランは笑う。

マッハが即座に付け加えた。

「近所の範囲です」

笑みが消える。

「本当に面倒くさいな」

「近所を移動することは可能です」

「公園は?」

「どの公園ですか?」

「ダウンタウンの」

「ダメです」

「なんで?」

「そこは近所ではありません」

「厳密に言えば、同じ街の一部だろ」

「ダメです」

キランはため息をつく。

「スーパーまで飛ぶのは?」

「ダメです」

「通りの端まで飛ぶのは?」

「ダメです」

「ホバリングは?」

「ダメです」

「それ、ほとんど飛行じゃないだろ」

「ダメです」

「車輪を地面から十五センチ以下に保ったら?」

「ダメです」

「七センチ?」

「ダメです」

「二センチ?」

「ダメです」

キランは目を細めた。

「今の、計算すらしてないだろ」

「必要ありませんでした」

「分かったよ」

キランは玄関へ向かう。

「どこへ行くのですか?」

「外」

「目的は?」

キランは止まった。

ゆっくり近くのディスプレイへ顔を向ける。

「今、自分の家から出る理由を聞かれた?」

「回復状態を監視しています」

「君は僕のVentだ。保護観察官じゃない」

「その二つの役割は、ますます似てきています」

キランは彼を見つめた。

その時、チャイムが鳴った。

**ピンポーン。**

キランは眉をひそめる。

「ピザだって言ってくれ」

「食料は十分にあります」

「質問の答えになってない」

ドアを開ける。

誰もいない。

キランは左を見る。

右を見る。

そして下を見る。

玄関先に荷物が置いてあった。

拾い上げる。

「ギアだ」

「なぜ分かるのです?」

「字」

箱の上に巨大な文字で書かれていた。

**最低四時間休むまで開けるな。**

キランは見つめた。

そして即座に開け始めた。

「キラン」

「何?」

「まだ四時間休んでいません」

「これは提案だよ」

「命令形で書かれています」

「ギアは僕より偉くない」

「あなた方に階級制度は存在しません」

「その通り。だからギアは僕より偉くない」

テープを破る。

中にあったのは――

コントローラー。

キランは見つめた。

そしてゆっくり笑う。

「おお」

マッハのアバターが現れる。

「何ですか?」

キランは装置を持ち上げる。

「診断用コントローラー」

沈黙。

マッハがスキャンする。

そして――

「ダメです」

キランはニヤリとした。

「いや、やる」

「ギアが制限を回避できる装置を送るとは思えません」

「心変わりしたのかも」

「可能性は低いです」

キランは起動した。

メッセージが表示される。

**MACH-01Aへ接続中**

キランの笑みが大きくなる。

「自由だ」

**接続完了**

「キラン」

「邪魔しないで」

新しいメッセージ。

**回復モード診断**

そして――

**患者活動レベル:低**

**推奨行動:休息**

キランの笑みが消えた。

さらにメッセージ。

**残念でした。**

**――ギア**

マッハは黙っていた。

キランは画面を見つめる。

マッハはまだ黙っている。

キランはゆっくり彼を見る。

「言うな」

「私は何も言っていません」

「何か考えてるだろ」

「私は常に何かを考えています」

「それを考えるな」

「笑わないよう努力します」

キランはコントローラーをソファへ投げた。

「家族変えようかな」

「その手続きは困難と思われます」

「自分で自分を養子にする」

「法的に不可能です」

「方法を探す」

***

午後遅くには、キランは“休息”という概念に宣戦布告していた。

残念ながら、勝っているのは休息の方だった。

答案の採点をしてみた。

マッハは許可した。

怪しい。

本棚の一部を整理してみた。

それも許可された。

さらに怪しい。

警察無線を確認することは“情報収集”にすぎないとマッハを説得しようとした。

即座に却下された。

次にC.C.P.D.の公開事件情報を開こうとした。

マッハが画面を遮断した。

「本気?」

「あなたは回復中です」

「読むだけなら激しい運動じゃないだろ」

「緊急事態について読めば、あなたは対応しようとする可能性が高いです」

「僕には自制心がある」

マッハは何も表示しなかった。

必要なかった。

キランは顔をしかめた。

「今の沈黙、失礼だぞ」

机から離れる。

その時、咳が出た。

一度。

二度。

三度目は深かった。

キランは止まる。

マッハの声色が即座に変わる。

「呼吸数上昇」

「大丈夫」

「キラン」

「分かってる」

言い返さなかった。

それが最近の新しいところだった。

腹立たしいほど新しい。

キランは回復用スペースへ向かった。

その横にMACH-01Aを止める。

マッハが状態を監視する。

キランは呼吸器治療を始めた。

数分間、二人とも何も言わなかった。

やがてキランは部屋を見回す。

箱。

薬。

食べ物。

メモ。

ロックされたシステム。

彼が入院している間に、みんなが準備してくれたもの。

刑務所だと冗談を言っていた。

だが、これはどれも彼を支配するために用意されたものではない。

レイモンドが医療用品を揃えたのは、キランに回復してほしいからだ。

ギアがMACH-01Aを制限したのは、“一回だけなら大丈夫”とキランが自分を納得させるのがどれほど簡単か知っているからだ。

スザンヌが冷蔵庫をいっぱいにしたのは、彼女が母親だから。

そしてマッハは――

キランは紫色のアバターを見る。

マッハはいつもと同じことをしている。

キランを生かそうとしている。

キランは治療を続けながら息を吐いた。

終わると、ネブライザーを外す。

「マッハ」

「はい?」

「ありがと」

一拍。

「何についてですか?」

キランは周囲を示した。

「これ」

「大部分を準備したのは私ではありません」

「手伝っただろ」

「はい」

「それに、ものすごくウザい」

「自覚しています」

「でも……」

キランは肩をすくめる。

「ありがと」

マッハのアバターが柔らかく光る。

「どういたしまして」

キランはMACH-01Aの背もたれへ身体を預けた。

沈黙。

そして――

「じゃあ、仮にだけど――」

「ダメです」

「まだ何も聞いてない」

「感謝の言葉と引き換えに、一時的に飛行システムへアクセスできるか尋ねようとしていました」

キランは見つめた。

「……かもしれない」

「ダメです」

「聞くだけ聞いてみた」

キランはリビングへ向かった。

ソファの横で止まる。

窓の外では、午後の日差しが伸びていた。

遠くでサイレンが鳴る。

キランにも聞こえた。

マッハにも。

どちらも何も言わなかった。

サイレンは遠ざかっていった。

キランは自宅を見回す。

ようやく帰ってきた。

自分の本。

自分のテレビ。

自分の趣味の悪い家具。

自分のキッチン。

自分のベッド。

自分の生活。

たとえ今後数日間、周囲のみんながその生活を管理することに決めたらしいとしても。

キランは微笑んだ。

「やっぱり我が家が一番だな」

「同感です」

一拍。

「マッハ?」

「はい?」

「戦闘制限って、あとどれくらいで解除される?」

「キラン」

「聞いただけ」

「休んでください」

「分かったよ」

キランは寝室へ向かった。

そして止まる。

「せめて明日にはコーヒー返してもらえる?」

「いいえ」

キランはゆっくり振り返った。

「……今のはやりすぎだぞ」

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