母は何でもお見通し
キランは、同じ天井のタイルを十一分間ずっと見つめていた。
それが分かったのは、マッハが教えてくれたからだ。
二回も。
「なあ」
キランが言った。
「もっと健康的な監視対象があるんじゃない?」
「現在、健康に関する複数の項目を監視しています」
「例えば?」
「あなたの酸素飽和度です」
キランは顔をしかめた。
「ひどいな」
「私は面白いと思いました」
「君、何を見ても面白いなんて思わないだろ」
「それは明確に誤りです」
キランはベッド脇に浮かぶ紫色のアバターへ顔を向けた。
「じゃあ、笑ったジョークを一つ言ってみろよ」
「あなたが自分は責任感のある大人だと繰り返し主張していることです」
キランは彼を見つめた。
マッハも見つめ返した。
その時――
**コン、コン。**
キランはドアを見る。
「どうぞ」
ドアが開いた。
そしてキランは、すぐに自分が面倒なことになったと悟った。
そこに立っていたのはスザンヌだった。
肩にバッグを掛け、胸元には大きな紙袋を抱えている。
キランは瞬きをした。
「母さん?」
「こんにちは、キラン」
彼女が中へ入ってくる。
キランはマッハをちらりと見た。
マッハは賢明にも何も言わなかった。
スザンヌはドアを閉め、ベッドへ近づいてくる。
キランは紙袋を見た。
「それ何?」
「食べ物」
「食べ物ならあるよ」
「病院食でしょ」
「一応、食べ物ではある」
「いいえ」
スザンヌは紙袋をベッド脇のテーブルへ置いた。
すでに病院の食堂で出されるものより、はるかに美味しそうな匂いが漂っている。
キランは袋の中を見る。
そして母を見る。
「六人分くらいあるんだけど」
「どれくらいお腹が空いてるか分からなかったから」
「肺炎なんだよ、母さん。大西洋を横断して帰ってきたわけじゃない」
スザンヌが止まった。
目が細くなる。
キランは即座に自分の言葉を後悔した。
「肺炎」
「そう」
「私の息子が肺炎で入院してるのよ」
「回復中の肺炎」
マッハのアバターが明るくなる。
「キランの状態は、過去二十四時間で測定可能な改善を示しています」
スザンヌは彼を見る。
「ありがとう、マッハ」
「どういたしまして、スザンヌ」
キランはマッハを指差した。
「ほら」
スザンヌは息子へ視線を戻す。
「だからって、私が心配しちゃいけないわけじゃないでしょ」
「心配するななんて言ってないよ」
「今から言おうとしてた」
「考えてただけ」
「分かるわよ」
キランは眉をひそめた。
「僕の考えてることなんて分からないだろ」
「あなたを産んだのよ」
「だからってテレパシー能力が手に入るわけじゃない」
「三十年以上もあなたを見てきた経験は手に入ったわ」
キランは口を開いた。
そして閉じた。
マッハが言う。
「統計的には、スザンヌに大きな優位性があります」
「入ってこなくていい」
「利用可能なデータを指摘しただけです」
スザンヌが笑う。
キランは枕へ深く沈み込んだ。
「裏切り者」
しばらくの間、驚くほど普通の時間が流れた。
スザンヌが食べ物を取り出す。
キランが食べる。
彼女が話す。
肺炎のことではない。
犯罪のことでもない。
銃や爆発、殺人ロボット、サイボーグ犯罪者、犯罪組織の黒幕、あるいはシトロン・シティが普通の火曜日に生み出すその他あらゆる災難へキランが自ら飛び込んでいく癖についてでもなかった。
普通の話だった。
キランも知っている人たちのこと。
街で起きていること。
壊れた家電。
そして朝七時から家の改装工事らしきものを始めるのが最善だと判断したらしい近所の住人。
キランは聞いていた。
こんなにも退屈な話を必要としていたなんて、自分でも気づいていなかった。
やがてスザンヌが部屋の向こうへ目を向ける。
MACH-01A。
置かれた時と同じ場所にあった。
電源は落ちている。
静かだった。
キランも彼女の視線を追った。
数秒間、二人とも何も言わない。
やがてスザンヌが口を開いた。
「また乗るんでしょ」
キランが彼女を見る。
「え?」
スザンヌは車椅子を示した。
「ここに来てから、何度もあれを見てる」
「見てないよ」
マッハが即答した。
「七回です」
キランは彼を睨む。
「誰も聞いてない」
スザンヌが笑った。
キランは再びMACH-01Aを見る。
「また乗るよ」
「知ってる」
「ずいぶん自信あるな」
スザンヌは息子を見た。
「あなたを育てたのよ」
キランはかすかに笑った。
だが、その笑みはすぐに消えた。
「みんな、僕が何か悟るのを期待してる気がする」
「何を?」
「分からない」
キランは窓へ目を向ける。
「もうやめなきゃいけない、とか」
スザンヌはすぐには答えなかった。
キランが続ける。
「マッハは休めって言う。レイモンドも休めって言う。ラクソン先生なんて絶対に休めって言う」
「休むのは妥当だと思うわ」
「休むのと、やめるのは違う」
「そうね」
キランは母を見る。
スザンヌは肩をすくめた。
「同じだなんて言ってないわよ」
それは予想外だった。
「これは何かのサインだとか言わないの?」
「何の?」
「僕はこんなことをするべきじゃないって」
スザンヌの表情が柔らかくなる。
「キラン、あなたは肺炎になったのよ」
キランは待った。
「それだけ?」
「それだけ」
「飛んでることと結びつけたりしない?」
「しない」
「戦ってることとも?」
「しない」
「爆発は?」
「爆発については別件で文句があるわ」
キランが笑った。
「ほら来た」
スザンヌは少し身を乗り出す。
「あなたは大人よ。自分の人生を築いた。教師をしてる。空を飛んでる。人を助けてる。それに、定期的に私を死ぬほど心配させることもしてる」
キランの笑みが薄くなる。
「でも、病気になったからって、それが突然、あなたはそんなことをするべきじゃないって証明になるなんて言うつもりはないわ」
彼女は手を伸ばし、キランの手に重ねた。
「この部屋にいる誰よりも長く、あなたは自分の身体と付き合ってきたんだから」
マッハのアバターがわずかに動いた。
「厳密には、私は常にこの部屋に――」
スザンヌが彼を見る。
「今は黙ってて、マッハ」
「了解しました」
キランが笑った。
その笑いは小さな咳へ変わった。
スザンヌの手に力が入る。
キランは喉を整えた。
「大丈夫だよ」
「分かってる」
その声に何かを感じ、キランは母を見た。
パニックになっているわけではない。
モニターを凝視しているわけでもない。
壊れ物を見るようにキランを扱っているわけでもない。
ただ、心配していた。
病気の息子を見る母親として。
「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」
スザンヌは少し黙った。
「大丈夫になるって分かってるからって、怖くなかったことにはならないでしょ」
キランの笑みが消える。
スザンヌは重なった二人の手へ目を落とした。
「レイモンドから電話が来て、あなたが入院したって聞いた時……」
そこで言葉を止める。
キランは何も言わなかった。
「あなたがずっと呼吸の問題と付き合ってきたことは分かってる。自分の身体のことを理解してるのも分かってる。マッハもいる。レイモンドもいる。先生たちもいる」
彼女は息子を見る。
「でも、私はあなたの母親なのよ」
キランは唾を飲み込んだ。
「母さん……」
「ウルトラヴァイオレットをやめてほしいなんて思ってない」
キランは驚いた。
「空を飛ぶのをやめてほしいわけでもない」
彼女はキランの手を握る。
「ただ、あなたに何かが起きた時、それはあなただけに起きてるんじゃないってことを忘れないでほしいの」
キランには、それに返す冗談が思いつかなかった。
残念だった。
今こそ一つ欲しかったのに。
代わりに、母の手を握り返した。
「分かってる」
スザンヌが微笑む。
「ならいいわ」
二人の間に沈黙が流れた。
今度は心地よい沈黙だった。
――キランが、あることを思い出すまでは。
そして思い出した瞬間、思い出さなければよかったと後悔した。
キランは母を見る。
スザンヌが気づく。
「何?」
「何でもない」
「それ、“何でもない”時の顔じゃないわ」
「僕にそんな顔はない」
「あるわよ」
キランは少しためらった。
「……マドックスは元気?」
スザンヌが固まった。
マッハのアバターが彼女の方を向く。
病室が恐ろしいほど静かになった。
キランは即座にすべてを後悔した。
スザンヌはゆっくりと目を逸らす。
「元気よ」
「ああ」
再び沈黙。
キランは頷いた。
「よかった」
「ええ」
「それなら……よかった」
「ええ」
また沈黙。
キランは天井を見る。
スザンヌはバッグの位置を直す。
マッハは完全に動きを止めていた。
キランはようやく母をちらりと見る。
「それで……」
スザンヌがため息をついた。
「ええ」
キランは瞬きをする。
「何が?」
「まだ会ってるわよ」
「ああ」
来た。
キランは突然、病院の毛布に強い興味を抱き始めた。
「そうなんだ」
スザンヌは腕を組む。
「あなたが聞いたのよ」
「分かってる」
「あなたが話題に出したのよ」
「分かってる」
「じゃあ、なんでそんなに気まずそうなの?」
「母さんだから」
「それで?」
「それで……相手がマドックスだから」
スザンヌが片眉を上げる。
キランは曖昧に手を動かした。
「ほら……分かるだろ」
「分からないわ。説明して」
「絶対に嫌だ」
マッハのアバターが明るくなる。
「成人した子供が親の恋愛関係について話す際に一般的に生じる心理的要因について、概要を――」
「やめて」
キランとスザンヌが同時に言った。
マッハが黙る。
スザンヌはキランを見る。
キランもスザンヌを見る。
そして二人とも笑い出した。
キランは即座にそれも後悔した。
笑いが咳へ変わる。
スザンヌが身を乗り出す。
マッハの医療センサーが即座に作動した。
「キラン?」
キランは片手を上げる。
「大丈夫」
咳はさらに数秒続いた。
そして収まる。
ゆっくり息を吸う。
もう一度。
スザンヌは彼のそばにいた。
「本当に?」
「うん」
彼女は息子をじっと見る。
キランは疲れた笑みを浮かべた。
「ただ、母さんとマドックスの詳しい話だけはやめてくれ。今の僕の肺じゃ、その会話には耐えられない」
スザンヌがキランの腕を軽く叩いた。
「キラン!」
彼は笑った。
今度は慎重に。
マッハが言う。
「キランの呼吸機能が回復するまで、マドックスに関するこれ以上の会話は避けることを推奨します」
「やっと役に立つ医学的アドバイスが出たな」
スザンヌは首を振った。
「二人とも本当に馬鹿ね」
「片方は母さんが育てたんだよ」
「時々、どうやって育てたのか自分でも不思議になるわ」
キランは笑った。
窓の向こうでは、シトロン・シティが動き続けていた。
ガラスの向こうのどこかでは、おそらくサイレンが鳴っている。
きっと何か緊急事態が起きている。
そして間違いなく、どこかの誰かが信じられないほど馬鹿なことをしている。
でも今だけは、キランにはどうでもよかった。
母親が隣に座っている。
MACH-01Aは部屋の向こうで待っている。
マッハは近くに浮かんでいる。
肺はまだ痛かった。
まだ治療が必要だった。
だが、彼の車椅子はどこにも行かない。
彼の街も。
そして、どうやらマドックスも。
キランは顔をしかめた。
「でも、本当に?」
スザンヌがうめいた。
「キラン」
「いや、ちょっと気になっただけで」
「ご飯食べなさい」
「はい、母さん」




