暴かれた真実
数秒間、誰も口を開かなかった。
倉庫は重苦しい沈黙に包まれていた。
怒鳴り声よりも、遥かに重く感じる沈黙。
煙がゆっくりと天井の梁へ昇っていく。
焼け焦げた金属と――
キランがあまり深く考えたくない何かの、苦い臭いを漂わせながら。
二人の護衛の残骸は、まだコンクリートの床で燻っていた。
誰も長くそちらを見ようとはしなかった。
ルネの顔は青ざめている。
生き残った護衛たちは木箱の近くで硬直し、まだ武器を握っていたものの、それを使いたそうな者は一人もいなかった。
ブリザードはザイラの隣で相変わらず無表情。
一方、ブレイズは正反対だった。
ホログラムの炎を楽しそうに揺らしながら、まだ面白がっている。
誰も――
会議を再開する最初の一人にはなりたくないようだった。
誰も。
ガストン・ベリゼールを除いて。
武器商人は二本の指でゆっくりと額を揉んだ。
一回。
二回。
そして――
もう一回。
頭痛を意志の力だけで抑え込もうとしている男の、疲れ切った仕草だった。
残念ながら――
その頭痛には名前があった。
ジャリック・ラインハルト。
ベリゼールはようやく彼を見る。
「お前は一体、何がおかしいんだ?」
ジャリックが瞬きをする。
「俺?」
ベリゼールの手が額から離れた。
「ああ」
「お前だ」
床で燻っている残骸を鋭く指差す。
「私の部下を二人も殺したんだぞ」
ジャリックは肩をすくめた。
「あいつらが俺たちを侮辱したからだ」
ベリゼールは彼を凝視する。
「私の部下を殺したんだぞ」
「あいつらが俺たちを侮辱した」
「それは正当な理由にならん!」
ジャリックは僅かに眉をひそめた。
まるでベリゼールが、彼には本当に理解できない概念を持ち出したかのように。
「あいつら、俺たちをcrippleって呼んだんだぞ」
「ああ、聞いていた」
「だから?」
「だからって、気に入らないことを言われた程度で人を焼き殺すな!」
ジャリックは腕を組んだ。
「あんなこと言わなきゃよかったんだ」
窓の外から見ていたキランは、会話が続くたびに胃が締めつけられていくのを感じていた。
そして――
そこで気づいた。
ジャリックの短気さよりも、さらに恐ろしいことに。
ジャリックは――
本当に違いを理解していなかった。
罪悪感がない。
躊躇もない。
自分が何をしたのか、徐々に理解していく様子もない。
ジャリックにとって、理屈は極めて単純だった。
侮辱された。
だから――
殺した。
それだけ。
キランが小声で呟く。
「こいつ……本当にわかってないんだ」
バイザーの中で、マッハのアイコンは暗いままだった。
『はい』
ベリゼールは鼻から長く息を吸った。
そして――
もう一度。
効果はなかった。
「有能な警備員を見つけるのが、どれほど大変かわかっているのか?」
ジャリックは残骸を見る。
「あの二人、そんなに有能じゃなかったけど」
ベリゼールの目元が引きつった。
キランは危うく同情しそうになった。
危うく。
◇ ◇ ◇
ルネは賢明にも黙っていた。
ブレイズは相変わらず楽しそう。
ブリザードは完全に中立。
そして――
ザイラだけが居心地悪そうにしていた。
ショックを受けているわけではない。
恐怖しているわけでもない。
ただ――
居心地が悪そうだった。
まるで――
この会話を以前にも経験したことがあるかのように。
もしかすると。
何度も。
キランは、その意味するところが嫌だった。
ザイラがようやく前へ出る。
「ごめんなさい」
ベリゼールがゆっくり彼女を見る。
「弟は昔から、感情を抑えるのが苦手なの」
ジャリックが不満そうな顔をする。
「抑えてるけど」
ザイラは無視した。
ベリゼールは遺体を指差す。
「苦手?」
声が大きくなる。
「二人も焼き殺したんだぞ!」
ジャリックは機体の背もたれへ身体を預けた。
「あいつらが悪い」
「違う」
「悪いって」
「違う」
「絶対あいつらが悪い」
ベリゼールは彼を凝視する。
ジャリックも見つめ返す。
その馬鹿馬鹿しい一瞬。
キランは本気で考えた。
この武器商人は――
シトロン・シティでも最強クラスのホイーラーを、素手で殴りに行くつもりなのではないかと。
マッハも同じ可能性を考えたらしい。
『賢明ではありません』
キランは囁く。
「かなりな」
ベリゼールは拳を握り締める。
そして――
ゆっくり開いた。
「自分が何をしたのか、本当に理解しているのか?」
ジャリックは首を傾げた。
「警備員の採用基準を改善した?」
ブレイズが笑った。
ザイラは目を閉じる。
ベリゼールは今にも爆発しそうだった。
「ジャリック」
ザイラが警告する。
「何?」
「もう喋らないで」
「でも――」
「黙って」
珍しく――
ジャリックは従った。
ほぼ。
何かを小声で呟いたが。
ザイラは聞かなかったことにした。
◇ ◇ ◇
その時――
彼女が止まった。
完全に。
目を開く。
姿勢が変わる。
キランは即座に気づいた。
マッハも。
一秒前まで、ザイラはベリゼールに集中していた。
次の瞬間――
倉庫の反対側を見ている。
壁。
窓。
そして――
キランがいる方向。
まだ――
直接ではない。
まだ。
だが――
近すぎる。
キランの血の気が引いた。
「まずい」
マッハもまったく同じタイミングで答えた。
『まずいですね』
キランはゆっくり機体を下げ始めた。
本当にゆっくり。
慎重に。
もしかしたら――
見られていないかもしれない。
別の場所で何かが動いたのかもしれない。
太陽の光がガラスに反射しただけかもしれない。
もしかしたら――
ザイラが目を細めた。
頭が僅かに動く。
窓へ。
真っすぐ。
キランは息を止めた。
「マッハ」
『即時撤退を推奨します』
「異議なし」
機体を下げ始める。
その時。
ザイラが叫んだ。
「ちょっと!」
キランは固まった。
倉庫の中。
全員が振り向いた。
護衛。
犯罪者。
ベリゼール。
ルネ。
ジャリック。
ブレイズまで。
全員が――
同じ窓を見る。
キランを見る。
災難そのものを。
マッハのアイコンが明滅する。
『状況が悪化しました』
キランは唾を飲み込む。
「控えめな表現だな」
『妥当な評価です』
ベリゼールがザイラの視線を追う。
表情が一瞬で変わった。
「外に誰かいるのか?」
ルネの目が見開かれる。
生き残った護衛たちがライフルを構えた。
六つほどの照準レーザーが一斉に窓へ向けられる。
キランはガラス越しにそれを見つめた。
およそ一秒。
自分に残された選択肢を考えた。
逃げる。
飛ぶ。
叫ぶ。
できれば――
全部。
しかし残念ながら。
身体は第四の選択肢を選んだ。
パニック。
キランは――
その場で完全に固まった。
「スナット」
マッハの声が緊迫する。
『キラン』
「わかってる」
『動いてください』
「わかってるって!」
◇ ◇ ◇
倉庫の中で、ベリゼールが近くの武器箱へ拳を叩きつけた。
「一体何なんだ、このサーカスみたいな取引は!?」
誰も答えない。
おそらく――
誰にもまともな答えがなかったから。
ベリゼールはホイーラーズを指差した。
顔は真っ赤になっている。
「まず、お前たちは遅刻してきた」
ジャリックが指を一本上げる。
「人質事件が――」
「次に、私の部下を二人殺した!」
「あいつらが侮辱――」
「そして今度は、私の倉庫の外に目撃者がいる!」
ジャリックは指を下ろした。
「……ああ」
窓を見る。
「それはちょっとまずいかもな」
ベリゼールは彼を凝視した。
「ちょっとまずい?」
ルネがベリゼールへ近づく。
「ベリゼールさん」
彼が振り向く。
「ここを離れるべきです」
珍しく――
ベリゼールは反論しなかった。
「当然だ」
出口を指差す。
「今すぐだ」
生き残った護衛たちが即座に彼を囲む。
二人が先行。
別の二人がルネとベリゼールの後方につく。
どうやら――
武器商人の忍耐も限界に達したらしい。
部下が死んだ。
目撃者が現れた。
そして何より――
ジャリック。
ベリゼールはザイラへ振り向く。
「取引は中止だ」
沈黙。
ザイラの表情が険しくなる。
「ベリゼール――」
「駄目だ」
彼は遮った。
「取引は――」
声を張り上げる。
「中止だ!」
ジャリックは眉をひそめた。
「大げさじゃない?」
ベリゼールは彼を指差す。
「お前が私の部下を燃やしたんだぞ!」
「あいつらが――」
「その先を言うな」
ジャリックは――
本当に黙った。
ベリゼールはジャケットを整える。
「もう終わりだ」
それだけ言うと――
出口へ向かって歩き始めた。
ルネも続く。
護衛たちが周囲を固める。
キランは、その一団が倉庫奥の搬入口へ撤退していくのを見ていた。
よし。
もしかしたら――
この混乱を利用すれば逃げられる。
その時。
ジャリックが窓へ目を凝らした。
キランは止まった。
ジャリックが前へ身を乗り出す。
目を細める。
そして――
見開いた。
気づいた。
即座に。
「あ」
キランの胃が沈んだ。
ブレイズが近づく。
『何?』
ジャリックはキランを真っすぐ指差した。
「あいつ、あのダムスナットだ」
キランの魂が一瞬だけ身体から抜けた。
本当に――
一瞬だけ。
だが。
それでも。
「最悪だ」
ブレイズが窓を見る。
そして――
目を輝かせた。
『あっ!』
爆笑する。
『どっかで見たことあると思った!』
キランは頭を下げた。
「最高だよ」
マッハはそれどころではなかった。
『我々の身元が特定されました』
「ありがとう、マッハ」
『どういたしまして』
「感謝してない」
『知っています』
◇ ◇ ◇
ザイラの表情が変わった。
ジャリックの行動に対する苛立ちも。
ベリゼールとの取引失敗も。
二人の死んだ護衛も。
そのすべてが――
一瞬で重要ではなくなった。
これはもう、ベリゼールの問題ではない。
失敗した取引でもない。
二人の死体でもない。
これは――
セキュリティ上の問題だった。
目撃者。
キラン。
ブリザードが彼女の隣に現れる。
ヴェントの目が窓をスキャンした。
『視覚確認は限定的です』
ザイラは窓を見つめ続ける。
「どこまで聞かれたかわからない」
キランは唾を飲み込んだ。
かなり。
答えは――
かなり。
ジャリックは肩をすくめる。
「たぶん何も聞いてないだろ」
ザイラが彼を見る。
「あの人、私たちを見てたのよ」
「今来たばっかりかもしれない」
ザイラが答えるより先に、ブリザードが口を開く。
『その可能性は低いです』
ジャリックの笑みが弱くなった。
ザイラは続ける。
「いつから見ていたのかわからない」
キランは顔をしかめた。
答えは――
かなり前から。
非常に。
非常に長い間。
武器について聞くには十分。
取引を見るにも十分。
ジャリックが二人を殺すところを見るにも十分。
あまりにも――
長すぎた。
ブレイズもようやく笑うのをやめた。
『……あ』
その一言が――
倉庫全体へ広がったようだった。
状況の深刻さを、全員が同時に理解する。
キランは知っている。
彼らが何をしているのか。
そして――
それ以上に重要なこと。
彼らの正体を。
ジャリックがゆっくり姉を見る。
「どうする?」
ザイラはすぐには答えなかった。
視線は窓から離れない。
キランから。
学校の駐車場で笑顔を向けてくれた女性。
キランの勇気を褒めてくれた女性。
「人を助け続けて」と言ってくれた女性。
その同じ女性が今――
解決しなければならない問題を見るような目で。
キランを見ていた。
キランの手が操作装置を強く握る。
マッハが静かに言った。
『キラン』
「うん?」
『逃げましょう』
珍しく――
キランには一切の異論がなかった。
倉庫の中で。
ザイラの機体が唸り始める。
飛行システム。
その直後。
ジャリックのスラスターも起動した。
キランのバイザーを紫色の警告表示が埋め尽くす。
心拍数が跳ね上がる。
「まずい」
マッハは即座に理解した。
『飛行システム、オンライン』
キランは窓から後退し始めた。
一フィート。
二フィート。
三フィート。
倉庫の中。
ジャリックが笑った。
いつもの馬鹿げた笑顔ではない。
もっと――
小さい笑み。
そして――
キランが遥かに嫌いな種類の笑み。
「逃げるぞ」
キランはもう静かにするのを諦めた。
「マッハ」
『はい?』
「逃げろ」
スラスターが点火した。
そして――
その瞬間。
一つの事実から、もう目を背けることはできなくなった。
キランは――
ホイーラーズの秘密を知っている。
そして今。
ホイーラーズも――
キランが知っていることを知った。




