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フレンチトースト

キランは、あの窓を覗かなければよかったと心の底から思った。

そこに留まっている一秒一秒が、状況をさらに悪化させていくようだった。

ほんの数分前まで――

ホイーラーズは、キランがなりたいと思うすべてを体現していた。

勇敢。

強い。

人々から尊敬されている。

燃え盛る建物へ飛び込み、見知らぬ人々を救出し、それでもカメラの前で笑顔を見せる余裕さえある。

そんな人たち。

だが今は?

今、その二人は――

違法兵器と武装した犯罪者に囲まれた廃倉庫の中にいる。

ホイーラーズは犯罪者だった。

あるいは――

犯罪者と手を組んでいる。

どちらのほうが最悪なのか、キランには判断できなかった。

倉庫内では、不気味なほど平然と取引が続いている。

ベリゼールは開かれた武器箱の横で両手を背中に組み、まるで普通の商談を監督する経営者のように交渉を眺めていた。

ルネはタブレットを手にコンテナの間を行き来し、仕様や数量を読み上げる。

ザイラはブリザードとともに装備を確認していた。

そしてジャリックは――

明らかに楽しみすぎている。

すでに別の箱へ移動し、炎を利用した兵器を、新しい玩具を買いに来た子供のような目で眺めていた。

何一つとして理解できない。

それなのに――

時間が経つほど、目の前の真実を否定することは難しくなっていった。

キランは窓際から動かなかった。

マッハも何も言わない。

珍しく――

二人とも冗談を言う気にはなれなかった。

◇ ◇ ◇

倉庫の奥。

未開封のコンテナが積まれた場所で、二人の若い男が見張りをしていた。

二人とも軍用ライフルを持っている。

二人とも黒いタクティカルウェア姿。

そして二人とも――

死ぬほど退屈そうだった。

一人は支柱にもたれかかり、もう一人は倉庫の反対側で行われている取引をぼんやり眺めている。

最初の男がジャリックを見る。

次に――

ザイラ。

口元に嫌な笑みが浮かんだ。

男は隣の仲間へ身を寄せ、フランス語で何かを呟いた。

「Depuis quand Belizaire fait des affaires avec des infirmes ?」

もう一人が肩をすくめる。

「Aucune idée.」

キランは眉をひそめた。

「フランス語、勉強したほうがいいな」

マッハのアイコンが明滅する。

『私の翻訳データベースには、現在、日常会話レベルのフランス語が十分に登録されていません』

「もちろんそうだよな」

二人には、何を言ったのかわからなかった。

だが――

残念ながら、あの二人の護衛にとって。

理解できる者がいた。

ジャリックの動きが止まった。

完全に。

さっきまで浮かべていた気楽な笑顔が消える。

開いた武器箱の縁を掴んだまま、指一本動かさない。

まるで誰かにその場で凍らされたかのようだった。

キランは即座に気づいた。

ザイラも。

ジャリックがゆっくりと顔を上げる。

その目が――

変わっていた。

ふざけた雰囲気は消えている。

軽薄な傲慢さも。

代わりに現れたものは――

もっと冷たい。

もっと鋭い。

そして――

キランが今まで見たことのないほど危険だった。

ジャリックの隣にブレイズが現れる。

普段は表情豊かなヴェントの顔も暗くなっていた。

ホログラムの顔を囲むデジタルの炎さえ激しく揺れ、まるでジャリックの感情に反応しているようだった。

『あーあ』

ブレイズが護衛たちを見る。

『聞こえちゃった』

倉庫が目に見えて静かになった。

ルネが話すのをやめる。

ベリゼールの視線がジャリックへ向いた。

ザイラも手にしていた装置を下ろす。

何かが起きた。

その場にいる全員が理解したようだった。

護衛たち以外は。

二人はまだ笑っている。

ジャリックはゆっくりと機体の向きを変えた。

「ブレイズ」

ヴェントが即座に答える。

『ん?』

ジャリックは二人から目を逸らさなかった。

「今、何て聞こえた?」

ブレイズは迷わない。

『Cワード』

キランは眉をひそめた。

「Cワード?」

マッハのアイコンは静止したままだった。

『不明です』

ジャリックは頷いた。

ゆっくり。

「だよな」

ようやく最初の護衛が、ジャリックに見られていることに気づいた。

笑みが弱くなる。

もう一人も支柱から身体を起こした。

遅すぎた。

ジャリックが何を考えていたにせよ――

すでに決断は終わっていた。

キランの背筋を冷たいものが走る。

あの表情は、ただの怒りじゃない。

怒りなら消えることもある。

怒りなら躊躇することもある。

これは違う。

確信だった。

これから何をするのか――

すでに完璧に決めている人間の確信。

「ジャリック」

ザイラが即座に警告した。

鋭く。

強く。

そして――

僅かに怯えているようにさえ聞こえた。

ジャリックは彼女を無視した。

護衛たちがライフルを構える。

その瞬間――

ブレイズが笑った。

『焼いちまえ』

◇ ◇ ◇

ジャリックの機体側面が展開した。

熱気が倉庫全体へ広がる。

ひび割れた窓越しでも、キランにはその熱が感じられた。

バイザーに警告が次々と表示される。

**《急激な温度上昇を検出》**

マッハの声が切迫する。

『キラン――』

ゴォォォォッ!

炎が噴き出した。

小さな火炎ではない。

威嚇射撃でもない。

轟音を上げる巨大なオレンジ色の炎の壁がジャリックの機体から放たれ、一秒もかからず倉庫を横切った。

護衛たちには反応する時間すらほとんどなかった。

一人が武器を上げる。

もう一人が後退する。

そして――

炎が二人を飲み込んだ。

悲鳴が倉庫中に響き渡った。

キランは窓から反射的に身を引いた。

手が操作装置から滑る。

一瞬――

機体の安定性を完全に失いかけた。

マッハが自動的に補正する。

『キラン!』

返事ができなかった。

悲鳴が止まった。

始まった時と同じくらい――

突然に。

炎が消える。

煙が天井へ昇っていく。

二人の護衛が崩れ落ちた。

動かない。

キランは窓越しに凝視した。

呼吸が浅くなる。

心臓が激しく鼓動し、バイザー内の医療モニターが即座に警告を発し始めた。

**《心拍数上昇》**

**《呼吸不規則》**

マッハが声を落とす。

『キラン』

「違う」

キランは首を振った。

「違う」

こんなはずがない。

何か勘違いしている。

何か別の仕組みがあるはずだ。

特殊な武器設定。

スタン用の炎。

非殺傷性の火炎。

何でもいい。

何か。

何かあるはずだ。

しかし――

倉庫の床に倒れた二人は動かなかった。

ヒーローは、こんなことをしない。

ヒーローに、こんなことができるはずがない。

誰かに失礼なことを言われたからって。

侮辱されたからって。

腹が立ったからって。

キランは――

燃え盛る建物から子供を救い出したジャリックを見た。

その子に抱きつかれ、気まずそうにしていた同じ男を見た。

ブレイズにからかわれている姿を見て笑った。

そして今――

その同じジャリックが。

機体から一歩も動かず。

二人の人間を焼き殺した。

キランは吐きそうになった。

◇ ◇ ◇

倉庫の中では――

誰一人動かなかった。

ベリゼールも。

ルネも。

護衛たちも。

武器を運んでいた男たちでさえ。

部屋全体が衝撃で凍りついたようだった。

ザイラは弟を見つめている。

目を大きく見開いていた。

数秒間――

本気で恐怖しているように見えた。

だが、その次に起きたことはさらに酷かった。

彼女は目を閉じた。

ショックを受けたからではない。

初めて想像を絶するものを見た人間の反応でもない。

疲れていた。

見覚えのある疲労。

同じ恐ろしい光景を以前にも見て――

もう自分にはどうすることもできないと知っている人間の反応。

キランはそれに気づいた。

胃が捻じれる。

「……初めてじゃないんだ」

マッハは答えなかった。

キランはヴェントのアイコンを見る。

「マッハ」

少し間があった。

『いいえ』

いつもより静かな声だった。

『彼女の反応は、過去にも同様の出来事を経験している可能性を示しています』

聞かなければよかった。

倉庫の中で、ルネは倒れた二人を見つめていた。

どこを見ればいいのかわからないようだった。

視線を遺体へ向ける。

逸らす。

また見る。

そしてようやく――

声を出した。

「どうして……?」

ジャリックが彼女を見る。

その質問の意味が本当にわからないような顔だった。

「何が?」

ルネは彼を見つめる。

「どうして、あんなことを?」

ジャリックは肩をすくめた。

答えなんて明らかだろうと言わんばかりに。

「あいつら、俺たちをcrippleって呼んだから」

キランは固まった。

そこで――

ようやく理解した。

ジャリックは床から立ち上る煙を気軽に指差した。

「俺か姉貴をCワードで呼ぶ奴は……」

笑う。

「……フレンチトーストになる」

ブレイズが爆笑した。

『フレンチトースト!』

ヴェントを囲むデジタルの炎が楽しそうに燃え上がる。

『それ最高!』

他には――

誰も笑わなかった。

ベリゼールでさえ。

ジャリックは周囲を見る。

「何?」

沈黙。

笑顔が少し弱くなる。

「おい。今の面白かっただろ」

ザイラが目を開いた。

「いいえ、ジャリック」

低い声だった。

「全然面白くない」

ジャリックは肩をすくめる。

「あんなこと言うからだろ」

「だからって殺していいわけじゃない」

「あいつらが悪い」

「ただの馬鹿だったのよ」

「今は死んだ馬鹿だ」

ザイラの顎に力が入る。

ほんの一瞬――

キランは思った。

今度こそ彼女が弟と向き合うのではないか。

今度こそ――

何かまともな行動を取るのではないか。

しかし――

ザイラはベリゼールを見た。

「代わりを用意して」

キランの胃がさらに沈んだ。

ベリゼールが眉を上げる。

「何だと?」

「あなたの護衛よ」

ザイラは遺体へ視線を向ける。

「次の納品までに代わりを用意して」

それだけだった。

逮捕もない。

怒りもない。

通報もない。

ただ――

代わりを用意する。

ベリゼールは死んだ部下を見る。

そしてザイラへ視線を戻した。

表情が硬くなる。

「あれは私の部下だ」

ジャリックはアームレストへ気楽にもたれかかった。

「じゃあ次はもっと頭のいい奴を雇えよ」

周囲の武装した男たちが不安そうに身体を動かした。

ブレイズが笑う。

『できれば生存本能のある奴な』

ベリゼールは長い間、ジャリックを睨んだ。

キランは何か起きると思った。

口論。

脅し。

もしかしたら――

また戦闘。

だが――

ベリゼールは袖口を整えただけだった。

「ルネ」

彼女が振り向く。

「はい?」

「誰かに片づけさせろ」

ルネは躊躇した。

それから――

頷く。

「……承知しました」

キランの中で何かが壊れた。

劇的にではない。

一瞬でもない。

静かに。

ホイーラーズについて信じていたすべてを繋ぎ止めていた最後の一本の糸が――

ただ切れた。

◇ ◇ ◇

シャーマン・アパートを思い出した。

炎の中を飛んでいくジャリック。

彼に抱きついた子供。

『お兄ちゃん、最高!』

カメラの前に立つザイラ。

『笑って』

『それがヒーローの仕事だから』

学校の駐車場も。

自分を真っすぐ見つめていたザイラ。

『人を助け続けて』

『この街には、人を思いやれる人がもっと必要よ』

キランは――

その言葉を全部信じた。

二人のようになりたかった。

朝からテレビで彼らを見ていた。

青と赤の光が自分の車椅子に反射するのを眺めながら――

いつか彼らと一緒に空を飛べたらどんな気分だろうと想像した。

ギアはマッハを改造してくれた。

キランは腕が痛くなるまで訓練した。

墜落した。

失敗した。

それでも立ち上がった。

何度も。

何度も。

何度も。

全部――

心のどこかで、自分もいつか彼らのようになれるかもしれないと思い始めていたから。

そして今。

キランは初めて思った。

ホイーラーズのようになることこそ――

自分が最も望んではいけないことなのかもしれない。

マッハが静かに言った。

『ここを離れましょう』

キランは答えなかった。

『キラン』

まだ窓の向こうを見つめている。

ジャリックはもう武器のところへ戻っていた。

もう。

たった今の出来事など――

ただの邪魔だったかのように。

ルネも在庫確認を再開している。

ベリゼールは生き残った護衛の一人と話している。

ザイラは別の箱の横に立ち、その表情からは何も読み取れない。

取引は――

続いていた。

そのことが、暴力そのものよりキランには不気味だった。

二人が死んだ。

それなのに――

全員がもう次へ進んでいる。

マッハがもう一度言った。

『必要な情報は十分に得ました』

キランは唾を飲み込んだ。

「……ああ」

『ここに残ることは不必要な危険を伴います』

「……ああ」

『EDFDへ連絡するべきです』

キランはようやく窓から視線を逸らした。

「EDFD?」

『はい』

キランは危うく笑いそうになった。

だが――

口から出たのは苦い声だけだった。

「マッハ」

『何でしょう?』

「ホイーラーズは――EDFDだぞ」

沈黙。

マッハのアイコンが明滅した。

キランは彼を見る。

二人とも――

その問題を考えていなかった。

ホイーラーズが関わっているなら。

これは――

どこまで広がっている?

誰なら信用できる?

ようやくマッハが答えた。

『組織内の他の人間まで関与しているという証拠はありません』

「そうだな」

『だからといって、関与しているとは限りません』

「わかってる」

キランはもう一度倉庫の中を見る。

「でも、EDFDのバッジを付けてる最初の人間に全部話していいってことにもならない」

マッハは反論しなかった。

それも――

キランには怖かった。

機体を少し下げる。

倉庫内部が視界から消えるまで降下した。

しばらくの間――

キランはレンガ壁の横でただ浮かんでいた。

操作装置を握る手が震えている。

マッハは気づいた。

『心拍数が依然として高い状態です』

キランは前を見つめた。

「憧れてたヒーローが二人殺すところを見たばっかりなんだぞ」

マッハは何も言わない。

キランは震える息を吐いた。

「だから……」

声が小さくなる。

「そりゃ心拍数くらい上がるよ」

マッハのアイコンが暗くなる。

『……了解しました』

◇ ◇ ◇

キランは窓から離れ始めた。

ゆっくり。

静かに。

正しい行動は明らかだった。

ここを離れる。

家へ帰る。

レイモンドに話す。

ギアに話す。

EDFDの中で誰を信用できるのか考える。

とにかく――

重武装した犯罪者と、誰かを殺すことに大した抵抗もない二人のスーパーヒーローがいる倉庫の外に居続ける以外のことをする。

さらに一フィート後退する。

もう一フィート。

倉庫の中で――

ブレイズが何か言ったらしく、ジャリックが笑った。

キランは止まった。

あの笑い声。

駐車場で聞いたのと同じ笑い声。

キランのテーザーを馬鹿にした時の、あのくだらない、気楽な笑い声。

なのに今は――

まるで別の音に聞こえた。

キランは再び進み始める。

マッハは警戒を続けていた。

『通りまで二十メートル』

「了解」

『飛行システム使用可能』

「まだだ」

『即時離脱を推奨します』

「ここでスラスターを点火したら聞こえる」

マッハは少し間を置いた。

『その通りです』

「だから車輪で行く」

『同意します』

キランは完全に地面へ降りた。

車輪が静かに舗装路へ触れる。

そのまま倉庫から離れていく。

ゆっくり。

慎重に。

静かに。

珍しく――

キランの中にあるすべての本能が、同じことを言っていた。

逃げろ。

その時。

倉庫の中から声がした。

「待て」

キランは止まった。

ジャリック。

マッハも喋るのをやめた。

キランの血の気が引く。

倉庫内が再び静まり返った。

ジャリックがもう一度言う。

「何か聞こえないか?」

キランは息すらしなかった。

ブレイズが答える。

『何が?』

間。

キランの指が操作装置を強く握る。

そして――

ジャリックが笑った。

「……いや、何でもない」

キランは音を立てずに息を吐いた。

マッハが囁く。

『移動してください』

二度言われる必要はなかった。

キランは倉庫から離れていく。

距離を取れる程度には速く。

音を立てない程度には遅く。

頭の中では――

何度も炎が再生されていた。

悲鳴。

ザイラの反応。

ジャリックの肩をすくめる仕草。

『フレンチトースト』

吐き気がする。

自分が憧れていた人々は――

単に欠点のあるヒーローではなかった。

誤解されているわけでもない。

時々一線を越えてしまう無謀なヒーローでもない。

危険だった。

建物を凍らせられるほど強い。

戦闘ロボットを粉砕できるほどの力を持つ。

数分でシトロン・シティを横断できるほど速い。

そして――

侮辱されたというだけで、人を殺すことすらできる。

ホイーラーズと出会って以来、初めて。

キランは――

彼らと一緒に空を飛ぶ自分を想像しなかった。

代わりに想像したのは。

もし――

自分が真実を知っていると、あの二人に知られたら。

一体どうなるのか。

そして初めて――

キランはホイーラーズを恐れた。

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