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仮面の裏側

キランは、ヘルメットの上端が窓枠の下から覗く程度まで、ゆっくりと機体を上昇させた。

その向こうに広がる倉庫は巨大だった。

通りから見た時よりも、遥かに大きい。

ひび割れた天窓から差し込む夕暮れの光が細い筋となって床へ伸び、その中を埃が漂っている。

錆びた鉄骨が暗闇の奥まで何列も続き、広大な床のほとんどを巨大な貨物箱が占めていた。

いくつかには配送ラベルが貼られている。

だが――

何の印もないものもあった。

キランが気になったのは、そちらだった。

大きすぎる。

頑丈すぎる。

そして――

厳重に警備されすぎている。

シトロン・シティの工業地区にある廃倉庫へ置かれていていいような代物には、とても見えなかった。

キランは声を落とした。

「どう見ても怪しいな」

バイザーの中にマッハのアイコンが現れる。

『その判断を下すには、驚くほど時間がかかりましたね』

「助かるよ」

『どういたしまして』

キランは機体のスタビライザーを調整し、さらに数インチ上昇した。

これで中がよく見える。

倉庫の中央に、一人の年配の男が立っていた。

完璧に仕立てられたチャコールグレーのスーツ。

男の全身から漂っているものを一言で表すなら――

金。

磨き上げられた黒い靴。

高級な生地。

片腕には金の腕時計。

立ち方さえ高そうに見える。

特別大柄なわけでもない。

肉体的な威圧感があるわけでもない。

しかし――

そんなことは関係なかった。

周囲にいる武装した男たちは、彼を守っているというより、その存在を中心に回っているように見えた。

命令することに慣れた男。

そして――

その命令が現実になるのを見慣れた男。

金と権力を手に入れすぎて、何年も前に辞書から「ノー」という言葉を消してしまったような人物。

数フィート後ろには、武装した護衛が二人。

その隣には、一人の女性がタブレットを抱えて立っていた。

キランは彼女を観察する。

若い。

冷静。

プロフェッショナル。

暗い色の服装は派手さより実用性を重視している。

そして――

単なる秘書と片づけるには、自信に満ちすぎていた。

「彼女は?」

キランが囁く。

マッハがスキャンする。

『即時照合できる人物情報はありません』

「秘書?」

『可能性はあります』

キランは、彼女が護衛の一人と一瞬だけ視線を交わすのを見た。

「それとも……もっと何かあるのか」

年配の男が腕時計を見る。

そして――

もう一度。

さらに――

もう一度。

明らかに苛立ち始めていた。

「四時に来る予定だったはずだが」

フランス訛りの声が、倉庫内によく響いた。

隣の女性がすぐにタブレットを見る。

「その予定です」

「間違いありません」

男は腕時計から目を離さない。

「今まで私を失望させたことはなかったな、ルネ」

キランの眉が上がった。

「ルネ」

マッハは即座に名前を記録する。

女性が唾を飲み込んだ。

ようやく男が彼女を見る。

その表情は穏やかだった。

ほとんど――

優しそうにすら見える。

だからこそ、その言葉に潜む脅しがさらに恐ろしかった。

「だが、あと五分以内に到着しなければ……」

男はスーツの袖口を整えた。

「……私は非常に不機嫌になる」

ルネが頷く。

「承知しました、ベリゼールさん」

キランはマッハのアイコンを見る。

「ベリゼール」

『記録しました』

「まだ何も出ない?」

『検索中です』

キランは待った。

一秒後。

マッハが答える。

『公開記録は非常に限定されています』

「嫌な響きだな」

『多くの場合、実際に良くありません』

キランは再び倉庫へ注意を戻した。

全員が待っている。

誰かを。

あるいは――

何かを。

誰も箱を開けない。

誰も機材を動かさない。

護衛たちでさえ緊張しているようだった。

数秒間。

倉庫は完全な静寂に包まれた。

そして――

ガシャァァァァン!

キランは危うく後ろへ倒れそうになった。

倉庫上部の天窓が内側へ爆発する。

ガラスが煌めく雨となって降り注いだ。

「何だ!?」

護衛たちが即座に武器を構える。

ルネは身を屈め、頭を覆った。

数人の男たちが降り注ぐ破片から逃げる。

ベリゼールでさえ、鋭く一歩後退した。

二つの影が砕けた天窓から降下してくる。

一つは――

青。

もう一つは――

赤。

キランは固まった。

「嘘だろ」

最初の人物は、ほとんど優雅と言えるほど滑らかに降下し、床へ到達する直前で減速した。

ザイラ・ラインハルト。

青い装甲が天窓から残る夕陽を反射する。

氷の結晶が舞う中、彼女は静かに着地した。

その隣には、ホログラムの光とともにブリザードが現れる。

続いて――

二人目。

ジャリック・ラインハルトは、近くの貨物箱が跳ね上がるほどの勢いで倉庫の床へ着地した。

ドォン!

埃が周囲へ爆発的に広がる。

キランは目を見開いた。

「ホイーラーズ……」

マッハは何も言わなかった。

数秒間。

倉庫の誰も動かない。

すると――

ベリゼールは袖を整えた。

まるで二人のスーパーヒーローが屋根を突き破って現れたことなど、ちょっとした予定変更程度にしか思っていないように。

「遅いぞ」

キランは瞬きをした。

待て。

何だって?

ザイラが僅かに頭を下げた。

「申し訳ありません」

その口調はプロフェッショナルだった。

冷静。

そして――

慣れている。

慣れすぎている。

「人質事件がありまして」

ベリゼールが彼女を見る。

「人質事件?」

ジャリックが目を転がす。

「ああ」

彼は倉庫を見回した。

「一日中スーパーヒーローのふりをするのも大変なんだよ」

世界が止まった。

キランの手が操作装置の上で固まる。

胃が一気に沈んだような感覚。

ふり?

ジャリックを凝視する。

どういう意味だ?

マッハのアイコンが明滅した。

『キラン……』

「聞こえた」

『冗談だった可能性もあります』

キランは答えなかった。

二人とも――

その可能性を信じていなかった。

倉庫の中では、ジャリックが何事もなかったかのように貨物箱へ近づいていく。

武器を構えることもない。

脅すこともない。

犯罪者たちへ投降を要求することもない。

何も。

あまりにも自然だった。

まるで――

以前にもここへ来たことがあるように。

ジャリックが笑う。

「商品を見せてくれ」

キランの鼓動が速くなる。

「……違う」

マッハは黙ったまま。

ルネが頷く。

彼女は頑丈なコンテナへ近づき、セキュリティコードを入力した。

ロックが解除される。

カチッ。

蓋が開く。

ジャリックが即座に身を乗り出した。

ザイラも隣へ移動する。

プロフェッショナル。

事務的。

驚いていない。

疑ってもいない。

興味を示している。

キランの身体が冷たくなった。

「これは捜査じゃない」

マッハは答えない。

ザイラが中身を確認している。

その表情に嫌悪はない。

驚きもない。

違法兵器を発見した人間の反応ではなかった。

まるで――

商品を検品しているようだった。

「違う……」

キランは首を振った。

「違う、違う、違う……」

箱がさらに大きく開かれる。

中身が見えた。

武器。

何十丁もの武器。

エネルギーライフルが専用の緩衝材の中に並べられている。

その下には小型冷凍キャノン。

さらに下の棚には軍用爆発物。

倉庫の反対側からでもわかる危険物表示が付いている。

周囲の箱にも――

さらに多くの武器。

火炎放射装置。

照準モジュール。

大容量エネルギーセル。

街区をいくつも戦場へ変えられるほどの兵器。

キランは一瞬、息をすることすら忘れた。

マッハのアイコンが暗くなる。

『この装備は厳しく規制されています』

キランが囁く。

「どれくらい?」

『許可を持たない民間人が所持した場合、重大な刑事罰の対象となります』

「つまり、かなり」

『極めて』

ルネは事務的な笑顔を浮かべた。

「標準型の冷凍キャノンと火炎ブラスターを用意しました」

別のコンテナを示す。

「それから、試作品をいくつか」

護衛の一人が開ける。

蓋が持ち上がった。

ジャリックの笑みがさらに大きくなる。

「おお、そうこなくちゃ」

キランは彼を凝視した。

この男は――

燃え盛るアパートから子供と老人を救った男だ。

学校の駐車場でアンドロイドからキランを救った男。

あの酷いテーザーを笑い飛ばしていた男。

そして今――

違法な軍用兵器を前に、プレゼントを見つけた子供のような顔をしている。

ザイラが小型装置を一つ持ち上げ、接続部を確認する。

「出力は?」

ルネがタブレットを見る。

「標準EDFDモデルより三十パーセント高くなっています」

ザイラはブリザードを見る。

ヴェントが装置をスキャンした。

『数値を確認。申告通りです』

ザイラは頷いた。

「六つもらうわ」

キランの胃が捻じれる。

マッハが非常に小さな声で言った。

『これは……取引のようです』

キランは辛うじて答えた。

「わかってる」

ベリゼールは両手を背中で組み、近くからその様子を眺めていた。

明らかに満足している。

偶然じゃない。

誤解でもない。

ホイーラーズが犯罪組織へ秘密裏に潜入しているわけでもない。

少なくとも――

そうは見えなかった。

誰も逮捕しようとしていない。

誰も自白を録音していない。

誰もEDFDへ合図を送っていない。

彼らは――

交渉している。

買っている。

売っている。

取引をしている。

キランは操作装置を強く握った。

今まで憧れていた彼らの姿に、頭の中で亀裂が走っていく。

シャーマン・アパートでの救助。

インタビュー。

歓声を上げる群衆。

「この街には、人を思いやれる人がもっと必要よ」

そう言ってくれたザイラ。

隣で笑っていたジャリック。

すべてが――

突然違って見えた。

間違って見えた。

朝のニュースを思い出す。

見出し。

笑顔。

カメラ。

『それがヒーローの仕事だから』

胸が締めつけられる。

「もし……」

マッハが即座に遮った。

『十分な証拠なしに結論を出してはいけません』

キランは窓の向こうを見つめる。

「マッハ」

『感情に左右された解釈を避けようとしています』

「見ろよ」

マッハは黙った。

ジャリックは別の箱へ移っている。

ザイラはルネと数量について話している。

ベリゼールは――

普通の商談をしている人間のような余裕を持って、そのすべてを眺めていた。

キランは唾を飲み込む。

「こいつら……犯罪者だ」

マッハのアイコンが揺れる。

『現時点では、その結論を確定できません』

「でも否定もできないだろ」

沈黙。

『……はい』

その答えのほうが辛かった。

キランは再び中を見る。

ルネが別の在庫表を表示した。

「次の荷物は金曜日に到着します」

ベリゼールが頷く。

ザイラが情報を確認した。

「同じ場所?」

「いや」

今度はベリゼールが答えた。

「ここは目立ちすぎる」

ジャリックが笑う。

「まあ、軍基地半分くらいの兵器を一つの倉庫に置いてりゃな」

ベリゼールが冷たい視線を向ける。

ジャリックの笑顔がほんの少しだけ消えた。

キランは吐き気を覚えた。

初めての取引じゃない。

会話を聞けば明らかだった。

互いに慣れすぎている。

説明が必要ない。

疑う様子もまったくない。

彼らは――

以前から知り合いだった。

もしかすると――

かなり深く。

街で最も有名なヒーローたちが、偶然犯罪取引の現場へ入り込んだわけじゃない。

彼らは――

その一部だった。

マッハが突然囁いた。

『離れましょう』

キランは動かない。

『キラン』

まだ見つめている。

『キラン』

「何?」

『精神的ストレスが上昇しています』

「そりゃそうだろ」

『発見される前に離脱する必要があります』

キランはもう一度ホイーラーズを見る。

まだ――

残りたい気持ちがあった。

何かを聞きたかった。

全部を説明してくれる何か。

冗談。

秘密作戦。

説明。

何でもいい。

ザイラが武器を箱へ戻した。

「注文分すべて、いつ用意できる?」

ルネが答える。

「三日後です」

「わかった」

キランの最後の希望が崩れ落ちた。

これで終わりだった。

誤解ではない。

秘密の救出作戦でもない。

注文。

取引。

キランはゆっくり窓から後退した。

慎重に。

音を立てず。

マッハが機体を数インチ下げる。

キランはほとんど気づかなかった。

頭の中はまだ――

倉庫の中にいた。

違法兵器が積み上げられた箱の間に立つ、青と赤の装甲を見ていた。

駐車場でザイラに言われた言葉が、何度も繰り返される。

『人を助け続けて』

『この街には、人を思いやれる人がもっと必要よ』

胸の奥に鋭い痛みが走る。

信じていた。

完全に。

彼らのようになりたかった。

そして今――

それが何を意味するのかさえ、わからなくなっていた。

マッハが静かに呼びかける。

『キラン』

「大丈夫」

『大丈夫ではありません』

キランは笑いそうになった。

「……ああ」

最後にもう一度だけ、窓を見る。

「その通りだ」

倉庫の中で――

ザイラがベリゼールと握手を交わした。

それで十分だった。

キランは窓の下へ機体を降ろした。

もう亀裂が広がっているわけではない。

幻想は――

すでに完全に砕け散っていた。

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