ホバークラフト強盗
サイレンがシトロン・シティ中に鳴り響いていた。
**ウー! ウー! ウー! ウー!**
巨大な近未来型銀行の扉が勢いよく開き、広場にいた人々が一斉に逃げ散る。
電子強化を施された犯罪者たちが銀行から飛び出してきた。
その手には、デジタル通貨カードがぎっしり詰まったバッグ。
そして、その中心にいたのがリーダーだった。
ブルンク。
もはや彼を「人間」と呼ぶことすら、かなり寛大な表現になりつつあった。
身体の大半が金属に覆われている。
機械の脚が一歩ごとに舗装路を叩き、何層もの装甲の下では人工関節が唸りを上げていた。
「急げ!」ブルンクが叫ぶ。「あいつが来るまで数分しかねえぞ!」
強盗たちが待機していたホバークラフトへ飛び乗る。
エンジンが咆哮した。
**ブォォォォォン!**
機体が銀行から一気に飛び去る。
警備員たちが外へ駆け出した。
「止まれ!」
逃走する機体へレーザーが放たれる。
**ピュン! ピュン! ピュン!**
すべて外れた。
ホバークラフトが交通網へ飛び込み、さらに加速する。
ブルンクが笑った。
「楽勝だ!」
その時――
はるか上空で――
何かが太陽を横切った。
シルエット。
小さい。
速い。
そして、どう見ても空飛ぶ車椅子のような形。
「どうやら銀行強盗の真っ最中みたいだね……」
キラン・キリアンが笑った。
逃走するホバークラフトへ向かって降下するMACH-01Aのエンジンが、背後で咆哮する。
隣にマッハが現れた。
「さあ、出番だ!」
キランが言った。
マッハは即座にその雰囲気を台無しにした。
「忘れないでください、キラン。二十分後に呼吸療法の予定があります」
キランの笑顔が消えた。
ゆっくりVentを見る。
「……じゃあ、さっさと片づけないとね」
「その通りです」
キランが加速する。
そして、もう一度マッハを見る。
「ところでさ、僕らがヒーローやってる最中くらい、もうちょっと水を差さないようにできない?」
マッハが一拍置く。
「すみません。習慣です」
キランがため息をつく。
「自覚があるだけマシか」
二人は距離を縮めた。
ブルンクがバックミラー・ディスプレイを見る。
紫色が画面いっぱいに広がった。
目を見開く。
「……嘘だろ」
強盗の一人が振り返る。
「何だ?」
ブルンクが指差した。
「あいつだ!」
キランとマッハが急速に迫っていた。
ブルンクが唸る。
「よし、お前ら!」
武器が現れた。
「あのクリップルをギンプに変えてやれ!」
側面ドアが開く。
強盗たちが何人も身を乗り出した。
キランはそれを見る。
「マッハ?」
「確認しています」
最初の強盗が武器を構えた。
「食らえ、ギアボックス!」
**ピュン! ピュン! ピュン!**
レーザーが空を埋める。
キランが急旋回。
一発が左側を通過する。
もう一発が頭上へ外れる。
三発目が真正面から迫った。
マッハが反応する。
MACH-01Aの周囲に、揺らめくフォースフィールドが展開された。
**ズザァァッ!**
レーザーが障壁へ直撃。
さらに一発。
また一発。
一発も貫通しない。
マッハが黙った。
キランが気づく。
「何?」
「あのならず者は今、私を『ギアボックス』と呼びましたか?」
キランがホバークラフトを見る。
「そう聞こえたね」
マッハが見つめる。
「彼は嫌いです」
「君、みんな嫌いじゃん」
「それは明確に事実と異なります」
突然、ホバークラフト後部から別の強盗が姿を現した。
今までの武器とは比較にならないほど巨大なものを抱えている。
キランの目が見開かれた。
「マッハ」
「見えています」
近未来型バズーカが二人をロックオンした。
「それはさすがにやりすぎじゃない?」
強盗が発射する。
**ドォォォォォン!!!**
爆発がMACH-01Aを飲み込んだ。
「ぐっ!」
キランが後方へ吹き飛ばされる。
機体が空中で回転した。
警告表示がバイザーを埋め尽くす。
マッハが即座に姿勢を安定させた。
「キラン!」
「大丈夫!」
「本当に?」
キランは頭を振り、急速に逃げていくホバークラフトを見る。
「うん」
そして笑った。
「そろそろ新しいプラズマキャノンを試してみようか」
マッハのアバターが明るくなる。
「全面的に賛成です」
MACH-01Aの左右のパネルが開く。
二門のプラズマキャノンがせり出した。
**ガチャッ! ガチャッ!**
キランが前傾姿勢になる。
「気に入ってくれるかな」
バイザー上に照準レティクルが現れる。
ホバークラフトを中央に捉えた。
「ロックオン」とマッハ。
キランが撃つ。
**ブォォォン!**
プラズマ弾が機体後部へ直撃した。
**ドガァァァァン!!**
キランの目が見開かれる。
「……あ」
ホバークラフトの後部が爆発した。
ガラスがあらゆる方向へ飛び散る。
機体が激しくスピン。
開いたドアから強盗たちが放り出された。
ブルンクも一緒だった。
「うわああああああああ!」
キランが見つめる。
「……やっちゃった」
炎上するホバークラフトが下の道路へ墜落していく。
そして――
**ドガァァァン!**
別の車両へ激突した。
一人の女性が残骸から投げ出される。
キランの目がさらに見開かれた。
女性が落下しながら叫ぶ。
「助けて!」
キランが彼女を見る。
次にブルンクとその部下たちを見る。
彼らも落ちている。
キランが唾を飲み込む。
「……二重にやっちゃった」
マッハが隣に現れる。
「複数名が制御不能な自由落下状態にあります」
「うん、見れば分かる!」
女性はキランの左。
ブルンクと強盗たちは右。
キランが両方を見る。
「さあ……」
必死に頭を回す。
「考えろ!」
地面が迫る。
マッハが落下軌道を計算し始める。
「キラン、現在の降下速度では――」
「分かってる!」
女性を見る。
ブルンクを見る。
強盗たちの機械化された身体を見る。
機械。
キランの目が見開かれる。
笑みが浮かんだ。
「思いついた!」
MACH-01Aが急降下する。
**ブォォォォン!**
女性が悲鳴を上げる。
キランが真下へ滑り込む。
**ドサッ!**
彼女がキランの膝の上へ落ちた。
キランがうめく。
「捕まえた!」
女性が必死にしがみつく。
「なんてこと!」
「もう大丈夫!」
女性が下を見る。
地面はまだ恐ろしいほど遠い。
「これのどこが大丈夫なの!?」
「……ごもっとも」
マッハが落下中の犯罪者たちを見る。
「無知を承知でお尋ねしますが、残りの襲撃者全員が悲惨な最期を迎えるのを、どうやって阻止するおつもりですか?」
キランがブルンクを見る。
金属の腕。
金属の脚。
機械強化。
笑った。
「武器をマグネットモードに」
マッハは即座に理解した。
「ただちに」
プラズマキャノンが格納される。
代わりに別の機構がMACH-01Aから展開された。
キランは落下する犯罪者たちと周囲のビルの間へ位置取る。
「発射!」
**ガシュン!**
磁気ケーブルが飛び出す。
**ガチン!**
一本が強盗のサイバネティック・アームへ接続。
別の一本が機械の脚を捕らえる。
さらに一本が金属製ボディアーマーへ吸着した。
「何だこりゃ!?」
さらに磁石が発射される。
**ガチン! ガチン! ガチン!**
ケーブルが周囲のビルへ固定された。
犯罪者たちの落下が止まる。
乱暴に。
**ドガッ!**
一人が壁へ激突。
**バン!**
別の一人が逆さ吊りになる。
ほぼ全身が機械のブルンクは横方向へ勢いよく引っ張られた。
「やめ――!」
**ガァン!**
顔面からビルの壁へ激突した。
「ぐあっ!」
静寂。
キランが近くに浮かぶ。
女性はまだ膝の上。
ブルンクと部下たちは周囲の壁から無様にぶら下がっている。
マッハがキランの隣に浮かんだ。
妙に満足そうだった。
「『ギアボックス』などと呼ぶからです」
ブルンクが磁気拘束に抗いながら叫ぶ。
「てめえのVentに、そのハードウェアを黙らせろって言っとけ!」
マッハが即答する。
「そちらこそ!」
キランが笑った。
女性が彼を見上げる。
「助けてくれてありがとう」
キランが笑う。
「どういたしまして」
女性が下で燃えている残骸を見る。
「あのホバークラフトがどうして私の車に突っ込んできたのか、全然分からないわ」
キランが固まった。
マッハがゆっくり彼を見る。
キランは目を合わせない。
「僕も全然分からないな」
マッハが見つめ続ける。
キランが咳払いする。
「いやあ、すごい偶然だね」
マッハはまだ見ている。
「キラン」
「何?」
「あなたがホバークラフトを破壊しました」
「疑惑にすぎないよ」
「私は目撃しました」
「君は偏ってる」
「私は文字通り、あなたのオンボードコンピューターです」
「だからだよ」
下からサイレンが近づいてくる。
キランは宙吊りになった銀行強盗たちを見る。
次に、自分の膝の上で無事に座っている女性を見る。
そして――
自分がうっかり作り出した、煙を上げる残骸を見る。
引きつった笑みを浮かべた。
「救助成功……?」
マッハが一拍置く。
「厳密には」
「それでいいや」
そして、どこかの高層ビルの壁では――
ブルンクがうめいた。
その時、キランが咳き込み始めた。




